とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 1-715

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匿名ユーザー

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事の始まりは少女の何気ない一言だった。
「ショッピングというものに行ってみたいってミサカはミサカは頼んでみたり」
「あァ?」
 茶色いショートカットの少女は病院のベットに掛かるテーブルの上に乗っていた。
 青色のワンピースに身を包み、頭頂部から出ている一本の毛が風も無いのに揺れている。
 其れに対して眉を顰めるのは少女の目の前でベットに横たわる白髪の少年だ。
 見ただけでは男か女か判別不可能の中性な顔立ちと体つき。
 学園都市内にその異名を轟かす白の最強能力者―――"一方通行"。
 その最強の能力者は現在、目の前の少女を見て面倒臭そうに首を傾げていた。
 少女は一方通行の次の言葉を待つかのように輝いた瞳で一方通行を見ている。
「……」
「お?お?もしかして好感触?ってミサカはミサカはかなーり期待してみる」
「寝ろ」
「いえーい!なんか久しぶりに聞いたよ、ってミサカはミサカは久しぶりに拳をつき上げてみたり!」
 打ち止めはヤケクソ気味に拳を天に向かって突き出すが、一方通行はそれを面倒臭そうに見ていた。
「そもそも、俺ァまだ動けるような状態じゃねェだろうがよォ」
 一方通行は八月三十一日にとある事件に巻き込まれ普通なら死んでもおかしく無いような傷を負っている。
 その事件とは、この目の前の少女―――"打ち止め"を中心に起こった事件だった。
 とある研究員が埋め込んだウィルスに侵されていた打ち止めを一方通行が自らの傷と引き換えに助けた。
 端的に言ってしまえば、そんなところだ。
 その間にも色々な話が詰め込まれているのだが、今は割愛するとしよう。
 しかし、そのウィルスを消す際に記憶も一緒に消去された筈の少女は事もあろうに自らその記憶を補完して
 こうして目の前でにこやかな笑顔を一方通行へと向けていた。
 その上、何故か事件の後も済し崩しに一緒にいる形となっていた。全く持って謎である。
「あ、その点については大丈夫、ってミサカはミサカは胸を張りつつ言ってみる」
「あン?」
 打ち止めはなにやらベッドから飛び降りると病室の隅へと向かう。
 其処には何時の間にやら黒い紙袋が置いてあった。
 怪しい。とにかく怪しい。
 レベルを強いて言うならば、開けるな危険のオーラを醸し出すほどの怪しさだ。
 というか、黒い紙袋なんてとてもじゃないが普通の生活では滅多に御目にはかからないだろう。
 そして、打ち止めはご機嫌に鼻歌を歌いつつ黒い紙袋の封を開け、中へと手を突っ込んだ。
 暫く中を探っていた打ち止めだったが、何か見つけた様に笑顔になり、腕を紙袋から引っこ抜く。
 その手にあるのはチョーカーの様な黒い帯の付いた小型の携帯音楽プレーヤーのようなものだった。
 じゃーん、と黒い帯の先に付いた小さい棒状の機械の様な物を揺らしつつ一方通行へと向き直る。
「何だァそりゃ」
「演算補助のための変換機ってミサカはミサカはもったいぶらずに答えて見る」
 加えて言うが一方通行は八月三十一日の事件で傷を負い、その最強の所以たる能力の大半を失っている。
 現在ではこの視線の先でほれほれ、と楽しそうに変換機と呼ばれた物体を揺らす少女と、
 その姉妹の様な存在である"妹達"によって演算能力の大半を補っている状態だったりする。
「よし」
「おぉ、アナタがそこまで良い笑顔を見せるなんて始めてかもってミサカはミサカは喜びを体で表現してみたり」
 一方通行は彼を知る者が見たならば、即座に裸足で逃げ出すようなとてつもなく良い笑顔で頷きを一つ。
「そこに直りやがれ、クソガキ」
「ひゃっほう、やっぱりこうなるのねー!ってミサカはミサカは現実から目を背けずに嘆いてみる」
 打ち止めは其の場でよよよ、と座りながら手で顔を隠して嘘泣きをし始めた。
 一方通行は気にせずに寝転がり、頭まで全身を布団で包んで寝る準備をし始める。
「あーッ!ってミサカはミサカは指差して驚いて見る!人が嘆いているのに放置して寝ようとするだなんて、
 それでも人なの!?ってミサカはミサカは抗議してみたり!というか、これはアナタのためでもあるんだよー!
 ってミサカはミサカは必死に叫んでみる!」
「あン?俺のためだァ?」
「そうそう、ってミサカはミサカは内心ホッとしつつ正座してみる」
 今まさに飛び掛らんとしていたのか、打ち止めはベッドに掛かるテーブルの上に乗っていた。
 そのまま打ち止めは正座しつつ目を閉じて腕を組み、尤もらしく何度か頷く。
「実はリハビリも兼ねてたりするのってミサカはミサカはあのカエル顔のお医者さんが言ってたって言ってみる」
 ほほゥ、と一方通行は改めて体を起こし、打ち止めを見やる。
「で、本音は?」
「暇だからどこかに連れてって、とミサカはミサカは正直に本音を――って、ふぎゅっ!?あ、やめてやめて。
 布団でくるむのは御勘弁をってミサカはミサカはなんだか前も言ったことあるような台詞を言ってみるー!」
 結局カエル顔の医者が回診に来るまでこの馬鹿騒ぎは続くのであった。

