とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 1-860

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匿名ユーザー

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<4> ~力の行方~


 暗い路地裏にある広場。
 白い、服装も髪もが白い学園都市最強の能力者――一方通行は広場の壁に沿う様にして駆けていた。
 その速度は今の彼にとって全力疾走と言えるものだ。
 しかし、その学園都市最強の能力者であるはずの彼の全力疾走についてくる者が居た。
 その人物とは、金色の短髪に薄い青のサングラスを掛けた大男だ。
 彼は口元に笑みを浮かべつつどこから取り出したのか赤いリボンを両手に掲げつつ叫ぶ。
「ツンデレにはツインテールと決まってるんだにゃぁーっ!」
「知るかァあああああああああああああ!?」
 とある幻想殺しの少年が聞いたらその場でずっこけそうな言葉を放ちながら、しかし男は足を止めない。
 否、むしろスピードが上がってるようにも見えた。
 一方通行はそれに対してどうしてこの様な事になったのかを思い返す。

 思えば、制裁を加えようと男の頭にそこそこ力を加えたチョップを一発振り下ろした所から始まったのだ。
 一方通行の攻撃。
 それは当たれば人を気絶させるほどの衝撃を持った一撃――のはずだったのだ。
 しかし、実際にはぽすっと可愛らしい音を立てて男の髪に僅かにめり込んだだけ。
 何事かと思えば一方通行の能力の要でもある演算補助装置の一部の機能が故障でもしたのか止まっているという事態。
 顔を青くする一方通行に対して男は立ち上がり、三日月のような笑みを見せ――。

 そして、現在に至る。
 詰まるところ、形勢逆転。一方通行の方がピンチに陥ったわけである。
「チィッ!」
 舌打ちするが、演算補助装置は相変わらず少ししか動かない。
 それでも身体機能を通常レベルまで持っていける程度まで動いているのは僥倖と言うべきか。
 だが、男から逃げきれる速度でも無いし、迎撃できるような力も今は無い。
 せいぜいが内部でどうにか足への負担を極力軽減するための反射をしたり出来る程度だ。
 どうにか男から逃げ切るための作戦を思案するが、広場の中心でオロオロとしている眼鏡を掛けた少女がいる限りは
 迂闊に此処を離れるわけにもいかない。
 一方通行が逃げ出した途端に今度は『眼鏡っ娘にはおさげだにゃーっ!』とか言って襲いかかりかねない。
 いや、この男ならするだろう、と後ろから迫り来る男の事を独断と偏見で判断しつつ一方通行は思う。
 何かキッカケが来るまで走りまわっているのも良いが、それでは演算補助装置の電源が持つかわからないし、
 何時、男がターゲットを一方通行から風斬に変更するのかわからない。
 これではイタチゴッコだ。
 ならば――、
「にゃっ!?」
 別に猫の鳴き声ではない。
 一方通行が一か八か迎撃しようとして振り向き、見事に体勢を崩した際に出した声だ。
……くァっ!ちくしょうがっ!反射の設定変更が間に合わなかっただァ!?
 それはつまり、演算補助装置の機能がかなり落ちていると同時に目の前の男との距離を詰めてしまうと――。
 男は空を舞っていた。
 まるでそれはコチラへとダイブしてくるような格好でまさに両手を開いて一方通行を抱き締めようとしているような。
 一方通行はそれを零コンマ何秒の世界で判断し、顔を引き攣らせて口を開いた。
「ぎゃァああああああああああああああああ!?」
 ドサリと乾いた音が路地裏に響いた。

