「とある少女の白馬の騎士(ホワイトナイト)その1」
(どうして、どうしてこんなことに…………)
そう後悔する少女の顔色は蒼白であった。
そして呼吸をすることさえ難しいほど身体は強張り身動きするのもままならない。
それなのにガチガチと鳴る奥歯とガタガタと震える膝は収まるどころか先ほどより一層
激しくなっている。
そして呼吸をすることさえ難しいほど身体は強張り身動きするのもままならない。
それなのにガチガチと鳴る奥歯とガタガタと震える膝は収まるどころか先ほどより一層
激しくなっている。
(助けて、助けて、助けて、助けて、助けて……………………)
心の中でいくら叫んでも無駄なのは判っている。
いっそ恥も外聞も棄てて大声で「キャ───────!」と叫んだ方がまだマシかもしれない。
しかし少女は今、声の出し方すら判らないほどひどく混乱していた。
本当なら今頃他校の友人達と待ち合わせのショッピングモールでおしゃべりをしているハズだった。
いっそ恥も外聞も棄てて大声で「キャ───────!」と叫んだ方がまだマシかもしれない。
しかし少女は今、声の出し方すら判らないほどひどく混乱していた。
本当なら今頃他校の友人達と待ち合わせのショッピングモールでおしゃべりをしているハズだった。
(それなのにどうして私はこんな路地裏の袋小路にいるの?)
少女は5分前の自分の軽率な行為を後悔した。
そもそもレポートの資料集めに手間取り、繁華街に向かうバスに乗り遅れたのがいけなかった。
最寄りのバス停に降り立ったのは待ち合わせ時刻の僅か3分前であった。
そこから集合場所のショッピングモールまでは直線距離でわずか30mであるが、それは
目の前のビルを飛び越えることができたらの話である。
テレポーターでもない少女がそこに行くにはこのブロックをぐるりと回り込むしかなく、
少女の足では待ち合わせ時刻にはとても間に合いそうになかった。
そもそもレポートの資料集めに手間取り、繁華街に向かうバスに乗り遅れたのがいけなかった。
最寄りのバス停に降り立ったのは待ち合わせ時刻の僅か3分前であった。
そこから集合場所のショッピングモールまでは直線距離でわずか30mであるが、それは
目の前のビルを飛び越えることができたらの話である。
テレポーターでもない少女がそこに行くにはこのブロックをぐるりと回り込むしかなく、
少女の足では待ち合わせ時刻にはとても間に合いそうになかった。
(どうしましょう。これでは完全に遅刻ですわ)
少女がそう思った時、普段なら気にも留めない細い路地が目に入った。
ビルに挟まれた路地は少し薄暗く3人が横になるのが精一杯の道幅しかない。
普段の少女であれば足を踏み入れることなど絶対になかっただろう。
路地の入り口まで来たものの少し躊躇っていた少女であったが、ふと路地の奥から聞こえて
きた車の行き交うかすかな騒音が少女の背中を押してしまった。
ビルに挟まれた路地は少し薄暗く3人が横になるのが精一杯の道幅しかない。
普段の少女であれば足を踏み入れることなど絶対になかっただろう。
路地の入り口まで来たものの少し躊躇っていた少女であったが、ふと路地の奥から聞こえて
きた車の行き交うかすかな騒音が少女の背中を押してしまった。
(きっとこの路地は向こうの大通りまで続いているのですわ。
ちょっと薄暗いですけど30mも無いはずですから早足で駆け抜ければ大丈夫ですわ。
良かった。これで約束の時間に間に合いますわ)
ちょっと薄暗いですけど30mも無いはずですから早足で駆け抜ければ大丈夫ですわ。
良かった。これで約束の時間に間に合いますわ)
そして少女は早足で路地に入っていった。
久しぶりに会う友人達との楽しい一時が待っているショッピングモールに向けて。
久しぶりに会う友人達との楽しい一時が待っているショッピングモールに向けて。
しかし、5分経っても少女はその路地から出てこなかった。
