佐天涙子と初春飾利が初めて出会ったのは、小学校の6年生で同じクラスになった時のことだ。
始業式を終え、初春、佐天を含め児童達はクラスに戻る。
その後入ってきた担任は、適当に自己紹介を終えると
「はーい、それじゃあ1番の子から順に自己紹介していって」
と児童達に声を掛けた。
「はいっ。1番、阿部敦です。アベアツとか、アベシって呼ばれてますっ」
「2番、荒井里美です。よく残念美人とか言われます」
担任の言葉の通りに、1番から順番に児童達が席を立っては簡単な自己紹介をしていく。
そんな中、初春飾利は緊張の極限にあった。
(こ、こんな……知らない人達の前で立ち上がって話すなんて…絶対無理ですっ!)
「3番、伊藤かな恵です。尊敬する声優は竹内順子さんです」
「……………」
「次………えーと、初春さん?」
「は、はいっ」
担任の声に弾かれたように立ち上がった初春は
「え、えと……あの、う、初春、飾利、です」
なんとかそれだけ言うと、バタンと椅子に腰を落としてしまう。
「5番、岡本信彦です。新人賞取ったのでもう弱い生物とか言わないでください」
(あぁ……駄目だなぁ私。何にも言えなかった)
一人後悔の混じった溜め息をつき俯いていた初春の耳に、突然快活な少女の声が飛び込んできた。
「12番、佐天涙子っす。皆、これから一年間よろしくー!」
その声に隣の席に目をやった初春は、そこに頭から花を生やした少女を見た。
「佐天ちゃーん、頭のお花はなーに?」
誰かの質問に
「いやー、やっぱ第一印象って大事って言うじゃん?だから超目立つ格好しようと思って、昨日1日かけて作ったんだー」
「変なのー」
「花瓶だー、歩く花瓶だー」
クラスの皆が佐天に突っ込みを入れ、瞬く間に佐天はクラスの人気者になった。
(凄いなぁ。私もあんな風に話せたらいいのに……)
そう思いながら初春が佐天を見つめていると、
「ん?どした?」
自己紹介を終え席についた佐天がこちらに気づき、目が合ってしまった。
「あ、いえ、えっと、何でもないんです、すいません……」
慌てて取り繕いながら、自分の引っ込み思案な性格に内心で溜め息をつく初春。
「13番佐藤利奈です………」
自己紹介が続く中、佐天は初春に視線を固定したまま告げた。
「えっと、そうだ、初春!だよね」
「は、はいっ、そうですけど……」
(い、いきなり呼び捨てされてしまいました…)
心臓をバクバクさせながら応対する初春に佐天は、ははーん、と突然したり顔になると言った。
「あー、成る程。初春はこの花飾りが欲しかったのですな」
「え、違っ」
「ふふふ、なかなかお目が高いですなぁ初春殿。実はこの花飾りは……なんて、昨日即席で作ったもんだから、特になーし。気に入ったんならあげようか?」
「い、いえそんなっ…」
「遠慮しなさんなって」
言って自分の頭から初春の頭にポンと花を植え替える佐天。
「んー、似合う似合う。初春地味っぽいからなー、こんくらいが丁度いいよ」
「地味っぽいって……」
「あはは、ゴメンゴメン。私口悪くて。でも、それつけてたら、凄い明るく見えるから。地味キャラなんてあっという間に卒業だよ」
「そ、そうですか……?って、これ佐天さんが1日かけて作ったものなのに、頂いたりなんて出来ませんよ!」
「えー、別に良いのに。一発ネタだし」
「で、でも……」
「んじゃ、私はこれだけ貰うわ」
そう言って佐天は初春の頭の花飾りから花をひとつ千切り、それをヘアピンに通して自分の髪にさした。
「どう?似合う?」
「は、はい!とても似合ってます!」
「そりゃ良かった」
そして佐天は、にっ、と悪戯っぽく笑ってから言った。
「じゃ、初春。お隣どーし、一年間よろしくね!」
「は、はい!よろしくお願いします………佐天、さん」
「あっはっはー、固いぞー初春ぅ」
笑いながら初春の手を握って出鱈目に振り回す佐天に、初春は自然と笑みを溢したのだった。
その後入ってきた担任は、適当に自己紹介を終えると
「はーい、それじゃあ1番の子から順に自己紹介していって」
と児童達に声を掛けた。
「はいっ。1番、阿部敦です。アベアツとか、アベシって呼ばれてますっ」
「2番、荒井里美です。よく残念美人とか言われます」
担任の言葉の通りに、1番から順番に児童達が席を立っては簡単な自己紹介をしていく。
そんな中、初春飾利は緊張の極限にあった。
(こ、こんな……知らない人達の前で立ち上がって話すなんて…絶対無理ですっ!)
「3番、伊藤かな恵です。尊敬する声優は竹内順子さんです」
「……………」
「次………えーと、初春さん?」
「は、はいっ」
担任の声に弾かれたように立ち上がった初春は
「え、えと……あの、う、初春、飾利、です」
なんとかそれだけ言うと、バタンと椅子に腰を落としてしまう。
「5番、岡本信彦です。新人賞取ったのでもう弱い生物とか言わないでください」
(あぁ……駄目だなぁ私。何にも言えなかった)
一人後悔の混じった溜め息をつき俯いていた初春の耳に、突然快活な少女の声が飛び込んできた。
「12番、佐天涙子っす。皆、これから一年間よろしくー!」
その声に隣の席に目をやった初春は、そこに頭から花を生やした少女を見た。
「佐天ちゃーん、頭のお花はなーに?」
誰かの質問に
「いやー、やっぱ第一印象って大事って言うじゃん?だから超目立つ格好しようと思って、昨日1日かけて作ったんだー」
「変なのー」
「花瓶だー、歩く花瓶だー」
クラスの皆が佐天に突っ込みを入れ、瞬く間に佐天はクラスの人気者になった。
(凄いなぁ。私もあんな風に話せたらいいのに……)
そう思いながら初春が佐天を見つめていると、
「ん?どした?」
自己紹介を終え席についた佐天がこちらに気づき、目が合ってしまった。
「あ、いえ、えっと、何でもないんです、すいません……」
慌てて取り繕いながら、自分の引っ込み思案な性格に内心で溜め息をつく初春。
「13番佐藤利奈です………」
自己紹介が続く中、佐天は初春に視線を固定したまま告げた。
「えっと、そうだ、初春!だよね」
「は、はいっ、そうですけど……」
(い、いきなり呼び捨てされてしまいました…)
心臓をバクバクさせながら応対する初春に佐天は、ははーん、と突然したり顔になると言った。
「あー、成る程。初春はこの花飾りが欲しかったのですな」
「え、違っ」
「ふふふ、なかなかお目が高いですなぁ初春殿。実はこの花飾りは……なんて、昨日即席で作ったもんだから、特になーし。気に入ったんならあげようか?」
「い、いえそんなっ…」
「遠慮しなさんなって」
言って自分の頭から初春の頭にポンと花を植え替える佐天。
「んー、似合う似合う。初春地味っぽいからなー、こんくらいが丁度いいよ」
「地味っぽいって……」
「あはは、ゴメンゴメン。私口悪くて。でも、それつけてたら、凄い明るく見えるから。地味キャラなんてあっという間に卒業だよ」
「そ、そうですか……?って、これ佐天さんが1日かけて作ったものなのに、頂いたりなんて出来ませんよ!」
「えー、別に良いのに。一発ネタだし」
「で、でも……」
「んじゃ、私はこれだけ貰うわ」
そう言って佐天は初春の頭の花飾りから花をひとつ千切り、それをヘアピンに通して自分の髪にさした。
「どう?似合う?」
「は、はい!とても似合ってます!」
「そりゃ良かった」
そして佐天は、にっ、と悪戯っぽく笑ってから言った。
「じゃ、初春。お隣どーし、一年間よろしくね!」
「は、はい!よろしくお願いします………佐天、さん」
「あっはっはー、固いぞー初春ぅ」
笑いながら初春の手を握って出鱈目に振り回す佐天に、初春は自然と笑みを溢したのだった。
************
大覇星祭。
9月の19日から25日、一週間をかけて行われる学園都市の一大イベントである。
その内容は超能力の使用を許可された大運動会だ。
大覇星祭の期間中学園都市は一般解放されているため、超能力というものを一目見ようと、或いは学園都市に暮らしている家族に会いに、学園都市には沢山の人間が訪れる。
大覇星祭。
9月の19日から25日、一週間をかけて行われる学園都市の一大イベントである。
その内容は超能力の使用を許可された大運動会だ。
大覇星祭の期間中学園都市は一般解放されているため、超能力というものを一目見ようと、或いは学園都市に暮らしている家族に会いに、学園都市には沢山の人間が訪れる。
言うなればお祭り騒ぎだ。
そして佐天涙子はお祭りが大好きだ。
そして佐天涙子はお祭りが大好きだ。
だが、
「はぁ~」
佐天は袋に入れ肩にかけたバットを担ぎ直すと、溜め息をついてグラウンドを後にした。
佐天は袋に入れ肩にかけたバットを担ぎ直すと、溜め息をついてグラウンドを後にした。
大覇星祭初日の午後。
佐天は女子ソフトボールの競技に出場したのだが、チームはトーナメントの一回戦で敗北。
そのため今日1日の佐天のプログラムはこれにて終了である。
ソフトボールは苦手ではない。
むしろ小さい頃から外に出て動き回っていた手前、そこら辺の女子よりかは余程上手いと思っている。
しかし、
(流石に軌道の曲がる魔球なんて打てないわよ……)
テレキネシスやテレポートなどの能力を使われてしまったら、地力の差など簡単に飛び越えられてしまう。
佐天達の通う学校は常磐台のような名門ではないので、在籍している生徒達のレベルも大したことはない。
その上能力の高い生徒はもっと大きな競技に駆り出されているので、佐天達のチームはレベル2が一人いるだけ。
結果は見るも無惨な完封だった。
佐天は女子ソフトボールの競技に出場したのだが、チームはトーナメントの一回戦で敗北。
そのため今日1日の佐天のプログラムはこれにて終了である。
ソフトボールは苦手ではない。
むしろ小さい頃から外に出て動き回っていた手前、そこら辺の女子よりかは余程上手いと思っている。
しかし、
(流石に軌道の曲がる魔球なんて打てないわよ……)
テレキネシスやテレポートなどの能力を使われてしまったら、地力の差など簡単に飛び越えられてしまう。
佐天達の通う学校は常磐台のような名門ではないので、在籍している生徒達のレベルも大したことはない。
その上能力の高い生徒はもっと大きな競技に駆り出されているので、佐天達のチームはレベル2が一人いるだけ。
結果は見るも無惨な完封だった。
そうして溜め息重くとぼとぼと歩いていた時
「あ、初春」
佐天は校舎の方に初春飾利の姿を認めた。
先程から佐天の試合を見ていてくれたようだが、今は誰かと携帯で話していて佐天の接近には気付いていない。
(しめしめ、それではいつものようにスカートをめくってあげるとしようかね)
先程までの落ち込み顔をどこかへ引っ込め、悪戯っぽい笑みを浮かべながら初春に近づいていった佐天は、はた、とあることに気付いてしまった。
(やや、そういえば今日は大覇星祭だから初春も体操服!つまり短パン!これではスカートをめくることが出来ない……むむむ、やりおるな初春よ。スカートをめくられたくなければズボンを穿けばいいじゃない作戦とはっ!)
