とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

第三章

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匿名ユーザー

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「ほざくじゃねぇか、ガキが」
イコールスピードが静かに口を開いた。
「……ちっ、バカが。またガキに伸されやがって。機械いじりの腕はいいんだが、油断しすぎだ」
イコールスピードは地面に倒れたニット帽を足で小突いてそう言った後、佐天に向き直る。
「だがな、ガキ。ちょっと冷静に考えてみな。テメェの身体はボロボロ、そしてどうやら大した能力も持っていないらしい。対して俺は――」
イコールスピードはジャンパーのポケットから鉄球を一つ取り出した。
「! 佐天さん、その人の投げる球に当たっちゃ駄目です!」
初春が叫ぶ。
「――おっと、そういやお前は俺の能力を知ってたんだったな!」
言ってイコールスピードは鉄球を放る。
それは真っ直ぐに佐天の方まで飛び、
「――!」
危険を察知した佐天は何とか身をかわす。
鉄球はそのまま後ろの建物のコンクリートに5センチ程めり込んでから止まった。
「俺の投げた物体は、壊れるか俺が能力を解除するまで同じ速度で動き続ける。『絶対等速(イコールスピード)』。それが俺の能力だ。さぁ、どうするよ無能。俺はそいつのようには行かないぜ?馬鹿みたいに突進してくるだけじゃ、自分から銃弾に当たりに行くようなもんだからな」
ニヤリと笑うイコールスピードだったが、心中では佐天への警戒心を抱いていた。
(この女、どうして立ち上がれた?あっちの花瓶女よりよっぽど痛め付けた筈だぞ?『肉体回復(オートリバース)』か?いや、怪我が治っている様子はねェ。ただタフなだけ?まぁいい。どっちにしろ……)

「ここで潰すっ!食らいやがれっ!」
再び鉄球を投げるイコールスピード。
「――っ」
だが佐天は飛んでくる鈍球を上手くかわし、狭い路地を身を縮めて回りこむ。
「かかったなっ!」
それを見越していたイコールスピードは更に5、6球の鉄球を佐天に向けて投げた。
「――っ!?」
「一度にひとつとは言ってないぜっ!」
慌てて足を止め、後ろに下がる佐天。
だが、この狭い路地というフィールドはイコールスピードに有利に働いた。
点の配置によって擬似的な面攻撃となった鉄球群。
そのどれからも逃れる道筋は、佐天には残されていなかったのだ。
「―――ぁあっ!!」
隙間を縫って避けようとするものの、誤って左足が鉄球の軌道上に乗ってしまった。
肌にめり込もうとする球から、何とか引きずるようにして足を逃す。
だが、
「終わりだっ!」
その声に目線を上げた佐天の前には、
「!」
イコールスピードが新たに投擲した更なる鉄球群があった。
「あっ、くっ……はあっ、がっ、はぁ、はぁ…」
避けると言うには余りに拙い動きで身を揺らし、ダメージを抑えようとする佐天。
だが鈍球は次々に佐天の柔肌に触れては、それを無惨に切り裂いていく。
「はっ!流石にこれだけ食らえば……?」
鉄球の一団が佐天をなぶり尽くしたを見計らって能力を止めたイコールスピードの目に、有り得ない光景が飛び込んできた。
「馬鹿な……どうして倒れねぇ……!」
「…はぁ、はぁ……くっ、はぁ………」
右手にバットを握りしめ、佐天涙子は立っていた。
「うい………はるは……わたしが……まもる………」
息は絶え絶え。
身体は傷だらけ。
それでも言葉は力強く、
瞳は輝きを失わない。
「佐天さん!佐天さん!もう止めてください!このままじゃ佐天さんが死んじゃいます!」
涙ながらに後方から初春が訴える声に、しかし佐天は従わない。
従える筈など――ない。


(どうなってやがる……化け物かこいつは。これだけ傷を負って、これだけ血を流して、まだ動けるのか?)
一方でイコールスピードは未知との遭遇に動揺していた。
こんなものは知らない――これは自分の知らない力、超能力ではない何か別の力だと、本能が彼に訴えかけていた。
(どうする……別に無理に倒さなきゃならねぇ訳じゃねぇ。元々ただの憂さ晴らしだ。トンズラこいちまえばこいつらは追いつけやしねぇ……)
だが、
「ういはるは………わたしが、…まもるんだ……」
佐天の言葉に、イコールスピードは閃いた。
「はっ、そうか。そうだったな。テメェの目的はそこの女を守ること。だったら――これでどうだっ!!」
イコールスピードは拳一杯の鉄球を投げた。
但し方向は佐天から逸れ、高さも低い。
「!!」
佐天はイコールスピードの意図に気づいた。



