とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 1-747

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匿名ユーザー

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学園都市のとある商店街。
 其処を疾風のように走り去る一つの人影があった。
「ああぁあああああ―――ッ!」
 馬鹿みたいな叫び声が商店街に響く。
 道を行く人々の幾人かが驚きの表情で人影を見るが、その時には既に遥か遠くに走りさった後だった。
 その人影の正体――結標・淡希は顔を真っ赤にして走っていた。
 結標は数十秒前までの出来事を思い起こす。

『あァ?なんで俺がオマエに携帯の番号なんか―――』
『良いから教えて!』
 あの爆弾宣言から暫く固まっていた両者だったが、先に沈黙を破ったのは一方通行の方であった。
 しかし、一方通行の発言はすぐさま結標の悲鳴にも似た叫びに掻き消される。
 結標は自分でも何を言っているのかわからなくなりつつも、必死に一方通行を睨みつける。
 顔を真っ赤に染めた涙目の表情で迫られ、流石の最強も怯んだのか渋々と言った感じでポケットに手を突っ込む。
 一方通行の取り出した携帯を見るなり、結標も慌ててジャージの上着ポケットから携帯を取りだす。
 そして、互いの登録情報を交換して即座に、
『そ、それじゃ、見つかったら連絡するわ!じゃあね!』 
『あ?って、速ェな、ォイ!?』
 そのまま背を向けて走り去っていってしまったというわけだ。
 そして、現在に至る。

 正直なトコロ、結標は混乱していた。
 一体自分は何を考えているのか、それすらもわからないのだ。
 いや、本当はわかっているのだろう。
 しかし、それを認めてしまっては、それをキッカケに己の心を"以前"の様に自分で壊しかねない。
 それとは別の理由もかなりの割合で混じっている気もするのだが、それには目を向けようともしない。
……これは敵の情報を知るため!知るためなのよ!
 そう自分に言い聞かせてなんとか心の均整を保つ結標。
 その間にも彼女の疾走は止まらない。
 ついには商店街を抜け、道路へと出た。
 目の前にはアスファルトで固められた道路とそれを渡るための横断歩道。見上げてみれば信号が設置してある。
 結標は信号を碌に見ずにそのまま横断歩道を渡りきる。
 途中、なにやら叫び声と共に車のクラクションが鳴り響く。どうやら赤信号だったらしい。
 渡った場所から少し走ると今度は緑が豊かな公園へと突入した。
 と、ふと其処で結標は足を止める。
 そして、ジャージの上着ポケットから携帯を取りだす。
 二つ折りになるタイプの携帯を開き、幾つか操作をして電話帳を開いた。
 緊張のためか顔が真っ赤になっているが、それは走ったせいだと自分を納得させた。
「えぇっと……一方通行の電話番号は……」
 確認、確認、と携帯を弄り回す結標。
 そういえば本名知らないわね、などと思いつつ見覚えの無い名前を探して行く。
 暫くの間、平日のためか誰も居ない公園に携帯のボタンを押す電子音が響いた。
 しかし、一方通行の本名と思わしきものは一向に見つかる気配が無い。
……?
 首を傾げる結標。
 もう一度見るが、やはり見慣れた感じのする名前しか並んでいない。
 例えば、一方通行とか。
「………」
 見間違えたのかと、目を擦ってもう一度画面を見直す。

『一方通行 プロフィール』

「って、そのまま!?」
 期待を大きく裏切る変化球に思わず叫びを上げる結標。
 まさか呼び名をそのまま自分の携帯に登録するなど夢にも思わないだろう。
 面倒臭がってこんな風にしたのだろうか、それとも名前すら忘れたか。
 後者はなさそうなので恐らくは前者だろう、と結標は結論を出すと携帯を閉じて上着へと仕舞った。
 深呼吸を一つ。
 酸素を取り入れ、冷静になるため、脳を正常化させた後、すぐさま全力回転させ始める。
 よし、と気合を入れるために声を上げる。
 まずは状況の整理。
 一つ、少女を探しだして、一方通行に連絡する。
 二つ、少女から一方通行の弱点を聞きだす。
 三つ、少女を一方通行へ引き渡し、褒めて貰う。
 実は未だに冷静ではない思考の結標であったが、全く気にする様子もなく顎に手を当てて考えるポーズをとる。
……問題はどうやってあの子を探すかよね。弱点を聞きだすとしたら一方通行より先に見つけなきゃいけないし。
 一方通行がアレだけの上空から探したのに見つからなかったのだ。
 恐らくは、かなり遠く。
 もしくは何かビルの影になる様な場所に居るかのどちらかだろう。 
 取り敢えずは、
「足を使うしかないわね」
 そう言って結標は早速一歩踏み出す。

