<11:20 AM>
(なァ……にィ?)
口の中に血の味が広がる感触を感じた一方通行(アクセラレータ)はその事態にただ混乱していた。
最強の盾たる反射が”効いていない”。
そこに疑問を抱く彼の耳にビキィ…!と地面がひび割れる音が聞こえた。
(いやァ…効いてないンじゃねェ…これはまさかッ!?)
その原因に気づいた一方通行は脚力のベクトルを操作し、一気にその『場』から抜けだす。
直後、ゴォォォォォ!!と風が吹き荒れた。周りのものを押すような流れではなく、周りのものを引きこむような風の流れ。
その流れを見て、一方通行は自分の推論に確信を持った。
「……………凄い。もう僕の攻撃方法がわかったのかい?」
先ほどと変わらぬ場所で空中に立つ無表情な少年は、パチパチパチと拍手しながら一方通行を見る。
一方通行はその言葉に対し、血が流れる口元を歪めながら答えた。
「大気圧…だろォ?」
「………………その通り」
今までにないくらいの笑顔を顔に浮かべた少年は、何かを押しのけるように腕を横に勢いよく振った。
一方通行はその動きに合わせるように形成されるその『場』から逃げだす。
直後、ミシィ…と空間が軋むような音が響いた。
「……………キミの能力はあくまで『ベクトル変換』だ。その力は万能のように見えて実はそうじゃない」
再び、風が吹き荒れた。強烈な風は一方通行の髪を揺らしながら、ウナギのようにのたうちまわる。
「……………本当にすべてのベクトルを反射していたらキミは死んでしまうだろう?空気や光などがそのいい例だ。空気を反射してしまえば息ができないし、光を反射してしまえば何もその目に映るものがなくなってしまう。キミは無意識の内にそれらの反射設定を無効にしているんだ」
だったら、と少年は続けた。
「”その無意識に反射を無効にしているものでキミを攻撃すればいい”」
だからこその、大気圧。
そもそも、大気圧は空気があるところには必ず発生する現象である。
空気に重力がかかり発生する大気圧は地球上すべての物質に影響を及ぼしていると言っても過言ではないのだ。
そして、人間の身体は外側から大気圧が押す力を、内側から大気圧が押す力で相殺して身体を保っている。
そこで、外側の押す力をゼロにしただけ。
そうすることで、内側からの力に押され身体が破裂する、という考え。
しかし、
「……………しかしだ。人間の身体はそんなことだけで傷つくことはない。身体にはそれらにある程度の抵抗があるから決してその程度で死ぬことはない。だったらどうすればいいと思う?」
問いかけるような言葉。その言葉に一方通行は不快そうに眉をひそめる。
通常の大気圧では。
身体の中だけの空気で出来ることがないのなら。
「……………キミの身体の中の空気を増やせばいい。十五倍にまで超圧縮した空気をキミの肺の中に入れて真空状態になった瞬間に元に戻してしまえば完全にとまではいかなくても少なからずダメージはあるだろう?」
ニィ…と気持ちの悪い笑みを少年は浮かべた。
そんな笑顔を見て、ふざけた理論だと一方通行は思う。
おそらく、その超圧縮した空気とやらは先ほど見えない壁のようなものを壊したときにでも肺に入れたのだろう。
(あンときぶっ壊したあの壁が超圧縮した空気だったンだろうなァ………だが、なぜ真空状態の中でしか使用しない?オレの肺の中に入れた瞬間に元に戻せばいいじゃねェか…)
そこが少年の能力の限界だ。
一方通行のように皮膚に触れないと操れない、とか見えないものは操れないとかそんなところだろう。
その肺のなかにある圧縮された空気はそれを固定している周りの大気圧がゼロになることで解放される。
では、その大気圧をどのようにしてゼロにするのか。
その答えは、
「……………擬似的な真空状態だ」
目に一切の感情を映さない少年の空虚な瞳は、小さく細められる。
「……………いくら僕の能力でも、完全な真空状態は作れやしない。でも人間の身体なんてものなら完全な真空状態ではなくても簡単に潰すことができる。少し、空気を抜いただけで人間は酸素が足りなくなるし、その状態のまま居続ければ肺を潰すことなんて容易だしね」
先ほどの烈風の正体も『擬似的な真空状態』の影響だ。真空状態の空間にただ、水の中に沈めたバケツに水が流れこむように空気が流れこんだだけ。
「……………キミの能力は『最強』であっても『絶対』じゃない」
だからこそ、そこに隙できる。
(ヤッベェなァ…)
一方通行は、少年の言葉を聞きながら状況が最悪になっていることを自覚していた。
この状況を改善するための前提条件である『相手は一方通行を傷つけることはできない』が崩れている。
その事実はこの戦局を大きく左右するものだ。
「ねぇねぇ…ボクは思ったんだけどさ。キミの本名ってなんなの?」
素朴な疑問を投げかけるような軽い口調の言葉が一方通行の耳に届く。
一方通行が、目の前の少年から意識を離さずにそちらを見るとけらけらと笑う少女がガラス玉を手でもてあそびながらこちらを見つめていた。
「『一方通行(アクセラレータ)』ってどう考えても本名じゃないでしょ?キミを調べた時にはどこにも本名らしきものがなかったから気になってたんだよ」
壊れかけのフェンスに寄りかかる少女の目には、明らかな好奇心が見て取れる。
余裕。
それを感じさせる少女のセリフに、一方通行は心の中で舌打ちした。
「相手の名前を聞く時には、自分の名前を先に言うもンだろォ?」
ぶっきらぼうなもの言い。
相手が断ることを前提として言ったのだが、意外にも少女はその言葉に従った。
そうだね、と少女は一拍置いて
「確かにこっちから名前を言わないのは失礼だったかな?」
寄りかかっている古びたフェンスから身体を離し、軽く一礼してこう言った。
口の中に血の味が広がる感触を感じた一方通行(アクセラレータ)はその事態にただ混乱していた。
最強の盾たる反射が”効いていない”。
そこに疑問を抱く彼の耳にビキィ…!と地面がひび割れる音が聞こえた。
(いやァ…効いてないンじゃねェ…これはまさかッ!?)
