とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

第二章

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匿名ユーザー

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「あれが次の相手か」
学園都市のとある高校の野球部員達は、次にトーナメントで当たる相手校の試合を見ていた。
「………相変わらず、奇怪なもんだな。超能力ってのは」
彼らの学校の野球部員は、皆レベル0かレベル1。
これと言った超能力の才を持たない者達ばかりだ。
そのせいもあり、部員の中には先のレベルアッパー事件に巻き込まれてしまった者もいる。
「まぁ、あれでも去年よりはマシらしいがな」
部長の言葉に後輩が食いついた。
「あれよりって………あのテレポーターですか?『交換転送(シフトチェンジ)』って、自分と相手の座標を入れ換えるっていう。転移前も転移後も座標計算が必要無いからタイムロスも少ない――あんなのよりも厄介なのがいたんですか?」

「あぁ、いたんだよ。絶対に打てない球を投げるピッチャーがな」
「絶対に打てない球?」
「あぁ、本当にフザケた能力だった。大抵の曲がる魔球なら何とか軌道を読んで打ち返せるが、そいつの球はど真ん中ストレートでも決して打ち返せないんだよ」
「そんな能力者が……」
「ま、去年馬鹿やらかして捕まったって聞いたがな。確か能力名は―――

『絶対等速(イコールスピード)』とか言ったかな」


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時刻としてはもう夕方と言っても差し支えない頃だが、まだ9月であるということ、そして大覇星祭という特別な行事の最中であることから、未だ街中に人通りは絶えない。
そんな喧騒の中で、初春は路地の向こうから何かの物音を聞いたと言う。
「私は別に聞こえなかったけど……」
佐天は正直に述べたが、初春の持つ直感や状況把握能力の高さを知っている身としては、それを空耳と切り捨てるのも憚られた。
しかも、初春の見つめる路地というのは、丁度銀行の隣にある。
夕方なのでシャッターが閉まっていることに違和感はないが、すると尚更裏手の方から聞こえた音には何か良からぬことを連想させられてしまう。
「私、少し見てきますね」
路地へ歩き出す初春に
「わ、私も一緒に行くよ」
佐天も一歩遅れてついていった。
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丘原燎多は自分の一味と、少年院で知り合った二人の男達と共に銀行の裏口から外に出た。
裏口は、扉の錠の部分がひしゃげている。
丘原が発火能力(パイロキネシス)で扉を溶かして銀行内部へ侵入した為だ。
丘原の能力はレベル3。
かつて銀行強盗を行った時は、派手さを演出したくて爆炎を撒き散らしたりなどしたが、本当はこうした精密な炎の制御も可能なのだ。
そんな丘原の怒りの対象は、目下J・Cスタッフである。
「たく、あいつら俺をレベルアッパーを使ったって設定にしやがって。ふざけんな。俺は原作ではもともとレベル3なんだよ。なんであいつらはオリジナル展開をやるかねぇ。大体8話のフロッグスコートって何?アスファルトの錬金術師ですか?てかあそこの流れ明らかにおかしかったじゃん。原作では上条さんのターンだったのによぉ……」
「いいじゃないすか兄貴。大体こん中で名前あるの兄貴だけっすよ?」
部下A(デブじゃない方)がたしなめるように丘原に言った。
「どうあれ、こうして少年院抜け出してまた金も入ったんすから」
部下B(デブ)もそれに続ける。


彼らは銀行強盗後に少年院送りになっていた。
学園都市に一つしかないその少年院にずっと閉じ込められていたわけだが、大覇星祭初日の今日、丘原は院内の様子がおかしいことに気付いた。
どうやら外から入ってきたテロリストがバスを爆発させたり女子高生を血の海に沈めたりと暴れまわっているらしい。
それで院内が慌ただしくなっているようだ。
だがそれだけでは少年院から逃げ出すほどの隙にはならない。
能力が使えれば或いは可能だろうが、少年犯罪者達は院に敷かれているAIMジャマーによって能力を封じられている。

しかし。

そのAIMジャマーの効力が突然切れたのだ。
理由はわからないがこのチャンスを見逃す手はなく、丘原はかつての仲間と、院で知り合った二人の男と共に脱走を試みた。
他の者達もそれに気づき逃亡を目論んだが、当然院の警備もそれに気づいて脱走を阻もうとする。
そうして少年院では警備と少年犯罪者との乱闘が起こり、丘原達はその混乱に乗じて少年院を抜け出したのだ。