 何か踏みつけた。

「ひゃぁっ!?」
「だーうー」
 何事か、と結標は妙な感触のした地面を見る。
 其処にはなにやら白い衣装に身を包んだ少女が倒れていた。
 なにやら力無く倒れる少女の身を包む衣装は良く見れば昔見た本に乗っていた修道女の服の様にも見える。
 その暫定修道女は情けない声を上げつつ、コチラを見やる。
「お~な~か~す~い~た~」
「……」
 捨てられた子猫のような目と言うのが、この場合の表現としては正しいだろう。
 実際、少女の脇の下辺りから子猫が出てきて『いきなりすまないね、お嬢さん』的な視線を送っている。
 この場合、飼い主と猫と見るべきだろうが、なんとなく結標には逆に見えた。
 猫が保護者で少女が子猫っぽいのだ。
「おなかすいたって言ってるんだよ?」
「えぇっと……」
 今度は体を引き摺るようにしてコチラへと方向転換する少女。
 猫の方はしっかり少女の背中の上に避難している。
「……」
 目の前の少女はなんなのだろうか、と結標は考える。
……シスター、かしら?神学系の学校はこの辺りには無かったと思うけど。
 それにしても妙な衣装だと思う。
 なにしろ妙に豪奢な布を強引に安全ピンで止めている様な状態なのだ。
 見た目としてはかなり豪華さと仕上げのバランスが悪い。
 なんらかの意味合いがあるのだろうか、と結標が少女を凝視していると少女は、
「あのー、もしもし、聞いてる?」
「あ、ごめんね。なにかしら?」
 ハッと思考の海に埋没していた結標は現実に戻ってくる。
 それと同時に困ったような笑みを浮かべて目の前の暫定修道女である少女の目を見た。
 綺麗な碧眼に腰まではありそうな銀髪。
 どこをどう見ても日本人ではなさそうであったが、どうやら日本語は通じるようだ。
「えっと、とうまが道端で困ってたおばあさんの猫を探して走り去っちゃったから、お昼ご飯がないの」
 とうま、というのはどこかで聞いた事があったが、取り敢えずは保護者の事だろう、と結標は納得する。
「大変ね。それで、私はどうすればいいのかしら?出来る限りの事なら手伝うわよ?」
 すっかり子どもの相手モードに入った結標は笑顔を浮かべつつ腰を落として少女の顔を見る。
 整った可愛らしい顔だ、と結標が評価を下していると少女はパッと顔を輝かせるように表情を変えた。
 要求の予想は大体ついていた。
 恐らくは、保護者である"とうま"という人物を一緒に探して欲しいとかそういうものだろう。
 見た目でしか判断出来ないが、この年頃の少女は強がりと同時に寂しがり、怖がりでもあるのだ。
……人探しなら、コチラの探し人も見つけられて一石二鳥というものだし。
 結標は頭の中で人探しの計算も整えつつ、少女の次の言葉を待つ。
 少女は流石に初対面の人になにかを要求するのは躊躇っているのか、モジモジとした後、
「ほ、ほんとう?」
「ええ、本当。お姉さんになんでも言ってみなさい?」
 やはり躊躇いがちに聞いてくるが、結標は至って笑顔で応える。
 こういう子の相手は怖がらせてはいけない。
 笑顔で、優しく語りかけて上げるのが重要なのだ。
「それじゃあ……」
 言葉を続ける少女。
 なんとなく力がさっきより失われているようにも見える。
 そして、飛来した少女の言葉は少々結標の予想とは違うものであった。
「なにか、食べ物を分けてほしいかも……げふ」
 その言葉を最後にまた倒れ伏す少女。
 暫しの間。
 それほど長く無い間の後結標は思わず頬を書きつつ困ったような表情で苦笑いを一つ。

