とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

一章

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匿名ユーザー

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「…ふむ…」
ゴポ、という音とともに声がある空間に響く。
「…予想以上に早いな。そこまで垣根帝督が愛しいか…」
とある『人間』が言葉を放つ。
それは男にも女にも見え、子供にも老人にも見え、聖人にも囚人にも見えた。
アレイスター=クロウリー。
学園都市総括理事長。加え、世界最高の魔術師。その『人間』は、緑色の手術衣を着、弱アルカリ性培養液で満たされたビーカーの中に、逆さに浮いていた。
『この状況…どうするつもりだ?』
突然、その『人間』の脳に直接響くように声が聞こえた。
アレイスターが『存在』している建物には、玄関はおろか、窓さえ存在しない。そのため、ここに来るには『空間系能力者』が必要とされる。
この建物の『案内人』を勤める結標淡希が能力を使った形跡は無い。
だが、アレイスターはうろたえることなく『答える』。
『ああ。だからお前にある頼みごとをしたい。エイワス…いや、やはりドラゴンの方が良いか?』
ドラゴン。
それはこの学園都市の統括理事会クラスの人間しか知らない言葉。
もちろん、『ドラゴン』などという単語なら、ほとんどの人間が知っているだろう。
だが、ここにおける『ドラゴン』という単語の意味を知る者は、ほんの一握りしか存在しない。存在してはいけない。
その、『ドラゴン』が『言う』。
『頼みごと…まさか、私に戦線に出ろと?』
『まさか。そんなことをしたらこの『計画(プラン)』が大幅に揺らぐ』
『では?』
『まぁ、『彼ら』に力を与えてほしいのだよ。フィアンマを撃破したとはいえ、あれには無駄な人間が手を差し出しすぎた』
『…具体的に、どうやって?』
『一種の『天使の力(テレズマ)』だと思ってくれれば良い。もともとお前の力を取り込ませておいた『滞空回線(アンダーライン)』を『彼ら』の体内に取り込ませ、一時的に能力を引き上げる、ということを行ってほしい』
『ほう。そして、私の力が不用意に流れ込みすぎると『人間の体』だと持ちこたえられないから、その力の調整をしろと?』
『ああ。状況に応じて最適な力の量、質を注いでほしい』
『…まぁ、いいだろう。…それよりも』
唐突に、『会話』が途切れる。


『…本当に、私の力が『彼ら』には必要なのか?』


『…分からない』
アレイスターが答えた。
『もしかしたら、彼らだけの力でこれを乗り越えることは出来るかもしれない。だが、出来ないかもしれない。
…不確定要素が多すぎる。浜面仕上の存在のみが不確定要素だと思っていたが…』
『まだあるだろう』
『・・・』


『あの二人の父親は、厄介だと思われるぞ?』


『…』
はぁ、とアレイスターがため息をはく。そして、何を『人間』じみたことをやっているのだ、と自嘲する。
『…あの二人が、最大の不確定要素だ』
突然、アレイスターの目の前にいくつものモニターが浮かび上がる。周辺には、そのようなことが出来る機器は存在しない。
『あの対フィアンマ戦。無駄な人間、と言ったが、実質あの二人だけのようなものだ』
『…あの二人は、いったい何者だ?』
『…おそらく、だが…』
そこで、冷たい沈黙が流れる。


『…『幻想守手(イマジンガードナー)』、『現実守手(リアルガードナー)』だと思われる』


『…ほう!もう出てくるか!!あの存在は、この計画のwyyt段階における対hfrekhgのときに出てくる予想では!?』
興奮しているのか、この世界のヘッダでは表せない言葉をドラゴンが『発する』。
『…少しは落ち着け』


『これが落ち着いてられるか!!と言うことは何か、『現実操者(リアルコントローラー)』はあの小娘だと!?はははっ!!!『幻想操者(イマジンコントローラー)』と『現実操者(リアルコントローラー)』が至近距離にいるというのか!!!!』


その後、もはや発狂したような口調で次々と言葉を発していくドラゴン。
またもやため息をついたアレイスターは、ひとつのモニターを見る。
そこには、上条当麻と禁書目録、御坂美琴と白井黒子がいた。
「…この情景が、いかに恐ろしいものか、本人たちは分かってないのだろうな・・・」
そして、もはや3回目になるため息をついた。