佐天は驚愕に目を見開いた後、よくわからない闘志を燃やし
(しかーし、そんなことで初春のパンツ確認を諦める佐天さんではないのだよ!)
そろりそろりと初春に背後から忍び寄り、初春が通話を切ったタイミングを見計らうと
「あ、初春」
佐天は校舎の方に初春飾利の姿を認めた。
先程から佐天の試合を見ていてくれたようだが、今は誰かと携帯で話していて佐天の接近には気付いていない。
(しめしめ、それではいつものようにスカートをめくってあげるとしようかね)
先程までの落ち込み顔をどこかへ引っ込め、悪戯っぽい笑みを浮かべながら初春に近づいていった佐天は、はた、とあることに気付いてしまった。
(やや、そういえば今日は大覇星祭だから初春も体操服!つまり短パン!これではスカートをめくることが出来ない……むむむ、やりおるな初春よ。スカートをめくられたくなければズボンを穿けばいいじゃない作戦とはっ!)
佐天は驚愕に目を見開いた後、よくわからない闘志を燃やし
(しかーし、そんなことで初春のパンツ確認を諦める佐天さんではないのだよ!)
そろりそろりと初春に背後から忍び寄り、初春が通話を切ったタイミングを見計らうと
「うーいはるんっ!」
バッと
初春の短パンをズリ下げた。
「おぉ、今日のパンツは可愛いお花柄ですか」
地面に両膝をつき、初春の短パンを脛のあたりまで引き下げた体勢のまま上を見上げ、そこにある初春のお尻に視線を注ぎつつ、うんうん、と頷く佐天。
「…………………………………………………………………………………………へ?」
その辺りでようやく初春の思考が追い付いた。
「ぶっふぉあ!ささささささささ佐天さん!?い、一体何をしているんですか!?」
「いやぁ、いつも通り、パンツを穿いているか確認を……」
「だから穿いてますって!ていうか、スカートならともかく短パンを下げるなんて、あああり得ません!」
「おや、するとスカートならめくってもよろしいと言うことですかな?」
「そんなこと言ってません!」
もー、といいながら顔を真っ赤にして、残った体操服のシャツを下に引っ張り必死でパンツを隠そうとする初春。
「お、初春。何かそれエロいぞ」
「え、何でですか!?」
「いやぁなんというか、シャツでパンツを隠すことによって太ももだけしか見えなくなり、まるで初春がその下に何も着けていないかのような錯覚に……」
「なな、何ですかそれは!」
「嫌だと言うのならシャツから手をどけるのだ」
「そうじゃなくて、佐天さんが早く短パンから手を離して下さいよ!履き直せないじゃないですか!」
「ふふふ、そこまで言うのなら手を離してやろう。だが初春君よ、気付いているかな?君が短パンに手を伸ばそうと上半身を屈ませたその時、君はお尻をつき出す格好になってしまい、最後の防衛線であるシャツのガードは外れ、結果かわいいプリントパンツが衆目の前に晒されてしまうことに!」
「な、何てこと!これじゃあ短パンを上げられません!」
「更に木陰に隠れて穿き直そうなどと言う甘い考えも捨てた方がいいぞよ。何しろずり下げられた短パンは足枷のように君の両足を拘束している。このままでは満足に歩くことも出来まい!」
「そんな!動くに動けない!一体私はどうすれば……」
「初春君が心を込めて頼むのだったら、私が直々に短パンを上げてやってもいいのだがな」
「お、お願いします佐天さん!いえ、佐天様!」
「そんなんじゃ全然駄目だなぁ。もっと誠意を込めて」
「神様仏様佐天様、どうかこの卑しい初春めの短パンを引き上げてくださいませませ!」
「うむ、よろしい」
佐天は満足気に頷くと、すくっ、と立ち上がりがてらに初春の短パンをお尻のところまで引き上げた。
「ふぅ……って、何やらせるんですか佐天さん!」
危機的状況から解放され、我を取り戻した初春が佐天に噛みつく。
「なんだよ~、ノリノリだった癖に~」
「そ、そんなことありませんよっ!」
わたわたと手を振りながら告げる初春。
と、初春の視線がふと佐天が肩にかけたバットに注がれる。
「………残念でしたね、佐天さん」
「ん……あぁ。まぁ、ね」
「相手のピッチャーの方、サイコキネシストだったんでしょうね。打つ直前にボールが変な曲がり方をしてましたし。念動力で飛んでいるボールの軌道を変えてたんだと思います」
「ん、そんな感じだった。おかげで三振、三振、三振ってね。あ~ぁ」
「あの……佐天さん、大丈夫ですか?」
その言葉はかつてのレベルアッパーの事件を鑑みてのことなのだろう。
「あぁ、うん…一回踏ん切りつけたつもりだったんだけどね。……さっきの試合、家族も見に来ててさ。そんで試合終わった後、弟に言われちゃったんだよね。『なんだよ姉ちゃん、超能力使えないんじゃん』ってさ。身内にそう言われちゃったら…何か、ね」
「それは………」
初春は言葉を探し、視線をさ迷わせる。
その所作に何か申し訳ない気持ちになった佐天は、慌てて笑顔を持ち出してごまかした。
「あはは、ごめん。何か暗い感じになっちゃって。まぁ能力開発は気長にやってくつもりだからさ。それより、初春もう今日競技ないでしょ?私も今のが最後だし、どっか回らない?御坂さん達の応援とか」
「あ、いいですね。……と、すいません。実は用事が出来てしまって」
「もしかして、さっきの電話?」
「はい。何でもバスが爆発したとかで。幸い怪我人はいなかったんですけど、テロの可能性もあるので手の空いている風紀委員はパトロールをして欲しい、と」
「そっか…………んじゃ、私もそれ、ついてくよ」
少し考えてからそう返答する佐天。
「え、いいんですか?特に面白くもないと思いますけど……」
「私はもうやることなくて暇だし、だったら初春についていった方が話相手に困らないじゃん。道すがらそこらの学校の競技も覗いたり出来るしさ」
「んもぅ……佐天さん、遊びじゃないんですからね」
「わかってるって。ね、お願い」
地面に両膝をつき、初春の短パンを脛のあたりまで引き下げた体勢のまま上を見上げ、そこにある初春のお尻に視線を注ぎつつ、うんうん、と頷く佐天。
「…………………………………………………………………………………………へ?」
その辺りでようやく初春の思考が追い付いた。
「ぶっふぉあ!ささささささささ佐天さん!?い、一体何をしているんですか!?」
「いやぁ、いつも通り、パンツを穿いているか確認を……」
「だから穿いてますって!ていうか、スカートならともかく短パンを下げるなんて、あああり得ません!」
「おや、するとスカートならめくってもよろしいと言うことですかな?」
「そんなこと言ってません!」
もー、といいながら顔を真っ赤にして、残った体操服のシャツを下に引っ張り必死でパンツを隠そうとする初春。
「お、初春。何かそれエロいぞ」
「え、何でですか!?」
「いやぁなんというか、シャツでパンツを隠すことによって太ももだけしか見えなくなり、まるで初春がその下に何も着けていないかのような錯覚に……」
「なな、何ですかそれは!」
「嫌だと言うのならシャツから手をどけるのだ」
「そうじゃなくて、佐天さんが早く短パンから手を離して下さいよ!履き直せないじゃないですか!」
「ふふふ、そこまで言うのなら手を離してやろう。だが初春君よ、気付いているかな?君が短パンに手を伸ばそうと上半身を屈ませたその時、君はお尻をつき出す格好になってしまい、最後の防衛線であるシャツのガードは外れ、結果かわいいプリントパンツが衆目の前に晒されてしまうことに!」
「な、何てこと!これじゃあ短パンを上げられません!」
「更に木陰に隠れて穿き直そうなどと言う甘い考えも捨てた方がいいぞよ。何しろずり下げられた短パンは足枷のように君の両足を拘束している。このままでは満足に歩くことも出来まい!」
「そんな!動くに動けない!一体私はどうすれば……」
「初春君が心を込めて頼むのだったら、私が直々に短パンを上げてやってもいいのだがな」
「お、お願いします佐天さん!いえ、佐天様!」
「そんなんじゃ全然駄目だなぁ。もっと誠意を込めて」
「神様仏様佐天様、どうかこの卑しい初春めの短パンを引き上げてくださいませませ!」
「うむ、よろしい」
佐天は満足気に頷くと、すくっ、と立ち上がりがてらに初春の短パンをお尻のところまで引き上げた。
「ふぅ……って、何やらせるんですか佐天さん!」
危機的状況から解放され、我を取り戻した初春が佐天に噛みつく。
「なんだよ~、ノリノリだった癖に~」
「そ、そんなことありませんよっ!」