「助かったぜ。俺達二人じゃここまでスムーズには行かなかった」
件の二人組の内の一人、イコールスピードが声をかけてきた。
イコールスピードの言う通り、今回の銀行強盗は非常に静かに済ませることが出来た。
おそらく残っていた数人の銀行員達は未だに金が盗まれていることにすら気付いていないだろう。
銀行のATMの警報装置を壊した上でATMに穴を空けて現金を奪うという方法は、強盗と言うより怪盗の手口である。
「それはこっちのセリフでもあるぜ。あんたらの能力も中々のもんだ。…あぁ、こっちのが頭数が多いんだ、取り分は少し多目に貰うぜ」
丘原は言いながら札束を詰めたバッグを引き寄せる。
「構わねぇよ。……そうだ。なぁお前ら、俺達と組まねぇか?俺達とお前らの能力が合わされば無敵だぜ」
イコールスピードの言葉に
「………そうだな。ほとぼりが冷めたら、また手を組むってのも悪かねぇか。だが―――」
丘原は路地の方にちらりと視線をやってから静かに告げた。
「取り敢えずはうろちょろしてる鼠の駆除が最優先だな」


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「あいつら……夏休みの銀行強盗!」
「それにあの二人組は去年の……」
佐天と初春は路地の壁に背を預け、顔だけを覗かせながら彼ら5人の様子を見ていた。
彼らが金の分配を始めた辺りで、2人は一度顔を引っ込め小声で会話を交わした。
「初春、風紀委員に……」
「えぇ、連絡してすぐに増援を呼びます。それまで何とかあの人達を見失わないように追いかけましょう」
「うん、わかった」
佐天が頷くと初春はすぐにスカートのポケットから携帯を取り出したが、

パシッ

とその携帯を誰かの腕が掴んだ。
そしてその腕からバチンッと放電が起こり、初春の携帯は黒い煙を上げてブラックアウトしてしまった。
「!?」
「ようよう、こんな所でこそこそ何やってんのかな?」
腕の主、黒いジャケットを着た三人組の内の一人、部下Aが低い声音で言う。
気がつくと、さっきまで裏口の前で金の分配をしていた筈の5人全員が目の前に立っていた。
「! 佐天さん逃げ――」
初春の叫んだ言葉はしかし途中で途切れた。
部下Aの蹴りが懐を撃ち抜いたのだ。
初春の軽い身体は簡単に浮き上がり、狭い路地の壁に叩きつけられた。
「うっ……けほっ!けほっ!」
「う、ういは――」
駆け寄ろうとした佐天の胸ぐらを二人組の内の一人、ニット帽の男が掴み上げ、佐天のスカートのポケットから携帯を奪う。
やはり電流操作系の能力なのだろうか、ニット帽の手の中で佐天の携帯の画面がエラーを表示した後プツリと途切れた。
「ん?何だこいつら。見覚えがあると思ったら、あの常磐台の奴らと一緒にいた……」
丘原の言葉に他の4人も二人の、もしくは内一人の顔に見覚えがあることに気付いた。
「あの風紀委員のお友達かよ!」
「テメェら、あん時はよくもやってくれたなぁ!」
男達は地面に倒れている初春に向かって容赦のない蹴りを浴びせる。
「うっ……うぐっ…」
初春はただ頭を抱え、耐えることしか出来ない。
「やめて!やめてよ!」
胸ぐらを掴まれた体勢のまま佐天が抗議するが
「っセェんだよコラァ!」
「がっ……は」
ニット帽は一度手を放すと、その拳を佐天の鳩尾に叩き込んだ。
「あっ……ぐ…」
佐天は声にならない声を上げながらその場に座りこむ。
その顔面に丘原は容赦なく拳を浴びせた。
佐天は身体ごと吹き飛ばされそうになるが、倒れる間もなく胸ぐらを掴まれて引き戻され、拳の連撃を食ららされる。
「あっ……はぁ、はぁ……うい、は………る…」
「ンだよその目はよォ!」
それでもなお抵抗を続ける佐天の態度に、初春を蹴りつけていた他の三人も佐天への攻撃に加わる。
結果そこには女の子1人を男5人がなぶるという集団リンチの図式が出来上がっていた。
「やめ……佐天さん…」
初春の声も届かず、佐天はまるでボールかサンドバックのように扱われ続ける。
佐天はやがて気を失い、壁に背を預けたままずるずると崩れ落ちた。
「ま、これだけやっときゃすぐには助けも呼べねぇだろ。見られたのは誤算だったがどうせ直にバレるんだ。こいつらが警備員に通報する前にトンズラこいちまおうぜ」
ひとしきり暴れた後、丘原がイコールスピードに提案したが、
「いや」
ニット帽が異を唱えた。


