「ミキタカ、お前は月の民なのか?」
「月……というとあの空に浮かんでいるあれのことですか?私はもっと遠い星からやってきました。
私の故郷はマゼラン星雲にあります。でも滅亡してしまいました。」
「滅亡した上にこんな戦いに呼ばれるとは災難だな。」
「いいえ、そうでもありませんよ。地球でもこの世界でも、面白い人に会えましたから。」


世の中がこいつみたいな奴ばかりなら、あんな争いも起こることは無かっただろうな、とカインは苦々しく思う。

「私の世界では月には人はいませんが、カインさんの世界の月には人がいるのですか?」
「ああ。俺の仲間のことだな。」
「月生まれの人間ってどんな人なのか会ってみたいですね。」
「あまり期待されてもな。見た目は普通の人間だぞ。」

それからも、ミキタカの質問は止むことが無かった。
長らく自分に対して、気さくに物を聞いてくる相手などいなかったため、どうにも不思議な気分だった。
本来ならどこから敵が襲ってくるか分からないから、あまり不用意に口を開くなと言うべきだが、何故かそう言う気にならなかった。


だからと言って、いつまでも質問に答えるわけにはいかなかった。
目の前に背の高い塔が立っていたからだ。

質問をする相手は、ミキタカからカインへと変わる。
「迂回していくか?塔へ行くのか?」
「上りましょう、カインさん。ぜひ人間の歴史を感じる遺跡の中を見てみたいです。」
「それはいいのだが、お前の仲間のことはいいのか?」
「仗助さんのことですか?彼は強いので、きっとこの世界を歩き回っていれば、探さずとも会えるはずです。」


カインとしては、同じ仲間に当たるセシルも同じだった。
信用しているわけではないのに、どうにも心配せずにはいられないという胸騒ぎを隠して、ミキタカの提案通り塔へ行こうとする。


「ならこの塔は上から行くか?それとも下から行くか?」
「上から行きましょう。そうすれば帰りに来た道を戻らなくて済みます。」

カインは蚤のように塔の外壁の出っ張りから出っ張りへと。
ミキタカは下半身を一反木綿のようにして高い塔を外から登っていく。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


一方で、塔の中。

(何だこれは……)
バケネズミのスクィーラはエッジと別れて、持っている支給品を漁っていた。
その中で特に目を引いたのは、革の鞄。
とはいっても、ただの入れ物ではなかった。
2つ目の、黒い鞄を開けてみると、中には頑丈に蓋をされたボトルが入っていた。
入れ物の中に鞄という入れ物があり、その中にまたボトルという入れ物があるのは、どうにも回りくどい気がするが、ようやく中身を掴めた。
ボトルの中にあるのは、どろりとした黄色の液体。


固い蓋を苦労して開け、そこから発されるはずのにおいを、その手で扇いで嗅ぐ。
バケネズミの頃から、人間の遺産を発見した時、肺に入れると有害な可能性のある空気の臭いは、いつもこのようにして嗅いでいた。
蜂蜜の様な甘い匂いが漂うが、どこか火薬のような臭いも漂う。


何か反応が無いか蓋をして、揺らしてみる。
そうしてもドロリとした液体が渦を巻くだけで、何も起こらなかった。
だからと言って物を入れたら化学反応で有毒なガスが発生するかもしれないし、手で触れるなどもってのほかだ。
どうすべきか考えていた所、鞄に説明書が貼ってあったことを見落としていた。

月光が壊れた塔の壁から入り込むため、読むに至っては問題ないが、どうにも引っかかる説明文があった。


『ニトロハニーシロップ
普通に飲めば人の怪我を立ちどころに全回復してしまう素晴らしい薬ですが


                                         』


説明書を読む限り、効果てきめんな回復薬だということが伺える。
だが、気になるのは説明書の不自然な余白。
そして、文末に『が』という逆説が付いてあることだ。
従って、これはただの回復薬ではなく、何かの副作用があることは、大いに推測できた。


