佐天涙子と初春飾利が初めて出会ったのは、小学校の6年生で同じクラスになった時のことだ。
始業式を終え、初春、佐天を含め児童達はクラスに戻る。
その後入ってきた担任は、適当に自己紹介を終えると
「はーい、それじゃあ1番の子から順に自己紹介していって」
と児童達に声を掛けた。
「はいっ。1番、阿部敦です。アベアツとか、アベシって呼ばれてますっ」
「2番、荒井里美です。よく残念美人とか言われます」
担任の言葉の通りに、1番から順番に児童達が席を立っては簡単な自己紹介をしていく。
そんな中、初春飾利は緊張の極限にあった。
(こ、こんな……知らない人達の前で立ち上がって話すなんて…絶対無理ですっ!)
「3番、伊藤かな恵です。尊敬する声優は竹内順子さんです」
「……………」
「次………えーと、初春さん?」
「は、はいっ」
担任の声に弾かれたように立ち上がった初春は
「え、えと……あの、う、初春、飾利、です」
なんとかそれだけ言うと、バタンと椅子に腰を落としてしまう。
「5番、岡本信彦です。新人賞取ったのでもう弱い生物とか言わないでください」
(あぁ……駄目だなぁ私。何にも言えなかった)
一人後悔の混じった溜め息をつき俯いていた初春の耳に、突然快活な少女の声が飛び込んできた。
「12番、佐天涙子っす。皆、これから一年間よろしくー!」
その声に隣の席に目をやった初春は、そこに頭から花を生やした少女を見た。
「佐天ちゃーん、頭のお花はなーに?」
誰かの質問に
「いやー、やっぱ第一印象って大事って言うじゃん?だから超目立つ格好しようと思って、昨日1日かけて作ったんだー」
「変なのー」
「花瓶だー、歩く花瓶だー」
クラスの皆が佐天に突っ込みを入れ、瞬く間に佐天はクラスの人気者になった。
(凄いなぁ。私もあんな風に話せたらいいのに……)
そう思いながら初春が佐天を見つめていると、
「ん?どした?」
自己紹介を終え席についた佐天がこちらに気づき、目が合ってしまった。
「あ、いえ、えっと、何でもないんです、すいません……」
慌てて取り繕いながら、自分の引っ込み思案な性格に内心で溜め息をつく初春。
「13番佐藤利奈です………」
自己紹介が続く中、佐天は初春に視線を固定したまま告げた。
「えっと、そうだ、初春!だよね」
「は、はいっ、そうですけど……」
(い、いきなり呼び捨てされてしまいました…)
心臓をバクバクさせながら応対する初春に佐天は、ははーん、と突然したり顔になると言った。
「あー、成る程。初春はこの花飾りが欲しかったのですな」
「え、違っ」
「ふふふ、なかなかお目が高いですなぁ初春殿。実はこの花飾りは……なんて、昨日即席で作ったもんだから、特になーし。気に入ったんならあげようか?」
「い、いえそんなっ…」
「遠慮しなさんなって」
言って自分の頭から初春の頭にポンと花を植え替える佐天。
「んー、似合う似合う。初春地味っぽいからなー、こんくらいが丁度いいよ」
「地味っぽいって……」
「あはは、ゴメンゴメン。私口悪くて。でも、それつけてたら、凄い明るく見えるから。地味キャラなんてあっという間に卒業だよ」
「そ、そうですか……?って、これ佐天さんが1日かけて作ったものなのに、頂いたりなんて出来ませんよ!」
「えー、別に良いのに。一発ネタだし」
「で、でも……」
「んじゃ、私はこれだけ貰うわ」
そう言って佐天は初春の頭の花飾りから花をひとつ千切り、それをヘアピンに通して自分の髪にさした。
「どう?似合う?」
「は、はい!とても似合ってます!」
「そりゃ良かった」
そして佐天は、にっ、と悪戯っぽく笑ってから言った。
「じゃ、初春。お隣どーし、一年間よろしくね!」
「は、はい!よろしくお願いします………佐天、さん」
「あっはっはー、固いぞー初春ぅ」
笑いながら初春の手を握って出鱈目に振り回す佐天に、初春は自然と笑みを溢したのだった。
その後入ってきた担任は、適当に自己紹介を終えると
「はーい、それじゃあ1番の子から順に自己紹介していって」
と児童達に声を掛けた。
「はいっ。1番、阿部敦です。アベアツとか、アベシって呼ばれてますっ」
「2番、荒井里美です。よく残念美人とか言われます」
担任の言葉の通りに、1番から順番に児童達が席を立っては簡単な自己紹介をしていく。
そんな中、初春飾利は緊張の極限にあった。
(こ、こんな……知らない人達の前で立ち上がって話すなんて…絶対無理ですっ!)
