とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 1-912

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匿名ユーザー

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プロローグ
1-(1)

とある日曜日の朝。異変というほどの異変でもないが、自分の体に異変が起きたと感じたのは今朝眼が覚めてからのことだった。
「何だ、コレ?」
少年、日本人特有の黒髪をツンツンに逆立てているごく普通の高校生である上条当麻は自分の左手を見つめながらポツリと呟いた。
「刺青?」
上条の左手に見えるのは薄赤色の紋章のようなものだった。曲線が三本絡み合ったようにデザインされたソレはくっきりと一般人上条当麻の左手甲に刻まれていた。痛み、というものは感じないものの先ほど、朝目覚めた時からドッシリと重い、何か表現しがたいものを感じる。上条はこの奇怪な紋章から妙に嫌なものを感じたが、体の他の箇所には別段いつもと変わったところはなく、むしろいつもより快調である。
「・・・・・・」
上条はいつものように起き上がり、いつものように居間に向かう。それはいつもと変わらない朝の光景。何ら変わらないはずの変わりばえもしないくだらない毎日だった。だが、何かがいつもと違う。居間には腹を空かせてグゥグゥ言っている銀髪シスター少女インデックスはいるし、朝の日差しだっていつもどおりだ。だけど、そのただひとついつもと違う違和感だけが妙に上条当麻の気に掛かる。何となく窓から外を眺めてみるが、これもやはり異常はなし。頭の中に残る妙な違和感を残したまま、テーブルで項垂れるインデックスの為に五枚百五円の食パンを手にトースタへと向かう。二つの穴にそれぞれ食パンを一枚ずつ投入すると、上条はインデックスと向かい合うようにして席についた。
「とうまぁぁぁ、お腹減ったぁぁぁぁぁ」
顔を突っ伏したまま声を上げる食欲魔人に半ば呆れつつ、声を返す。
「開口一番ソレか。っつか、お前はもっと我慢ってもんを覚えるべきだ。うん。大人になったら困るぞ。うん。」
「我慢したもんっ!少なくとも十分以上は我慢したもん!!」
「アホかっ」
と、ここで吹き飛ぶ二枚の食パン。まるで図ったかのように上条とインデックスの皿にいい感じで焼けた食パンが滑り込んでくる。よく分からないが、昨日この部屋に届けられたソレはマイクロマニピュレーターとかいう超小型精密機械を内包した学園都市製の新モデルで、何やら熱源やら空気の歪みやらを感じて皿の位置を識別、その位置にめがけて寸分の違いもなく射出するとか言うとんでもなく高性能でとてつもなく無駄な家庭用品だった。どういうわけか、上条の部屋にはこういった新製品が増えている。いや、理由も何もない。高性能トースタやら全自動識別ドラム型洗濯機などの学園都市製マシーンの数々は全てイギリスの『必要悪の教会』から送られてくるものだ。しかも、宛先は『神裂火織』か『ステイル=マグヌス』である。何やら必要悪の教会のトップがこういったものをお近づきの印に大量に貰っているらしく、溜まっていらなくなった品々を神裂などの下の人間に回し、さらにそこでも溜まった製品が何故かこの家に運び込まれてくるのである。昨日などはステイルから意味不明な選挙の時に使うような巨大ダルマが送られてきてその処分に困ったものだ。全く、一連の事件でここの住所を教えたのは甚だ不幸だと上条当麻は切に理解した。
「む、このパンの焼き応えはピッタリかも!カリカリっとしてて、中はフワッとしてる!!」
言われて一口かじってみる。ふむ、なるほど確かに絶妙な感じに仕上がっている。これはこれで中々得をした商品なのかもしれない。無論、タダならの話だが。
「あ、そだ」
上条は思い出したように言葉を放つ。もちろん、その矛先は目の前の少女だ。上条は右手で持っているパンをひとまず皿に置き、左手をテーブルの下から出して真中辺りに伸ばしてインデックスの目に入るようにした。インデックスは気づいているのか、いないのか幸せそうに食パンをハムハムとかじっている。
「今朝、これが急に現れたんだけどさ、お前何か分かるか?」
