杜王町の殺人鬼、吉良吉影
人を舐めることで傷を癒すことが出来る「ヒーリング」の能力者、犬飼ミチル
杜王町の小学生、川尻早人
マール・デ・ドラゴーンの船長、シャーク・アイ
前者2名は部屋の中。
内1名は自分のことを嗅ぎまわる相手がいることに気付いていない。
後者2名は部屋の外。
内1名は部屋の中の相手がだれか気付いている。
すなわち部屋の外側の方が有利と思えるが、必ずしもそうという訳ではない。
生兵法は怪我の元、と言うが、中途半端な知識は時として無知よりも有害だという。
そして現状、川尻早人は銃を握りしめながらどうするか必死で頭を回転させていた。
扉の内側からは、吉良と知らない女性の声が聞こえて来る。
その声の感じは、殺人者とその隣にいる者とのやり取りとは到底思えなかった。
だが、早人には分かっていた。
姿も分からない女性の首には、毒蛇の牙が迫ってきていることに。
あの時のことを思い出した。
挙動不審な「パパ」を追いかけた先で、父親の皮をかぶった殺人鬼が人を爆殺したことを。
一刻も早く相手を殺さないといけない。
いざ扉を開けようとした時のこと。
「コッチヲ見ロォ!!」
『死』が扉を破って襲ってきた。
□
この綺麗な手をした女を殺すか、殺さないか。
本来なら自分の性欲の赴くままに殺害し、「お持ち帰り」するつもりだったが、ここはいつもの場所とは違う。
迂闊に殺すと、近くにいるかもしれない相手から見られる可能性もある。
しかもこの場所は閉鎖空間である以上、杜王町と違って逃げることも出来ない(最もあの場所は逃げるには勿体無いほど素晴らしい場所だったが)
ひとまず辺りに誰かいるか、スタンドで探ろうとする。
手始めにすっかり馴染みとなったキラークイーンを出す。
「え!?吉良しゃん、今の何ですか!!?」
同じスタンド使い以外には見られないはずのスタンドの姿を見られ、全身から汗が噴き出す。
「まだ」何もしていないのだが、歯を食いしばり、掌を伸びた爪で突き刺し、冷静を装う。
「いや、周りに敵がいないか調べたくてね。シアーハートアタック。」
姿を変えて以来、長らく使っていなかった能力だったが、爆弾型戦車はかつてのように動いてくれた。
「コッチヲ見ロォ!!」
敵を見つけたのか、扉を突き破って走っていく。
壊れた木製の扉の先に見えたのは、意外な姿だった。
「うわああああぁぁあ!!」
悲鳴と共に姿を現したのは、なりすました家にいた子供。
気付かれない筈なのに、自分のことを怪訝な眼で見ていたのはよく覚えている。
まさかこの世界でも自分を追っていたとは完全に予想外だった。
慌てて逃げだすも、そのままシアーハートアタックは追いかけていく。
体温に反応して追いかける自動追尾スタンドと、緊張したことで体温が上がっている相手はこの上なく相性が良い。
確かに予想外だったが、安心して邪魔者は排除できると安心するが、そうでもないことをすぐに分からされる。
「逃げろ!小僧!!」
海賊のような姿をした男が天井から降りてきて、爆弾型スタンドに斬りかかったこと。
「あの……吉良しゃん、脅しじゃなくて話し合うことは出来ないのですか?こんなことはやめましょうよ。」
忘れていたうるさい女が止めに来たこと。
だが、この程度の問題なら何ら大したことは無い。
「ああ、やめることにするよ。」
ミチルの肩に手をぽんと置いて、落ち着かせる。
しかし本当の目的はそれだけではない。
「君とのお話をやめることにね。」
「………―――――ッ!!」
「君は死ななくてはならないんだ」
低い声が荘厳な空間に響く。
僅かなうめき声と共に、背中から噴水の様に血が迸る。
白いカーディガンが、瞬く間にスカートと同じ赤に染まる。
目玉をひん剥き、驚愕しているような、恐怖しているような、敵意を表しているような、何とも形容できない表情を浮かべる。
早人は怒りか恐怖か、動けなくなっている。
キラークイーンで脊椎の一部を吹き飛ばした。
あの白百合のような手まで巻き込むのは勿体ないからと少し加減したのが原因か、一撃で殺すには至らなかったようだ。
しかし、どの道女はもうじき死ぬ。
舌で舐めることで傷を癒せるのかもしれないが、身体の部位的に治せるはずもない。
問題は子供と男だ。
「コイツ……固いな……。」
男はナイフで斬りかかるも、シアーハートアタックの固さを噛みしめたようだ。
しかし、海賊のような姿をした男が、奇妙な構えを取ったと思うと、寺の中の空気が変わる。
「水の精霊よ、邪悪な力を吹き飛ばせ!バギマ!!」
(風を操るスタンドか?もしくは天気か……。)
男の詠唱が終わると、室内にあり得ないはずの竜巻が、廊下に発生した。