(こいつ、初春を狙って……)
初春は今まともに動くことは出来ない。
そこへ絶対等速の鉄球が飛来したらどうなるか――。
考えるより先に佐天は初春のもとへ駆けていく。
一歩を踏むごとに身体が壊れていくのが解る。
それでも佐天は足を止めない。
「佐天さん……?」
初春のもとへたどり着いた佐天は、彼女の身体を担ぎ上げようとする。
「佐天さん、無茶です!そんな身体で……私のことはいいですから、佐天さんだけでも逃げて下さい!」
そんな訳いかないじゃん、と言いたかったが、口が上手く動かなかった。
兎に角引きずってでも鉄球の軌道から初春を逸らそうと腕に力を込める。
すると初春の身体は少しずつだが地面を滑っていった。
だが――
(間に合わない……)
鉄球の足は遅かったが、それでも広範囲に放たれた鉄球の群れから初春を逃がすには、今の佐天では不可能だった。
「っの……!」
佐天は初春を引きずるのを止め、彼女の身体をその場に横たえると、バットを手に鉄球に立ち向かった。
「馬鹿が!俺の投げた鉄球を打ち返せる訳がねぇだろ!」
「…………」
イコールスピードの言葉に答えるだけの力も残っていない。
佐天はただ鉄球を見据えてバットを構える。
「駄目です佐天さん!そんなの無理です!逃げて!逃げてください!お願いだから、逃げて………私のことはいいから、死なないでください!」
「…………」
だが初春の言葉にも佐天は動かない。
すると初春は今度はイコールスピードに向かって叫んだ。
「お願いです!もう止めてください!私は……私はどうなってもいいから、だから佐天さんをこれ以上傷つけないで!佐天さんを……殺さないでください!お願いです!」
何言ってんのよ初春。
初春はスカートめくられただけで涙浮かべて嫌がって、そういう恥ずかしがり屋な女の子じゃん。
どうなってもいいから、なんて言っちゃ駄目だよ。
だってこいつ、きっとホントにやるよ?
そしたら初春はきっと凄く泣いちゃう。
私は、そんなの絶対に嫌だから。
だからここは――譲れない。

思いを言葉に変換するだけの余裕は無い。
だから黙ったままにバットを握る力を強める。
「喚くなよ花瓶女。こいつをやったら同じ球でテメェも貫いてやっからよ!」
勝利を確信したイコールスピードが言い、

ついに鉄球群が佐天へと襲いかかる。


その時、佐天は頭の隅でちらりと思った。


――あぁ、でも。

私が死んで、

初春が本気で泣いてくれたら、

それは凄く、

――嬉しいかも。



××××××××××××
結論から言ってしまえば、佐天涙子は生きていた。
だがそれは、学園都市第三位の中学生やレベル4のテレポーターが助けにきた訳でも、武器を使わない警備員が守ってくれた訳でも、学園都市最強が割って入ってきた訳でも、変な服装の通りすがりがすごいパンチを繰り出した訳でも――レベル0の少年が右手を翳した訳でもなかった。


ただ、光が照らした。

大通りに設置された数多の照明が一斉に点灯し、大通りに対して奥手にいたイコールスピードはその光を直視してしまったのだ。
暗くなりかけていた手前、余りの光量に思わず目を瞑るイコールスピード。
それと同時に等速運動を行っていた鉄球が突然重力に引かれ、地面に落ちた。
「くそっ……何なんだ…?」
目をおさえるイコールスピードに対し、光に背中を向けていた為にダメージのなかった佐天は初春の言葉を思い出した。

『あぁ、ナイトパレードのことですか?午後6時半に学園都市中をライトアップする大掛かりなイベントだって話ですよ』

時計がないため確認出来ないが、おそらく今がその時間なのだろう。


(助かった……)
心の中で呟いて、その場に崩れる佐天。
しかし佐天はすぐに違和感を覚えた。
(助かった……?どうして?どうしてあの人は能力の使用を止めた?)
イコールスピードは、物体が壊れるか自分で能力を解除するまで投げた物体は等速運動を続けると言った。
今の状況、例え光に驚いたとしてもそれは攻撃でも何でもないのだ。
能力を解除する理由にはならないだろう。
(いや、違う……)
考えろ。

『――正しい選択をするためのヒントは与えた』

そう、ヒントはある筈だ。
考えろ。
ソフトボールの試合後。
初春は何と言った?