直球で尋ねる。もとより、他に聞き方はない。インデックスは気だるそうにパンから口を離し、モグモグしながら上条の左手の紋章をジーッと見つめると、少しウーと唸ってから突然
―― 有り得ないものを見たかのように驚きに目を見開いた。
それは驚愕と言うよりは困惑。インデックスは思わず手にあったパンを落とし、上条の左手を両手で掴んだ。上条に理由は分からないが、その口元が小さく震えている。と、訳の分からない上条はインデックス以上に混乱していた時
「令・・・呪・・・・?」
と唇同様に震える声でインデックスはそう小さく呟いた。
「は?れいじゅ?」
聞きなれない単語だった。もちろん、その単語の響きからは穏やかな風情など感じない。上条は先ほどのインデックスの剣幕に未だに心臓をバクバクさせながら怪訝な表情で目の前の少女の回答を待った。
「令呪。聖杯戦争におけるマスターの証であると共に、付き従えるサーヴァントに与える三回だけど絶対命令権」
「は?何、聖杯?マスター?サーヴァント?」
ますます訳の分からない上条をよそにインデックスは先ほどの興奮のままに独り言のように解説を続ける。
「聖杯戦争っていうのは、十年ほど前に日本のある都市で行われた聖杯を巡る七人の魔術師の争いのことだよ。七人の魔術師はそれぞれマスターとして七つのクラスに割り振られたサーヴァントを一体使役するの。そして、サーヴァント同士あるいはマスター同士で殺しあって最後の一組になった人が聖杯の恩恵を手に入れる。そういう争いなの」
全く訳が分からない。当然だ。上条には聖杯が何かも分からないし、魔術に関しては米粒ほどの知識しか持ち合わせていない。それなのにこんな突拍子もない話をされて理解できるはずがないのだ。そのようなことも分からないのかインデックスはさらに説明を続けている。
「ちょっと待て、インデックス。さっぱり分からない」
そんな上条の制止を聞いてやっと上条の混乱の表情を理解したのか、インデックスは勢いよく話し続けていた口をポカンと開けて上条に目を向けると困ったように目を泳がせた。
「コレが何なのか知ってるのは分かったけど、そんなに一気に話されても分かんねぇよ。最初から、一般人が分かるように説明をお願いしますよいんでっくすさま」
それを聞いたインデックスはフゥと呆れたように溜息をつくと、さっきよりも落ち着いたいつもの口調で空いていた口を紡ぎ始めた。
「えぇっとね、まずは聖杯の説明からしたほうがいいのかな?」
コクリ、と頷く上条。
「とうまはメシアが磔にされて処刑されたのは知ってるよね?その時にメシアの血を受けたのが聖杯の始まりなの。その後聖杯は理想郷(アヴァロン)へ渡り、行方は不明になった。だから伝説のアーサー王とかがその在り処を掴もうとしていたんだね」
「? 結局その聖杯ってのはただの器なんだろ?だったら、なんでそんな殺し合いで奪い合う必要があんだよ?」
「分からない?聖杯はあのメシア、キリストの血を受けた杯なんだよ?何も魔術的な意味がないのはどう考えてもおかしいよ。だから、当然聖杯にも魔術用具、霊装としての能力がある。全ての欲望を汝のままにする、っていう最高にして至上の魔術霊装としての効果があるの。だから、聖杯戦争では血眼になって魔術師同士は殺しあうんだよ。魔術師だって結局は人間。欲望なんてない人間なんて存在しないもん。だから、聖杯戦争は起こる。けど・・・・」
「けど?」
決まりの悪い声を発したインデックスに対して訝しげな表情で上条は聞き返す。
「聖杯戦争は十年前の第五回を持って完全に終結したはずなの」
「は?」
「理由は分からないけど、恐らくその時の勝者がその街の聖杯を破壊したんだと、思う。だから、その街での聖杯戦争は起こるはずがない・・・・ないんだけど」
「ど?」
「聖杯っていうのは一つしか存在しないわけじゃないんだよ」
「はい?」
それでは先ほどのインデックスの説明と矛盾する。さっきの説明の全てを当然理解したわけではないが、話からすれば聖杯とはキリストの処刑時の血を受けたものだ。ならば、それは一つにしてオリジナル。贋作などあってはならない至高の宝物のはずだ。それならば、その聖杯が破壊(なんとも罰当たりな話なようではあるが)されたのなら、その聖杯戦争とやらは二度と起こらないはずである。