最初にスクィーラが考えたのは、この薬の正体が、「麻薬」ということだ。
『素晴らしい薬ですが、中毒性があります』などと書いていても、全くおかしくない。
麻薬についての知識は、彼にもある程度備わっている。
それらの一部は、甘い据えたような臭いを出すため、ニトロハニーシロップから出る、甘ったるいような臭いも、それに近しい成分だと推測する。

主にケシの実や麻の葉を主成分として作られた薬は、中毒性や痛覚の鈍麻、そして思考の偏向など、兵隊として使うにはもってこいの効き目がある。
だからバケネズミの雑兵の食事に軽微な麻薬を盛るコロニーも少なくない。
また、呪力がなかった時代の人間の世界では、安易に金を儲けるための違法薬物として使われていたことも知っていた。
この殺し合いの会場で、安易に殺人を犯そうとする参加者を作るために、意図的にこういった薬を支給した可能性も高い。


だが、そこで考えられるのは、ニトロハニーシロップの摂取方法だ。
口からの接種か、はたまた注射器を用いるものなのか。
あるいは、別の粉を用いてのものなのか。


こうなると、説明書に肝心な部分が見えなくなっているのが、どうにももどかしい。
太陽に照らす物なのか、はたまた水にでも入れると分かるのか。
顔を近づけてみる。だが、全く分からない。
しかし、紙の匂いではない、独特の酸っぱい匂いが伝わってきた。

(なるほど。奴らも面白いことを考える。)

説明書の後半は、恐らく果実の汁で書かれている。
色素の薄い液体で暗号を書き、別の場所であぶり出すのは過去に何度もしたことがある。
だが、炙り出すのに肝心な火が無い。
灯り代わりになっている蛍光灯では、火をつけることは出来ない。
塔の下で怪物が火を吐いていたが、あれから1時間と少し経過しているし、さすがに消えてしまっているだろう。


こうなれば参加者を見つけ、火を出す能力、あるいは火を付けられる支給品を譲ってもらえるか頼むしかない。
しかし、そうしたらそうしたらで、問題はある。
まずは参加者が、安易に自分のために火を譲ってくれるのかということだ。
よしんば譲ってくれたとしても、隠されていた内容が鼻持ちならないものだったら、この支給品を没収されるか、最悪捨てられてしまう。


従って、自分の意図を悟られずに、この支給品の正体を調べなければならないのだ。

とりあえずこの塔を一度最上階まで登り、そこからどこへ行くか決めることにする。
そして、階段を上り5階の見晴らしの良い場所まで来た所で、2人組が壁を上ってきた。


「うひゃああああ!?」
階段を上るだけだが登る手段だと思っていたのに、人間が呪力ではなく跳躍力で塔を外から登ってきた事実は、演技など関係なしに驚くことだった。

腰を抜かしたスクィーラに、槍を突きつけられる。
「あ……あの……どなたさま……でしょうか……。」
「単刀直入に聞く。これまで出会った相手を話せ。」
「わ……私が会ったのは……クッパというトゲトゲの怪物だけです……。」
スクィーラは人間に仕えていた頃、良く見せる姿勢を取り、説明した。
彼はカインがエッジの仲間とは知らなかったが、下手にエッジと出会った経緯を教えて、合流されると面倒になる可能性があると踏み、何も言わなかった。


「そうか。」
カインはにべもなく槍を収める。
それにスクィーラは安堵の表情を見せた。

「ならば2つ目の質問だ。お前はこの塔を見回り終わったか?」
「いえ。1階と2階はまだ見回っておりません。」
「どういうことだ?お前も上から来たクチか?」

カインとしても疑問に思う。
上のフロアならともかく、自分のような入り方でもしない限り、下のフロアだけ見てないというのはおかしい。

「いえ、そういうわけではなく……先程話した怪物に追われていたのです。
それで2階の床が崩れて怪物が落ちてくれたおかげで、事なきを得ましたが。」
「一理ある話ですね。この塔は中もボロボロなので、大きな怪物が走れば崩れてしまうでしょう。」
「なるほど。ならこの塔を見回ることにしよう。名前は何だ?」
「私はスクィーラといいます。あなた方神様に付けていただいた名前です。」
「神様!?私たちが?」

