10
「ここね」
結標淡希は『管理部長室』を出ると最上階にある大会議室にいた。
この研究所は十七階建ての建物で『管理部長室』は十二階にあった。普通に行けばセキュリティや機械兵器の相手をしなければならなかったのだが、結標の『座標移動』で一秒とかからず辿り着いていた。
「やはり『座標移動』は便利ですね。私一人だったらここまでスムーズにはいきませんよ」
海原光貴は壁に沿って歩いていた。それは結標から壁に何か仕掛けがあるはずよ、と言われたからなのだが…。
「あなたの思ってる程便利ではないのよ?いくら私がトラウマを克服したとはいっても十一次元上の演算は複雑なのに違いないし、私の能力の特性上、演算負荷そのものが大きいんだから」
結標は机に悠々と腰掛けている。私がここまで運んだのだから後はよろしくね?と言わんばかりの態度だ。
「(…よくよく考えると僕は手伝っている立場だったと思ったのですがね)」
海原はどこか釈然としないものを感じていたのだが、それを口に出したりはしなかった。どこぞの黒髪ツンツン頭の少年と違いレディの扱いの基本を理解している海原はここは文句を言わずに黙々と仕事をこなす所、と割り切っていた。
すると海原は壁に這わせていた指先から一ミリ程の小さな突起物のような異常を感じ取った。
この部屋は一面白一色の壁に囲まれている。その表面は本来なら突起物はもちろん、コンクリート壁にありがちな凹凸すら確認できない。
それどころか、電子顕微鏡で観察してもわずかな凹凸も確認する事はできないだろう。それほどの精度で構築されている壁だからこそ、海原はこの微々たる突起物にすぐに違和感を感じ取った。
「どうやらヒットしたみたいですよ」
海原が報告すると結標は机から立ち上がり海原が違和感を感じた壁まで歩いてきた。
「情報通りだけど、見た所何の変哲もない壁ね。まさかそこを押したら隠し部屋がある…なんていうありがちな展開じゃないでしょうね?」
「まさか。ここは紛れもなくただの壁ですよ。ほら、その証拠に――」
海原は壁をコツコツと叩いた。その音はこの奥が空洞ではないと証明するような音だった。
「だったらその突起物は何なの?」
「さぁ。いずれにしてもここに『残骸』があるとは思えませんけどね」
結標淡希は『管理部長室』を出ると最上階にある大会議室にいた。
この研究所は十七階建ての建物で『管理部長室』は十二階にあった。普通に行けばセキュリティや機械兵器の相手をしなければならなかったのだが、結標の『座標移動』で一秒とかからず辿り着いていた。
「やはり『座標移動』は便利ですね。私一人だったらここまでスムーズにはいきませんよ」
海原光貴は壁に沿って歩いていた。それは結標から壁に何か仕掛けがあるはずよ、と言われたからなのだが…。
「あなたの思ってる程便利ではないのよ?いくら私がトラウマを克服したとはいっても十一次元上の演算は複雑なのに違いないし、私の能力の特性上、演算負荷そのものが大きいんだから」
結標は机に悠々と腰掛けている。私がここまで運んだのだから後はよろしくね?と言わんばかりの態度だ。
「(…よくよく考えると僕は手伝っている立場だったと思ったのですがね)」
海原はどこか釈然としないものを感じていたのだが、それを口に出したりはしなかった。どこぞの黒髪ツンツン頭の少年と違いレディの扱いの基本を理解している海原はここは文句を言わずに黙々と仕事をこなす所、と割り切っていた。
すると海原は壁に這わせていた指先から一ミリ程の小さな突起物のような異常を感じ取った。
この部屋は一面白一色の壁に囲まれている。その表面は本来なら突起物はもちろん、コンクリート壁にありがちな凹凸すら確認できない。
それどころか、電子顕微鏡で観察してもわずかな凹凸も確認する事はできないだろう。それほどの精度で構築されている壁だからこそ、海原はこの微々たる突起物にすぐに違和感を感じ取った。
「どうやらヒットしたみたいですよ」
海原が報告すると結標は机から立ち上がり海原が違和感を感じた壁まで歩いてきた。
「情報通りだけど、見た所何の変哲もない壁ね。まさかそこを押したら隠し部屋がある…なんていうありがちな展開じゃないでしょうね?」