その原因に気づいた一方通行は脚力のベクトルを操作し、一気にその『場』から抜けだす。
直後、ゴォォォォォ!!と風が吹き荒れた。周りのものを押すような流れではなく、周りのものを引きこむような風の流れ。
その流れを見て、一方通行は自分の推論に確信を持った。
「……………凄い。もう僕の攻撃方法がわかったのかい?」
先ほどと変わらぬ場所で空中に立つ無表情な少年は、パチパチパチと拍手しながら一方通行を見る。
一方通行はその言葉に対し、血が流れる口元を歪めながら答えた。
「大気圧…だろォ?」
「………………その通り」
今までにないくらいの笑顔を顔に浮かべた少年は、何かを押しのけるように腕を横に勢いよく振った。
一方通行はその動きに合わせるように形成されるその『場』から逃げだす。
直後、ミシィ…と空間が軋むような音が響いた。
「……………キミの能力はあくまで『ベクトル変換』だ。その力は万能のように見えて実はそうじゃない」
再び、風が吹き荒れた。強烈な風は一方通行の髪を揺らしながら、ウナギのようにのたうちまわる。
「……………本当にすべてのベクトルを反射していたらキミは死んでしまうだろう?空気や光などがそのいい例だ。空気を反射してしまえば息ができないし、光を反射してしまえば何もその目に映るものがなくなってしまう。キミは無意識の内にそれらの反射設定を無効にしているんだ」
だったら、と少年は続けた。
「”その無意識に反射を無効にしているものでキミを攻撃すればいい”」
だからこその、大気圧。
そもそも、大気圧は空気があるところには必ず発生する現象である。
空気に重力がかかり発生する大気圧は地球上すべての物質に影響を及ぼしていると言っても過言ではないのだ。
そして、人間の身体は外側から大気圧が押す力を、内側から大気圧が押す力で相殺して身体を保っている。
そこで、外側の押す力をゼロにしただけ。
そうすることで、内側からの力に押され身体が破裂する、という考え。
しかし、
「……………しかしだ。人間の身体はそんなことだけで傷つくことはない。身体にはそれらにある程度の抵抗があるから決してその程度で死ぬことはない。だったらどうすればいいと思う?」
問いかけるような言葉。その言葉に一方通行は不快そうに眉をひそめる。
通常の大気圧では。
身体の中だけの空気で出来ることがないのなら。
「……………キミの身体の中の空気を増やせばいい。十五倍にまで超圧縮した空気をキミの肺の中に入れて真空状態になった瞬間に元に戻してしまえば完全にとまではいかなくても少なからずダメージはあるだろう?」
ニィ…と気持ちの悪い笑みを少年は浮かべた。
そんな笑顔を見て、ふざけた理論だと一方通行は思う。
おそらく、その超圧縮した空気とやらは先ほど見えない壁のようなものを壊したときにでも肺に入れたのだろう。
(あンときぶっ壊したあの壁が超圧縮した空気だったンだろうなァ………だが、なぜ真空状態の中でしか使用しない?オレの肺の中に入れた瞬間に元に戻せばいいじゃねェか…)
そこが少年の能力の限界だ。
一方通行のように皮膚に触れないと操れない、とか見えないものは操れないとかそんなところだろう。
その肺のなかにある圧縮された空気はそれを固定している周りの大気圧がゼロになることで解放される。
では、その大気圧をどのようにしてゼロにするのか。
その答えは、
「……………擬似的な真空状態だ」
目に一切の感情を映さない少年の空虚な瞳は、小さく細められる。
「……………いくら僕の能力でも、完全な真空状態は作れやしない。でも人間の身体なんてものなら完全な真空状態ではなくても簡単に潰すことができる。少し、空気を抜いただけで人間は酸素が足りなくなるし、その状態のまま居続ければ肺を潰すことなんて容易だしね」
先ほどの烈風の正体も『擬似的な真空状態』の影響だ。真空状態の空間にただ、水の中に沈めたバケツに水が流れこむように空気が流れこんだだけ。
「……………キミの能力は『最強』であっても『絶対』じゃない」
だからこそ、そこに隙できる。
(ヤッベェなァ…)
一方通行は、少年の言葉を聞きながら状況が最悪になっていることを自覚していた。
この状況を改善するための前提条件である『相手は一方通行を傷つけることはできない』が崩れている。
その事実はこの戦局を大きく左右するものだ。
「ねぇねぇ…ボクは思ったんだけどさ。キミの本名ってなんなの?」
素朴な疑問を投げかけるような軽い口調の言葉が一方通行の耳に届く。
一方通行が、目の前の少年から意識を離さずにそちらを見るとけらけらと笑う少女がガラス玉を手でもてあそびながらこちらを見つめていた。
「『一方通行(アクセラレータ)』ってどう考えても本名じゃないでしょ?キミを調べた時にはどこにも本名らしきものがなかったから気になってたんだよ」
壊れかけのフェンスに寄りかかる少女の目には、明らかな好奇心が見て取れる。
余裕。
それを感じさせる少女のセリフに、一方通行は心の中で舌打ちした。
「相手の名前を聞く時には、自分の名前を先に言うもンだろォ?」
ぶっきらぼうなもの言い。
相手が断ることを前提として言ったのだが、意外にも少女はその言葉に従った。
そうだね、と少女は一拍置いて
「確かにこっちから名前を言わないのは失礼だったかな?」
寄りかかっている古びたフェンスから身体を離し、軽く一礼してこう言った。
「ローマ正教『神の右席』候補者、ミーナ=シンクジェリ」
よろしくね、とミーナはまだ幼さを感じさせる顔で一方通行にニコリと笑いかけた。
と、ミーナは突然額に指を当て、思案するかのように首を傾げる。
「そういや、キミはローマ正教の『神の右席』ってのを知らないのか………」
「知らねェなァ…どっかの宗教組織にある一つ一つの部署なンざ覚えちゃいねェよ」
「違うよ。知らないことが”当たり前”なんだ。『神の右席』はあの巨大な魔術結社の中にも限られた人数しかその存在を知らないんだから」
「そりゃゴ偉いこって…ンで?その『神の右席』様がこの学園都市や妹達(シスターズ)になンのようだァ?」
「それは知ってるんでしょ、白髪少年A。ボク達はこの学園都市を”潰し”に来たんだ」
「解せねェな……そこが解せねェンだよ」
一方通行は怪訝そうな表情を浮かべる。彼の頭の中にはいくつかの疑問が渦巻いていた。
「なンで学園都市を潰すために”『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴と学園都市に残る全ての妹達(シスターズ)を確保しよう”としたかが理解できねェ」
ピクリ、とミーナの頬が動いた。その動作を一方通行は見逃さなかった。
