とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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匿名ユーザー

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序章 [開幕]

<2:17 AM>

深夜の夜道には人っ子一人いなかった。両サイドには学生寮と車道があるというのに不自然なほど人の気配がない。
そんな夜道を一人の少年が歩いていた。少年は右手で現代的なデザインの杖をついている。コンビニの帰りなのか、左手で缶コーヒーの入ったビニール袋をぶら下げていた。
彼は白く、白く、白い印象を持つ、赤い目をした少年で、
学園都市最強の超能力者のイメージを見るものに叩きつけるような風貌だった。
少年、『一方通行(アクセラレータ)』は夜の道をただ歩き続ける。
ただ前だけを見つめて、決して後ろを向かずに歩き続ける。


ふと思う。自分と別れた少女は今なにをしているのだろうか、と。
彼が守るために距離を置いた少女は元気にしているだろうか?
一方通行と呼ばれる少年はぼんやりと思考する


そんな彼の携帯のバイブが震え始めた。一瞬、自分の両腕が塞がっていることに気付き、彼は近くにあったベンチへと腰掛け、ビニール袋を置いてから携帯を開いた。
非通知―――
チッ、と舌打ちしてから彼は通話のスイッチを押した。
『こんばんは、一方通行。早速ですが頼みたいお話があります』
妙に礼儀正しい男の声が聞こえた。この男は一方通行の所属する学園都市の裏組織<グループ>の上司。
<グループ>に指令を出し、行動しやすくなるように調節する男だった。
しかし、一方通行にとって…いや、<グループ> にとっては組織はただの組織であり仲間という認識はない。
それどころか<グループ>の中でさえ仲間ではなく、仕事の同僚で『死んでもかまわない』とさえ思っている。
互いが互いを利用する組織。そんな関係の人間がなぜ一方通行に電話をかけてくるのか?仕事が入ったならリーダーの土御門にでも知らせればいいのだ。
つまりこの電話は仕事とは関係なく一方通行、一人だけに対するお願いということ。そんなことを聞いてやる必要性を一方通行は感じなかった。
「俺ァ、断る」
それだけ言って電話を切ろうとする一方通行に男は食い下がる。
『まあ、待ってください。話くらい聞いても損はないでしょう?』
「あァ?なンで俺がオマエの話を聞いてやらなくちゃなンないんですかァ?」
切るぞ、と言って携帯の通話を切ろうとする。
その時、聞こえた


