「とうま」
とある学生寮の一室でインデックスは上条に呼びかける。
此処しばらく、上条の料理は目に見えて下手になっていた。ずっと何かを考えているがために、お粗末になってしまうのだ。
インデックスが上条に呼びかけても、しばらくは気が付かない。
「とうまってば」
「……」
「とうまっ!」
力いっぱい叫んで、初めて上条は振り向いた。
「あ、……わるい、呼んだ?」
「……クッキー、焼いた。食べる?」
インデックスが差し出したのは、彼女にしてはあまりにも上手な手製のクッキー。
しばらく上条は口を開けて、それから訊いた。
「ぇ? ――お前、電子レンジ使えたのか!?」
「つっ、使えるんだよ! 馬鹿にしないでほしいかも!」
「にしてもなんでクッキーが焼けるんだ!? なんで作り方を知ってんだよ!?」
その質問に、インデックスは少し黙ると、叫び返した。
「てっ……てんげがっ! てんげが教えてっ、くれたから! 『いつか、とうまに作ってあげて』って、笑って言ったからっ!」
その時、インデックスは、てんげが作ればいいんじゃないのか、と言ったことを聞いた。てんげは哀しそうに笑って、何も答えなかった。
今まで、泣かなかったのに。ぽろり、と涙が零れてクッキーに落ちた。
「……そっか」
「とうま、てんげは笑ってたの? 辛そうじゃ、なかった……?」
上条が頷くのを見て、インデックスは俯いた。
上条はクッキーを手に取り、食べた。
「上手いな、これ」
「うん」
きっと、天花は上条達が悲しむことを望まない。
だから、辛そうに話すのではなく、笑って彼女の事を話せるようになろう。
「……今度、一緒に焼いてみっか」
「うん。そうしよう。私がとうまに焼き方を教えてあげるんだよ」
「お前になんか教わるのって変な気分だけどな」
「とうま、失礼だと思わないの?」
「あん? だってお前、実際問題全く社会に対応できてね――ってちょっと!? インデックスさーん、そのがっちんがっちん歯を鳴らすのは乙女としてどうかと……」
「とうまの、ばかー!」
「ぎゃぁああああああああっ、やめろはなれろっ!?」
二人の挙動はいつもより不自然なものではあった。
いつものように、心から楽しそうではなかった。それでも日常の為に。
けれど、天花の事は、忘れたわけではなく。彼女の事を辛い思い出ではなく、楽しい思い出として振り返れるように。
――天花が、笑ってくれるようにしていたいから。
とある学生寮の一室でインデックスは上条に呼びかける。
此処しばらく、上条の料理は目に見えて下手になっていた。ずっと何かを考えているがために、お粗末になってしまうのだ。
インデックスが上条に呼びかけても、しばらくは気が付かない。
「とうまってば」
「……」
「とうまっ!」
力いっぱい叫んで、初めて上条は振り向いた。
「あ、……わるい、呼んだ?」
「……クッキー、焼いた。食べる?」
インデックスが差し出したのは、彼女にしてはあまりにも上手な手製のクッキー。
しばらく上条は口を開けて、それから訊いた。
「ぇ? ――お前、電子レンジ使えたのか!?」
「つっ、使えるんだよ! 馬鹿にしないでほしいかも!」
「にしてもなんでクッキーが焼けるんだ!? なんで作り方を知ってんだよ!?」
その質問に、インデックスは少し黙ると、叫び返した。
「てっ……てんげがっ! てんげが教えてっ、くれたから! 『いつか、とうまに作ってあげて』って、笑って言ったからっ!」
その時、インデックスは、てんげが作ればいいんじゃないのか、と言ったことを聞いた。てんげは哀しそうに笑って、何も答えなかった。
今まで、泣かなかったのに。ぽろり、と涙が零れてクッキーに落ちた。
「……そっか」
「とうま、てんげは笑ってたの? 辛そうじゃ、なかった……?」
上条が頷くのを見て、インデックスは俯いた。
上条はクッキーを手に取り、食べた。
「上手いな、これ」
「うん」
きっと、天花は上条達が悲しむことを望まない。
だから、辛そうに話すのではなく、笑って彼女の事を話せるようになろう。
「……今度、一緒に焼いてみっか」
「うん。そうしよう。私がとうまに焼き方を教えてあげるんだよ」
「お前になんか教わるのって変な気分だけどな」
「とうま、失礼だと思わないの?」
「あん? だってお前、実際問題全く社会に対応できてね――ってちょっと!? インデックスさーん、そのがっちんがっちん歯を鳴らすのは乙女としてどうかと……」
「とうまの、ばかー!」
「ぎゃぁああああああああっ、やめろはなれろっ!?」
二人の挙動はいつもより不自然なものではあった。
いつものように、心から楽しそうではなかった。それでも日常の為に。
けれど、天花の事は、忘れたわけではなく。彼女の事を辛い思い出ではなく、楽しい思い出として振り返れるように。
――天花が、笑ってくれるようにしていたいから。