「まさか。ここは紛れもなくただの壁ですよ。ほら、その証拠に――」
海原は壁をコツコツと叩いた。その音はこの奥が空洞ではないと証明するような音だった。
「だったらその突起物は何なの?」
「さぁ。いずれにしてもここに『残骸』があるとは思えませんけどね」
「それは当然ですよ」
「!!」
「っ!!」
結標と海原は背後から突然かかった声に全神経を向ける。
そこにいたのは白いニットのワンピースを着た少女、髪は茶色で全体的に少し内側にカールしている。右手には五センチ四方の白い箱のような物を持っている。
「それにしても超派手にドンパチやってくれましたね。まぁお陰様で私の『回収』の手間が色々省けたので超感謝してますけど」
「そう?感謝する必要なんてないわよ。むしろ感謝すべきは私達の方。だって貴女が例のモノをわざわざ渡しに現れてくれたんですもの」
結標は含みのある笑みを浮かべるが、絹旗の方も不敵な笑みを浮かべている。
「別に渡しに来たわけではないですよ。そこにある『キー』がないと開かないのでここに来ただけです」
『キー』とはあの突起物の事を言っているのだろう、と海原は瞬時に結論づける。
一方、結標はその言葉を聞いてわずかに眉をひそめる。
「あら、それは残念。じゃあ力ずくにでも奪わないといけないという事かしら?」
「それは超愚問ですね。あなたの『座標移動』ならそんな回りくどい事しなくても強奪できると思いますけど?『グループ』の結標淡希さん」
「貴女…!知ってたのね」
「そりゃあ知ってるに決まってますよ。『レベル5』に限りなく近く、その上裏社会に入り込んだとなればね。こっちの世界では超有名だと思いますけど」
「それは光栄ね。で、その箱を渡してくれるの?くれないの?私としてはできれば穏便に済ませたいのだけれど…」
「安心してください。ここであなた達とやりあうつもりはありません。もっとも、やりあったところで私が勝つ事なんて超有り得ないですけど」
勝てない、と自分でわかっていてもなお絹旗の表情には余裕のようなものが感じられる。
すると絹旗は右手で持っていた白い箱をおもむろに顔の近くまで上げると、
「っ!!」
結標と海原は背後から突然かかった声に全神経を向ける。
そこにいたのは白いニットのワンピースを着た少女、髪は茶色で全体的に少し内側にカールしている。右手には五センチ四方の白い箱のような物を持っている。
「それにしても超派手にドンパチやってくれましたね。まぁお陰様で私の『回収』の手間が色々省けたので超感謝してますけど」
「そう?感謝する必要なんてないわよ。むしろ感謝すべきは私達の方。だって貴女が例のモノをわざわざ渡しに現れてくれたんですもの」
結標は含みのある笑みを浮かべるが、絹旗の方も不敵な笑みを浮かべている。
「別に渡しに来たわけではないですよ。そこにある『キー』がないと開かないのでここに来ただけです」
『キー』とはあの突起物の事を言っているのだろう、と海原は瞬時に結論づける。
一方、結標はその言葉を聞いてわずかに眉をひそめる。
「あら、それは残念。じゃあ力ずくにでも奪わないといけないという事かしら?」
「それは超愚問ですね。あなたの『座標移動』ならそんな回りくどい事しなくても強奪できると思いますけど?『グループ』の結標淡希さん」
「貴女…!知ってたのね」
「そりゃあ知ってるに決まってますよ。『レベル5』に限りなく近く、その上裏社会に入り込んだとなればね。こっちの世界では超有名だと思いますけど」
「それは光栄ね。で、その箱を渡してくれるの?くれないの?私としてはできれば穏便に済ませたいのだけれど…」
「安心してください。ここであなた達とやりあうつもりはありません。もっとも、やりあったところで私が勝つ事なんて超有り得ないですけど」
勝てない、と自分でわかっていてもなお絹旗の表情には余裕のようなものが感じられる。
すると絹旗は右手で持っていた白い箱をおもむろに顔の近くまで上げると、
「ちょっと私と手を組みません?」
絹旗はあっけらかんと、そんな提案をしてきた。
絹旗はあっけらかんと、そんな提案をしてきた。
11
第七学区に二つの影がある。
一つは学園都市第二位の能力者『未元物質』垣根帝督。