「さて」
10月9日。土曜日。
「…とうま」
とある病院内。
「…アンタは」
男性一人。
「…この殿方は」
女性3人。


「いったい、とうまはいくつ事件に巻き込まれれば気が済むのかなぁ!?」
「いったい、あんたはいくつ事件に巻き込まれれば気が済むのかしらぁ!?」
「いったい、あなたは何回美琴お姉様とイチャイチャすれば気が済むぐはぐっ!?」
3人そろって同じようなことをいっている(様な気がする)のだが…
その言葉の対象となるとあるとんでもなく不幸な少年は叫ぶ。
「別に俺だって巻き込まれたくて巻き込まれたわけじゃねぇ!!ツーかインデックス、お前があいつに捕まるのが悪いっ!!!」
その反論もむなしく。
「とうまはそうやって人に責任を擦り付けるの!?というか、あれは仕方が無かったんだよ!!フィアンマが使った魔術は私の10万3000冊の中には入ってなかった!!!」
「嘘つけぇい!!そんなことありえるかっ!!あいつの攻撃が俺の『右手』で消せたんだから、あれはれっきとした『魔術』だろぉ!!?」
「魔術だけど、私の中には記憶されてなかったもん!!!」
「っつーか、つまりあんたはこの子を助けるためにあの馬鹿じゃないのってくらい強かったあいつに挑んだってわけね!!??」
「そうでございますわ!きっと汚らしい猿人類の欲望を満たすために美琴お姉様に手を出したに違いなおうぐふっ!!??」
「というか美琴、それがお前にどう関係あるんだ!?今回はたまたま父親に会いに来た場所が対フィアンマ戦の場所でしたっていうことでお前も仕方なく参戦したはずだが、俺の参戦理由はお前には関係ないはずっ!?よし、上条当麻、完璧な言い分っ!!!!」
「…だから、あんたがフィアンマとかいう奴に挑んでなかったら私も挑んでなかっ…」
続きを言おうとした美琴が、何故か顔を赤くして俯く。
「は?」
と、とっさに上条は言ってしまったわけだが、
「とーまーぁぁぁ!!!!」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁっ!?なぜ私こと上条当麻はあなた様インデックス様に噛み付けられなければならないのでしょうかっ!?」
「美、美琴お姉様っ!?おのれこの猿人類めが、私が肉片ひとつ残らずっ―――っ!!!」
「…」
さらに何故か白井黒子が太ももに巻いてあるベルトから金属矢を取り出し、美琴が俯きながらぶつぶつ何か言いながら髪からばちんばっちんと音を鳴らす。
「ちょ、待って!?なぜ私ことものすごく不幸な上条当麻が大能力(レベル4)の『空間移動(テレポート)』の方の攻撃と、学園都市第3位の『超能力者(レベル5)』の『電撃使い(エレクトロマスター)』の方の能力による攻撃を喰らわなければならないのでしょうかっ!!!???」
だが、やはり上条の反論もむなしく。
インデックスの噛み付きは威力を増し、白井は『ふ、ふふふ…これでこの猿人類がいなくなればお姉様は私のもの…うえっへっへ…」と言い、本格的に威力を増していく電撃に恐れをなしているとき。


