とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 7-462

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匿名ユーザー

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「…んで…結局」
上条と美琴は宙ぶらりんのまま電(少々一方的な気がしないでもない)撃の応酬をやっていた。もちろん双方ともクタクタである。
「…俺らは、どうすりゃいいわけよ?」
その電撃の応酬の引き金を引いてしまった不幸な少年が言う。
「…しっ…知らないわよっ…」
先の電撃の応酬で、内外ともに疲れがたまってしまった不幸(?)な少女も言う。
「てかぁ!そんなに疲れるんならあんなことやんなきゃよかったじゃねぇかよ!!」
宙ぶらりん状態で超能力者(レベル5)の電撃をどうにかして防ぎきった、通常では考えられないほど不幸な少年が叫ぶ。
「あんたが悪いんでしょっ!?あんなこといいだすからっ!!」
顔を真っ赤にして、異能の力なら全て触れただけで無効化してしまう、というなぞの能力を持つ右手(幻想殺し)相手に悪戦苦闘した少女も叫ぶ。
「いや…疑問に思っただけなんだけど…」
もはや、一介の高校生男子として当然(であるはず)の質問をした、不幸すぎて笑えるほどの少年が言う。
「…ッ!この変態が―――――ッ!!」
自分の彼に対する気持ちを理解したものの、いきなりイメチェンってのもどうなのかな…、とものすごく繊細な悩みを持った一介の中学生女子が髪の毛から軽く人を殺せる程度の電撃を、その彼に向かって放つ。
上条は、先ほどの電撃の応酬で会得した、宇宙船にでも乗らない限り絶対に必要ないであろう宙ぶらりん状態での体の動かし方を実行し、何とかその電撃を無効化する。
「…だからさ…ほんとなんでなの?」
あー、これを言えばやっぱりさっきみたいなことになっちゃうのかなー、と心の中で思いつつ、いやしかしやはり一介の高校生男子として絶対に言わなければならないであろう、と覚悟を決め、数mはなれた所でやはり宙ぶらりん状態でいろいろとスカートがめくれて普通なら大変なことになっていたであろう少女に疑問をぶつける。

「なにゆえあなた様ほどのお嬢様が、スカートの下に無粋すぎる短パンなどはいておられるのでしょうか?」

次の瞬間、予想通り光の速さで電撃が飛んできた。
もちろん、上条には…いや、人間には光の速さなど知覚出来ない。しかし、あらかじめそれが飛んでくると予測できれば、対処は意外に簡単なものである。
結果、すでに右手を突き出していた上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)に、美琴の電撃ははじかれた。
そして、
「うっ、うるさいわよこのどスケベッ!!?」
また電撃を放つ美琴。しかし、やはりそれも軽く上条にいなされる。
「いや…本当に疑問に思うんだよな。そりゃ見られたくはないだろうけど…だけどそこはやはり一介の男子高校生として認めてはいけない点だッ!!」
「だから何言ってんのよッ!?」
美琴はまたもや電撃を放つ。まぁ、もはや説明しなくてもいいであろう現象が起こるが。
ものすごく複雑そうな表情を浮かべる美琴。そりゃそうだろう。自分が意識している相手が、その手の発現をしてくれる、というのは、やはり相手も自分のことを意識しているからだ、と普通なら思うところだろう。しかし、その後に日本特有の文化…ようはオタク的な発言をされるとさすがに引く…いや、引きはしないのだが、ちょっと気になる。と、言うことで美琴がそのような表情を浮かべるのは当然と言えよう。
しかし、そんな細かいことに気づかない上条は、
「せめてスパッツとか…うぎゃぁ!?」

