―――イギリスの首都、ロンドン。
そこで活動している多くの人の喧騒と市内を行きかうたくさんの車の排気ガスで満ちているロンドン市内ではあるが、
逆に、人々にとっての憩いの場所、オアシス的な公園も数多く存在する。
いや、都市に暮らしている人間にとっては欠かすことの出来ないものかも知れない。
有名処としては、セント・ジェームス・パーク、ハイド・パーク、リージェント・パーク、バターシー・パーク、などがある。
公園によっては「公園ファンクラブ」なるものが存在し、市民の寄付やボランティアによって公園の清掃、維持管理がなさ
れ、オアシスとして成り立っているのである。
そんな公園には早朝にはジョギングをする人、昼間にはベンチでゆったりと過ごしている人、夕暮れにもお散歩をする人
などがいる。
それほど、ロンドンでの生活にとって「公園」は欠かせないものとなっている。
そして、ロンドンを特徴付けているものに、市内を大きく横断しているテムズ川とその上に架かる数多くの橋がある。
川の上流から、バターシー橋、チェルシー橋、ランベス橋、ウォータールー橋、ロンドン橋、そして有名なタワーブリッジがある。
そんな数多くの橋の一つ、ウォータールー橋の上で、一人の男が橋の欄干にもたれて川の水面を見るとはなしに眺めていた。
手に持っているのはイギリスの食べ物として有名な『フィッシュ・アンド・チップス』。
ここにくる途中で買い求めたのであろうそれを口に入れながら広がる夜景を眺めていたが、やがて、手にあったものを
全て食べ終えると、中にあった残りカスを水面にはたき落とし、残った紙袋をクシャクシャと丸めた後、これもまた水面に
投げ落とす。
重力の法則に従い、ゆっくりと落ちていった紙屑はしかし、水面まであと少し、というところで突如として燃え上がった。
火がついた紙屑は一瞬のうちに燃え尽き、灰となったその名残が数片舞い散るのみ。
だがそれも、流れる水に溶けてあっという間に見えなくなる。
そこで活動している多くの人の喧騒と市内を行きかうたくさんの車の排気ガスで満ちているロンドン市内ではあるが、
逆に、人々にとっての憩いの場所、オアシス的な公園も数多く存在する。
いや、都市に暮らしている人間にとっては欠かすことの出来ないものかも知れない。
有名処としては、セント・ジェームス・パーク、ハイド・パーク、リージェント・パーク、バターシー・パーク、などがある。
公園によっては「公園ファンクラブ」なるものが存在し、市民の寄付やボランティアによって公園の清掃、維持管理がなさ
れ、オアシスとして成り立っているのである。
そんな公園には早朝にはジョギングをする人、昼間にはベンチでゆったりと過ごしている人、夕暮れにもお散歩をする人
などがいる。
それほど、ロンドンでの生活にとって「公園」は欠かせないものとなっている。
そして、ロンドンを特徴付けているものに、市内を大きく横断しているテムズ川とその上に架かる数多くの橋がある。
川の上流から、バターシー橋、チェルシー橋、ランベス橋、ウォータールー橋、ロンドン橋、そして有名なタワーブリッジがある。
そんな数多くの橋の一つ、ウォータールー橋の上で、一人の男が橋の欄干にもたれて川の水面を見るとはなしに眺めていた。
手に持っているのはイギリスの食べ物として有名な『フィッシュ・アンド・チップス』。
ここにくる途中で買い求めたのであろうそれを口に入れながら広がる夜景を眺めていたが、やがて、手にあったものを
全て食べ終えると、中にあった残りカスを水面にはたき落とし、残った紙袋をクシャクシャと丸めた後、これもまた水面に
投げ落とす。
重力の法則に従い、ゆっくりと落ちていった紙屑はしかし、水面まであと少し、というところで突如として燃え上がった。
火がついた紙屑は一瞬のうちに燃え尽き、灰となったその名残が数片舞い散るのみ。
だがそれも、流れる水に溶けてあっという間に見えなくなる。
「感心しないね、景観を損なうような真似は」
かけられた言葉に男が振り返ると、そこには奇妙な人物が立っていた。
2メートルを越す長身に真っ赤に染めた長髪が特徴的な『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔術師、ステイル=マグヌ
スは、男の視線に対し咥えていた煙草を右手に持って灰を落とし、口から紫煙を吐きながら言う。
「誰だって住んでいる街が汚されたりしたら、ましてやそれが余所者によってとなればいい気はしないだろう?」
そう言われて、橋の欄干にもたれていた男は身を起こし、頭をガリガリと乱雑にかきながら答える。
「景観を損なうってんなら、お前さんが歩きながら咥えているその煙草はどうなのよ?」
「ふん、注意に対して反省するどころか食って掛かるとは、天草式というのは随分と恥知らずなんだね?」
反論に対して整然と切り返してくるステイルに対し、ふん、と息を吐くのは天草式十字凄教教皇代理の建宮斎字である。
「わざわざそんなことを言うためにゴミを燃やしたのかよ? おまえさんの仕出かす事のほうがよっぽど大事(おおごと)に
なるってもんじゃねえのか?」
「別に問題はないさ、人払いはすでに済ませてある」
答えるステイルの言葉どおり、何故か不自然なほど橋の上からは人も車もその姿を消していた。
もっとも、共に世界の裏側、異端を扱う者として二人とも口調ほどには大して気にも留めずに話を進める。
「時間が惜しいからさっさと答えてくれるといいんだがね? こんなところで何をしていた?」
問いかけに対して建宮は答える。
「別にどうという事もないただの散歩が? それがどうしたのかよ」
「ふん、ただの散歩、か。なら訊くけども、その体の周りに張り巡らせてある人避けの術式は何のためにしているんだい?」
更なる問いかけに対して建宮は、はっ、と小さく笑いながら答える。
