「オラはここにいた方がいいと思うど。」
1秒か2秒の間ののち、矢安宮重清は普通に答えた。
「私はどちらでもいいですが、どうして重ちー君はそうすべきだと思うんですか?」


どちらの選択をしようと、問題ではない。
理由は、その選択の過程、および選択後の行動にあるのだから。
「こんな知らない場所で、迂闊に出歩くのは危ないど。それよりもこの図書館がどんなところなのか調べた方がいいど。」
「重ちー君の言う通り、動かないのもよい事だと思います。では早速、この図書館の散策を進めましょう。」


柊ナナとしても、ここを動くか否か、どちらが良いのか判断するのは難しかった。
地図も見たが、如何せん自分の知り合いがどこに行くのか分かりづらい。
南東にある「学校」は自分がかつて転校生として入った学校という可能性もあるが、重清、あるいは他の参加者の出身校である可能性も否定できない。
現に重清の地元にあったという、「杜王駅」とやらがこの地図に載っている。
他にも、この図書館を加え「山奥の塔」やら「展望台」やら「闘技場」やら参加者ゆかりの地なのか、はたまた主催者が気まぐれで作った建物なのか釈然としない場所が多い。

奥の方まで行くと分かったことだが、図書館は外から見える以上に広く、いくつも本棚があり、迷路のようになっている。
さらに、2階へ続く階段まであった。

「何だか、かくれんぼでも出来そうですね。」
冷静に思考を巡らせ、敵が襲ってきたときどうすれば最短で図書館から逃げられるかイメージしながら、無邪気な発言をする。
「こういう場所では、オラのハーヴェストが大活躍しそうだど。」

デモンストレーションするかのように、スタンドを2.30体ほど出した。
しかし、ハーヴェストは最初の角を曲がった直後に、消えてしまった。
見えなくなったというわけではなく、本当に存在を消してしまったのだ。

「あれれれ?今のも重ちーさんの能力ですか?」
「いや違うど、いつもならオラのハーヴェストは、もっと遠くまで動けるはずだど。」

おかしいと思ってもう一度重ちーはハーヴェストを出すも、またも本棚の角を曲がった瞬間、消えてしまった。


「まあ、こんな状況ですし、不調だということもあります。何度かやってみましょう。」
口調とは裏腹に、ナナは重清のスタンドがすぐに消える理由を、きちんと掴もうとした。
彼女が過去にいた学校では、己の能力を万能の道具と過信するあまり、その首を絞めることになった生徒が何人もいた。
だが、重清の様子は、そうした過大評価から来るものとは少し違っていた。


言われた通り何度かやってみるが、結局同じだった。
直線距離なら長距離でも移動できるが、物陰や背後に移ると、消えてしまう。

「どうやらハーヴェストは、重ちーさんからの視界に入らない場所では無くなってしまうようですね。」
「そ、そんなの無いど!!人の視界から離れると無くなってしまうなんて、数学のテスト勉強へのやる気みたいだど!!」
「でも実際にそうみたいですよ。」
(やはりコイツは、敵意や悪意にあまりに鈍感だな)


こともあろうに、自分のスタンドの弱点まで惜しげもなく引けらかす重清を見て、持っている隙の大きさを再認識する。
自分固有の能力を見せびらかすというのは、自分の裸の背中を見せるようなものだ。
実際にその裸の背中を刺してきた(何の皮肉か自身も刺したことはあるが)ナナだからこそ、断定できるものである。
だからこそ自身の能力を偽るユウカには苦労したのだが。




「重ちー君、そこで上を向いてみてください。」
「こうかど?」
その後も実験を何度か繰り返した。
やはりトリガーとなるのは、視界から外れた時のようだ。
視線の遮断物が入り込むと、たちどころに姿を消す。