路地に入った少女が10m進むとT字路に突き当たった。
左右を見渡すと右に曲がった路地の10mほど先にある横道が少し明るくなっていた。
薄暗い路地の中で少し不安になっていた少女はようやく一安心し横道に向けて早足で
駆けだした。
左右を見渡すと右に曲がった路地の10mほど先にある横道が少し明るくなっていた。
薄暗い路地の中で少し不安になっていた少女はようやく一安心し横道に向けて早足で
駆けだした。
しかし横道まであと1mというところで少女は急に立ち止まってしまう。
少女が曲がるべき横道から突然二つの人影が飛び出してきたからだ。
10代後半と思われる男達の服装と目つきは彼らの粗暴さを端的に表していた。
そして世間の事情に疎いその少女にもすぐに判ってしまった。
自分がどれだけ軽率な行動をしてしまったのかを。
少女が曲がるべき横道から突然二つの人影が飛び出してきたからだ。
10代後半と思われる男達の服装と目つきは彼らの粗暴さを端的に表していた。
そして世間の事情に疎いその少女にもすぐに判ってしまった。
自分がどれだけ軽率な行動をしてしまったのかを。
「あの、すみません。そこを通して頂けますか?」
少女は男達と目を合わせずにそう言うと汗がにじむ掌をギュッと握りしめ再び歩き始めた。
意外にも少女は男達に邪魔されることも冷やかされることもなく二人の間をすり抜けることができた。
少女がホッと胸を撫で下ろした瞬間、背後の男がいきなり少女の肩をガシッと掴んできた。
意外にも少女は男達に邪魔されることも冷やかされることもなく二人の間をすり抜けることができた。
少女がホッと胸を撫で下ろした瞬間、背後の男がいきなり少女の肩をガシッと掴んできた。
「ひッ!」
緊張を解いた瞬間に不意を突かれた少女は思わず小さな悲鳴漏らしてしまった。
その声を聞いた男達は顔を見合わせると粗暴な顔に下卑た薄ら笑いを浮かべるのだった。
その声を聞いた男達は顔を見合わせると粗暴な顔に下卑た薄ら笑いを浮かべるのだった。
「とある少女の白馬の騎士(ホワイトナイト)その2」
「よお。ねえちゃん。その制服。あんた常盤台なんだろ。
ってことは能力者なんだよなあ。しかもレベル3以上の。
いくらレベル3でもこんな所を一人で歩くなんて物騒だぜ。
最近この辺りじゃちょくちょくスキルアウトが『能力者狩り』してるらしいぜ。
気ぃ付けな。特にねえちゃんみたいに可愛い女の子はよお」
ってことは能力者なんだよなあ。しかもレベル3以上の。
いくらレベル3でもこんな所を一人で歩くなんて物騒だぜ。
最近この辺りじゃちょくちょくスキルアウトが『能力者狩り』してるらしいぜ。
気ぃ付けな。特にねえちゃんみたいに可愛い女の子はよお」
その声に含まれる下卑た響きは少女を一層強張らせた。
一瞬でも緊張を解いたのがいけなかった。
恐怖が少女の心臓を鷲掴みにし少女から冷静さを奪っていった。
それでも少女は最後の勇気を振り絞り動揺を悟られないように平静を装ってみせた。
一瞬でも緊張を解いたのがいけなかった。
恐怖が少女の心臓を鷲掴みにし少女から冷静さを奪っていった。
それでも少女は最後の勇気を振り絞り動揺を悟られないように平静を装ってみせた。
「そ、そうですか。これからは気を付けます。ではごきげんよう」
「これからは気を付けるだなんて。
ひゃっひゃっひゃっ!ねえちゃん、悠長なこと言ってるねえ」
「……………………」
「ところで能力をコントロールするのも大変なんだって?
動揺して演算に集中できなくなるだけで能力が使えなくなったりするんだってなあ?」
「そ、その手を放して頂けますか?」
「ねえちゃんが能力を使って引き剥がしたらどうだい?
俺達はたったの4人だぜ。しかも全員正真正銘のレベル0なんだぜ」
「これからは気を付けるだなんて。
ひゃっひゃっひゃっ!ねえちゃん、悠長なこと言ってるねえ」
「……………………」
「ところで能力をコントロールするのも大変なんだって?