「おいおい、こんな格好をしている俺が言うのも何なんだがよ。こんな人目を引く格好で街を普通に歩けると思っているの
かよ。大体、そんなものお前さんだってしているってもんよな」
そういう建宮の格好は確かに人目を引くだろう。
もともと黒い髪をさらに真っ黒に染め直したあげく尖った髪やぶかぶかのシャツやジーンズはともかく、首もとに掛けた
四つの小型扇風機や一メートル以上ある靴紐などは人目を引くなと言うほうが無理と言うものであろう。
だが、その答えにステイルは苛立ちを深めたように問いかけを続ける。
「気晴らしの散歩、と言うのなら近くのパークにでも行けばいいだろうに。わざわざここにいた理由はなんだい?」
「わざわざそれをお前さんに答えなくちゃならん義務はないわなぁ」
小馬鹿にしきったようにステイルのほうを見ながら答える建宮。
だが、次の瞬間建宮の頭があった位置を灼熱の輝きが通過する。
慌てて頭を下げてそれを避けた建宮は、ステイルから距離をとろうとしながら慌てたように叫ぶ。
「何をしやがるこの若造が! 何の真似だ!」
その激昂に対して、右手に持っていた煙草から炎剣を出したステイルはむしろ穏やかとも言える口調で語る。
「このテムズ川はね、イギリスを代表する川でね。英国人であれば多かれ少なかれ愛着を持っているものさ」
「?」
唐突に変わる話に戸惑う建宮をよそに話を続けていくステイル。
「ロンドン市内を流れているために都市防衛用の結界術式も組み込まれているから、いろんな意味でなくてはならない存
在と言えるね」
「………」
「そんなテムズ川の術式の一部におかしな点が見受けられると報告があってね。どうも水脈を走る魔力の一部がどこかへ
流れていっているらしいんだ。全体から見れば微々たるものだから気付くのが遅れてしまったそうなんだけども、見過ごす
わけにはいかない問題だ」
じりじりと張り詰めていく空気の中、核心となる質問をするステイル。
「ここ数日、夕暮れ時に天草式のメンバー数名がテムズ川周辺で歩き回っているのが確認されているのは何故だい?」
それに対し、建宮は答える。
「さてなあ、たまたま川からの夜景を楽しみたくなったのが増えたってところだろうよ。大体なんでそんなことを俺に訊く?」
憮然としたまま答えた建宮に対し、
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「住んでいる街が余所者に汚されたりしたらいい気はしないと言っただろう!」
手に持つ炎剣を建宮に向けて振りかぶりながら叫ぶステイル。
「流れていく魔力のパターンから仕掛けているのは東洋の術式らしいとの報告だ! それにキミ達にはあの子に向かって
刃を向けたツケもある! 目的を訊くまでは生かしておく必要があるけども、腕の一本くらいはもらっておこうか!」
「チィッ!」
繰り出される炎剣をかわそうとする建宮だが、後ろに下がった足が何故かもつれてバランスを崩す。
そこに迫る炎に対し思わず腕を出してガードしようとするが、
「紙程度にもならないね!!」
ガードした腕をあっさりと炎剣で断ち割られてしまう。
「ふん、イギリス清教の膝元で牙を剥くからどれほどの覚悟かと思えば大した事はないんだね」
ほくそ笑むステイルだが、次の瞬間、その顔をギクリと強張らせる。
腕を切られた建宮の体が一瞬にして崩れ、細かな紙吹雪となって襲い掛かってきた。
「! しまっ……!?」
その波に飲み込まれてそのままテムズ川へ落ちるステイル。
何とか水面に浮かび上がろうとするが、それよりも早く自分の周りが何かによって覆われてしまう。
「これは……、木材……?」
一瞬のうちに自分を取り囲むようにして出来た筒のようなものによって身動きが取れないまま流されてしまう。
「そいつはアレンジの一つで一人用だがよ、水漏れの心配は無いから安心すると良いのよな」
どこからか聞こえる建宮の声。
「貴様! どういうつも……」
「ああ、それとお前さんではそいつの操縦は出来ないと思うから言っといてやるが、橋げたにぶつかったり流れが急に変
わると舌を噛むからな。 ま、頑張れよな」
気楽そうに言う声。
思わず言い返そうとするが、ガゴン! という音と共に衝撃が走り抜ける。
「……! く、くそっ!!」
何とか出ようとするが、建宮の言うとおり動きに翻弄され、そのまま流されていく。
「お、覚えていろ……!!」
何だか悪役のような捨て台詞と共に消えていく大きな樽を眺めながら建宮は大きく息を吐く。
「やれやれだ、まったく」
そして、周りを見ながら呟く。
「くそっ、二割削られたか……」
2メートルを越す長身に真っ赤に染めた長髪が特徴的な『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔術師、ステイル=マグヌ
スは、男の視線に対し咥えていた煙草を右手に持って灰を落とし、口から紫煙を吐きながら言う。
「誰だって住んでいる街が汚されたりしたら、ましてやそれが余所者によってとなればいい気はしないだろう?」
そう言われて、橋の欄干にもたれていた男は身を起こし、頭をガリガリと乱雑にかきながら答える。
「景観を損なうってんなら、お前さんが歩きながら咥えているその煙草はどうなのよ?」
「ふん、注意に対して反省するどころか食って掛かるとは、天草式というのは随分と恥知らずなんだね?」
反論に対して整然と切り返してくるステイルに対し、ふん、と息を吐くのは天草式十字凄教教皇代理の建宮斎字である。
「わざわざそんなことを言うためにゴミを燃やしたのかよ? おまえさんの仕出かす事のほうがよっぽど大事(おおごと)に
なるってもんじゃねえのか?」
「別に問題はないさ、人払いはすでに済ませてある」
