とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

二章3

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匿名ユーザー

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Ⅹ-Ⅰ



「アア?んだテメェ」
男が鬱陶しそうにステイル=マグヌスの方を振り返る。
「ステイル=マグヌス。イギリス清教の者だけど…どうせ、『こっち』には疎いんだろう?」
「…ハッ、なんだか知らねぇが…」
そこで男は上条の背から足をどかす。
「邪魔するっつんなら、ぶっ飛ばすぞ」
「こっちの台詞だね、と返させてもらうよ」
その言葉により、
両者の戦いの火蓋は切って落とされた。



「我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931) !」
ステイルが魔法名を名乗る。
それに怪訝そうな顔を男がするが、すぐに攻撃の態勢に移り、
「オラァッ!!」
掌から生み出した炎の玉を、ステイルに向かって投げつける。
対してステイルは、その軌道をしっかりと読み、2歩移動するだけであっさりよける。
そして、
「5台元素を司る『炎』―――RTU,BMOKL」
言葉を紡ぐ。
「その形を固形化し―――AGH,WECGFITY」
何かを握るように、手に力を込める。
「我が剣とする―――ILPT,FDR」
その手に、
摂氏3000度を越す炎の剣が現れた。
ルーンをばら撒かずに魔術を使えたところを見ると、あらかじめルーンは周りに貼り付けてあるようだ。
「…なんだそれぇ」
男が、アホとも取れる顔をする。
「ルーン魔術…もとから説明する気はないよ」
そう言いながらも、ステイルはその炎剣を手に、男に向かって突撃する。
「チッ!!」
理解は出来ないが、とりあえず対処しなければまずいだろう―――そう感じた男は、周りに炎をばら撒く。
それを、ステイルは炎剣で一閃する。
「摂氏3000度を越える炎剣に、楯突けるのかな?」
ニヤリ、と笑いながら、ステイルは炎剣を男に叩きつける。
男は、とっさに腕を突き出す。



ゴォッ!!
そんな効果音とともに、男の腕が一瞬で炎に包まれた。



その光景に、
「…なに?」
驚いたのはステイルの方だった。
「男ら、呆けている暇あんのかァッ!!?」
男は、その腕をステイルに向かって突き出そうとする。
ステイルは、
「くそっ!」
炎剣を爆破させる。
もともとステイルには、自分の魔術によるダメージを極限にまで軽減させる施しがされてある。
よって、ステイルは少し熱いな、と感じた程度。
だが、本来その炎剣を爆破させた場合、周囲10m程度は軽く吹っ飛ばせる。それくらいの威力は秘めている。
しかし、



「だぁぁっ、んだよこれ。本当に魔術ってシロモノなのかぁ?」



無傷の男が鬱陶しそうに炎を振り払っていた。



「…」
ステイルは無言。
対して男は、
「だから、そんな暇あんのかよ!?」
キレ気味に言い、炎を振りまく。
ステイルはそれを身を屈めるだけでやり過ごす。
が、
「…そうか」
ステイルは、やっと理解したような顔になる。



「自分の周囲にある物質の運動を高めているのか」
ステイルが呟く。
「正解ー。対象物の分子運動を加速させ、摩擦熱を火種として火を起こす能力、らしいぜ?」
男が興味なさそうに言う。
「さっきの炎は、自分の腕の周りにある空気を分子運動を高めたものか?」
「また正解ー」
やはり興味なさそうな男。
「だけどよぉ」
男は、その言葉を言って表情を変えた。
「それが分かったところで、何になる?」
「なるさ」
獰猛そうに笑いながら言った男の問いかけに、ステイルは即答する。
それに男は、少したじろぐ。
「勝利への法則、にね」
そう言い、



「5台元素、『炎』の力を、我が身に宿す―――IPWER,TFDCVB,MKJQLYU」



その瞬間、
男がその場を飛びのいた。
それを見たステイルが、
「…へぇ、なかなか勘は鋭いようだね」
無表情に言う。
その無表情に相対するように、男の顔には焦りがあらわになっている。
「…なんだよ」
男が、呆然と呟く。