動揺して演算に集中できなくなるだけで能力が使えなくなったりするんだってなあ?」
「そ、その手を放して頂けますか?」
「ねえちゃんが能力を使って引き剥がしたらどうだい?
俺達はたったの4人だぜ。しかも全員正真正銘のレベル0なんだぜ」
少女はその時になって自分が駆け抜けようとしている横道にも2人の男が居て道を塞いで
いることに気付いた。
先ほど男達が何もしなかったのはみすみす罠に入りにきた獲物を逃さないためだったのだ。
そのことを理解した少女は目の前が真っ暗になった。
彼らは自分たちを『能力者狩り』をしているスキルアウトだとほのめかしている。
4人の男達に囲まれもはや振り絞る勇気すらなくなった少女の背中を冷たい汗が一筋流れ落ちた。
そして少女は男達に塞がれていない目の前の通路へ駆けだしてしまった。
その先が袋小路だとも知らずに。
いることに気付いた。
先ほど男達が何もしなかったのはみすみす罠に入りにきた獲物を逃さないためだったのだ。
そのことを理解した少女は目の前が真っ暗になった。
彼らは自分たちを『能力者狩り』をしているスキルアウトだとほのめかしている。
4人の男達に囲まれもはや振り絞る勇気すらなくなった少女の背中を冷たい汗が一筋流れ落ちた。
そして少女は男達に塞がれていない目の前の通路へ駆けだしてしまった。
その先が袋小路だとも知らずに。
目の前に壁があった。右も左も行き止まりだ。その事実が少女の心臓を締め付けた。
少女が後ろを振り返るとさっきの男達がゆっくり歩いて来るのが見える。
少女が後ろを振り返るとさっきの男達がゆっくり歩いて来るのが見える。
(落ち着くのよ。落ち着けば能力だって使えるのですから)
しかしそう思えば思うほど思考はますます空回りしてしまう。
まともに呼吸すらできないほど混乱してしまった少女は能力どころか通常の思考力さえ失っていた。
まともに呼吸すらできないほど混乱してしまった少女は能力どころか通常の思考力さえ失っていた。
彼らのニヤついた顔はきっと少女が混乱して能力を使えないことを見抜いたからだろう。
少女を見る目は能力への畏怖をもった目から獲物を見下すハイエナの目に変わっていた。
その目を見た瞬間、少女は自分が今からこの男達に何をされるのかが判ってしまった。
同時に吐き気を催すほどの嫌悪感が身体の奥からこみ上げてくる。
少女を見る目は能力への畏怖をもった目から獲物を見下すハイエナの目に変わっていた。
その目を見た瞬間、少女は自分が今からこの男達に何をされるのかが判ってしまった。
同時に吐き気を催すほどの嫌悪感が身体の奥からこみ上げてくる。
(どうして、どうしてこんなことに…………)
そう後悔する少女の顔色は蒼白であった。
そして呼吸をすることさえ難しいほど身体は強張り身動きするのもままならない。
それなのにガチガチと鳴る奥歯とガタガタと震える膝は一向に収まるどころか先ほどより一層激しくなっている。
そして呼吸をすることさえ難しいほど身体は強張り身動きするのもままならない。
それなのにガチガチと鳴る奥歯とガタガタと震える膝は一向に収まるどころか先ほどより一層激しくなっている。
(助けて、助けて、助けて、助けて、助けて……………………)
震える膝はとうとう少女自身すら支えることができなくなってしまった。
そして少女のできることは両手で顔を隠しこの酷い現実から目を逸らすことだけになった。
そんなことしても何の役にも立たないことは判っている。
でも少女にできることはもはや祈ることしかなかった。
そして少女のできることは両手で顔を隠しこの酷い現実から目を逸らすことだけになった。
そんなことしても何の役にも立たないことは判っている。
でも少女にできることはもはや祈ることしかなかった。
(お願い。来ないで、来ないで、来ないで、来ないで、来ないで……………………)
しかし必死に祈る少女の願いも空しくとうとうその左肩に男の右手がかかったのだった。
「とある少女の白馬の騎士(ホワイトナイト)その3」
「おい!大丈夫か!」
自分の望まない現実から目を逸らそうと必死だった少女はその問い掛けが自分に向けられ
たものであることになかなか気付かなかった。
たものであることになかなか気付かなかった。
「おい!しっかりしろ!」