答えるステイルの言葉どおり、何故か不自然なほど橋の上からは人も車もその姿を消していた。
もっとも、共に世界の裏側、異端を扱う者として二人とも口調ほどには大して気にも留めずに話を進める。
「時間が惜しいからさっさと答えてくれるといいんだがね? こんなところで何をしていた?」
問いかけに対して建宮は答える。
「別にどうという事もないただの散歩が? それがどうしたのかよ」
「ふん、ただの散歩、か。なら訊くけども、その体の周りに張り巡らせてある人避けの術式は何のためにしているんだい?」
更なる問いかけに対して建宮は、はっ、と小さく笑いながら答える。
「おいおい、こんな格好をしている俺が言うのも何なんだがよ。こんな人目を引く格好で街を普通に歩けると思っているの
かよ。大体、そんなものお前さんだってしているってもんよな」
そういう建宮の格好は確かに人目を引くだろう。
もともと黒い髪をさらに真っ黒に染め直したあげく尖った髪やぶかぶかのシャツやジーンズはともかく、首もとに掛けた
四つの小型扇風機や一メートル以上ある靴紐などは人目を引くなと言うほうが無理と言うものであろう。
だが、その答えにステイルは苛立ちを深めたように問いかけを続ける。
「気晴らしの散歩、と言うのなら近くのパークにでも行けばいいだろうに。わざわざここにいた理由はなんだい?」
「わざわざそれをお前さんに答えなくちゃならん義務はないわなぁ」
小馬鹿にしきったようにステイルのほうを見ながら答える建宮。
だが、次の瞬間建宮の頭があった位置を灼熱の輝きが通過する。
慌てて頭を下げてそれを避けた建宮は、ステイルから距離をとろうとしながら慌てたように叫ぶ。
「何をしやがるこの若造が! 何の真似だ!」
その激昂に対して、右手に持っていた煙草から炎剣を出したステイルはむしろ穏やかとも言える口調で語る。
「このテムズ川はね、イギリスを代表する川でね。英国人であれば多かれ少なかれ愛着を持っているものさ」
「?」
唐突に変わる話に戸惑う建宮をよそに話を続けていくステイル。
「ロンドン市内を流れているために都市防衛用の結界術式も組み込まれているから、いろんな意味でなくてはならない存
在と言えるね」
「………」
「そんなテムズ川の術式の一部におかしな点が見受けられると報告があってね。どうも水脈を走る魔力の一部がどこかへ
流れていっているらしいんだ。全体から見れば微々たるものだから気付くのが遅れてしまったそうなんだけども、見過ごす
わけにはいかない問題だ」
じりじりと張り詰めていく空気の中、核心となる質問をするステイル。
「ここ数日、夕暮れ時に天草式のメンバー数名がテムズ川周辺で歩き回っているのが確認されているのは何故だい?」
それに対し、建宮は答える。
「さてなあ、たまたま川からの夜景を楽しみたくなったのが増えたってところだろうよ。大体なんでそんなことを俺に訊く?」
憮然としたまま答えた建宮に対し、
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「住んでいる街が余所者に汚されたりしたらいい気はしないと言っただろう!」
手に持つ炎剣を建宮に向けて振りかぶりながら叫ぶステイル。
「流れていく魔力のパターンから仕掛けているのは東洋の術式らしいとの報告だ! それにキミ達にはあの子に向かって
刃を向けたツケもある! 目的を訊くまでは生かしておく必要があるけども、腕の一本くらいはもらっておこうか!」
「チィッ!」
繰り出される炎剣をかわそうとする建宮だが、後ろに下がった足が何故かもつれてバランスを崩す。
そこに迫る炎に対し思わず腕を出してガードしようとするが、
「紙程度にもならないね!!」
ガードした腕をあっさりと炎剣で断ち割られてしまう。
「ふん、イギリス清教の膝元で牙を剥くからどれほどの覚悟かと思えば大した事はないんだね」
ほくそ笑むステイルだが、次の瞬間、その顔をギクリと強張らせる。
腕を切られた建宮の体が一瞬にして崩れ、細かな紙吹雪となって襲い掛かってきた。
「! しまっ……!?」
その波に飲み込まれてそのままテムズ川へ落ちるステイル。
何とか水面に浮かび上がろうとするが、それよりも早く自分の周りが何かによって覆われてしまう。
「これは……、木材……?」
一瞬のうちに自分を取り囲むようにして出来た筒のようなものによって身動きが取れないまま流されてしまう。
「そいつはアレンジの一つで一人用だがよ、水漏れの心配は無いから安心すると良いのよな」
どこからか聞こえる建宮の声。
「貴様! どういうつも……」
「ああ、それとお前さんではそいつの操縦は出来ないと思うから言っといてやるが、橋げたにぶつかったり流れが急に変
わると舌を噛むからな。 ま、頑張れよな」
気楽そうに言う声。
思わず言い返そうとするが、ガゴン! という音と共に衝撃が走り抜ける。
「……! く、くそっ!!」
何とか出ようとするが、建宮の言うとおり動きに翻弄され、そのまま流されていく。
「お、覚えていろ……!!」
何だか悪役のような捨て台詞と共に消えていく大きな樽を眺めながら建宮は大きく息を吐く。
「やれやれだ、まったく」
そして、周りを見ながら呟く。
「くそっ、二割削られたか……」
「何の二割なんだかにゃー?」
その声にピクリ、と反応した建宮がゆっくりと振り返ると、そこには金髪サングラスの土御門が立っていた。
「……っ!」
先ほどステイルを簡単にあしらった建宮の顔から余裕が引いていく。
「なるほど、陰陽博士だったお前さんがいたから知られたって事かよ」
唸るように言う建宮に対して
「まあなぁ。西洋術式の連中じゃ気付けなかっただろうが、『必要悪の協会(ネセサリウス)』には俺もいるからな。加えて言え
ば俺の専門は『黒の式』、水脈を使った術式を隠れ蓑にしようとしたのは上手い手だったが相手が悪かったな」
