とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 5-812

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匿名ユーザー

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「どういう事か。説明してもらおうか」

とあるマンションの空き部屋に、やや怒気を含んだ少年の声が響く。相手はテレビ画面の向こうにいる男性とも女性とも囚人とも聖人ともとれる人物だ。
どういう理屈なのか、テレビには電源コンセントしか入れていないはずなのに音声も映像も鮮明である。

『どういう事か…と私に言われても困るな』
画面の人間は笑いさえ含んだふざけた口調で静かに答える。
「ふざけるな!お前が何もしないで奴が動くものか!」
対して少年は刺すような怒号を叩きつける。が、画面の人間は眉一つ動かさない。
「確証はないが、あの膨大な魔力量と特殊すぎる質…『魔神』で間違いないだろう。お前、奴に何をした?」
『正確には「なり損なった」だがな』
画面の人間は嘲るが、少年の表情を見て流石に思うところがあったのか、事の顛末を話し始める。
『まぁ端的に言えば奴の忠告を無視したまでだ』
「何の忠告だ」
少年は間髪入れずに質問を繰り出す。
『原石さ』
画面の男もあっさりと答える。
その言葉を聞いて少年はわずかに眉をひそめた。

現在『外』で『原石』と呼ばれる人間の争奪戦が行われているのは知っている。
なんでも、学園都市に対抗すべくアメリカとロシアが中心となって天然モノの能力者を確保、分析して日本の学園都市に追いつけ追い越せなんていう事をしているらしい。
もっとも、超能力が何たるかを本質的に理解していない連中が『原石』を入手したところで「なんて不思議な能力なんだ」で終わるのは目に見えている。
学園都市でさえ完全に解明できていない『原石』の正体を『外』の連中が解明できるはずがないのだ。
そんな無駄な行為をあの人間が見逃すはずがない。自身の目的の為には手段を選ばないあの悪魔ならば。

「なるほど…。お前は獲物を外のカラスどもにつつかれない内に確保したかったというわけか。もっとも、ただのカラスではない者もいたわけだが」
『そう言うな。これも「プラン」に必要な事なのだよ』
「それは結構な事だが、それで『魔神』を敵に回しては元も子もないな。奴はこれまでの魔術師とは全く別次元の存在だ。俺のような一介の魔術師はおろか、聖人だって相手にもならないだろう。一体どうやって収拾をつけるつもりだ?」
『ふむ…。確かにこれまで通りにはいかないだろうな。「ヒューズ=カザキリ」もまだまだ調整段階だからな。困ったものだ』
画面の人間はそう言ってはいるが、その表情には薄い笑いのようなものが浮かんでいるように見える。
「また『幻想殺し』でも使うつもりか?」
少年は静かに問う。しかしその言葉はこれまでのどの言葉よりも鋭さのある口調だった。
『いや、今回は彼には少し休んでもらうつもりだ。「アレ」を消し飛ばされても困るしな』
画面の人間のその言葉に少年はわずかに安堵する。
「まったく…これなら二十億のローマ教徒が一気に攻め込んで来てくれた方がまだマシだったぞ。どういう策を巡らせているかは知らんが今回ばかりは俺の手には負えない。奴は特定の宗派に属していない分、学園都市をストレートに潰すという意味なら『右方』よりも厄介だぞ」
『心配しなくてもいい。私が何とかしよう』
「どうだかな。いずれにしても、俺の友人達を無関係に巻き込むのであれば容赦はしないぞ!」
少年の通告に『わかっているさ』という一言を返して通信は途絶えた。


男性とも女性とも囚人とも聖人ともとれる人物は、通信の切れた画面から別の画面に視線を向ける。
『まったく…どうにも思い通りにはいかないものだな』
溜め息を含んだような言い方だったが、その声から明確な感情を察知する事はできない。
その声の主の視線の先にある画面には2人の人間が映し出されていた。