『妹達(シスターズ)が大変なことになっているのですが……残念です』


一方通行の通話をきる指の動きが止まった。
「そりゃどおォいうこった?」
『聞く気になりましたか?』
いちいち相手をバカにするような口調で話すのが勘にさわる。
「あァ…嫌ってほど聞く気になったからさっさと教えやがれェ」
『そう急かさなくてもお教えしますよ』
そう言って男は一拍置いて、
『学園都市の研究機関の一つが魔術師を名乗る団体の手に落ちました』
と話した。
それに対し一方通行は思わずハァ?と呟く。
「それが妹達とどォいう関係がある?」
だから、最後まで聞いてくださいと言ったでしょう?と男は話し、続ける。
『正確には、魔術側に「落ちた」というより「落とした」です』
面倒な言い回しに腹がたったがその言葉の意味を読み取り一方通行は大きくため息を吐いた。
「…………研究機関が魔術側と手を組んだかァ?」
『ご名答。さすがは学園都市最強の超能力者(LEVEL.5)といったところですね』
男は人をバカにするようにフフッと笑う。
「そンなとってつけたような世辞はいらねェンだよ。さっさと妹達について教えろって言ってンだろォが!!」
『そう騒がないでください。きちんとお教えする、とさっきから言っているでしょう?』
クソッ…と呟き、一方通行は拳を握りしめる。もしこの男が目の前いたら殺してやりたい。
『その研究機関と手を組んだのはローマ正教です。この意味をあなたなら簡単に理解できるでしょう?』
ローマ正教とは世界最大の魔術結社、という学園都市と違った独自の超能力開発をしているところだと一方通行は聞いていた。
全人口を二十億人。その全てが超能力を使えるわけではないがもし完全に敵に回ったとすると一斉に世界の二十億人との対立となる。
その対立は世界戦争の引き金となるには充分だろう。その戦争を恐れて、互いに干渉しないように距離をとっていたのに向こうから仕掛けてきたということは……
「やつらは戦争をおっ始めるつもりかァ?」
『おそらく、そのつもりでしょう。』
男は一方通行の意見を肯定する。
この二人は知らない。ローマ正教の狙いはとある少年の『右腕』だということを。そして、その少年のためだけに学園都市を潰そうとしているのを。
魔術と超能力は根本的な部分で違うということを。
一方通行は数秒思案して、口を動かす。
「………つまり、今の状況はかなりマズイってェことだよな?」
『お話が早くて助かります。』
一方通行の予想通り今の状況は極めてマズイ。研究機関が魔術側に〔落とされた〕ならまだいいのだ。その時はまた魔術師を片付ければいいのだから。
しかし、状況は研究機関が魔術側に〔落とした〕だ。つまり、研究機関が魔術師を〔招き入れた〕のである。
ローマ正教が編み出した超能力の仕組みは学園都市と違うらしい、と聞いていた。
魔術師が科学の仕組みを理解してはならない。同時に科学が魔術師の仕組みを理解してはならない。
これが互いのルールらしい。このルールは研究機関と魔術師が手を組んだことで破られる。
そして、落ち合う場所は学園都市だ。ローマ正教は〔学園都市がルールを破った〕という【攻撃する理由】が欲しいのだ。
研究機関が勝手にやったことだから学園都市は悪くない、と言っても「では、なぜ学園都市の中で落ち合っているのだ?」と言われればそこで最後。
戦争が始まってしまう。
『やつらは火種が欲しいのです。世界が認める、正当な理由を持つ火種をね』
クソッタレがァと一方通行は毒づく。
「つまりィ、オマエは俺に研究機関と魔術師を片付けろ、と言いたいんだよなァ?」
事は急を要する。ローマ正教の上層部が出張ってくる前にこのような案件を一番早く解決できるのは一方通行が適役だろう。
学園都市の第一位。最終兵器とも呼べる彼の能力は熱量・電気量・運動量などに関わらず、すべてのベクトルを肌に触れただけで変換することができる。
その能力は人を傷つけることしかできない。守ろうとする人まで傷つけてしまう。
そんな能力で表の世界の住民を、表の世界の一人の少女を守るために一方通行は裏の世界へと足を踏み入れた。
しかし、男の返事は一方通行の予想とは外れていた。
『報告したいのはそこではありません。』
「ハァ?他に何があるってンだァ?」
『それはですね…』
その言葉の続きは一方通行に届かなかった。
なぜなら、


バァァァァン!!と
突然一方通行の座るベンチが爆破されたからだ。


学生寮の影から数十人の黒ずくめの武装集団が現れた。
タタタッ…と最小限の音しか出さない走り方からかなりの訓練を受けていることが伺われる。
もくもく、と煙の上がる爆心地を取り囲むように黒ずくめ達は行動した。
サブマシンガンを持ち、爆心地の中を見つめる。
そんな時間が十秒ほど経つと黒ずくめの一人が無線で通信を取り始めた。
「対象『一方通行(アクセラレータ)』は沈黙。おそらく、直撃したものかと」
了解、と短く無線機から返事が返る。
その後の手順を行うため無線をした男が他の者に合図を送った。
合図に従い、三人が一方通行の死体を回収するため爆心地に近づく。
瞬間――――
「ギャアアアアアアアアッ!?」
と爆心地から声が上がった。
「!?」
黒ずくめ達はすぐに警戒体制に入る。
瞳の中に映るものは
もくもくと上がる、煙
ぼうぼうと燃え上がる、炎
大破した、床
そして…


宙を飛んでいく仲間の姿だった。


仲間が着地する場面を黒ずくめ達は見ていなかった。見ていられなかった。
本能でわかる、ここで爆心地から目を離すと死ぬ。
「あァ~あ。こんなに公共物壊しちゃって……どォするンですかァ?」
少年は笑う。愉快に楽しそうに口を歪める。
爆心地の中に
爆心地の中心に
炎が燃え上がる中心に少年、一方通行は何事もなかったかのように立っていた。
すでに首のチョーカーのスイッチは入っている。すでに学園都市最強の超能力者は降臨している。すでに彼は絶対無二の能力を使っている。
「逃げろ…」
黒ずくめの誰かが言った。無意識のうちに言っていた。
勝てるはずがない。こちらの武器は学園都市特製の最先端兵器〔程度〕しかないのだ。
そんなものでこの化け物に勝てるはずがない。
最初の奇襲が失敗したら逃げろと言われていた。
けれど、動けない。この化け物に後ろを見せてはならない。
「さァて……楽しい愉しい虐殺(ころしあい)の始まりだァ」


学生寮に悲鳴と絶叫が轟く。

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