「3番、伊藤かな恵です。尊敬する声優は竹内順子さんです」
「……………」
「次………えーと、初春さん?」
「は、はいっ」
担任の声に弾かれたように立ち上がった初春は
「え、えと……あの、う、初春、飾利、です」
なんとかそれだけ言うと、バタンと椅子に腰を落としてしまう。
「5番、岡本信彦です。新人賞取ったのでもう弱い生物とか言わないでください」
(あぁ……駄目だなぁ私。何にも言えなかった)
一人後悔の混じった溜め息をつき俯いていた初春の耳に、突然快活な少女の声が飛び込んできた。
「12番、佐天涙子っす。皆、これから一年間よろしくー!」
その声に隣の席に目をやった初春は、そこに頭から花を生やした少女を見た。
「佐天ちゃーん、頭のお花はなーに?」
誰かの質問に
「いやー、やっぱ第一印象って大事って言うじゃん?だから超目立つ格好しようと思って、昨日1日かけて作ったんだー」
「変なのー」
「花瓶だー、歩く花瓶だー」
クラスの皆が佐天に突っ込みを入れ、瞬く間に佐天はクラスの人気者になった。
(凄いなぁ。私もあんな風に話せたらいいのに……)
そう思いながら初春が佐天を見つめていると、
「ん?どした?」
自己紹介を終え席についた佐天がこちらに気づき、目が合ってしまった。
「あ、いえ、えっと、何でもないんです、すいません……」
慌てて取り繕いながら、自分の引っ込み思案な性格に内心で溜め息をつく初春。
「13番佐藤利奈です………」
自己紹介が続く中、佐天は初春に視線を固定したまま告げた。
「えっと、そうだ、初春!だよね」
「は、はいっ、そうですけど……」
(い、いきなり呼び捨てされてしまいました…)
心臓をバクバクさせながら応対する初春に佐天は、ははーん、と突然したり顔になると言った。
「あー、成る程。初春はこの花飾りが欲しかったのですな」
「え、違っ」
「ふふふ、なかなかお目が高いですなぁ初春殿。実はこの花飾りは……なんて、昨日即席で作ったもんだから、特になーし。気に入ったんならあげようか?」
「い、いえそんなっ…」
「遠慮しなさんなって」
言って自分の頭から初春の頭にポンと花を植え替える佐天。
「んー、似合う似合う。初春地味っぽいからなー、こんくらいが丁度いいよ」
「地味っぽいって……」
「あはは、ゴメンゴメン。私口悪くて。でも、それつけてたら、凄い明るく見えるから。地味キャラなんてあっという間に卒業だよ」
「そ、そうですか……?って、これ佐天さんが1日かけて作ったものなのに、頂いたりなんて出来ませんよ!」
「えー、別に良いのに。一発ネタだし」
「で、でも……」
「んじゃ、私はこれだけ貰うわ」
そう言って佐天は初春の頭の花飾りから花をひとつ千切り、それをヘアピンに通して自分の髪にさした。
「どう?似合う?」
「は、はい!とても似合ってます!」
「そりゃ良かった」
そして佐天は、にっ、と悪戯っぽく笑ってから言った。
「じゃ、初春。お隣どーし、一年間よろしくね!」
「は、はい!よろしくお願いします………佐天、さん」
「あっはっはー、固いぞー初春ぅ」
笑いながら初春の手を握って出鱈目に振り回す佐天に、初春は自然と笑みを溢したのだった。
************
大覇星祭。
9月の19日から25日、一週間をかけて行われる学園都市の一大イベントである。
その内容は超能力の使用を許可された大運動会だ。
大覇星祭の期間中学園都市は一般解放されているため、超能力というものを一目見ようと、或いは学園都市に暮らしている家族に会いに、学園都市には沢山の人間が訪れる。
大覇星祭。
9月の19日から25日、一週間をかけて行われる学園都市の一大イベントである。
その内容は超能力の使用を許可された大運動会だ。
