何もかもが終わったはずだった。
スクィーラ、別名野狐丸の始まりは、バケネズミに呪力が使えない代わりに、人間を殺すことが出来る呪力の持ち主を手に入れてからのことだ。
あの子供を用いて、人間社会を転覆させ、バケネズミの天国を作る。
手始めに自分のコロニーから最も近い神栖66町を、壊滅に近い状態まで追い込んだ。
壮大な計画の成功まであと一歩という所、2人の人間と1匹の裏切り者によって、失敗した。
自分は裁判で、バケネズミの、否、持たざる人間の天国を作ろうとしていたことを告げるも、受け入れられるわけもなかった。
判決の下、長きに渡り苦しめられ続けるだけの存在になることが決まる。
元々人間に気味悪がられていた姿から、更にグロテスクな形状にされ、ただ苦しむためだけ生かされていた所……。
気が付けば元の姿に戻り、殺し合いに参加させられていた。
辺りを眺めると、どこかの建物の中だった。
壁や柱はボロボロで、東京と同様、ここも人間がかつて居住区にしていたのかと疑問に思うが、そんなことを考えている時間はない。
とりあえず、どうすればいいか考えていると……。
「わからーーーーーん!!」
塔の外から怒声が聞こえてきた。
何事かと思って、外が見える場所に行くと……。
「ウガーーーーーーッ!!」
優にスクィーラの5倍はある大きさの怪物が、炎を吐いていた。
「ひぃぃぃ!!」
当然ながら脱兎のごとく逃げ出す。
他の生き物に比べて、様々な姿やサイズがあるバケネズミだったが、あのような怪物は見たことがない。
ミュータントである生物ですら、あのような姿の者はいなかった。
彼に分かったのは、あの怪物と正面からぶつかれば、間違いなく負けるということだ。
どうせこの世界でも、何か能力を持った人間が闊歩するとは思っていなかったが、あのような怪物までいるとは思わなかった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「おのれ、奴らめ!許さん!!」
キノコ王国で、マリオやピーチ姫と並んで、知らない者はいないというカメ一族の大魔王、クッパはひたすらに憤っていた。
殺し合いと言うが、彼は全くそんなものを恐れるほど、小さな肝を持ち合わせていない。
何度も溶岩にハマったと思いきや、乗り物が故障して海に落ちたり、イチコロバクダンの爆発に巻き込まれたり、2時間ほどオババの説教に巻き込まれても無事だったクッパにとって、この会場の敵など恐るるに足らぬ存在だった。
「強者代表でワガハイを呼んだのなら戦ってやろう!!だが、どう見ても無力な子供までおるではないか!!」
もしもこの殺し合いが、世界中からの強者を呼ばれた上での戦いだったら、彼は嬉々として戦っていただろう。
だが、最初の会場で見る限り、10行くか行かないかくらいの子供や、明らかに怯えている女性までいる。
クッパは女性や子供とまで戦いたいような、戦闘狂ではない。
むしろそんな相手まで殺せと命令されたのが、無性に腹立たしいくらいだ。
主催の怪物と仮面男は、優勝賞品に何でもくれてやると言ったが、そんなものにも興味はない。
むしろ少女を見せしめと称して殺すような、主催をボコボコのギッタギタにして、クッパ城の屋上に飾っておいた方がまだ面白そうだ。
「フン!!」
腹いせにザックを地面に叩きつける。
そこから勢いよく、パンやらボトルやら、その他もろもろの支給品が飛び出てきた。
最初に目を引いたのは、部下のワンワンを彷彿とさせる、鎖でつながれた巨大な鉄球だった。
「なかなかカッコいいな。これは悪くない。」
ブンブンと振り回し、使い心地に感心する。
いざとなれば徒手空拳でも十分戦えるが、持っておいて悪くはないだろうということにする。
続いて名簿らしきトランプを目にした。
しかし、3枚めくった所で、怒鳴った。
「わからーーーーーん!!!」
1枚めくりながら、チマチマ誰が参加しているのか確認する作業に苛立ったクッパは、カードの束を地面に叩きつける。
「ウガーーーーーーッ!!」
それを自分の炎で焼き払ってしまった。
しかし、それを塔の入り口から、見ていた者がいた。
「ひぃぃぃ!!」
どこかクッパ軍団のチューチューに似たそれは、自身を見た瞬間、慌てて逃げだした。
「オイ!!ワガハイは悪い奴ではないぞ!!待て!!」
他の支給品をザックに詰め込み、チェーンハンマーを担いだまま、クッパはスクィーラを追いかける。
しかし、相手はなおも逃げ続ける。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
あいつは何なのか。
人間が実験の果てに生み出した生き物か、それとも別のコロニーのバケネズミが作り出した、ミュータントか。
捕まったら絶対殺される。
まさか、呪力を持った人間以上に恐ろしい存在がいるとは思わなかった。
鎖鉄球などを持った、自分の体格の5倍くらいある相手が追いかけてくるのだから、逃げるのは当たり前だ。
自分が悪い奴ではないと言う所など、逆に信用できない。
スクィーラが逃げる先には、倒れた柱が重なってあった。
しかし、バケネズミ特有の小柄な体格を活かし、その隙間を潜り抜ける。
こんな隙間、あのデカブツには通り抜けられまいと、ほくそ笑むスクィーラ。
ドォン!!