スクィーラの言葉に首を傾げるミキタカ。
それに対し、自分たちバケネズミは人間に奉仕する生き物だということを説明した。

「なるほど。言葉を使えて、手先が器用なら家畜以上に有用かもしれない。」
「カインさん、この方を家畜と比べるのは悪い事では……。」
「いえいえ、滅相もございません。我々バケネズミは神様にとっての家畜のようなものです。」
「そこまで自分を卑下する必要などないのでは……。
それより私はバケネズミの社会について聞きたいことは多いです。
仗助さんに聞いた限り、特別な能力を使うネズミはいるそうですが、言葉をしゃべるネズミを見るのは初めてなので。」

主にミキタカがバケネズミについて質問し、スクィーラがその都度答えていく。
そういったやり取りを続け、2階へとたどり着いた。
「ここでその怪物が落ちたのです。」
人ぐらいなら3人ほどまとめて落ちそうなくらいのサイズだ。

「俺たちも気を付けていくか。」
「あなた方は飛べるから問題ないのではありませんか?」
「いや。俺でも踏ん張った足場が途端に崩れたら落ちるかもしれぬな。」
「そうでございますか。ところで先程から神様方に訪ねたいことがありました。
あなた方はどのような道具を支給されたのですか?」


相手、特にカインは警戒心が剝き出しであることは、スクィーラにも十分伝わってきた。
だからこそ、思い切って訪ねてみることにした。


「私が支給されたものはこちらでございます。毒針に回復の薬、そして指輪です。」
支給品袋を開け、持ち物を出す。
前もって情報を出しておくことで、相手も情報を開示しなければならない雰囲気を作る。
相手を無能で醜いネズミと侮らせ、隙を作る。
人間を手玉に取る際、スクィーラがいつもやって来た方法だ。

「私が持っているのはこの……」
「ミキタカ、待て。」
ザックに手を入れ、持ち物を出そうとするミキタカをカインが制する。

「なぜお前は俺たちに支給品を見せた?見せろと一言も頼んでないぞ。」
「それはもちろん、敵意が無いことを示すためです。」
「嘘だな。」

カインはスクィーラの発言を切り捨てた。

「大方、自分の情報を開示することで、俺たちが安易に持ち物を見せつけるのだと踏んだんだろう。違うか?」
「ええ、その通りでございます。我が身を守る以上、神様の力を借りずとも何か道具が欲しかったのです。
私ごときがこのような下賤な欲望を露わにしてしまい、申し訳ありません。」

自分の目論見が9割方バレてしまった以上、下手に誤魔化し続けてもいいことは無い。
いっそのこと、自分の下心も含めて一番重要な情報以外を、謝罪と共に吐き出してしまうべきだ。

「下賤な欲望を持っている奴は、謝罪などその場しのぎの手段でしか使わないぞ。」
カインの詰問はなおも続く。

「カインさん、あまりこの方を責めるのも悪いのでは……私の支給品なら見せますよ。」
「ありがたい限りです。このご恩はきっとお返しします。」
「いいのか。」
「勿論です。」

ミキタカは支給品袋を開け、中身を見せる。
地面に転がったのは、赤い宝珠が付いた木彫りの杖と、バッジと、これまた瓶に入った紫色の液体。
「どれか欲しい物はあるでしょうか?」
「いえ……やはり私が今もっている道具で十分です。ありがとうございました。」