わたわたと手を振りながら告げる初春。
と、初春の視線がふと佐天が肩にかけたバットに注がれる。
「………残念でしたね、佐天さん」
「ん……あぁ。まぁ、ね」
「相手のピッチャーの方、サイコキネシストだったんでしょうね。打つ直前にボールが変な曲がり方をしてましたし。念動力で飛んでいるボールの軌道を変えてたんだと思います」
「ん、そんな感じだった。おかげで三振、三振、三振ってね。あ~ぁ」
「あの……佐天さん、大丈夫ですか?」
その言葉はかつてのレベルアッパーの事件を鑑みてのことなのだろう。
「あぁ、うん…一回踏ん切りつけたつもりだったんだけどね。……さっきの試合、家族も見に来ててさ。そんで試合終わった後、弟に言われちゃったんだよね。『なんだよ姉ちゃん、超能力使えないんじゃん』ってさ。身内にそう言われちゃったら…何か、ね」
「それは………」
初春は言葉を探し、視線をさ迷わせる。
その所作に何か申し訳ない気持ちになった佐天は、慌てて笑顔を持ち出してごまかした。
「あはは、ごめん。何か暗い感じになっちゃって。まぁ能力開発は気長にやってくつもりだからさ。それより、初春もう今日競技ないでしょ?私も今のが最後だし、どっか回らない?御坂さん達の応援とか」
「あ、いいですね。……と、すいません。実は用事が出来てしまって」
「もしかして、さっきの電話?」
「はい。何でもバスが爆発したとかで。幸い怪我人はいなかったんですけど、テロの可能性もあるので手の空いている風紀委員はパトロールをして欲しい、と」
「そっか…………んじゃ、私もそれ、ついてくよ」
少し考えてからそう返答する佐天。
「え、いいんですか?特に面白くもないと思いますけど……」
「私はもうやることなくて暇だし、だったら初春についていった方が話相手に困らないじゃん。道すがらそこらの学校の競技も覗いたり出来るしさ」
「んもぅ……佐天さん、遊びじゃないんですからね」
「わかってるって。ね、お願い」
「………わかりました。じゃ、一緒に行きましょうか」
「わーい、初春とデートだ!」
言って、佐天は初春の手を掴んで走り出した。
「わわ、佐天さん!?これはパトロールなんですからもう少し真面目に……大体デートって私達女の子同士じゃないですか!」
「んー、初春は私とデートは嫌かね」
「べ、別に嫌じゃないですけど……」
「ならばよーし!問題ナッシング!」
「もぅ……佐天さんってば」
初春は佐天に手をひかれながら、密かにその顔に笑みを浮かべた。
************
「そう言えば佐天さんはキャッチャーじゃないんですね」
「それはどういう意味かな初春。私がキャッチャーするってんなら初春はカスタネット叩いてうんたんするのかな」
「あ、あんな恥ずかしいこと中学生にもなって出来る訳ないじゃないですか!」
佐天と初春は大覇星祭中の学園都市をパトロールしていた。
佐天は運動後、初春は風紀委員の仕事という手前、二人とも体操服から制服に着替えていた。
初春は更に右袖に風紀委員の腕章をつけ、怪しい者がいないか周りに視線を走らせている。
一方、佐天もあちこちを眺めたり覗いたりを繰り返しているものの、それは何か面白い物はないかという好奇心からであった。
「佐天さん、真面目にやってくれないと……」
初春のたしなめる声に佐天はひらひらと手を振って答える。
「いやいや、ちゃんと探してるよ。ほら、あそこの兄ちゃんとか怪しくない?あの小学生くらいの女の子を連れてる髪の白いの。幼女誘拐かもしれないよ。服の趣味も凄い悪いし。あんなの何処で売ってんのかな?」
「アニメイトかコスパじゃないですか?見たところ女の子とは仲が良いようですし、外から来た兄妹とかだと思いますよ」
「それにしちゃ似てなさ過ぎじゃない?むしろ妹の方なんて、御坂さんの妹って言われた方がしっくり来る位だし」
「あ~、確かにそうですね」
遠巻きに二人組を見ていると、御坂似の女の子が白髪の少年の服を引っ張り何やら騒ぎ始めた。
女の子は空いた手で近くのクレープ屋の方を指差している。
幾らか抵抗している様子の少年だったが、少しすると少年は観念したように歩き出し、女の子にクレープを買ってあげていた。
「クレープですか……そういえばあの店、新作の秋季限定モンブランクレープが美味しいって評判でしたね……」
無意識の内に涎が垂れそうになる初春。
「おっと!いけません!いけませんよ私!今は風紀委員のお仕事中!クレープ片手にパトロールなんて風紀委員としての威厳も何もあったものではありません!禁止です禁止!佐天さんもそのことを肝に銘じてくださいね!」
「はい、秋季限定モンブランクレープ買ってきたよ」
「素早いっっっ!?」
初春が独り言を呟いている間に初春の側から消え、クレープを買って帰ってきた佐天は
「はい、どーぞ」
と左手に持ったクレープを初春に差し出しつつ右手に持った同じ味のクレープにかぶりつく。
「んー。おいひーぞー」
「だから佐天さん!今は仕事中で、こういう不真面目な態度はですね…」
「そっかぁ、初春はこれ要らないのかぁ」
「いえ、それは……えっと、その……」
「んー?何だって?」
「……………し、仕事で、パトロールで、えっと、頭とか、使うので、その、あの…………糖分です!!」
最早日本語になっていない文章を叫んだ後、初春はクレープに大きくかぶりついた。
「わーい、初春とデートだ!」
言って、佐天は初春の手を掴んで走り出した。
「わわ、佐天さん!?これはパトロールなんですからもう少し真面目に……大体デートって私達女の子同士じゃないですか!」
「んー、初春は私とデートは嫌かね」
「べ、別に嫌じゃないですけど……」
「ならばよーし!問題ナッシング!」
「もぅ……佐天さんってば」
初春は佐天に手をひかれながら、密かにその顔に笑みを浮かべた。
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「そう言えば佐天さんはキャッチャーじゃないんですね」
「それはどういう意味かな初春。私がキャッチャーするってんなら初春はカスタネット叩いてうんたんするのかな」
「あ、あんな恥ずかしいこと中学生にもなって出来る訳ないじゃないですか!」
佐天と初春は大覇星祭中の学園都市をパトロールしていた。
佐天は運動後、初春は風紀委員の仕事という手前、二人とも体操服から制服に着替えていた。
初春は更に右袖に風紀委員の腕章をつけ、怪しい者がいないか周りに視線を走らせている。
一方、佐天もあちこちを眺めたり覗いたりを繰り返しているものの、それは何か面白い物はないかという好奇心からであった。
「佐天さん、真面目にやってくれないと……」
初春のたしなめる声に佐天はひらひらと手を振って答える。
「いやいや、ちゃんと探してるよ。ほら、あそこの兄ちゃんとか怪しくない?あの小学生くらいの女の子を連れてる髪の白いの。幼女誘拐かもしれないよ。服の趣味も凄い悪いし。あんなの何処で売ってんのかな?」
「アニメイトかコスパじゃないですか?見たところ女の子とは仲が良いようですし、外から来た兄妹とかだと思いますよ」
「それにしちゃ似てなさ過ぎじゃない?むしろ妹の方なんて、御坂さんの妹って言われた方がしっくり来る位だし」
「あ~、確かにそうですね」
遠巻きに二人組を見ていると、御坂似の女の子が白髪の少年の服を引っ張り何やら騒ぎ始めた。
女の子は空いた手で近くのクレープ屋の方を指差している。
幾らか抵抗している様子の少年だったが、少しすると少年は観念したように歩き出し、女の子にクレープを買ってあげていた。
「クレープですか……そういえばあの店、新作の秋季限定モンブランクレープが美味しいって評判でしたね……」
無意識の内に涎が垂れそうになる初春。
「おっと!いけません!いけませんよ私!今は風紀委員のお仕事中!クレープ片手にパトロールなんて風紀委員としての威厳も何もあったものではありません!禁止です禁止!佐天さんもそのことを肝に銘じてくださいね!」
「はい、秋季限定モンブランクレープ買ってきたよ」
「素早いっっっ!?」
初春が独り言を呟いている間に初春の側から消え、クレープを買って帰ってきた佐天は
「はい、どーぞ」
と左手に持ったクレープを初春に差し出しつつ右手に持った同じ味のクレープにかぶりつく。
「んー。おいひーぞー」
「だから佐天さん!今は仕事中で、こういう不真面目な態度はですね…」
「そっかぁ、初春はこれ要らないのかぁ」
「いえ、それは……えっと、その……」