「学園都市の第一位であるオレを殺したいってェのは分かる。そのための人質として妹達(シスターズ)を確保しようってェのも分かる。じゃあ、『超電磁法(レールガン)』はなンだ?そして、なンで学園都市に残る『全て』の妹達(シスターズ)を捕まえる必要がある?人質として使うンなら一人でも充分だろォ?」
「保険として妹達(シスターズ)を確保しておきたいってェなら複数の人質を取ることに違和感はねェ。けど、それにしてはテメェらの行動には無駄がありすぎンだよォ」
「オレを殺すための人質に使う妹達(シスターズ)を捕まえるためになンでオレと戦ってンだァ?それじゃあ本末転倒だろォ?」
「テメェらいったい…………何を企ンでやがる?」
「………、」
一方通行の言葉を静かに聞いていたミーナは顔を俯いたまま黙っていた。
相対する少年も、二人の会話を無表情な顔でただ傍観している。
それらを無言で見つめる御坂妹も一方通行の提示した疑問に答えることはできなかった。
数秒の沈黙。
不意に、ミーナの肩が不自然に震え始めた。
「……クク…、クフフフ…クク、ハハ…」
自然に口から流れるのではなく、口からでようとするものを押し殺すように。
手を額に当て何かを堪えるようにミーナは肩を震わせる。
「ハハ…、ハハハハ…………」
そして、限界が来たかのように、堪え切れなくなったようにミーナは笑いだした。
「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!ハハハ、凄い!!凄いよ学園都市の第一位!!!ボクらと戦ってる中でそんなとこまで考える余裕があるなんてッ!!!」
狂ったように笑うミーナが話す言葉を聞きながら一方通行の目は少しずつ細められていく。
「想像以上だよ!!やはり、計画を先倒ししてまでキミと会ってよかった!!……………ああ、」
大声を張り上げるミーナは、唐突にその動きを止める。
ゆっくりとした動作で雲しかない天を仰ぎ、ミーナは呟くようにこう言った。
「キミは想像以上に危険だ」
ポロリ、とミーナの手の中から滑るようにガラス玉が地面に落ちた。
しかしそのガラス玉は回らない。まるで写真を上から下に動かすように無回転でゆっくりとガラス玉は地に向かっていく。
そして、ガラス玉が地面に触れたか触れなかったかの瞬間。
パキィィィン!!とかん高い音と共にガラス玉が割れ、
と、ミーナは突然額に指を当て、思案するかのように首を傾げる。
「そういや、キミはローマ正教の『神の右席』ってのを知らないのか………」
「知らねェなァ…どっかの宗教組織にある一つ一つの部署なンざ覚えちゃいねェよ」
「違うよ。知らないことが”当たり前”なんだ。『神の右席』はあの巨大な魔術結社の中にも限られた人数しかその存在を知らないんだから」
「そりゃゴ偉いこって…ンで?その『神の右席』様がこの学園都市や妹達(シスターズ)になンのようだァ?」
「それは知ってるんでしょ、白髪少年A。ボク達はこの学園都市を”潰し”に来たんだ」
「解せねェな……そこが解せねェンだよ」
一方通行は怪訝そうな表情を浮かべる。彼の頭の中にはいくつかの疑問が渦巻いていた。
「なンで学園都市を潰すために”『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴と学園都市に残る全ての妹達(シスターズ)を確保しよう”としたかが理解できねェ」
ピクリ、とミーナの頬が動いた。その動作を一方通行は見逃さなかった。
「学園都市の第一位であるオレを殺したいってェのは分かる。そのための人質として妹達(シスターズ)を確保しようってェのも分かる。じゃあ、『超電磁法(レールガン)』はなンだ?そして、なンで学園都市に残る『全て』の妹達(シスターズ)を捕まえる必要がある?人質として使うンなら一人でも充分だろォ?」
「保険として妹達(シスターズ)を確保しておきたいってェなら複数の人質を取ることに違和感はねェ。けど、それにしてはテメェらの行動には無駄がありすぎンだよォ」
「オレを殺すための人質に使う妹達(シスターズ)を捕まえるためになンでオレと戦ってンだァ?それじゃあ本末転倒だろォ?」
「テメェらいったい…………何を企ンでやがる?」
「………、」
一方通行の言葉を静かに聞いていたミーナは顔を俯いたまま黙っていた。
相対する少年も、二人の会話を無表情な顔でただ傍観している。
それらを無言で見つめる御坂妹も一方通行の提示した疑問に答えることはできなかった。
数秒の沈黙。
不意に、ミーナの肩が不自然に震え始めた。
「……クク…、クフフフ…クク、ハハ…」
自然に口から流れるのではなく、口からでようとするものを押し殺すように。
手を額に当て何かを堪えるようにミーナは肩を震わせる。
「ハハ…、ハハハハ…………」
そして、限界が来たかのように、堪え切れなくなったようにミーナは笑いだした。
「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!ハハハ、凄い!!凄いよ学園都市の第一位!!!ボクらと戦ってる中でそんなとこまで考える余裕があるなんてッ!!!」
狂ったように笑うミーナが話す言葉を聞きながら一方通行の目は少しずつ細められていく。
「想像以上だよ!!やはり、計画を先倒ししてまでキミと会ってよかった!!……………ああ、」
大声を張り上げるミーナは、唐突にその動きを止める。
ゆっくりとした動作で雲しかない天を仰ぎ、ミーナは呟くようにこう言った。
「キミは想像以上に危険だ」
ポロリ、とミーナの手の中から滑るようにガラス玉が地面に落ちた。
しかしそのガラス玉は回らない。まるで写真を上から下に動かすように無回転でゆっくりとガラス玉は地に向かっていく。
そして、ガラス玉が地面に触れたか触れなかったかの瞬間。
パキィィィン!!とかん高い音と共にガラス玉が割れ、
キュガッ!!と呆然と立ち尽くす御坂妹の周りに水の槍が数十本展開された。
「なッ!?」
その光景を見た御坂妹と一方通行の目が大きく見開かれる。
「ア、ハハハハ……、」
乾いた笑い声を出して、ミーナは一歩だけ踏み出す。
「もう、いらないよ。お人形さん♪」
今までの活発そうな笑顔を凍ったような微笑みに変えてミーナは手を大きく振り上げた。
その手の動きに合わせるように水の槍は鋭さを増し、
「テメェ!何やって―――――」
「……………ほら、またよそ見した」
少年が勢いよく手を振るう。その手の動きに合わせるように大きな風の鎌が一方通行の元へと突き進み、
「……………ボン」
一方通行の目の前で炸裂。炸裂した風の鎌は一方通行の周りにある空気を強制的に押し出し、擬似的な真空状態を作り出す。
「………ゴッ、ホ」
一方通行の身体が軋み、真空状態の中で意識が飛びそうになる。
(クソがァァァァ!!邪魔してンじゃねェよ!!)
