ルビカンテは闘技場の中心部にいた。
蹲る彼の胸の中にあったのは、敗北の屈辱


彼が敗れたのは1度だけではない。
かつてパラディンになろうとして試練に敗れ、さらにセシルとその一行に敗れた。
そういう点だけ見れば、先の戦闘での敗北も格別珍しい事ではない筈だ。
しかし、敗北の過程が全く違った。
敗北を喫した戦いこそ数あれど、ほとんど傷さえ付けられぬまま勝負がついた戦いはほとんどなかった。
しかも、自分の十八番さえも通じずに。


悲惨だった。
死ななければ負けではない、と言うことさえ出来ない。
今死んでいないのは、自分の力だけではなく、敵としていたはずの相手から受けた施しだからだ。

それなりに傷を負っていたはずだが、何もせずにじっとしていれば感じたことのない不快感でおかしくなりそうだった。
やみくもに鞄を開け、支給品のトランプを取り出す。
参加者のカードの束を地面にたたきつけ、散らばった中から1枚を取る。

「マリオ……。」
自分を追い詰め、自分が倒すはずだった敵を横取りした男の名前を呟いた。


そのカードを握りしめたまま炎を出す。
赤を纏った服の男の絵は、異なる赤に包まれ、瞬く間に灰になり空気へ舞う。


その時、何人かの足音が聞こえた。
誰が来たのか、奴等こそ自分のどうにもならない気持ちを払拭してくれるのかと、期待を胸に戸を開ける。



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時は少し遡り、闘技場前。
のび太、覚、ダルボスの3人は細菌兵器を持って逃げた写真のおやじを追いかけながらも、途中で見失っていた。

「あの写真の人、どこへ行ったのかなあ。二人は見つけた?」
「ダメだ。俺にも見つからん。」

覚のような呪力持ちの人間は、非常に視力が高い。
そして灯りの無い夜でも、目を暗闇に慣らしていけば、昼間と大差なく見える。
だが、いくら視力がのび太たちより数段上でも、見えない物を見ることは出来ない。


「もしかすると、いつの間にか追い越したんじゃねえのか?」
同じく灯りの少ないデスマウンテンを苦労なく動けるダルボスも、空飛ぶ写真の姿は見当たらなかった。
「ええ~~!!そんなぁ……。」
いきなり走ることになり、小学5年生、それより幾分か体力が劣るのび太は、すっかり疲弊していた。
そこに予想外のことを告げられ、地面にへたり込んでしまう。


「オイオイ、もうへばったのかよ。そんなんじゃ強いゴロンになれねえぞ。」
「ならなくてもいいよ!!」
「そういやノビタはゴロンじゃなくてニンゲンだったな。」
「あまり無理するな。この先何があるか分からんし、写真の男を探すのを一度中断して、どこかで少し休むのがいいだろう。」

覚の提案には二人も納得する。
敵は写真の男だけとは限らない。
今こうしている間にも別の敵が迫っている可能性だってある。
何処にいるかもわからない相手を追うのに集中しすぎて、体力を使い果たすことを避け、3人は適当な建物を探す。


「あの大きな建物とかどう?」
のび太は少し先の、屋根にワンワンの人形が付いた建物を指さす。

「まあ、窮屈じゃあなさそうなだけマシだな。」
ダルボスは人工的な市街地よりも、デスマウンテンの様な天然の地形に囲まれた場所の方が好みだが、仕方なくその提案に乗る。

「地図を見た感じ、ここは『闘技場』らしい。こんな場所ならもしかするとのび太やダルボスの知り合いも来るかもな。」

「よっしゃ。ならオレが先に入るぜ。オマエ達は付いてきてくれ。」

そう言いながらダルボスが先に建物の中に入る。
覚の呪術は、不意な攻撃から咄嗟に身を守ることは難しい。
実際にバケネズミからのゲリラ戦の時は、その弱点を大いに突かれた。