「いきなり、何で俺の足元が…アスファルトが、溶けた?」



男の視線は、先程まで自分が足をついていた、『地面』に向けられていた。
その『地面』は、
ドロドロに溶けている。もはや、普通の水と変わらないくらいに粘性はない。
しかも、溶けているのは一定区域のみだ。見えない線を境目にしたかのように、そのほかの空間にはまったく異変はない。
「一応、学園都市とイギリス清教は手を組んでいるからね。さほど損害は出したくない」
ステイルが、聞かれてもないことを答える。
「さて、で…」
男の方を直視し、ステイルが言う。



「状況は理解できたかな?これが、『実力』の差、って奴だよ」



「…」
男は無言のまま、ドロドロに溶けた『地面』を見つめる。
だが、
「…チッ」
少し見ただけで、すぐ視線を逸らした。
「この液体を熱しようとしたのかな?だけど無理だろう」
ステイルは、事実を事実として相手に告げる。



「この液体は、『摂氏2万度』だぞ?」



その言葉を、男は反論もせず受け入れる。おそらく、先程液体を直視し、能力を使用した時点でそれくらいは理解できていたのであろう。
「とりあえずほかに被害が出ないよう、結界は張ってあるけどね。意外にこっちのほうも、操作が難しい」
ステイルがため息をつきながら言う。
「…どうやった」
「熱した」
単純な問答。
だが、それは単純であるが故、逆に理解しづらい点がある。
「…どうやって、ここまで熱した、って聞いてんだよ」
「どうやって、って…」
分かりきったことを説明するのは難しい、という表情を作るステイル。



「だから、単純な話…そこまで熱せられる魔術を使っただけだけど?」



馬鹿か、と男が呟く。
そんな事を、予備動作も無さそうな状況で出来るはずがない。
そう、男は思っていたが、
「予備動作なら、ちゃんとあるよ」
ステイルが、男の思考を読み取ったかのように言う。
「ルーンをばら撒いた、ってそれだけだけど。まぁ、枚数は結構なものになるかな?」
男にはその言葉の意味が理解できない。当然の話だが。
「でも、ルーン単体の魔力が強ければ、数千枚でもこれくらいのことができるようになる」
ステイルが、あっさりと言い放つ。
「君の能力は、ただ炎を生み出すだけだろ?ようは『力』を生み出している、ってことだ」
なら話は簡単、とステイルは言い、
「小細工無しに、その『力』より強い『力』を生み出せばいい」
「…ハッ」
男が小さく笑う。
「正直、この状況は全ッ然理解できないが…あんたがよほどの使い手だ、ってことは分かった」
そう男が言い、



「それじゃ、こっちも相手に敬意を払い、本気を出すぜ」



「…そう来るのか」
引きつった笑みを浮かべるステイル。
「ん?これが本気だとか思ってたか?」
男があざけるように言う。
「…改めて恐ろしい所だな、ここ(学園都市)って所は…」
ステイルは、敵の前だというのに大きくため息をつく。
「んじゃ…」
男はその言葉を適当に流し、



「いくぜ」



ありきたりっぽい発言したなー、とステイルが馬鹿なことを考えているうちに、
男の手に炎でかたちどられた剣が現れる。
「あんたの、参考にさせてもらったぜ」
そういいながら、男はそれを一閃。
ただそれだけの行為に、周りの水蒸気が一瞬にして蒸発し、おかしな音を立てる。
「…」
2度目のため息を吐くステイル。



「ああ、もう、こりゃ…使わせてもらうしかないか」
思わせぶりな発言をするステイル。
「ああ?何をだ?」
「いや、僕も一応こういう芸当が出来るから…」
そういいながら、右手を振るう。それだけで右手に炎剣が現れる。
「…反則だろ、それ」
「安心して良いよ、僕もそう思う。…あの人の魔力は、どんなものなんだか」
ぐるり、と周囲を見回して言う。
「それで、続きだけど…いや、いいか。
ここは『戦場』で良いんだな?それだったらもう、無駄なことはしないが」
ステイルの表情が変わった。
無邪気な子供のような表情から、真剣みを帯びたプロの表情へと。
「…良いんじゃねえのか」
男が、吐き捨てるように言う。
「それじゃ、もう一切の手加減は無しだ」
最後に一度、少し笑い、



