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その昔、英国には絶対的な力を振るう『悪竜』が存在した。 現在の英国国内でもポピュラーな童話、「聖ジョージの悪竜(ドラゴン)」の原型となった化け物である。 その異常な『力』に人々は恐れ戦き、やがて幾つかに分かれていた国々は一つに結束し、『悪竜殺し』を掲げ人々に希望を与えた。 だが、何万人もの人々の強い結束を持ってしても、『悪竜』には指一本届きはしなかった。 混乱する人々を一つに纏め上げた偉大なる青年は惨殺され、個々の部隊を纏めていた中心角の人物は、揃いに揃って塵に消える。 人々の恐怖は絶頂を迎え、やがて自らの命を守るために生贄を捧げ始めた。最初は家畜、狩った動物などを、足りなくなれば自らの子を、そして子を守るために自分を……。 ついに国民全てが子を捧げ尽き、終には国の王女を贄として捧げ、命を繋ごうと考え始める。 当然、王は反対した。だが、自分の子を捧げた人々はそれを許さなかった。 『悪竜殺し』に多大なる人員を裂いてしまった王政には、もはや民衆を止める力は残されていない。 やがて、『悪竜』の元へと王女が届けられる。竜は姫を喰らうべく巨大な顎を広げた。 その時、『彼』は現れた。 美麗なる馬に跨り、静観な表情で突然現れたその男。 一本の聖剣を携えたその男の名を、『聖ジョージ』と言う。 『童話』以外でこの事実を知る者は、世界にも数える程しか存在しない。 十月十五日午後一〇時半ば頃…… 修道女達は『仕事』に向け、体を休めるために、睡眠を取ったり食事を取ったりと言った各々の時間が過ぎている。 そして、その二五〇弱の全てを纏め上げる少女、アニェーゼ=サンクティスは食堂の端にて絹旗最愛と並んで座椅子に座っていた。 「……『仕事』開始まで一時間二三分四十六秒……まだ寝てても大丈夫ですかね」 「はぁ……そんな超短時間じゃ寝た気にならないと思うんですが……」 「シスターにはそもそも寝る時自体少ないですから。寝れる時に寝ておかないと」 そう言ってアニェーゼは毛布に包まって座ったまま動かなくなった。どうやら本当に寝てしまった様だ。絹旗はそれを横目に天井を見上げて放心する。 (魔術……か) 今思えばたった二日間の間にとんでもない世界に足を突っ込んでしまった気がする。もしかするとただのカルト宗教かも知れないが、裏路地で突然でっかい刃を投げつけれて気絶までさせられたのだから、今は本物じゃないと言われる方が腹が立つ。と、言うか実際目の前で修道女が使っているのを何回か見ている絹旗最愛である。 (なんかもう考えるのが超面倒になってきましたね。あとは流れに任せて適当に戦って適当に切り上げますか) アニェーゼと分かれるのはちょっと寂しいですね……と絹旗が柄にも無いこと考えていると、 バゴォォォォンっ!! という轟音と共に女子寮の壁が突き破られた。 凄まじい衝撃で爆風が食堂を支配する。座椅子やテーブルまでもが建物の中を飛び交い、絹旗は慌てて『窒素装甲』を起動させた。 (っ!!? ちょっと超行き成り過ぎるんじゃあ、ないですか!?) 絹旗の眼前に有るのは三つの人影。少し経ってそれが全員肩に見覚えのあるシンボルを付けたスーツ姿の男達だと言う事が解った。 「(……!! 超アニェーゼ、 起きてください!!)」 「とっくに起きてますよ。あとその呼び方やめてください」 「超アニェーゼ、あれは……」 「……もういいですその呼び方で。ええ、そうですよ。完全に「奴ら」ですね。まさか休眠中を襲ってくるなんて随分卑劣ですが」 周りを見渡せば今まで寝ていた修道女や自室で仮眠を取っていた修道女達までも、すで食堂に一五〇人程集まりきって臨戦体勢、という状態である。隣のアニェーゼは『蓮の杖』を構え、早口で『呪文』を唱えると、杖の先端がゆっくりと開いていき、やがて『蓮』を司る正しい形となってアニェーゼの手に収まった。 