後に続いて、覚やのび太も入ろうとするが、すぐにダルボスが制止した。
ロビーから炎の弾が飛んで来たからだ。

「オラァ!!」
しかし、ダルボスの右の拳で簡単に弾き飛ばす。
火山弾飛び交い、溶岩流れるデスマウンテンを主な住処とするゴロン族は、人間に比べると高熱に強い。

「ほう……今のを止めるとは……。」
ロビーとリングを繋ぐ扉には、赤いマントで全身をすっぽり覆った男が立っていた。

「誰だオマエは!!」
その姿に気付いたダルボス

「私はルビカンテ。この殺し合いに乗っている者だ。おまえ達はどうする?」
「奇遇だな。オレ達はオマエみたいな奴等をとっちめようとしていたんだ。」

ダルボスは両手を鳴らし、臨戦態勢に入る。


「待ってくれ!!」
その戦いに水を差すかのように大声を上げたのは、覚だった。
「今俺たちは戦っている場合じゃないんだ!!」


覚としては、目の前にいる赤い男よりも、いつ細菌兵器がばら撒かれるかの方が気がかりだった。
どんな状況であれ、不味いことは同じ組合の者同士が相争っている間に、第三者に水面下でやりたい放題されることだ。


「奴と同じことを言う。なぜ人間と言うのは誰しもそうなのか。」
ルビカンテはセシルのことを思い出し、はあ、とため息をつく。

「話が聞けるなら、今こうして争うのをやめてくれ!!」
「残念だが私は戦う以外のことが出来ぬのでな。その申し出は受け入れられん。」


ルビカンテが手を上げると、ダルボス達に12時、4時、8時の方向から蛇が襲い掛かる。
ただし蛇と言っても、頭は火球で、身体は紅炎で出来ている。
しかし一匹の蛇はダルボスの拳によって潰され、後の二匹は覚の呪力により難なくかき消される。

「ふむ。やるではないか。なぜその力をもって、戦いに身を投じようとせぬのか度し難いな。」
「世の中には力を持っているからって戦いが好きな奴ばかりじゃないんだよ。」

力を持っているからと言って、考えを放棄して戦ってばかりいれば良いものでは無い。
現に覚は、自分の数十倍はある呪力を持っていながら、バケネズミに殺された日野光風のように、力に頼り切った慢心は死を招くことを学んでいた。


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(ど、どうすればいいの?)
2人とルビカンテのやり取りを見て、のび太は1人何も出来ずにいた。
どうにかして殺し合いを止めたい。
だが自分に出来るのは、布切れ1枚動かせるか否かの念動力ぐらいだ。
この戦いを止めるほどの話術も、全員纏めて逃げる戦術案も、無理矢理ルビカンテをねじ伏せるほどの力もない。
飛んでくる炎を、ダルボスと覚が散らしている所を見るだけしかできない。


「そこの少年、おまえは離れろ。」
「え?」
そうこうしているうちに告げられたのは、覚とダルボスを置いて逃げろと言う言葉だった。
しかもそれは敵からの言葉だ。
意図が分からないことを言われ、のび太は戸惑うだけだった。


「弱い者には興味はない。私の意思が変わらない内に行け。」

「置いていけないよ!!」
断ろうとした瞬間、急にのび太の体が浮かび上がった。
朝寝坊した時、慌てて階段から落ちた時の様な奇妙な浮遊感を覚えたと思ったら、急にその体は闘技場から出ていった。

着地した場所は、闘技場から出てすぐの植え込み。


「そこに隠れていろ。奴の言うことは最もだ。」
呪力を使った覚が、のび太をルビカンテの手が届かない場所まで飛ばした。
無重力空間から急にそうでない場所に来たかのような感覚を覚えながら、地面に落ちた痛みを全く感じなかったので、覚に賞賛を送りたいが、今はそれどころではない。

「ちょっ……。」
のび太は止めようとするが、聞く耳持たないとばかりに、すぐさま覚は戦線復帰する。



「いいぞ。やはり強者との戦いはこの上なく満たされる。」
勢いづいたルビカンテに伴い、ポップコーンのように炎の弾がダルボス目掛けてはじけ飛ぶ。

「ウオオオオオ!!」
それを連続パンチで打ち飛ばしていくダルボス。
一見互角のように見えるが、ルビカンテの方が優勢だった。
片や遠距離から魔法を撃ち、もう片方はそれを弾くことしか出来ない。
何度も魔法を撃ち続けていれば、いずれ弾き飛ばすこと出来ず当たる。
従って、戦いの主導権は完全に握られていた。