大覇星祭の期間中学園都市は一般解放されているため、超能力というものを一目見ようと、或いは学園都市に暮らしている家族に会いに、学園都市には沢山の人間が訪れる。
言うなればお祭り騒ぎだ。
そして佐天涙子はお祭りが大好きだ。
そして佐天涙子はお祭りが大好きだ。
だが、
「はぁ~」
佐天は袋に入れ肩にかけたバットを担ぎ直すと、溜め息をついてグラウンドを後にした。
佐天は袋に入れ肩にかけたバットを担ぎ直すと、溜め息をついてグラウンドを後にした。
大覇星祭初日の午後。
佐天は女子ソフトボールの競技に出場したのだが、チームはトーナメントの一回戦で敗北。
そのため今日1日の佐天のプログラムはこれにて終了である。
ソフトボールは苦手ではない。
むしろ小さい頃から外に出て動き回っていた手前、そこら辺の女子よりかは余程上手いと思っている。
しかし、
(流石に軌道の曲がる魔球なんて打てないわよ……)
テレキネシスやテレポートなどの能力を使われてしまったら、地力の差など簡単に飛び越えられてしまう。
佐天達の通う学校は常磐台のような名門ではないので、在籍している生徒達のレベルも大したことはない。
その上能力の高い生徒はもっと大きな競技に駆り出されているので、佐天達のチームはレベル2が一人いるだけ。
結果は見るも無惨な完封だった。
佐天は女子ソフトボールの競技に出場したのだが、チームはトーナメントの一回戦で敗北。
そのため今日1日の佐天のプログラムはこれにて終了である。
ソフトボールは苦手ではない。
むしろ小さい頃から外に出て動き回っていた手前、そこら辺の女子よりかは余程上手いと思っている。
しかし、
(流石に軌道の曲がる魔球なんて打てないわよ……)
テレキネシスやテレポートなどの能力を使われてしまったら、地力の差など簡単に飛び越えられてしまう。
佐天達の通う学校は常磐台のような名門ではないので、在籍している生徒達のレベルも大したことはない。
その上能力の高い生徒はもっと大きな競技に駆り出されているので、佐天達のチームはレベル2が一人いるだけ。
結果は見るも無惨な完封だった。
そうして溜め息重くとぼとぼと歩いていた時
「あ、初春」
佐天は校舎の方に初春飾利の姿を認めた。
先程から佐天の試合を見ていてくれたようだが、今は誰かと携帯で話していて佐天の接近には気付いていない。
(しめしめ、それではいつものようにスカートをめくってあげるとしようかね)
先程までの落ち込み顔をどこかへ引っ込め、悪戯っぽい笑みを浮かべながら初春に近づいていった佐天は、はた、とあることに気付いてしまった。
(やや、そういえば今日は大覇星祭だから初春も体操服!つまり短パン!これではスカートをめくることが出来ない……むむむ、やりおるな初春よ。スカートをめくられたくなければズボンを穿けばいいじゃない作戦とはっ!)
佐天は驚愕に目を見開いた後、よくわからない闘志を燃やし
(しかーし、そんなことで初春のパンツ確認を諦める佐天さんではないのだよ!)
そろりそろりと初春に背後から忍び寄り、初春が通話を切ったタイミングを見計らうと
「あ、初春」
佐天は校舎の方に初春飾利の姿を認めた。
先程から佐天の試合を見ていてくれたようだが、今は誰かと携帯で話していて佐天の接近には気付いていない。
(しめしめ、それではいつものようにスカートをめくってあげるとしようかね)
先程までの落ち込み顔をどこかへ引っ込め、悪戯っぽい笑みを浮かべながら初春に近づいていった佐天は、はた、とあることに気付いてしまった。
(やや、そういえば今日は大覇星祭だから初春も体操服!つまり短パン!これではスカートをめくることが出来ない……むむむ、やりおるな初春よ。スカートをめくられたくなければズボンを穿けばいいじゃない作戦とはっ!)
