「守君、何か聞こえないかね?」
満月博士達と別れてから十数分後、ヤンはある音を聞き取った。
そしてすぐに守にも、彼の言っていることは伝わった。
ドン、ドンと爆発でも起こっているような音が、森の奥から聞こえてきた。
それを聞いて、守はビクリと肩をすくませ、震え始める。
彼が思いだしたのは、2年前の筑波山での出来事。
バケネズミの雑兵に追われ、頼みの綱の呪力もないまま、行く当てもなく火薬の音が響く森を走り回ったことだ。
「何が起こっているんだ……。」
しかも音が聞こえ方からして、爆音の原因は清浄寺のある方角にある。
既に殺し合いは始まっていることを、否が応でも分からされてしまった。
「守殿……何が起こっているかは分からぬが、心配しないで欲しい。私が付いている。」
息を荒くして、かたかたと震えている守を見たヤンは、気遣いの言葉をかける。
「ありがとうございます。」
守としても、この先に行くのは嫌だ。
しかし、その先で被害に遭っているのは真理亜かもしれない。
不浄猫に追いかけられ、神栖66町を脱走した時、追いかけてくれたのは彼女だった。
だから今度は、自分が真理亜を見つけるんだという意志の下、森を進もうとしていた。
「期待に応えるためにも、貴殿が想い人に会い、元の世界に帰るまで、共に行くとしよう。体と心を鍛え上げたファブールのモンクを見誤らないでいただきたい。命に代えてもお守り……。」
ヤンが言葉を全て言い終わる瞬間、ここからでも良く聞こえるほど一際大きな爆音が響いた。
「どうやら向こうでは予想も出来ない何かが起こっているようだ。走れるかね?」
「はい。」
何が起こっているのか確かめるためにも、先を急ごうとする。
しかし、二人が走り出してすぐに、上から大きな音が聞こえた。
先程のような爆音ではなく、背の高い木から聞こえて来る、葉っぱをガサガサと言わせる音だ。
それぐらいなら急いでいる彼らは無視できたかもしれない。
「た………」
しかし、人の声が聞こえた以上は、無視できなかった。
「助けて………。」
木の上の一本の枝の上に、白いスーツの男が引っかかっていた。
急がなければいけないと分かっている状況ながらも、その姿に視線は釘付けになってしまう。
「は、早く何とかしないと!!」
音の原因が何か分かると、守も慌ててしまう。
いつもならば木から人を呪力で降ろすことなど、容易なことだ。
しかし、彼らの呪力には制限がされているため、思うようには行かない。
彼のサイコキネシスは、枝を揺らすだけになってしまう。
「や、やめてくれ!!落ちる!!」
「枝が折れるかもしれないから、暴れないでくれ。今助けに行く!!」
制限の正体は分からなかったが、守は諦めてヤンに任せることにした。
ヤンは軽々と枝から枝へと跳んで行き、男が引っかかっている場所までいとも簡単にたどり着いた。
すぐに吉良を抱えて、垂直な木を坂道か何かのように降りて行く。
「危ない所を助けていただき、ありがとうございました。」
ヤンの手から離れた男は、頭を下げて礼を言う。
衣服こそ乱れているが、その立ち居振る舞いはヤンと同じか、それ以上に整然としていた。
しかし、守はその男を、どういうわけか信用できなかった。
彼の冷徹な瞳から連想させるのは、自分の元担任、太陽王こと遠藤先生の瞳だ。
一見穏やかそうだが、冷徹さを秘めていて、目的の為なら手段を択ばない男の瞳だった。
「では早速、向こうの寺で何があったか教えてくれませんか?