そのやり取りを囚人が何かしでかさないか見張っている番犬のような目で見ているカインを見つめながら、スクィーラは礼を言った。

穴の開いた箇所を迂回して、2階の中央へ向かう。
1階の階段へ通ずる部屋は鉄格子がかかっていたが、開閉用のレバーらしきものをカインが槍で動かす。


残りは地下と1階になった所で、3人の前に異様な光景が飛び込んできた。
1階の中央部に、青い光の様な何かが渦を巻いていた。


「これは……」
3人の中で、唯一覚えがあったのは、カイン。
かつてミシディアとバロンを繋ぐデビルロードで見かけた渦巻だ。
セシルが言っただけで、実際にカインが見たわけではないのだが、時空を圧縮し、遠く離れた場所を繋ぐという渦に似た姿をしている。


「カインさんは何か知っているのですか?」
「ああ。仲間から聞いただけだが……。別の場所へ行けるらしい。」
「もしかすると……。」
「ああ。そのもしかするとだ。」

3人の共通の意識に、この会場からの脱出という期待が過った。
だが、こんな露骨な場所に脱出口があるわけはないとも思っていた。



話は変わるが、この場所はかつて旅の扉と呼ばれた渦巻きがあったという訳ではない。
とある老楽師の魔法によって造られたものだ。
これがなぜこの会場にて存在するのか。


分かるのは、3人の脳内に別の渦巻が発生していたことだ。




【C-1/山奥の塔/1階 黎明】
【スクィーラ@新世界より】
[状態]:健康
[装備]:毒針セット(17/20) @無能なナナ
[道具]:基本支給品、ニトロハニーシロップ 指輪?
[思考・状況]
基本行動方針:人間に奉仕し、その裏で参加者を殺す。
1:カイン、ミキタカと共に付近を探る
2:朝比奈覚、奇狼丸は危険人物として吹聴する
3:優勝し、バケネズミの王国を作るように、願いをかなえてもらう
4:説明書の読めない箇所を炙り出すための火が欲しい


【カイン@Final Fantasy IV】
[状態]:健康 服の背面側に裂け目 疲労(小)
[装備]:ホーリーランス@DQ7  ミスリルヘルム@DQ7
[道具]:基本支給品 
[思考・状況]
基本行動方針:憎まれ役を演じ、対主催勢力を繋げる。もしセシルが死ねば? 敵がいれば倒す
1.セシル、お前はどうしている?
2.ミキタカ、しっかり頼むぞ。
3.スクィーラに警戒心
4.この渦巻は?
※参戦時期はクリア後です



【ヌ・ミキタカゾ・ンシ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 魔導士の杖@DQ7 バッジ?@ペーパーマリオRPG 紫のクスリ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[思考・状況]
基本行動方針:カインに協力する
1.カインさんは面白い人ですね。
2.仗助さんが無事か気がかり
3.この渦巻は?

※参戦時期は少なくとも鋼田一豊大を倒した後です。


支給品紹介
【ニトロハニーシロップ@ペーパーマリオRPG】
我が社の新製品、ニトロハニーシロップは、普通に使えば死んだ人も生き返っちゃうというくらい凄いシロップなのですが・・・貝がらから採った「カルシウム」と「金」をそのシロップと混ぜ合わせてしばらくすると・・・なんと!大爆発を起こすのです!それこそこの列車なんて簡単に吹き飛ばすぐらいの威力があるのです!(某サラリーマンの話)
本ロワでは、普通に使っても死者の蘇生は出来ないにしろ回復できるが、金とカルシウムをまぜあわせると強烈な爆弾を作ることが出来る。なお、爆弾のレシピの部分は普通には読めなくなっている。

【魔導士の杖@ドラゴンクエスト7】
ミキタカに支給された杖。
使うと火の玉を出すことが出来る。


【紫の薬@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス】
ミキタカに支給された薬。
飲むと小回復、全回復、小ダメージ、大ダメージのいずれかの効果が出る。
レアチュチュゼリーを取ろうとしたが、これを取ってしまうことはよくある話。


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033:ゲームはまだ始まったばかり 時系列順 035:少女、楽園へ至る
投下順
017:無能なネズミ スクィーラ 051:Grand Escape
013:罪人と宇宙人と カイン・ハイウインド
ヌ・ミキタカゾ・ンシ
最終更新:2021年08月18日 21:44