「……ったく壁を突き破ってご登場なんて、一体どうゆう常識持っているんですかそこの男共は。一五〇対三の集団プレイがお好みなら大歓迎ですけど」 男達は答えない。そして返答の代わりにアニェーゼへと思いっきり突進してきた。 「っ!!?」 アニェーゼは慌てて『蓮の杖』を振るう。何も無い場所から衝撃を受けた男は一度は床に平伏せたが、周りのシスター達の援護射撃を軽々と避けて立ち上がった。 「……どうやら本当に『あの女』の部下っぽい雰囲気ですね」 「……危険因子は、排除。危険因子は…排除……」 そう言いながら男達はゆっくりとアニェーゼ達に近づく。一度舌打ちをしたアニェーゼは大声で「号令」を放ち、それに合わせて一〇〇以上の遠距離攻撃が男達へと向かっていった。 様々な魔術が混ざり合った出鱈目な攻撃を受け、三人の男達の周りは灰粉と暴風が吹き荒れる。アニェーゼは『蓮の杖』を構え直し「敵」を見据えた。 「(……やりましたか?)」 そして灰粉を突き破って出て来たのは戦闘不能の男達では無く、傷一つ付いていない『敵』だった。 「(……っ! あー、もう!! 全っ然きいてませんね、畜生!!)」 全く攻撃が聞かない事に怯んだ修道女達が一歩後ろに下がり、アニェーゼと絹旗のみが一歩前にでた。 アニェーゼは全く怯む様子の無い絹旗を見て一瞬笑い、そして聞いた。 「……キヌハタ、念の為に聞いて置きますが、戦えるんですよね?」 「超当たり前です」 「そうですか。ちなみに接近戦と遠距離戦はどちらがお好みで?」 「もちろん、相手を超ぶん殴れる接近戦です」 「……では……『Un ordine. Una lotta corpo a corpo specialità carica(命令! 接近攻撃者はただちに迎撃を開始せよ!!)』」 アニェーゼが再び「号令」を下すと、文字通り接近戦専門の修道女(+絹旗)が敵等へと勢いよく突っ込んでいった。 槍やフライパンや車輪など多種多様な迎撃グッズを持ったシスター達が男達へと攻撃を仕掛け、男達は埋まるように見えなくなった。一歩遅れた絹旗がそれを壮観そうに見ていると、 突然修道女の山が吹っ飛び、中から鉤爪を付けた男が飛び出した。 (な……!? やっぱあの男共、超不死身じゃないですか!!) 散らばったシスター達には目もくれず、男の一人が絹旗の方をギロリと睨みつけた。そしてゆっくりとした挙動で鋭利な鉤爪を構える。絹旗少し目を細め、『窒素装甲』を見に纏い臨戦体勢に入った。 「……キヌハタ、挑発に乗っては、」 「っこんの!!」 アニェーゼの声を無視して、絹旗が最初に動いた。固めた窒素を床にぶつけ、衝撃を手に入れた彼女はその勢いで男へと突撃する。それに対し男は特に変わった動きはせず、ただ鉤爪を前に突き出して『相手が勝手に突き刺さってくれる』のを待つ。 不思議な音がして、二人が衝突した。その瞬間、修道女達は思わず目を瞑る。鉤爪に無防備で突っ込んだ少女の姿などまともに見れる物では無いと思ったからである。 一秒ほどして一緒に目を瞑ってしまったアニェーゼは不可解は光景を目にする。 「……は?」 彼女の目に映ったのは、鋭い鉤爪を前に突き出した男と『それを素手で受け止める』絹旗の姿であった。男の方はさすがに驚いて目を丸くしていたが、絹旗の表情は動かない。 シスター達が状況を理解する前に、絹旗は素早く鉤爪を捻って男を左方向へ吹っ飛ばす。ゴウンッという音が鳴って鉤爪の男は左向を白壁に勢い良く激突。そしてそのまま動かなくなった。 相も変わらず呆然としている修道女達を尻目に、絹旗は前方の『残党』を見据えて言った。 「……思ったより超弱いですね。失望しました」 --------------------------------------------------------------------------------- (とりあえず一人はキヌハタが潰してくれましたけど……どうしましょうか?) 