とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 1-725

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匿名ユーザー

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突然だが、結標・淡希は"空間移動"の亜種である"座標移動"という珍しい能力の持ち主である。
 簡潔に言えば、手で触らずとも物体を座標Aから座標Bまで移動させる事が出来るという能力だ。
 しかし、結標の肩をガッシリと掴んでいる最強――"一方通行"の能力はその更に上を行っている。
 その能力とはあらゆる力の"ベクトル"の操作。
 ありとあらゆる攻撃を跳ね返し、己の力を倍加する能力はまさに最強の名に相応しいものだ。
 その最強は現在結標の肩をガッシリと掴んでいた。
 その表情はとても嬉しそうだ。
 まるで獲物に狙いを付けた肉食動物の様な獰猛な笑み。
……あ、死んだ。
 結標は知らず絵的に真っ白になった。
 金属を叩く音でも鳴らしたら良く響きそうな程の静寂が満ちる。
 周囲の雑踏などまるで気にしない。
 というか、まるでどこかのステージの様に結標と一方通行の居る場所は開けていた。
 なんだか他人が遠い。
 今居るのは狩人と獲物の二匹のみである。アデュオス、この世。こんにちはあの世。
 一方通行は魂の抜けている結標の肩から手を離しつつ、凶悪な笑みを引っ込めた。
 どうやらもう逃げる心配は無い、と思ったようだ。
 魂が抜けたままの結標は勿論、なんの反応も寄越さない。
「ンじゃ、いっちょ高く飛ばせ」
 いきなりの命令系。
 この少年、能力どころか性格まで理不尽のようだ。
 ハッ、と一方通行の声をきっかけに意識を三途の川付近に飛ばしていた現実へと戻ってくる結標。
 見上げてみれば、辺りをキョロキョロと見回している一方通行が目に入った。
 何か探し者だろうか、と結標は呆然とした頭で首を傾げるが、その様子に気づいた一方通行は、
「トロトロしてねェでさっさと飛ばせ」
「と、飛ばす?」
 イライラしたような視線を向けられて思わずたじろぐ。
 結標は状況を理解しようと脳が全力回転するがまだ結果を導き出すまでには至っていない。
 地響きがしたと思ったら誰かとぶつかり、注意の一つでもしてやろうかと思ったら、目の前には最強の能力者。
 これはなんの悪夢だろうと思う。
「だァーから、とっとと飛ばせつってンだろォが!」
「は、はひっ」
 声が思わず上擦る。
 しかし、結標は、そんな事すら気になら無い程混乱したまま能力を行使した。
 勿論そんな状況で使った能力が上手く行くはずもなく。
「……」
 一方通行がぽふ、と地面に着地した。
 総飛距離十センチ。結標・淡希、夢の新記録である。 
「あァ~……」
 一方通行は呆れた様な顔で声を出した後、表情をすぐさまとてつもなく良い笑顔に切り替る。
 そして、結標を首だけ動かして見下ろし、
「よォし、いっぺン死んでみっかァ?」
「ごごごご、ごめんなさいぃー!」
 涙目のまま左右へと凄い勢いで顔を横に振る結標。
 それにしてもこの結標、ビクビクである。
「次はねェと思え?」
「うぅぅ……なんなのよぉ……」
 良い笑顔のまま肩を叩く一方通行。なにやら肩がビリビリと痺れる。
 顔を向けて見れば、なにやら一方通行の手から青白い火花が出ていた。
「生体電気って、やろうと思えば結構出力出るンだよなァ」
「つ、謹んで受けさせていただくであります、ハイ!」
 尻餅をついたまま思わず敬礼をしてしまう。
 かなり間抜けな格好の上に涙目と合わさって何やら一種の同情すら感じさせる光景だ。
 実際、周囲の人々の哀れみの視線が痛い。
「悪りィな。ちっとバカがどっかにいっちまったもンだからよォ」
「悪いと思うなら最初から―――」
「血行を良くしてやンのもオツだよなァ?」
「と、飛んでけーっ!」
 即座に計算式を組み上げて一方通行を空高くに"座標移動"させる。
 先ほどまで一方通行が立っていた位置の遥か上空で、彼は何かを探すように周囲を見渡している。
……そういえば、"バカ"って誰の事かしら……?
 目の前から一時的にとは言え、悪夢が消え去り少しはまともな思考になる。
 一方通行が探すような重要人物。
……まさか、あの資料に載っていた女の子?
 写真で見た一方通行を支える少女が脳裏に浮かぶ。
 成る程、必死になるわけだ。
 あの少女が居なくなればあの学園都市最強は最強ではいられないのだから。
 そう、仮初でも"目的"が無ければ生きていられない、今の結標の様に。
「……」
 少しだけ。ほんの少しだけ、何故だか結標は一方通行に親近感を覚えた。
……何を馬鹿な。一方通行は復讐すべき敵なのよ。敵。
 頭を振ってその考えを振り払う。
 罅割れた心を支えるために必死になって否定する。
 それを認めたらまた心が砕けてしまいそうだから。