なんと言うか、そんなものすごく平和なことをやっていていいのだろうか?と思える状況である。

しかし、そんな平和な時間が長く続かないのは上条も美琴も分かりきっていた。

「…何なんだこいつら…本当にこんなのが『敵』なのか…?」

心底不思議、不機嫌そうな声が後ろからいきなり響いた。
とっさに上条が振り返ろうとする。だが、無重力状態なのでうまくいかない。
上条がモゾモゾしていると、突然無重力状態から開放された。
結果、
「げぅっ!?」
足首を変な方向に捻ってしまった。
美琴のほうは冷静に着地し、無傷である。
「…おい、もう一度聞くが…お前らが『敵』で本当にいいんだな?」
さっきの声と同じ、少しだけ低い声が上条の耳に届く。
目の前を見ると、
「…うわぁ…」
なぜか上条が『嫌なものを見た』という表情になる。
美琴のほうは、さほど表情は変わらない。これくらいなんでもない、と言わんばかりに。
その上条のリアクションを見た男が言う。
「アア?初対面の人間に対してなんだとコラ?」
少しキレそうな顔で上条に言う。
だが、上条はそんな男の話をほとんど無視し、
「くっそ…何だって俺はこんな不幸なんだ…しかもなんかもう、性格さえも正確に分かるような気がするし…」
ぶつぶつ俯きながら言う。そんな自殺行為とも言える行動に、美琴は「ばっかじゃないの!?」と叫びながら上条のもとに駆け寄り、男の方は、
「…ああ、もうどうだっていい。テメェが敵だろうがなんだろうが関係ねぇ」
ボキボキ、と指の関節を鳴らしながらその20代後半のような男が言う。

「死刑決定」

「いや!?なんかいきなり死刑決定とか言われても…って!!早速攻撃に移るのかよっ!?」
上条が自分の前に右手を突き出す。
すると、目の前からかなりの速度と威力を持った『火の玉』が消される。
もう、なんと言うか。

いろんな面から見て、もうこの人ステイルと血がつながってるんじゃね??
髪は燃えるような赤。背丈は180cmは軽く越えているだろう。服装はいかにもチャラ男です、と言っているような、この学園都市において成人がそれはまずいだろう、と言うようなもの。性格は…見て(聞いて?)のとおり。顔は中の上、と言ったところか。
とりあえず、ステイルの弟です、と言われても文句はまったくないであろう男がいた。
「…はぁー。不幸だ…」
戦闘中にもかかわらず、そんな長ったらしい思考をしていた上条は、思わずため息をついた。もちろんその間、敵からの攻撃はあったのだが、なぜか美琴が防ぐ羽目になった。
「ってちょっとあんたっ!?死ぬ気なの!?」
「いやもう…死亡フラグですはい。思い返せばあいつが一番最初の『敵』なのかなぁ…」
上条は記憶喪失だ。その記憶を失う前に彼は禁書目録、インデックスなる少女を助けた、らしい。そのとき、一番最初に出会った『敵』はステイル、らしい。…いや、もしかしたらインデックスが『敵』だったのかなぁ…いや、俺の『不幸(体質)』が敵なのか…と、長ったらしい思考にふけようとする上条。だがその前に、美琴に背中を蹴り飛ばされた。その背中すれすれを火の玉がかする。
「…殺す」
なんか、上条のせいで異様に殺気立った男が言った。

「ぜってぇーステイルの弟だ…兄は無さそうだけど…」
こんな状況になっても、上条は脱力し、無気力な表情を浮かべてこんな発言をした。
「だから!戦闘開始よ!?緊張しなさいよ!!」
美琴が隣で叫びながら電撃を放つ。
その電撃は、恐ろしいほど早く正確に絶対の威力を持って男に突っ込んでいく。
そして、その電撃は、
「え…?」
美琴が驚きの声を上げる。

男の体は、抵抗を見せずに電撃を受け入れた。

もちろん、そんなことは本当に自殺と変わりない。
当然のように男の体は消し飛ぶ。
だが、

「こんなにあっさりと罠に引っかかるとはな」

さっきよりずいぶん冷静な男の声が、美琴の耳元でささやかれた。
美琴は反射的に退きながら、裏拳を放つ。
男はそれを右手で受け止め、その右手で強引に美琴を引き寄せる。
そして、
「んなっ!?」
美琴が驚きの声を上げる。
それもそのはず。
いきなり、男の体が『発火』したからだ。
その炎は、数瞬のうちに男の体を包み込む。
それを見た上条が、一瞬にして頭のスイッチを切り替える。
だが、もう遅い。
美琴の体も、炎に―――――

バッチィィィィッ!!!!