両者はゆっくりと間合いを計りながら情報を語ることで相手の隙を作る機会を窺っている。
建宮にとっては先ほどのステイルと違い、大きな一手を持つ者は確かに脅威だが、ようはその一手を出させないように
すればいいのと違って、手札を多く持っている相手では読み合いが必要になってくる。
一方の土御門にとっても状況に合わせて戦術を切り替えていく天草式の使い手である建宮はうかつには仕掛けにくい相
手といえる。
「さて、どうやらあんた達天草式が関わっている事もはっきりしたようだし、何を企んでいるのかさっさと吐いた方がいいん
だぜい」
「ひでえ奴だな、今流れていったのはお前さんの仲間だろうがよ。わざと仕掛けさせたって事か」
「能書きはどうでもいい。こっちの庭で好き勝手させたままにしておくわけにはいかんし、このままではあんた達の元女教
皇まで出張ってきちまう。そうならないうちにとっとと片付けたいから協力するんだぜい」
その言葉に、建宮は大きくニヤリと笑いながら
「そいつは出来ない相談なのよ。こっちだって覚悟もなしに動いたわけじゃ無し、いまさら後には引けんのよな。それに、あ
の方は元じゃない、今でも我らの女教皇(プリエステス)なのよ」
「だったらなおさらこんな馬鹿げた事を続けさせるわけにはいかないんだぜい」
建宮の言葉に歯噛みしながらいう土御門。
だが、
「覚悟もなしに動いていないと言ったろうが! 我らを止めたければそのつもりでかかってくるのよな!」
建宮の宣言と共にその場の空気が再び緊張に高まっていく。
「……!」
「……!」
そして、一瞬の静寂の後に、二人は戦闘へと突入した。
先ほどステイルを簡単にあしらった建宮の顔から余裕が引いていく。
「なるほど、陰陽博士だったお前さんがいたから知られたって事かよ」
唸るように言う建宮に対して
「まあなぁ。西洋術式の連中じゃ気付けなかっただろうが、『必要悪の協会(ネセサリウス)』には俺もいるからな。加えて言え
ば俺の専門は『黒の式』、水脈を使った術式を隠れ蓑にしようとしたのは上手い手だったが相手が悪かったな」
両者はゆっくりと間合いを計りながら情報を語ることで相手の隙を作る機会を窺っている。
建宮にとっては先ほどのステイルと違い、大きな一手を持つ者は確かに脅威だが、ようはその一手を出させないように
すればいいのと違って、手札を多く持っている相手では読み合いが必要になってくる。
一方の土御門にとっても状況に合わせて戦術を切り替えていく天草式の使い手である建宮はうかつには仕掛けにくい相
手といえる。
「さて、どうやらあんた達天草式が関わっている事もはっきりしたようだし、何を企んでいるのかさっさと吐いた方がいいん
だぜい」
「ひでえ奴だな、今流れていったのはお前さんの仲間だろうがよ。わざと仕掛けさせたって事か」
「能書きはどうでもいい。こっちの庭で好き勝手させたままにしておくわけにはいかんし、このままではあんた達の元女教
皇まで出張ってきちまう。そうならないうちにとっとと片付けたいから協力するんだぜい」
その言葉に、建宮は大きくニヤリと笑いながら
「そいつは出来ない相談なのよ。こっちだって覚悟もなしに動いたわけじゃ無し、いまさら後には引けんのよな。それに、あ
の方は元じゃない、今でも我らの女教皇(プリエステス)なのよ」
「だったらなおさらこんな馬鹿げた事を続けさせるわけにはいかないんだぜい」
建宮の言葉に歯噛みしながらいう土御門。
だが、
「覚悟もなしに動いていないと言ったろうが! 我らを止めたければそのつもりでかかってくるのよな!」
建宮の宣言と共にその場の空気が再び緊張に高まっていく。
「……!」
「……!」
そして、一瞬の静寂の後に、二人は戦闘へと突入した。
―――ステイル、そして土御門と建宮がぶつかってからしばらく後、ロンドンを代表する橋の一つであるタワーブリッジの
上に、一人の少女がいた。
二重まぶたが特徴的な天草式十字凄教の一員である五和は、そこから見える上流の景色を眺めながら思い詰めた様
な表情をしていた。
「本当に、これで良かったのかな………」
呟いて出た言葉。
辺りには他の天草式メンバーはおらず、返事を期待してのものではなかったのだが、
「そのような迷いがありながらこのようなだいそれた行動に及んだのですかあなた方は」
掛かる声にビクリ、と反応する。
慌てて振り返れば、天草式十字凄教の元女教皇にして世界に二十人もいないとされる聖人の一人、神裂火織が静かに
立っていた。
「プ、女教皇(プリエステス)………」
洩れ出た言葉に対して、しかし、返ってくる言葉はあまりにも冷たいものであった。
「わたしはもはや天草式を抜けた身です。そのような称号で呼ぶのはやめなさい」
向けられた眼差しは冷徹、構えた七天七刀の柄には右手がそえられている。
完全に、五和に対して“敵”として対峙していた。
天草式に留まっていた当時はこの上なく頼れる存在としてあったものが、今、こちらを敵と見なしている。
そのことに認識がいき、身動きできずにいる五和に対して神裂は淡々と続ける。
「現在ロンドン市内で動いていた天草式メンバーの殆どはすでにこちらが押さえました。術式の組み立てが特殊な為にそ
れ自体を破壊するわけにはいきませんでしたが、起動する場所さえ分かれば問題はありませんでした。あなたが最後で
す、五和。おとなしく投降しなさい」
冷たく響き渡る声。
「ど、どうして……」
後ずさりながら言う五和に、
「どうして、とはまた、意外なことを。今のわたしはイギリス清教『必要悪の協会(ネセサリウス)』にある身です。イギリス清教に
とって不利益なことが行われるようであればそれを未然に防ぐために動くのは自然なことではありませんか?」
後ろへ下がって行く五和を追いながら歩いていく神裂。
その目はひたりと五和に据えられたままだ。