一つはその垣根の命を狙う少年・特久池栄光。
二つの影が交差してから何秒経っただろうか。
やがて一つの影がぐらり、と揺れる。
一つは学園都市第二位の能力者『未元物質』垣根帝督。
一つはその垣根の命を狙う少年・特久池栄光。
二つの影が交差してから何秒経っただろうか。
やがて一つの影がぐらり、と揺れる。
「テ…メエ…!何をしやがった?」
揺れたのは学園都市第二位の方だった。垣根の左脇腹には鈍い光を放つ矢が刺さっている。
垣根が矢を引き抜くと、傷口からの出血が一気に増えた。シャツに赤の侵食が広がっていく。
その様を忌々しく見ると垣根は矢を投げ捨て特久池に向き直る。
特久池も同じく垣根と正対する。垣根に確かなダメージを与えた精神的影響だろうか。さっきと比べると地に足がついている印象を受ける。
「何をした…ですか。やり返した、としか言えないですけどね?」
特久池は笑いながら返したが、垣根にとっては挑発のようにも捉えられた。
垣根は沸騰しかけた頭で冷静に思考を巡らせる。
「(何らかの方法で俺のAIM拡散力場に干渉して暴発させたのか?いや、俺はあの時能力を完全に切ってたはずだ。あそこまでの暴発が起こるはずがねえ。だったら――)」
垣根が矢を引き抜くと、傷口からの出血が一気に増えた。シャツに赤の侵食が広がっていく。
その様を忌々しく見ると垣根は矢を投げ捨て特久池に向き直る。
特久池も同じく垣根と正対する。垣根に確かなダメージを与えた精神的影響だろうか。さっきと比べると地に足がついている印象を受ける。
「何をした…ですか。やり返した、としか言えないですけどね?」
特久池は笑いながら返したが、垣根にとっては挑発のようにも捉えられた。
垣根は沸騰しかけた頭で冷静に思考を巡らせる。
「(何らかの方法で俺のAIM拡散力場に干渉して暴発させたのか?いや、俺はあの時能力を完全に切ってたはずだ。あそこまでの暴発が起こるはずがねえ。だったら――)」
「『能力同調(スキルチューニング)』」
垣根の思考を裂くように特久池が一言だけ告げた。
「あなたのような能力者のAIM拡散力場に干渉、解析、同調する事によって他人の能力を一時的に複製できる能力ですよ」
得意気に彼は続ける。
「あなたは私の事を『空間移動能力者』と言いましたけど、それは間違いです。あれも天然の『空間移動能力者』のAIM拡散力場から拝借したものですよ」
そもそも、と付け加えて、
「ただの『空間移動能力者』が、あなた程の大物に喧嘩を売ると思いますか?」
言いながら、ドバッ!と、無数の光の矢を生み出し垣根に向かって射出した。
「チッ!」
垣根は右に飛びこれを避けるが、飛んだ瞬間にズキッ!という鋭い痛みを感じた。
追撃はすぐにやってきた。
痛みでほんの一瞬動きが鈍った垣根との間合いを一気に詰めると、続けざまに光弾を地面に叩き付けた。
アスファルトは光弾で粉々に砕かれ、凄まじいスピードで破片が飛び散っていく。その一部は当然の如く垣根に襲い掛かる。
垣根は瞬時に未元物質の膜でこれをガード。特久池の放った光の矢もろとも叩き落していく。
「あなたのような能力者のAIM拡散力場に干渉、解析、同調する事によって他人の能力を一時的に複製できる能力ですよ」
得意気に彼は続ける。
「あなたは私の事を『空間移動能力者』と言いましたけど、それは間違いです。あれも天然の『空間移動能力者』のAIM拡散力場から拝借したものですよ」
そもそも、と付け加えて、
「ただの『空間移動能力者』が、あなた程の大物に喧嘩を売ると思いますか?」
言いながら、ドバッ!と、無数の光の矢を生み出し垣根に向かって射出した。
「チッ!」
垣根は右に飛びこれを避けるが、飛んだ瞬間にズキッ!という鋭い痛みを感じた。
追撃はすぐにやってきた。
痛みでほんの一瞬動きが鈍った垣根との間合いを一気に詰めると、続けざまに光弾を地面に叩き付けた。
アスファルトは光弾で粉々に砕かれ、凄まじいスピードで破片が飛び散っていく。その一部は当然の如く垣根に襲い掛かる。
垣根は瞬時に未元物質の膜でこれをガード。特久池の放った光の矢もろとも叩き落していく。
「(これは…)」
「考え事をしている場合ですか?」