「そっちのお花の嬢ちゃんのお友達には随分お世話になったからな。借りはきっちり返させてもらうぜ」
そう言ってニット帽は初春を酷く濁った色の瞳で見つめた。
「だ、そうだ。悪いが先に行ってくれ。お前らに不利益になるようにはしないさ」
イコールスピードの言葉に
「………………そうか。わかった」
一拍置いてから返事をすると、丘原は部下達を引き連れて裏通りに消えていった。
それを見送ってから、ニット帽は初春に近づいていく。
「いや、やめ……やめてください……」
この後に何が起こるかを察した初春が傷ついた身体を引きずって必死で後ずさる。
だが、
「無駄な足掻きだぜ、嬢ちゃん」
ニット帽が初春の肩に触れると
「!? 何で……身体が、動かない……?」
「さっきも見せたろ、俺は電流操作系の能力者だ。まぁ、さっきの野郎みたいにデカイ電流を流したり空中放電は出来ねぇが、逆に細かい電流の操作は得意なんだよ。だから機械を流れる電流を弄って壊したり――人間の生体電流を操って、脳から筋肉への命令をストップさせたりすることも出来る。どうだ?指一本動かせねぇだろ」
「そんな……」
「まぁ安心しな。首から上は自由だから声も上げられるし、脳が受信する方向には干渉しちゃいねぇから、ちゃんと感覚も伝わるからな」
「い………いや……」
「大丈夫だ。ちゃんと気持ち良くしてやっからよ」
言葉をかけながら徐々に初春に体重をかけていくニット帽。
「おい、終わったら代われよ。おれもあのツインテに憂さ晴らししてぇからな」
イコールスピードが言い
「わかってるって」
とニット帽は気安く返す。
そこに罪の意識は無く、行為は強者の当然の権利として振るわれる。
一本通りを行けばそこは万人で溢れ返っているというのに、その喧騒故に彼らに少女の声は届かない。
「いや……やぁぁぁぁぁ!!!」
初春の叫びに

佐天は――

佐天涙子は―――


************
佐天涙子はヒーローというものが好きだった。
小さい頃は、日曜日に他の女の子よりも30分か1時間早起きしてテレビにかじりついたものだ。
悪の怪人を不思議な力で倒していくヒーロー達に佐天は釘付けになった。
自分もそんな力が欲しいと、ヒーローになりたいと思った。
そうして期待を胸にやってきた学園都市だったが――