「…よォ、と声をかけようと思ったが…ここは遠慮しとくぜ…」


「『一方通行(アクセラレータ)』ッ!!!!」


上条は反射的に叫んだ。その叫びは、絶望しかない暗闇でまばゆい光を見つけたような者の声だった。
「…俺はこんなめんどォくさそうなことには関わらねェぞ…」
叫ばれた『一方通行(アクセラレータ)』は、何か集団でいじめられている子どもを見るような目つきで上条を眺める。
「賢明な判断ですわね、学園都市第1さん」
「あんた今ここで手を出すっつんなら、ネットワークぶっ壊すわよ」
「あれ…?あなたは…?」
3人ともども、学園都市第1位の者に掛ける言葉とは思えない言葉を掛ける。まあ、ひとりはその事実を知らないのだが。
「…そうゆうことだ。俺が殺せるぐらいにはとりあえず生き残っとけ」
「なにぃぃぃ!?まだお前俺を諦めていないのかっ!?いやいい加減…」
「…お前」
一方通行が上条をさらにかわいそうな人間を見るような目で見る。
「へ…?」
と、上条が思考するまもなく。
「とうまぁ!とうまは女の子だけじゃ飽き足らなく、この人にもあんなことやこんなことをした上であっさり捨てたって言うのかなぁ!!??」
「は!?あ、いや違いますよインデックスさん!!??あの発言はそういう意味じゃなく、『まだ俺を殺すことを諦めていなかったのか』という意味のものでして!」
「あんたねぇ!!!」
「(…よ、よし…これで美琴お姉様をめぐる最大の強敵(ライバル)が確実に葬られそうですわね…そうなればっっ!!!)」
と、なにやらいろいろと勘違い(していない者も1人居るのだが、有効利用中)されているところで、さらに何人か上条の病室に訪れるものが居た。
「あっれー?何であなたはちゃんと病室に入ろうとしないの?ってミサカはミサカは疑問を投げかけてみる」
「それには子供には分からない深い深い事情があるのです、とミサカはあなたに現実を直視させないような言葉を発します」
「御坂妹ッ!!!お前も何か壮絶な勘違いをしていないか!?」
「いえ、ミサカはミサカたちの上位固体である『打ち止め(ラストオーダー)』に汚い現実を見せないようにしているだけです、とミサカは特に考えることなく答えます」
「!?って、ちょっとあんた――――ッ!!!」
とそこで、美琴が場違いに緊張した声を発する。その美琴の視線の先には。


「…?ミ、サカ…??ま、まさか」


「あんたは何も聞くな!そして何も見るな!!さらに何も問うな!!!絶対めんどくさいことにっ!!」
「お姉様ッ!!!いったい、黒子にどのような隠しごとをっ!?」
と、なにやら場の雰囲気がよくつかめなくなったとき。


「に、逃げてくださいッ!!!」


突然、切羽詰った声が病室内に響いた。
全員の視線が病室の扉に行く。そこには、見覚えのある少女が居た。
滝壺理后。
対フィアンマ戦のときに一緒に戦ってくれた上条たちの仲間である。彼女は特にフィアンマ戦では致命傷は負っていないのだが、前々から使用していた『体昌』というものがいろいろあるらしく、今は絶対安静を保たなければいけないはずなのだが。


「超能力者(レベル5)が、あなたたちを狙いにここを襲撃してきますッ!!!」


やはり切羽詰った声で彼女は言い放った。
「…?」
だが、やはり一同はいまいち状況がつかめない。その一同の薄い反応を見た滝壺は、
「ちょ、超能力者たちがここを襲撃しようとしています…もう、ここの病院にいる一般人の方にも避難を開始してもらっています…」
そこまで言ったところで、滝壺の体がふらっとゆれ、熱中症にかかったように後ろに倒れこむ。
とっさに御坂妹が彼女を抱きかかえる。
「…どういうことだァ?」
一方通行がしらっと言う。
そこに。


「いいからっ!説明してる暇はねぇんだ!!もうお前たち以外の人間は全員避難したから、さっさとお前らも逃げろ!!」


浜面仕上。
それがこの声の主の名前だ。彼もまた同様に、対フィアンマ戦で一緒に戦ってくれた仲間である。
前は『武装無能力者集団(スキルアウト)』のリーダーを務めていた時がある彼が、動揺しまくりの声で言う。
「説明は出来ない!さっさと逃げろ!!!」
「待て」
もう半分パニック状態に陥りつつある浜面に、冷静な声で一方通行が問いかける。
「つまり、俺らを潰すために能力者がここを襲撃する、ってェことでいいんだよなァ?」
「あ、ああ。だけど全員超能力者(レベル5)で、8人も居るって…」
「もうどうせ逃げられねェだろ。しかもこの病院内には他の奴らは居ない。だったら」
一方通行が言葉を切る。


