その一撃は、確かに敵を貫いた。
だが、ミドナが狙った敵ではなかった。
「真理亜!!」
突然、何か強い力が、悪鬼だった少女を吹き飛ばした。
「守!?」
突然のことで、真理亜も我に返った。
元の世界ではずっと彼女を追いかけ続け、彼女の絵を描き続けた少年が、立ちはだかったのだから。
だが、戦場に割り込むということは、即ち死を意味する。
そして伊東守という少年は、味方を守りながら自信を守ろうとするほど器用ではない。
黄昏の姫君が飛ばした魔法は、真理亜の代わりに、守の背中を貫いた。
その瞬間は、真理亜だけではなくミドナも呆気にとられた。
「守……。」
言いたいことは沢山あった。
けれど、あまりに突然の出来事で、言葉が出なかった。
そして、心臓を貫かれた彼がもう長くはないことも分かっていた。
(そうだ!アレを食べさせれば!!)
今まで殺すべき相手しか見ていなかった悪鬼は何処へ行ったのか。
突拍子もない出来事で硬直しているとはいえ、目の前に敵がいるのにも関わらず、カバンを開けてトニオの不思議な料理を食べさせようとする。
「真理亜……あの時さ……」
「しゃべらないで!!」
巨大な手刀で貫かれた傷は、どうにもならないほど深かった。
もう助からないというのに、真理亜は守を抱えて何かしようとする。
その姿は、今わの際の恋人を必死で助けようとしている、無垢な少女としか見えなかった。
彼女は、悪鬼にはなり切れなかった。
それが良かったことなのか、悪かったことなのかは誰にも言うことは出来ないだろう。
「助けに来てくれて……ありがと……。」
「守……大丈夫よ。これを早く食べなさい!!」
口から血を零しながら、少年は目を閉じた。
真理亜は涙を流しながら、無理矢理顔面に押し付ける形で、料理を食べさせようとした。
けれど、少年の優し気な顔(かんばせ)を汚すことしか出来なかった。
どさりと、力が抜けて崩れ落ちる音がした。
しかし、守が持っていた手札は、最後に1枚だけあった。
彼が付けていた、ごてごてした装飾の腕輪が、怪しく光る。
「!?」
ようやくミドナは我に返ったが、もう遅かった。
彼が展望台で手に入れたのは、『メガンテの腕輪』。
付けた者が死した瞬間、敵に致命傷を与える魔法の道具だ。
「アアアアアアアアァァァァァァァァァァアアアアア!!!!」
凄まじい光が、黄昏の姫君を焼く。
ザントに嵌められ、光の精霊の力を浴びることになった時と同じ悲鳴を上げた。
あの時と違い呪いは解けているが、いくら生命力があっても、メガンテは相手に致命傷を、悪ければ死を与える。
ミドナが光に飲まれた瞬間、猛然と真理亜は地面を蹴った。
最早何のためにこうして戦っているか分からなかった。
けれど、身を挺してまで守ってくれた人の想いを、無駄にしたくはなかった。
たとえそれが無駄にしない行為なのかと聞かれれば、答えるのには困っても。
それに対し、黄昏の姫君は相手を迎え撃つ。
自爆魔法を浴び、身を包んでいた黒いローブはボロボロになっている。
フードが無くなり髪の毛が露わになり、肌は病的なまでに白くなっている。
そして身体を火傷が覆っていた。
それでいてなお、笑みを絶やしてなかった。
「勝ったと思ったか?まだワタシにはやることが残ってるんだよ。」
命の炎に全身を余すところなく焼かれてなお、彼女は毅然と立ち上がった。
しかし、既に真理亜の呪力が、殺傷力を帯びる圏内だった。
「奇遇ね、私も同じよ。」
そして真理亜の呪力が、剣を象り、守の意趣返しのように姫君の心臓を貫いた。
「ワタシは……。」
驚愕とも、苦悶とも区別できない表情を浮かべ、あおむけに倒れる。
ミドナの胸に穴が開き、倒れるのを見ると、すぐに背を向けて守の所に走って行った。
「ねえ、守。」
もう動かない少年を、優しく抱きしめる。
「私がさ……この世界で何をしたかも知らないでしょ……。」
もし、守が自分が人を殺し続けた悪鬼だと知ったら、何をしていただろうか。
2年前にニセミノシロモドキから世界の真実を聞いた時のように、ただ脅えるのか。それとも、手を伸ばし続けるのか。
ただ、それが気になった。
あまりにも死に顔が安らかだったから。
一世一代の大仕事を終えた日の夜のような、安らかな笑顔を浮かべていたから。
所違えば守自身も、殺されたかもしれないというのに。
「それとも、知ってたから慌ててきたの?」
あの時もそうだった。
いつも気弱な性格なのに、衝動的で勝手に突っ走って、皆を振り回して。
自分がしたことが、まだ色んな人を殺すことになるとも知らずに、勝手に死んで。
「……勝手に満足して……ずるい人……。」
涙声で、そう呟く。
それは命を懸けて守ってくれた相手とは思えないほど、酷い言い方だった。
色んな感情が胸の内でぐちゃぐちゃになった今、そんな言葉しか出せなかった。
守の後ろにあったものを見たら、猶更そう思ってしまった。