   ○

「ん?」
 昼の日の光が窓から差し込み燦々と店内を照らしている中、少女が首を傾げる。
 その少女は髪を後ろで二つに分けて縛るという髪型をしており、上半身に白いティーシャツ、そしてその上から羽織った
 紺色のジャージの上着。下半身には羽織ったものと同じ色のジャージのズボンといった格好をしていた。
 その少女――座標移動の能力者こと結標・淡希は窓の外を見やりつつ再度首を傾げた。
「どうしたの、あわき?」
 結標を不思議そうな顔で見るのは白い修道服に身を包んだ銀髪碧眼の少女――インデックスだ。
 彼女の真横に座った結標はなんでもないわ、とインデックスに手を振るが、確かに何かが聞こえた。
 しかも、それは誰かが助けを呼ぶような声だった様な気がする。
「結標先輩。大丈夫?」
 うぅんと結標が手を組み唸っていると真横から声がした。
 インデックスの目の前に座る巫女服を纏った見本のような和風を体現した少女――姫神・秋沙がこちらを見ていたのだ。
 彼女はあまり表情は変えないものの中々人に気を使うタイプなのか何故かティッシュを差し出してきている。
「……なんでティッシュ?」
「調子が悪いのかと」
 やっぱり何を考えているのか良くわからないタイプの子だ。
 ティッシュを受け取ってからお礼を言って、席に戻って正面を向くとニコニコとした笑顔のどう見ても小学生にしか見えない
 少女――一応、先生らしい月詠・小萌が視線を結標へと向けていた。
 その表情は凄まじく上機嫌な笑顔だ。
「えっと――小萌先生、でしたよね?」
「えぇ、そうですよー」
 ものっすごくご機嫌な声で返された。
 何か彼女の機嫌を良くなるような事をしただろうか?と思うが、恐らくは特にしていない筈だ。
 ならば、何故か――それは本人に聞くのが一番手っ取り早いだろう。
「何か良いことでもあったんですか?」
「えへへへー」
 小萌は笑うばかり。
 結標は、無邪気というかなんだかその辺りを通り越した小萌の笑みに思わず身を引いてしまう。
 それでも小萌は笑みを浮かべるのを止めない。
 なんだか段々追い込まれているような気分になってきた。
「あの、なにか私、悪い事でもしたでしょうか……?」
 なんとなく居心地が悪くなって縮こまりつつ聞いてみる。
 すると、小萌は相変わらずの笑顔で頬に片手を当てて、
「あ、いえー、特に結標ちゃんが悪い事をしたわけではないのですよー?ただ――嬉しくって」
「嬉しい?」
 予想外の発言に思わずキョトンとした表情になってしまう。
 何故という疑問よりも先に言葉の方が出てしまったが、特に問題はないだろう。
「えぇ、話に聞いてたよりもずっと良い子で良かったと思いまして」
「え?」
 心臓を鷲掴みにされたような感覚が結標を襲った。
 この目の前の女性は自分の事を知っているというのか。しかも昔の自分を。
 鷲掴みにされた様に縮んだ心臓が鼓動を早める。
 考えすぎだと、冷静な部分が叫ぶ。
 結標自身もそう思うが、走り出した勢いは止まらない。
 脳裏に走る一つの記憶。
 自分が■を■■■人間だという事はもう変えられない――。
……あ、あう、あああ……。
 思考が停滞する。
 頭に浮かぶのは血まみれで倒れる少女と、それを笑い嘲り蹴り飛ばす自分。
 違う違うと否定してもそれは既に起こった現実で、それは紛れもなく自分の正体。
「あわき?」
「!」
 インデックスの声に現実に引き戻された。
「大丈夫?汗びっしょりだよ?」
「だ、大丈夫よ……私、病み上がりなもんだから。本当、大丈夫よ」
 先程姫神に渡されたティッシュで顔全体を拭う。
 ティッシュはすぐさま濡れて使い物にならなくなってしまった。
 こんなに汗をかいていたのか、と結標は自分の体ながら感心してしまう。
「む。無理はいけないのですよー?」
 メッと指を突きつけてくる小萌を見る限りでは、自分の事をそこまで深くは知っていなさそうだ。
 自分の深読みのしすぎだろう、と今度こそ結論付けて心を落ち着ける。
 しかし、と結標は思う。
 自分は自らの犯した罪から逃れようとしていたのかと。
 あの白井・黒子は、そしてあの"残骸"を巡って起こった事件で仲間だった者達は今の結標を見てなんと言うだろうか。
 前者は喜んでくれるかもしれないが、後者はきっと自分を軽蔑するだろう。
「結標先輩。何か思うところがあるなら。言ったほうが良い」
「え?」
 考え込んでいると斜め隣から声が飛んできた。
 声の出所は姫神だ。
 相変わらず何を考えているかわからない表情ではあったが――その目はしっかりと結標を見ていた。
「いや、私は別に――」
「だめ」
 姫神は無表情のまま、
「きっと結標先輩の悩みは。たぶんだけど。溜め込んだままだといつか結標先輩を傷つける」
 結標は息を呑んだ。
 それと同時にその目を見て感じた。
 恐らくだが――姫神は結標と同じ様な境遇の人物だ、と。
 力を持つ余り、その力に恐怖する者。
 白井・黒子にアレだけ言われても変わらない自分の根本。
 結標は姫神の瞳から目を逸らし、しばし逡巡。
 少しの沈黙が場に落ちる。
 他の皆は結標の言葉を待つかの様に口を閉じていた。
「もしも」
 結標は皆の視線に応える様に口を開くが、そこで一旦区切り躊躇い区切る。
 そして、更に迷い、しかし暫くして再び口を開いた。
「もしも、私が人を簡単に殺せるような殺人鬼だったとしたら……どうする?」
 場の空気が一瞬固まる。
 それはそうだろう、もしもではない。
 結標・淡希は本当に思っただけで、簡単に人が殺せるのだから。
 そんな力を持っているのだから。