「ここを戦場にしたほうが早くねェかァ?」


「ばっ…」
その言葉にいち早く反応した美琴が言う。
「何言ってんの!?いくらあんたが学園都市最強だからって、『超能力者(レベル5)』8人を相手できるはず無いでしょうが!」
「…の前に、なぜその襲撃の事実が彼女に分かるのか、ということは誰も気に止めませんの…?」
白井が不思議そうな顔で言う。
滝壺理后の能力は、『大能力(レベル4)』の『能力追跡(AIMストーカー)』。一度記録したAIM拡散力場の持ち主をどこにいようとも確認・追跡できる、という能力だ。それ以外にもあるのだが、今重要なのはその能力。
白井黒子以外は対フィアンマ戦に参加(とあるひとりはネットワーク経由で)しているのでそのことが分かっている。
白井にもそれを説明してやればいいだけなのだが。
「時間が無いらしィから説明はなしだ。とりあえず団体で行動する。
俺と打ち止め(ラストオーダー)と滝壺、浜面。上条と『超電磁砲(レールガン)』と妹達(シスターズ)と白井で行動だ。これくらいの戦力があればそうそう死なねェだろ」
そういって、一方通行は立ち上がる。
「反論は?」
誰も何も言わない。
状況はあまりよくつかめていないが、互いがかなりの信頼関係を築き上げている分、そのあたりは固い。
「よし」
上条がベッドから立ち上がる。
「まーた不幸なことがおきるっぽいが…」
もはや慣れました、という表情をつくり、


「全員、死ぬんじゃねぇぞ」


その言葉を聞き、一斉に病室から駆け出した。




「…くそ…」
ある『人間』が、画面のモニターを見て言う。
「…やはり、『幻想守手(イマジンガードナー)』達が関わっているか…」
その画面には、先ほどの上条達のやり取りが映っていた。
『あまりにも、不信感が無いな』
またもや脳内に直接『響く』様な声が『聞こえた』。
『…まさか、私の『計画(プラン)』に気づき…?』
『それは無いだろうな。おそらく、子供たちが妙に不信感を持ち、行動を鈍らせて負傷する、という事態を避けたいだけだろう』
『…』
アレイスターは応えなかった。
『…さすがに、この戦力では持たないな』
『確かにな。しかし、あの『幻想操者(イマジンコントローラー)』が事件に関わっているのだから、すぐに応援は集まるだろう』
『その応援も、微々たる者、ということは十分にありえる』
『心配性だな。何かあれば私が出る』
その言葉で全てが収まる。それほど説得力があるのだ。
もはや、『それ』を造りだしたアレイスターより『それ』が強くなっている今。
『ふふ。しかし、一方通行はやるな。とりあえず戦力を固め、生存率を上がらせることに専念しているようだ』
『…まあ、そこは一番実戦が多いからな…』
1万回以上は戦場に出ているのだからな、とドラゴンが笑いながら『発する』。
『体制を整わせる気か。だが…』
そこで、ドラゴンが言葉を切る。
『そんなに消極的な答えで、奴らは持つかな?』
『…なんとも言えんな。もしかしたら、『超電磁砲(レールガン)』が今『覚醒』するかもしれんし、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が『真』に目覚めるかもしれん』
『はは。たいした戦力だ』
軽い口調で言うドラゴン。
『とりあえずは、大丈夫だろう。『奴ら』にしてもまだ未完成のはずだ』
『…『超能力者(レベル5)』たち、か…』
アレイスターが考え込むように目を閉じる。
『…しかし、垣根聖督はこれだけの戦力で本当にお前を追い詰められる、とでも思っているのか?』
嘲るようにドラゴンが言う。
『こんな矮小な力、イギリス清教のトップでも一人で潰せる』
『…ローラ=スチュアート…』
またため息をつきそうになるアレイスター。
『…まぁ、事の成り行きに任せるとするか…』
アレイスターには珍しく、適当に判断を下した。