「それとも、ここが術式の起動場所だと分かったことでしょうか? 離れたとはいえわたしが扱うのも天草式のものです。土
御門から連絡を受けて調べれば何をしようとしているのかおおよそのことは分かります」
その言葉に、後ずさっていた五和の足が止まる。
「流れる川を縦糸に、架かる橋を横糸に見立て、それを渡る術者によって織り上げられていく機織(はたおり)。細かいとこ
ろまでは分かりませんでしたが、何をやろうとしているのか大まかに見えればそれで十分です。あなた方は七夕の術式を
行おうとしているのですね」
突きつけられた答えに、固まっていた五和が大きく体を震わせる。
「何を思ってここイギリスで七夕を行おうとしたのかは知りえませんが、通告します。今すぐにこの術式を止めなさい。さも
なくばこのわたしが実力を持って排除します」
科学世界における核にも等しい存在である聖人の神裂から、事実上の死刑宣告とも取れる宣言を突きつけられ、五和
は殆ど半泣きになっている。
「今ならばまだ何とか間に合うでしょう。これ以上この地で勝手を通せば天草式にもはや居場所はありません。五和、それ
をやめなさい」
上に、一人の少女がいた。
二重まぶたが特徴的な天草式十字凄教の一員である五和は、そこから見える上流の景色を眺めながら思い詰めた様
な表情をしていた。
「本当に、これで良かったのかな………」
呟いて出た言葉。
辺りには他の天草式メンバーはおらず、返事を期待してのものではなかったのだが、
「そのような迷いがありながらこのようなだいそれた行動に及んだのですかあなた方は」
掛かる声にビクリ、と反応する。
慌てて振り返れば、天草式十字凄教の元女教皇にして世界に二十人もいないとされる聖人の一人、神裂火織が静かに
立っていた。
「プ、女教皇(プリエステス)………」
洩れ出た言葉に対して、しかし、返ってくる言葉はあまりにも冷たいものであった。
「わたしはもはや天草式を抜けた身です。そのような称号で呼ぶのはやめなさい」
向けられた眼差しは冷徹、構えた七天七刀の柄には右手がそえられている。
完全に、五和に対して“敵”として対峙していた。
天草式に留まっていた当時はこの上なく頼れる存在としてあったものが、今、こちらを敵と見なしている。
そのことに認識がいき、身動きできずにいる五和に対して神裂は淡々と続ける。
「現在ロンドン市内で動いていた天草式メンバーの殆どはすでにこちらが押さえました。術式の組み立てが特殊な為にそ
れ自体を破壊するわけにはいきませんでしたが、起動する場所さえ分かれば問題はありませんでした。あなたが最後で
す、五和。おとなしく投降しなさい」
冷たく響き渡る声。
「ど、どうして……」
後ずさりながら言う五和に、
「どうして、とはまた、意外なことを。今のわたしはイギリス清教『必要悪の協会(ネセサリウス)』にある身です。イギリス清教に
とって不利益なことが行われるようであればそれを未然に防ぐために動くのは自然なことではありませんか?」
後ろへ下がって行く五和を追いながら歩いていく神裂。
その目はひたりと五和に据えられたままだ。
「それとも、ここが術式の起動場所だと分かったことでしょうか? 離れたとはいえわたしが扱うのも天草式のものです。土
御門から連絡を受けて調べれば何をしようとしているのかおおよそのことは分かります」
その言葉に、後ずさっていた五和の足が止まる。
「流れる川を縦糸に、架かる橋を横糸に見立て、それを渡る術者によって織り上げられていく機織(はたおり)。細かいとこ
ろまでは分かりませんでしたが、何をやろうとしているのか大まかに見えればそれで十分です。あなた方は七夕の術式を
行おうとしているのですね」
突きつけられた答えに、固まっていた五和が大きく体を震わせる。
「何を思ってここイギリスで七夕を行おうとしたのかは知りえませんが、通告します。今すぐにこの術式を止めなさい。さも
なくばこのわたしが実力を持って排除します」
科学世界における核にも等しい存在である聖人の神裂から、事実上の死刑宣告とも取れる宣言を突きつけられ、五和
は殆ど半泣きになっている。
「今ならばまだ何とか間に合うでしょう。これ以上この地で勝手を通せば天草式にもはや居場所はありません。五和、それ
をやめなさい」
「わ、わたしは……」
身動きできないまま震える五和が何かを言おうとしたとき、突然別の声が割って入った。
「おっと、そうはいかんってもんなのよ」
声がしたほうを向けば、何と土御門と戦っていたはずの建宮がそこに現れていた。
衣服はわりとぼろぼろだが素早い動きで五和と神裂の間に入る。
「すまん神裂、抜けられた!」
それに続いて現れる土御門。ただし、こちらは建宮よりも若干疲労とダメージの色合いが大きいように見受けられる。
「何をしていたのですか土御門!」
以外にも声を荒げる神裂を見ながら、後ろにいる五和に向かって振り返らずに建宮は言う。
「五和。お前さんはどうしたいんだ?」
「!? 建宮斎字! まだ諦めないのですか! やめさせなさい!」
叫ぶ神裂に対して一歩も引かず、建宮は続ける。
「いいや。こればっかりはいくら相手が女教皇(プリエステス)様であろうと譲れんのよな。五和、お前が決めろ。舞台に上がる
のか上がらないのかを」
「建宮!!」
膨れ上がる緊張感。
お互いに動きを牽制し合う一触即発の様相の中、場を動かす一言が告げられる。
「…………わ、わたし、やります!」
「!」
「くっ、五和!」
「よく言った、それでこそなのよ!」
慌てて飛び出そうとする神裂と土御門。
だが、それよりも早く建宮の手が動き、
身動きできないまま震える五和が何かを言おうとしたとき、突然別の声が割って入った。
「おっと、そうはいかんってもんなのよ」
声がしたほうを向けば、何と土御門と戦っていたはずの建宮がそこに現れていた。