「なあ。」
後ろから声が聞こえて、咄嗟に身構える。
倒れたミドナが、真理亜を見据えていた。
「そんなことしなくても、もうすぐワタシは死ぬよ。」
「じゃあ何?遺言でも言いたいの?」
生きているのなら、とどめを刺すだけだ。
最早何のためにやっているのか分からなくなってきたが、それをせねばならないとは思っていた。
「いや……何と言えばいいかな……がっかりしたよ。アンタがイイ人でさ。」
ミドナはずっと、秋月真理亜という少女を独りよがりな人物だと思っていた。
未来の為という題目の下、人を殺し続け、手を差し伸べられても拒絶し。
そして力で全てを征服しようとする、ザントのような人間になろうとしていたとばかり思っていた。
だが、そんな彼女を、身を挺して守る者がいた。
どんな形であれ、大切な人の死を目の当たりにして、流す涙があった。
「だから何って言うの?」
疾風のブーメランに宿った風の精にも、清き心を持つ者と言われた。
だが、そんな言葉は、最早真理亜には通じない。
彼女の世界に善も悪も無いからだ。
今自分が生きなければ、元の世界で子供たちが間引かれていく異常さが、癌のように残り続けることになる。
「ちょっと聞きたかっただけさ。アンタが作る新世界ってのは、本当にアンタ一人じゃなきゃ作れないのか?
他のヤツらと手を取り合って、作って行くものじゃダメなのか?」
「何度も言わせないで。私が望んだ人はもう死んだのよ。」
「そうか……なら、これで終わらせてやるよ。」
ミドナは涙をこぼした。
影の世界に浮かんだ一筋の光は、たんぽぽの綿毛のように、真理亜の首輪へと飛んで行った。
「え?」
気づいた時にはもう遅く、首輪が点滅を始めた。
ミドナは残っていた生命力を、最後の力に注いだ。
「またな……………。」
きっとこの少女を生かせば、自分やゼルダだけではなく、リンクまで苦しめてしまうから。
そして何より、真理亜はきっと前へ進んでも、誰かを苦しめて自分はもっと苦しむことになると分かった。
だから、黄昏の姫君は残された命の一欠けらで、その選択を下した。
「これは……!」
いくら相手が膨大な魔力を持った女王と言えど、死に体の相手に後れを取ることは無い。
それが、悪鬼ならざる者の、最大の誤算だった。
たとえ抑えつけられた枷が外されたとしても、真理亜という少女はどうにも人殺しに向かない。
「あ、あ………あ……。」
慌てて首輪に手をかけるも、全ては手遅れだった。
まだ、死ねない。
たとえ真っ暗な道を進むことになったとしても、自分は新世界の礎で在らなければならないのだから。
歴史の先端に立っておきながら、どの時代にも自慢できないような、異常な世界を壊して、殺して、作って……
「■■■■■■-----ッ!!!」
少女は文字にならない言葉を叫び、それでいてどこか救われたような表情を浮かべた。
それが、秋月真理亜の顔が無くなる前に浮かべた、最後の表情だった。
□
「!?」
展望台の中で、ヌ・ミキタカゾ・ンシは目を覚ました。
(そうだ…私はあのスタンドで……)
勘違いのまま、仲間の無事を窺う。
「……守さんは!?守さん!!」
声を荒げるも、それは空しく木霊するだけだった。
階段を転がり落ちるように降りていき、つり橋を渡る。
彼はまだ守の安否を知らない。
だが、もう勝負はついているというのに、ゲームセットのホイッスルが鳴っていないというだけで走っているような気分にさせられた。
そして、たどり着いた。
何度も戦いが繰り返されたその場所で、生きている者はいなかった。
「守さん……。」
心臓を貫かれ、真っ赤に染まった少年の手は、首のない女性の方を向いていた。
「教えてください、私、宇宙人だから分からないんです。」
涙を流して呟いた。
いつだってそうだ。
自分は肝心な時、いつも仲間を助けられない。
仗助達の友達になったというのに、彼の助けになれないまま戦いは終わっていた。
「そんな風になってまで、何をしたかったんですか?」
ふと、血で何かが描かれてあったのに気づいた。
それは、伊東守が好きだったという絵だった。
呪力を持った者が、死ぬ直前に遺作を作るのは珍しい話ではない。
守がこの世界に来てから12年後、日野光風という男が、呪力を花火の形で打ち上げ、美しい少女の絵を描いたこともある。
「これは、守さんですよね。」
地面に、血で色んな人の絵が描かれていた。
一番真ん中には彼の想い人の絵が。その両隣りにはその友達と守が。
血で描かれていたというのに、どの絵よりも美しく感じた。
「教えてください。こんな綺麗な絵をかけた人が、どうして死ななければならないんですか。」
ふわりと吹いた血なまぐさい風が、ミキタカの長髪を靡かせた。
多くの血を吸った大地の上で。
【伊東守@新世界より 死亡】
【ミドナ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 死亡】