壮絶な音が、美琴の体から轟いた。
その、少し聞きなれた音に、上条はもはや条件反射のように右手を前に掲げる。
右手(幻想殺し)が、何かを打ち消したのが分かった。
それを確認すると同時、上条はあまりの光に閉じた目を開く。
目の前には、少し服が焦げた美琴が立っていた。
「…何なのよ、あれ」
呆然と、美琴がつぶやく。
目の前の男が、いきなり発火したのだ。当たり前だろう。
だが、美琴は『何故そんな事が起きたのか』探ろうとしていた思考を振り切り、『次の相手をどうするか』というものに切り替える。
しかし、『次の相手』は出てこなかった。
代わりに、

「へぇ。とっさに自分の体から俺の炎にも勝る電流を流して、その炎を無理やり消し飛ばした、か。
あんた、かなり戦闘慣れしてるな?」

先程の男の声が聞こえた。

とっさに美琴が首をぐるんと回す。
すると、ちょうど美琴の真後ろのあたりに、男が立っていた。
「…そんなに、人の背後をとるのが好き?」
美琴は皮肉な笑みを浮かべながら、じりじりと男と距離をとり、言う。
「人の背後をとるのが好き、か。別にそうでもねぇんだけどな。なんにせよこっちのほうが殺りやすいだろ?」
男があっけらかんとした表情で言う。
そんな男に、上条は殴りかかれないでいた。
人の背後をとる。
これは、ものすごく有効な戦術だ。よほどの戦力差がなければ、ほとんどの場合相手を殺せる。もちろん、『こちら側』の世界の話だが。
だが、逆に言うとそれほど『背後をとる』ということは難しい。それが簡単ならば、誰でも暗殺者になっているだろう。
つまり、
この男がとんでもなく強い、ということを意味していた。
しかも学園都市に7人しかいない超能力者(レベル5)――――滝壺の話によると8人増えたらしいのだが…とりあえずおいといて――――相手にだ。しかも、2回。
そんな面をとっても、やはりその男はステイルに似ていた。あいつなら、これぐらいの戦力は持ち合わせているだろう。しかも、炎系統を操る人間、という点でも酷似している。
そんな相手を上条はにらみながら叫ぶ。
「美琴!!」
「は?」
突然自分の名前を呼ばれ、驚いた声を上げる美琴。
だが、その時にはもう上条は駆け出している。
はったり(フェイク)。
それにまんまと引っかかった男は、美琴をガン見している。
と、そこで、上条の策に気づいたように美琴が思わせぶりな発言をする。
「あ、そういえば…『あれ』使えるじゃない」
と言いながらスカートのポケットを探る美琴。
それはあまりに無防備すぎるゆえ、逆に攻撃しづらい行動だ。しかも、敵は目の前にいるのにそんな余裕な態度をとられれば、誰だってひるむだろう。
上条と男の距離がなくなった。
上条が男の後頭部めがけて思いっきり拳を振り下ろす。
だが、

「引っかかるかよ、アホ」

あっさりと拳をかわされた。
そのまま男は上条のほうに振り返り、蹴りを上条の腹に叩き込む。
「うぐっ!?」
うずくまる上条。
それを見た男は笑みを浮かべ、追撃を放とうとする。
だが、
そのときの上条は、男と同じく笑みを浮かべていた。
男が何かを感じ取ると同時、上条は男の足を『右手』でしっかりと掴む。
おそらく、男が美琴の攻撃をかわしたり、いきなり美琴のそばに出現したりした方法は『蜃気楼』だろう。今までの戦闘で、この男が『発火能力者(パイロキネシスト)』であることは分かりきっている。
しかも『超能力者(レベル5)』ともなれば、それくらい訳ないであろう。
しかし、おそらくそれは上条の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』で無効に出来る。だから上条は男の
足を掴んだ。そうすれば、

最初からそれを狙っていた、美琴の電撃が男に直撃するはずだから。
男が上条の奇襲をかわすことを予測した上で、上条ははったり(フェイク)を張った。問題は、美琴がどこまでこれを理解しているか、だった。
しかし、その問題は解決したようである。