足の裏のベクトルを操作し、飛ぶようにその『場』から離れた。
「……………よそ見をするな。こちらを見ろ。キミの相手はこの僕だ」
「チィ…ッ!」
ヒュ、と空を切る音が小さく響いた。
一方通行が落ちていた小石を少年の方に蹴りあげた音だ。
ガゴン!!と小石が少年の目の前で見えない壁に当り衝撃波が辺りにまき散らされる。
「……………そんなもので……ッ!?」
「終わってねェぞ」
一方通行が屋上の地面を踏みつけた。どうベクトルを操作したのか、人の頭程度のコンクリートの塊が地面からくり抜かれたように空中に飛び出す。
それが合計、五つ。
その一つ一つを一方通行は思い切り拳で撃つ。
ゴガン!!とコンクリの塊が少年の見えない壁にぶつかり砲弾が壁を砕くような大きな音が屋上にこだました。
少年の居た辺りにコンクリの粉塵が宙に舞う。
「ハッ」
そして、一度息を吸い込み一方通行は足元に転がる小石を二つ丁寧に蹴りあげた。
ちょうど目の高さに上がる二つの小石。
その二つを一方通行は全力で弾いた。
二つの小石は直進し、粉塵の立ちこめる場所でお互いに撃ち合わせる。
バチン。と、
生じるのは小さな火花。
しかし、少年が居る細かい粉末の漂う空間で火花が生じることは大きな意味がある。
その光景を見た御坂妹と一方通行の目が大きく見開かれる。
「ア、ハハハハ……、」
乾いた笑い声を出して、ミーナは一歩だけ踏み出す。
「もう、いらないよ。お人形さん♪」
今までの活発そうな笑顔を凍ったような微笑みに変えてミーナは手を大きく振り上げた。
その手の動きに合わせるように水の槍は鋭さを増し、
「テメェ!何やって―――――」
「……………ほら、またよそ見した」
少年が勢いよく手を振るう。その手の動きに合わせるように大きな風の鎌が一方通行の元へと突き進み、
「……………ボン」
一方通行の目の前で炸裂。炸裂した風の鎌は一方通行の周りにある空気を強制的に押し出し、擬似的な真空状態を作り出す。
「………ゴッ、ホ」
一方通行の身体が軋み、真空状態の中で意識が飛びそうになる。
(クソがァァァァ!!邪魔してンじゃねェよ!!)
足の裏のベクトルを操作し、飛ぶようにその『場』から離れた。
「……………よそ見をするな。こちらを見ろ。キミの相手はこの僕だ」
「チィ…ッ!」
ヒュ、と空を切る音が小さく響いた。
一方通行が落ちていた小石を少年の方に蹴りあげた音だ。
ガゴン!!と小石が少年の目の前で見えない壁に当り衝撃波が辺りにまき散らされる。
「……………そんなもので……ッ!?」
「終わってねェぞ」
一方通行が屋上の地面を踏みつけた。どうベクトルを操作したのか、人の頭程度のコンクリートの塊が地面からくり抜かれたように空中に飛び出す。
それが合計、五つ。
その一つ一つを一方通行は思い切り拳で撃つ。
ゴガン!!とコンクリの塊が少年の見えない壁にぶつかり砲弾が壁を砕くような大きな音が屋上にこだました。
少年の居た辺りにコンクリの粉塵が宙に舞う。
「ハッ」
そして、一度息を吸い込み一方通行は足元に転がる小石を二つ丁寧に蹴りあげた。
ちょうど目の高さに上がる二つの小石。
その二つを一方通行は全力で弾いた。
二つの小石は直進し、粉塵の立ちこめる場所でお互いに撃ち合わせる。
バチン。と、
生じるのは小さな火花。
しかし、少年が居る細かい粉末の漂う空間で火花が生じることは大きな意味がある。
ゴッバァァァァァァァン!!という轟音とともにいくつかの音が掻き消えた。
少年の居た周りの空間がすべて爆弾に変り、大きな衝撃波が屋上を襲う。
ただでも古びて壊れやすくなっているビルは爆発でグラグラと大きく揺れた。
そして、爆発により発生する熱風と衝撃波が襲うのは一方通行だけではなかった。
「もう!面倒だなぁ!!邪魔するなよ!」
御坂妹を襲う数十本の水の槍はその衝撃に押され散り、攻撃命令を下そうとしたミーナは忌々しそうに眉をひそめ衝撃に耐えている。
そんな熱風と衝撃波が荒れ狂う屋上の中、御坂妹は不思議となんの被害も受けてはいなかった。
まるで、何かが御坂妹を護るように害なすものはすべて彼女を避けていく。
「……、」
誰が彼女を護っているかなど、わからないはずがなかった。
(また……護られてしまいました、とミサカは一人唇を噛みしめます)
ギリッ、と自然と拳に力が入った。
そんな御坂妹を尻目に状況は進んでいく。
熱風と衝撃波が唐突に止んだ。
なんの脈絡もなく、なんの前兆もなく。
全ての風が動きを止めた。
「……………粉塵爆発とは……考えたものだね」
煙や粉塵が視界を完全に塞ぐ中。
いまだに粉塵と煙の漂う場所から、そんな声が聞こえた。
その声はどこまでも平坦で、どこまでも抑揚のない声で、大きく不安をあおるような無機質な声だった。
まるで、先ほどから”何もなかったかのように”その声に変化はない。
「……………学園都市の暗部組織〔パンドラ〕の構成員、神田和真」
直後。
ビュォォォ!!と風が大きく吹いた。
その風は一方通行や、御坂妹の視界を塞いでいた煙や粉塵を吹き飛ばし、二人の視界に一つの光景を映しだす。
「それが僕の名前だ」
それは、額から一筋の血が流れている少年。
頭から血を流しながらも、しっかりと空中に足を立てている、神田和真の姿だった。
「しぶてぇ野郎だなァ」
「……………あいにく、そう簡単に死ぬわけにはいかなくてね」
片目をつむり、右手を自分の頭に当てながら、
「……………まだやり残したことがたくさんあるんだ」
それにしても、と神田は大きく、わざとらしくため息をついた。
「……………キミがそのクローンをそこまでして護ろうとするのは僕にはどうにも理解しがたい」
ピクリ、と一方通行の頬が動いた。
「……………だってそうだろう?そのクローン、聞けば全世界に一万と居るようじゃないか。その中の一体くらい死んでもいいとは思わないのかい?妹達(シスターズ)。それは一方通行(アクセラレータ)を絶対能力者(LEVEL.6)に進化させるために作られた体細胞クローン、だっけ?その存在意義は『殺されること』だったはずだ。それをとある少年に敗れたキミのせいで存在理由をなくしているじゃないか。そんな”もの”ならいっその事殺してしまったほうがいいだろう」