 しかし、姫神は動じなかった。彼女は顔を横に振りつつ、
「どうもしない」
「どうもしない?」
 結標は僅かに眉を寄せる。
 姫神はそれを見ても別段気にすることはないという風に表情も変えずに結標を見る。
「結標先輩は人を傷つけたい――殺したいと思ってる?」
 その言葉に今度は結標が固まってしまった。
「そ、そんなわけないじゃ――」
「じゃあ。大丈夫」
 姫神は僅かに微笑むような表情になり、
「貴女は私と似てる。でも。一緒じゃない。貴女は優しい人」
 意外な言葉を放った。
 その言葉に結標は固まり、しかし、目を逸らし、
「……優しくないわよ。私は一度人を殺そうとしたわ……それなのに……」
 呟くようなボソボソとした声で言った。
 すると、姫神はまるで用意していたようにすぐさま疑問を口にする。
「でも。殺してはいない?」
 何を結果論を、と言おうとしたところで姫神に目を奪われた。
 強い瞳。
 そこには達観したような、しかし何か違う強さが感じられる意思の力を持った少女が居た。
「あ……」
 違った。
 この少女は結標と同じなんかではない。
 何かわからないが――彼女は自分よりもとんでもなく重いものを背負っていた。
 そして、同時に結標よりも遥か先を既に歩んでいる人間だという事も理解する。
 瞳に宿った意思がそれを結標に伝える。
「あわき、あいさ……?」
 インデックスが心配そうに結標と姫神を交互に見やると同時、姫神は笑みを浮かべて言った。
「だから。大丈夫。貴女は人を助けられる」
 それは、姫神にとってどれだけ重い言葉なのか。
 少なくとも姫神が偽善や気遣いで言っているわけではないのは確かだ。
 彼女の言葉には嘘が感じられない。
 結標はそんな姫神の言葉を受けて溜息を一つ。
「……ありがとう、姫神さん。だめね、私。年上なのに年下の子に助けられてばかりだわ」
 なんで自分はこんなにグダグダと何時までも迷っているのだろうと思う。
 同時に情けない、心まで腐っていたか、と自分自身を叱咤する。
「ん」
 しかし、姫神は和やかな笑みを浮かべて頷き、
「今度返してもらうから。平気」
「ええ、是非に」
 結標も眉は多少下がっているもののその頷きに笑みで応える。
 場に暖かい空気が戻り初めた。
「えーっと、もしかして先生の介入する余地なく解決しちゃいましたか?」
 頬を掻きつつ困ったような表情をする小萌と、状況が全く把握出来ていないインデックス。
 その二人を見て姫神と結標は顔を見合わせ、再びくすくすと笑みを漏らした。
 その時だ。

「御取り込み中のところ宜しいでしょうか?」

 静謐な、しかし礼儀正しい女性の声が聞こえた。
「「「ひゃあッ!?」」」
 唐突にすぐ近くから聞こえた声。
 その声の近さに驚いて結標達から絶叫が上がった。
 急いでそちらを見れば突然現れたかのに、女性に一人の女性が立っていた。
 唯一悲鳴を上げなかった姫神はその女性を見て首を傾げ、
「メイドさん?」
「メイドで御座います」
 姫神の疑問に会釈を返した女性はやはり姫神の言う通りメイド服をキッチリと着込んでいた。
 顔を上げたその女性を一言で表すならば美人という言葉が一番適切だろう。
 腰ほどまである黒の長髪を結ってポニーテールにした髪型にスラリとした長身。
 黒髪の下の鋭い目つきが凛々しく。
 女性の魅力を一段と引き出していた。
「かおり……?」
 その女性を見たインデックスが疑問の声を上げる。
 対して女性は無表情にしかし、確認するかのように皆を視界に納めて、
「再度確認しますが、よろしいですか?」
 小首を傾げた。

