とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 8-29

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匿名ユーザー

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それはまだ彼が自分の名前で呼ばれていた頃――彼がまだ一方通行と呼ばれる前の話だ。


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「クソ下らねェ。マジで下らねェトコだな、ココは」
彼は実験と実験の合間を縫って研究所から抜け出していた。
特に監視されていた訳ではないし、拘束されていた訳でもない。
そもそも彼の行動を止められる者はいないし、外には彼にとっての危険など無いに等しい。
彼はよくそうして空いた時間に何の目的もなくふらりと外に出ていて、研究員達もまた彼の散歩を黙認している。
「下らねェ。どこもかしこも科学、科学。大人どもは研究、研究。本当に下らねェよ、学園都市なんてのは」
彼は下らねェと呪詛のように呟きながら、とある人の少ない公園に入っていった。
公園には自動販売機が置いてあり、彼は真っ直ぐにそこへ歩いていく。
そして目新しい缶コーヒー――前に外に出た時には無かったものを全て一つずつ買い、6本の缶を抱えてベンチまで行き腰を降ろす。
そして一本ずつ開けてはその中身に顔をしかめ、或いは無表情になる。
そうして4本目に手を出そうとした時に、公園に彼と同じ位――小学生高学年位の少年が飛び込んできた。
そのすぐ後には3人の男達――中学生位の柄の悪いのが入ってくる。
男達は少年を取り囲むと、次々に拳や蹴りを入れていく。
男達は何やら少年に向かって叫んでいるが、聴覚を遮断している為彼に内容は分からない。
それでも男達と少年の大体の関係は状況から読み取れた。
(中学生が3人がかりで小学生をリンチかよ……しょーもねェなァ)
しかし彼には割って入るつもりなど毛頭ない。
ただその様を眺めながら4本目のコーヒーに口をつける。
と、男達のうちの一人がこちらに気付き、何かを叫んできた。
無視を決め込んでいると、その男はこちらに近づいてくる。
そして彼の目の前に立つと拳を振り上げた。
(まァ、中学生のパンチならオートで返しゃいいか……)
そう思い何もしないでいるうちに、男は拳を振り降ろし――そして勝手に自滅して行った。
それに気付いた他の二人も彼に向かって攻撃を仕掛けてきたが、やはり彼は気にかけない。
立ち上がっては自滅を繰り返す男達をただ詰まらなそうに眺めていた。

1分程して、男達は公園を逃げるように去っていった。
そうして公園には、彼と少年だけが残された。


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年は立ち上がって服についた土埃を払ってから彼の方へ歩いてきた。
そして頭をかきながら何やら言っているが、彼はそれすらも無視する。
(放っておきゃァ消えンだろ)
そう思ってコーヒーを飲み続けていた彼だったが、4本目のコーヒーを飲み終わる頃になっても少年は彼にまとわりついて来る。
(うぜェ……)
彼はやむなく聴覚の遮断を解き、少年に声をかけた。
「何なンだよテメェは」
「お、通じた。やっぱり日本語しゃべれんじゃん。何だ何だよ何ですか?白髪に赤目だから、てっきり外人さんかと思ったよ」
気さくな風に返してくる少年。
「うぜェなァ。何の用だよ」
「いや、だからさっきのお礼だって。助けてくれたんだろ?」
「あァ、何勘違いしてンだよ。テメェを助けたつもりなんてねェよ」
「ん、まぁでも結果として助かった訳だから。サンキューな」
「ケッ……」
「あー喉渇いた。俺も何か飲もう」
そう言って自動販売機の方の方へ歩いていき、お札を投入した少年だったが
「だー!この自販機、俺の最後の1000円札飲み込みやがったー!不幸だー!」
(騒がしいヤツだ……)
彼はそう思い、しかし