神田が屋上の端で身構えながらも何もしない、御坂妹の方へと視線を向ける。
「罪滅ぼしのつもりかい?でも、よく考えてもみなよ。キミが『あれ』らを殺した理由は”彼女たちが望んだこと”だからじゃないか。みずから殺されにきているやつを殺してどうしてキミがそいつらに罪滅ぼしなんてことをしなくちゃいけないんだ。そして、僕が最も理解できないのが、どうして妹達(シスターズ)が被害者ぶってキミに護ってもらっているかということだよ。キミたちの関係は『加害者と被害者』ではなく『共犯者』だ。『あれ』らが自らの責任をすべてキミに押し付けていることになぜ気付かない?」
無表情な顔で、淡々と的確に神田は言葉を紡ぐ。
「……………そもそも、僕にはあんな『人形』を人間として扱っているキミの――――――」
「うっせェンだよ」
一方通行の呟くような一言が神田の言葉を遮った。
その言葉を受け、神田の口の動きが停まる。
「くだらねェことをいつまでもペラペラペラペラ喋りやがってェ…オレの行動理由が理解出来ないだァ?当たり前だろォ」
一方通行は言いながら一歩を踏み出した。カツコツと靴を鳴らしながら一方通行は神田へと、正確には神田の真下へとゆっくりと歩を進める。
先ほどからの戦闘でぐちゃぐちゃになっている地面に目もくれず、神田にだけ目を向けた。
ただでも古びて壊れやすくなっているビルは爆発でグラグラと大きく揺れた。
そして、爆発により発生する熱風と衝撃波が襲うのは一方通行だけではなかった。
「もう!面倒だなぁ!!邪魔するなよ!」
御坂妹を襲う数十本の水の槍はその衝撃に押され散り、攻撃命令を下そうとしたミーナは忌々しそうに眉をひそめ衝撃に耐えている。
そんな熱風と衝撃波が荒れ狂う屋上の中、御坂妹は不思議となんの被害も受けてはいなかった。
まるで、何かが御坂妹を護るように害なすものはすべて彼女を避けていく。
「……、」
誰が彼女を護っているかなど、わからないはずがなかった。
(また……護られてしまいました、とミサカは一人唇を噛みしめます)
ギリッ、と自然と拳に力が入った。
そんな御坂妹を尻目に状況は進んでいく。
熱風と衝撃波が唐突に止んだ。
なんの脈絡もなく、なんの前兆もなく。
全ての風が動きを止めた。
「……………粉塵爆発とは……考えたものだね」
煙や粉塵が視界を完全に塞ぐ中。
いまだに粉塵と煙の漂う場所から、そんな声が聞こえた。
その声はどこまでも平坦で、どこまでも抑揚のない声で、大きく不安をあおるような無機質な声だった。
まるで、先ほどから”何もなかったかのように”その声に変化はない。
「……………学園都市の暗部組織〔パンドラ〕の構成員、神田和真」
直後。
ビュォォォ!!と風が大きく吹いた。
その風は一方通行や、御坂妹の視界を塞いでいた煙や粉塵を吹き飛ばし、二人の視界に一つの光景を映しだす。
「それが僕の名前だ」
それは、額から一筋の血が流れている少年。
頭から血を流しながらも、しっかりと空中に足を立てている、神田和真の姿だった。
「しぶてぇ野郎だなァ」
「……………あいにく、そう簡単に死ぬわけにはいかなくてね」
片目をつむり、右手を自分の頭に当てながら、
「……………まだやり残したことがたくさんあるんだ」
それにしても、と神田は大きく、わざとらしくため息をついた。
「……………キミがそのクローンをそこまでして護ろうとするのは僕にはどうにも理解しがたい」
ピクリ、と一方通行の頬が動いた。
「……………だってそうだろう?そのクローン、聞けば全世界に一万と居るようじゃないか。その中の一体くらい死んでもいいとは思わないのかい?妹達(シスターズ)。それは一方通行(アクセラレータ)を絶対能力者(LEVEL.6)に進化させるために作られた体細胞クローン、だっけ?その存在意義は『殺されること』だったはずだ。それをとある少年に敗れたキミのせいで存在理由をなくしているじゃないか。そんな”もの”ならいっその事殺してしまったほうがいいだろう」
神田が屋上の端で身構えながらも何もしない、御坂妹の方へと視線を向ける。
「罪滅ぼしのつもりかい?でも、よく考えてもみなよ。キミが『あれ』らを殺した理由は”彼女たちが望んだこと”だからじゃないか。みずから殺されにきているやつを殺してどうしてキミがそいつらに罪滅ぼしなんてことをしなくちゃいけないんだ。そして、僕が最も理解できないのが、どうして妹達(シスターズ)が被害者ぶってキミに護ってもらっているかということだよ。キミたちの関係は『加害者と被害者』ではなく『共犯者』だ。『あれ』らが自らの責任をすべてキミに押し付けていることになぜ気付かない?」
無表情な顔で、淡々と的確に神田は言葉を紡ぐ。
「……………そもそも、僕にはあんな『人形』を人間として扱っているキミの――――――」
「うっせェンだよ」
一方通行の呟くような一言が神田の言葉を遮った。
その言葉を受け、神田の口の動きが停まる。
「くだらねェことをいつまでもペラペラペラペラ喋りやがってェ…オレの行動理由が理解出来ないだァ?当たり前だろォ」
一方通行は言いながら一歩を踏み出した。カツコツと靴を鳴らしながら一方通行は神田へと、正確には神田の真下へとゆっくりと歩を進める。
先ほどからの戦闘でぐちゃぐちゃになっている地面に目もくれず、神田にだけ目を向けた。
「それがお前とオレの差だ」
その言葉で神田の表情が変わった。
ニタァ…とまるで三日月のように口を大きく裂いたような笑みを浮かべる。
「……………焦躁はなし。一瞬も動じず、周りへの警戒も解かない。”作戦は失敗、か”……よかった」
神田が緩やかに左手を振るう。
と、突然御坂妹の真上に人一人を簡単に押しつぶすほどの大型バスが現れた。
「はァ?ンなもンどこから…………」
正確には違う。最初からそこにあったのだ。
神田の能力による光学迷彩で、その姿が見えなくなっていただけ。
「……………キミの隙をついて殺すなんてつまらない。今、この瞬間。ある意味で僕の目的は達成された」
神田が右腕を上げる。握られた拳はまるで何かを掴んでいるかのように見えた。
「……………さあ、護ってみなよ」
拳を開く。
ガウン!と大型バスの車両が御坂妹に向かって襲いかかった。