その言葉に少女はようやく顔を覆っていた両手を外し固く瞑っていたまぶたを少しだけ
開くことができた。
少女の目に映ったのは先ほどの粗暴な男達とは違う高校生らしき制服を着た少年だった。
そして心配そうに自分をのぞき込んでいるツンツンした短い黒髪の少年の後ろに4人の男
達が倒れているのが見えた。
開くことができた。
少女の目に映ったのは先ほどの粗暴な男達とは違う高校生らしき制服を着た少年だった。
そして心配そうに自分をのぞき込んでいるツンツンした短い黒髪の少年の後ろに4人の男
達が倒れているのが見えた。
「俺の言葉がわかるか!おい」
少女は少年に肩を強く揺すられてようやく自分は助かったのだと知った。
緊張の糸が切れた瞬間、両目から涙が溢れ出した少女は声にならない声をあげて泣き出してしまった。
緊張の糸が切れた瞬間、両目から涙が溢れ出した少女は声にならない声をあげて泣き出してしまった。
「わっ!悪りぃ!ちょっと強く揺すり過ぎちまったか?」
ヒックヒックと泣き続ける少女はオロオロしだした少年に(貴方のせいではありません)
と伝えたかった。
しかし嗚咽が止まらない少女はわずかに首を横に振ることしかできなかった。
少女の意図が伝わったのか少年は少し安心したようだ。
そして優しく少女に問いかける。
と伝えたかった。
しかし嗚咽が止まらない少女はわずかに首を横に振ることしかできなかった。
少女の意図が伝わったのか少年は少し安心したようだ。
そして優しく少女に問いかける。
「立てるか?」
そう言われた少女は立ち上がろうとしたが弛緩した脚は全く動いてくれなかった。
仕方がないので首を大きく横に振った。
仕方がないので首を大きく横に振った。
「そっか。じゃあ、俺が抱えて行くけど、それでも良いか?」
少し戸惑った少女だが今度はコクリと頷いた。
すると少年は少女を優しく抱きかかえる。俗に言うお姫様抱っこだ。
一方抱きかかえられた少女はその頬を朱色に染めていく。
すると少年は少女を優しく抱きかかえる。俗に言うお姫様抱っこだ。
一方抱きかかえられた少女はその頬を朱色に染めていく。
(ど、どうしましょう。
お父親さま以外の男性に初めて抱きかかえられてしまいました…………
でも、どうしてでしょう?
この方の腕の中にいるととても安らいだ気持ちになれます。
きっと私は生涯忘れないでしょう。この腕の力強さと暖かさは…………)
お父親さま以外の男性に初めて抱きかかえられてしまいました…………
でも、どうしてでしょう?
この方の腕の中にいるととても安らいだ気持ちになれます。
きっと私は生涯忘れないでしょう。この腕の力強さと暖かさは…………)
少女は少年に抱きかかえられながらそんな風にボンヤリと考えていた。
大通りが近づき路地が明るくなってくるとようやく少年の顔をはっきり見ることができた。
すると少女は先ほどとは違った意味で心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
身体の芯が熱く締め付けられるのに、それは何故だかとても心地良かった。
大通りが近づき路地が明るくなってくるとようやく少年の顔をはっきり見ることができた。
すると少女は先ほどとは違った意味で心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
身体の芯が熱く締め付けられるのに、それは何故だかとても心地良かった。
(出会ってまだ2分も経っていないのに私には判ります。
この出会いはきっと私にとって一生忘れられない大切な思い出になるはず。
ひょっとして…………これが『運命の出会い』というものなのでしょうか?
…………そうですわ。きっとそうに違いありませんわ。
赤い糸で結ばれた私達はこれをきっかけにおつきあいを始めるのですわ。
どうしましょう。まだお名前もお伺いしていないのに…………
そして私の16歳の誕生日にプロポーズをされるのですわ。
そして顔を赤らめながら頷いた私を優しく抱き寄せてキスしてくださいますの。
そして6月の晴れ渡った日曜日に海を見下ろすチャペルでウェディン…………)
この出会いはきっと私にとって一生忘れられない大切な思い出になるはず。
ひょっとして…………これが『運命の出会い』というものなのでしょうか?