 なんだか今日はまだまだ忙しくなりそうであった。


   ○


「つまりアナタはおばあさんにこの猫を届けるの?ってミサカはミサカは並んで歩きつつ聞いてみる」
「ミサカはミサカは、って重複してるよなぁ――まあ、そうだな。家までの地図も貰ってるし」
 打ち止めと上条・当麻はとある商店街の道路を並んで歩いていた。
 先程、上条が歩道で、ついに猫を捕獲した時に出会ったのだが、最初は随分と驚いた。
 なにしろ、知っている少女が頭二つ分ほど縮んだように見えたのだ。
 それはもう、新手のスタンド攻撃とかそういうものかー!などと意味不明な事を叫びそうになるほどだった。
 なんとか落ち着き、自己紹介を済ませ、逃げようとした猫を確保するのに数十分。
 随分と時間が経ってしまった。
 周りでは、昼時だからか、この都市の象徴は科学だというのに無駄に熱い売り文句を叫ぶが響いている。
『安いよ安いよ!今ならこのサーモンピンクの河豚から取り出した実験食材がたったの――』
 訂正しよう、やはり此処も例に漏れず科学万歳な場所のようだ。
 その事実に半場安心しつつ、上条当麻は隣に並ぶ少女を見やる。
 つい一ヶ月とちょっと前に知り合った少女達、御坂妹を含む約一万人の"妹達"。
 その"妹達"全員に会ったわけでは無いが、この目の前の少女はなんとなく"妹達"の中でも特殊な気がした。
 なんとなくあの"妹達"独特の雰囲気とは違い、妙に活発的な雰囲気が漂っているのだ。
 今も物珍しそうに辺りを見回しては、変な物に興味を惹かれているようだ。
「おぉ、あれなんて中々格好良いかも、ってミサカはミサカは埴輪を見つつ目を輝かせてみる!」
 本当に楽しそうだなぁ、と上条は笑顔で打ち止めの指さした方向を見る。
 其処には、山積みにされた、妙にリアルに人の顔を模した埴輪があった。
 正直、それが山積みになっている景色は不気味を通り越してある意味、荘厳だ。
「はは……」
 思わず笑顔が引きつる上条。
 やはりこの少女の感性は特殊で、少々斜め上に行っているようだ。
「おぉ、あれも珍しい!ってミサカはミサカは駆け寄って行ったりするー!」
 楽しそうに左右に展開する店の前に飾られた展示品などの前を行ったり来たりする打ち止め。
 どうやら出かけたりするのは稀らしい、と上条は微笑ましい光景を見つつ思う。
 猫が腕の中で欠伸をかく。
 どうやら追いかけている間に良きライバルとかそういうものと思われてしまったらしい、妙に友好的だ。
「まぁ、取り敢えずは……」
 今日は平和だなぁ、と何か記憶の隅で蠢く白い悪魔の存在を敢えて忘れつつ、上条は空を見上げる。
 取り敢えずは商店街の空はテントの様な物で隠されていて見えなかった。
 視線を戻せば、打ち止めがまだまだ元気そうに走り回っていた。
 そういえば、と上条は頭の隅に引っかかった事を言葉にする。
「そういやさ、お前、一体誰と此処まで来たんだ?」
「あ、そうそう。とミサカはミサカはアナタの下へ戻ってきつつ頭の中で情報を整理してみたり」
 独特な口調にもそろそろ慣れ始めた上条の腕の中で猫が鳴く。
 再び上条の横に並んだ打ち止めは自分が何故一人で居たか、何故相方が迷子になったか。
 その理由を、色々改変しつつ話始めるのであった。