特久地は防戦一方になっていた垣根との間合いをダッシュでゼロにしていた。
懐に入った直後、特久池の右手が強烈な光を放つ。光を携えた右拳を垣根の左脇腹に捻じ込む。が、これも左肘でガードする。
バシィィ!!という皮膚で皮膚をぶつような音が炸裂する。
「(やはり…な)」
特久池はガードされてもおかまいなしに、右のダブルを打ち込もうとしたが、
ガシィ!と垣根にその拳を受け止められてしまった。
「見えたぜ。テメエの能力がよ」
垣根は歪な笑みを浮かべる。特久池はギクリ、と表情を強張らせる。
「複製とは良く言ったもんだ。確かに俺の『未元物質』をよく再現できている。だがそれだけだ」
拳を受け止めた左手に力を込める。ギリギリという音と共に特久池の表情が僅かに歪む。
「上っ面は確かに『未元物質』ではあるが、中身はとんだパチもんだ。赤点なんてレベルじゃねぇ。そもそもこれが『本物』だとすればこんな簡単にガードできるはずがねえ。そんなにヤワな能力じゃねぇからな」
空いた右拳で特久池の鳩尾をしゃくり上げる。
「ごはぁっ!!?」
鳩尾を打たれた衝撃を利用して何とか垣根と距離を取るが、それも大した意味を成さないのは承知の上だった。それでも特久地は後ろに下がらざるを得なかった。
「AIM拡散力場からは複製できたようだが、『自分だけの現実』は複製できなかったようだな。そりゃそうだよな。そんな簡単に複製されちゃ俺の立場がないわ」
垣根は追わない。既に底が見えた獲物は慌てて狩る必要はない。ゆっくり嬲り殺そうが、一撃で粉々に砕こうが、全て自分の自由だと言わんばかりの余裕だった。
「それにテメエは同時に複数の能力を使用する事はできないようだな。まぁそんな超高精度な演算なんざできるわけがねえし、仮にできたらテメエは世界初の『多重能力者』だ」
言いながら垣根はレーザー光線のような光の線を放つ。その光の線は二つに分裂すると特久池の両肩を貫き、そのまま壁に縫い付けるような形になった。
「がっ――!!」
特久池は苦痛に顔を歪める。
確かに特久池は垣根の能力を複製してからは一度も『空間移動』を使っていない。いや、使えないのだ。もう一度使おうとするのなら別の『空間移動能力者』のAIM拡散力場から複製し直さなければならない。
もちろん特久池はそんな事は不可能だという事を理解していた。だからこそ特久池は短期決戦でしか勝ち目がない事を覚悟の上で特攻を仕掛けた。
だが、ここまで短時間で能力の真意と弱点を看破されるとは思っていなかった。薄れゆく意識の中で絶対的な壁を感じ自分の無力さを痛感する。
「最後に二、三聞いておきたい事がある」
垣根はそんな特久池を見下ろす。その目はゴミを見るような、何の感情も無いような目だった。
「…」
「テメエのその特異すぎる能力から察するに『原石』なんだろうが、なんで『原石』であるテメエが学園都市にいる?」
「さぁ…何ででしょうね?」
「……。バックについているのは誰だ?なぜわざわざ一人で俺と戦う事を選んだ?」
「そんな事を…あなたに教える義理は……ありませんね…」
「そうか、わかった。じゃあ最後の質問だ。苦しんで死ぬか、一瞬で死ぬか、好きな方を選べ」
「私を…殺しますか………。別に構いませんが……、後で必ず後悔しますよ…」
「ほざけ」
「考え事をしている場合ですか?」
特久地は防戦一方になっていた垣根との間合いをダッシュでゼロにしていた。
懐に入った直後、特久池の右手が強烈な光を放つ。光を携えた右拳を垣根の左脇腹に捻じ込む。が、これも左肘でガードする。
バシィィ!!という皮膚で皮膚をぶつような音が炸裂する。
「(やはり…な)」
特久池はガードされてもおかまいなしに、右のダブルを打ち込もうとしたが、
ガシィ!と垣根にその拳を受け止められてしまった。
「見えたぜ。テメエの能力がよ」
垣根は歪な笑みを浮かべる。特久池はギクリ、と表情を強張らせる。
「複製とは良く言ったもんだ。確かに俺の『未元物質』をよく再現できている。だがそれだけだ」
拳を受け止めた左手に力を込める。ギリギリという音と共に特久池の表情が僅かに歪む。