   ○

 そして現在。
「なんで、こうなりやがンだァ!いきなり蒸発するかァ、普通よォ!?」
 多くの人々が出歩く街の中心で、病院着から私服に着替えた最強の能力者は天に向かって叫ぶ。
 詰まるところ、連れ添いであるはずの打ち止めと完全無欠に離れ離れになっていたのだった。
 その叫びを聞いて一部過去に彼を襲撃して返り討ちになった不良達がすいませんでしたー!、等と
 叫んで逃げて行くが、一方通行はそれらは全く気にせずに周囲を見渡した。
 見渡す限りの人、人、人、馬、人。
 見事に人だらけである。正直気が滅入った。
 打ち止めの身長はそこらの小学生と変わらない。
 この人の多さでは埋もれてしまい、見つけるのはとてもでは無いが無謀というものだ。
 しかし、一方通行は、そんな事など知らないとばかりに足を動かし始める。
「あァ、なンでこンなトコで居なくなりやがンだァ……俺に恨みでもありやがンのかァッ!?」
 恨み言を吐きつつ、一方通行は身体の状態も気にせず突っ走りはじめた。
 速い。
 地面に敷き詰められたアスファルトを砕くとまではいかないが、相当強い踏み込みの音が周りに響く。
 その音に驚き、道を開ける人々。
 一方通行は打ち止めを探して周りを見渡しつつ、モーゼの十戒の様に割られた人の群れの中を走っていく。
 しかし、それでも人の流れというものは常に変化するものだ。
「きゃぁっ!?」
 突如響く悲鳴。
 走ってでもいたのか、開いた道のど真ん中に飛び出して一方通行にぶつかり、勢い良く尻餅をつく少女。
「あァ?悪りィな、ぶつかっちまったかァ?」
 一方通行はそれを見て、自らにかかる慣性を適当に反射分散させて急ブレーキをかけた。
 一応、一方通行も僅かばかりの礼儀作法というものは身に付けているのだ。
 それでも、打ち止めと出会ってから大分マシになったという程度だが。
「あたた……うぅ、あなた、あぶな――ひッ!?」
「あン?」
 少女は一方通行の姿を見るといきなり怯えた表情になり、固まってしまった。
 一方通行は訝しげな顔をして目の前の少女を見る。
 紺色の、前のチャックを開けたジャージを着込み、長髪を後ろで二つに結った髪型。
 その髪の下には今にも泣き出しそうな怯えた少女の顔。
 どこかで見た事があった、と一方通行は思う。しかも、極最近に。
「ひ、あ……」
 一方通行が首を捻りながら誰だったか、と考えている間、少女は起き上がろうともせずに固まっていた。
 どうやら腰が抜けているようだ。
 ちなみに一方通行には怖がられる心当たりはありすぎる程あったりするので相変わらず気にしてはいない。
 その間にも一方通行は思考を走らせ、記憶を掘り起こす。
 学園都市最高の頭脳を持つ一方通行の記憶力は伊達では無い。
 目の前の少女と一致する姿を検索する。
 そうして数秒後、該当したのは―――、
「あァ、そうだ。オマエはあれか。あン時の三下かァ?」
 ビクリ、と少女の肩が跳ね上がる。
 少女は咄嗟に立ち上がって逃げようとするが、一方通行はそれを許さない。
 逃げようとする少女の両肩を掴むと、少女が以前に見た事があるような邪悪な笑みを浮かべて言った。
「丁度良い。オマエ、確か"空間移動"出来たよなァ?ちょっとやって貰いてェ事があンだけどよォ」
 一方通行の目の前では、少女が寒さに震えるハムスターの様に涙目で凄い勢いを付けつつ頷いていた。

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