「さあ、つまらないショー(殺し合い)の始まりだ」



その言葉とともに、
両者が激突する。
それに、
「なぁっ…!?」
炎剣を交えた男が、ステイルのあまりの『速さ』に圧倒され、後方へと吹っ飛ぶ。
それに追撃をかけるように、ステイルが考えられないほどの速さで追う。
「チッ」
体制もままならない状況下で、男はとっさに炎を振りまく。
それをステイルはなんとも無しに炎剣で切り裂く。
左から振り払われた炎剣を返すように、ステイルはうえから炎剣を男に叩きつける。
男はとっさに右腕の周囲を発火させ、それで受け止める。
だが、ステイルはやはりそこでとまらない。
炎剣を爆破させた。
その場しのぎしか出来なかった男の体が、また後方へ吹っ飛ばされる。
(何なんだ…)
男は、無表情に迫り来るステイルを直視して思う。
(何なんだ、こいつ!?何でこんなにも『速い』!?)



男は、その答えを出せない。
いや、出せるまで考えていれば確実に死ぬ。
それが分かった男は、謎に対応することなくステイルに対応する。
ステイルは、またもや難なく炎剣を生み出し、右わき腹に抱えるような体制で男に突進してくる。
とりあえず、男はステイルの進行方向に炎を生み出す。
それにステイルは、
「無駄だ」
その一言を告げ、左手を炎剣から離す。
そして、その左手を振るい、
「んな」
男がそれしか言わないうちに、
ステイルの左手に炎剣が生み出される。
ステイルはその炎剣を振るい、炎を吹き飛ばす。
(二刀流、だとぉ!?)
男は毒づこうとしたが、中断された。
迫り来るステイルが、左手の炎剣を振るった回転を殺さずに体を回し、右手の炎剣で男を一閃しようとする。
「くそっ!」
男はそれを、炎の剣で叩き落す。
わずかにステイルの体制が崩れる。だが、全力で炎剣を叩いた男はすぐには攻撃に移れない。
…と、思われたが、
「ンな常識、通用すっかよっ!」
そう叫び、
突如、ステイルの周囲が一斉に発火した。
それをステイルは無言で炎剣で切り裂いてゆく。
しかし、いくら切り裂いても炎は絶えない。
「めんどくさいな」
ただそれだけをつぶやき、ステイルは左手の炎剣を爆破させる。
その爆風に空気が乗り、少しの間炎が製造されなくなる。
その瞬間、ステイルは炎剣を一閃し、炎を絶やす。
「…」
男はそれを、黙って見つめていた。
いや、黙って見つめること『しか』できなかった。
ステイルの周囲が発火してから炎が絶えるまでの間、実に3秒。
「…ふざけてやがる」
「これが世界、って奴だよ」
ステイルが疲れたような表情を浮かべる。なぜか、上には上がいる、と言いたそうだった。
だが、すぐにその表情を取り払ったステイルは、
「ふっ」
一息で炎剣を男に投げつける。
とっさにかわした男だが、
その爆風はかわせない。
「…ッ!?」
ステイルが炎剣を爆破させたことにより、男の体に容赦なく熱気が叩きつけられる。今まで炎剣を爆破させてもこのようなことがなかったところをみると、おそらくステイルがそこら辺は操作しているのだろう。
身悶える男。
ステイルはそれを据わった目で見つめ、