「上っ面は確かに『未元物質』ではあるが、中身はとんだパチもんだ。赤点なんてレベルじゃねぇ。そもそもこれが『本物』だとすればこんな簡単にガードできるはずがねえ。そんなにヤワな能力じゃねぇからな」
空いた右拳で特久池の鳩尾をしゃくり上げる。
「ごはぁっ!!?」
鳩尾を打たれた衝撃を利用して何とか垣根と距離を取るが、それも大した意味を成さないのは承知の上だった。それでも特久地は後ろに下がらざるを得なかった。
「AIM拡散力場からは複製できたようだが、『自分だけの現実』は複製できなかったようだな。そりゃそうだよな。そんな簡単に複製されちゃ俺の立場がないわ」
垣根は追わない。既に底が見えた獲物は慌てて狩る必要はない。ゆっくり嬲り殺そうが、一撃で粉々に砕こうが、全て自分の自由だと言わんばかりの余裕だった。
「それにテメエは同時に複数の能力を使用する事はできないようだな。まぁそんな超高精度な演算なんざできるわけがねえし、仮にできたらテメエは世界初の『多重能力者』だ」
言いながら垣根はレーザー光線のような光の線を放つ。その光の線は二つに分裂すると特久池の両肩を貫き、そのまま壁に縫い付けるような形になった。
「がっ――!!」
特久池は苦痛に顔を歪める。
確かに特久池は垣根の能力を複製してからは一度も『空間移動』を使っていない。いや、使えないのだ。もう一度使おうとするのなら別の『空間移動能力者』のAIM拡散力場から複製し直さなければならない。
もちろん特久池はそんな事は不可能だという事を理解していた。だからこそ特久池は短期決戦でしか勝ち目がない事を覚悟の上で特攻を仕掛けた。
だが、ここまで短時間で能力の真意と弱点を看破されるとは思っていなかった。薄れゆく意識の中で絶対的な壁を感じ自分の無力さを痛感する。
「最後に二、三聞いておきたい事がある」
垣根はそんな特久池を見下ろす。その目はゴミを見るような、何の感情も無いような目だった。
「…」
「テメエのその特異すぎる能力から察するに『原石』なんだろうが、なんで『原石』であるテメエが学園都市にいる?」
「さぁ…何ででしょうね?」
「……。バックについているのは誰だ?なぜわざわざ一人で俺と戦う事を選んだ?」
「そんな事を…あなたに教える義理は……ありませんね…」
「そうか、わかった。じゃあ最後の質問だ。苦しんで死ぬか、一瞬で死ぬか、好きな方を選べ」
「私を…殺しますか………。別に構いませんが……、後で必ず後悔しますよ…」
「ほざけ」
その言葉を最後に決着はついた。
行間 二
自分が強いという自信がある。
自分が特別だという自負がある。
自分が護るべき立場にある者だという自覚がある。
自分が特別だという自負がある。
自分が護るべき立場にある者だという自覚がある。
それは自分が幼い頃から夢見ていたヒーローの姿であり、『それ』が自分に中にあったと気付いた時は言葉では言い表せない程の喜びを感じた。
しかし『それ』は世界の法則を完全に崩壊させる程の『破壊の力』でしかなかった。
その日から少年はヒーローではなくなった。
その日から少年は世界の敵となった。
しかし敵などいなかった。
自分が何かを思う前に、敵は既に消えていた。
少年は『それ』が何なのかわからなくなっていた。
人を護りたいと思っていた自分が、なぜ人を傷つけているのか。
少年は絶望した。
何故こんなものが自分の中に宿っているのか。
誰か自分を殺してくれ。
しかし、そんな願いは誰も聞き入れてはくれなかった。
誰も自分を殺せない。
自分は誰でも殺せる。
そんなあまりにも理不尽な地獄にも似た世界を少年はたった一人で生きてきた。
その日から少年はヒーローではなくなった。
その日から少年は世界の敵となった。
しかし敵などいなかった。
自分が何かを思う前に、敵は既に消えていた。
少年は『それ』が何なのかわからなくなっていた。
人を護りたいと思っていた自分が、なぜ人を傷つけているのか。
少年は絶望した。
何故こんなものが自分の中に宿っているのか。
誰か自分を殺してくれ。
しかし、そんな願いは誰も聞き入れてはくれなかった。
誰も自分を殺せない。
自分は誰でも殺せる。
そんなあまりにも理不尽な地獄にも似た世界を少年はたった一人で生きてきた。
「――――っ!」