佐天は驚愕に目を見開いた後、よくわからない闘志を燃やし
(しかーし、そんなことで初春のパンツ確認を諦める佐天さんではないのだよ!)
そろりそろりと初春に背後から忍び寄り、初春が通話を切ったタイミングを見計らうと
「うーいはるんっ!」
バッと
初春の短パンをズリ下げた。
「おぉ、今日のパンツは可愛いお花柄ですか」
地面に両膝をつき、初春の短パンを脛のあたりまで引き下げた体勢のまま上を見上げ、そこにある初春のお尻に視線を注ぎつつ、うんうん、と頷く佐天。
「…………………………………………………………………………………………へ?」
その辺りでようやく初春の思考が追い付いた。
「ぶっふぉあ!ささささささささ佐天さん!?い、一体何をしているんですか!?」
「いやぁ、いつも通り、パンツを穿いているか確認を……」
「だから穿いてますって!ていうか、スカートならともかく短パンを下げるなんて、あああり得ません!」
「おや、するとスカートならめくってもよろしいと言うことですかな?」
「そんなこと言ってません!」
もー、といいながら顔を真っ赤にして、残った体操服のシャツを下に引っ張り必死でパンツを隠そうとする初春。
「お、初春。何かそれエロいぞ」
「え、何でですか!?」
「いやぁなんというか、シャツでパンツを隠すことによって太ももだけしか見えなくなり、まるで初春がその下に何も着けていないかのような錯覚に……」
「なな、何ですかそれは!」
「嫌だと言うのならシャツから手をどけるのだ」
「そうじゃなくて、佐天さんが早く短パンから手を離して下さいよ!履き直せないじゃないですか!」
「ふふふ、そこまで言うのなら手を離してやろう。だが初春君よ、気付いているかな?君が短パンに手を伸ばそうと上半身を屈ませたその時、君はお尻をつき出す格好になってしまい、最後の防衛線であるシャツのガードは外れ、結果かわいいプリントパンツが衆目の前に晒されてしまうことに!」
「な、何てこと!これじゃあ短パンを上げられません!」
「更に木陰に隠れて穿き直そうなどと言う甘い考えも捨てた方がいいぞよ。何しろずり下げられた短パンは足枷のように君の両足を拘束している。このままでは満足に歩くことも出来まい!」
「そんな!動くに動けない!一体私はどうすれば……」
「初春君が心を込めて頼むのだったら、私が直々に短パンを上げてやってもいいのだがな」
「お、お願いします佐天さん!いえ、佐天様!」
「そんなんじゃ全然駄目だなぁ。もっと誠意を込めて」
「神様仏様佐天様、どうかこの卑しい初春めの短パンを引き上げてくださいませませ!」
「うむ、よろしい」
佐天は満足気に頷くと、すくっ、と立ち上がりがてらに初春の短パンをお尻のところまで引き上げた。
「ふぅ……って、何やらせるんですか佐天さん!」
危機的状況から解放され、我を取り戻した初春が佐天に噛みつく。
「なんだよ~、ノリノリだった癖に~」
「そ、そんなことありませんよっ!」
わたわたと手を振りながら告げる初春。
と、初春の視線がふと佐天が肩にかけたバットに注がれる。
「………残念でしたね、佐天さん」
「ん……あぁ。まぁ、ね」
「相手のピッチャーの方、サイコキネシストだったんでしょうね。打つ直前にボールが変な曲がり方をしてましたし。念動力で飛んでいるボールの軌道を変えてたんだと思います」
「ん、そんな感じだった。おかげで三振、三振、三振ってね。あ~ぁ」
「あの……佐天さん、大丈夫ですか?」
その言葉はかつてのレベルアッパーの事件を鑑みてのことなのだろう。
「あぁ、うん…一回踏ん切りつけたつもりだったんだけどね。……さっきの試合、家族も見に来ててさ。そんで試合終わった後、弟に言われちゃったんだよね。『なんだよ姉ちゃん、超能力使えないんじゃん』ってさ。身内にそう言われちゃったら…何か、ね」
「それは………」
初春は言葉を探し、視線をさ迷わせる。
その所作に何か申し訳ない気持ちになった佐天は、慌てて笑顔を持ち出してごまかした。