「終わりだ」
ただそれだけを言った。



「…終わり、だぁ?それはさすがに、はやとち…りぃ…ッ!」
ゴホゴホ、と男が咳き込む。
「…もう、あがくな…命をさらに縮めることになるぞ」
ステイルが、構えを解いて言う。
「…な、に…しやが…ッ!!」
さらに男が咳き込む。
「何、簡単な話さ」
前髪を掻き揚げながら、ステイルが話す。
「君、ここをどこだと思っている?」
「…あ?…んだとぉっ…」
少し小さめの声で、男が言う。
「病院…だろぉが」
「そのとおり」
ステイルがそう言い、
「では、病院には何がある?」
「…く、すり…?」
「また正解。まぁ、今回は薬じゃなく、どこにでもある物を使ったんだけどね」
両者の問答が、それでとまる。
短い間両者が沈黙する。
「…何が、言いてぇ」
男の状態が少し回復したらしい。男は、虚勢を張り、言う。
「…まぁ、さすがにここまでは考えられないか」
ステイルが、男を直視して、
「僕らは、何を操っていたんだ?」
「ああ?炎、に――――ッ!!!!」
突然、男が激しくのた打ち回った。
「ッ、がっ、ぎぃぁぅ…ッ!?」
男が頭を必死で抑える。
「…やはり、普通に殺してあげるべきか」
ステイルが哀れみの目を向け、言う。
もはや、男は喋れる状況ではない。
「じゃ、死ぬ前にトリックの説明だけ」
ステイルが、淡々と言う。
「先程、僕はアスファルトを溶かした。何のために?」
男に問いかけるように言うステイル。
もちろん、男は返答できない。
しかし、かまわずにステイルは続ける。
「ただ、君を攻撃するためだけに?違うだろう。それだったら、もっと手っ取り早い方法はいくらでもある」
ステイルは言う。
「何故、僕はあの『溶けた』アスファルトに結界を張った?ほかに影響を出さないため、そういったが…
具体的に、どんな影響が出る?」
ステイルは、男に向かって言葉を浴びせる。
のた打ち回っていた男の反応が、次第に弱弱しくなっていく。
「そう、こんな影響が出る。では、何故こんな影響が出る?」
「…」
男は、言葉を発しない。だが、顔を見ると、どうやら自分の死を悟り、その理由も悟ったようだった。
「…そのとおり」
男は何も言葉を発していないのに、ステイルはそう言った。



「アスファルトなんて物を無理矢理熱で溶かせば、有害な気体なんていくらでも出るだろう」



つまり、
ステイルがアスファルトを溶かした理由は、単なる攻撃のためではない。
ステイルが溶かした部分に結界を張った理由は、周りに影響を出さないためだけではない。
全て、



自分の炎剣を爆破させたときに出来る爆風に、『有害な気体』を乗せて男にそれを吸わせ、男を殺すため。



結界はほかに影響を出さないためだけではなく、その『有害な気体』を閉じ込めておく役割も果たしていた。
「…さて」
ステイルがそう言い、炎剣を再び発生させる。
「…安らかに、眠れ」
もはや動きもしない男に向け、それを振りかぶった。



Ⅹ-Ⅱ



「…」
そうつぶやいた男の言葉に、一方通行(アクセラレータ)は沈黙する。
「…チッ」
一方通行(アクセラレータ)はあからさまにいやな顔をし、
「分かった。殺さねェよ。戦闘不能、程度にしてやる」
一方通行(アクセラレータ)が、そう言う。
「…敵に情けをかけられるとはな。もはや、そこまで力の差がある、という意味も受け取れる」
男が、疲れたような表情を浮かべる。
とりあえず女から手を離し、打ち止め(ラストオーダー)を自分の後ろに回らせる一方通行(アクセラレータ)。
そして、空気のベクトルを操ろうと、



「流石にここまでやられて、黙ってはいられません」



突然、女の声が聞こえた。目の前にいる打ち止め(ラストオーダー)を掴んでいた女とは違う声。
「…あァ?」
一方通行(アクセラレータ)が周囲を見回す。
すると、ある一点で目が留まる。
そこには、ずっとそこに立ってました、という感じで一人の女が立っていた。
そういえば、最初にこいつを見たような気がするな――――一方通行(アクセラレータ)はそう思った。
しかし、これまでの戦いの最中、まったく眼中になかった。学園都市一番の頭脳の持ち主が、そこまで頭が回らなかった、などということは通常では考えられない。
だが、実際先程の戦いの最中、まったくあの女のことなど思い浮かばなかった。まるで、脳の神経から無理矢理女を無視するように操られていたかのように――――
「…テメェ」
一方通行(アクセラレータ)が、女を凝視して言う。