「それはどうかな?」
戦線復帰したばかりの覚は、何もない空間、正確には二人が戦っている場所の中間あたりを見つめる。

「「!!」」
睨み合っていた両者は、どちらも驚愕した顔を晒すことになった。
何故なら相手しか見えていなかった視界に、急に自分の顔が入り込んできたからだ。
そして、ルビカンテはさらに驚くことになる。
ダルボス目掛けて撃ったファイガが、自らに返ってきたからだ。


元々炎魔法に耐性のあるルビカンテには、それだけでは大したダメージにはならない。
だが、攻撃の札はもう1枚。


「ウオオオオオオオオオ!!」
辺りに充満した煙の中から、鉄球、いや岩の塊のようになったダルボスが、迫りくる。

「ぬおおおおお!!」
ルビカンテは四肢に力を籠め、止めようとする。
当たれば鉄の靴でも履いてない限り、簡単に吹き飛んでしまうゴロンの、その中でも強者の一撃だ。
爆音と悲鳴が響き渡る。
彼自身が纏っていた赤い衣の一部が飛び散る。
そして彼の巨体が、ロビーとリングを繋ぐ大扉を突き破って転がった。

「やったか……?」
「スゲエじゃねえかサトル!!何をしたんだ!!」
魔術の反射という、
「過去に覚えた、呪力の応用さ。」

覚が全人学級時代に覚えた「鏡造り」の呪力だ。
ルビカンテから出る炎が、ニセミノシロモドキが出したような光線の類ではないかと考えた覚は、空間に作った鏡で跳ね返すことを試みたのだ。
どういうからくりか分からないが、呪力の力や攻撃範囲がいつもより限られていたため、これは出来るのか不安だったが、いつもと同じように成功したことに覚は安堵する。


「今の攻撃、中々効いたぞ。」
「チッ…やっぱりか……。」
だが、彼もゴルベーザ四天王最強の名を冠する者。
セシルの斬撃やマリオの殴打に雷を受け、僅かの休みの後、覚とダルボスの波状攻撃を受けてなお立ち上がる。



一方で、のび太は鞄の中身を探っていた。

「あった!これなら……」
鞄から出てきた最後の支給品は、かつて西部時代にタイムスリップした時、数10人の悪党と戦ったことを思い出す道具だった。
それはとある国のマフィアが使っていた、紫の小型ハンドガン。


耳を澄ますと、闘技場内から大きな音が聞こえて来る。
3人の戦いが白熱しているという何よりの証拠だ。
すくんで動けない足に鞭打って、一歩一歩、静かに足を踏み入れる。



一方で、場所は闘技場のロビーからリングへと移る。
ルビカンテは戦い向けの場所だということも相まって、炎と闘志を滾らせていた。


「構えが変わった!!来るぞ、サトル!!」
「分かってる。」
先程ファイガを撃った、両手を大きく開いた構えとは異なり、爪を装備した右手を空高く掲げる。
その先に聖火のように炎が集まり、覚目掛けて飛んでくる。


それに対して、覚は鏡を作り、またも跳ね返そうとする。

「同じ手は食わんぞ!!」
しかし、炎の弾は鏡を突き抜け、戻ることなく真っすぐに迫りくる。
道具で飛ばした魔法は、光の壁の影響を受けない。
一度魔法の反射を食らって、二人組のうち人間の方がリフレクのような術を使ったことを、ルビカンテは即座に見抜いた。

「あぶねえ!!」
咄嗟に背中を盾にしたダルボスが覚を庇い、危機を救った。


「違う技なのか?」
命の危機を脱した覚だが、鏡の呪力で跳ね返せなかったことに戸惑いを覚える中、炎の爪からの第二撃が来る
次の炎は、箱をイメージしたに閉じ込める形で、どうにか消火した。
だが、これによって、またもルビカンテの隙を作れなくなってしまう。


「そしてこれが私の奥義だ!!火焔流!!」
ルビカンテが大きく右手を横に開き、左手を脇腹のあたりに添える、未知の構えを取った。
ダルボスと覚の間を、炎の渦が現れる。

「くそっ……」
今までとは違うタイプの攻撃に、覚は悪態をつく。
呪力とは、視界に入る相手にこそ効果を発揮する。
逆に言うと、火焔流の様な360度全方向からの攻撃には、対処が難しい。
一か所の動きを止めても、別方向は止まらない。