それは廊下のあちこちを吹き飛ばしながら、爆弾も吹き飛ばそうとする。
だが無駄なことだ。
シアーハートアタックに弱点は無い。
かつての戦いこそ重くされたり右手に戻されたりと、何度か無力化されたが、あの時は例外だ。
「コッチヲ見ロォ!!」
竜巻を突き破り、男ではなく早人に襲い掛かる。
緊張しているから体温が上がっていることが分かり、なるほどと思った。
「危ない!!」
しかし、爆弾は早人に当たることは無かった。
爆発する場所で、思いっきり男が早人を突き飛ばしたからだ。
しかし、シアーハートアタックは点火。
男を中心に、凄まじい爆発が起こる。
それは人間も、木の壁も床も竜巻も吹き飛ばす。
□
あっさりと、事も無げに。
目の前で2人の命が失われた。
僕のせいだ。
僕が判断を誤ったからだ。
あの殺人鬼の能力は、触れた物を爆弾に変えることだけだと思ってた。
だから、あんな戦車のスタンドがあったなんて、知らなかった。
でもそんなものは言い訳にもならない。
ダメ元で殺人鬼目掛けて、銃の引き金を引いたが、当たるわけもなかった。
それを余裕を見せるかのように、吉良の背後に現れた怪物(見るのは初めてだが、あれが『スタンド』というものらしい)が腕を振り回して、銃弾を弾き飛ばした。
「コッチヲ見ロォ!!」
そして自動追尾のスタンドは、海賊のような男を吹き飛ばしてなお、僕に迫ってくる。
慌てて銃を落としてしまったが、どうやらそれが幸いした。
発砲したことで熱された銃に向けて走り、爆発する。
だが、それはあくまで一時しのぎに過ぎない。
しかも、武器は今ので壊れてしまった。
「今ノ爆発ハ人間ジャネェ~」
不気味な声を出して、方向を変えて早人に迫りくる。
逃げてもあのスタンドが追ってくる。
近いうちに終わりが来る。
固く目を瞑り、死を覚悟した所で、殺人鬼の後ろから強い光が見えた。
■
―――私は、馬鹿でした。
人類の敵のことばかり考えて、目の前の悪には気付かず、自分のことをペラペラ話して。
その結果、こうして医者になる夢も叶わず、死んでいく。
自分の能力では背中の怪我は治せないし、逃げようにも体を動かせない。
段々と視界が薄れ、爆音も聞こえなくなっていく。
これが死の前触れだと分かっていく。
でも。
―――まだ、終わりません。
自分がリーダーとして選んだ人なら、きっと諦めたりしない。
リーダーになるべくしてなった彼女なら、きっと色んな人を集めて、人類の敵を倒してくれる。
そのために、自分の残り少ない命を投げうってでも、誰かを救うべきだ。
目の前に、自分と同じで倒れた男がいる。
痛々しく全身に木片が刺さり、身体のあちこちから血を流している。
でもまだ生きていて、動かない身体をどうにか動かそうとしている。
私が最後にやれることは、これだ。
動こうとしない両手を鞭打ち、どうにか男に手を添える。
あとはその傷を一つずつ舐めるだけ。
だが、もう身体は動かない。
何も出来ずに終わりたくない。
その気持ちに応えたのか、両手から現れる強い光が、男の体を照らし、あれほどあった傷を癒していった。
刺さった木片も消え、火傷も裂傷も消えていく。
―――後のことは頼みますね。ナナしゃん。
―――私は1人しか助けられなかったけど、ナナしゃんなら、きっと……。
[犬飼ミチル@無能なナナ 死亡]
[残り 41名]
〇 〇 〇
子供に助けられたのは、これが初めてじゃない。
1度目は、魔王の呪いの氷に閉じ込められた時もそうだ。
今度こそ自分より若い奴等、弱い奴等を守ろうとしたのにこのざまだ。
だが、一度失った命なら、誰かのために惜しみなく使える。
だから見せてやろう。
海賊流の生き方と言う奴を。
ナイフは爆発に巻き込まれた時どこかへ飛んで行ってしまったが、武器はある。
地面に散らばっていた木片のうち、一番長い物を掴み、白いスーツの男のバックを取る。
「生きていたのか!?」
当然と言えば当然だが、羽交い絞めにされて驚く。
「生きていた、じゃない。生き返った、だ。」
殺した相手に不意を突かれ、殺人鬼は完全に動揺する。
「アンタが走らせているあの小型爆弾をすぐに止めろ。怪しいことをしたらコイツで首を刺す。」
「わ……分かった。言う通りにする……。」
ガキに小型爆弾が当たる寸前で、どういう魔法かは知らないが消える。
それに安堵し、拘束は解かないが少し力を緩めた。
しかし、殺人鬼の後ろにいた、召喚魔らしき怪物は消えず、それどころか自分目掛けて殴り掛かってきた。
拘束を解き、咄嗟に後ろに飛びのいて躱す。
「言われた通り『シアーハートアタック』は消した。でも『キラークイーン』を消すとは言ってないぞ?」
「ま、悪人とはそんな風に誤魔化すもんだからな。分かってはいたさ。」