『相手のピッチャーの方、サイコキネシストだったんでしょうね。打つ直前にボールが変な曲がり方をしてましたし。念動力で飛んでいるボールの軌道を変えてたんだと思います』

超能力で、ボールの軌道を――変える?

「何だ、そういうことか」
佐天はポツリと呟いた。
「あァ?」
「しょーもな。その程度なんだ、あんたの能力。そうだよね、御坂さんや白井さんと一緒にいるせいで、あれが普通だと思っちゃってたけど――大概の能力者なんて、こんなもんなのよね」
「何を言ってやがる?」
「別に。ただ、私はあんたに勝てるって、それだけの話」
立ち上がり様にそう言って、佐天はニッと笑った。



××××××××××××
ライトアップされた運動場で、とある高校の野球部は試合を行っていた。
相手はあの『交換転送(シフトチェンジ)』を擁する強豪校だ。
試合は後半に入り、3点差で相手に遅れをとっている。
「はんっ、無能力の割りには善戦しているようだが、そんなんじゃこの俺のシフトチェンジには敵わないぜ?」
バッターである相手校のエース、シフトチェンジがピッチャーである部長に挑発するように言う。
「あぁ、確かに。お前の能力は厄介だ。いいや、『厄介だった』」
「何を――?」
「お前の能力は、もう克服したということだ!」
部長がボールを投擲する。
「戯れ言だっ!」
シフトチェンジはボールを打ち返す。
内野ゴロだったが、それで構わない。
各ベースを守る守備達と順繰りにシフトチェンジして行けば、再びホームベースに帰ってくるのに5秒とかからない。
シフトチェンジはまず一塁手と入れ替わる。
だが、
「何っ!?」
シフトチェンジは一塁に立っていなかった。
一塁からホームベースへの直線上を駆けていたのだ。
(シフトチェンジの瞬間にベースから移動したのか……?)
更にシフトチェンジは驚愕した。
何と強制転移させられた一塁手が新たな座標に即座に対応、内野ゴロを拾って一塁に向かって投げたのだ。
(馬鹿な……一塁手は自分だぞ!?一塁は無人………!!?)
シフトチェンジは見た。
先ほどまで外野にいた筈の選手が一塁を踏んでいるのを。
その選手は飛んできたボールを難なくキャッチし、審判の、アウト、の声が辺りに響いた。
「……超能力は確かに便利だ」
シフトチェンジに向かって部長が言う。
「だがな、便利だからこそそいつに頼りきりになっちまう。そして能力を使えば使う程、能力の条件やタネがわかっていき……同時に弱点も見えてくる」
「まさか……試合中に、対シフトチェンジ用の行動パターンを考案したというのか?」
「正確にはお前達の他校との試合も含めてな。そういう訳だから、もう俺達にシフトチェンジは通用しないぜ?」
そう言って、部長はにやりと得意気に笑って見せた。



××××××××××××
「俺に勝つだと?寝言は寝て言いな、無能力者!」
余裕の表情で告げるイコールスピード。
だが佐天はそれを意にも介さず、バットを握るとイコールスピードに向かって真っ直ぐに突進して行った。
「馬鹿が!言っただろうが!そいつは銃弾の前に自分から飛び込むのと同じだってなぁ!」
イコールスピードは即座に複数の鉄球を目の前に放った。
「はっ!」
しかし佐天は軽く笑うと、左手にバットを持ちかえ、右手を振る。
するとその中からイコールスピードの鉄球が飛び出した。
先程座りこんだ時に、地面に落ちていたのを握っていたのだ。
女子の腕力と言えど、佐天の投げた鉄球は当然のようにイコールスピードの鉄球の速度を追い抜いた。
投げた6つの球の内、2つはイコールスピードの球に阻まれたが、残りの4つはイコールスピードに誤たず命中した。
「痛ってぇ!!」
瞳や鼻先に鉄球を受け、目を瞑りよろめくイコールスピード。
その瞬間、鉄球は等速運動を止めた。
「やっぱりそうだ……」