「んー?何だって?」
「……………し、仕事で、パトロールで、えっと、頭とか、使うので、その、あの…………糖分です!!」
最早日本語になっていない文章を叫んだ後、初春はクレープに大きくかぶりついた。
「うむうむ、それで良いのだ」
「うぅ~、佐天さんといるとどんどん悪い子になっていってしまう気がします」
「酷いことを言うなぁ初春君よ。私はね、君に人生の楽しみ方というものを教えてやっているのだよ」
「もぅ、都合のいいことばっかり言って……」
「では聞くけども初春君。このクレープ、お味は?」
「………………大変美味しゅうございます」
「よろしい!……しっかし、二人で街を歩いてクレープ食べて、いよいよ本格的にデートっぽくなってきましたな」
「佐天さん、またそんなこと言って……」
「折角の初春とのデートだから、もっと色々回っちゃおう!確かパレードもあるんだよね?」
「あぁ、ナイトパレードのことですか?午後6時半に学園都市中をライトアップする大掛かりなイベントだって話ですよ」
「6時半か、まだ少し時間があるなぁ…よしっ」
「もしかしてまだ何か食べる気ですか?」
「ふっふーん。いつものケーキ屋さん、この前新作ケーキが出たんだけどなぁ」
「ケ、ケーキですか………………………はぁ、わかりました。行きます。行きましょう」
「よしよしそう来なくっちゃな」
そう言ってスキップをしながら先を行く佐天の後ろ姿を見ながら、初春は思うのだった。
今の自分は、この佐天涙子という少女のおかげでここに在るのだということを。
あの時自分に声をかけてくれた、花飾りをプレゼントしてくれた、それが引っ込み思案だった自分の世界を大きく広げてくれたのだということを。
「佐天さんっ」
「なーに、初春」
「ありがとうございますね」
「あー、よいよよいよ」
フランクに手をぶらぶらさせて答える佐天に、初春は顔を綻ばせ、
「うぅ~、佐天さんといるとどんどん悪い子になっていってしまう気がします」
「酷いことを言うなぁ初春君よ。私はね、君に人生の楽しみ方というものを教えてやっているのだよ」
「もぅ、都合のいいことばっかり言って……」
「では聞くけども初春君。このクレープ、お味は?」
「………………大変美味しゅうございます」
「よろしい!……しっかし、二人で街を歩いてクレープ食べて、いよいよ本格的にデートっぽくなってきましたな」
「佐天さん、またそんなこと言って……」
「折角の初春とのデートだから、もっと色々回っちゃおう!確かパレードもあるんだよね?」
「あぁ、ナイトパレードのことですか?午後6時半に学園都市中をライトアップする大掛かりなイベントだって話ですよ」
「6時半か、まだ少し時間があるなぁ…よしっ」
「もしかしてまだ何か食べる気ですか?」
「ふっふーん。いつものケーキ屋さん、この前新作ケーキが出たんだけどなぁ」
「ケ、ケーキですか………………………はぁ、わかりました。行きます。行きましょう」
「よしよしそう来なくっちゃな」
そう言ってスキップをしながら先を行く佐天の後ろ姿を見ながら、初春は思うのだった。
今の自分は、この佐天涙子という少女のおかげでここに在るのだということを。
あの時自分に声をかけてくれた、花飾りをプレゼントしてくれた、それが引っ込み思案だった自分の世界を大きく広げてくれたのだということを。
「佐天さんっ」
「なーに、初春」
「ありがとうございますね」
「あー、よいよよいよ」
フランクに手をぶらぶらさせて答える佐天に、初春は顔を綻ばせ、
「―――――?」
ふと立ち止まった。
「どうかした?初春」
「いえ、その………」
初春は路地の方に視線を向けながら言う。
「今何か聞こえませんでした?」
「いえ、その………」
初春は路地の方に視線を向けながら言う。
「今何か聞こえませんでした?」
************
「あれが次の相手か」
学園都市のとある高校の野球部員達は、次にトーナメントで当たる相手校の試合を見ていた。
「………相変わらず、奇怪なもんだな。超能力ってのは」
彼らの学校の野球部員は、皆レベル0かレベル1。
これと言った超能力の才を持たない者達ばかりだ。
そのせいもあり、部員の中には先のレベルアッパー事件に巻き込まれてしまった者もいる。
「まぁ、あれでも去年よりはマシらしいがな」
部長の言葉に後輩が食いついた。
「あれよりって………あのテレポーターですか?『交換転送(シフトチェンジ)』って、自分と相手の座標を入れ換えるっていう。転移前も転移後も座標計算が必要無いからタイムロスも少ない――あんなのよりも厄介なのがいたんですか?」
「あれが次の相手か」
学園都市のとある高校の野球部員達は、次にトーナメントで当たる相手校の試合を見ていた。
「………相変わらず、奇怪なもんだな。超能力ってのは」
彼らの学校の野球部員は、皆レベル0かレベル1。
これと言った超能力の才を持たない者達ばかりだ。
そのせいもあり、部員の中には先のレベルアッパー事件に巻き込まれてしまった者もいる。
「まぁ、あれでも去年よりはマシらしいがな」
部長の言葉に後輩が食いついた。
「あれよりって………あのテレポーターですか?『交換転送(シフトチェンジ)』って、自分と相手の座標を入れ換えるっていう。転移前も転移後も座標計算が必要無いからタイムロスも少ない――あんなのよりも厄介なのがいたんですか?」
「あぁ、いたんだよ。絶対に打てない球を投げるピッチャーがな」
「絶対に打てない球?」
「あぁ、本当にフザケた能力だった。大抵の曲がる魔球なら何とか軌道を読んで打ち返せるが、そいつの球はど真ん中ストレートでも決して打ち返せないんだよ」
「そんな能力者が……」
「ま、去年馬鹿やらかして捕まったって聞いたがな。確か能力名は―――
「絶対に打てない球?」
「あぁ、本当にフザケた能力だった。大抵の曲がる魔球なら何とか軌道を読んで打ち返せるが、そいつの球はど真ん中ストレートでも決して打ち返せないんだよ」
「そんな能力者が……」
「ま、去年馬鹿やらかして捕まったって聞いたがな。確か能力名は―――
『絶対等速(イコールスピード)』とか言ったかな」
************
時刻としてはもう夕方と言っても差し支えない頃だが、まだ9月であるということ、そして大覇星祭という特別な行事の最中であることから、未だ街中に人通りは絶えない。
そんな喧騒の中で、初春は路地の向こうから何かの物音を聞いたと言う。
「私は別に聞こえなかったけど……」
佐天は正直に述べたが、初春の持つ直感や状況把握能力の高さを知っている身としては、それを空耳と切り捨てるのも憚られた。
しかも、初春の見つめる路地というのは、丁度銀行の隣にある。
夕方なのでシャッターが閉まっていることに違和感はないが、すると尚更裏手の方から聞こえた音には何か良からぬことを連想させられてしまう。
「私、少し見てきますね」
路地へ歩き出す初春に
「わ、私も一緒に行くよ」
佐天も一歩遅れてついていった。
************
丘原燎多は自分の一味と、少年院で知り合った二人の男達と共に銀行の裏口から外に出た。
裏口は、扉の錠の部分がひしゃげている。
丘原が発火能力(パイロキネシス)で扉を溶かして銀行内部へ侵入した為だ。
丘原の能力はレベル3。
かつて銀行強盗を行った時は、派手さを演出したくて爆炎を撒き散らしたりなどしたが、本当はこうした精密な炎の制御も可能なのだ。
そんな丘原の怒りの対象は、目下J・Cスタッフである。
「たく、あいつら俺をレベルアッパーを使ったって設定にしやがって。ふざけんな。俺は原作ではもともとレベル3なんだよ。なんであいつらはオリジナル展開をやるかねぇ。大体8話のフロッグスコートって何?アスファルトの錬金術師ですか?てかあそこの流れ明らかにおかしかったじゃん。原作では上条さんのターンだったのによぉ……」
「いいじゃないすか兄貴。大体こん中で名前あるの兄貴だけっすよ?」
部下A(デブじゃない方)がたしなめるように丘原に言った。
「どうあれ、こうして少年院抜け出してまた金も入ったんすから」
部下B(デブ)もそれに続ける。
時刻としてはもう夕方と言っても差し支えない頃だが、まだ9月であるということ、そして大覇星祭という特別な行事の最中であることから、未だ街中に人通りは絶えない。
そんな喧騒の中で、初春は路地の向こうから何かの物音を聞いたと言う。
「私は別に聞こえなかったけど……」