「精神系の能力者、か」



「その通りです」
女は素直に答える。
「能力名は、『精神操作(メンタルコントロール)』。対象となる人物の精神を、ほとんどの場合自在に操ることが出来ます」
女は淡々と言う。
「しかしあなたの場合は例外で、やはりその手の能力にも『反射』が効いていました。仕方ないのでその反射に割ける意識が少なくなる戦闘中に無理矢理精神を少し掌握し、私の存在はとりあえず『見ていない』と錯覚するようにさせてもらいました」
女は律儀に説明する。
「チッ!」
一方通行(アクセラレータ)は、すぐに風のベクトルを操作する演算を開始する。
しかし、



「これ以上は無駄な戦闘ですので、今回は退避させてもらいます」



その言葉とともに、一方通行(アクセラレータ)の意識は遮断された。



Ⅹ-Ⅲ



「ハッ」
少年は黒子の言葉に笑う。
「だからあんたが出てきた、って言うのか」
少年は疲れたような笑みを浮かべる。
「ええ。何かご不満でも?」
黒子は当然のように言葉を返す。
そして、
「いや…あんたは不満だろうな、って」
「は?なんの話で?」
少年の言葉に、首をかしげる黒子。
「命を懸けてまで俺を倒そうとしたのに、俺を倒せないどころか更なる『強敵』を呼ぶ羽目になるんだもんな」
「…何を言って。更なる強敵、ですって?『超能力者(レベル5)』以上の強敵が、どこに――――」
「いるんだよ」
少年は、黒子の言葉をさえぎって言う。



「俺たち、『超能力者(レベル5)』を造った人は、もう『絶対能力者(レベル6)』を完成させている」



黒子は、その言葉に反応できない。
「…流石に、ショックだよな。ようやく超能力者(レベル5)を倒したってのに、次は未知の『絶対能力者(レベル6)』だぜ?」
その言葉に、やっと黒子の脳は反応する。
『絶対能力者(レベル6)』。
またの名を、『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』。
あの、『一方通行(アクセラレータ)』でさえ辿り着けなかった、能力者の頂点。
そんな者が、本当に存在するのか。それさえも疑わしい。
「あ、また爆弾的な発言だけど…」
少年は、もはや笑いながら言う。



「その『絶対能力者(レベル6)』、4人いるから」



今度こそ意識が吹っ飛ぶかと、黒子は本気で思った。
つまり、
国家ひとつを相手しても傷一つつかないあの『一方通行(アクセラレータ)』を超える『化け物』が、4人も存在する、ということだ。そんなこと、そうそう信じられるはずがない。
…いや、信じてしまえば、
「…学園都市は、そんな化け物を抱えて…?」
自分の住んでいる『学園都市』が、まったく別のものに思える。
「化け物、ね」
少年が小さく笑う。先程からよく笑う少年だ。
「そんな言葉でおさまるのかねぇ?」
黒子もそれには賛成だ。そんな生易しい存在ではないだろう。本当に存在するとするならば。
「っと」
唐突に少年が立ち上がる。
「!?」
黒子がそれに反応し、とっさに身構える。
「いや、いちいち反応しなくていいよ。これ、俺の意思じゃないから」
「?」
黒子は、一つも理解できていない。
「いやしかし、大半はやられたのかー。いやはや、本当にやるねぇ。もしかしたら、『絶対能力者(レベル6)』、倒せるんじゃない?」
そんな事を言う少年。
「…」
先程から、黒子の頭脳はこの会話に全くついていけていない。そもそもこの少年が立てることからしておかしいのだ。
しかし、
「おっとぉ…もう空間移動(テレポート)しろと来たか。こっちは結構不安定なのによ」
少年が、首の骨をゴキゴキ、と鳴らしながら言う。
「んじゃ、またあったら、今度こそ潰すから」
そんな言葉とともに、
少年はその場を一瞬で離れた。



Ⅹ-Ⅳ



しかし、
ステイルは炎剣を振り上げた姿勢のまま静止した。
「んなっ」
突然の出来事に、ステイルの思考も止まってしまう。
「…ハッ」
殆ど死にかけの男が笑う。
「あいつらも…やられたってか」
男がそんな言葉を発する。
「あいつら?」
ステイルが首をかしげる。これくらいの動作なら出来るらしい。
「…こっちの話だ」
そう男が言い、