   ○

「マフィンうまー、ってミサカはミサカはこのほどよい甘味に感嘆の声を漏らしてみる」
 薄い茶色の髪に頭頂部から一本だけピョコンと出た毛が特徴の幼い少女。
 彼女は青いワンピースを着込んだその胸に紙袋を抱えて、片手に食べかけのマフィンを持っている。
 その青いワンピースを着込んだ少女――打ち止めは隣を歩く少年と共にとある研究施設から出てくるところだった。
「まさか研究所の人だったなんてな……教員だと思ってたんだが」
「動物の病気を治すための薬を研究してるんだってね、ってミサカはミサカはアナタの持ったパンフレットを見つつ言ったり」
 研究所のパンフレットを開きながら打ち止めの隣を歩くのは、髪をツンツンと立てた少年――上条・当麻だ。
 彼の格好はティーシャツに青いズボンと言った動きやすそうな服装だ。
「それで猫好きか。しっかし、まさかそんなものまで貰えるとは、もしかして上条さん久々のラッキーですか?」
「それはないね、ってミサカはミサカは断言してみたり。むしろミサカの運の賜物?ってミサカはミサカは胸を張ってみる」
「くぅ……っ、あながちそうじゃないとも言えねー自分の運が呪わしい!」
「アナタは絶望的に運が悪いみたいだからねー、ってミサカはミサカは同情の目でアナタを見てみる」
 そんな目で見るなー!と叫ぶ上条を見つつ打ち止めはマフィンを一口。
「でも、運は悪い筈なのにアナタの周りに女の子が集まるのはなんでだろう、ってミサカはミサカはミサカ一○○三二号から愚痴られた事をそのまま伝えてみたり」
 うぅっ、と怯む上条。
 それを横目で見やりつつ、打ち止めは目を閉じてマフィンを回しつつ、
「そろそろ本命を決めないといつか背中からグッサリやられるかもしれないよー、ってミサカはミサカは忠告してみたり」
「へ?本命?」
「……」
……あー、これはホンモノかも、ってミサカはミサカはオリジナルやミサカ一○○三二号の先行きを心配してみる。
 彼の場合、少し無理してでも矯正しないとこのまま無尽蔵にフラグを立て続けそうな気もする。
 今度強めにアタックをかけてみる事を進めようと思うが、オリジナルとミサカ一○○三二号のどちらを応援するべきか。
 うぅむ、と考え込むがここは近い存在としてミサカ一○○三二号を応援――。
 いや、しかし、オリジナルの顔を立てるのもクローンとしての義理かもしれない。
……アチラを立てれば片方が立たずの状態かも、ってミサカはミサカは大人の事情に困ってみる、むむむ。
「どうした?」
「んー、ミサカはアナタの事が心配でたまらないかもしれない、ってミサカはミサカは少し真剣に考えてみたり」
 は?と首を傾げる上条には、やはり彼女達の好意に気づいている様子はない。
 どうしたものか、と思うがここは当人達に任せた方がいいだろう、と打ち止めは無責任に結論付けて頷く。
「って、何やってるの?ってミサカはミサカは何時の間にか後方にいるアナタに声をかけてみたり」
「ん?ああ、ちょっと危ねぇモンが落ちてたんで清掃ロボに乗せてたんだ」
「えー、ミサカも見たかったーってミサカはミサカは唇を尖らせてブーたれてみたり」
「やめとけやめとけ、割れた鏡なんて危ないモン見ても仕方ないだろ」
 ブーッと唇を尖らせる打ち止めを上条は無視。
 仕方が無いので、上条を半目で見つつマフィンを頬張る。
「でも、お前の保護者ってどんなヤツなんだ?確か白いんだっけか?」
「うん、メッチャクチャ白いからすぐわかると思う、ってミサカはミサカは自信ありげに言ってみたり」
「白髪なのか?」
「うん、ついでに今日は服も白いよってミサカはミサカは更にわかりやすく付け足してみたり」
「……確かにわかりやすそうだけど、一体どんなヤツだ」
 何を想像したのか嫌そうな表情になる上条。
 それを見て打ち止めはんーっ、とマフィンを甘噛みしつつどういう風に説明すべきか頭の中でまとめ上げる。
「んー、ぶっきらぼうだけど悪い人ではないよー、たぶん、ってミサカはミサカは目を逸らしつつ言ってみたり」
「って、目逸らすな!?上条さん、いきなり不安になったんですがーっ!?」
 敢えて名前は言わない。
 いきなり遭遇させて上条と一方通行を驚かしたいというのもあるが、正直上条に今逃げられるのも困るからだ。
 地味に腹黒い幼女の打ち止めであった。
「おやや?ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」
「ん、どうした?」
「メイドさんが歩いてるのを発見!ってミサカはミサカは初めて見る実物にはしゃいでみたり」
「別にこの街じゃ珍しくもないんだけどな――って舞夏じゃねーか」  
 舞夏っていうのか、と思いつつ打ち止めは視線の先をウロウロと歩いているメイドを見る。
 メイド服をキッチリと着込んだ見た目十三、四の少女だ。
 打ち止めが好奇心のままにジーッと凝視していると、彼女は気づいたのかコチラへと向かってくる。
「おーっす、上条当麻」
「いよっす」
「いよーっす、ってミサカはミサカは真似をしてみたり。というかアナタって本当に色んな人と知り合いなんだねってミサカはミサカは素直に感心してみる」
 舞夏は上条を見た後に打ち止めを見やり首を傾げる。
「んー?誰だ、このチビッ子はー?」
「ん、あぁ、チビ御坂こと……えーっと、そういえば、なんて名前なんだ」
「あ、ミサカの事は"打ち止め"って呼んで貰えればいいかも、ってミサカはミサカは自己紹介してみる」
 舞夏は其の名前を聞いてポンと手を打ち。
「おぉー、誰かに似てると思えば、結構前に会ったあの福引大作戦の人のチビッコ版かー。で、姉妹?」
「……なんだか妙な表現だけどそんな感じだ」
 ふむ、と舞夏は頷くと打ち止めへと向き直り、口元に笑みを浮かべつつ妙に間延びした口調で右手を差し出す。
「土御門舞夏だ。宜しくなー」
「宜しくねー、ってミサカはミサカは新たな知り合いの獲得に喜んでみたり」
 笑顔で舞夏の手を取る。
 その様子を見ていた上条だったが、何か気になったのか舞夏を見て、
「なんか違和感があると思ったら、お前が徒歩なんて珍しいな」
「あー、そうそう。私のロボットなんだけど知らないかー?」
 お前のじゃないだろう、と上条が言うが舞夏は特に気にするつもりもないらしい。
「それならさっきあっちに向かってったぞ。あと清掃ロボットにマーク描くのはやめとけ」
「わかりやすいからなー。とりあえず、ありがとなー」
 言うと同時に上条の指差した方向に歩きだす舞夏。
 最後に打ち止め達へとばいばい、と手を振って人ごみの中に消えていった。
「さて、行くか。っていっても、どこから探したもんだかなぁ」
 上条は頭を掻きながら舞夏の去った方向とは逆方向に向き直る。
 まぁ、と前置きして打ち止めは上条へと笑顔を向け、
「歩いていればそのうち見つかるかも、ってミサカはミサカは楽観的に期待してみる」
「お前の事なんだけどな」
 えへへー、と笑う打ち止めを見て上条は溜息をつきながらも再び歩きだした。