衣服はわりとぼろぼろだが素早い動きで五和と神裂の間に入る。
「すまん神裂、抜けられた!」
それに続いて現れる土御門。ただし、こちらは建宮よりも若干疲労とダメージの色合いが大きいように見受けられる。
「何をしていたのですか土御門!」
以外にも声を荒げる神裂を見ながら、後ろにいる五和に向かって振り返らずに建宮は言う。
「五和。お前さんはどうしたいんだ?」
「!? 建宮斎字! まだ諦めないのですか! やめさせなさい!」
叫ぶ神裂に対して一歩も引かず、建宮は続ける。
「いいや。こればっかりはいくら相手が女教皇(プリエステス)様であろうと譲れんのよな。五和、お前が決めろ。舞台に上がる
のか上がらないのかを」
「建宮!!」
膨れ上がる緊張感。
お互いに動きを牽制し合う一触即発の様相の中、場を動かす一言が告げられる。
「…………わ、わたし、やります!」
「!」
「くっ、五和!」
「よく言った、それでこそなのよ!」
慌てて飛び出そうとする神裂と土御門。
だが、それよりも早く建宮の手が動き、
そして、術式が発動する。
術式が発動した直後、橋の下を流れるテムズ川に移る夜景が大きく輝きだす。
そして、街並みから照らされる光よりも眩く輝いた次の瞬間、辺りの風景は一変する。
「ここは、……一体?」
「何!? これは……馬鹿な!」
飛び出したものの、激変した状況に足が止まる神裂と土御門。
橋の欄干から広がるのはもはやロンドンの街並みなどではなかった。
「これは……、学園都市?」
あっけにとられて呟く神裂。
そして、その場にいた幾人かには何となく見覚えのある学生寮があった。
時差の関係か、起き抜けで眠たそうな顔をした一人の少年がドアを開け、表に顔を出す。
どうやら、何かで目が覚めてしまい、外の様子が気になって見に出た、といったところか。
だが、ドアを開けたまま、固まってしまっている。
「うわっ、なんだこりゃ?!」
こちらにある橋の欄干に手を伸ばし、触れようとするが、その手はあっけなくすり抜けてしまう。
「あれ? なんか景色が二重に写ってる……って、まさかまたどっかで何かが起きやがったのか?! くそっ、こんな夜中
に何してくれるんだよ!」
途端に表情が一変し、辺りを見渡し始める少年。
本人は至って真面目なのだが、そこに、なんとも言えない声が掛けられる。
「……おーい、カミやーん」
「その声は土御門か? どこにいるんだ……って、あれ?」
対峙している四人を見て、きょとんとした様子で尋ねてくる。
「なにやってるんだ、お前ら? いや、そんなことより丁度いい、何だかまた大変なことが起こってるみたいなんだ、お前ら
何か知ってないか?」
またしてもいつもの調子で事件に飛び込もうとしてくる上条に対し、土御門はあきれた様な口調で話す。
「そんなことよりカミやん。下、下」
「そんなことってお前な! ……って、え、きゃーーーー!!」
指で指されている所に目を向けて慌ててドアの陰に身を隠す上条。
どうやら上条さんは寝るときは下半身にはあまり多く履かないようです。というか、ぶっちゃけ一枚しかTシャツの他には
体に身につけていません。
「…………(真っ赤)」
「ま、まあ、今の季節、そちらの気候では涼を取るのは大変でしょうし……」
「やれやれ、こうなると百年の恋も覚めるってもんよなぁ……」
先ほどまでの緊張感がさっぱり取れてしまった一同は、ドアの陰から顔だけ出している上条を見ながらあきれたように首
を振ったりしている。
「う、うるせえ、寝起きなんだからしょうがねえだろ! っていうかお前らこんな夜も明けないうちから何してやがるんだよ!」
顔を赤くしながら吠える上条。しかし、ドアに隠れた状態では迫力なんかちっともありませんが。
「こらこら、カミやん。夜中に大声出して騒いだら駄目なんだぜい」
土御門がからかう様に掛けた言葉に、うっ、と詰まる上条。
それを横目に見ながら建宮は五和に尋ねる。
「どうやら二割ばかり糸がほつれた影響が出ちまったのよな。どうするよ、予定通りにはいかないようなのよ?」
それに対し、五和は緊張した面持ちながら、いえ! と答えると、上条の姿が映る橋の欄干に向かって近づいていく。
「あ、あのっ……!」
掛けられた声に顔を向けた上条は、見知った顔を見つけて怪訝な顔を向ける。
「あれ? 神裂に、天草式の、建宮? お前らまで何して……?」
近づいてくる五和の姿を見て言葉が途切れる。
そんな五和は緊張で顔が強張ったまま、ギクシャクとした動きで近づいていく。
「あ、あの、その、…………」
緊張で後が続かない五和。
それが伝わったのか上条まで緊張して身構えている。
それを眺める建宮らまでがいつの間にかじりじりと見守る中、意を決したように五和が叫ぶ。
「あ、あのっ! わたし、い、五和と言います! はじめまして、カミジョウさん!」
「あ、はい、こちらこそはじめまして」
ガチガチで声が裏返っている五和と慌ててそれに応じる上条。
「…………」
「…………」
だが、緊張で後が続かないようである。
後ろにいる建宮、さらには神裂までもが手を握って見守る中、ようやく五和が続く言葉を述べる。
「あのっ、そのっ、お、お素麺、お素麺送りましたから食べて下さいっ!」
「え、あ、はあ、ありがとうございます」
「し、失礼しますっ!」
それだけ言うと、バッと大きく一礼して身を翻し走り去る五和。
ポカンとして見送る上条。
それを見ながらやれやれといった感じで引き上げていく神裂たち一行。
「あー、まあ、あんなもんか。五和にしては精一杯ってところなのよなあ」
「まったく、あれだけ大騒ぎしておいてとどのつまりは話をしたかっただけとは。あなた方は話を大きくしすぎなんですよ。大
体建宮、あなたと言う人は……」