佐天は正直に述べたが、初春の持つ直感や状況把握能力の高さを知っている身としては、それを空耳と切り捨てるのも憚られた。
しかも、初春の見つめる路地というのは、丁度銀行の隣にある。
夕方なのでシャッターが閉まっていることに違和感はないが、すると尚更裏手の方から聞こえた音には何か良からぬことを連想させられてしまう。
「私、少し見てきますね」
路地へ歩き出す初春に
「わ、私も一緒に行くよ」
佐天も一歩遅れてついていった。
************
丘原燎多は自分の一味と、少年院で知り合った二人の男達と共に銀行の裏口から外に出た。
裏口は、扉の錠の部分がひしゃげている。
丘原が発火能力(パイロキネシス)で扉を溶かして銀行内部へ侵入した為だ。
丘原の能力はレベル3。
かつて銀行強盗を行った時は、派手さを演出したくて爆炎を撒き散らしたりなどしたが、本当はこうした精密な炎の制御も可能なのだ。
そんな丘原の怒りの対象は、目下J・Cスタッフである。
「たく、あいつら俺をレベルアッパーを使ったって設定にしやがって。ふざけんな。俺は原作ではもともとレベル3なんだよ。なんであいつらはオリジナル展開をやるかねぇ。大体8話のフロッグスコートって何?アスファルトの錬金術師ですか?てかあそこの流れ明らかにおかしかったじゃん。原作では上条さんのターンだったのによぉ……」
「いいじゃないすか兄貴。大体こん中で名前あるの兄貴だけっすよ?」
部下A(デブじゃない方)がたしなめるように丘原に言った。
「どうあれ、こうして少年院抜け出してまた金も入ったんすから」
部下B(デブ)もそれに続ける。
彼らは銀行強盗後に少年院送りになっていた。
学園都市に一つしかないその少年院にずっと閉じ込められていたわけだが、大覇星祭初日の今日、丘原は院内の様子がおかしいことに気付いた。
どうやら外から入ってきたテロリストがバスを爆発させたり女子高生を血の海に沈めたりと暴れまわっているらしい。
それで院内が慌ただしくなっているようだ。
だがそれだけでは少年院から逃げ出すほどの隙にはならない。
能力が使えれば或いは可能だろうが、少年犯罪者達は院に敷かれているAIMジャマーによって能力を封じられている。
学園都市に一つしかないその少年院にずっと閉じ込められていたわけだが、大覇星祭初日の今日、丘原は院内の様子がおかしいことに気付いた。
どうやら外から入ってきたテロリストがバスを爆発させたり女子高生を血の海に沈めたりと暴れまわっているらしい。
それで院内が慌ただしくなっているようだ。
だがそれだけでは少年院から逃げ出すほどの隙にはならない。
能力が使えれば或いは可能だろうが、少年犯罪者達は院に敷かれているAIMジャマーによって能力を封じられている。
しかし。
そのAIMジャマーの効力が突然切れたのだ。
理由はわからないがこのチャンスを見逃す手はなく、丘原はかつての仲間と、院で知り合った二人の男と共に脱走を試みた。
他の者達もそれに気づき逃亡を目論んだが、当然院の警備もそれに気づいて脱走を阻もうとする。
そうして少年院では警備と少年犯罪者との乱闘が起こり、丘原達はその混乱に乗じて少年院を抜け出したのだ。
理由はわからないがこのチャンスを見逃す手はなく、丘原はかつての仲間と、院で知り合った二人の男と共に脱走を試みた。
他の者達もそれに気づき逃亡を目論んだが、当然院の警備もそれに気づいて脱走を阻もうとする。
そうして少年院では警備と少年犯罪者との乱闘が起こり、丘原達はその混乱に乗じて少年院を抜け出したのだ。
「助かったぜ。俺達二人じゃここまでスムーズには行かなかった」
件の二人組の内の一人、イコールスピードが声をかけてきた。
イコールスピードの言う通り、今回の銀行強盗は非常に静かに済ませることが出来た。
おそらく残っていた数人の銀行員達は未だに金が盗まれていることにすら気付いていないだろう。
銀行のATMの警報装置を壊した上でATMに穴を空けて現金を奪うという方法は、強盗と言うより怪盗の手口である。
「それはこっちのセリフでもあるぜ。あんたらの能力も中々のもんだ。…あぁ、こっちのが頭数が多いんだ、取り分は少し多目に貰うぜ」
丘原は言いながら札束を詰めたバッグを引き寄せる。
「構わねぇよ。……そうだ。なぁお前ら、俺達と組まねぇか?俺達とお前らの能力が合わされば無敵だぜ」
イコールスピードの言葉に
「………そうだな。ほとぼりが冷めたら、また手を組むってのも悪かねぇか。だが―――」
丘原は路地の方にちらりと視線をやってから静かに告げた。
「取り敢えずはうろちょろしてる鼠の駆除が最優先だな」
件の二人組の内の一人、イコールスピードが声をかけてきた。
イコールスピードの言う通り、今回の銀行強盗は非常に静かに済ませることが出来た。
おそらく残っていた数人の銀行員達は未だに金が盗まれていることにすら気付いていないだろう。
銀行のATMの警報装置を壊した上でATMに穴を空けて現金を奪うという方法は、強盗と言うより怪盗の手口である。
「それはこっちのセリフでもあるぜ。あんたらの能力も中々のもんだ。…あぁ、こっちのが頭数が多いんだ、取り分は少し多目に貰うぜ」
丘原は言いながら札束を詰めたバッグを引き寄せる。
「構わねぇよ。……そうだ。なぁお前ら、俺達と組まねぇか?俺達とお前らの能力が合わされば無敵だぜ」
イコールスピードの言葉に
「………そうだな。ほとぼりが冷めたら、また手を組むってのも悪かねぇか。だが―――」
丘原は路地の方にちらりと視線をやってから静かに告げた。
「取り敢えずはうろちょろしてる鼠の駆除が最優先だな」
************
「あいつら……夏休みの銀行強盗!」
「それにあの二人組は去年の……」
佐天と初春は路地の壁に背を預け、顔だけを覗かせながら彼ら5人の様子を見ていた。
彼らが金の分配を始めた辺りで、2人は一度顔を引っ込め小声で会話を交わした。
「初春、風紀委員に……」
「えぇ、連絡してすぐに増援を呼びます。それまで何とかあの人達を見失わないように追いかけましょう」
「うん、わかった」
佐天が頷くと初春はすぐにスカートのポケットから携帯を取り出したが、
「あいつら……夏休みの銀行強盗!」
「それにあの二人組は去年の……」
佐天と初春は路地の壁に背を預け、顔だけを覗かせながら彼ら5人の様子を見ていた。
彼らが金の分配を始めた辺りで、2人は一度顔を引っ込め小声で会話を交わした。
「初春、風紀委員に……」
「えぇ、連絡してすぐに増援を呼びます。それまで何とかあの人達を見失わないように追いかけましょう」
「うん、わかった」
佐天が頷くと初春はすぐにスカートのポケットから携帯を取り出したが、
パシッ
とその携帯を誰かの腕が掴んだ。
そしてその腕からバチンッと放電が起こり、初春の携帯は黒い煙を上げてブラックアウトしてしまった。
「!?」
「ようよう、こんな所でこそこそ何やってんのかな?」
腕の主、黒いジャケットを着た三人組の内の一人、部下Aが低い声音で言う。
気がつくと、さっきまで裏口の前で金の分配をしていた筈の5人全員が目の前に立っていた。
「! 佐天さん逃げ――」
初春の叫んだ言葉はしかし途中で途切れた。
部下Aの蹴りが懐を撃ち抜いたのだ。
初春の軽い身体は簡単に浮き上がり、狭い路地の壁に叩きつけられた。
「うっ……けほっ!けほっ!」
「う、ういは――」
駆け寄ろうとした佐天の胸ぐらを二人組の内の一人、ニット帽の男が掴み上げ、佐天のスカートのポケットから携帯を奪う。
やはり電流操作系の能力なのだろうか、ニット帽の手の中で佐天の携帯の画面がエラーを表示した後プツリと途切れた。
「ん?何だこいつら。見覚えがあると思ったら、あの常磐台の奴らと一緒にいた……」
丘原の言葉に他の4人も二人の、もしくは内一人の顔に見覚えがあることに気付いた。
「あの風紀委員のお友達かよ!」
「テメェら、あん時はよくもやってくれたなぁ!」
男達は地面に倒れている初春に向かって容赦のない蹴りを浴びせる。
「うっ……うぐっ…」
初春はただ頭を抱え、耐えることしか出来ない。
「やめて!やめてよ!」
胸ぐらを掴まれた体勢のまま佐天が抗議するが
「っセェんだよコラァ!」
「がっ……は」
ニット帽は一度手を放すと、その拳を佐天の鳩尾に叩き込んだ。
「あっ……ぐ…」
佐天は声にならない声を上げながらその場に座りこむ。
その顔面に丘原は容赦なく拳を浴びせた。
佐天は身体ごと吹き飛ばされそうになるが、倒れる間もなく胸ぐらを掴まれて引き戻され、拳の連撃を食ららされる。