…………そうですわ。きっとそうに違いありませんわ。
赤い糸で結ばれた私達はこれをきっかけにおつきあいを始めるのですわ。
どうしましょう。まだお名前もお伺いしていないのに…………
そして私の16歳の誕生日にプロポーズをされるのですわ。
そして顔を赤らめながら頷いた私を優しく抱き寄せてキスしてくださいますの。
そして6月の晴れ渡った日曜日に海を見下ろすチャペルでウェディン…………)
僅か20秒の間に『白馬の王子様を夢見る思春期の少女』特有の空想にどっぷり浸かった
少女であったが、その空想は少年の声に断ち切られてしまった。
少女であったが、その空想は少年の声に断ち切られてしまった。
「さあ、大通りに着いたぜ。ここまで来たらもう安心だ。どうだ?自分で歩けそうか?」
空想から帰還した少女の目の前には青い海ではなく先ほどの大通りが広がっていた。
少女はもう少しこのままでいたかった。
あの薄暗かった路地でさえ今ではもっと長ければ良かったのにとも思ってしまう。
少女は少し名残惜しそうに彼に頷いて見せた。
自分の脚で立った少女に少年は優しく微笑みかけた。
少女はもう少しこのままでいたかった。
あの薄暗かった路地でさえ今ではもっと長ければ良かったのにとも思ってしまう。
少女は少し名残惜しそうに彼に頷いて見せた。
自分の脚で立った少女に少年は優しく微笑みかけた。
「どうやら大丈夫みたいだな。じゃあな。これからは気を付けるんだぞ」
(えっ、えーっ、もう行ってしまわれるのですか?
まだ貴方のお名前さえお伺いしていないのに…………って、
…………………………………………あれ?
それどころかひょっとして私って一言のお礼すら申し上げていないんじゃ。
ま、待って、……………………)待って下さい!」
(えっ、えーっ、もう行ってしまわれるのですか?
まだ貴方のお名前さえお伺いしていないのに…………って、
…………………………………………あれ?
それどころかひょっとして私って一言のお礼すら申し上げていないんじゃ。
ま、待って、……………………)待って下さい!」
少女はやっとの思いで一言だけ絞り出すことができた。
ただようやく絞り出したその声は少しうわずっていた。
少女はそのことが少し恥ずかしかったが、少女の呼びかけに応えて少年が振り返ってくれ
たことがそれ以上に嬉しかった。
ただようやく絞り出したその声は少しうわずっていた。
少女はそのことが少し恥ずかしかったが、少女の呼びかけに応えて少年が振り返ってくれ
たことがそれ以上に嬉しかった。
「とある少女の白馬の騎士(ホワイトナイト)その4」
「ん?どうかしたのか?」
「あ、あの、あのー、…………あ、ありがとうございました」
「いいよ。別に礼なんて。じゃあな」
「いえ、あのっ、そのー、お待ちになって下さい」
「あ、あの、あのー、…………あ、ありがとうございました」
「いいよ。別に礼なんて。じゃあな」
「いえ、あのっ、そのー、お待ちになって下さい」
少女は立ち去ろうとする男性を追いかけようとしたが、脚がもつれてよろめいてしまう。
前のめりに傾く体勢を立て直そうとしたが肝心の脚がいうことを聞いてくれない。
そうしている内に目の前の地面がどんどん近づいてくる。
地面に顔を打ち付け無様に転がる数秒後の自分の姿を想像し少女は死ぬ程恥ずかしくなった。
しかし少女の顔がそれ以上アスファルトに近づくことはなかった。
少年がとっさに差し出した右腕が少女の身体を下から支えたため、少女は顔面強打という
不幸な結末を回避することができた。
前のめりに傾く体勢を立て直そうとしたが肝心の脚がいうことを聞いてくれない。
そうしている内に目の前の地面がどんどん近づいてくる。
地面に顔を打ち付け無様に転がる数秒後の自分の姿を想像し少女は死ぬ程恥ずかしくなった。
しかし少女の顔がそれ以上アスファルトに近づくことはなかった。
少年がとっさに差し出した右腕が少女の身体を下から支えたため、少女は顔面強打という
不幸な結末を回避することができた。