「あはは、ごめん。何か暗い感じになっちゃって。まぁ能力開発は気長にやってくつもりだからさ。それより、初春もう今日競技ないでしょ?私も今のが最後だし、どっか回らない?御坂さん達の応援とか」
「あ、いいですね。……と、すいません。実は用事が出来てしまって」
「もしかして、さっきの電話?」
「はい。何でもバスが爆発したとかで。幸い怪我人はいなかったんですけど、テロの可能性もあるので手の空いている風紀委員はパトロールをして欲しい、と」
「そっか…………んじゃ、私もそれ、ついてくよ」
少し考えてからそう返答する佐天。
「え、いいんですか?特に面白くもないと思いますけど……」
「私はもうやることなくて暇だし、だったら初春についていった方が話相手に困らないじゃん。道すがらそこらの学校の競技も覗いたり出来るしさ」
「んもぅ……佐天さん、遊びじゃないんですからね」
「わかってるって。ね、お願い」
地面に両膝をつき、初春の短パンを脛のあたりまで引き下げた体勢のまま上を見上げ、そこにある初春のお尻に視線を注ぎつつ、うんうん、と頷く佐天。
「…………………………………………………………………………………………へ?」
その辺りでようやく初春の思考が追い付いた。
「ぶっふぉあ!ささささささささ佐天さん!?い、一体何をしているんですか!?」
「いやぁ、いつも通り、パンツを穿いているか確認を……」
「だから穿いてますって!ていうか、スカートならともかく短パンを下げるなんて、あああり得ません!」
「おや、するとスカートならめくってもよろしいと言うことですかな?」
「そんなこと言ってません!」
もー、といいながら顔を真っ赤にして、残った体操服のシャツを下に引っ張り必死でパンツを隠そうとする初春。
「お、初春。何かそれエロいぞ」
「え、何でですか!?」
「いやぁなんというか、シャツでパンツを隠すことによって太ももだけしか見えなくなり、まるで初春がその下に何も着けていないかのような錯覚に……」
「なな、何ですかそれは!」
「嫌だと言うのならシャツから手をどけるのだ」
「そうじゃなくて、佐天さんが早く短パンから手を離して下さいよ!履き直せないじゃないですか!」
「ふふふ、そこまで言うのなら手を離してやろう。だが初春君よ、気付いているかな?君が短パンに手を伸ばそうと上半身を屈ませたその時、君はお尻をつき出す格好になってしまい、最後の防衛線であるシャツのガードは外れ、結果かわいいプリントパンツが衆目の前に晒されてしまうことに!」
「な、何てこと!これじゃあ短パンを上げられません!」
「更に木陰に隠れて穿き直そうなどと言う甘い考えも捨てた方がいいぞよ。何しろずり下げられた短パンは足枷のように君の両足を拘束している。このままでは満足に歩くことも出来まい!」
「そんな!動くに動けない!一体私はどうすれば……」
「初春君が心を込めて頼むのだったら、私が直々に短パンを上げてやってもいいのだがな」
「お、お願いします佐天さん!いえ、佐天様!」
「そんなんじゃ全然駄目だなぁ。もっと誠意を込めて」
「神様仏様佐天様、どうかこの卑しい初春めの短パンを引き上げてくださいませませ!」
「うむ、よろしい」
佐天は満足気に頷くと、すくっ、と立ち上がりがてらに初春の短パンをお尻のところまで引き上げた。
「ふぅ……って、何やらせるんですか佐天さん!」
危機的状況から解放され、我を取り戻した初春が佐天に噛みつく。
「なんだよ~、ノリノリだった癖に~」
「そ、そんなことありませんよっ!」
わたわたと手を振りながら告げる初春。
と、初春の視線がふと佐天が肩にかけたバットに注がれる。
「………残念でしたね、佐天さん」
「ん……あぁ。まぁ、ね」
「相手のピッチャーの方、サイコキネシストだったんでしょうね。打つ直前にボールが変な曲がり方をしてましたし。念動力で飛んでいるボールの軌道を変えてたんだと思います」