「気を付けて!!その人の能力は、触れた物を何でも爆破させるんだ!!」
戻ってきた子供が自分に警告を告げる。
だが、相手に触れずとも倒せる技を持ち得ているのが海賊。
船越しでも、攻撃する手段など、自分にはごまんとある。
そして再び構えを取り、海賊の中でも、その道を究めた者にしか出せないあの技を出す。
「キラークイーン、第一の爆弾!!」
「メイルストロム!!」
寺に先程の風魔法とは比較にならないほど巨大な渦が現れ、邪悪な男に襲い掛かる。
「何だこれは………うわあああああああ!!!」
その力に巻き込まれた殺人鬼は、寺の天井を突き破って、二人の視界から消えた。
〇
殺人鬼が消えても、静寂は訪れなかった。
響くのは、庭で地面を掘る音と、少年が人を呼びかける声。
シャーク・アイは壊れた木材の中で丈夫そうな物を使い、ずっと黙って地面を掘っている。
川尻早人は安らかな顔で、動かなくなった犬飼ミチルを揺さぶり、呼びかけている。
「多分無理だ。きっと彼女が使ったのは、メガザルの類なのだろう。」
「何……それ?」
「自己犠牲魔法の類だ。自らの命と引き換えに死者を蘇らせたり大けがを治したり出来る」
「魔法!?スタンドじゃなくて?」
早人は怪訝な顔でシャークを見つめた。
「あの殺人鬼の男が出したものか?てっきり召喚魔のようなものかと思ったが……。」
会話は嚙み合わない。
世界が異なるというのもあったが、それ以前に話が盛り上がるような空気でもなかった。
殺人鬼は追い払えたが、結局犠牲者は出てしまった。
2人は助かったが、その事実は変わらない。
それからは特に会話を交わすことなく、土を掘る音と、風の音だけが空間を支配した。
穴を人が埋まるぐらいの大きさまで広げ、なおも動かないミチルを運ぶ。
死人は重いと聞いたことがあるが、それにしては早人でも持ち上がるくらいミチルの遺体は軽かった。
あの光を出した時に、何か命を維持するのに大切な何かを失ってしまったのだろうと早人は思った。
それを考えて、ようやく安らかな顔で動かなくなった少女の死を理解できた。
最も、持ち運ぶことは小学生の早人には出来なかったが。
結局、シャークと協力して運ぶことになった。
ミチルの姿が見えなくなるまで二人で土をかぶせ、寺を後にすることにした。
僅かな会話の末に、早人の知り合いがいるという、南の杜王駅を目指すことにした。
辺りを流れる空気は冷たいままだった。
早人の手をシャークが暖かく握った。
【C-3/清浄寺室内/一日目 黎明】
【川尻早人@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:シャーク・アイと共に杜王駅へ向かう
1. スタンドが自分が見えることへの驚き
※本編終了後です
※名簿は確認しました。
【シャーク・アイ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康 MP消費(小)
[装備]:鶴見川のナイフ@無能なナナ
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0~2
[思考・状況]ミチルに対する罪悪感
基本行動方針:アルスを探す、その過程で危なっかしい人物を倒す。殺し合いに乗る気はないが、最悪殺害も辞さない。
※少なくとも4精霊復活後です
※少なくとも船乗り、盗賊、海賊の技は使えます。
●●●
「くそ……私がこんな目に……。」
この場所は清浄寺の南の森。
キラークイーンで床板を爆発させたことでメイルストロムのダメージを抑えたのが幸いだった。
地面に叩きつけられて死ぬところを、幸か不幸か森の高い木の上に引っかかり、一命をとりとめた。
だが、下りるのは一苦労しそうな状況だ。
上にいても木の枝が折れて落死する可能性がある。
自分の存在がバレてしまったのは、最悪の話だ。
脱出するまでに何としてでも邪魔者を排除し、脱出派の人間から信頼を勝ち取らないといけない。
最悪の場合は優勝も考慮しなければならないが、あまり戦いに身を投じたくはない。
「…………。」
まずは、無事に木から降りられるのが問題だが。
【D-3/森/一日目 黎明】
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:脱出派の勢力をとにかく探し、潜り込む。
1.名簿に載っていた、仗助、康一、重ちー、隼人、そしてシャークに警戒。争えば殺す
2.早人やミチルにもスタンドが見えたことに対する疑問
※参戦時期は川尻耕作に姿を変えてから、カップルを殺害した直後です
最終更新:2021年08月13日 19:39