再び少年に助けられたことを知り少女はホッと胸を撫で下ろしたが、その時になって少年
が硬直したまま先ほどから身動き一つしていないことに気付く。
不振に思った少女が見上げた少年の顔はなぜか真っ赤に染まっていた。
そして気付く。偶然にも自分の左胸が少年の右掌の真上に落ちていたことを。
が硬直したまま先ほどから身動き一つしていないことに気付く。
不振に思った少女が見上げた少年の顔はなぜか真っ赤に染まっていた。
そして気付く。偶然にも自分の左胸が少年の右掌の真上に落ちていたことを。
そう、少年は右掌の中にすっぽり収まった少女の膨らみに気付いていた。
しかし急に手を離して少女が転倒すれば非人間のレッテルを、逆に少女を起こそうとして
右手が少しでも動けばセクハラ大魔王のレッテルを貼られることを過去の経験から知っていた。
だから身動きすることができなかったのだ。
もっとも発育途上とはいえ少女の胸の膨らみは制服越しにもはっきりと感じられ、その
柔らかさに少年の思考がパンク寸前だったことも大きな一因であったのも事実だ。
しかし急に手を離して少女が転倒すれば非人間のレッテルを、逆に少女を起こそうとして
右手が少しでも動けばセクハラ大魔王のレッテルを貼られることを過去の経験から知っていた。
だから身動きすることができなかったのだ。
もっとも発育途上とはいえ少女の胸の膨らみは制服越しにもはっきりと感じられ、その
柔らかさに少年の思考がパンク寸前だったことも大きな一因であったのも事実だ。
顔を真っ赤にして少年から身を離した少女は自分の左胸に自分の左手をあててみた。
掌には心臓の高鳴る鼓動だけでなくまだ胸に残る少年の掌の温もりも感じることができる。
少女は恥ずかしさを感じながらも胸を触られたことを嫌だと感じない自分が不思議だった。
そんな自分が恥ずかしくて少年の顔を直視できなくなった少女は真っ赤な顔を伏せてしまった。
一方、少年はそれを自分のセクハラのせいだと思いこんだのだろう。
すぐに少女に両手を合わせて謝った。
掌には心臓の高鳴る鼓動だけでなくまだ胸に残る少年の掌の温もりも感じることができる。
少女は恥ずかしさを感じながらも胸を触られたことを嫌だと感じない自分が不思議だった。
そんな自分が恥ずかしくて少年の顔を直視できなくなった少女は真っ赤な顔を伏せてしまった。
一方、少年はそれを自分のセクハラのせいだと思いこんだのだろう。
すぐに少女に両手を合わせて謝った。
「ゴメン。嫌な思いさせちまって。でも悪気はなかったんだ。信じてくれ」
謝る少年の姿は少女を逆に困惑させてしまった。
焦った少女はつい心の中で思っていたことを口走ってしまう。
焦った少女はつい心の中で思っていたことを口走ってしまう。
「いっ、嫌じゃありません!」
「……………………へっ?」
「……………………へっ?」
今何を言われたのか理解できなかった少年と自分が何を言ってしまったのか判らなかった
少女は互いに言葉を詰まらせてしまった。
そして少女は赤い顔をさらに真っ赤に染め上げていく。
少女は互いに言葉を詰まらせてしまった。
そして少女は赤い顔をさらに真っ赤に染め上げていく。
「あっ!い、いえ、そうではなくて、えーっと……………………そう!
今のはただの事故です。貴方が気に病むことなど何もありませんわ」
「そう言って貰えると助かる。ゴメン」
今のはただの事故です。貴方が気に病むことなど何もありませんわ」
「そう言って貰えると助かる。ゴメン」
「それより、こちらこそありがとうございました。二度も助けて頂いて」
「そんなことはいいって。それよりさっきはどうしたんだ?」
「あっ、脚がもつれてしまいまして。
そのせいでご迷惑をお掛けしてしまいました。申し訳ありません」
「そっか。……………………そうだったな。
あんな怖い目にあったばかりだもんな。
そんな女の子をすぐに放り出そうとした俺が非道かったな。ゴメン」
「そんな、貴方は少しも悪くありません。
…………………………………………
そのっ、も、もし、…………もし、よろしければもう少し一緒に居て頂けませんか?
