とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 1-679

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匿名ユーザー

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 暗い部屋。
 さほど広くも無いとあるマンションの一室。
 その部屋は様々なゴミが散乱し、何週間も掃除をしていないのか異様な悪臭を放っていた。
 十人中十人が見たら、とてもこの部屋に年頃の少女が住んでいるとは思わないだろう。
 そして、部屋の主である結標・淡希はその部屋の隅で体育座りをして蹲っていた。
 赤い下着を着込んだ最低限の服装。少女の白い肌は闇夜の中に浮かんでいるようにも見える。
「――――」
 其の目には生気は無く、ただ其処にあるだけの人形の様にも見えた。
 元々後ろで二つに結っていた自慢の髪は解かれ、乾燥し、悲惨な姿となっていた。
 結標はゆっくりと顔を上げる。
 視線の先には時計があった。夜八時を示す時計だ。
「……もう、夜だったんだ……」
 呆然と、視線を動かす事も無く結標は事実を告げる。
 結標は遅い動きで身体を動かし立ち上がると部屋の隅に置いてある冷蔵庫へと向かう。
 冷蔵庫を開ければ中からの光が結標の身体を照らしだした。
 不衛生。
 今の結標の姿を見れば十人が十人とも同じくその言葉を返すだろう。
 今の結標は全てを失って絶望した人間。
 もしくは糸の切れた人形という表現がピッタリなのかもしれない。
 彼女は下着姿のまま冷蔵庫の中を漁る。
 そのまま適当な物を見繕って冷蔵庫の扉も閉めずに口へ運んだ。
 数分が経ち、全てを胃へ収めると同時に何やら肌寒い事に気づいた結標は
 そこで初めて冷蔵庫の扉が開いたままの事に気づく。
「あ……閉めなきゃ」
 虚ろな目で、しかし僅かな"目的"を得た結標は少しだけ滑らかな動作で冷蔵庫の扉を閉める。
 だがそれだけだ。
 彼女はそれだけでは満足出来ないのか何度か扉を開け閉めしていたが、直ぐに飽きた。
 今度こそ扉を閉めて、おぼつかない足取りでまた部屋の隅へと向かう。
 ついでに寒いので毛布を押し入れから引っ張りだし、その身に纏いつつまた隅に座った。
 静寂。
 僅かな音や声が締め切られた窓の外から聞こえてくるが、結標は全く動かない。
 そもそも動く気力が無いのだ。
 数週間前に起こった『樹形図の設計者』を巡る騒動。
 其の中で結標は大切なものを捨てた。失ったのではない、捨てたのだ。
 その結果、結標は心を砕かれ、生きる屍と化した。
 食料調達や生命活動に必要な"目的"さえあれば動くが、それ以外は全く動きもしない。
 それが今の結標の状態であった。
 最初の三日は定まらない意識のままに自宅へと帰った後、意味不明の言葉の羅列を吐き続けた。
 四日目にはある程度収まった興奮を引きつれて部屋の隅に陣取り、全てに呪詛を吐き、
 そのまま一週間が経つと結標は本当に生きる屍と化した。
「……何か」
 また発作が起き始めた。
「何か何か、何かやらないと」
 でも何を?と結標の内面からの問いかけが来る。
 あの事件で自分の心を砕いた白井黒子を殺す?
 恐らくあの超電磁砲が何も言いに来ないトコロを見ると生きているのだろう。
 どうやって助かったのは解らないが、取り合えず生きているのだろう。
 なんだか無性に嬉しかった。
 殺そうとした筈なのに嬉しかった。
 殺せるからという理由ではない。
 単純に生きていたから嬉しかったのだ。
 なんでだろうとも思う。
 だけど嬉しかったものは嬉しかったのだ、と意味不明な言葉の応酬が思考内を駆け巡る。
 発作。
 何か"目的"を探そうとして思考をデタラメに走らせてそのうち消え去る一種の妄想。
 最後には何をやりたかったのかも忘れて呆然とするだけの自慰行為だ。
 これを一週間続けた。
 一週間続けても何も思いつかなかった。何も考えられなかった。
……もう。
 人生においての最終手段をとろうかと考えた時、体育座りをしていた足の先に何かが当たる。
 結標は少しだけ顔を持ち上げ、足に当たったものを確かめようと身体を動かした。
「……ディスク?」
 それはプラスチックのケースに入ったデータディスクだった。
……こんなのを持ってったっけ?
 疑問を走らす結標だったが取り敢えずの目的を見つけて少しだけ瞳に生気が戻った。
 そして先程よりも比較的早い動きでディスクを掴み、立ち上がって部屋の隅にあるパソコンへと向かう。
 電源スイッチを押して立ち上げると席へと腰を下ろし、ディスクをセットしてフォルダの中身を開いた。
 中にはこういった文章が書かれていた。