「ん、そんな感じだった。おかげで三振、三振、三振ってね。あ~ぁ」
「あの……佐天さん、大丈夫ですか?」
その言葉はかつてのレベルアッパーの事件を鑑みてのことなのだろう。
「あぁ、うん…一回踏ん切りつけたつもりだったんだけどね。……さっきの試合、家族も見に来ててさ。そんで試合終わった後、弟に言われちゃったんだよね。『なんだよ姉ちゃん、超能力使えないんじゃん』ってさ。身内にそう言われちゃったら…何か、ね」
「それは………」
初春は言葉を探し、視線をさ迷わせる。
その所作に何か申し訳ない気持ちになった佐天は、慌てて笑顔を持ち出してごまかした。
「あはは、ごめん。何か暗い感じになっちゃって。まぁ能力開発は気長にやってくつもりだからさ。それより、初春もう今日競技ないでしょ?私も今のが最後だし、どっか回らない?御坂さん達の応援とか」
「あ、いいですね。……と、すいません。実は用事が出来てしまって」
「もしかして、さっきの電話?」
「はい。何でもバスが爆発したとかで。幸い怪我人はいなかったんですけど、テロの可能性もあるので手の空いている風紀委員はパトロールをして欲しい、と」
「そっか…………んじゃ、私もそれ、ついてくよ」
少し考えてからそう返答する佐天。
「え、いいんですか?特に面白くもないと思いますけど……」
「私はもうやることなくて暇だし、だったら初春についていった方が話相手に困らないじゃん。道すがらそこらの学校の競技も覗いたり出来るしさ」
「んもぅ……佐天さん、遊びじゃないんですからね」
「わかってるって。ね、お願い」
「………わかりました。じゃ、一緒に行きましょうか」
「わーい、初春とデートだ!」
言って、佐天は初春の手を掴んで走り出した。
「わわ、佐天さん!?これはパトロールなんですからもう少し真面目に……大体デートって私達女の子同士じゃないですか!」
「んー、初春は私とデートは嫌かね」
「べ、別に嫌じゃないですけど……」
「ならばよーし!問題ナッシング!」
「もぅ……佐天さんってば」
初春は佐天に手をひかれながら、密かにその顔に笑みを浮かべた。
************
「そう言えば佐天さんはキャッチャーじゃないんですね」
「それはどういう意味かな初春。私がキャッチャーするってんなら初春はカスタネット叩いてうんたんするのかな」
「あ、あんな恥ずかしいこと中学生にもなって出来る訳ないじゃないですか!」
佐天と初春は大覇星祭中の学園都市をパトロールしていた。
佐天は運動後、初春は風紀委員の仕事という手前、二人とも体操服から制服に着替えていた。
初春は更に右袖に風紀委員の腕章をつけ、怪しい者がいないか周りに視線を走らせている。
一方、佐天もあちこちを眺めたり覗いたりを繰り返しているものの、それは何か面白い物はないかという好奇心からであった。
「佐天さん、真面目にやってくれないと……」
初春のたしなめる声に佐天はひらひらと手を振って答える。
「いやいや、ちゃんと探してるよ。ほら、あそこの兄ちゃんとか怪しくない?あの小学生くらいの女の子を連れてる髪の白いの。幼女誘拐かもしれないよ。服の趣味も凄い悪いし。あんなの何処で売ってんのかな?」
「アニメイトかコスパじゃないですか?見たところ女の子とは仲が良いようですし、外から来た兄妹とかだと思いますよ」
「それにしちゃ似てなさ過ぎじゃない?むしろ妹の方なんて、御坂さんの妹って言われた方がしっくり来る位だし」
「あ~、確かにそうですね」
遠巻きに二人組を見ていると、御坂似の女の子が白髪の少年の服を引っ張り何やら騒ぎ始めた。
女の子は空いた手で近くのクレープ屋の方を指差している。
幾らか抵抗している様子の少年だったが、少しすると少年は観念したように歩き出し、女の子にクレープを買ってあげていた。
「クレープですか……そういえばあの店、新作の秋季限定モンブランクレープが美味しいって評判でしたね……」
無意識の内に涎が垂れそうになる初春。