「なーねーちん、もう俺帰っていいかにゃー? 今からならまだ今日中には学園都市に帰れるしにゃー。こうなったら俺も
舞夏と七夕を祝わないとやってられないんだぜい」
ぞろぞろと歩いていく一行に向かって上条からは、「え、何、何だったんだよ一体? おい、説明してけよ土御門!」と声
がするが、土御門は一言、
「今のカミやんにはそんなことよりもっと重大なことが差し迫ってるんじゃないかにゃー?」
と切って捨てる。
は? と首を傾げる上条の背後からは、大声で叩き起こされ不機嫌極まりない純白のシスターが素麺という言葉を聞い
てさらに上乗せされた攻撃力の歯を光らせながら近づいてきていた。
術式の効果が切れ、薄れゆく学園都市の景色の中にある少年のわりとハンパ無い悲鳴が聞こえたかどうか、定かでは
ない。
そして、街並みから照らされる光よりも眩く輝いた次の瞬間、辺りの風景は一変する。
「ここは、……一体?」
「何!? これは……馬鹿な!」
飛び出したものの、激変した状況に足が止まる神裂と土御門。
橋の欄干から広がるのはもはやロンドンの街並みなどではなかった。
「これは……、学園都市?」
あっけにとられて呟く神裂。
そして、その場にいた幾人かには何となく見覚えのある学生寮があった。
時差の関係か、起き抜けで眠たそうな顔をした一人の少年がドアを開け、表に顔を出す。
どうやら、何かで目が覚めてしまい、外の様子が気になって見に出た、といったところか。
だが、ドアを開けたまま、固まってしまっている。
「うわっ、なんだこりゃ?!」
こちらにある橋の欄干に手を伸ばし、触れようとするが、その手はあっけなくすり抜けてしまう。
「あれ? なんか景色が二重に写ってる……って、まさかまたどっかで何かが起きやがったのか?! くそっ、こんな夜中
に何してくれるんだよ!」
途端に表情が一変し、辺りを見渡し始める少年。
本人は至って真面目なのだが、そこに、なんとも言えない声が掛けられる。
「……おーい、カミやーん」
「その声は土御門か? どこにいるんだ……って、あれ?」
対峙している四人を見て、きょとんとした様子で尋ねてくる。
「なにやってるんだ、お前ら? いや、そんなことより丁度いい、何だかまた大変なことが起こってるみたいなんだ、お前ら
何か知ってないか?」
またしてもいつもの調子で事件に飛び込もうとしてくる上条に対し、土御門はあきれた様な口調で話す。
「そんなことよりカミやん。下、下」
「そんなことってお前な! ……って、え、きゃーーーー!!」
指で指されている所に目を向けて慌ててドアの陰に身を隠す上条。
どうやら上条さんは寝るときは下半身にはあまり多く履かないようです。というか、ぶっちゃけ一枚しかTシャツの他には
体に身につけていません。
「…………(真っ赤)」
「ま、まあ、今の季節、そちらの気候では涼を取るのは大変でしょうし……」
「やれやれ、こうなると百年の恋も覚めるってもんよなぁ……」
先ほどまでの緊張感がさっぱり取れてしまった一同は、ドアの陰から顔だけ出している上条を見ながらあきれたように首
を振ったりしている。
「う、うるせえ、寝起きなんだからしょうがねえだろ! っていうかお前らこんな夜も明けないうちから何してやがるんだよ!」
顔を赤くしながら吠える上条。しかし、ドアに隠れた状態では迫力なんかちっともありませんが。
「こらこら、カミやん。夜中に大声出して騒いだら駄目なんだぜい」
土御門がからかう様に掛けた言葉に、うっ、と詰まる上条。
それを横目に見ながら建宮は五和に尋ねる。
「どうやら二割ばかり糸がほつれた影響が出ちまったのよな。どうするよ、予定通りにはいかないようなのよ?」
それに対し、五和は緊張した面持ちながら、いえ! と答えると、上条の姿が映る橋の欄干に向かって近づいていく。
「あ、あのっ……!」
掛けられた声に顔を向けた上条は、見知った顔を見つけて怪訝な顔を向ける。
「あれ? 神裂に、天草式の、建宮? お前らまで何して……?」
近づいてくる五和の姿を見て言葉が途切れる。
そんな五和は緊張で顔が強張ったまま、ギクシャクとした動きで近づいていく。
「あ、あの、その、…………」
緊張で後が続かない五和。
それが伝わったのか上条まで緊張して身構えている。
それを眺める建宮らまでがいつの間にかじりじりと見守る中、意を決したように五和が叫ぶ。
「あ、あのっ! わたし、い、五和と言います! はじめまして、カミジョウさん!」
「あ、はい、こちらこそはじめまして」
ガチガチで声が裏返っている五和と慌ててそれに応じる上条。
「…………」
「…………」
だが、緊張で後が続かないようである。
後ろにいる建宮、さらには神裂までもが手を握って見守る中、ようやく五和が続く言葉を述べる。
「あのっ、そのっ、お、お素麺、お素麺送りましたから食べて下さいっ!」
「え、あ、はあ、ありがとうございます」
「し、失礼しますっ!」
それだけ言うと、バッと大きく一礼して身を翻し走り去る五和。
ポカンとして見送る上条。
それを見ながらやれやれといった感じで引き上げていく神裂たち一行。
「あー、まあ、あんなもんか。五和にしては精一杯ってところなのよなあ」
「まったく、あれだけ大騒ぎしておいてとどのつまりは話をしたかっただけとは。あなた方は話を大きくしすぎなんですよ。大
体建宮、あなたと言う人は……」
「なーねーちん、もう俺帰っていいかにゃー? 今からならまだ今日中には学園都市に帰れるしにゃー。こうなったら俺も
舞夏と七夕を祝わないとやってられないんだぜい」
ぞろぞろと歩いていく一行に向かって上条からは、「え、何、何だったんだよ一体? おい、説明してけよ土御門!」と声
がするが、土御門は一言、
「今のカミやんにはそんなことよりもっと重大なことが差し迫ってるんじゃないかにゃー?」
と切って捨てる。
