PM9:37
上条と別れてから美琴は監視カメラ寮監の目をうまく逃れ、なんとか自室の前までたどり着
いていた。彼女は以前とある事情で深夜に寮を抜け出さなければならない案件があったので
そういった技術が自然に身についていた。前から何かとそういった技術には精通していたの
もあるが、決してやましいことが目的で覚えたわけではない。
いていた。彼女は以前とある事情で深夜に寮を抜け出さなければならない案件があったので
そういった技術が自然に身についていた。前から何かとそういった技術には精通していたの
もあるが、決してやましいことが目的で覚えたわけではない。
(寮監に見つかったら何言われるか分かったもんじゃないからね。皮肉なものだけどこうい
うときは本当に助かるわ。……やったことないけどホワイトハウスでも進入できちゃうんじ
ゃないかしら?)
うときは本当に助かるわ。……やったことないけどホワイトハウスでも進入できちゃうんじ
ゃないかしら?)
常盤台中学のセキュリティは学園都市でも上の部類で、外のその種のプロでも侵入は困難だ
と言われている。だから技術レベルが二、三十年離れている外のセキュリティなど彼女にと
ってはおもちゃのようなものだ。
と言われている。だから技術レベルが二、三十年離れている外のセキュリティなど彼女にと
ってはおもちゃのようなものだ。
(まあ、だからといってそんなくだらないことするつもりないけど。うーん、しっかしなん
だか疲れたなぁ…。今日はシャワーだけ浴びて寝ようかな。)
だか疲れたなぁ…。今日はシャワーだけ浴びて寝ようかな。)
そんなことを考えながら美琴はドアノブを掴む。だが彼女は油断していた。ある意味寮監よ
りも厄介なラスボスが残っていたことを…ドアを開けた瞬間、ソレが待ち構えていた。
りも厄介なラスボスが残っていたことを…ドアを開けた瞬間、ソレが待ち構えていた。
「ただい――」
「お、姉ぇ様ぁぁああああ!!」
ルームメイトの白井黒子が美琴めがけて飛び込んできた。人間というより野獣に近い彼女の
姿に美琴は一瞬硬直する。はっと正気を取り戻し、変態少女の攻撃をかわす。ついでとばか
りに彼女のわき腹に膝蹴りのカウンターを入れる。
姿に美琴は一瞬硬直する。はっと正気を取り戻し、変態少女の攻撃をかわす。ついでとばか
りに彼女のわき腹に膝蹴りのカウンターを入れる。
「ぐべぇ!?おォォ…ねぇ…さ……ま………なぜ…………?ガク」
「ちょっと生命の危機を感じ取ってね。ったく、いまので寮監がきたらどうすんのよ」
床でノックアウトした変態(白井)を避けて部屋の中に入る。美琴としては早くシャワーを
浴びて今日の疲れを落として眠りたかった。白井が気絶している間に美琴はベットの下の衣
装ケースを取り出してパジャマと替えの下着を取り出し風呂場へ――
浴びて今日の疲れを落として眠りたかった。白井が気絶している間に美琴はベットの下の衣
装ケースを取り出してパジャマと替えの下着を取り出し風呂場へ――
「って黒子を軽くスルーしないでくださいまし!?」
「なんだもう起きちゃったの。気絶してる間にお風呂済ませようと思ったのに」
「最近お姉さまの私に対する扱いがだんだん酷くなってませんこと!?」
「アンタかこんな変態的な行動とかしなけりゃこんな事しないわよ!」
「んまっ!私はただお姉さまとの親睦を深めるために行っている努力をそんな不埒な表現で
置き換えるなんて聞き捨てならないですの!」
置き換えるなんて聞き捨てならないですの!」
「風呂場に突撃とか夜這い仕掛けるとかこれらのどこが親睦を深める行動なのよ!十分不埒
な行動でしょうが!」
な行動でしょうが!」
美琴はいつも通り軽めの電撃をかまそうと思ったがここが寮内ということを思い出す。以前
にここで白井と能力を使って大喧嘩しかけたことがある。しかし寮監に見つかってその後日
プール掃除を申し付けられてしまった。それ以来、寮内では極力能力は使わないようにしよ
うと心に決めたのだ。何とか気を静めてから白井のわき腹に正拳突きをかます。無論さっき
と同じところだ。
にここで白井と能力を使って大喧嘩しかけたことがある。しかし寮監に見つかってその後日