美琴の右手の親指には、先程スカートのポケットを探していたときに取り出した、安っぽいメダルゲームに使うコインが乗っていた。

もはや上条にとっては聞きなれた、だが周囲の人間が聞けば気絶してもおかしくないほどの轟音が鳴り響いた。

上条は、うっすらと目を開ける。
自分が掴んでいたはずの男は、もはや存在しなかった。おそらく美琴のレールガンを喰らって体内に考えられないほどの電撃が流れ、跡形もなく消滅したのだろう。上条は幻想殺し(イマジンブレイカー)のおかげで無傷だが。
…無傷?
「美琴、お前どうやった?」
美琴のレールガンは、放った直線状に存在するものはおろか、その直線を円の中点とした直径2m程度の円に含まれる物体さえ吹き飛ばしてしまう。
ならば、上条の体も少しくらい傷ついてなければおかしいのだが、
「ああ、あの男の1,5m程度上のところに撃ったから」
そうか、と上条は納得する。つまり、レールガンの余波だけであの男をかき消した、と言うことらしい。
「しっかし、お前…よくそこまで頭が回ったな」
「当たり前よ。超能力者(レベル5)なんだからね?」
能力が高くなれば高くなるほど、それを使うときに求められる演算能力も高くなる。美琴は学園都市第3位の能力者だ。つまり、学園都市で3番目に頭がいい、ということだろうか?
「…なんか、改めて目の前の女の存在が異常なことに気づいた…」
「んな、ば、化け物みたいな言い方しないでよっ!」
美琴が突っかかってくる。
が、上条はそれを相手しなかった。
いや、
相手『出来なかった』。

「いや、お前ら本当にすげぇな。この男の方がもう少し頭よかったら、俺は死んでたぜ?」

突然、大きな足に背中を踏みつけられた。
その勢いに負け、地べたにうつぶせになる上条。
その足の主は言う。
「お前がおそらく考えたとおり、俺が使っていたのは『蜃気楼』だ。んだがなぁ」
男が、美琴の目の前に炎を出現させて美琴を牽制しながら言う。

「そもそも、お前は『蜃気楼』のメカニズムを知ってんのかあ?」

痛いところを突かれた。
正直、上条はそんなものぜんぜん分からない。せいぜい、『何らかの熱が加わって、見えるはずのないものが見える』程度の知識しかない。
美琴の電撃が放たれた。
しかし、今度は男も炎を放ち、相殺させる。
「蜃気楼ってのはなぁ、密度の高い空気から低い空気へ光が屈折しながら進むことにより起きる現象なんだよ」
これくらいのことなら、上条にも理解できる。少し前まではまったく知らなかったが。
「そして、空気の密度は温度によって変えることが出来る。んでもって俺の『能力(チカラ)』で空気の温度を変えて、テメェらに蜃気楼を見せていた、ってことだ」
つまり、
男の体が能力を発せないところで、蜃気楼には何一つ影響はない、ということ。
唐突に、男の足が上条の背からどけられた。
その隙に、上条が逃げようと立ち上がる。
だが、半分立ち上がったところで、脇腹を思い切り蹴られた。
「げふっ!」
また地面に倒れこむ。
その上条を、男は容赦なく踏みつける。
「お前の能力は、まだ未知数だからな。能力は使わねぇ。しかも、こっちのほうが気分が良いしなぁっ!!」
上条の背中を踏みつける足の強さが上がる。
だんだん踏みつけられている所の感覚がなくなってきた。
それにより上条があまり反応しなくなったのを見て、男は違うところを踏みつけ始める。
「――――――ッ!!!」
美琴が駆け寄ってくる。
だが、その美琴の足が止まる。美琴の足が、アスファルトに埋まっていた。
「安心しろ。お前も後でちゃあんとやってやるからよぉ!!」
男の下品な笑い声が響く。
上条が、痛みを無視して全身の力を振り絞って立ち上がった。
だが、すぐに男に殴り倒される。
「ッ!!」
今にも泣き出しそうな美琴の顔が見えた。
おそらく、彼女の能力を使えばこの状況を脱せられるだろう。しかし、それすら出ないほど彼女の精神は不安定だった。
それは、おそらく次に襲い掛かるであろう自分の身の危険に対して、ではなく、
今まさに上条の体を襲っている、上条自身の痛みに対して、だった。
誰でも良い。
上条は願う。
誰でも良いから、『彼女』を助けてやってほしい、と。
その願いは、

「ふうん?人の『獲物』に手を出して、ただで済むと思ってるのかい?」

届いたのかは、よく分からない。なにせよ、その男はとある少女のためなら誰だってためらいなく殺せる奴だ。上条のことはおろか、美琴のことなど視野にさえ入ってないはずだ。
だが、
確かに、この男はこの状況を覆してくれる。
上条は、強くそう思った。