神田の能力で空中に支えられていた車両は支えを失い、万有引力の法則に従い地面に垂直に落ちてくる。
「クソッタレがァ!!」
一方通行が地を蹴った。コンクリの地面を爆砕させながら一方通行は大型バスの側面へと激突する。
大型バスは一方通行の突撃を受けて、真横に跳ねた。
壊すのではない。あえてその車両を屋上から外に弾きだすことで、御坂妹への被害をゼロにしたのだ。
しかし、その行動は事態を悪化させる。
「ひっかかったぁ!!」
そんな声が一方通行の耳に響いた。
空中から下を見ると、ミーナが手のひらを地面に押し付けているのが見える。
直後。
ゴバン!!と御坂妹の真後ろにある貯水タンクが破裂し、長年放置され変色した中の水が外に解放された。
よく見ると貯水タンクに青い色をした魔方陣が描かれていることがわかっただろう。
「自分の身体じゃなくて、何かのもので車両を吹き飛ばせばよかったのに。空中じゃ身動きが取れないことを忘れちゃダメだよ!」
ミーナの腕の動きに従うように、変色した水が小さな津波を形成し御坂妹に襲いかかる。
「くぅ…ッ!!」
御坂妹は足にありったけの力をいれ横に飛ぶようにして津波を回避した。
地面を滑る御坂妹は次の攻撃に備え、体制を立て直そうと足に力を入れる。
が、
「……………大人しくキミは捕まってればいいんだよ」
いつの間にか前に移動していた神田の回し蹴りが御坂妹の脇腹に直撃した。
身体がくの字に曲がり、ごふぅ…と肺の中の空気が強制的に外に吐き出される。
膝を折る御坂妹。そんな彼女を大量の水が包み込んだ。
「がぼっ」
そして、回転。渦巻く水は何ものも逃がさない牢獄となり、御坂妹をそこに幽閉した。
水の中で息も出来ず、回転する水で頭の思考回路がショートした御坂妹は水中でただもがくことしかできない。
平衡感覚がなくなり、少しずつ意識が遠のいていく。
そして、
ゴッパァァン!!と水の檻に突撃してきた一方通行が無理やり御坂妹を檻から引きづり出した。
「しっかりしろ!こンなことまでさせといて死ンだら承知しねェぞ!!」
一方通行の腕の中で御坂妹はぐったりと身体の力が抜け、辛そうに息をしている。
どうやら意識を失ったようだ。
(これ以上は無理だァ…どうにかしてここから逃げださねェと…ッ!?)
しかし、状況は一方通行に思考の時間を与えてくれはしない。
御坂妹を抱える一方通行の前にミーナ=シンクジェリが躍り出た。
「キミがその娘を抱えるその瞬間を待ってたよ!!」
満面の笑みで叫ぶミーナは手にしているガラス玉をあらぬ方向に投げ捨てた。
パッキィィィン!!とかん高い音と共にガラス玉が破裂し、大量の水があふれ出す。
「物に触れている時に触れている部分に『反射』は適応してないんでしょう?じゃないと、何にも触れることが出来ないんだから」
と、溢れ出した大量の水がミーナの指先に集まり始めた。
圧縮するように小さくなっていく水の塊は直径、3センチくらいになるところでその動きを止める。
「つまりは、”その娘もろとも貫いてしまえばキミの『反射』は効果をなさない”!!」
ミーナが水の塊を集めている指先を腕を動かすことで横薙ぎに振るった。
シュン、と空を切る音。
一方通行は『それ』を上に飛ぶことで回避する。
瞬間、ズバァァ!!と屋上の一部が両断された。
水の塊から音速を軽く超えるマッハ4程の速度で射出された水がコンクリートを両断したのだ。
(ウォーターカッターかァ!?)
「さっきも言ったのにもう忘れたの?空中じゃ身動きが取れないんだよ!!」
上を見上げ、ミーナは照準を上へと飛んだ一方通行に向ける。
再び、腕を横薙ぎに振るった。ダイヤモンドすらも切り裂く水の刃が途中にあるものすべてを切断しながら一方通行へと迫る。
「クッソがァァァァ!!!」
一方通行は空中で無理やり身体を回転させ、ミーナに背中を見せた。
その背中にウォーターカッターが激突する。
直後。
ズバァァァン!!と一方通行の能力によりベクトルを変換させられたウォーターカッターは真下にあるビルを一刀両断した。
あまりにも綺麗に切断されたビルは倒壊することもなく、こつぜんとそこに立つ。
ミーナの水のベクトルを操れない一方通行の意図してのことではなかったが、そのことは一方通行にとって好都合だった。
(今、ここでやるべきことは一つだけ。御坂妹(コイツ)を連れてどこか安全な場所に移動することだァ。だったら…)
一方通行は着地する時のエネルギーを使い、全力で屋上の地面を踏み潰す。
ニタァ…とまるで三日月のように口を大きく裂いたような笑みを浮かべる。
「……………焦躁はなし。一瞬も動じず、周りへの警戒も解かない。”作戦は失敗、か”……よかった」
神田が緩やかに左手を振るう。
と、突然御坂妹の真上に人一人を簡単に押しつぶすほどの大型バスが現れた。
「はァ?ンなもンどこから…………」
正確には違う。最初からそこにあったのだ。
神田の能力による光学迷彩で、その姿が見えなくなっていただけ。
「……………キミの隙をついて殺すなんてつまらない。今、この瞬間。ある意味で僕の目的は達成された」
神田が右腕を上げる。握られた拳はまるで何かを掴んでいるかのように見えた。
「……………さあ、護ってみなよ」
拳を開く。
ガウン!と大型バスの車両が御坂妹に向かって襲いかかった。
神田の能力で空中に支えられていた車両は支えを失い、万有引力の法則に従い地面に垂直に落ちてくる。
「クソッタレがァ!!」
一方通行が地を蹴った。コンクリの地面を爆砕させながら一方通行は大型バスの側面へと激突する。
大型バスは一方通行の突撃を受けて、真横に跳ねた。
壊すのではない。あえてその車両を屋上から外に弾きだすことで、御坂妹への被害をゼロにしたのだ。
しかし、その行動は事態を悪化させる。
「ひっかかったぁ!!」
そんな声が一方通行の耳に響いた。
空中から下を見ると、ミーナが手のひらを地面に押し付けているのが見える。
直後。
ゴバン!!と御坂妹の真後ろにある貯水タンクが破裂し、長年放置され変色した中の水が外に解放された。
よく見ると貯水タンクに青い色をした魔方陣が描かれていることがわかっただろう。
「自分の身体じゃなくて、何かのもので車両を吹き飛ばせばよかったのに。空中じゃ身動きが取れないことを忘れちゃダメだよ!」