『さて、どうしたものかな』



「―――と、まぁこんな感じなわけです。じつに下らないでしょう?」
特久池は楽しげな笑顔でこれまでのいきさつを話した。
「全くだな。テメエらで生かしておいて、制御できないと踏んだら処分か。滑稽なもんだな」
垣根は哀れみを含んだ笑みで吐き捨てる。
「連中は今後学園都市が外部から受けるであろう攻撃に向けて垣根さんのような貴重な能力者を失いたくなかったようですね。本来なら助けた義理として学園都市側に完全に取り込んでしまおうとしたかったようですが…」
「俺がそんなに義理堅い人間だとでも思っていたのかね」
さぁ、と特久池は笑いながら首を傾げると、
「ところで垣根さん。肝心の今回私があなたに近づいた件なんですけどね…」
そう言うと特久池は両手を広げる。
垣根は早く話せ、とばかりに特久池から視線を外している。


「あなたを抹消する為に来たのですよ」


その瞬間、ドゴォォォォォォ!!と強烈な爆発音が炸裂した。
原因はライターと車だ。
特久池は窓から見えていた車をテレポートで部屋に移動、同時に持っていたライターを着火させた状態でガソリンタンクの中にテレポートさせた。
これによって起こる現象は単純明快。
凄まじい爆音と共に、部屋は一瞬にして灼熱の炎と黒々とした煙に包まれた。

特久池は爆発の瞬間にビルの屋上にテレポートしていた。その表情は優れない。
奇襲には成功したが、学園都市第二位があの程度で倒れるはずがない。
そんな特久池の考えに答えるように屋上のアスファルトの一部が凄まじい音と共にぶち抜かれる。
「あーあー。びっくりした。お前、人に向かって花火をしてはいけませんって教わらなかったのか?」
不敵な笑みを浮かべて現れる学園都市第二位。その体には傷はおろか、煤の一つもついていない。何やら白い光のような膜が彼の体全体を覆っている。
特久池の表情は変わらない。この程度は予想通り、といった感じだ。
対し、垣根は眉間に少し皺を寄せて質問する。
「とりあえず一つだけ聞いておきたい。お前、まさか俺に勝てるなんて本気で思ってないよな?」
「どうでしょうね?少なくとも死ぬ予定はありませんけど?」
「よーしよし。細胞一つ残らず消し飛ばしてやるよ」


それが合図。

言い終わるなり、垣根は両足に光の膜を集約。その瞬間凄まじいスピードで特久池に突っこんでいった。
対して特久池は垣根から間合いを取るようにテレポート。百メートル程後方にテレポートすると、手元に金属製のプレートのようなものを引き出した。
垣根はそんな様子も構わずに、今度は左手に光を集約させ、特久池に向けると、
「そんな物で俺の未元物質を防げると思うなよ」
ドバァァッ!と光の直線が文字通り光速に近いスピードで特久池を貫こうとする。
「―――っ!!」
特久池の数メートル手前にあった金属製のプレートは未元物質によって一瞬にして貫かれ、その奥にいる特久池目がけて突っこんでくる。
特久池は何とか身を翻してこれを回避する。それはほとんど勘と偶然の回避だった。袖口には回避しきれずに当たってしまった部分が消失している。その周りには残滓と見られる白い粉末状の光が漂っている。
「(解析率二十七パーセント、シンクロ率十六パーセント、複製レベル2――、まだ足りないか!)」
ギリギリで回避しながら舌打ちを打つ特久池の眼前には笑みを浮かべた垣根が既に次の攻撃を繰り出そうとしていた。
「中々素早いじゃねえか。これは避けられるかな?」
すると、垣根の体を覆っていた白い光の膜が垣根の体を離れ、特久池の前でシャボン玉を半分にしたような形に変化する。そしてその縁が波立つように蠢くとその波は光の矢に変質し数十本の塊となって特久池を襲う。
「くっ!」
特久池は即座にテレポート。今度は垣根の二十メートル程後方に移動する。しかしその程度の距離は垣根相手では気休めにもならない。
標的を見失った光の矢は再び一つに集約され球体に形を変えると、その球体から膨大な光が発せられる。その光は特久池の視界を瞬間的に奪うだけのものだった。
しかし、この次元の戦闘において一瞬でも視界を奪われる事は致命的な瞬間になる。そして垣根がその瞬間を逃す筈が無い。
垣根は右手で新たな光の物質を生み出すと、それを円盤状に変形させ、その表面から直径2センチほどの無数のレーザー光線を光に向けて射出した。
レーザー光線が光を通過すると、あるレーザー光線は光に反応し爆散、あるレーザー光線は光を膨張させ全く別の物質となりどこかへと飛散していく。
それぞれのレーザー光線が全く違う反応を示し、その様はこの地球上の物理法則では絶対に有り得ない反応だった。科学者がこの光景を見たら間違いなく卒倒していた事だろう。