「あっ……はぁ、はぁ……うい、は………る…」
「ンだよその目はよォ!」
それでもなお抵抗を続ける佐天の態度に、初春を蹴りつけていた他の三人も佐天への攻撃に加わる。
結果そこには女の子1人を男5人がなぶるという集団リンチの図式が出来上がっていた。
「やめ……佐天さん…」
初春の声も届かず、佐天はまるでボールかサンドバックのように扱われ続ける。
佐天はやがて気を失い、壁に背を預けたままずるずると崩れ落ちた。
「ま、これだけやっときゃすぐには助けも呼べねぇだろ。見られたのは誤算だったがどうせ直にバレるんだ。こいつらが警備員に通報する前にトンズラこいちまおうぜ」
ひとしきり暴れた後、丘原がイコールスピードに提案したが、
「いや」
ニット帽が異を唱えた。
そしてその腕からバチンッと放電が起こり、初春の携帯は黒い煙を上げてブラックアウトしてしまった。
「!?」
「ようよう、こんな所でこそこそ何やってんのかな?」
腕の主、黒いジャケットを着た三人組の内の一人、部下Aが低い声音で言う。
気がつくと、さっきまで裏口の前で金の分配をしていた筈の5人全員が目の前に立っていた。
「! 佐天さん逃げ――」
初春の叫んだ言葉はしかし途中で途切れた。
部下Aの蹴りが懐を撃ち抜いたのだ。
初春の軽い身体は簡単に浮き上がり、狭い路地の壁に叩きつけられた。
「うっ……けほっ!けほっ!」
「う、ういは――」
駆け寄ろうとした佐天の胸ぐらを二人組の内の一人、ニット帽の男が掴み上げ、佐天のスカートのポケットから携帯を奪う。
やはり電流操作系の能力なのだろうか、ニット帽の手の中で佐天の携帯の画面がエラーを表示した後プツリと途切れた。
「ん?何だこいつら。見覚えがあると思ったら、あの常磐台の奴らと一緒にいた……」
丘原の言葉に他の4人も二人の、もしくは内一人の顔に見覚えがあることに気付いた。
「あの風紀委員のお友達かよ!」
「テメェら、あん時はよくもやってくれたなぁ!」
男達は地面に倒れている初春に向かって容赦のない蹴りを浴びせる。
「うっ……うぐっ…」
初春はただ頭を抱え、耐えることしか出来ない。
「やめて!やめてよ!」
胸ぐらを掴まれた体勢のまま佐天が抗議するが
「っセェんだよコラァ!」
「がっ……は」
ニット帽は一度手を放すと、その拳を佐天の鳩尾に叩き込んだ。
「あっ……ぐ…」
佐天は声にならない声を上げながらその場に座りこむ。
その顔面に丘原は容赦なく拳を浴びせた。
佐天は身体ごと吹き飛ばされそうになるが、倒れる間もなく胸ぐらを掴まれて引き戻され、拳の連撃を食ららされる。
「あっ……はぁ、はぁ……うい、は………る…」
「ンだよその目はよォ!」
それでもなお抵抗を続ける佐天の態度に、初春を蹴りつけていた他の三人も佐天への攻撃に加わる。
結果そこには女の子1人を男5人がなぶるという集団リンチの図式が出来上がっていた。
「やめ……佐天さん…」
初春の声も届かず、佐天はまるでボールかサンドバックのように扱われ続ける。
佐天はやがて気を失い、壁に背を預けたままずるずると崩れ落ちた。
「ま、これだけやっときゃすぐには助けも呼べねぇだろ。見られたのは誤算だったがどうせ直にバレるんだ。こいつらが警備員に通報する前にトンズラこいちまおうぜ」
ひとしきり暴れた後、丘原がイコールスピードに提案したが、
「いや」
ニット帽が異を唱えた。
「そっちのお花の嬢ちゃんのお友達には随分お世話になったからな。借りはきっちり返させてもらうぜ」
そう言ってニット帽は初春を酷く濁った色の瞳で見つめた。
「だ、そうだ。悪いが先に行ってくれ。お前らに不利益になるようにはしないさ」
イコールスピードの言葉に
「………………そうか。わかった」
一拍置いてから返事をすると、丘原は部下達を引き連れて裏通りに消えていった。
それを見送ってから、ニット帽は初春に近づいていく。
「いや、やめ……やめてください……」
この後に何が起こるかを察した初春が傷ついた身体を引きずって必死で後ずさる。
だが、
「無駄な足掻きだぜ、嬢ちゃん」
ニット帽が初春の肩に触れると
「!? 何で……身体が、動かない……?」
「さっきも見せたろ、俺は電流操作系の能力者だ。まぁ、さっきの野郎みたいにデカイ電流を流したり空中放電は出来ねぇが、逆に細かい電流の操作は得意なんだよ。だから機械を流れる電流を弄って壊したり――人間の生体電流を操って、脳から筋肉への命令をストップさせたりすることも出来る。どうだ?指一本動かせねぇだろ」
「そんな……」
「まぁ安心しな。首から上は自由だから声も上げられるし、脳が受信する方向には干渉しちゃいねぇから、ちゃんと感覚も伝わるからな」
「い………いや……」
「大丈夫だ。ちゃんと気持ち良くしてやっからよ」
言葉をかけながら徐々に初春に体重をかけていくニット帽。
「おい、終わったら代われよ。おれもあのツインテに憂さ晴らししてぇからな」
イコールスピードが言い
「わかってるって」
とニット帽は気安く返す。
そこに罪の意識は無く、行為は強者の当然の権利として振るわれる。
一本通りを行けばそこは万人で溢れ返っているというのに、その喧騒故に彼らに少女の声は届かない。
「いや……やぁぁぁぁぁ!!!」
初春の叫びに
そう言ってニット帽は初春を酷く濁った色の瞳で見つめた。
「だ、そうだ。悪いが先に行ってくれ。お前らに不利益になるようにはしないさ」
イコールスピードの言葉に
「………………そうか。わかった」
一拍置いてから返事をすると、丘原は部下達を引き連れて裏通りに消えていった。
それを見送ってから、ニット帽は初春に近づいていく。
「いや、やめ……やめてください……」
この後に何が起こるかを察した初春が傷ついた身体を引きずって必死で後ずさる。
だが、
「無駄な足掻きだぜ、嬢ちゃん」
ニット帽が初春の肩に触れると
「!? 何で……身体が、動かない……?」
「さっきも見せたろ、俺は電流操作系の能力者だ。まぁ、さっきの野郎みたいにデカイ電流を流したり空中放電は出来ねぇが、逆に細かい電流の操作は得意なんだよ。だから機械を流れる電流を弄って壊したり――人間の生体電流を操って、脳から筋肉への命令をストップさせたりすることも出来る。どうだ?指一本動かせねぇだろ」
「そんな……」
「まぁ安心しな。首から上は自由だから声も上げられるし、脳が受信する方向には干渉しちゃいねぇから、ちゃんと感覚も伝わるからな」
「い………いや……」
「大丈夫だ。ちゃんと気持ち良くしてやっからよ」
言葉をかけながら徐々に初春に体重をかけていくニット帽。
「おい、終わったら代われよ。おれもあのツインテに憂さ晴らししてぇからな」
イコールスピードが言い
「わかってるって」
とニット帽は気安く返す。
そこに罪の意識は無く、行為は強者の当然の権利として振るわれる。
一本通りを行けばそこは万人で溢れ返っているというのに、その喧騒故に彼らに少女の声は届かない。
「いや……やぁぁぁぁぁ!!!」
初春の叫びに
佐天は――
佐天涙子は―――
************
佐天涙子はヒーローというものが好きだった。
小さい頃は、日曜日に他の女の子よりも30分か1時間早起きしてテレビにかじりついたものだ。
悪の怪人を不思議な力で倒していくヒーロー達に佐天は釘付けになった。
自分もそんな力が欲しいと、ヒーローになりたいと思った。
そうして期待を胸にやってきた学園都市だったが――
佐天涙子はヒーローというものが好きだった。
小さい頃は、日曜日に他の女の子よりも30分か1時間早起きしてテレビにかじりついたものだ。
悪の怪人を不思議な力で倒していくヒーロー達に佐天は釘付けになった。
自分もそんな力が欲しいと、ヒーローになりたいと思った。
そうして期待を胸にやってきた学園都市だったが――
『風速0.00メートル。誤差測定不能。能力認定――レベル0です』
その宣告は、余りにも無情なものだった。
努力はした。
だが佐天に能力は宿らない。
家に帰りたいと、逃げ出してしまいたいと何度も思った。
だが佐天に能力は宿らない。
家に帰りたいと、逃げ出してしまいたいと何度も思った。
それでも佐天が学園都市に残っているのは、
佐天を繋ぐ最後の糸は、
佐天を繋ぐ最後の糸は、
初春飾利という存在だったのだ。
************
守ってやりたいと思った。
『初春はホントにおっちょこちょいだなぁ。私がいなかったらどうする気だったのさ』
『えへへ……すいません』