ただし見えなくなることが直ちに消滅につながるわけではなく、瞬きしたからと言って消えるということはない。
視界から離れて、ゼロコンマ数秒のラグが、消滅のトリガーになっているようだ。
また、身体に密着していれば、背後にいても消えることは無い。
従って、ハーヴェストの大群で重ちー自身を運ぶというアクションも起こすことが出来た。


だが、能力の制限には重清もショックだったようだ。
「そんな……これじゃ地面に落ちているお金を集められないど……。」
「ここから出られれば、また出来るかもしれませんよ。とりあえず、そこの階段から2階も見て回りましょう。」

意気消沈している重ちーとは裏腹に、ナナの心は僅かながら高揚していた。
(もしかすると、他の奴らの能力も制限されているかもしれないな。)
ナナは重ちーと、同じ学校の4人がいたことから、能力者と無能力者が集められているのだと判断していた。
しかし、そのままでは無能力者にとって不利でしかない。
だからゲームで言う「バランス調整」に似たものを、能力者の制限という形で主催は行ったのだと仮説を立てた。


そして、その仮説はナナにとっては、嬉しいニュースだった。
(小野寺キョウヤがいるのも、そういうことか。)
彼が持っている不死身の能力。
毒を飲もうと、ナイフで刺されようと、部屋一つ吹き飛ばすほどのガス爆発に巻き込まれようと全く死ぬことはなかった。
元の世界にいた時もどうするべきか考えあぐねていたが、もしかすると不死の能力とて制限されている可能性もある。

(ここはあいつを殺すには、絶好の機会じゃないのか?)
おまけにこの場所は殺し合いの場だ。
かつてありもしない「人類の敵」に殺人の罪を擦り付けた以上に疑われることなく殺害できるのではないか、そんな期待がよぎった。
最もナナは殺人に快楽を見出しているわけではなく、義務である以上、興奮したわけではないのだが。


重ちーの予想もつかないようなことを胸の内に抱えながら、階段を上り2階へ向かう。
2階は1階に比べると本棚の数は少なく、階段を上った後からすぐに全域を見渡せた。
西側は壁ではなく大きな窓が貼っており、この図書館は見張り台としても役に立ちそうだ。
1階の本棚の迷路と組み合わせれば、それなりに長い時間籠城していられそうでもある。


「私はこの辺りに何か隠されてないものがあるか探します。
重ちー君はそっちの方で外を見ておいてください。それとこれをどうぞ。」
ナナが重清に渡したのは、まるで忘年会で使われそうな目を隠す仮面のようなものだった。
鷹を模したデザインをしている。

「ありがと……って、こんなダサいのどう使えばいいんだど!!クリスマスパーティーでも受けないど!!」
「『ホークアイ』と言って、遠くの的でも見れるそうですよ。」

半信半疑ながら、窓に顔を近づけ、使ってみようとする。
その間に、ナナは2階に何か隠されているものが無いか、探りを入れる。


残念ながら、2階は主に絵本や子供向けの本ばかりで、あまり目ぼしいものはなかった。
見通しの良い2階より、首輪解除や隠れるために使うなら1階の方がベターかと思っていた所……。

「ナ、ナナさん!!早く隠れるど!!!」
血相変えた重清が、走ってきた。

「落ち着いてください。何を見たのですか?」
「怪物だど!!怪物が図書館に来ているど!!!」
「怪物!?」
ナナは人類の敵の話をしたが、それはあくまで能力を持った人間の話。
物語に出るような一目で見て怪物と分かるような怪物は言うまでもなく見たことは無かった。

「全身真っ黒で角を生やして、しかも人間を2人連れていたど!!」
ふ、ナナの口元から笑みがこぼれた。
その原因は2つ。
1つは、過去に自分が話した人類の敵の、でまかせの説明に似ていた表現だったこと。
もう1つは、「人を連れている」ことから、殺し合いに乗っているとは断定できないはずなのに、そうだと決めつける重清の短落さに。