佐天涙子はまともに能力を使ったことがない。
レベルアッパーの時も他人の脳と技術を使っていただけであり、自分で演算をしたことはないのだ。
だから佐天は思い違いをしていた。
イコールスピードが能力を解除するまでと言ったのを、電灯のスイッチをオフにするのと同義だと考えていたのだ。
だが――

物体は本来地球上で等速運動をしない。
重力、空気抵抗、その他諸々の力の影響を受け、加速度的に変位する。
鉄球を等速度に、いかな力積を受けようと常に等速度に保つというのなら、その為には鉄球に『干渉し続ける』必要があるのだ。
スイッチのオンオフではない。
導線を伝う電子そのものを操るようなものなのだ。

変化球が超能力なら、不変化球もまた超能力。
つまりイコールスピードの能力は『等速度で物体を運動させられる』のではなく、『等速度でしか物体を操ることができない』という、限定条件が付いた低レベルな念動力でしかないのだ。


だからこうして鉄球を操っている本体を叩けば、
(――全て崩れるっ!)
佐天は走りながらバットを両手で握り直し、振りかぶった。
能力の縛りを失った鉄球が身体に当たるが、そんなものは痛くも痒くもない。
「ちっ……」
イコールスピードが新たな鉄球を求めてポケットに手を突っ込むが、その頃にはもう佐天は最後の踏み込みを終えていた。
「おォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
「このっ、クッソガキが…」
「ホーーッムランだっっっっっ!!!!こんニャロォォォォ!!!!」


ガァンッ!!!!


と小気味の良い音を響かせて、佐天のバットがイコールスピードの側頭部を打ち抜いた。



××××××××××××
衝撃に気を失ったのだろう、イコールスピードは頭から壁に突っ込むように倒れこんだ。
「はぁ……はぁ…」

――勝った。

レベル0の自分が、能力者に勝ったのだ。
それは他人から見ればちっぽけなことかもしれない。
能力者と言えど、佐天が倒したのは学園都市において最強を謳うレベル5という訳ではない。
そこら辺にいるただのチンピラ、物語に登場するなら雑魚の端役程度の存在だ。
それでも――

佐天涙子は心がすっとするような感覚を覚えた。
胸につっかえて剥がれなかった何かをようやく振り切れたと、そう感じたのだ。


佐天はバットを捨て置くと気絶しているイコールスピードを無視し、初春の方へと足を引きずって歩いていく。
「佐天さん!佐天さん!」
初春は子供のようにただ何度も佐天の名前を叫ぶ。
佐天は倒れるように初春の隣に腰を落とすと、呟くように言う。
「ゴメンね、初春……」
「何で佐天さんが謝るんですか」
「だって初春に嫌な思いさせちゃった」
「佐天さんのせいじゃありませんよ」
「でも守ってあげられなかった」
「そんなことありません!」
初春は力強く言う。
「そんなことありませんよ。佐天さんは私を助けてくれたじゃないですか。佐天さんは――私にとってのヒーローですよ」
「…………そう。なら、良かったな」
「はい、良かったです」
涙まじりに呟いて、初春は傷だらけの佐天の身体を抱き締めた。


「さて、仲睦まじく友情を育んでいるところに水を注すようなことはしたくねぇんだが……」
路地の奥、倒れているイコールスピードの向こうから声が聞こえた。
「いいや、少し違うな」
突然闇の中に炎が灯る。
「火をくべるような、か?」
そこには先程逃げて行った筈の、丘原達三人の姿があった。
「あの常磐台のレールガンのお友達なんだ。何か強力な能力を隠し持っているかもしれねぇ。こいつらが返り討ちにあったところに戻ってきて、隙をついてこいつらの取り分も貰っていこう……そう思っていたんだがな。半分当たりで半分外れってところか。まさかこいつら、無能力者にやられるとはな。だが流石にもう立ち上がる気力もないだろう。痛い思いをしたくないなら、俺達のことは見逃すのが賢明だと思うぜ?」
言いながらイコールスピード達の持っていたバッグに手をかける丘原。
「あばよ。感謝するぜ、お嬢さん達」
「………逃がさないよ」
「あァ?ほざくなよ。今のお前が俺に勝てるとでも思ってんのか?」
再び火を灯す丘原。
「文字通り灸でも据えてやろうか!」
叫び火の玉を投擲するように腕を振り上げる丘原だったが
「『私』じゃないよ……」
佐天の言葉の後に、

ゴバッ!

と突風が襲った。

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