ありとあらゆる反応を見せた無数の光はやがて消え、辺りの視界を鮮明にしていく。
そこに特久池の姿はなかった。
そこにあったのは光に侵食され歪められた空間と超然としている学園都市第二位の男だけだった。



「まぁ…こんなもんか」
垣根は義手をつけた右手を何度も握り直しながら一人呟いていた。
『羽』を使用しなかったのは、義手をつけての本格的な戦闘が初めてだったので意図的に力をセーブしていたのだが、使い心地は上々のようだった。
(これといった暴走も違和感も無かった。演算や制御も特別支障は無かったし、『羽』を使ってもまぁ問題ないだろ。念のため後で調整は必要だろうが…)
右手に握り拳を作り前方を見る。
「ところで――」
何も無い前方へ。

「かくれんぼはもう終わりにしていいかな?」

「――っ!?」

言い終わると同時に強烈な閃光が広がった。
標的は三百メートル前方にあったマンションの屋上。正確には貯水タンクの裏側だ。
閃光の一部から猛スピードで射出された光の剣のような物質は貯水タンクを傷つける事なく貫通し、その裏側にいる標的を正確に貫こうとしていた。
音もなく貯水タンクを貫いた光の剣は標的を瞬殺したはずだったが…、
ヒュン!という空気を切り裂く音と同時に垣根の死角から特久池は手刀を放つ。
その手刀は垣根の首筋を的確に捉ようとしていた。しかし、
垣根が咄嗟に身を屈め手刀をかわすと、地面に左手をつけ、左手を支点にぐるりと体を回すと同時に右足で特久池の足を払う。
標的の思わぬ回避と反撃に呆気に取られた特久池は垣根の足払いに対応できるはずもなく、無防備な体が宙に晒される。
その絶好の好機を垣根が逃すはずもなく。起き上がりざまの反動をつけた左拳を特久池の鳩尾に叩き込んだ。
「ごぶぅぅ―――!!!」
特久池は肺の空気を全て吐き出しながら十メートル後方へと壁を破壊しながら吹っ飛んでいった。
垣根は特久池が吹っ飛んだ方向に向き直り、薄笑いを浮かべながら楽しそうに言う。
「はん。能力で敵わないとわかったら肉弾戦ってか」
ガラガラ、と瓦礫から特久池が苦悶の表情をしながら出てくる。
「まぁテメエがそう望むなら合わせてやるよ。ただ俺はどっかのモヤシみたいに能力に頼りきってはいねえからな。肉弾戦でもそれなりに楽しめると思うぜ?」
悠々と見下ろすように宣言する。
「(解析率83パーセント、シンクロ率65パーセント、複製レベル6―――その気になれば使えるが…)」
特久池は立ち上がるが、その足取りは明らかにフラついている。
対して垣根は握手でも求めるように警戒心の欠片もなく歩み寄ってくる。
「おいおい、一発でKO寸前かよ。興醒めさせんな。もっと楽しませろよ?」
射程圏内に入るなり、左拳を振り下ろす。
ビュォッ!という空気を切り裂くような速度で左拳が繰り出される。
「―――くっ!」
特久池はバックステップし何とかかわすが、フラついた足で無理にステップしたせいか着地と同時に体勢を崩してしまう。
「チェックメイトだな」
「――っ!」
その言葉と同時に垣根は蹴りを繰り出していた。いくら生身の蹴りとはいえ、先の左拳の一発であれだけのダメージを負ってしまった。この蹴りをまともにもらえば行動不能になる可能性は極めて高い。

ドスッ!!と鈍い音が第七学区に木霊した。


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