とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 1-935

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匿名ユーザー

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上条当麻の右手には幻想殺し(イマジンブレイカー)なるチカラが宿っている。
 それが異能の力であるのなら、超能力でも魔術でも、神様の奇蹟(システム)すら問答無用で打ち消せる脅威の能力。
 しかし――胸中で毒つく。探し物には全く役に立たないチカラだ。
 上条は経験上、こういう場合には足を使うしかないと分かっていた。
 だが、間の悪いことに今は一端覧祭の最終準備の真っ最中。
「わぁっ! 化学部の特製染料缶がひっくり返った!」
「郷土研究会のオブジェも踏み抜かれてるわ!」
「あっちでは校長先生御用達の焼き鳥屋台が倒壊してるぞ!」
 廊下も校庭も、展示や出店に使うあれこれで溢れていて、うまく間を走り抜けようとしても腕がぶつかり足がぶつかり。その度に怒られ殴られ生傷まみれになりながらもしかし上条は止まらない。
 ひたすらに走る。
 走る。
 そうして走り続けて――いつの間にか中庭に戻ってきてしまっていた。気づかぬうちに校舎内は一周してしまったらしい。
 少女達を見つけられないまま。
「はぁ……はぁ……くそっ!」
 激しく動悸する胸を押さえる。
 落ち着け。冷静になれ。
 チリチリとうなじを焦がす原因不明の危機感を強引に飲み下す。
 だがほんのわずかに温度を下げた脳が弾き出してくれたのは、『そもそも彼女らがまだ学校内にいるとは限らない』という今さらの現実だった。
 思いついてしまったことを半ば後悔しながらも、上条は考える。
(小萌先生に頼んでセキュリティの記録を見せてもらえば……いやだめだ。今から先生を探して頼み込むのは時間がかかり過ぎるし、それで校内にいないってことだけわかってもあまり意味がない。第一ウチのセキュリティはインデックスにすらあしらわれるような代物だし――あ)
 ふっと。
 浮かんだ名前に閃きが走った。
 インデックス。
 サーシャと共に『灰姫症候(シンデレラシンドローム)』を捕まえる計画を立てていた彼女なら……?
 上条はばたばたと制服を探り、携帯電話を取り出した。あれだけ走り回ってよく落とさなかったと小さな幸運に泣きそうになる。
 ボタン一つで本体が開く。液晶に光が灯った。電話帳機能を呼び出して目的の番号を探す。
 五十音順の「あ」行――を素通り。
 次の「か」行をめくってめくって、ようやく見つけた。
 小萌先生。
 一端覧祭準備を円滑に行うために、吹寄が至急製作したクラスの連絡網の中に含まれていたのだ。しかし全員で携帯番号を教えあっている時に「あれー? 上条ちゃんは先生の番号知ってると思ったんですけどー。確か夏休みにかけてきたことありましたよねー?」「え?(何のことですか? とか言えねぇよなぁ)いやぁうっかり登録し忘れてて」「そうなんですかー。うっかりさんですねー。……あれ? そもそも上条ちゃんに教えた記憶がないような……」などという記憶喪失少年にとってはやばすぎる一幕もあったのだが。
 インデックスに直接電話しても、またつながらないに決まっている。だが今日に限っては、確実に電話に出てくれる人が彼女の傍にいた。
 ワンプッシュでコール。四回目でつながった。
『はいはーい。その番号は上条ちゃんですねー? 何かありましたかー?』
「小萌先生! すいませんけど緊急事態なんでインデックスに代わってください!」
『は、はいー?』
 切羽詰った大声が返ってくるとは思っていなかったのか、困惑気味な声が聞こえた。しかしそこは問題児ばかりを担当してきた歴戦の教師(つわもの)月詠小萌。状況は掴めずとも雰囲気を察してくれたらしく、すぐに聞きなれた白シスターの声が聞こえてきた。
『とうま? 私だけど。緊急事態って何? ……ま、まさかさっき見つけたお好み焼き屋さんが先行発売始めたとか!?』
「面倒だからツッコミなしで結論だけ言うぞ。『灰姫症候』が見つかった」
『――――――――っ』
 電話越しに緊張感が共有されたのを感じる。
 一呼吸を挟んで、インデックスは真剣な声音で問いかけてきた。
『とうま。詳しく話して』
 上条はさっきまでに起こったことをかいつまんで説明した。
 インデックス達が教室を出た後、言祝栞に首根っこを掴まれて図書室に連れて行かれたこと。何故かそれにサーシャもついてきて、三人でフリマの仕度をしていたこと。言祝とサーシャの手が偶然重なった瞬間、『灰姫症候』の魔力を感知したらしいこと。最後に、どういうわけかサーシャが言祝を気絶させて、図書室の窓を破壊して飛び出していってしまったこと。
 口に出して話している間に、上条は自分で違和感のようなものを感じた。
 だがまずは状況説明が優先だ。一通り語り終えるのに二分程度かかった。
「……こっちから話せるのはこんくらいだ。インデックス、あいつらがどこに行ったかわかるか?」
 返答は少し遅れた。
『予想はつく、けど』
「本当か!? なら」
『でも、とうまはそれを聞いてどうしたいの?』
 え? と意気込みかけた体が押し留められる。
 携帯電話の向こうから聞こえてくる声は、どこか焦りを隠しながらもひどく平らだった。
“まるでそれが真実なんだと自分に言い聞かせているように”。
『サーシャに与えられた任務は「灰姫症候」の確保と、それを学園都市に放った魔術師の捕縛あるいは撃破だよ。そのためにあの子は私達の所に来たんだから。探索の魔術を使う時に傍にとうまがいたら、成功するものも成功しないでしょ? だからとうまを置いていったんじゃないかな。それなら追いかけて追いついても、サーシャには迷惑なだけだよ。それでも行くの?』
 しかし、言われてみれば彼女の言い分はもっともだった。
 幻想殺しは上条の意思に関係なく、触れた『異能の力』を消し飛ばしてしまう。『灰姫症候』の宿主、または魔術に使う道具や陣に小指がかすっただけでも台無しにしてしまいかねない。
 偶然訪れた二度とは無いチャンスを守り通すためにサーシャが飛び出していったのなら、上条が動くことは害にこそなれ利する所はない。
「――――――“いや”」
 だが、上条には別の確信があった。
「もしそうなら俺に一言『離れていてくれ』って言えばいいだけだろ。ステイルが姫神の治療をした時だってそうだったしな。事情は分かってるんだから、触るなって言われたら触らない。ついてくるなって言われたら素直に待ってる。第一、窓ぶち破って飛んで行くのはいくらなんでも不自然だろ」
『……うーん……でも』
「それにだ」
 遮って続ける。
 先ほど気づいた違和感の正体。
「……あの時、俺にはサーシャが“逃げ出した”ように見えたんだ。幻想殺しとか謎の魔術師からじゃない。サーシャにとってもっと恐ろしい何かから」
 それは想像に過ぎなかったが、きっと当っている。
 走る背中と、逃げる背中。
 それを見分けられるくらいには、うぬぼれかもしれないけど、彼女に近づけたと思っていたから。
 インデックスの沈黙は長かった。
 およそ一分。白いシスターが、最も認めたくなかった言葉を吐き出すために要した時間だ。
『とうま』
「おう」
『……サーシャを、止めてあげて。たぶん、すっごく馬鹿なことをやろうとしているはずだから』

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