ご迷惑かもしれませんがお願いします」
「そんなことはいいって。それよりさっきはどうしたんだ?」
「あっ、脚がもつれてしまいまして。
そのせいでご迷惑をお掛けしてしまいました。申し訳ありません」
「そっか。……………………そうだったな。
あんな怖い目にあったばかりだもんな。
そんな女の子をすぐに放り出そうとした俺が非道かったな。ゴメン」
「そんな、貴方は少しも悪くありません。
…………………………………………
そのっ、も、もし、…………もし、よろしければもう少し一緒に居て頂けませんか?
ご迷惑かもしれませんがお願いします」
ペコリと頭を下げる少女の可愛らしい仕草に少年はニッコリ微笑んで応えた。
「とある少女の白馬の騎士(ホワイトナイト)その5」
「ああ、俺なんかで良いなら、おやすいご用だ。それじゃあ、そこのベンチに座ろうか?」
「はっ、はい!ありがとうございます」
「はっ、はい!ありがとうございます」
ベンチに少年と並んで座る少女は時々少年の顔を見上げては頬を桜色に染めていく。
「あのー、わたくし常盤台中学1年の『益海清花(ますみさやか)』と申します。
先ほどは危ない所を助けて頂き、本当にありがとうございました」
「そんなことは気にしなくてもいいさ」
「いいえ!貴方が居られなかったら今頃私はどんな酷い目に遭っていたか…………
思い出すだけでも身体が震えだしそうな気がします」
先ほどは危ない所を助けて頂き、本当にありがとうございました」
「そんなことは気にしなくてもいいさ」
「いいえ!貴方が居られなかったら今頃私はどんな酷い目に遭っていたか…………
思い出すだけでも身体が震えだしそうな気がします」
そういうと少女は両手で自分の両肩を抱きしめた。
先ほどまでは少年と一緒にいられることが嬉しくて忘れていたが、もし少年が助けてくれ
なければ今頃少女は心にも身体にも一生消えない傷を負っていたハズだ。
そのあり得た不幸な未来を想像すると本当に身体の震えが止まらなくなったのだ。
先ほどまでは少年と一緒にいられることが嬉しくて忘れていたが、もし少年が助けてくれ
なければ今頃少女は心にも身体にも一生消えない傷を負っていたハズだ。
そのあり得た不幸な未来を想像すると本当に身体の震えが止まらなくなったのだ。
少年は突然震えだした少女を落ち着けようと左手を少女の左肩にそっとまわした。
少年の左手の温もりは芯まで冷えきっていた少女の身体と心を瞬く間に癒していく。
まるで魔法のように自分を癒してくれる少年を潤んだ瞳で見上げた少女はその瞳を閉じる
と少年に寄り添うようにそっとしなだれかかったのだった。
少年の左手の温もりは芯まで冷えきっていた少女の身体と心を瞬く間に癒していく。
まるで魔法のように自分を癒してくれる少年を潤んだ瞳で見上げた少女はその瞳を閉じる
と少年に寄り添うようにそっとしなだれかかったのだった。
少女の震えがようやく収まったことに気付き一安心した少年だったが、その状況がどこか
ら見てもラブラブカップルにしか見えないことには全く気付いていなかった。
ら見てもラブラブカップルにしか見えないことには全く気付いていなかった。
「そういえば、どうして貴方はあそこに居合わせたのですか?」
「偶然だよ。
実は半月程前からちょっとおっかない奴につきまとわれるようになっちゃってさ。
今日も追いかけてくるそいつを撒くためにあの路地へ逃げ込んだら男達に絡まれている
君を見かけたって訳さ」
「でも粗暴な殿方を4人も倒された貴方がお逃げになるだなんて、その方は一体何者なのですの?」
「ははっ、あはははは。
いやぁ、俺はそんなに強くないさ。3対1なら迷わず逃げだす程度だよ。
今日はたまたま4人とも俺に背中を向けていたからな。
少々卑怯だったけど後ろからガツンとやらせて貰ったのさ」