『一方通行の現状に関する最新情報と追加任務について』

 ビクリと結標は肩を震わす。
 何故こんなものが此処にあるのか。
 というよりも何故、こんなものが今更出てくるのか。
 疑問はその後恐怖となり、己の記憶を引きだして結標の精神を削り始める。
「ひ、あッ」
 カチカチと歯の音を鳴らしつつ結標はマウスを持っていない手で己の肩を抱いた。
 此処には居ないとは知りつつもやはり、恐ろしい。
 結標にとっての一方通行とはそれほどまでの恐怖の具現なのだ。
 だが、結標はそれでも指を動かしてテキストデータを読み進める。
 何故だかは結標自身もわからない。
 ただ"目的"を達しなければならない、その様な強迫観念に動かされたのか目と指が動いた。
 そして、見た。
『現在の一方通行はその能力のほとんどを外部に任せており』
 その文章に結標は一週間と少し前に聞いた一方通行の言葉を思い出す。
 彼は確かに言っていた。己の演算能力は今ではほとんど失われていると。 
『その演算機能のほとんどは実験体達の上位体である少女によって統括されているようだ』
 資料に小さな少女の写真が出る。
 病院の一室。
「――――?」
 そこで楽しそうに笑う少女は結標が知る顔に似ていた。
 超電磁砲。そのクローンである妹達。しかし、どちらよりも幼い容姿。
 まさか、この様な繋がりがあるとは、これも神様の悪戯というヤツだろうか。
『この命令の優先度は最低で構わない。しかし、出来ればこの少女を保護し―――』
 どうやらこれは以前所属していた組織から貰い受けて見ずにいたものの様だ。
 そもそも、その時の結標はその様な追加命令など受ける気すらなかったのだろう。
 だが、結標は既に文章の映ったモニターなど見ていなかった。
 脳裏に浮かぶのはあの最強の能力者。
 その能力者を支える少女。
 勝てる。
 ギチリと何か嫌な音を立てて、頭の中で得体の知れない歯車が噛みあう。
 アレに勝てば己が優秀だと証明出来る。
 そうすれば誰かが必要としてくれる。
 そうすればきっと"目的"だって山ほど出来る。自分が自分で居られる。
「あは」
 "目的"を見つけた。
 とても難しいけれどそれに見合った報酬のある"目的"。
「あはははは、ハ、はははははっは―――ッ!」
 狂った様に笑う結標。
 其の目は歓喜に満ちていた。
 一方通行を倒せばきっと誰かがまた自分を必要としてくれる。
 "人を簡単に殺してしまえるような"自分でも必要としてくれる。
 壊れたままの心で結標は歓喜を叫んだ。
 一方通行や白井達が戻れ、と言った道をまた進もうとしていた。
 だが―――。
 直後、その結標の歓喜の咆哮に呼ばれた様に、近くに凄まじい光と共に轟音が鳴り響いた。
 落雷。
「ひぅっ!?」
 ビクリと椅子から落ちた結標は素早く毛布に潜りこんだ。
 一週間と少しの引き篭もり生活はすっかり結標をヘタレと化していた。
「……うぅ」
 前途多難だ、と結標は己の情けなさを嘆いたのであった。

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