「ナナさん!!早く隠れるど!!」
「怪物が殺し合いに乗っているって、誰が言いました?」
ナナは冷静に重清を宥める。

「それは分からない……けれど、あの顔は殺しをする顔だと!!」
「顔……の方は分かりませんが、それに重ちーさんは『人を連れている』って言いましたね?だからその怪物は、人間を殺そうとしていないんじゃないですか?」
「ああ!そう言えば!!」

重ちーは予想もしていないようなことを言われ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔つきになる。

「でもまあ、重ちー君が言う通り、怪物は悪い奴かもしれません。スタンドを出しておいてください。」

登った階段を一段飛ばしで降りていく。
重ちーはこの先に起こりうる恐怖を想像しながら。
ナナは怪物と連れていた人間の組み合わせが持ちうる可能性を想像しながら。
既に1階のロビーに来た時、怪物と後ろの人間達は入り口にいた。


「重ちー君はいざという時にハーヴェストを出しておいてください。」
500体いるハーヴェストのうち、100を二人の周りに。
400を図書館の天井に配置させる。

「あなた方はどなたですか?」
いつものように、ナナは怪物と大人二人を目の当たりにしても、笑顔で接する。
「口の聞き方がなっとらんな。他者に名を訪ねる時は、まずは己から名乗るものであろう。」

体格に負けぬ大きな態度で話す怪物に咎められるも、ナナの心には若干の安堵があった。
少なくともこの怪物は、自分を即座に殺すつもりではないということだからだ。

「私はハイラルの王女、ゼルダといいます。こちらはアイラ。このお方は……」
ナナが紹介しようと思ったが、その前に左側にいた高貴な女性が名前を語りだした。

「皆まで言うな。デマオンだ。魔界星の大魔王をやっていた者だ。」
「大魔王に王女とは……凄いことをやっていたのですね!私は柊ナナといいます!!
殺し合いに乗る気はありません!!」
「お、おらは、矢安宮重清……皆からは重ちーって呼ばれてるど……。」
「ふむ……同じ様だな。ワシらはこの図書館に殺し合いを潰す手掛かりがあると踏み、この地を目指したのだ。」

「頼れる方が3人もお越しになってくれて、嬉しい限りです!!是非協力して、この殺し合いを止めましょう!!」
「話が早くて助かる。では早速、その蟲のような生き物を退散させるのだ。」
好意的な態度をとるデマオンだったが、警戒の糸は緩めていないことはナナの目には明らかだった。
デマオンが突き出した指は、天井のハーヴェストが集まる場所を指していたからだ。


「重ちー君、天井のハーヴェストを。」
「ああ、分かったど。」

言われた通りにスタンドを消す。
いざとなればナナが持っていた爆弾を投げればいいだけだ。

そして、ナナとしてはデマオン達が敵意を抱いていないことは分かった。
それは、アイラやゼルダの「目線」にあった。
自分のすきを窺う視線ではなく、デマオンが勝手なことをしないようにと警戒するかのように、自分よりもむしろデマオンに目を向けている。


「では早速、そなたらはデマオン軍の配下だ。共にこの場にある蔵書を探ることにするぞ。」
「はい、そうしましょう。手分けして探せば手掛かりも見つけやすそうですね。」


再びナナとデマオンは図書館の奥に入り、本を探り始めた。
しかし、その一方でゼルダとアイラは、神妙な表情を浮かべていた。


「ねえ、重ちー……君?あのナナって人は、どんな人なの?」
アイラがナナに置いて行かれた重清に話しかける。

「別にどういう人なのか分からないど。まあ気さくな人というぐらいだど。」
「そうねえ……。」
アイラが訝しんだのは、ナナが「気さく過ぎる」ということだった。
自分とゼルダが怪しんだデマオンに対しても、普通に怖気づくこともなく話を出来る。
悪を知らない子供というには、少し大人過ぎているし、子供というならデマオンの姿を見て怯えていた重ちーの様になるはずだ。