「確かに本物の聖杯は一つだけだよ。でも、各地には聖杯の真似をした器が存在するの。例えば、スペインのカタルニア美術館にはそのレプリカがあるでしょ?だから、聖杯っていうのは一つとは限らないんだよ」
「偽者に欲望を叶える力なんて存在すんのか?それなら、その美術館は今頃、大晦日の神社並に参拝客で溢れてるだろ?」
「うん。もちろん、カタルニア美術館の聖杯には願望機としての力なんてないし、他のレプリカだって本物ほどの力はないよ。だけど、考えてみて。あの聖杯のレプリカだよ?たとえ、偽者にしたってキチンと交霊の手順と、キチンとして魔方陣さえ描けば人一人分ぐらいの願望機としてなら十二分に作動するよ。だから、別に他の聖杯があったって不思議じゃない。」
なんとなくは上条にも理解できた。だが、まだ自分の身に関して不可解な点はいくつも残っている。
「OK。聖杯についてはだいたい分かった。けど、なんでその聖杯戦争と俺の左手の・・・令呪だったっけか?が関係あるんだよ?」
「十年前の聖杯戦争で召喚された聖杯は割とちゃんとしたモノだったらしいんだけど、人一人しか願いを叶える力がなかった。ちなみに、その聖杯の降霊に関わったのは三人。三人にしてみれば当然、三人とも願いを叶えられると思っているわけだよね。そんな時に、一人しか受け付けませんとか言われたら争いが起きるのは当たり前でしょ?だから、二回目の時にはいくつかの制約を取り付けた。一つは聖杯を争って七人の魔術師が争うこと、そしてその魔術師、マスターの下に聖杯が呼び出した英雄の霊、つまり英霊をサーヴァントとして従えさせサーヴァント六体分の魔力と引き換えに聖杯を降霊させるような仕組みにしたの。そして、その聖杯戦争に参加の許可状みたいなものがとうまの左手にもある令呪なの。その刻印が刻まれて初めて魔術師は聖杯を争う七人の一人になって、サーヴァントとの契約権を行使・・・・・」
と、そこでインデックスの解説は打ち止めとなった。上条が大きくかぶりを振って「いやいやいやいやいやいやいや」と全力で何かを否定したからである。
「俺、魔術師じゃないし。だいたい、その話から考えるとそのシステムの聖杯戦争は十年前に終わってるんだろ?俺の手に令呪が現れるのはおかしいじゃねぇか」
上条の反論にインデックスはちょっと眉を顰めると、
「聖杯戦争は別に魔術師じゃなくても魔術の素養があればマスターになれる、よ。実際に十年前にはそんな人もいたらしいし」
「じゃぁ、何で十年前の聖杯戦争のシステムが俺の体に再現されてるんだよ?そうだ、ちょっと考えればおかしいぜ。その令呪だって聖杯だって魔術なんだろ?だったら、真っ先に俺の『幻想殺し』が発動するだろ。結界や体に及ぼす異能なんかには特に敏感に反応するはずだぜ?コレ」
上条は右手を顔の前に持っていく。数々の戦いで傷つき、千切れ、蘇った歴戦の友である。
「それは・・・・」
インデックスが口ごもった。上条に気圧されたのかは分からないが顔には困惑の表情を浮かべている。だが、何かを言いたいらしく口元ではモゴモゴと空気が動いていた。そして、上条は聞いた。とてつもなく意外な一言を。インデックスの口からひねり出された言葉。それは、
「分かんない」
であったのだ。詳しい解説を予想していた上条にとってこれは不意打ちのほかにない。一応、期待して待っていた回答がこれでは拍子抜けもいいところだ。
「なんだよ、ソレ。結局、分かんねぇのかよ」
少し力を込めた声を返す。別に怒っていたわけではなかったのだが、上条が怒っていると感じたのかインデックスはその言葉に対してキッと上条を見据ええると、大きく口を開いて怒気混じりに言葉を発し始めた。
「だから、私がとうまの左手に現れた令呪を見てびっくりしてたんだよ!だって、有り得ないもん!!終わった聖杯戦争が再会されて、しかも変な右手持ってるとうまに令呪が刻まれるなんて。どうかんがえても、有り得ないでしょ!!それなのに、どうしてとうまは私の丁寧な説明を・・・・・」
「わ、分かった。分かったから、その歯をむき出しにしてギリギリするのはやmrdきvjbvsjb;lさ」
その直後、部屋に声にならない悲鳴が響いたのは非日常な今日の朝において割かし日常的な生活の断片だった。

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