【秋月真理亜@新世界より 死亡】
【残り 19名】
【C-7 荒野 午後】
【ヌ・ミキタカゾ・ンシ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:精神的疲労(大)
[装備]:魔導士の杖@DQ7
[道具]:基本支給品 バッジ?@ペーパーマリオRPG 紫のクスリ(残り半分)@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[思考・状況]
基本行動方針:カインやシャーク、早人に協力する
1.泣く
※参戦時期は少なくとも鋼田一豊大を倒した後です。
※C-6の展望台から、第二放送後にリロードされたアイテムが取得されました。次のリロードは第三放送後になります。
※ミドナの死体の近くに、サンダーロッド@ff4、ジシーンアタック@ペーパーマリオRPG、ツラヌキナグーリ@ペーパーマリオRPG が散乱しています。
※秋月真理亜の死体の近くに、疾風のブーメラン@ゼルダの伝説、銀のダーツ数本@ドラえもん のび太の魔界大冒険、ラーの鏡@DQ7 が散乱しています。
【サンダーロッド@FF4】
セシルに支給された杖。武器としても使用することが出来るが、道具として使うとサンダーの効果がある
【ねむれよいこよ@ペーパーマリオRPG】
伊東守に支給されたアイテム。使うと大量の羊が現れたと思いきや、一定の確率で相手を睡眠状態にできる。
【メガンテの腕輪@DQ7 エデンの戦士たち】
展望台から支給されたアイテム。装備しても僅かに防御力が上がるだけだが、その者が死ぬと怪しく光り、敵全体にメガンテの効果を発揮する。
なお、1度メガンテが使われると砕け散る。
雲一つない空の下、茂みの真ん中で真理亜は佇んでいた。
「やっほー真理亜ちゃん!」
後ろから驚かす形で、少女が背中を押してきた。
彼女の友達の麗子は、ドジで落ち込みやすい性格だが、明るい性格である。
「わっ!何だ麗子か……守は何処にいるか知ってる?ここで待ち合わせをする約束だったんだけど……。」
「なんかさ、太陽王に頼まれて、書類を片付けに行ったみたい。」
独りで書類を片付けに行ったと聞いて、何とも言えず、嫌な予感を覚えた。
急いで全人学級に戻り、私達がいた教室の近くへと走った。
「ちょ、真理亜ちゃん、そんなに急いでどうしたの?」
「いいから!!」
真っ赤な夕焼けが射し込む廊下を、必死で走る。
理由は分からないが何だか彼がいなくなってしまいそうな気がして、居ても立っても居られ無くなった。
廊下の突き当りに言った所で、守と、その隣には瞬がいた。
「真理亜!!そんなに慌てて……何かあったの?」
その表情は、飼い主を見つけた子犬のようだった。
彼に尻尾が付いていれば、それは嵐の日の風見鶏のようになっていただろう。
「いや……何と言うか、心配になってね。」
「大丈夫だよ。太陽王からの仕事ももう終わったし。瞬も手伝ってくれたしね。」
それから、1班の4人組で帰ることにした。
ふと空を見上げると、雪が降り始めた。
「真理亜?」
「どうしたの?顔に何かついてる?」
守から心配そうな声をかけられる。
この町は平和だ。子供が事故や病気で死んだり、神隠しに遭うことも無い。
友達のホラ話で、この町には子供を攫うネコダマシというのがいると聞いたが、それはただの大きな野良猫だった。
けれど、何処か物足りない。心に穴が開いているようだ。
大した話もせずに、友達と別れて家に帰る。
独りで雪を見ていると、何とも言えず寂しくなったので、好きな歌を口ずさむことにする。
『もうこれ以上心配いらないよ
きっと私が 連れてくから
遠回りでも 行き止まりでもいい
一緒だから怖くない
ねぇ 止まない雪 根雪になるね 繋いだ手だけ あたたかい
時よ 吹雪け
揺れる 思い出に 面影に今大事だった
すべて手も振らずに遠ざかる
本当は失くしたくない』
大切な人への想いがテーマとなった、私が好きな歌。
聞いた話じゃ、この歌は2番で、1番の歌があるという。
奇妙な話だ。
1番が無くて2番だけがあるなんて。
でも、どんな歌詞なのか、どんな人を思って歌ったのか分からない。
家の近くの道端に、一輪の綺麗な花が咲いていた。
ふと、その花と目があった気がした。
目が合ったとは言っても、その花が目玉が付いているような異様なものではない。
なんとも奇妙な話だが、そんな風に感じた。
『ありがとう』
その花から、そんな風に言われた気がした。
ずっと昔からの友達のような感じがする一輪の花と、ずっといなければならない。
理由が分からないが、それは間違いない事実だという確信があった
「そんな所で、そんな姿になったのね。」
「でも、これからはずっと一緒だよ。」
「早季」
最終更新:2023年02月19日 14:56