「っと、いやがらねェ。あのクソガキ……どこに行きやがったンだァ?」
 唐突に軽い足音を立てて着地してくる一方通行。
 十何メートルは飛ばしたはずなのにほとんど音も無く着地してくるなんてやっぱり化物だ。
 一方通行はコチラへと向き直り、何故か少しだけ驚いた顔をする。
 何かおかしい事でもあっただろうか、と首を傾げるが該当件数は零だ。
 ふと、一方通行は表情を切り替える。
 予想もしない表情、僅かながらも自然な笑みを漏らすものへとだ。
「あァ?まだ居やがったのか、三下」
「は、え?」
 思わぬ一方通行の表情と言葉に呆然とする。
 それもそうだろう、先程まで一方通行は遥か上空だったのだ。
 そんな状態で人探しとなれば、下にいる雑魚の事など、彼が気にすることはまずないだろう。
 それでも結標は逃げずに残っていた。
 心配されたとでも、一方通行は思ったのだろうか。
 実際はそんな事考えてもおらず、ただ単に考え事に耽っていただけなのだが。
「まァ、取り敢えずはだ――」
 一方通行はそのまま愉快そうに背を向け、片手を上げた。
 そのまま一歩歩き出して、呆然とする結標へと声をかける。
「――"アリガトウ"ってなァ。手伝い、感謝するぜ、三下」
 思わぬ発言だった。
 絶対にお礼なんて言うはずが無いと思っていた人物からの不意打ち。
 しかし、結標は何故か少しだけ、ほんの少しだけその言葉に妙な安らぎを覚えた。
 今はまだその妙な安らぎこそが結標の求めるもの、必要とされたいという願いの延長だという事も
 わかってはいないのだが――確かに結標の心に一つの強い願望が生まれた。
 その少しの、ほんの少しの妙な安らぎを、もっと欲しいと思ってしまったのだ。
 だから、計算なんかよりも先に体が動いた。
「ちょ、ちょっと待って!」
「あン?」
 気づいた時には結標は何故か一方通行の腕を掴んでいた。
 キョトンとした顔で振り向く一方通行。
 弾き飛ばされないトコロを見ると、どうやらぞんざいに扱う気はないらしい。
「なんだァ、三下。もう用はねェぞ?」
「そ、そうじゃなくて……」
 思わず手を離して、もそもそと結標は口の中で呟く。
 一方通行は呼び止められた事に少しだけイライラしているようだったが、
 取り敢えずはその様子を訝しげに見るだけだ。
 結標は深呼吸を一つ。思い切り勢いをつけて一方通行を指差しながら告げる。
「わ、私も人探しを手伝うから、携帯番号教えなさい!」
「……はァッ?!」 
 間を置いて、考えを纏め、思わず間抜けな声を雑踏の中で上げる一方通行。