プール掃除を申し付けられてしまった。それ以来、寮内では極力能力は使わないようにしよ
うと心に決めたのだ。何とか気を静めてから白井のわき腹に正拳突きをかます。無論さっき
と同じところだ。
「ぐふぅ!?ぜっぜんぜん静まってませんの……」
止めを刺そうかどうか思案していると、よろよろとしながらもなんとかわき腹を押さえなが
ら必死で立つ白井を見て、少しばかり心に隙ができてしまった。
ら必死で立つ白井を見て、少しばかり心に隙ができてしまった。
「お…お姉さまはこんな遅くまでどちらに?明日は休日でもないのに夜遊びは関心しません
わよ……」
わよ……」
「べつにいいじゃないなんだって。子供じゃないんだから大丈夫よ。今日はちょっと不良に
付きまとわれただけ――」
付きまとわれただけ――」
「とか言って実はあの殿方と一緒だったんじゃありませんの?」
「なっ…!?」
「表情を見れば大体分かりますわよ。不良に絡まれていたにしては妙に機嫌がいいようです
し。お姉さま、ご自分では気づいていらっしゃらないのかも知れませんが顔がにやけていま
すわよ?」
し。お姉さま、ご自分では気づいていらっしゃらないのかも知れませんが顔がにやけていま
すわよ?」
「え、うそ!?」
あわてて鏡で自分の顔を確認する。そんなにも顔に出てしまっていたのか、実は今までも隠
し通してきたつもりだったことも実はバレバレだったのではないかと不安になった。そして
完全に白井にペースを持っていかれてしまっていることに美琴は気づかない。鉄壁ガードし
ていたつもりの心の鍵は、開けて見れば実はスプーン一本あれば簡単に開けられてしまうよ
うなしょぼい鍵だったみたいな感じで、外部からの進入をあっさりと許してしまっている。
美琴にもはや余裕などない。そんな彼女を見て白井は少し鎌を掛けてみることにした。
し通してきたつもりだったことも実はバレバレだったのではないかと不安になった。そして
完全に白井にペースを持っていかれてしまっていることに美琴は気づかない。鉄壁ガードし
ていたつもりの心の鍵は、開けて見れば実はスプーン一本あれば簡単に開けられてしまうよ
うなしょぼい鍵だったみたいな感じで、外部からの進入をあっさりと許してしまっている。
美琴にもはや余裕などない。そんな彼女を見て白井は少し鎌を掛けてみることにした。
「って適当に言ってみただけなのになんなんですのその反応は!?まさか黒子が知らないと
ころではもうすでにただならぬ関係に進展してるのでは――――」
ころではもうすでにただならぬ関係に進展してるのでは――――」
「そ、そんなわけないでしょうが!誰があのボンクラなんかと……!ただ学校帰りに偶然会
って晩御飯奢ってもらっ……はっ!」
って晩御飯奢ってもらっ……はっ!」
白井の罠に綺麗にはまってしまっていることにようやく気づいたときにはもうすでに遅かっ
た。上条と一緒だったことどころか、一緒に外食していたという言わなくてもいいような事
までもを自分から認めてしまった。もうちょっと頭が冷えていたら冷静に対処できたかもし
れないがもはや誤魔化すことは難儀だ。
た。上条と一緒だったことどころか、一緒に外食していたという言わなくてもいいような事
までもを自分から認めてしまった。もうちょっと頭が冷えていたら冷静に対処できたかもし
れないがもはや誤魔化すことは難儀だ。
「お、お姉さまと二人っきりでディナーを堪能!?そんなうらやま・・・ゴホン、それでその
後あんなことやそんなこと・・・ふっあの若造がぁぁぁあああああ!!」
後あんなことやそんなこと・・・ふっあの若造がぁぁぁあああああ!!」
白井の中での妄…想像ではとても少年少女達には見せられない描写が繰り広げられているら
しい。もっとも、それらはすべて誤解なのだが。
しい。もっとも、それらはすべて誤解なのだが。
「い、いや、でもホントにただゴハン食べただけだし、あんたがなに思ってるかは知らない
けど多分アンタが思っているような事はなにもなかったってばっ。ていうかアンタだって毎
朝一緒に朝ご飯たべてるでしょうが!」
けど多分アンタが思っているような事はなにもなかったってばっ。ていうかアンタだって毎
朝一緒に朝ご飯たべてるでしょうが!」
