【初出】
禁書SS自作スレ>>921
禁書SS自作スレ>>921
――――― プロローグ 2 ―――――
その頃、遠く離れたロンドンでは二つの同じ儀式が同時のタイミングで行われようとしていた。一箇所は『必要悪の教会』の儀式用に設計された巨大な礼拝堂。一箇所はランベス宮の最大主級(アークビショップ)の私室。広さ、規模は違えども両部屋を使用する二人の魔術師は共に真赤な魔方陣を描き、その中央に得体の知れない、強いて言えばアンティークにもならならないような骨董品を配置している。既に魔力は流し終わってあるのか、魔方陣はボウッと淡く光り、薄暗い部屋の中をほのかに照らしていた。礼拝堂で魔術を執行するのは赤い髪で長身の男だった。二メートルぐらいはあるだろうか、顔にはバーコードの刺青を入れ、指には十個の指輪。仮に彼が漆黒のローブを身に纏っていなければどうして彼が神父などと思うだろうか。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。」
虚空に語りかけるように瞳を閉じた神父は言う。頭がおかしくなるぐらいに記憶した文章をもう一度整理し、紡ぎだす。
「祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
声は誰もいない礼拝堂に静かに響いていた。
そして、もう一人別の場所で同じ呪文を紡ぐ魔術師がいる。鮮やかな金髪が腰の辺りで二重三重に折り返されている淡い橙のローブの女性である。色白でその壮麗な美はまさに流麗というにふさわしかった。彼女の口からも神父と同様に呪文が紡ぎだされていく。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに伍度。ただ、満たされる刻を破却する」
神父の声と違って女性特有の甲高い声はただっ広い私室を反響して伝染していく。彼女もまた神父と同様に一人であった。
「告げる」
瞳を閉じ、体中を駆け巡る魔力の波長を感じながら頭の中で創造し、そしてソレらを幻想する。失敗は許されない。とある召喚の儀式。
「告げる、汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に。聖杯の寄る辺にしたがい、この意、この理に従うならば応えよ」
場所は違っても近しい、かつとても遠く遠く離れた魔力が絡み合う。やるべきことは共に同じ。だが、決して混ざりあうことない、英霊召喚の儀式。響く。染まる。大気が震え、ビリビリと風が揺れる。魔力が回路を駆け巡り、早く解放しろと悲鳴を上げる。意識を集中し、共に最後の一節に手を掛ける。
「「誓いを此処に」」
同時に召喚が行われているのは偶然か必然か、
「「我は常世総ての善と成る者」」
だが、今の二人はそれに気づこうはずがなく、
「「我は常世総ての悪を敷く者」」
ただひたすらに、己の魔力を練り上げる。
「「汝三大の言霊を纏う七天」」
ならば、そこに偶然と必然の境など不要ず。必要となるのは紡がれる幻想と創造される奇跡のみ。
「「抑止の輪より来たれ
―――天秤の守り手よ!!」」
瞬間、まるで台風のような突風がロンドンの街に襲来した。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。」
虚空に語りかけるように瞳を閉じた神父は言う。頭がおかしくなるぐらいに記憶した文章をもう一度整理し、紡ぎだす。
「祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
声は誰もいない礼拝堂に静かに響いていた。
そして、もう一人別の場所で同じ呪文を紡ぐ魔術師がいる。鮮やかな金髪が腰の辺りで二重三重に折り返されている淡い橙のローブの女性である。色白でその壮麗な美はまさに流麗というにふさわしかった。彼女の口からも神父と同様に呪文が紡ぎだされていく。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに伍度。ただ、満たされる刻を破却する」
神父の声と違って女性特有の甲高い声はただっ広い私室を反響して伝染していく。彼女もまた神父と同様に一人であった。
「告げる」
瞳を閉じ、体中を駆け巡る魔力の波長を感じながら頭の中で創造し、そしてソレらを幻想する。失敗は許されない。とある召喚の儀式。
「告げる、汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に。聖杯の寄る辺にしたがい、この意、この理に従うならば応えよ」
場所は違っても近しい、かつとても遠く遠く離れた魔力が絡み合う。やるべきことは共に同じ。だが、決して混ざりあうことない、英霊召喚の儀式。響く。染まる。大気が震え、ビリビリと風が揺れる。魔力が回路を駆け巡り、早く解放しろと悲鳴を上げる。意識を集中し、共に最後の一節に手を掛ける。
「「誓いを此処に」」
同時に召喚が行われているのは偶然か必然か、
「「我は常世総ての善と成る者」」
だが、今の二人はそれに気づこうはずがなく、
「「我は常世総ての悪を敷く者」」
ただひたすらに、己の魔力を練り上げる。
「「汝三大の言霊を纏う七天」」
ならば、そこに偶然と必然の境など不要ず。必要となるのは紡がれる幻想と創造される奇跡のみ。
「「抑止の輪より来たれ
―――天秤の守り手よ!!」」
瞬間、まるで台風のような突風がロンドンの街に襲来した。