 もう結標にも何がなんだかわからなかった。


    ○


「あれ?ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」
 青いワンピースを着込んだ幼い少女は、とある歩行者用道路の上で可愛らしく首を傾げた。
 薄い茶色というよりもオレンジ寄りのショートカットに頭頂部で揺れる髪の毛。
 ただいま現在進行形で自分で絶賛迷子中の"打ち止め"はうーん、と唸り始める。
「やっぱり離れ離れになってるんだなぁ、あっはっは、ってミサカはミサカは自暴自棄になってみる」
 腰に手を当て、豪快に笑う打ち止め。
 色々いっぱいいっぱいなのだ。
「はぁ……って、ミサカはミサカは一人寂しく溜息をついてみたり」
 しかし、その強がりもいつまでも続くわけでは無い。
 一頻り笑った後に来る虚無感。簡単に言えば虚しいだけだったりする。
「待てや、この馬鹿猫ぉおおおお!何時まで走らせる気だ、ぜぇぜぇ、おおおおおお!」
 何か暑苦しい叫び声が打ち止めの向いている方向。
 その右側に並ぶビルの間、恐らくは路地裏へと続く道から気合の声と共に凄まじい足音が聞こえてくる。
 そして飛び出してくる毛並みの良い猫とツンツン頭の少年。
 一瞬何事かと思ったが、ツンツン頭の少年の方には覚えがあった。
 打ち止めが直接会ったわけでは無い、しかし、確かに覚えがある顔だ。
 約一万人の同じ遺伝子を使って作られたクローン"妹達"。
 その一万人が己の能力を使い構成するミサカネットワークにより、打ち止めは少年を知っていた。
 上条・当麻。
 その右手に"最強"であろうと殴り倒すような力を秘めた"最弱"だ。
 つい数週間前に起こった事件でも"妹達"の一人、一〇〇三二号、御坂妹が世話になった少年だった。
「うぉおおおおおおおーッ!」
 太陽を背景に猫へと飛び掛る少年。
 そのまま見事に猫を抱きしめ、地面を二転、三転。停止する。
「……ミサカはミサカは思わぬデッドヒートに言葉を無くしてみる」
「あだだだ、つぅ、肘擦り剥いたぁ~」
 むしろ其の程度で済んでいるのはおかしいと思うのだが。
 呆然としている打ち止めを余所に猫を抱きかかえて起き上がる少年。
 打ち止めはそれよりも先に動きを取り戻し、少年へと駆け寄った。
 そのまま笑顔で頭を撫でている少年へと声をかける。
「大丈夫?ってミサカはミサカは優しげに心配してみたり」
「ん?あぁ、大丈夫って、ミサカ?ミサカって……ってうぉい、御坂妹が小さくなってやがる!?」
「む、失礼な。これでも一応ミサカは立派なレディだよ?ってミサカはミサカは胸を張りつつ主張してみる」
 猫が暴れるが上条は全く動じない。
 というよりも目の前の小さくなった御坂妹こと打ち止めに視線が釘付けになっていた。
「ど、どういう事でせうか!?これは狸型ロボットの新兵器のせいでございますか!?そうなんですね!?」
「あのー、もしもーし、聞こえてるー?ってミサカはミサカはジト目で手を振ってみたり、聞いて無いですか、そうですか、
 ってミサカはミサカは疲れたように肩を落としてみる、よよよとミサカはミサカは嘘泣きもしてみたり」
 暫くの間、猫が暴れる音と、少年の叫び声、そして少女の落胆の声が響いていた。
 道を行く人々が変な視線を送ってくるが気にしもしないそんな二人と一匹の組み合わせであった。


 一方其の頃、かなり離れた場所で結標が一方通行に対してある種の爆弾発言を放っていたのを打ち止めは知らない。

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