   ○


「おー、いたいた」
 上条達が居た地点から少し離れた場所。
 土御門・舞夏は上条達と別れた後、暫くしてようやく念願の戦友を見つけていた。
 清掃ロボットに駆け寄ると早速取りついて、わかりやすいようにと描いたマークを確認する。
 よしよし、と頷き清掃ロボットの頭頂部に手をひっかける。
 そのまま勢い良く身を持ち上げて座ろうとし、
「む?」
 ロボットの頭頂部に何か光を反射するものを発見した。
 それは白い枠の付いた物体を映し出すもの――鏡。
 しかし、その鏡は肝心のの鏡の部分が罅割れていて使いものにならないようだ。
 舞夏はそれを拾って眉を顰めつつ、
「ポイ捨てとはけしからんやつめー」
 数度、裏から叩く。
 その結果、破片が飛び散る危険性はないと判断し、おもむろに背負ったバックの中に放り込んだ。
 それから改めて清掃ロボットの上に座りなおすと、
「よし、れっつごー」
 彼女の掛け声に呼応するかの様に今まで止まっていたロボットが動き出す。
 向かう先は舞夏の兄――土御門・元春が住んでいる男子寮だ。
 今日はなにして遊ぶかー、と舞夏は色々な案を頭の中で浮かべつつ楽しそうに身を揺らすのであった。


   ○


「後藤……」
「あぁ、みなまで言うな井上……」
 高校の制服を着込んだ短髪の少年――後藤は去りいくチビッコメイドを見つつ言う。
「なんかバックが点滅してるけど、大丈夫だろうか」
 彼の言った通り、チビッコメイドの背負ったバックは赤くリズムを持って点滅していた。
「後藤よ、知らぬだろうがアレが最新のファッションなのだ」
「なに!?それは本当なのか井上?!」  
 最近学園都市に来たばかり、その上心根が純粋な後藤は瞳を輝かせつつ叫ぶ。
 それに対して長髪の制服を着込んだ少女――井上は清々しいほどの笑顔で後藤へと頷きこう断言した。
「嘘に決まってるだろう」


 後藤は灰になった。

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