「おっと!いけません!いけませんよ私!今は風紀委員のお仕事中!クレープ片手にパトロールなんて風紀委員としての威厳も何もあったものではありません!禁止です禁止!佐天さんもそのことを肝に銘じてくださいね!」
「はい、秋季限定モンブランクレープ買ってきたよ」
「素早いっっっ!?」
初春が独り言を呟いている間に初春の側から消え、クレープを買って帰ってきた佐天は
「はい、どーぞ」
と左手に持ったクレープを初春に差し出しつつ右手に持った同じ味のクレープにかぶりつく。
「んー。おいひーぞー」
「だから佐天さん!今は仕事中で、こういう不真面目な態度はですね…」
「そっかぁ、初春はこれ要らないのかぁ」
「いえ、それは……えっと、その……」
「んー?何だって?」
「……………し、仕事で、パトロールで、えっと、頭とか、使うので、その、あの…………糖分です!!」
最早日本語になっていない文章を叫んだ後、初春はクレープに大きくかぶりついた。
「わーい、初春とデートだ!」
言って、佐天は初春の手を掴んで走り出した。
「わわ、佐天さん!?これはパトロールなんですからもう少し真面目に……大体デートって私達女の子同士じゃないですか!」
「んー、初春は私とデートは嫌かね」
「べ、別に嫌じゃないですけど……」
「ならばよーし!問題ナッシング!」
「もぅ……佐天さんってば」
初春は佐天に手をひかれながら、密かにその顔に笑みを浮かべた。
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「そう言えば佐天さんはキャッチャーじゃないんですね」
「それはどういう意味かな初春。私がキャッチャーするってんなら初春はカスタネット叩いてうんたんするのかな」
「あ、あんな恥ずかしいこと中学生にもなって出来る訳ないじゃないですか!」
佐天と初春は大覇星祭中の学園都市をパトロールしていた。
佐天は運動後、初春は風紀委員の仕事という手前、二人とも体操服から制服に着替えていた。
初春は更に右袖に風紀委員の腕章をつけ、怪しい者がいないか周りに視線を走らせている。
一方、佐天もあちこちを眺めたり覗いたりを繰り返しているものの、それは何か面白い物はないかという好奇心からであった。
「佐天さん、真面目にやってくれないと……」
初春のたしなめる声に佐天はひらひらと手を振って答える。
「いやいや、ちゃんと探してるよ。ほら、あそこの兄ちゃんとか怪しくない?あの小学生くらいの女の子を連れてる髪の白いの。幼女誘拐かもしれないよ。服の趣味も凄い悪いし。あんなの何処で売ってんのかな?」
「アニメイトかコスパじゃないですか?見たところ女の子とは仲が良いようですし、外から来た兄妹とかだと思いますよ」
「それにしちゃ似てなさ過ぎじゃない?むしろ妹の方なんて、御坂さんの妹って言われた方がしっくり来る位だし」
「あ~、確かにそうですね」
遠巻きに二人組を見ていると、御坂似の女の子が白髪の少年の服を引っ張り何やら騒ぎ始めた。
女の子は空いた手で近くのクレープ屋の方を指差している。
幾らか抵抗している様子の少年だったが、少しすると少年は観念したように歩き出し、女の子にクレープを買ってあげていた。
「クレープですか……そういえばあの店、新作の秋季限定モンブランクレープが美味しいって評判でしたね……」
無意識の内に涎が垂れそうになる初春。
「おっと!いけません!いけませんよ私!今は風紀委員のお仕事中!クレープ片手にパトロールなんて風紀委員としての威厳も何もあったものではありません!禁止です禁止!佐天さんもそのことを肝に銘じてくださいね!」
「はい、秋季限定モンブランクレープ買ってきたよ」
「素早いっっっ!?」
初春が独り言を呟いている間に初春の側から消え、クレープを買って帰ってきた佐天は
「はい、どーぞ」
と左手に持ったクレープを初春に差し出しつつ右手に持った同じ味のクレープにかぶりつく。
「んー。おいひーぞー」