   ○


「オイ、ちっと悪リィが」
「あ、え、は、はい………?」
 一方通行はいくら探しても見つからない現状に少しだけイラだっていた。
 これだけ探して見つからないという事は相当遠くに行っているか、影にいるかという事だ。
 それならば、しらみつぶしに探しても良いがそれでは買い物の時間が無くなってしまう。
 それだけは避けたかった。
 なにしろ、リハビリという名目で連れてこられたものの、未だに体は痛むし、動きずらい。
 一人、助っ人を得たものの、碌に打ち止めの姿格好も聞かずに飛び出してしまったため当てにならない。
 というわけで、最も簡単な方法―――人に尋ねるという手に出たわけだ。
 ちなみに声をかけた少女は背格好から見て、恐らくは高校生と見れる人物だった。
 茶色の混じった腰まである黒髪を、頭の横で一房だけゴムで縛り、ピョコンと飛び出させている。
 そして、顔にはフレームの細い知的そうに見える眼鏡。
 なぜか眼鏡は妙にずり落ちているように見えた。伊達だろうか。
「この辺で、こンな感じのガキ見なかったかァ?」
 そう言ってポケットからメモ帳を取り出して開き、少女へと突き出す。
 そのメモ帳には妙に上手い打ち止めの似顔絵が一枚書かれていた。
「えと……見て、ません。ゴメンナサイ……」
「そうか。邪魔ァしたな」
 オドオドとした少女に言うなり、早速再び歩き出そうとする一方通行。
 そんな一方通行へと慌てて少女は、
「あ、ちょ、ちょっと……待って、下さいっ!」
「あン?」
 少女の声に気づいて振り向く一方通行。
 振り向いた先では少女がもじもじと何か言おうしていた。
 どうやら、目の前の少女は人見知りをするタイプのようだ。
 というか、今日は妙にこういうシュチュエーションに出会う確率が高いような気がする。
 暫くすると、少女は意を決したように口を開いた。
「あの、インデッ――あ、白いシスターさんを見ませんでしたか……?私の、友達なんです……」
「しすたァ?」
 出てきた珍しい単語に首を傾げる一方通行。
 シスター。
 "妹達"の上位体である少女なら毎日のように朝から晩まで見ているが、白いのは見た事が無い。
「あ、えっと、修道女さん、の事です……」
「あァ?そっちかよ。なら見た覚えはねェなァ。悪リィけどよォ」
「そ、そうですか……」
 しょんぼりと言った感じで肩を落とす少女。
 頭の横に出た髪も少女の感情を表すようにヘニャリといった感じに萎れていた。
 手伝ってやるか?という考えが一瞬鎌首をもたげるが、一方通行も一応人探し中だ。
 目の前の少女には悪いが、手伝っている暇は無いのである。
「ンじゃ、俺ァ失礼するぜ」
「あ、ま、待って……ッ!」
「ごふゥッ!?」
 いきなり襟首を掴まれて首が締まった。
 いつもなら反射している所だが、演算補助装置の電源の都合上今はつけていないのだ。
 したがって、一方通行は生き物の作りとして正常に、息が詰まり、思い切り咳き込んだ。
 思わず蹲り、ぜぇはぁ、と呼吸を正すのに数秒。
 立ち直り次第、思い切り立ち上がり、少女へと再び向き直る。
「なァにしやがるンだ、コラァッ!」
「ひっ……ご、ごめんなさい、その……」
 思いきり怒鳴りつけるが、目の前の少女が泣きそうな顔でコチラを見ているのでそれ以上は言えない。
 一方通行にも良心というものはあるのだ。
 目の前の少女は先程と同じようにもじもじとしていた。
 このパターンにそろそろ飽き飽きしていた一方通行は腕を組み、爪先でリズムを取るように地面を叩き始める。
「言え」
「で、でも……」
「いいから言え」
「う、は、はい……」
 その顔は口は引きつった笑いを浮かべているが、目はイラつきを宿したものだった。
 一応、目の前の少女が言いやすいように笑顔で言うつもりだったのだが、失敗したようだ。
 少女は相変わらず泣きそうな、または小動物の様なとも例えられる表情で、一方通行を見た後。

「実は、私……」
 少女は決心したかのようにかなり大きい胸の前で両手の拳を握り締め、

「ま、迷子なんです……ッ!」
 一方通行の時が止まった。

「……あ、あの……?」
「……はァ」
 少女が困った様な表情で見てくるが、それに構わず溜息を一つつく一方通行。
 そのまま虚ろな目で空を見上げて一方通行は思う。
……なンでェまた、今日に限ってこんな面倒ごとだらけなンだァ……?
 その頃、眼鏡の少女は相変わらず一方通行を見てオロオロしていた。

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