絹旗の思わぬ良攻に目を丸くする修道女達を見ながら、アニェーゼは『指揮者』として、状況の整理を優先した。 敵は三人。その内一人は絹旗が撃破。残り二人の敵の情報は無し。表情から推測して何か隠し玉のような物を持っている可能性が高く、警戒が必要かと思われる。何やらキヌハタが狙われているようだが、彼女も殺る気満々なので前線で戦わせてみる事にする。危なくなれば援護防術。恐らく敵も援護射撃を行うシスター共に馬鹿正直に突っ込んでいく事はしないと思うので、キヌハタとその他シスター約数人で前線を構えて…… (解析は終了。こんなもんですかね) 天才とも言われた統括、指揮能力を駆使してアニェーゼは部隊の配置を決定し、再び「号令」を食堂内に響かせた。 「『Un ordine. Disposizione [A-X3] Pratica(命令! 位置関係をA-X3に変更!!)』……キヌハタは前に出て前線で戦ってください。 解りましたね?」 「言われなくても超ぶっ飛ばしますから、安心してください」 絹旗が答えたころにはシスター達は動き出していた。援護部隊がギリギリまで後方に退置し、接近部隊は敵と五mほど離れて武器を構える。前方と後方の部隊の間には一〇mほどの距離があり、ちょうどその真ん中あたりにアニェーゼが、それを囲むように護衛のシスターが三人配置していた。 「配置完了。食堂なら広くて集団戦線がやり易いんですよ」 (へぇ……随分しっかりした集団部隊ですね。てか、超アニェーゼって統括者だったんですか) 『戦い』というもの自体は数え切れない程の経験がある絹旗だが、戦国時代の戦のような『集団での戦い』に関しては無知に等しい。そもそも学園都市の『裏』では、その名の通りなるべく目立たないように見た目穏便に済ますというのが基本のため、知っている方が珍しいのだが。 「超アニェーゼ、今、私の後ろに居るみたいですけど、聞こえてますか?」 「たった五m足らずです。聞こえているに決まってるじゃないですか」 「そうですか、なら聞きますけど……相手はたったの二人ですよ? こんな手の込んだ陣営組まなくても超瞬殺できるんじゃないですか?」 その後一秒ほど間が空いてから、アニェーゼは感慨深い物を語るような口調で答えた。 「……一回、あったんですよ。こちらのほうが数でも武力でも圧倒的に勝っていたはずの、もはや虐殺のレベルになるはずだった戦闘で一度だけ。それも何の武器も持たないただの高校生の握り拳で、打ち破られたことが」 「……なるほど。え……と、つまり?」 「大熊だって蜂に刺されれば動けなくなるかも知れませんし、ライオンの群れだって、猟銃一本で怯えて逃げ出すかも知れません。つまりは、どんなに『弱そうな敵』でも警戒は必要って事ですよ」 「はぁ……最初の一人は私一人でも超瞬殺出来ましたけど」 「それに関しては何か『理由』があると思います。私達の「魔術」は『まったく効かなかった』のに貴女の「超能力」だけが有効だった理由が」 単に私の方が超強いだけじゃないですかね、という言葉を飲み込んで、絹旗は再び『敵』を見る。……確かに奴等には慌てる様子が全くない。と言うか何も考えて無いようにも見える。 絹旗は一度肩を鳴らして溜息を吐いた。本当にもう訳が解らない事が有りすぎるが、要するにアイツ等をぶっ殺せば解決するのか、適当に決着を着けた絹旗は『窒素装甲』を身に纏い、『仕事』の眼に摩り替わった。 ---------------------------------------------------------------------------------- アニェーゼの「号令」を合図に三〇人程のシスターと絹旗が二人の男へと突撃する。両者が衝突する直前に退置していたシスター達の援護射撃が入ったが、例の如く男等には効果が無い。 