『風速0.00メートル。誤差測定不能。能力認定――レベル0です』


その宣告は、余りにも無情なものだった。

努力はした。
だが佐天に能力は宿らない。
家に帰りたいと、逃げ出してしまいたいと何度も思った。

それでも佐天が学園都市に残っているのは、
佐天を繋ぐ最後の糸は、

初春飾利という存在だったのだ。

************

守ってやりたいと思った。


『初春はホントにおっちょこちょいだなぁ。私がいなかったらどうする気だったのさ』
『えへへ……すいません』


不器用ながらも前に進んでいく彼女を、


『佐天さん!わ、わた、私、レベル1になっちゃいました!』
『凄いじゃん初春!』


見守っているのも楽しかったけれど、


『佐天さん!風紀委員の試験、合格したって、お知らせが!』
『おー、やったじゃん!』


段々と彼女が遠くに行ってしまうような気がして、


『はい。風紀委員で同じ支部の白井さんって言って……とても面白い方なんですよ!』
『へぇ……そう』


少し――嫌だった。


この子は不器用でも少しずつ前に進んでいるのに、
私はずっと立ち止まったままだ。

彼女の周りには私よりも凄い人達がどんどん増えていって、
何の取り柄もない自分はいつか切り捨てられてしまうんじゃないかと思えて――酷く怖かった。


『能力があってもなくても、佐天さんは佐天さんです!』


彼女は、ただ隣にいてくれるだけでいいと言ってくれた。
親友だからと、言ってくれた。

でも――

そう言われる程に、彼女のことを守りたいという気持ちは強くなってしまう。


けれどそれも無理な話だ。
だって、佐天涙子はレベル0。

何の能力もありはしないのだから。


************
佐天はぼんやりと目を開いた。
そこには泣き叫ぶ初春と、彼女にまたがる男の姿があった。
(あぁ……初春ヤバいじゃん。乙女のピンチだよ)
佐天の身体はそこら中傷だらけで、頭からも出血しているのだろうか、顔がべっとりと湿っている感覚がある。
そのせいか、脳が上手く働かない。
目の前の光景がブラウン管の中の出来事のように思える。
或いは、予定調和の物語の一節か。
(でもさ、きっともうすぐ、そこの路地から御坂さんがやってきてさ……何やってんのよあんた達、とか言って、ビリビリって電撃浴びせて、一発で解決しちゃうんだ。もしくは白井さん。風紀委員ですの、て腕章引っ張って入ってきてさ、素手でこいつら簡単に伸しちゃって、最後に杭みたいので壁に打ちつけて終了。或いはもっと別の誰かかな。泣いてる女の子は放っとけないぜ、みたいな男の子。突然やって来て、風のように去っていく、ヒーローみたいな誰かさん)
「いや…………お願いします………やめて、ください……」
(ほら、早く来ないと。マジでヤバいって。もうそろそろ放送コードギリギリですよ?そりゃあ少年達は大喜びかもしんないけど、そんなんじゃお話終わっちゃうじゃん)
「助けて……誰か……誰か…」
(ほら、助けを呼んでるよ。ここらで出てくれば最高にカッコいいじゃん。だから来てよ。誰でもいいから助けに来てよ。誰でもいいから――
初春のこと助けてあげてよ!!)







「助けて……………………佐天さん」


「―――――――っ」



ゴンッ!!!


「がっ………!?」


ニット帽の顔面にバットがめり込んだ。
金属製のそれは男の鼻をぺちゃんこに折り砕き、ニット帽はたまらず初春の上から転げ落ちる。
「い、いっへぇ、はひふる……んべぇっ!!」
起き上がりかけたところで今度は腹にバットを食らい、ニット帽は白目を剥いて完全に沈黙した。


「………佐天、さん?」
初春の声を背中に聞いて、佐天は一歩を踏み出す。
残る敵――イコールスピードから初春を庇うように。

************
勘違いをしていた。
こんなおかしな街に住んでいるせいで、酷くおかしな勘違いをしていたのだ。


トリックアートは言った。
『何の力もない奴に、ゴチャゴチャ指図する権利はねぇんだよ!』
オリーブ・ホリディは言った。
『まぁ、所詮は大した価値もないレベル0のようですし』
弟は言った。
『何だよ姉ちゃん、能力使えねぇんじゃん』


―――だから、どうした。


能力が無いことが、

弱いことが、

誰かを守っちゃいけない理由にはならない。

助けて欲しいと言われたのだ。
その言葉を、心の底から嬉しいと感じたのだ。
だったら私が彼女を守ろう。
――どうやらいつまで待ってもヒーローは来てくれないらしい。
それも仕方のないことだ。
きっと正義の味方は、もっと大きなモノを守るのに精一杯なんだろう。
どこにでもいるような女子中学生の一人や二人、取りこぼしてしまったとしても、それは責められることではない。

だったら私が代わりに守る。

ヒーローが来ないってんなら、私がヒーローになるしかないじゃんか。

************
さっきまで感じていた痛みはどこかへ吹き飛んでいた。
それどころか、身体がいつもよりも軽い。
限界を迎えてバカになってしまったのか。

ふと、佐天はスカートのポケットの中にある御守りを握った。
学園都市に来る時に母に持たされた、母の手作りの御守り。
心なしかそれが熱を持っているように感じたのだ。

『あなたの身が何より一番大事なんだから……』

御守りをくれた時の母の言葉を思い出す。
思い出して――否定する。

私の身体なんて、どうなろうが構わない。
そんなものより、
――もっと大切なものを見つけたのだ。


佐天はバットの先をイコールスピードに突きつけて言った。
「初春は誰にも汚させない。初春は誰にも犯させない。初春は誰にも壊させない。

初春飾利は私のモンだ。

これ以上私の初春(せかい)を侵そうって言うんなら、まずはアンタのその腐った脳ミソをぶっ潰す!」

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