「……オイ、これやるよ」
少し躊躇した後、彼はとぼとぼとベンチに座った少年に残りの2本の缶コーヒーの内の一つを手渡した。
「お、マジ?サンキュー」
少年は缶コーヒーを受けとるとプルタブを開けて飲み始める。
その隣で彼も本日5本目のコーヒーを開けながら、少年に問うた。
「なァ、テメェは何であンなのに追われてたンだ?」
他人に余り興味を示さない彼にとって、この行動はなかなかに珍しいものだった。
「ん?いや、何か女の子があいつらに絡まれててさ。ぶつかった拍子に持ってたクレープが服について汚れた、とかで。そんで知り合いの振りして仲介して……まぁ女の子を逃がすのは何とかなったんだけどさ。あいつら撒くのに失敗しちゃってな」
「バカだな、テメェは。テメェの身も守れねェ癖に他人まで助けようとするなんて」
「んー、まあ。そうかもしんねぇけどさ、俺が殴られて、そんであの子が殴られずに済むんなら、それでいいんじゃねぇの?」
「ハァ?意味わかンねェよ」
「はは、まぁ俺にはお前みたいなスゲェ能力は無いからさ」
「スゲェ能力だァ?」
「あぁ。さっきあいつら追っ払ったやつ。何かの能力なんだろ?俺はレベル0だからさ、何も使えねぇんだよ。超能力」
「…………別に凄かねェよ。全然凄かねェ」
「んなこたねーだろ。中学生ぶっ飛ばしたんだぜ?あれ何の能力なんだ?絶対バリアー?」
「…………それならまだ良かったンだけどな」
「……?」


「俺の能力はベクトル変換っつって、あらゆる物体の運動に干渉してその運動ベクトルを操作することができる」
「あぁ、ベクトルな。この前学校で習った。訳分かんなかったけど」
「……そんで、俺はそのベクトル変換……研究員達は反射って呼んでるが……俺はそれをあらかじめ設定した生命維持に必要なもの以外、つまりは俺に危害を加えようとするあらゆるものに自動的に適応させられる」
「………えっと、俺バカだから良くわかんねぇけど、跳ね返しバリアーってことなのか?」
「まァそんな感じだ」
「何だよそれ、スゲェじゃん!」
「凄かねェつッてんだろォが!!」
「……な、何でだよ」
「反射できる限界の運動エネルギーはどれくらいか、睡眠中も反射は働くのか……そんなアホみてェな研究をして、反射した弾に当たって死んだアホが山程いる。そうでなくとも、面白半分に俺に挑んできて勝手におっ死ぬバカがいる。どうやったらこの俺を倒せるか、そんな下らねェことを考えるヤツの数だけ、俺の前には死体が積み上がっていくンだよ」
「死ぬって……」
「ま、テメェには理解できねェか。じゃあこっから先は聞き流してくれていい。……俺はよォ、最強になりてェんだ」
「最強?今のまんまでも充分強ェじゃん」
「……そうだな、冷戦って言葉を知ってッか?」
「えっと、社会で習った。確かアメリカと旧ソが互いに核兵器の技術を高めることで牽制し合ってたっていう……」
「あァ。そして今、同じように学園都市の中と外との間で冷戦が起こってる。外の連中は学園都市の技術が欲しい、だが学園都市に攻め込むにはその未知の技術が怖すぎる……。そうやって学園都市は未だに世界のトップに居続けてる」
「そういう話なら聞いたことあるけど……それがどうしたんだ?」
「だからよォ、俺はそんな学園都市の中での最強になりてェ。外にとっての脅威である学園都市の奴らでさえも、相対しただけで歯向かう気力をなくさせるような、何をやっても勝てねェと思わせるような、そんな存在になりてェんだ。俺1人と残りの60億の人類との冷戦だ。そうすりゃ、もう俺に挑んできて死体になる奴がいなくなるだろォ?」
「最強……」
「そう、最強だ。絶対的な力。それさえあれば皆死なずに済む。大団円、ハッピーエンドに出来るんだ」
「いや………そりゃ違ぇだろ」
「あァ?何でだよ」