実はあなたが悪人だという可能性も否定できない。」
そしてヤンもまた似たようなものを男から感じ取っていた。
炎の爪の先を男に見せつけ、本当のことを言うしか逃げ道は無いぞ、という意思を示す。
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一難去ってまた一難とは、まさにこのことじゃないかと吉良吉影は実感した。
どうにかしてこいつらからの疑いを晴らさねばならないので、脳内で素早くかつ的確に最適な回答を練り上げようとする。
キラークイーンを出そうにも、近距離パワー型のスタンドでは纏めて殺すのは難しい。
現に清浄寺では、3人のうち2人の戦闘能力が皆無という状況でありながら、1人しか殺せなかった。
とぼけるのもありかもしれないと思ったが、あえて起こったことを嘘を交えながら話した方がこの二人から信頼出来るのではないかと考え、言葉を紡ぎ始める。
「私はここより北にある寺に、たまたま出会った少女と共に隠れていました。」
まずは状況から説明することにする。
「少女?もしかしてその子は、赤い髪をしていませんでした?」
2人組の片割れ、毛髪が豊かな方の少年が食い入るように訪ねてきた。
「いえ、その子の髪はクリーム色でしたが……」
ここは態々嘘を言っても状況が好転する可能性は低かったため、正直に答えることにした。
どうやら恋人か何かなのか、少年は安堵の表情を見せた。
「しかし、そこへ二人の男が入ってきました。」
ここからが正念場。
心臓が一層高鳴る。
「ふむ。その二人はどのような姿をしていました?」
予想通りと言えばそうだが、禿げ頭の男の疑惑の視線が強くなった。
「片方はそちらの方より低い年齢で、もう片方は海賊のような姿をしていました。」
吉良の心臓は最高潮に達していた。
彼はこの感覚を何よりも嫌っていた。
植物の様に穏やかな生活を好む彼にとって、鼓動もまた、常に平静を保って欲しいと望んでいる。
それを許さないこの二人組が憎くて仕方が無かった。
「海賊……ですか。」
その反応を聞き、幾ばくか安堵を覚えた。
もしあの海賊の男が、どちらかの仲間ならば、俄然自分への疑いが深まるからだ。
「彼らは寺に入って来るや否や、爆弾のような能力で少女を爆殺し、逃げようとした私にも、爆弾を投げてきました。」
平穏を侵してくる簒奪者達への憎しみを抑え、冷静に答えていく。
「爆弾のような能力とな……?」
これもまた予想通りだが、未知なる言葉を聞き、2人の表情が更に強張る。
「私が見た限りですが、2人組の少年が触れた部分が突然、爆発したのです。彼女はそれで背中を吹き飛ばされ、殺されてしまいました。」
疑念の表情は変わらない。
「ええ、そのような顔をするのも最もです。ですが私はありのまま起こったことを話しているだけです。それとも嘘をつけと言うのでしょうか」
「いえ、その点にも幾分か疑問にはなりますが、私としては大の大人が少女を見殺しにして、逃げ出したというのがどうにも気に食わないのです。」
あんたの正義論なんてどうでもいい、と言いたいのをこらえて、敢えて徹底的に下手に出ることにした。
「そうです。私を信頼してくれた少女を見殺しにして、逃げようとした卑怯者だ!ですが仕方が無かった!!」
表情筋を降ろし、目線も下げ、心底申し訳なさそうに振る舞う。
会社の時と同じだ。
過剰に仕事を押し付けられないように、過度な期待を浴びないように、そして何より厄介者として扱われないように、自虐的になる。
「ですが私にどうしろと?2人組相手にむざむざ死にに行けとでもいうのですか!!」
しかし、相手方から何をしても良い存在と思われるのも、また面倒ごとに巻き込まれるきっかけになるので、ほんの少しだけ強気に出る。
「すまない。私としたことが悪いことを言った。しかし、なぜあのような場所に?」
「済んでの所で爆発で死ぬことは無かったのですが、海賊の男が竜巻を起こす能力を持っていたらしく、吹き飛ばされて、気が付けばあの場所にいたわけです。」
「風を起こす能力に、触れた物を爆弾に変える能力ですか。」
「そうです。そちらのお子さん、大丈夫ですか?顔、真っ青ですよ。」
吉良としては、一刻も早くこの場所から抜け出したかった。
もしもこの森の中でまだ殺せていない早人とシャークに出会えば、したくもない殺人をせねばならなくなるし、仮に奴らがいなくても寺へ向かいたくない。
だが、上手く信用を勝ち取ればこの二人を隠れ蓑に出来る。
優勝ではなく脱出を目的とする彼にとって、状況によっては自分のことを全く知らない二人は、重宝する存在になり得るのではないかと考えた。
気を遣う発言も、信頼を得るための言葉だ。
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伊東守が吉良の言葉を聞いて、この世界では人が人を殺すのだと改めて知ってしまった。
不浄猫を使った間接的な間引きではなく、もっとシンプルに、自分の呪力で、はたまた呪力とは異なる力で殺している。
吉良の話は半分を過ぎた辺りで、耳に入れる余裕が無くなって来ていた。
この感覚は、2年前にミノシロモドキから過去の歴史を聞いていた時に似ていた。