『えへへ……すいません』
不器用ながらも前に進んでいく彼女を、
『佐天さん!わ、わた、私、レベル1になっちゃいました!』
『凄いじゃん初春!』
『凄いじゃん初春!』
見守っているのも楽しかったけれど、
『佐天さん!風紀委員の試験、合格したって、お知らせが!』
『おー、やったじゃん!』
『おー、やったじゃん!』
段々と彼女が遠くに行ってしまうような気がして、
『はい。風紀委員で同じ支部の白井さんって言って……とても面白い方なんですよ!』
『へぇ……そう』
『へぇ……そう』
少し――嫌だった。
この子は不器用でも少しずつ前に進んでいるのに、
私はずっと立ち止まったままだ。
私はずっと立ち止まったままだ。
彼女の周りには私よりも凄い人達がどんどん増えていって、
何の取り柄もない自分はいつか切り捨てられてしまうんじゃないかと思えて――酷く怖かった。
何の取り柄もない自分はいつか切り捨てられてしまうんじゃないかと思えて――酷く怖かった。
『能力があってもなくても、佐天さんは佐天さんです!』
彼女は、ただ隣にいてくれるだけでいいと言ってくれた。
親友だからと、言ってくれた。
親友だからと、言ってくれた。
でも――
そう言われる程に、彼女のことを守りたいという気持ちは強くなってしまう。
けれどそれも無理な話だ。
だって、佐天涙子はレベル0。
だって、佐天涙子はレベル0。
何の能力もありはしないのだから。
************
佐天はぼんやりと目を開いた。
そこには泣き叫ぶ初春と、彼女にまたがる男の姿があった。
(あぁ……初春ヤバいじゃん。乙女のピンチだよ)
佐天の身体はそこら中傷だらけで、頭からも出血しているのだろうか、顔がべっとりと湿っている感覚がある。
そのせいか、脳が上手く働かない。
目の前の光景がブラウン管の中の出来事のように思える。
或いは、予定調和の物語の一節か。
(でもさ、きっともうすぐ、そこの路地から御坂さんがやってきてさ……何やってんのよあんた達、とか言って、ビリビリって電撃浴びせて、一発で解決しちゃうんだ。もしくは白井さん。風紀委員ですの、て腕章引っ張って入ってきてさ、素手でこいつら簡単に伸しちゃって、最後に杭みたいので壁に打ちつけて終了。或いはもっと別の誰かかな。泣いてる女の子は放っとけないぜ、みたいな男の子。突然やって来て、風のように去っていく、ヒーローみたいな誰かさん)
「いや…………お願いします………やめて、ください……」
(ほら、早く来ないと。マジでヤバいって。もうそろそろ放送コードギリギリですよ?そりゃあ少年達は大喜びかもしんないけど、そんなんじゃお話終わっちゃうじゃん)
「助けて……誰か……誰か…」
(ほら、助けを呼んでるよ。ここらで出てくれば最高にカッコいいじゃん。だから来てよ。誰でもいいから助けに来てよ。誰でもいいから――
初春のこと助けてあげてよ!!)
佐天はぼんやりと目を開いた。
そこには泣き叫ぶ初春と、彼女にまたがる男の姿があった。
(あぁ……初春ヤバいじゃん。乙女のピンチだよ)
佐天の身体はそこら中傷だらけで、頭からも出血しているのだろうか、顔がべっとりと湿っている感覚がある。
そのせいか、脳が上手く働かない。
目の前の光景がブラウン管の中の出来事のように思える。
或いは、予定調和の物語の一節か。
(でもさ、きっともうすぐ、そこの路地から御坂さんがやってきてさ……何やってんのよあんた達、とか言って、ビリビリって電撃浴びせて、一発で解決しちゃうんだ。もしくは白井さん。風紀委員ですの、て腕章引っ張って入ってきてさ、素手でこいつら簡単に伸しちゃって、最後に杭みたいので壁に打ちつけて終了。或いはもっと別の誰かかな。泣いてる女の子は放っとけないぜ、みたいな男の子。突然やって来て、風のように去っていく、ヒーローみたいな誰かさん)
「いや…………お願いします………やめて、ください……」
(ほら、早く来ないと。マジでヤバいって。もうそろそろ放送コードギリギリですよ?そりゃあ少年達は大喜びかもしんないけど、そんなんじゃお話終わっちゃうじゃん)
「助けて……誰か……誰か…」
(ほら、助けを呼んでるよ。ここらで出てくれば最高にカッコいいじゃん。だから来てよ。誰でもいいから助けに来てよ。誰でもいいから――
初春のこと助けてあげてよ!!)
「助けて……………………佐天さん」
「―――――――っ」
ゴンッ!!!
「がっ………!?」
ニット帽の顔面にバットがめり込んだ。
金属製のそれは男の鼻をぺちゃんこに折り砕き、ニット帽はたまらず初春の上から転げ落ちる。
「い、いっへぇ、はひふる……んべぇっ!!」
起き上がりかけたところで今度は腹にバットを食らい、ニット帽は白目を剥いて完全に沈黙した。
金属製のそれは男の鼻をぺちゃんこに折り砕き、ニット帽はたまらず初春の上から転げ落ちる。
「い、いっへぇ、はひふる……んべぇっ!!」
起き上がりかけたところで今度は腹にバットを食らい、ニット帽は白目を剥いて完全に沈黙した。
「………佐天、さん?」
初春の声を背中に聞いて、佐天は一歩を踏み出す。
残る敵――イコールスピードから初春を庇うように。
初春の声を背中に聞いて、佐天は一歩を踏み出す。
残る敵――イコールスピードから初春を庇うように。
************
勘違いをしていた。
こんなおかしな街に住んでいるせいで、酷くおかしな勘違いをしていたのだ。
勘違いをしていた。
こんなおかしな街に住んでいるせいで、酷くおかしな勘違いをしていたのだ。
トリックアートは言った。
『何の力もない奴に、ゴチャゴチャ指図する権利はねぇんだよ!』
オリーブ・ホリディは言った。
『まぁ、所詮は大した価値もないレベル0のようですし』
弟は言った。
『何だよ姉ちゃん、能力使えねぇんじゃん』
『何の力もない奴に、ゴチャゴチャ指図する権利はねぇんだよ!』
オリーブ・ホリディは言った。
『まぁ、所詮は大した価値もないレベル0のようですし』
弟は言った。
『何だよ姉ちゃん、能力使えねぇんじゃん』
―――だから、どうした。
能力が無いことが、
弱いことが、
誰かを守っちゃいけない理由にはならない。
助けて欲しいと言われたのだ。
その言葉を、心の底から嬉しいと感じたのだ。
だったら私が彼女を守ろう。
――どうやらいつまで待ってもヒーローは来てくれないらしい。
それも仕方のないことだ。
きっと正義の味方は、もっと大きなモノを守るのに精一杯なんだろう。
どこにでもいるような女子中学生の一人や二人、取りこぼしてしまったとしても、それは責められることではない。
その言葉を、心の底から嬉しいと感じたのだ。
だったら私が彼女を守ろう。
――どうやらいつまで待ってもヒーローは来てくれないらしい。
それも仕方のないことだ。
きっと正義の味方は、もっと大きなモノを守るのに精一杯なんだろう。
どこにでもいるような女子中学生の一人や二人、取りこぼしてしまったとしても、それは責められることではない。
だったら私が代わりに守る。
ヒーローが来ないってんなら、私がヒーローになるしかないじゃんか。
************
さっきまで感じていた痛みはどこかへ吹き飛んでいた。
それどころか、身体がいつもよりも軽い。
限界を迎えてバカになってしまったのか。
さっきまで感じていた痛みはどこかへ吹き飛んでいた。
それどころか、身体がいつもよりも軽い。
限界を迎えてバカになってしまったのか。
ふと、佐天はスカートのポケットの中にある御守りを握った。
学園都市に来る時に母に持たされた、母の手作りの御守り。
心なしかそれが熱を持っているように感じたのだ。
学園都市に来る時に母に持たされた、母の手作りの御守り。
心なしかそれが熱を持っているように感じたのだ。
『あなたの身が何より一番大事なんだから……』
御守りをくれた時の母の言葉を思い出す。
思い出して――否定する。
思い出して――否定する。
私の身体なんて、どうなろうが構わない。
そんなものより、
――もっと大切なものを見つけたのだ。
そんなものより、
――もっと大切なものを見つけたのだ。
佐天はバットの先をイコールスピードに突きつけて言った。
「初春は誰にも汚させない。初春は誰にも犯させない。初春は誰にも壊させない。
「初春は誰にも汚させない。初春は誰にも犯させない。初春は誰にも壊させない。
初春飾利は私のモンだ。
これ以上私の初春(せかい)を侵そうって言うんなら、まずはアンタのその腐った脳ミソをぶっ潰す!」