「だってよ、
 ――それじゃお前がひとりぼっちじゃん」


「――――はァ?」
彼は少年のその言葉に思わずコーヒー缶を落としてしまった。
奇妙な奴だと思って声をかけたが、それにしたって変すぎる。
「いいンだよ俺のことは。大体俺はこの能力で何人もの人間を殺してきたンだ。今更救われようなんて思ってねェよ」
「でもよ、それはお前が本当に望んだことじゃねぇんだろ。変な能力が身について、そいつに巻き込まれちまっただけじゃねぇかよ。だったらお前にだって幸せになる権利位あるんじゃねぇの?」
「……………」
彼は取り落とした缶を拾い、残り少なかったそれをゴミ箱に投げ捨ててから言った。
「……テメェは変なヤツだな」
「ん、そうか?はは、実はさ、俺、生まれついての不幸体質でよ。何やっても上手くいかなくって、そんな辺りも学園都市に入れさせられた理由なんだけど……まぁそんなだから、せめて他人位には幸せになって欲しいって思うんだよ」
「他人位には……か」
「だから、お前も諦めんなよ」
「………、ありがとよ。だがテメェがそう言ってくれただけで充分だ。悪ィがテメェの言葉に従う気はねェ。やっぱり俺は最強を目指す」
「そうかよ、じゃあしゃあねぇな」
少年は自分の飲み終わった缶をゴミ箱に捨てると彼に言う。
「おい、こっち向けよ」
「あァ?」
そうして振り向いた彼の頭に、

ゴツン

と少年は拳骨を振り降ろした。
威力はたいしたことはない。
だが、少年の拳に対して彼の反射が働かなかった。
それは有り得ないことの筈だ。
「何で……テメェ、一体何を………?」
「あぁ、俺の右手な。なんか超能力を無効化できるんだってよ。先生達はイマ……なんとかって、言ってたけど。ま、つまり俺はお前がどんなけ強かろうが、お前を殴れるってことだ」
「そんな、フザケたもんが……」
「フザケてんのはテメェの方だろ。自分は救われねぇなんて決めつけやがって。いいぜ、テメェが最強目指すってんならそれでいい。だからもしお前が最強になった時にひとりぼっちになってたら、俺がお前のこと殴りに行ってやるよ」
「……………あァ、くそ」

殴られたのは、いつ以来だろうか。
叱られたのは、いつ以来だろうか。
思われたのは――1人の人間として誰かに接してもらったのは、いつ以来だろうか。
ふと口をつきそうになった何かを彼は必死で胸のなかに押し戻すと、全く別の言葉を吐いた。


「……バカかテメェは。最強になった俺がテメェみたいなクソ弱いレベル0に負ける訳がねェだろ。返り討ちにしてやるよ」
「ハハ、んじゃあせいぜい楽しみにしてるぜ」
「言ってろ、一撃で終わらせてやる」
気が付くと日は傾き、辺りは夕焼けがに染まっていた。
夜にはまた別の実験がある。
そろそろ研究所に戻る時間だ。
二人はベンチから立ち上がった。


「じゃあな、最弱」
「おうよ、最強」


最後にそれだけ言葉を交わすと、二人は各々の右手を振り上げ

バチン

と小気味のいい音を立てさせて相手の掌を叩き合った。


二人は振り返らずに歩いていく。


少年は公園の西口、光の射してくる方向へ。
彼は公園の東口、闇が溶けていく方向へ。


彼は自分の右手を見た。
少しだけ赤く腫れた掌。
そこから伝わる仄かな痛みの感触に、彼は口元を僅かに弛めた。


「よぉ。何にやついてんだ?気色悪ぃな」
「あァ?誰だテメェは」
彼の目の前には見知らぬ男が立っていた。
「生意気なガキだな。まぁいいさ。俺は木原数多。お前を研究してた奴らが音を上げてな、お前は今日からウチで預かることになったんだよ」
「ハン、そういうことかよ。いいぜ、構わねェ。テメェに俺を最強に進化させられるってンならやってみせろよ。まァ、テメェが死ぬのが先かも知れねェがな、木原クン?」
「……まずはその減らず口から矯正してかなきゃならんようだな。面倒臭いことだ」
「言ってろ、クソが」


そうして彼は、木原と共に闇の中へと歩き去って行った。

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