身体が熱に浮かされた時の様に熱くなり、鼓動が聞こえるほど高まり、それに伴って嫌な汗が流れ始める。
「守殿、大丈夫か?」
ひゅうひゅうというただ事ではない息遣いを感じ、ヤンは心配の言葉をかける。
「いいえ……大丈夫です……。」
「とにかく、私は被害者です。守君のためにも、早くこの森から出ましょう。」
吉良はこの場から離れることを提案する。
しかし、守はどちらかというと、寺へ向かいたかった。
真理亜が向かうとするなら、清浄寺の可能性が高い。
もし今いないのだとしても、後にやってくる可能性だってある。
おまけにいざ他の場所に移るとなると、どこへ行けばいいか困る。
その先で真理亜と都合よく再会できる保証もない。
寺で吉良を襲い、少女を殺した人間が怖いかと聞かれれば勿論怖いが、それでも行きたいという気持ちがあった。
「いや、これから我々3人でこの先へ向かおうと思う。」
「何ですと!?」
「え?」
その言葉で、吉良はもちろんのこと、寺へ向かいたいという気持ちを汲み取るかのような発言に守も驚く。
「拠点に爆発のような攻撃を建物に加えたのだとしたら、恐らくその二人は留まらずに別の場所に行くのではないかと思います。
逆にその二人がいれば、吉良殿と守殿はバラバラにお逃げください。決して一緒ではありません。」
「それならば、寺へはあなた一人だけで向かい、被害者である私と守君は、別の場所へ……」
「嘘だな。」
「!!?」
なおも寺へ向かいたくないと主張する吉良を、ヤンはにべもなく嘘だと切り捨てた。
「わ、私はウソなど言ってない!!どういうことだ!?」
「何がウソかは分かりません。だが、格闘家の勘というものか……あなたの言っていること、どこか腑に落ちないのです。
単刀直入に言うと、あなたと守殿を二人だけにさせるわけにはいかない。」
自分の言っていることを嘘だと指摘されるも、その根拠が論理的なものでは無かったからか、安堵の表情を見せる。
「そこまで私が気に入らなければ、あなた方だけで寺へ向かえば良いのでは?守君もそうは思わないか!?」
「え……?」
急に同意を求められて、元々自己主張の弱い性格の守は驚く。
「子供に同意を求めるのは卑怯ですぞ。吉良殿。」
「卑怯だ何だとはこの際、二の次だ!こうしている間にもあの殺人鬼共がやって来るかもしれない!
私だけに被害が及ぶならまだいい!あなた方まで襲われるかもしれない!!」
「あの……僕は寺に行きたいです。……もし真理亜がいなければ、僕の呪力でサインを残しておきたい。」
そこへ初めて守が意見を述べた。
「では向かいましょう。勿論あなたもご同行お願いします。」
「い、いえ……警察じゃあるまいし、私を悪事を行った人間の様に扱わなくても……。」
「あなたは信用できませんが、この先に起こったことを一番知っているのもあなたです。」
吉良という男をのさばらせておく気もないが、かと言って守と二人だけにするのはもってのほかだ。
それに、吉良の言うことが本当である可能性も完全には否定できない。
自分の判断が良い方向に転ぶことを願いながら、ヤンは寺へと進む。
☆
平穏だと思う町にも、闇はある。
それは神栖66町にも、杜王町にもあてはまることだ。
しかし、伊東守は闇に追われた者。
吉良吉影は、闇そのものだ。
そして町どころか、彼の生まれた星そのものを覆わんとする闇と戦ってきたヤンは、再び闇を暴くことが出来るのか。
【D-3/森/一日目 早朝】
【伊東守@新世界より】
[状態]:健康 不安
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:
1.真理亜を探す
2.ヤン、吉良吉影と共に、清浄寺へ向かう
3.吉良に不信感
4.呪力がいつも通りに仕えなかったことに対する疑問
※4章後半で、真理亜と共に神栖六十六町を脱出した直後です
※真理亜以外の知り合いを確認していません。
【ヤン・ファン・ライデン@FINAL FANTASY IV】
[状態]:健康
[装備]:ガツ―ンジャンプ@ ペーパーマリオRPG 炎のツメ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~2)
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラ並びにザントを討つ
1:伊東守と共に、清浄寺へ向かう
2:吉良吉影に疑い。根本的な理由は無いが、何故か嫌な予感がする
3:できたらセシル達と合流したい
4:デマオン及び、吉良が行った二人組(川尻早人、シャーク・アイ)には注意する
参戦時期はED後
満月博士との情報交換で魔法世界についての情報を得ました。
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:脱出派の勢力に潜り込み、信頼を勝ち取る。
1.名簿に載っていた、仗助、康一、重ちー、隼人、そしてシャークに警戒。争うことになるならば殺す
2.早人やミチルにもスタンドが見えたことに対する疑問
3:寺へは自分のしたことが明るみに出る可能性もあるから、行きたくない。
※参戦時期は川尻耕作に姿を変えてから、カップルを殺害した直後です
最終更新:2021年12月26日 10:50