その瞬間、鉄球で柱が粉砕される。
「うわああああ!!」
何の障害もなかったかのように、クッパは追いかけて来る。
そのまま地面の出っ張りに躓いて、転んでしまった。
「待て!ワガハイから逃げ出して、どういうつもりだ!!」
これだけ態度で示しておいて、理解できないのはタチが悪い。
いや、タチが悪いからこそ、理解できないのか。
鞄に入っていた支給品が零れ落ちる。
その中にある可愛らしいケースに入っていた針を取り出し、クッパの腹に突き刺す。
針は裁縫用ではなく、とある暗殺者が超能力者を殺すのに用いていた猛毒付きの針だが、そんなことはつゆ知らず、何本か取ってクッパの腹に突き刺す。
「ぐうう!?」
怪物が体を押さえ、苦しみ始めた。
予想外の効力に喜びつつ、落とした支給品の中から針のケースのみを拾い、再び逃げ始める。
「痛いではないか!!」
瞬く間に体内の毒を焼いてしまったクッパ。
確かに人間には致死性の効力を持つ毒だが、クッパに効くとは限らない。
元々炎を吐けるほど高体温を維持する彼(こらそこ亀は変温動物だろとか言わない)は、爪や牙に毒を持っており、簡単に中和してしまった。
2階に上がっても、なおもクッパは付いてきた。
しかし、ここで予想外な幸運が訪れる。
元々建築が古い塔の、脆い部分が、クッパの重みに耐えかねて、抜け落ちたのだ。
「ガアアアア!!」
大声と共にクッパは、下の階へ落ちていく。
しかし、落ちる直前に右手で、力いっぱい床を掴んだためか、スクィーラがいる床まで、崩れてしまう。
「こっちだ、ネズ公!!」
共に穴に落ちそうになっていたスクィーラの手を、何者かが引っ張った。
「え!?」
白を基調とした装束で身を包んだ男は、塔の障害物をものともせず進み、そのまま3階へと上がっていく。
どこかバケネズミの駆除隊を彷彿とさせる格好だが、だからと言って助けてくれた相手は大事にしなければならない。
3階は、通路が入り組んだ1階や2階とは異なり、会合でも行うかのような広場になった。
良く見ると隅には寝床や囲って茶でも飲むためのテーブルまであった。
そこに二人は腰掛け、休憩を取る。
「怪物から助けて下さり、ありがとうございます。カミサマ。」
「神様だぁ?俺は神じゃねえぞ?」
「いえいえ。我々バケネズミは、あなたがたをカミサマと崇め、日々奉仕しているのです。」
「じゃあ早速、この塔の下で起こったことを話してくれ。」
スクィーラは助けてくれた男、エッジに、起こったことを話した。
塔の下で、怪物と出くわし、その怪物は火を吐き、鉄球を振り回して追いかけてきたということ。
済んでの所で、床が抜け、助かったということ。
「スゲエやつがいたもんだな。で、そいつはこの名簿の中にいるか?」
カードの名簿を適当にばら撒く。
スクィーラが指したのは、♧キングのカードに映っていた、トゲだらけの亀の怪物だった。
「キングのカードになるだけあるぜコイツ。スゲエのに襲われたんだな。」
「ええ。カミサマが助けてくださらなければ、まず助からなかったです。」
「まあラッキーだったな。でも、俺はそろそろ行くぜ。」
「え?」
ずっと助けてくれるものだと思っていた人間に、もう行くと告げられたことで驚く。
「聞こえなかったのかよ、もう俺は行くと言ったんだ。この戦いに知り合いがいるんだよ。」
「ま、待って下さい!!」
「はあ?」
スクィーラが散らばったカードの山から拾い上げたのは、この2枚のカード。
一人は人間、もう一人はスクィーラと同じく、異形の存在だ。
「この二名に、お気を付けください!」
スクィーラは説明した。
人間、朝比奈覚は危険な能力を使ってバケネズミを狩ることを趣味にしている危険な男。
もう片方の異形、奇狼丸は我々塩屋虻コロニーに属する敵で、何匹もの同胞を殺害した、好戦的な性格をしていることを。
「朝比奈覚に、奇狼丸ねえ。まあ例のクッパとかいう怪物共々気を付けるとするか。
まあ俺の方からも、このルビカンテって真っ赤な奴には気を付けろってことも言っておくぜ。」
「助かります、カミサマ。」
そのまま煙のごときスピードで、塔から降りて行った。
【C-1/山奥の塔/2階 深夜】
【エッジ@FINAL FANTASY IV】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~3)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