そうこうしているうちに、渦は狭まり、二人を焼こうとする。


「サトル!!オレに乗れ!!」
気が付くとダルボスが体を丸めていた。

「分かった。」
意図が分からないながらも、このままやられるぐらいならとダルボスの背中に乗る。

「ゴロォ!!」
「うわあ!!」
そのままゴロン特有の背の固さと、背筋を利用して、覚を上空に飛ばした。
ダルボスだけではない。彼等ゴロンが、そのままだと登るのに苦労する場所に、仲間を飛ばすためによく使う技だ。
この技術を応用して、覚を唯一炎の竜巻が来ない上空に飛ばしたのだ。
すかさず覚は吹き抜けになっている、2階の観客席へ飛び移る。


「やりおる。だが、そちらはどうする?」
覚の危機は脱したが、ダルボスには竜巻が迫りくる。

その時、炎の流れが急に弱まった。

「「「!?」」」
地上にいたダルボスとルビカンテ、そして2階から見ていた覚も、それぞれ驚く。

「次は胸に当てるよ!!」
火焔流の勢いを弱めた張本人は、ルビカンテの肩を撃ったのび太だった。
どんな人間でも取り得はあるように、彼には射的とあやとりに関して、天才的な腕前がある。


「ありがてえ!!これなら行けるぜ!!」
弱まった炎の壁を転がったまま突き破り、再度ルビカンテ目掛けて突進するダルボス。
躱そうとするも、もう間に合わない。


「ぬああああ!!!」
ダルボスとルビカンテ、そして背後の壁が激突する音が響く。


「今のうちだ、2人共行くぞ!!」
そして彼らの目的は、ルビカンテを倒すことではない。
そのまま走って、闘技場から出ていく。


「な!?待て!!」
ルビカンテは叫ぶも、ダメージも重なっている上に、予想の裏を突かれ、追いつけることは無かった。

3人の姿が闘技場から消えていき、戦いのオーケストラは次第に静まっていく。
残ったのは、赤の男と戦いの爪痕。
そして、彼自身が侮っていた弱き者に戦いを崩されたという皮肉だけだった。




【A-8 黎明 闘技場】

【ルビカンテ@Final Fantasy IV】
[状態]:HP 1/8 魔力消費(中) 屈辱感
[装備]:炎の爪@ドラゴンクエストVII フラワーセツヤク@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1 
[思考・状況]
基本行動方針:戦うか、協力するか
1.あの帽子の男(マリオ)は絶対に許さない

※少なくとも1度はセシルたちに敗れた後です。


【A-8 黎明 闘技場】


【ダルボス@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:ダメージ(中) 疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、タイムふろしき@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[思考・状況]
基本行動方針:リンクと合流し、主催を倒す
1.写真の男(吉良吉廣)を追いかける
2.サトルの奴、超能力者なのか?
※参戦時期は少なくともイリアの記憶が戻った後です。


【野比のび太@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
[状態]:健康 疲労(中)
[装備]:ミスタの拳銃(残弾5)@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]
基本行動方針:ダルボス、覚と共に脱出する
1.写真の男(吉良吉廣)を見つける
2.朝比奈さん、エスパーなの?
3.どこかで休憩したい
※参戦時期は本編終了後です
※名簿の確認はしてません。
※この世界をもしもボックスで移った、魔法の世界だと思ってます。


【朝比奈覚@新世界より】
[状態]:健康 疲労(中) 焦り 早季への疑問
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:写真の男からサイコ・バスターを奪い返す
1.その過程でもし出来たら、早季や真理亜、奇狼丸を探す
2. のび太は呪力を持ってるのか?
※参戦時期は26歳編でスクィーラを捕獲し、神栖66町に帰る途中です。


支給品紹介
[ミスタの拳銃@ジョジョの奇妙な冒険]
のび太に支給された紫の小型拳銃。
銃弾6発入り。
撃った時の反動が少ないことを除けば何の変哲もないリボルバー銃。
元の持ち主であるグイード・ミスタはスタンドと組み合わせて使っていたが、スタンドを併用することは出来ない。




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035:少女、楽園へ至る 時系列順 037:再会、対策、火種
投下順
011:始まりは1枚の支給品から ダルボス 046:「もしも」
野比のび太
朝比奈覚
008:闇に身を委ねた者 ルビカンテ 049:七転八倒
最終更新:2021年08月04日 09:33