まず、背の高いシスターが大きな車輪を粉々に吹き飛ばして破片で相手を攻撃した。それに合わせてフライパンで思い切りぶん殴るシスターも居れば、素早く後ろに回りこんで槍で突付くシスターも居る。 そして、約三〇通りの迎撃を直撃した男は、 「……俺達の邪魔はアークライト様の邪魔。アークライト様の邪魔をするのなら……容赦はせんぞ」 無傷で言葉を発して、腕を軽く振る。それだけで三〇人もの戦闘シスターを纏めて吹き飛ばした。それは爆発や豪風の類では無く、まるで糸で引っ張られたかのように、多数の修道女が規則正しく360°全方向へと散らばった。 ただ一人の少女を除いて。 「……相も変わらず超不死身な野郎ですね。やっぱり「マジュツ」は駄目みたいです本当」 これにはさすがに男も眉を潜めた。前線配置組の中で唯一何の被害も受けていない絹旗は、何かを言わせる前に男の顔面を『窒素装甲』で勢い良く殴り崩す。 「っな!!?」 驚愕の声を上げた男は、そのまま後方へと勢いを殺さず突き進み、やがて食堂の西側窓に激突し、ガシャァァン!! という盛大な音と共に外へと放り出された。 「……二人目、超完了。あと一人」 完全に『普段の絹旗』に戻った彼女は、またも呆然と眺める修道女達を気に留めず、『三人目の男』へと鋭く怖恐な視線を向けた。最後に残った男はさすがに恐怖の感情が有るようで、若干引き気味に絹旗を睨み返す。 絹旗は右手に最大限まで『窒素』を固め、次の迎撃へと体勢を移した。 と、そんな緊迫した戦闘シーンを少し離れた所でおろおろしながら見ている修道女が居た。背中あたりまで伸びた綺麗な金髪が特徴的な彼女は、恐る恐る隣に居るアニェーゼへと話掛ける。 「(ちょ、シスター・アニェーゼ!! キヌハタってあんなキャラでしたっけ!?)」 「(私に言われても解りませんよ。とりあえず戦闘経験は豊富みたいですね。心強くて何よりです)」 「(な、何を呑気な事言ってるんです!!? 大体、私達、戦闘部隊でも傷一つ付けられないような相手を数分で二人もダウンしてるんですよ!? こっちもいつ巻き込まれるかで不安がいっぱいですってば!!)」 「(……落ち着いてください、シスター・イラーリア。大体、あれは絹旗が強いんじゃなくて、あの男達に『魔術が効かない』だけですよ)」 イラーリアは可愛らしく(異性が見たら)首を傾げ目を丸くする。と言うか「は? 何言ってんのwww」と言う顔をしているので取りあえず一発ゲンコツを食らわす。 「(な、何するんですか!!)」 「(うっさいです。いいですか? あの連中は別に体が元々頑丈なんじゃなくて、『魔術に対してだけ一方的に強大な防御力を発揮する』術式を身体に施しているだけです。で、今ルチア達が吹っ飛ばされたのも『魔術を行使する者限定』で攻撃できる術式でしょうね。その証拠に今までの攻撃でもキヌハタは無傷ですし、キヌハタの攻撃のみが相手に有効打を与えていますから。どうやら『対十字教黒魔術』の連中は「魔術に対してだけ」しか対策をしてなかったみたいですね)」 「(そりゃあ、『超能力』なんてイレギュラーな能力にはお手上げでしょうけど……。えっと、じゃあこのままキヌハタに任せておけば解決ですか?)」 「(まぁ、さすがに奴等も死にはしないでしょうし、とっ捕まえて情報でも吐かせますかね)」 そう言うアニェーゼの顔は何時に無く輝いて見えた。なんと言うか、尋問を受けるであろう男達にはご冥福をお祈りすることにした。 アニェーゼは一回息を吐いて、イラーリアに顎で「絹旗の方見てろ」と指示して、満足気に口を開いた。 「ほら。そろそろ終わりますよ……、これは本当にキヌハタの言った通り、陣なんか作る必要有りませんでしたね」 ドゴォォォン!! という打音が鳴り響いて、食堂の戦いは呆気なく完結した。
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