「いいえ、私にはお姉さまがまだなにか隠している気がしてなりませんの!あと、お姉さま
と二人っきりでお食事するのは私だけの特権なんですのよ!」
と二人っきりでお食事するのは私だけの特権なんですのよ!」
何が特権よと美琴は思ったが、そんなことを言及するほどの余裕は今の美琴にはなかった。
下手に不用意な発言をすると白井のペースにのせられて何もかも喋らされてしまいそうな気
がしたからだ。アイツの言う"不幸"とはまさにこんな修羅場をさすんだろうなと、どうでも
いいことを考えた。少しあの少年の気持ちが分かった気がする。そして同時に、こういう時
アイツだったらどうやってこの危機を抜け出すのだろうか、ふとそんなことを考えてみた。
そして―――。
下手に不用意な発言をすると白井のペースにのせられて何もかも喋らされてしまいそうな気
がしたからだ。アイツの言う"不幸"とはまさにこんな修羅場をさすんだろうなと、どうでも
いいことを考えた。少しあの少年の気持ちが分かった気がする。そして同時に、こういう時
アイツだったらどうやってこの危機を抜け出すのだろうか、ふとそんなことを考えてみた。
そして―――。
「大体お姉さまはこの黒子というものがありながら他の殿方とむぐ!?」
最も有効かつ、最善手が見つかった。少しばかり抵抗はあったが。
「お、おおおおねえしゃま……?」
美琴はそっと白井の肩をとり、自分の胸に抱き寄せて頭をなでた。普段だったらあり得ない
行動だと自分でも思う。だけどもし"アイツ"が私だったら同じ事をすると思った。さすがに
抱き寄せるまではしないとおもうが(そうであると信じたい)、アイツは無自覚でこういっ
た行動を取るからああいったことに成りがちだが、もし"分かっている人間"がそれを行った
らどうなるか?使い手にもよるだろうが、それは強力な破壊兵器と化す。
行動だと自分でも思う。だけどもし"アイツ"が私だったら同じ事をすると思った。さすがに
抱き寄せるまではしないとおもうが(そうであると信じたい)、アイツは無自覚でこういっ
た行動を取るからああいったことに成りがちだが、もし"分かっている人間"がそれを行った
らどうなるか?使い手にもよるだろうが、それは強力な破壊兵器と化す。
「ごめんね黒子。でもね、本当にそんなことなかったのよ?私、いつもの黒子ならそれくら
い簡単に分かると思ったんだけどな…?」
い簡単に分かると思ったんだけどな…?」
「ひゃ、ひゃい…?」
「…あ、そっか。わかった、黒子ひょっとして寂しかったのかな?最近忙しくてろくに時間
も取れなかったしね」
も取れなかったしね」
「…!!い、いえ、黒子はそんな……」
そうだ。と、美琴は人差し指を真っ直ぐ立てる。
「明日、午前中だけだったわよね?よかったらちょっと遊ばない?」
捉えようによってはとんでもない会話に聞こえるが、美琴自身もそこに関しては全く気づい
ていない。こういう面では彼とこの少女は似た物同士だと言えよう。これに関しても、当人
達は全くそれに気づいていない。
ていない。こういう面では彼とこの少女は似た物同士だと言えよう。これに関しても、当人
達は全くそれに気づいていない。
「ひゃ……ひゃい……」
「よし、決まり!じゃあ私はとりあえずシャワー浴びてくるから」
美琴は白井を離し、脱衣所に入っていった。入る直後に振り向いたときにはまだ白井はその
場に立ち尽くしているのが見えた。何とか誤魔化せた事に、安堵の息を吐く。問題はこの後
どうやってあの状態白井を処理するかが問題なのだが、いまは一刻も早くシャワーを浴びて
疲れを落としたかった。ちゃっちゃと服を脱ぎ、バスルームに入っていった。なお、この直
後に白井はベッドの上に倒れこんで眠るように気絶していたという事実を美琴は知る由もな
かった。
場に立ち尽くしているのが見えた。何とか誤魔化せた事に、安堵の息を吐く。問題はこの後
どうやってあの状態白井を処理するかが問題なのだが、いまは一刻も早くシャワーを浴びて
疲れを落としたかった。ちゃっちゃと服を脱ぎ、バスルームに入っていった。なお、この直
後に白井はベッドの上に倒れこんで眠るように気絶していたという事実を美琴は知る由もな
かった。
PM9:37-46 終了