「いやーしっかし、警備員(アンチスキル)とか風紀委員(ジャッジメント)がどーたらこーたらって聞いたときはどんな奴らかと思ったが…
ような単なる雑魚ってことでいいんだな?」
「ざっくばらん過ぎるわね…まぁ、合ってるんだけど」
第7学区にあるとある病院に向かっている8人の超能力者(レベル5)。
彼らはその病院に行くまで、邪魔だと思ったものは消し飛ばし、ほしいと思ったものは強奪し、と…やりたい放題していた。
彼らはある少年たちを殺す、または捕縛する…ようは、戦闘を目的として作られた存在だ。そして、戦闘に関するスペックを限界まで高めるため、『常識』などという項目は彼らの頭には元からいらず、そして造られなかったがためにこのような行動が取れるのである。
もちろん、そんなことをすれば警備員(アンチスキル)や風紀委員(ジャッジメント)が動くのは当然なのだが、彼らはそれさえも潰してきている。なので、ここらいったいは戦闘の爪あとがまだ激しく残っている。残骸が燃えていたり、建物が不気味な音を上げながら崩れていったり…などといった事だ。
だが、そんなことを一切気に留めず、まるで天気のいい日の散歩のようにのんびりと歩いている。
ふと、そのうちのひとりが口を開いた。
「その、今回のターゲットは、私たち全員が動かなければ潰すことが出来ないほど強力なのでございましょうか?」
金髪碧眼、かなり整った顔立ちに整った肢体を持った20代半ばくらいの女性が言う。
「…正直、分かりかねるな。先ほどはああも言ったものの、実際のところ片手間で済ませられるかもしれん」
いかにも紳士風な男が応える。30代後半のように見えるのに、なぜか杖など突いている。
「まあ、結局ノところどうせ殺すんだしサ。そんな相手ニ感情なんか持ってどうするつもりダ?」
10代前半のような男子が、おかしな口調で喋る。彼の顔には喜怒哀楽、すべてがあるように思える。
「そんなこと言っておきながら、殺せなかったらどうするつもりなの~?僕に殺される覚悟、ある~?」
先ほどの少年と同じような容姿をした男子がつまらなさそうに言葉を吐く。間延びした口調とは裏腹に、彼はまったくの無表情だ。
「仲間割れは避ける事項だと思われます。よって、そのような行動があった場合、強制的に止めに入らせてもらいますので、そのつもりで」
今度は10代後半のような少女が応える。顔はまっすぐ前を向いているのだが、なぜか表情は暗い。
「はん。そんなガキ相手に本気出す気?たかが知れるわ」
不機嫌そうな声があたりに響く。その声の主は明らかにイライラしているような表情を浮かべ、体中からピリピリした空気が漂っていた。
そこに。
『…君たち。もうすぐ戦闘に入るのだから、少しは緊張していけ。あくまでこれは『戦闘』だぞ』
突然、五感に語りかけるような声が彼らの脳に堕ちてくる。
「…」
それに、誰も取り合わない。
妙な沈黙があたりを支配した。
『…このような空気で、彼らに臨め』
そう言われ、ふと気づいたように誰もが前を見る。
そこには、とある病院があった。


「…で?今回の不幸を持ってきてくれるすばらしい相手は具体的にどんな奴なんだ?」
上条が、壁にもたれかかった姿勢のまま言う。
「知らないわよ。まあ、最初はあたしと黒子で様子見に行くから。あんたのその右手は相手によっちゃぜんぜん効かないし」
美琴が黒子の方をチラッと見て言う。
「それが最善策でしょうね」
珍しく黒子がその手の発言をせずに言う。状況が状況なのを理解しているのだろう。
御坂妹は、インデックスを安全な場所に避難させるため、現在はこの病院内にはいない。そして、それが出来たならば応援を頼むようにしている。
つまり、
「って、え…?俺、ひとり…?」
「何か問題でもありますの?学園都市第1位を拳一つで倒した勇者さん♪」
何でお前がそれを知っているんだ、と思わず突っ込みそうになった上条だが、この際それはスルーする。
「てか、相手の能力が能力だったら、俺本当に拳だけで戦うことになるのですが?」
上条が素朴な疑問を投げかける。
それに二人の少女が同一のタイミングで応える。
「あ、そーか。なんかそこまで頭回ってなかったわ。んじゃ全員で行動ね」
「そこら辺で勝手にのたれ死んでればいいんですわ♪」
まったく相成れない二つの言葉。
「…あんたねぇ…」
「…お姉様。そこまでしてこの殿方と一緒に行動したいんですの?」
「あんた、こいつ意外に使えるって事知ってる?それと、曲がりなりにもあの『一方通行(アクセラレータ)』を倒したんだからね、こいつ」
「美、美琴…」
なぜか上条の目が潤む。というか、この状況でそのような発言が無かったらマジどうしよう?と考えていたところだから当然といえば当然だが。
「…なんで、そんな目で…」
それに美琴が、なぜか俯く。
「おのれこの――――」
と、いつもの展開に発展しかけたところで。


ズゴォォン!!!