1:朝比奈覚、奇狼丸、ルビカンテに警戒
2:まずはバロン城に向かうか
※少なくともバブイルの巨人を攻略した後です。
それを見送った後、一匹残されたバケネズミは、静かにほくそ笑んだ。
(さて……あの人間が、どこまで働いてくれるかな……。)
エッジという男からカードを受け取ってから、短い時間でずっと思考を繰り返し続けていた。
自分は苦しみを与えるためとはいえ、まだ死んでいなかったため、死者なら誰でも生き返らせてくれることは、最初はスクィーラとしては半信半疑だった。
しかし、名簿を見てみると、戦いの果てに死んだ奇狼丸や、雪崩に飲まれ死んだ真理亜、守が参戦させられていたことから、主催者は何らかの蘇生能力を持っていたことが分かった。
だが、まだ疑問はある。
朝比奈覚以外に、自分と戦った早季という女も参戦させられていたが、その姿は14年前、筑波山で会った頃の姿だった。
たまたま名簿のデザインが違うと言えばそれまでだが、それならわざわざ異なる時代の姿を載せるのかが分からない。
エッジに彼女を危険人物として伝えなかったのは、幼い彼女はまだ自分の凶行をしらないはずだからである。
予想が正しければ、主催者は時間をも操ることが出来る。
スクィーラはかつて、ミノシロモドキから、呪力に目覚める前から、目覚めてからの歴史について学んだことがある。
死者の蘇生に、時間の操作など、いかなる時代の人間も、挑戦こそすれど成功した歴史はなかった。
だが、もし主催者がその力を持っているというのなら。
もし主催者が、その力を、バケネズミの覇権のために使わせてくれるというなら。
完全に失敗したはずの、バケネズミの天国を築く計画が、また復活するではないか。
武器はある。だが、あの怪物のように、殺せない参加者も少なくないはず。
また、あのエッジと言う男も、人間とは思えないほどの速さだから、当てるのは容易ではないはずだ。
彼が行うことは、力ある人間をカミサマと称して奉仕しつつ、その裏で勝利のために必要なことをするだけだ。
例えば、自分の敵を危険人物として吹聴するなど。
次に自分がすることは、この塔の散策。
一つでも有利に出来そうな物があるか、探すべきだ。
【C-1/山奥の塔/3階 深夜】
【スクィーラ@新世界より】
[状態]:健康
[装備]:毒針セット(17/20) @無能なナナ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0~2)
[思考・状況]
基本行動方針:人間に奉仕し、その裏で参加者を殺す。
1:まずは塔の散策
2:覚、奇狼丸は危険人物として吹聴する
3:優勝し、バケネズミの王国を作るように、願いをかなえてもらう
場所は変わって、山奥の塔の1階。
「ウーーム。ワガハイとしたことが、失敗したのだ!!」
1階に落ちたクッパは、いち早く塔から出ていくことにする。
こんな自分が暴れただけで壊れる塔など、もういたくないからだ。
「それにしても、やはりクッパ軍団の再結成が必要だ!」
先程の塔のように、自分が行きにくい場所へ行くなら、部下に任せるしかないだろう。
ドカドカと歩きながら、今後のことを考えながら歩いた。
【C-1/草原/深夜】
【クッパ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(小) 腹に刺し傷
[装備]:チェーンハンマー @ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(名簿焼失)、ランダム支給品(0~2)
[思考・状況]
基本行動方針:主催をボッコボコにする
1:クッパ軍団を結成する
2:あのネズミ(スクィーラ)は、今度会ったら殴った後、クッパ軍団に引き込む。
※ステージ7クリア後、ピカリー神殿を訪れてからの参戦です
【
支給品紹介】
【チェーンハンマー@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
クッパに支給された鎖付き鉄球。
言うまでもなく重たいが、その大きさは攻守両面で役に立つ。
【毒針×20@無能なナナ】
スクィーラに支給された毒針。
元々は能力者を殺害するために用意された武器で、人間には刺されただけで致死量の毒をもたらすことが出来るが、このロワではどこまで通じるかは不明
最終更新:2021年08月02日 14:27