************
「ほざくじゃねぇか、ガキが」
イコールスピードが静かに口を開いた。
「……ちっ、バカが。またガキに伸されやがって。機械いじりの腕はいいんだが、油断しすぎだ」
イコールスピードは地面に倒れたニット帽を足で小突いてそう言った後、佐天に向き直る。
「だがな、ガキ。ちょっと冷静に考えてみな。テメェの身体はボロボロ、そしてどうやら大した能力も持っていないらしい。対して俺は――」
イコールスピードはジャンパーのポケットから鉄球を一つ取り出した。
「! 佐天さん、その人の投げる球に当たっちゃ駄目です!」
初春が叫ぶ。
「――おっと、そういやお前は俺の能力を知ってたんだったな!」
言ってイコールスピードは鉄球を放る。
それは真っ直ぐに佐天の方まで飛び、
「――!」
危険を察知した佐天は何とか身をかわす。
鉄球はそのまま後ろの建物のコンクリートに5センチ程めり込んでから止まった。
「俺の投げた物体は、壊れるか俺が能力を解除するまで同じ速度で動き続ける。『絶対等速(イコールスピード)』。それが俺の能力だ。さぁ、どうするよ無能。俺はそいつのようには行かないぜ?馬鹿みたいに突進してくるだけじゃ、自分から銃弾に当たりに行くようなもんだからな」
ニヤリと笑うイコールスピードだったが、心中では佐天への警戒心を抱いていた。
(この女、どうして立ち上がれた?あっちの花瓶女よりよっぽど痛め付けた筈だぞ?『肉体回復(オートリバース)』か?いや、怪我が治っている様子はねェ。ただタフなだけ?まぁいい。どっちにしろ……)
「ほざくじゃねぇか、ガキが」
イコールスピードが静かに口を開いた。
「……ちっ、バカが。またガキに伸されやがって。機械いじりの腕はいいんだが、油断しすぎだ」
イコールスピードは地面に倒れたニット帽を足で小突いてそう言った後、佐天に向き直る。
「だがな、ガキ。ちょっと冷静に考えてみな。テメェの身体はボロボロ、そしてどうやら大した能力も持っていないらしい。対して俺は――」
イコールスピードはジャンパーのポケットから鉄球を一つ取り出した。
「! 佐天さん、その人の投げる球に当たっちゃ駄目です!」
初春が叫ぶ。
「――おっと、そういやお前は俺の能力を知ってたんだったな!」
言ってイコールスピードは鉄球を放る。
それは真っ直ぐに佐天の方まで飛び、
「――!」
危険を察知した佐天は何とか身をかわす。
鉄球はそのまま後ろの建物のコンクリートに5センチ程めり込んでから止まった。
「俺の投げた物体は、壊れるか俺が能力を解除するまで同じ速度で動き続ける。『絶対等速(イコールスピード)』。それが俺の能力だ。さぁ、どうするよ無能。俺はそいつのようには行かないぜ?馬鹿みたいに突進してくるだけじゃ、自分から銃弾に当たりに行くようなもんだからな」
ニヤリと笑うイコールスピードだったが、心中では佐天への警戒心を抱いていた。
(この女、どうして立ち上がれた?あっちの花瓶女よりよっぽど痛め付けた筈だぞ?『肉体回復(オートリバース)』か?いや、怪我が治っている様子はねェ。ただタフなだけ?まぁいい。どっちにしろ……)
「ここで潰すっ!食らいやがれっ!」
再び鉄球を投げるイコールスピード。
「――っ」
だが佐天は飛んでくる鈍球を上手くかわし、狭い路地を身を縮めて回りこむ。
「かかったなっ!」
それを見越していたイコールスピードは更に5、6球の鉄球を佐天に向けて投げた。
「――っ!?」
「一度にひとつとは言ってないぜっ!」
慌てて足を止め、後ろに下がる佐天。
だが、この狭い路地というフィールドはイコールスピードに有利に働いた。
点の配置によって擬似的な面攻撃となった鉄球群。
そのどれからも逃れる道筋は、佐天には残されていなかったのだ。
「―――ぁあっ!!」
隙間を縫って避けようとするものの、誤って左足が鉄球の軌道上に乗ってしまった。
肌にめり込もうとする球から、何とか引きずるようにして足を逃す。
だが、
「終わりだっ!」
その声に目線を上げた佐天の前には、
「!」
イコールスピードが新たに投擲した更なる鉄球群があった。
「あっ、くっ……はあっ、がっ、はぁ、はぁ…」
避けると言うには余りに拙い動きで身を揺らし、ダメージを抑えようとする佐天。
だが鈍球は次々に佐天の柔肌に触れては、それを無惨に切り裂いていく。
「はっ!流石にこれだけ食らえば……?」
鉄球の一団が佐天をなぶり尽くしたを見計らって能力を止めたイコールスピードの目に、有り得ない光景が飛び込んできた。
「馬鹿な……どうして倒れねぇ……!」
「…はぁ、はぁ……くっ、はぁ………」
右手にバットを握りしめ、佐天涙子は立っていた。
「うい………はるは……わたしが……まもる………」
息は絶え絶え。
身体は傷だらけ。
それでも言葉は力強く、
瞳は輝きを失わない。
「佐天さん!佐天さん!もう止めてください!このままじゃ佐天さんが死んじゃいます!」
涙ながらに後方から初春が訴える声に、しかし佐天は従わない。
従える筈など――ない。
再び鉄球を投げるイコールスピード。
「――っ」
だが佐天は飛んでくる鈍球を上手くかわし、狭い路地を身を縮めて回りこむ。
「かかったなっ!」
それを見越していたイコールスピードは更に5、6球の鉄球を佐天に向けて投げた。
「――っ!?」
「一度にひとつとは言ってないぜっ!」
慌てて足を止め、後ろに下がる佐天。
だが、この狭い路地というフィールドはイコールスピードに有利に働いた。
点の配置によって擬似的な面攻撃となった鉄球群。
そのどれからも逃れる道筋は、佐天には残されていなかったのだ。
「―――ぁあっ!!」
隙間を縫って避けようとするものの、誤って左足が鉄球の軌道上に乗ってしまった。
肌にめり込もうとする球から、何とか引きずるようにして足を逃す。
だが、
「終わりだっ!」
その声に目線を上げた佐天の前には、
「!」
イコールスピードが新たに投擲した更なる鉄球群があった。
「あっ、くっ……はあっ、がっ、はぁ、はぁ…」
避けると言うには余りに拙い動きで身を揺らし、ダメージを抑えようとする佐天。
だが鈍球は次々に佐天の柔肌に触れては、それを無惨に切り裂いていく。
「はっ!流石にこれだけ食らえば……?」
鉄球の一団が佐天をなぶり尽くしたを見計らって能力を止めたイコールスピードの目に、有り得ない光景が飛び込んできた。
「馬鹿な……どうして倒れねぇ……!」
「…はぁ、はぁ……くっ、はぁ………」
右手にバットを握りしめ、佐天涙子は立っていた。
「うい………はるは……わたしが……まもる………」
息は絶え絶え。
身体は傷だらけ。
それでも言葉は力強く、
瞳は輝きを失わない。
「佐天さん!佐天さん!もう止めてください!このままじゃ佐天さんが死んじゃいます!」
涙ながらに後方から初春が訴える声に、しかし佐天は従わない。
従える筈など――ない。
(どうなってやがる……化け物かこいつは。これだけ傷を負って、これだけ血を流して、まだ動けるのか?)
一方でイコールスピードは未知との遭遇に動揺していた。
こんなものは知らない――これは自分の知らない力、超能力ではない何か別の力だと、本能が彼に訴えかけていた。
(どうする……別に無理に倒さなきゃならねぇ訳じゃねぇ。元々ただの憂さ晴らしだ。トンズラこいちまえばこいつらは追いつけやしねぇ……)
だが、
「ういはるは………わたしが、…まもるんだ……」
佐天の言葉に、イコールスピードは閃いた。
「はっ、そうか。そうだったな。テメェの目的はそこの女を守ること。だったら――これでどうだっ!!」
イコールスピードは拳一杯の鉄球を投げた。
但し方向は佐天から逸れ、高さも低い。
「!!」
佐天はイコールスピードの意図に気づいた。
一方でイコールスピードは未知との遭遇に動揺していた。
こんなものは知らない――これは自分の知らない力、超能力ではない何か別の力だと、本能が彼に訴えかけていた。
(どうする……別に無理に倒さなきゃならねぇ訳じゃねぇ。元々ただの憂さ晴らしだ。トンズラこいちまえばこいつらは追いつけやしねぇ……)
だが、
「ういはるは………わたしが、…まもるんだ……」
佐天の言葉に、イコールスピードは閃いた。
「はっ、そうか。そうだったな。テメェの目的はそこの女を守ること。だったら――これでどうだっ!!」
イコールスピードは拳一杯の鉄球を投げた。
但し方向は佐天から逸れ、高さも低い。
「!!」
佐天はイコールスピードの意図に気づいた。