どうにもナナという少女に対して、アイラは筋が通らない何かを感じ、訝しむ。
しかも能力が何なのか分からない以上、手の内は何処までも分からない。


胸の内がモヤモヤする所を感じながら、アイラもまた図書館の奥へと入って言った。


これにて、5枚カードが揃うことになる。
だが、それはゲームはまだ始まったばかりということ。
5枚のカードは、さらに増えていくか、捨て札へと送られるか、はたまた交換されるか。
その先はまだ分からない。
分かるのは、小さな形で疑心暗鬼が生まれていたということだ。



【B-5/図書館/一日目 黎明】

【柊ナナ@無能なナナ】
[状態]健康
[装備]空気砲(100/100)@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~1(確認済み)、名簿を七並べ順に書き写したメモ、ナンシーダイナマイト@ペーパーマリオRPG
[思考・状況]
基本行動方針:最低でも脱出狙い。可能ならオルゴ・デミーラ、ザントの撃破。最悪は優勝して帰還。
1.デマオン、アイラ、ゼルダと共に、殺し合いを攻略するための本を集める
2.殺し合いに乗っていない参加者と合流を目指す。特にオルゴ・デミーラかザントについて知る参加者の優先度が高め。
3.回復能力を持つミチルと東方仗助と合流したいが、1よりは優先順位は低め
4.小野寺キョウヤはこの殺し合いの中なら始末できるのか?
5.佐々木ユウカは出会ったら再殺する。
6.スタンド使いも能力者も変わらないな
※参戦時期は20話「適者生存PART3」終了後です。
※矢安宮重清からスタンドについて、東方仗助について聞きました。
※広瀬康一、山岸由香子、ヌ・ミキタカゾ・ンシをスタンド使いと考えています。
※異世界の存在を認識しました。

【矢安宮重清@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康 怯え
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2 ホークアイ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラとザントを倒す
1.デマオン、アイラ、ゼルダと共に、殺し合いを攻略するための本を集める
2.ナナさんと一緒に行動する
3.仗助と合流したい
4.デマオンの配下って何だど?
※矢安宮重清の参戦時期は「重ちーの収穫(ハーヴェスト)」終了以降です。
※異世界の存在を認識しました。



【アイラ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康 職業 調星者 (スーパースター)
[装備]:ディフェンダー@ FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~2
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラを再度討つ デマオンへの警戒
1.デマオンには警戒しながら同行する
2:アルス達を探して合流する
3.柊ナナに警戒
※職業は少なくとも踊り子、戦士、武闘家・吟遊詩人・笑わせ師は極めています。
参戦時期はED後。



【ゼルダ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 】
[状態]:健康
[装備]:アルテミスの弓@ FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~2
[思考・状況]
基本行動方針:ザントの企みを阻止する デマオンへの警戒
1.デマオンには警戒しながら同行する
2.アイラの仲間(アルス達)を探して合流する
3.ミドナ…あなたもいるのかしら?

参戦時期はミドナとリンク(狼)が出会い1回目の頃。
※参加者のトランプは確認していない。



【デマオン@のび太の魔界大冒険 】
[状態]:健康 
[装備]:世界樹の葉@ ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~2
[思考・状況]
基本行動方針:不遜なるデク人形(オルゴ・デミーラ、ザント)をこの手で滅し、参加者どもの世界を征服する
1.情報収集する
2.部下であるアイラとゼルダ、それに重ちー、ナナを引き連れる
3.刃向かうものには容赦しない
4.青だぬき共の処遇はこの場では不問とする
5.この世界は一体?




【ホークアイ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス】
ナナに支給された道具。
使うと遠くをフォーカスして見ることが出来る望遠鏡のようなもの。
弓矢に付けることも出来て、遠くを狙いやすくなる。


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032:薄っぺらな人形劇 時系列順 034:うずまき
投下順
009:♢のフラッシュは揃うのか 柊ナナ 042:交錯した想い
矢安宮重清
025:とある王家の話 デマオン
ゼルダ
アイラ
最終更新:2021年09月05日 06:53