建物全体が振動した。


「まずは俺が戦線に出る。打ち止め(ラストオーダー)、滝壺、浜面はとりあえず控えだ」
一方通行(アクセラレータ)が言う。それに誰も何も言わない。
「でもまァ、どうせ俺一人じゃどうにもならねェだろォからな…ある程度やったら戻る。
そん時は、滝壺、お前も戦線に出ろ」
「テメェ!!!」
浜面が一方通行(アクセラレータ)の胸倉を掴み上げる。
「滝壺が今、どんな状況だか分かってんのかぁっ!?」
「分かってる。絶対安静を保てって、あのカエルから言われたんだろ?」
珍しく一方通行(アクセラレータ)が間延びしない口調で言う。
「分かってんなら…」
「だからってなァ」
浜面に最後まで言わせず、一方通行(アクセラレータ)が口を開く。
「この状況で絶対安静なんてしてたら、それこそノタレ死んじまうぞ?」
「…」
浜面が黙り込む。
「浜面…」
滝壺が、浜面の背中を優しくなでる。
「…(なっさけねぇ…)」
浜面が、誰にも聞こえないような声で言う。
「…分かった。だが、滝壺が戦線に出るときは、俺も出るぞ」
「馬鹿か。これは単なる喧嘩じゃねェンだぞ?この戦いに参加してる奴が全員でひとつの国ぐらい、滅ぼせるかもしれねェって面子がそろってる戦いだ。お前は所詮無能力者(レベル0)。お前の出番は…」
一方通行(アクセラレータ)がそこまで言ったとき。
「…連れてってあげて」
幼い声が聞こえた。
「私からもお願いするから。この人を連れてってあげて」
それは、いつもの口調とはまったく違った打ち止め(ラストオーダー)の声だった。
「…何考えてやがる」
一方通行(アクセラレータ)が打ち止め(ラストオーダー)を睨みながら言った。
「何いってンのか分かってンのかァ。つまり、こいつに死ンで来いって言ってるもンだぜ?」
「大丈夫って、ミサカはミサカは自信にあふれた言葉を発してみる」
突然、元の口調に戻った。
そして、優しく笑いながら。


「人は、大切な人を守るとき、100%以上の力を出せるんだよ?」


その言葉に、浜面と滝壺が顔を見合わせる。一方通行(アクセラレータ)がとある光景を思い出し、チッと舌打ちする。
「…これで最後だ。本当に良いンだな?」
真剣極まりない口調で一方通行(アクセラレータ)が言う。
一方通行(アクセラレータ)は、自分のことを『悪党』だと自負している。
その『悪党』には特に『これをしなければならない』、『これをしてはならない』などといったことは設けていない。が、光を浴びて生きている人間が闇の世界を生きる人間の犠牲になることは絶対に許さない、という一方通行(アクセラレータ)自身のルールはある。浜面仕上は、以前は武装無能力集団(スキルアウト)を束ねていたが、一方通行(アクセラレータ)にとっては十分な光の世界の住人である。
なので、一方通行(アクセラレータ)は自身のルールに従い、もう一度たずねる。
「本当に良いンだな?」
その真剣な言葉に、
浜面仕上は答える。


「俺は、滝壺を守るためならなんだってするさ」


何かのドラマの1シーンのような、甘ったるい台詞を吐いた。
しかし、この状況ではなかなかこんな台詞は吐けないであろう。
つまり、
浜面仕上という人間は、滝壺理后という人間を最優先している、ということになる。
それに一方通行(アクセラレータ)は、
「…勝手にしやがれ」
そういい、電極型のチョーカーに手を添え、スイッチを入れる。
「打ち止め(ラストオーダー)」
「なに?」
打ち止め(ラストオーダー)は、まだもとの口調に戻らずいう。
「ついて来い。考えがある」
そういい、打ち止め(ラストオーダー)の手を掴む。
「え、考えって何?ってミサカはミサカはあなたにたずねてみる」
元の口調に戻り、少し顔を下に向けながら一方通行(アクセラレータ)に聞く。
「いーから。さっさと行くぞコラ」
「ちょ、いきなり足の裏のベクトルを操作されるときついかもっ!ってミサカはミサカは自分の身に迫る危機に恐怖感をあらわにしてみるっ!!」
そんな打ち止め(ラストオーダー)の言葉を一方通行(アクセラレータ)は無視し、足の裏のベクトルを操作し一気に病院を出る。
「…」
唐突に二人にされた浜面と滝壺。
「…浜面」
滝壺が不安そうな声で言う。
「超能力者(レベル5)相手に、どうやって戦うつもり?」
「うっ!?実はあんまり考えてなかったことをいきなり言われたっ!?」
「…浜面」
「いや、でも拳銃くらいは持ってますよはい!」
「…浜面」
「いや、拳銃くらいじゃどうにもならないってことも分かってますよはい!!??」

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