ステイル=マグヌスは、驚いていた…というより、呆れ返っていた。
なぜかイギリス清教の必要悪の教会(ネセサリウス)のトップ、ローラ=スチュアートに命じられるまま、神裂火織と一緒に学園都市に来ていた。するといきなり魔術の匂いを感じ、その発生源らしきところに向かう途中に、以前のフィアンマ戦の時に一緒に戦ってくれた少女がインデックスを抱きかかえて必死に逃げるところを目撃した。インデックスに話を聞いてみると、上条たちを潰しになんか凄い能力者が上条たちを襲っているらしい。インデックスは魔術サイドにおいては考えられないほどの力を振るうが、科学サイドにおいてはまったくの無力である。だから逃亡をしていたのであろう。とりあえずインデックスは同性である神裂に任せ、ステイルは少女の誘導に従いその戦闘区域に足を踏み入れた。
その戦場は、予想以上にひどかった。
病院は全壊しており、ところどころ物が不完全燃焼したような匂いが漂っていた。しかも、たびたび連なる轟音やら悲鳴やら。それに巻き込まれているあの少年の不幸さに半ば呆れながら、ステイルは不幸な少年を探す。
少年はすぐに見付かった。炎系の能力者でもいるのか、炎が使われた痕があった。とりあえず、自分と同じ系統の能力者から潰そう、と思いその痕をたどってみたのだが。
そこには、ボロボロになった少年がいた。
話を少し聞いてみると、少年は蜃気楼のメカニズムさえ理解していないのに、蜃気楼を攻略したことを踏まえたうえで戦っているらしかった。
その少年の不幸さに、もはや全霊を尽くしても呆れきれないステイルであった。
だが、呆れ帰っている暇も早々ない。
なぜかそこら辺で固まって、泣きそうな顔をしている少女はどうでもいいのだが、その少年のほうはいただけない。正直、その少年が殺されたところでステイルにはまったく害はない――――どころか、むしろそちらの方が喜ばしいくらいだ。しかし、彼はあの少女に害があることだけは決してしたくない。自分にとってとても喜ばしいことでも、彼女がほんの少し不満があることは絶対しないのだ、彼は。
あの少年が殺されでもすれば、あの少女がどうなってしまうのか。考えたくもない。

さて、そろそろ助けるか―――――



「…ふん、何が終い、だ」
一方通行(アクセラレータ)の叫びに、少し退いた男が言う。
「貴様に何が出来る?いや、その気になれば私くらい瞬殺できるだろうが…そんな事をすれば、あの少女は即死だぞ?」
そう。
状況は、一方通行(アクセラレータ)が圧倒的に不利だった。
だが、
「ああ?だから何だよ?」
一方通行(アクセラレータ)が、冷たい笑みを浮かべながら言う。
そう。
この状況は、一方通行(アクセラレータ)の人質として打ち止め(ラストオーダー)が役に立つまでが彼らにとって有利であった。しかし、いったん打ち止め(ラストオーダー)が人質としての役目をなさなくなれば、この状況は一瞬にして崩壊する。
「…お前は、あの少女を諦めるのか?」
そういいながら、男は少女の方を振り返る。とても無防備な行為だが、もとから一方通行(アクセラレータ)がその気になれば彼はすぐにでも殺されてしまうのだ。これくらい、もはやリスクではない。
話の中央に立っている打ち止め(ラストオーダー)の顔は、予想外にも少し微笑んでいた。
「…何故だ」
思わず、男の口から声が漏れる。
「だって、あの人は決してミサカのことを諦めたわけじゃないから、ってミサカはミサカは真実を告げてみる」
何故微笑んでられる、と男が言う前に打ち止め(ラストオーダー)が言った。
「…なんだと」
理解できない。
つまり、

一方通行(アクセラレータ)は、超能力者(レベル5)3人相手に自分も諦めず、彼女も諦めないで戦おう、というのか。

彼は身震いした。
本当に、『それ』が出来るように思えたからだ、彼には。
恐る恐る振り返る。
そこには、
何の変哲もないはずの、しかし獰猛なほど全てを望んでいる一人の少年が笑みを浮かべていた。

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