は? と首を傾げる上条の背後からは、大声で叩き起こされ不機嫌極まりない純白のシスターが素麺という言葉を聞い
てさらに上乗せされた攻撃力の歯を光らせながら近づいてきていた。
術式の効果が切れ、薄れゆく学園都市の景色の中にある少年のわりとハンパ無い悲鳴が聞こえたかどうか、定かでは
ない。
走り去った筈の五和が橋の出口辺りで他の天草式メンバーに取り囲まれ、
「よくやりました五和!」
「ナイスです!」
「女教皇(プリエステス)様相手に良くぞ一歩も引きませんでした!」
「しかし、結局名前を名乗って素麺を送ったことを言っただけとは……」
「女ならもっとガツンと行くべきだったのでは? 思い切って告白してみるとか」
「馬鹿者! そんな暴挙、女教皇(プリエステス)様の眼前で出来るわけが無かろう!」
「そうです。ここはまず外堀を埋めていくことが大事なのですよ」
などと口々に言われている様子を眺めながら、
「しかし、これほど大騒ぎにする必要は無かったでしょうに」
と、まだ言い足りない様子の神裂とそれをへいへい、と聞き流している建宮。
だが、
「まったく、細かい術式まで調べる時間が無かったわたしにも責任はありますが、七夕の術式を発動させるというからてっ
きり棚機津女(たなばたつめ)になぞらえるのかと思ってしまったでは無いですか」
という言葉に思わずぎょっとして神裂を見やってしまう。
※日本の棚機津女(たなばたつめ)の伝説は『古事記』に記されており、村の災厄を除いてもらうため、水辺で神の衣を織
り、神の一夜妻となるため機屋で神の降臨を待つ棚機津女という巫女の伝説である。(現代電子演算相互互助辞典:Wikiより引用)
「よくやりました五和!」
「ナイスです!」
「女教皇(プリエステス)様相手に良くぞ一歩も引きませんでした!」
「しかし、結局名前を名乗って素麺を送ったことを言っただけとは……」
「女ならもっとガツンと行くべきだったのでは? 思い切って告白してみるとか」
「馬鹿者! そんな暴挙、女教皇(プリエステス)様の眼前で出来るわけが無かろう!」
「そうです。ここはまず外堀を埋めていくことが大事なのですよ」
などと口々に言われている様子を眺めながら、
「しかし、これほど大騒ぎにする必要は無かったでしょうに」
と、まだ言い足りない様子の神裂とそれをへいへい、と聞き流している建宮。
だが、
「まったく、細かい術式まで調べる時間が無かったわたしにも責任はありますが、七夕の術式を発動させるというからてっ
きり棚機津女(たなばたつめ)になぞらえるのかと思ってしまったでは無いですか」
という言葉に思わずぎょっとして神裂を見やってしまう。
※日本の棚機津女(たなばたつめ)の伝説は『古事記』に記されており、村の災厄を除いてもらうため、水辺で神の衣を織
り、神の一夜妻となるため機屋で神の降臨を待つ棚機津女という巫女の伝説である。(現代電子演算相互互助辞典:Wikiより引用)
「な、何ですか一体。これ、あなた達まで何なんですか一体!」
そんな神裂を横目で見ながらひそひそと話す天草式一同。
「な、なんと、さすがは女教皇(プリエステス)様、我々の発想の数段上を行かれるとは」
「ど、どうしますか。ただでさえ勝ち目が少ないというのにあんな手を考えられていたらどうしようもありませんよ?」
「やはり最後は己の身体を捧げないといけないのでしょうか」
「くっ、こ、こうなったら五和、あなたも身体を張って当たって砕けるのです!」
「いや、砕けちゃ駄目でしょうよ!」
ひそめているつもりでもわりと結構聞こえてくる声を聞いてわなわなと体を震わせていた神裂は
「いい加減にしなさい!」
と顔を赤らめながら追いかけていく。
きゃわー、とクモの子を散らすように逃げていく天草式とそれを追う神裂の姿を見ながら
「平和なのよなあ」
と呟く建宮。
「出来ればこれからはいらん誤解を持たせないようにして欲しいもんだがにゃー」
と返しながらも何かを忘れているような気がするが、まあいいにゃー、と丸投げする下土御門。
そんな神裂を横目で見ながらひそひそと話す天草式一同。
「な、なんと、さすがは女教皇(プリエステス)様、我々の発想の数段上を行かれるとは」
「ど、どうしますか。ただでさえ勝ち目が少ないというのにあんな手を考えられていたらどうしようもありませんよ?」
「やはり最後は己の身体を捧げないといけないのでしょうか」
「くっ、こ、こうなったら五和、あなたも身体を張って当たって砕けるのです!」
「いや、砕けちゃ駄目でしょうよ!」
ひそめているつもりでもわりと結構聞こえてくる声を聞いてわなわなと体を震わせていた神裂は
「いい加減にしなさい!」
と顔を赤らめながら追いかけていく。
きゃわー、とクモの子を散らすように逃げていく天草式とそれを追う神裂の姿を見ながら
「平和なのよなあ」
と呟く建宮。
「出来ればこれからはいらん誤解を持たせないようにして欲しいもんだがにゃー」
と返しながらも何かを忘れているような気がするが、まあいいにゃー、と丸投げする下土御門。
ちなみに、北海河口まで流されたステイルが通りかかった漁船に引き上げられて九死に一生を得たのはそれから一日
後の事であり、オルソラ救出戦の折にインデックスが戦闘に巻き込まれかけたことと合わせて建宮個人にさらなる恨みを
募らせるようになったそうである。
後の事であり、オルソラ救出戦の折にインデックスが戦闘に巻き込まれかけたことと合わせて建宮個人にさらなる恨みを
募らせるようになったそうである。
さらにさらに、学園都市の上条の部屋にカササギ印の配達業者の手によって五和からの素麺が届いたのはやはり次の
日のことであったが、例によってその殆どは純白のシスターによって消費されたという。
日のことであったが、例によってその殆どは純白のシスターによって消費されたという。