とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

とある睦月の人日宴席

最終更新:

index-ss

- view
だれでも歓迎! 編集


   とある睦月の人日宴席


 ワイワイ、ガヤガヤ————。

「ん、醤油とって」
「あ、はいどうぞ」
「あ、わりぃサンキュー」

 カチャカチャ、ゴトゴトン————。

「お料理の追加ですけどー」
「ほら、ちょっとそこのお皿をどけなさいよ、置けなくて困ってるじゃないの」
「なっ、それ俺が今から食べようとしたやつだぞ! ああっ! 言ってる間に取られちまったじゃねーか!」

 ゴトン。カパッ。グツグツグツグツグツグツ————。

「今度はなーにー?」
「もしかして鍋?」
「え? こっちの鍋まだ終わってないわよ? あら? この匂いはお米?」
「はい。今度は七草粥にしてみました」
「へー七草粥ねー」
「でも、半分くらいは間に合わせなんですけどねー」

 バタバタ、ドタンバタン————————パシンパシン!

「「いってぇ!?」」
「暴れるな。せっかくの料理がまずくなるでしょうが」
「うう……」「だからっていきなりひっぱたくってのは——」
「うん? なんか言った?」
「なんでもないです、はい……」

 学園都市の中にある安アパートの一室。
 かつては酒と煙草を愛する見た目○学生の教師である小萌先生の食生活により雑然としていた部屋だが、今
は綺麗に片付けられ、大勢の人数が集まっている。
 この人数相手では普段使っているテーブルでは狭いために、何処に仕舞ってあったのかもう一つのテーブル
を引っ張り出してきたほどだ。
 そして、そのテーブルの上にはたくさんの料理が並んでおり、それを囲んでさながら宴会のようになっている。
「あっはっはー、カミやん怒られてやんのー」
「うっせぇ! だいたい元はといえば俺が取っておいたカマボコをお前が取ったからじゃねぇか!」
「ダメだぜいカミやん。この食卓の上では弱肉強食、まさに(目当ての料理は)食うか喰われるかなんだぜい」
「なんか語尾がおかしくなかった今!? っていうか、なんでお前までさらっとここに混じってるんだよ?」
「いやー、それが聞くも涙語るも涙でなー、実は舞夏のところの学校が『他の人が休みのときこそメイドは働
くものなのです』とかいう理由で強化メニューやらされる感じになってなー。食事を作ってくれる人がいない
から久しぶりの手料理が食えるとあっちゃ来ないわけにはいかないだろ? そういうカミやんこそどうして来
たんだにゃー?」
「いや、俺は昼飯を作るのもなんだったからファミレスに食べに行ったらちょうど食材を買いに出てた五和と
ばったり会ってさ、両手に重そうな荷物を持ってたから運ぶの手伝ったらついでに食べていけって言われたか
らなんだけど……って、なんだその目は!? 俺が何かしたのか?」
「いやー、カミやんはいつでもカミやんなんだなーって思っただけだぜい」
「五和ってあそこでかいがいしく給仕をやってる娘のことかにゃー? というよりむしろ問題にすべきはいつ
の間に名前を知るようになったってことかにゃー? まったくカミやんは油断も隙もないときたもんだ」
 そう言いながら青髪ピアスの目を向ける先には、周りに対してあれこれと世話を焼く五和の姿があった。
 さらにその先、狭い流しとコンロの前では姫神秋沙がテーブルを囲む大人数のために足りなくなってきた料
理の追加を作っているのだが、残念なことにあまり注目はされていないようである。
「それにしても、こんだけの人数がよく集まったもんだよな。というか、そもそもよくこの部屋に入ったもん
だよな」
 上条が見渡す部屋の中、テーブルの上に所狭しと並べられた料理をつまんでいるのは負けず劣らず狭い部屋
にずらりと並んだ見知った顔の数々である。

 上条の座る席の隣にはクラスメイトにして三馬鹿トリオの綽名を付けられている土御門と青髪ピアスが陣取
り、続いて中央の鍋の様子をちらちらと気にしている吹寄制理の姿があり、さらに料理が一段楽したのか席に
戻ってきた姫神の隣にインデックスが明らかに他のメンバーとは一線を画する数の皿を重ねながらなおも着々
と記録を伸ばし続け、その横には何故か常盤台中学のエースである御坂美琴とその後輩の白井黒子がこうやっ
てわいわいと騒ぎながら食事をするのには慣れていないのか緊張した面持ちで座り、この部屋の主である小萌
先生の横でお酌をする五和と何故か黄泉川愛穂が負けじとグラスを空けていた。
 (なんつーか、カオスだなー。でもまあインデックスも喜んでるみたいだし、食事も作らないですんだし、
よかったのかなー?)
 そんなことを考えている上条だが、そもそもの話は数時間前に遡る————。