ミーナの腕の動きに従うように、変色した水が小さな津波を形成し御坂妹に襲いかかる。
「くぅ…ッ!!」
御坂妹は足にありったけの力をいれ横に飛ぶようにして津波を回避した。
地面を滑る御坂妹は次の攻撃に備え、体制を立て直そうと足に力を入れる。
が、
「……………大人しくキミは捕まってればいいんだよ」
いつの間にか前に移動していた神田の回し蹴りが御坂妹の脇腹に直撃した。
身体がくの字に曲がり、ごふぅ…と肺の中の空気が強制的に外に吐き出される。
膝を折る御坂妹。そんな彼女を大量の水が包み込んだ。
「がぼっ」
そして、回転。渦巻く水は何ものも逃がさない牢獄となり、御坂妹をそこに幽閉した。
水の中で息も出来ず、回転する水で頭の思考回路がショートした御坂妹は水中でただもがくことしかできない。
平衡感覚がなくなり、少しずつ意識が遠のいていく。
そして、
ゴッパァァン!!と水の檻に突撃してきた一方通行が無理やり御坂妹を檻から引きづり出した。
「しっかりしろ!こンなことまでさせといて死ンだら承知しねェぞ!!」
一方通行の腕の中で御坂妹はぐったりと身体の力が抜け、辛そうに息をしている。
どうやら意識を失ったようだ。
(これ以上は無理だァ…どうにかしてここから逃げださねェと…ッ!?)
しかし、状況は一方通行に思考の時間を与えてくれはしない。
御坂妹を抱える一方通行の前にミーナ=シンクジェリが躍り出た。
「キミがその娘を抱えるその瞬間を待ってたよ!!」
満面の笑みで叫ぶミーナは手にしているガラス玉をあらぬ方向に投げ捨てた。
パッキィィィン!!とかん高い音と共にガラス玉が破裂し、大量の水があふれ出す。
「物に触れている時に触れている部分に『反射』は適応してないんでしょう?じゃないと、何にも触れることが出来ないんだから」
と、溢れ出した大量の水がミーナの指先に集まり始めた。
圧縮するように小さくなっていく水の塊は直径、3センチくらいになるところでその動きを止める。
「つまりは、”その娘もろとも貫いてしまえばキミの『反射』は効果をなさない”!!」
ミーナが水の塊を集めている指先を腕を動かすことで横薙ぎに振るった。
シュン、と空を切る音。
一方通行は『それ』を上に飛ぶことで回避する。
瞬間、ズバァァ!!と屋上の一部が両断された。
水の塊から音速を軽く超えるマッハ4程の速度で射出された水がコンクリートを両断したのだ。
(ウォーターカッターかァ!?)
「さっきも言ったのにもう忘れたの?空中じゃ身動きが取れないんだよ!!」
上を見上げ、ミーナは照準を上へと飛んだ一方通行に向ける。
再び、腕を横薙ぎに振るった。ダイヤモンドすらも切り裂く水の刃が途中にあるものすべてを切断しながら一方通行へと迫る。
「クッソがァァァァ!!!」
一方通行は空中で無理やり身体を回転させ、ミーナに背中を見せた。
その背中にウォーターカッターが激突する。
直後。
ズバァァァン!!と一方通行の能力によりベクトルを変換させられたウォーターカッターは真下にあるビルを一刀両断した。
あまりにも綺麗に切断されたビルは倒壊することもなく、こつぜんとそこに立つ。
ミーナの水のベクトルを操れない一方通行の意図してのことではなかったが、そのことは一方通行にとって好都合だった。
(今、ここでやるべきことは一つだけ。御坂妹(コイツ)を連れてどこか安全な場所に移動することだァ。だったら…)
一方通行は着地する時のエネルギーを使い、全力で屋上の地面を踏み潰す。
ゴガァァァァァン!!という轟音とともに今までの戦闘でボロボロになったビルはダメージに耐えきれずに倒壊した。
「なっ!?」
ミーナが驚きに思わず声を出した。
足場の崩れていく中、一方通行がベクトル変化を使い大きく跳んだのを見た彼女はうっすらと微笑みを顔に浮かばせる。
「さすがは第一位。やってくれるね」
その呟きは、ビル倒壊の音にかき消された。
ミーナが驚きに思わず声を出した。
足場の崩れていく中、一方通行がベクトル変化を使い大きく跳んだのを見た彼女はうっすらと微笑みを顔に浮かばせる。
「さすがは第一位。やってくれるね」
その呟きは、ビル倒壊の音にかき消された。
<11:30 AM>
ゴバン!!と辺り一面瓦礫だらけの場所で小さな爆発が起こった。
飛んでいく瓦礫が音を立てて地に落ちる。
「いや~障壁作ってなかったらホント死んでたよ」
その爆発の中心にミーナ=シンクジェリは笑いながら立っていた。
その身体には傷一つ、埃一つついていない。
「そう簡単に殺させてはくれないみたいだね」
「…………当たり前だよ。彼にだって僕らと同じように『護るべきもの』がある。」
ひとり言のように呟くミーナの言葉に答える声があった。
「カンダ……死んでなかったんだ?」
「…………勝手に殺されたら困るね。だいたい、君に極力被害が及ばないようにしたのは僕だよ」
「わかってるよ。それにしても、彼にはしてやられたね…まさかビルごと破壊するなんて」
「…………最後のあの瞬間、彼は僕から風の制御をいくつか取り返していたしね」
「取り返す?どうやって…」
「…………僕の操る風の動きを逆算して、だろうね。もっとも、彼のことだろうからそれより凄いことをやっていても不思議ではないけれど」
ふ~ん、と呟きミーナは姿の無い声との会話を続ける。
「やっぱり凄いんだね、彼は。見た限りはただのモヤシだったけど…」
「…………彼の力だけでなく、『護るべきもの』があったことも大きいさ」
その声を聞いたミーナは息を吐き、適当な瓦礫の山を選んで腰かける。
「『護るべきもの』ね……ボクはもうなくしちゃった」
青い瞳に悲しみの色をにじませながら呟くミーナはどこか遠くを見るように天を仰ぐ。
「…………キミがなくしたと思っているだけで『護るべきもの』をキミはいくつも持っていると思うよ?」
「気休めだね。今、ボクが護るものなんて自分の意地ぐらいしかないじゃないか」
フフッ、と笑うミーナは指を自らの肉に食い込ませた。
「ボクの魔法名は『Credo952』」
呟くように話すミーナの表情はお世辞にも明るいとは言えないものだった。