「偶然だよ。
実は半月程前からちょっとおっかない奴につきまとわれるようになっちゃってさ。
今日も追いかけてくるそいつを撒くためにあの路地へ逃げ込んだら男達に絡まれている
君を見かけたって訳さ」
「でも粗暴な殿方を4人も倒された貴方がお逃げになるだなんて、その方は一体何者なのですの?」
「ははっ、あはははは。
いやぁ、俺はそんなに強くないさ。3対1なら迷わず逃げだす程度だよ。
今日はたまたま4人とも俺に背中を向けていたからな。
少々卑怯だったけど後ろからガツンとやらせて貰ったのさ」
少年は簡単そうに言ったが、少女が改めて少年を見ると制服についた汚れやあちこちに
できた擦り傷、そして少し赤く腫れている左頬がそう簡単ではなかったことを物語っている。
できた擦り傷、そして少し赤く腫れている左頬がそう簡単ではなかったことを物語っている。
「あの、もしよろしければ貴方のお名前をお教え頂けますか?」
「ああ、そうか。まだ名乗ってなかったな。俺はかみ…………」
「ああ、そうか。まだ名乗ってなかったな。俺はかみ…………」
「あっ、いたいた!今日こそは逃がさないわよ!」
「げっ!ビリビリ。ごめん俺ちょっと急ぐから。じゃあな気を付けて帰るんだぞ!」
「あっ、ちょっと待って下さい。まだお名前を…………」
「逃がさないって言ってるでしょうがああああぁぁぁぁぁぁ!」
「げっ!ビリビリ。ごめん俺ちょっと急ぐから。じゃあな気を付けて帰るんだぞ!」
「あっ、ちょっと待って下さい。まだお名前を…………」
「逃がさないって言ってるでしょうがああああぁぁぁぁぁぁ!」
突然猛ダッシュをした少年を呼び止めようとした少女の声はそれより大きな怒声にかき
消されてしまった。
その声の主に視線を向けた瞬間、少女の前を眩い閃光と耳をつんざく轟音が駆け抜けた。
それは学園都市第3位、常盤台中学が誇るレベル5御坂美琴が繰り出した雷撃の槍であった。
少女はその迫力に目を白黒させる。
さらに少女を驚かせたのはその電撃の槍が直撃したはずの少年が何事もなかったかのよう
に再び走り始めたことだ。
消されてしまった。
その声の主に視線を向けた瞬間、少女の前を眩い閃光と耳をつんざく轟音が駆け抜けた。
それは学園都市第3位、常盤台中学が誇るレベル5御坂美琴が繰り出した雷撃の槍であった。
少女はその迫力に目を白黒させる。
さらに少女を驚かせたのはその電撃の槍が直撃したはずの少年が何事もなかったかのよう
に再び走り始めたことだ。
(御坂様の雷撃の槍を受ければ普通の人間はひとたまりもありませんわ。
それなのにあの方は右手の一振りで防いでしまうなんて…………す、素敵ですわ!)
それなのにあの方は右手の一振りで防いでしまうなんて…………す、素敵ですわ!)
その少年とそれを追いかける御坂美琴が交差点を曲がった時、少女は少年の名前を聞き
そびれたことに気が付いた。
そびれたことに気が付いた。
(はあーっ、
結局あの方のお名前をお聞きすることはできませんでしたわ。どうしましょう?
そうだ!
あの方はどうやら御坂様とお知り合いのようでしたから明日思い切って御坂様にお尋ね
することにしましょう)
結局あの方のお名前をお聞きすることはできませんでしたわ。どうしましょう?
そうだ!
あの方はどうやら御坂様とお知り合いのようでしたから明日思い切って御坂様にお尋ね
することにしましょう)
こうしてとある高校生が28本目のフラグを立てたそうです。
そのフラグ数が5桁に達するのはそれからわずか一ヶ月後のことであるが、それはまた別のお話。
そして御坂美琴の悩みの種が一つ増えるは翌日の話であった。
そのフラグ数が5桁に達するのはそれからわずか一ヶ月後のことであるが、それはまた別のお話。
そして御坂美琴の悩みの種が一つ増えるは翌日の話であった。