「だから佐天さん!今は仕事中で、こういう不真面目な態度はですね…」
「そっかぁ、初春はこれ要らないのかぁ」
「いえ、それは……えっと、その……」
「んー?何だって?」
「……………し、仕事で、パトロールで、えっと、頭とか、使うので、その、あの…………糖分です!!」
最早日本語になっていない文章を叫んだ後、初春はクレープに大きくかぶりついた。
「うむうむ、それで良いのだ」
「うぅ~、佐天さんといるとどんどん悪い子になっていってしまう気がします」
「酷いことを言うなぁ初春君よ。私はね、君に人生の楽しみ方というものを教えてやっているのだよ」
「もぅ、都合のいいことばっかり言って……」
「では聞くけども初春君。このクレープ、お味は?」
「………………大変美味しゅうございます」
「よろしい!……しっかし、二人で街を歩いてクレープ食べて、いよいよ本格的にデートっぽくなってきましたな」
「佐天さん、またそんなこと言って……」
「折角の初春とのデートだから、もっと色々回っちゃおう!確かパレードもあるんだよね?」
「あぁ、ナイトパレードのことですか?午後6時半に学園都市中をライトアップする大掛かりなイベントだって話ですよ」
「6時半か、まだ少し時間があるなぁ…よしっ」
「もしかしてまだ何か食べる気ですか?」
「ふっふーん。いつものケーキ屋さん、この前新作ケーキが出たんだけどなぁ」
「ケ、ケーキですか………………………はぁ、わかりました。行きます。行きましょう」
「よしよしそう来なくっちゃな」
そう言ってスキップをしながら先を行く佐天の後ろ姿を見ながら、初春は思うのだった。
今の自分は、この佐天涙子という少女のおかげでここに在るのだということを。
あの時自分に声をかけてくれた、花飾りをプレゼントしてくれた、それが引っ込み思案だった自分の世界を大きく広げてくれたのだということを。
「佐天さんっ」
「なーに、初春」
「ありがとうございますね」
「あー、よいよよいよ」
フランクに手をぶらぶらさせて答える佐天に、初春は顔を綻ばせ、
「うぅ~、佐天さんといるとどんどん悪い子になっていってしまう気がします」
「酷いことを言うなぁ初春君よ。私はね、君に人生の楽しみ方というものを教えてやっているのだよ」
「もぅ、都合のいいことばっかり言って……」
「では聞くけども初春君。このクレープ、お味は?」
「………………大変美味しゅうございます」
「よろしい!……しっかし、二人で街を歩いてクレープ食べて、いよいよ本格的にデートっぽくなってきましたな」
「佐天さん、またそんなこと言って……」
「折角の初春とのデートだから、もっと色々回っちゃおう!確かパレードもあるんだよね?」
「あぁ、ナイトパレードのことですか?午後6時半に学園都市中をライトアップする大掛かりなイベントだって話ですよ」
「6時半か、まだ少し時間があるなぁ…よしっ」
「もしかしてまだ何か食べる気ですか?」
「ふっふーん。いつものケーキ屋さん、この前新作ケーキが出たんだけどなぁ」
「ケ、ケーキですか………………………はぁ、わかりました。行きます。行きましょう」
「よしよしそう来なくっちゃな」
そう言ってスキップをしながら先を行く佐天の後ろ姿を見ながら、初春は思うのだった。
今の自分は、この佐天涙子という少女のおかげでここに在るのだということを。
あの時自分に声をかけてくれた、花飾りをプレゼントしてくれた、それが引っ込み思案だった自分の世界を大きく広げてくれたのだということを。
「佐天さんっ」
「なーに、初春」
「ありがとうございますね」
「あー、よいよよいよ」
フランクに手をぶらぶらさせて答える佐天に、初春は顔を綻ばせ、
「―――――?」
ふと立ち止まった。
「どうかした?初春」
「いえ、その………」
初春は路地の方に視線を向けながら言う。
「今何か聞こえませんでした?」
「いえ、その………」
初春は路地の方に視線を向けながら言う。
「今何か聞こえませんでした?」