「その意は『我がすべては約束のためだけに』さ。この魔法名については確かカンダには話したよね?」
「…………聞いているよ。聞いていなければ僕は魔術師なんていう意味のわからない者と手を組んではいない」
「そっか。そう言えば、クリスは今、何をしてるんだっけ?」
「…………確か『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』を担当してる」
「『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』か……ボクたちローマ正教徒としては存在を許してはいけないもの。神を冒涜する罪深き罪人」
「…………神やらなにやら、何度聞いても僕は理解できないよ」
それでいいのさ、とミーナは風に髪をあおられながら目を細めた。
「キミ達『科学』がボクたち『魔術』なんてものを理解する必要はない。無理に理解しようとすればそれだけでなにか問題が起きるだけだから」
その言葉に、姿なき声は押し黙る。
「本来、相容れるものではないボクらがこうして共闘してることがすでに驚きさ。いくら目的は同じでも所詮は水と油。まじわることは出来やしないんだ」
どこか、悲しげな表情をするミーナは何もかもを諦めたような顔でそう言った。
と、ミーナが腰かけていた場所から尻を上げる。
「さぁて、無駄話は終わり。さっさとボクらの本来の仕事に戻ろう」
その表情は先ほどのような曇りはなく、いつものような明るい表情だった。
「……………じゃあ、確認しよう。次に僕らが狙う標的は?」
トッ、とミーナの隣に緑色の髪をした少年が降り立つ。
その無表情な顔はどこか寂しそうな色が浮かんでいるように見えた。
「10万3000冊の魔導書を管理する魔導書図書館。『禁書目録(インデックス)』の回収」
何度も同じことを言ってきたかのように事務的な言葉。
しかし、言葉のように簡単に口にできるほど、この仕事は楽なものではない。
それが分かっていながらも二人の少年少女は止まらない。
その理由は、ただの目的のためか、ただの意地のためか。
はたまた、まったく別のもののためか。
そうして、二人の男女はその場から姿を消した。
飛んでいく瓦礫が音を立てて地に落ちる。
「いや~障壁作ってなかったらホント死んでたよ」
その爆発の中心にミーナ=シンクジェリは笑いながら立っていた。
その身体には傷一つ、埃一つついていない。
「そう簡単に殺させてはくれないみたいだね」
「…………当たり前だよ。彼にだって僕らと同じように『護るべきもの』がある。」
ひとり言のように呟くミーナの言葉に答える声があった。
「カンダ……死んでなかったんだ?」
「…………勝手に殺されたら困るね。だいたい、君に極力被害が及ばないようにしたのは僕だよ」
「わかってるよ。それにしても、彼にはしてやられたね…まさかビルごと破壊するなんて」
「…………最後のあの瞬間、彼は僕から風の制御をいくつか取り返していたしね」
「取り返す?どうやって…」
「…………僕の操る風の動きを逆算して、だろうね。もっとも、彼のことだろうからそれより凄いことをやっていても不思議ではないけれど」
ふ~ん、と呟きミーナは姿の無い声との会話を続ける。
「やっぱり凄いんだね、彼は。見た限りはただのモヤシだったけど…」
「…………彼の力だけでなく、『護るべきもの』があったことも大きいさ」
その声を聞いたミーナは息を吐き、適当な瓦礫の山を選んで腰かける。
「『護るべきもの』ね……ボクはもうなくしちゃった」
青い瞳に悲しみの色をにじませながら呟くミーナはどこか遠くを見るように天を仰ぐ。
「…………キミがなくしたと思っているだけで『護るべきもの』をキミはいくつも持っていると思うよ?」
「気休めだね。今、ボクが護るものなんて自分の意地ぐらいしかないじゃないか」
フフッ、と笑うミーナは指を自らの肉に食い込ませた。
「ボクの魔法名は『Credo952』」
呟くように話すミーナの表情はお世辞にも明るいとは言えないものだった。
「その意は『我がすべては約束のためだけに』さ。この魔法名については確かカンダには話したよね?」
「…………聞いているよ。聞いていなければ僕は魔術師なんていう意味のわからない者と手を組んではいない」
「そっか。そう言えば、クリスは今、何をしてるんだっけ?」
「…………確か『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』を担当してる」
「『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』か……ボクたちローマ正教徒としては存在を許してはいけないもの。神を冒涜する罪深き罪人」
「…………神やらなにやら、何度聞いても僕は理解できないよ」
それでいいのさ、とミーナは風に髪をあおられながら目を細めた。
「キミ達『科学』がボクたち『魔術』なんてものを理解する必要はない。無理に理解しようとすればそれだけでなにか問題が起きるだけだから」
その言葉に、姿なき声は押し黙る。
「本来、相容れるものではないボクらがこうして共闘してることがすでに驚きさ。いくら目的は同じでも所詮は水と油。まじわることは出来やしないんだ」
どこか、悲しげな表情をするミーナは何もかもを諦めたような顔でそう言った。
と、ミーナが腰かけていた場所から尻を上げる。
「さぁて、無駄話は終わり。さっさとボクらの本来の仕事に戻ろう」
その表情は先ほどのような曇りはなく、いつものような明るい表情だった。
「……………じゃあ、確認しよう。次に僕らが狙う標的は?」
トッ、とミーナの隣に緑色の髪をした少年が降り立つ。
その無表情な顔はどこか寂しそうな色が浮かんでいるように見えた。
「10万3000冊の魔導書を管理する魔導書図書館。『禁書目録(インデックス)』の回収」
何度も同じことを言ってきたかのように事務的な言葉。
しかし、言葉のように簡単に口にできるほど、この仕事は楽なものではない。
それが分かっていながらも二人の少年少女は止まらない。
その理由は、ただの目的のためか、ただの意地のためか。
はたまた、まったく別のもののためか。
そうして、二人の男女はその場から姿を消した。