小高い丘の上に立つ一本の木の下。その地方にしては珍しく雪のない草原に一人の男がいた。
小高い丘の上に立つ一本の木の下。その地方にしては珍しく雪のない草原に一人の男がいた。
「夢……か。いつの間に眠っていたのか…」
体を起こし、覚醒を促す為に右手を頭に添えながら頭を軽く振る。
(随分と懐かしい夢だったな……もう忘れたと思ったが――)
体を起こし、覚醒を促す為に右手を頭に添えながら頭を軽く振る。
(随分と懐かしい夢だったな……もう忘れたと思ったが――)
「珍しいものが見れたのである」
後ろからいきなり声がかかった。
しかし、男は振り返らずに応えた。
「後方…いや、今はウィリアムと呼ぶべきか?」
ザッ、という重く草を踏み締める音と共に屈強な男は、木の下に佇む男のもとに近づいた。
「こんな所で何をしている?」
「その言葉、そのままそっくりお前に返すよ。『右方』はもう退けたんだろ?もうロシアには用はないはずだが?」
「退けはしたが、首を取ったわけではない。奴は必ず次の一手を打ってくるはずである。それは――」
「俺。というわけだ」
ウィリアムの言葉を待たずに男は答える。
「奴は禁書目録を狙っていた。しかしそれは失敗した。ならば禁書目録に限りなく近い知識量、それも実用可能としている貴様のもとに現れると考えるのは当然の推測」
「それでわざわざ護衛に来てくれた…という事か」
男は言い終わると自嘲気味に笑う。
「有難い話だが余計なお世話だよ。『右方』が完全でない以上、俺の敵ではないさ。それに俺が『右方』の首を取ってはお前が納得しないだろう?」
「……。誰が首を取るかなど問題ではない。結果として奴を止める事ができればそれでいい」
「それがお前の本心かどうかは別としても、『右方』を正面から止められる奴なんて俺以外じゃお前くらいしかいないだろう?見たところ力も戻ってるみたいだしな」
男は立ち上がって伸びをすると天を仰ぎながら告げる。
「それに、今の俺にとって『右方』などどうでもいい。俺にはもっと大事な、やらなければならない事がある」
「……学園都市か」
ウィリアムは少し眉間に力を入れる。
「余計なお世話のついでに、一つ忠告しておくのである。学園都市を甘く見ない方がいい。何しろあそこは奴の居城だからな。それ以外にも――」
「その忠告、有難く受け取っておくよ」
男はウィリアムの言葉を遮り、そう告げると闇の中へと消えていった。
しかし、男は振り返らずに応えた。
「後方…いや、今はウィリアムと呼ぶべきか?」
ザッ、という重く草を踏み締める音と共に屈強な男は、木の下に佇む男のもとに近づいた。
「こんな所で何をしている?」
「その言葉、そのままそっくりお前に返すよ。『右方』はもう退けたんだろ?もうロシアには用はないはずだが?」
「退けはしたが、首を取ったわけではない。奴は必ず次の一手を打ってくるはずである。それは――」
「俺。というわけだ」
ウィリアムの言葉を待たずに男は答える。
「奴は禁書目録を狙っていた。しかしそれは失敗した。ならば禁書目録に限りなく近い知識量、それも実用可能としている貴様のもとに現れると考えるのは当然の推測」
「それでわざわざ護衛に来てくれた…という事か」
男は言い終わると自嘲気味に笑う。
「有難い話だが余計なお世話だよ。『右方』が完全でない以上、俺の敵ではないさ。それに俺が『右方』の首を取ってはお前が納得しないだろう?」
「……。誰が首を取るかなど問題ではない。結果として奴を止める事ができればそれでいい」
「それがお前の本心かどうかは別としても、『右方』を正面から止められる奴なんて俺以外じゃお前くらいしかいないだろう?見たところ力も戻ってるみたいだしな」
男は立ち上がって伸びをすると天を仰ぎながら告げる。
「それに、今の俺にとって『右方』などどうでもいい。俺にはもっと大事な、やらなければならない事がある」
「……学園都市か」
ウィリアムは少し眉間に力を入れる。
「余計なお世話のついでに、一つ忠告しておくのである。学園都市を甘く見ない方がいい。何しろあそこは奴の居城だからな。それ以外にも――」
「その忠告、有難く受け取っておくよ」
男はウィリアムの言葉を遮り、そう告げると闇の中へと消えていった。