突然、目の前に一人の少年が現れた。



「なっ」
身構えようとするステイルだが、やはり体は動かない。
「いいよ、緊張しなくて。害を加える気はないし」
少年はステイルを全く見ずに言う。
その少年は、4人の人間を連れていた。どう見てもこんな華奢な少年には抱えられない重量のはずだが、そこはお決まりの『能力』が解決してくれるのだろう。詳しいことはステイルには分からない。
「…何をする気だ」
殺気を放ちながらステイルが言う。いざという時の呪文は、もう消化しておいた。
「いや、この人を『回収』するだけだよ?」
そう言い、男に手を触れる少年。
「戻るのか?」
男が少年に問いかける。なぜか苦しそうな表情はない。それにもやはり『能力』が関係しているのだろうか?
「うん。次は『絶対能力者(レベル6)』の出番、だってさ」
つまらなさそうに言う少年。
「…だろうな。俺らには荷が重すぎたようだ」
超能力者(レベル5)のはずの男が、そんな発言をする。
「…戻る?」
ステイルが問いかけるが、
「いや、こっちの話だから。とりあえず」
少年はステイルのほうに振り返り、
「後始末、よろしくねー」
それだけ言い、その場からステイル以外の人間が消え去った。



「…ほう」
モニタに映った画像を見たアレイスターが、感嘆の声を上げる。
『奴ら、超能力者(レベル5)を撃退したぞ』
『それぐらい分かっている』
即座に『ドラゴン』から返答があった。
『しかし…つまり、次は『絶対能力者(レベル6)』…神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの、か』
『流石にそちらはこのままでは太刀打ちできないであろう。策はあるのか?』
『いいや』
『…』
アレイスターの予想外の発言に、黙るドラゴン。
『【これくらいのこと】で策を立てなければならないようでは、まだまだ『神浄』には遠いだろう?』
『…これくらいのこと、か』
ドラゴンがため息をついたようだ。
『どうせ、垣根聖督が造った『絶対能力者(レベル6)』など、『本物』には程遠いはずだ。さらに』
そこで、アレイスターが言葉を切った。



『持つべき役割…『絶対能力者(レベル6)』が必要とされる理由さえないのであれば、それは単なる力の殻だ』



『…絶対能力者(レベル6)の役割、な…』
ドラゴンが続ける。
『それには御坂美琴は当てはまらないのだろう?』
『ああ。やはりあの者は、『司りし者』ではない。『現実殺し(リアルブレイカー)』だった』
『…それを隠すためだけに、超能力者(レベル5)を与えるのか、あの馬鹿父は…』
また深くため息をつくドラゴン。どうやら今日の両者はため息が多い。
『…それを言うな。人間とは、そういう生き物だ』
まるで、自分は人間ではない、とでも言いそうな口調で言うアレイスター。
『…次だな』
唐突にドラゴンが言う。
『先程、次の戦場を下見したが…』
『ああ。分かっている』
そうアレイスターは言ったが、ドラゴンは続ける。
『…やはり、あの場で『超電磁砲(レールガン)』は『現実殺し(リアルブレイカー)に目覚めるだろうな』
『…まぁ、そのように施したからな、こちらも』
アレイスターが言う。
『まぁ、何はともあれまずは時間の経過、だな。おそらく次はイギリスも関わってくるだろう』
『関わってこなければ、所詮その程度の脳、ということか』
『…あやつ(ローラ=スチュアート)に限って、それはないだろう』
そう言って、
『あっちは、何を出してくる予定だ?』
『…不明だな』
ドラゴンが言った。
それで両者は沈黙する。
『…では、明日も頼むぞ』
アレイスターが言うが、
『本気で言ってるのか?あの戦場を見ただろう。もはや私は直接かかわることしか出来んよ』
『…』
アレイスターが黙る。
『…まぁ、とりあえずは』
そういった所で、
通信が切れた。
「…せっかちだな」
アレイスターもそうなのだが、本人は気にしない。
「…さて」
『人間』は、上を見上げる。さかさまになっているから床を見ることになるのだが。
「…明日、いったい何が起こる?」
遠足前日の幼稚園生のような声で言った。

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