 一月七日。正月三ヶ日も終わり、冬休みもいよいよ今日で終わるというとき、世間一般では新学期に向けて
の準備や仕事始めませで気持ちを切り替えだす人が多い中、上条当麻の住んでいる部屋は朝から修羅場に突入
していた。
「お、終わらねえええぇぇぇぇ!!」
 休み中、遊びにかまけて宿題にまったく手を付けていなかった世の多くの学生と同じような台詞を吐きなが
ら、上条は必死になって机に向かっていた。
 隣ではインデックスがごろごろと寝転がりながらテレビを見ているが、かまっていられる状況ではないと一
心不乱に手を動かし続けている。
「もー、とうまってばお休みが終わるときになると毎回同じことを言ってるよね。どうしてそんなに学習能力
がないのかな?」
 世の多くの母親が口にする言葉を耳にしながらまったくその通りなので言い返せない上条だった。
(あれ? なんかこれって前にも似たようなことがなかったっけ?)
 と思わないでもないが、深く考え出すと何やらまたトラブルのフラグが立ちそうなのですぐさまスルースルー。
 相手にされないインデックスもしばらくは大人しくテレビを見ていたが、やがてお昼時になると「おなかへ
った」と連呼しだしたので上条も一旦休憩を取るために食事をすることにしたのだ。
 今から料理を作っていたのでは時間のロスになると踏んだ上条はインデックスを伴って近くのファミレスに
向かったが、その途中で買い物帰りの五和と会い、荷物持ちを買って出たところ今に至る。
 インデックスが「あれ?天草式の魔術師?」なんて言った時は、やっぱりトラブルに巻き込まれるのか!?
などと身構えてしまったが、その心配は杞憂に終わってくれたようだ。
 まあもっとも、五和と一緒に小萌先生の自宅に帰る途中で何故か姫神と一緒に買い物帰りの吹寄と出会って
人数が増え、さらに御坂と白井と顔を会わせるとそのまま付いてこられ、ぞろぞろとした集団で歩いていると
ころを土御門と青髪ピアスに見つかって突撃され、『こんなに大勢だと食材が足りなくなるんじゃないか?」
とのことで結局もう一度スーパーに買い物に行かされたのを気にしなければの話だが。


 そんなこんなで和気藹々と食事を続けている一団に向かって小萌先生が言う。
「ところで皆さん、明日から新学期が始まりますけども、ちゃんと宿題はやってくれましたかー?」
 にこやかな笑顔と共に生徒達に問いかける教師の図、である。
 手に持っているビールの入ったグラスを口に運びながら出なければだが。
 というか、すでに彼女の後ろに山となっている空き缶が怖い。
「大丈夫です。ちゃんと去年のうちに終わらせておきましたから」
 菜箸で鍋物の管理をしながら答える吹寄。その隣でこくこくと頷いている姫神。
「宿題? あー、なんか前にも同じようなこと聞かれた気がするけど、ウチはそういうのはないから」
「へー、常盤台の学校はそうらしい、って聞いてたけど、改めて聞くとすごいじゃん」
「でもでも、各学校によって教育方針は違うものですし、一概にどちらがすごいとかは言えないと思うのです
よー」
「小萌先生は宿題忘れた生徒を叱ってあげるのが楽しいんでしょ? ウチのクラスの奴等はそんな真似をする
ような面白味がある生徒はいないじゃんよー」
「そんなことないですよ! 生徒さんを叱るのは大変なのですよ!」
「またまたー、ホントは嬉しいくせにー」
 御坂の返事から何故か教師二人の教育談義へと発展している。
 正確には、黄泉川が小萌をからかう形になっているが。
 何気にこの黄泉川さん、からみ酒の気があるようである。
と、そんな教師達へ
「あー、俺まだ宿題やって——」
「うるさい黙るんだぜいカミやん」
「そうそう。小萌先生に叱られるのは新学期になってからなんだぞ?」
 上条が何か言いかけたが隣にいる悪友達によってにこやかに瞬殺される。
 口を押さえられた上条が息をしようと身をよじり、させじと土御門たちが身を乗り出して騒ぎが大きくなっ
ていく。
『ガチャン!』
 そうこうしているうちにテーブルの上のクラスが倒れ、お茶が零れていく。
「あーあーあーあー」
「ちょっ、ティッシュティッシュ」
「あ、あの、これどうぞ!」
 周囲が慌てる中、機敏に反応した五和の差し出したおしぼりはしかし、受け取ろうとした上条の手ではなく
横から手を伸ばした吹寄によって使われる。
「ありがとね、助かったわ」
「い、いえいえ……」
 ねぎらう吹寄に対し微妙な表情の五和。
(うう……、この部屋に入ったときに差し出したおしぼりはピアスの人に使われちゃうし、カニの甲羅を剥く
ときに渡そうとしたら小萌先生の同僚の人に持っていかれちゃうし、上条さんに渡せないです………。でもで
も、今年の五和は違います! こんなこともあろうかとまだまだおしぼりは用意してありますからここはじっ
とチャンスを窺います!)
 みれば、彼女の後ろにあるお盆の上には彼女の決意を表すかのようにおしぼりが山のようにつんであった。
 もっとも、それを上条に手渡そうとしては失敗し続けているわけであるが。

 さてさて、五和が無事上条におしぼりを手渡すことが出来るのかどうかは、まあ、前途多難なようである。



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー