とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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匿名ユーザー

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<12:36 PM>



風紀委員活動第一七七支部。
学校と言うよりどこかのオフィスに近い一室。
そこには市役所にあるようなビジネスやコンピュータが何台も置いてある。
朝だというのに、生憎の曇り天気により室内は暗く、起動するいくつかのコンピュータの光だけが薄く光っており、学園都市の治安を守る風紀委員(ジャッジメント)が拠点とするその場所には、風紀委員(ジャッジメント)の証たる腕章をつけた二人の少女がそれぞれのコンピュータの画面をかじりつくように見ていた。
「だめですわ……どこを探しても見つかりませんの…、」
目の前のコンピュータの画面から目を離し、椅子の背もたれに全体重を乗せながら背伸びして、今にも消えてしまいそうな言葉を漏らすのは特徴的なツインテールに、常盤台中学の制服を着た『空間移動(LEVEL.4)』の少女。
御坂美琴のルームメイトにして、彼女の後輩である白井黒子だ。
「まだです…ッ!まだ諦めるのは早すぎます!!路地裏であろうと公園の端であろうとすみずみまで探してください!!」
白井の言葉に対し荒げた声を出すのは、短めの黒い髪の上に花を模した飾りをつけた一人の少女。
カタカタとキーボードを叩きながらコンピュータの画面を目まぐるしく変化させ、白井とは違う青いセーラー服を着ているのは、御坂美琴の友達にして、白井黒子の親友である初春飾利である。
日曜日という休みの日に、二人の中学生女子がこの風紀委員(ジャッジメント)の支部に早朝から来て、キーボードを叩くのには理由があった。


一週間前から『御坂美琴』が行方不明なのだ。


原因は不明。何の前兆もなく、唐突に消えた。その発覚は五日前のことである。
最初の一日、二日はルームメイトの白井が『いつものこと』としていたが、三日目に寮監から『御坂がこの二日間、授業を無断欠席している』と聞き詳しく調べてみたところ御坂美琴がその二日間『学び舎の園』から……ついには学園都市から消えていることがわかった。
その状況に対し『学園都市の頂点である超能力者(LEVEL.5)の第三位、御坂美琴が行方不明』という情報が流れるのを嫌った学園都市上層部は一部の風紀委員(ジャッジメント)と警備員(アンチスキル)に緊急で捜索を命令した。
その命令にいち早く反応したのが、この二人の少女である。
「それにしても、学園都市の監視カメラに一週間も映らないなんてありえるのでしょうか?」
白井はスチール製のビジネスデスクの端に置いてあるコーヒーを手に取り、一口含む。
眠気を飛ばす苦味が口の中にジワリと広がった。
「お姉さまの能力ならば監視カメラの一つや二つ誤作動を起こさせることはできると思いますが、そうする理由がわかりませんわね」
そう言う白井だったが、実のところ一つだけ思い当たるふしがあった。
また、何かの問題に首を突っ込んでいるのだ。
自分の問題に誰かが巻き込まれることを非常に嫌う美琴が、誰にも言わずに一人で問題を解決しようとすることは今までに何度もあった。
あのコンテナ置き場であった、夏休みのなにか。
『残骸(レムナント)』を巡っての結標との一件。
どちらも命に関わる大きな事件だと容易に想像できる。
そんな事件なのにも関わらず、白井がそれに気付いたのはすべてが終わった後。よくて、すべてが終わる少し前だ。
そして、気付いてもなお白井はその事件の全容を掴めてはいなかった。
「お姉様…、」
いったいどこに……、と声に出さずに口だけを動かして白井は呟いた。
「白井さん!ボーっとすることなら誰にだって出来るんですから、手を動かしてください!」
パソコンの陰から顔を出し、初春が白井を睨む。
目の下に隈を作る初春はこれでもかと言わんばかりに声を荒げた。
「御坂さんがいなくなって、もう一週間なんですよ!?もし、飲まず食わずで監禁でもされていたら……」
そこから先の言葉を白井は聞いていなかった。聞こえなかったではなく、聞かなかった。
初春の言葉にちくわ耳を傾けながら、白井は嘆息する。
二日前から、ずっと初春はこんな調子だった。
捜査を始めた五日前はこんなにも混乱していなかったはずなのに、二日前から突然こうだ。
「初春……、」
何かあったのか、と聞いても初春は答えてくれない。
『私の心配をするのなら、まずは御坂さんの心配をしてください』
こちらを見ずにそう言った初春の言葉に白井は従ったが。
……これ以上は無理のようだ。
「初春……、この二日間ロクに飲み食いせずに寝ていないはあなたの方でしょう?少しは睡眠を取ってくださいまし」
「私の心配はいりません!そんな時間があるなら、御坂さんを探すことに集中してください!!」
「ならば、潔く私の意見に従いなさい。あなたに倒れられるとわたくしも非常に迷惑しましてよ」
「私は、御坂さんを見つけるまでは絶対に倒れませんッ!!」
何を根拠に、と白井は椅子から立ち上がり初春の座るビジネスデスクへ近づく。
よっぽど集中していたのか、白井が隣に来るまで初春は気付かなかったが、その存在を知ると横目でちらりと白井を見て、再びパソコンの画面へと目を向けた。
「何度も言うように白井さんは私の心配をせずに御坂さんの心配をしてください」
「”何度も言うように”あなたは自分のことを考えて、少し休憩なさい」
「……、」
白井の言葉を無視し、初春はカタカタとキーボードを叩く。
どこまでいっても無機質なキーボードを叩く音は、沈黙という状況下においてとても大きく響いた。
不意に白井は初春の手を取る。
「……離してください」
ギロリ、という効果音がつきそうなぐらいに、初春が白井を睨みつける。
白井はそんな一睨みを受け流すのではなく、真正面から迎え撃った。
「離しません。あなたはやり過ぎですわ」
その言葉に初春は目を見開き、思わずといった風に立ち上がりながら白井の手を振りほどき、己の感情を爆発させた。
「やり過ぎでなにが悪いんです!?友達を助けたい一心でやって、やり過ぎないほうがおかしいんですよ!!」
「初春……、」
「だいだい、白井さんは御坂さんを助ける気があるんですか!?私にずっと休め休め、って!」
「初春……ッ」
「私が休んで、その休んでいる時間に御坂さんが死んでしまったらどうするんです!?そんなのやり切れないじゃないですか!!」
「初春……ッ!」
「私が倒れるだけで、御坂さんが救えるっていうならそれは素晴らしいことじゃ


「いい加減になさいッ!!!」


バシン!!と甲高い音がすると同時、初春の視界が急にぶれた。
頬に鈍い痛みを感じ、身体を大きくのけぞらせることでようやく白井に平手打ちをもらったことに気づく。
初春は思う。なぜ自分が殴られなければならないのか、と。
自分がやっているのは誰かのためだというのに。自分の身を削ってまで誰かを助けられることはとても素晴らしいことのはずなのに。
風紀委員(ジャッジメント)という仕事をしているからこそ、そんな思いは人一倍強い初春だからこそだろう。
白井の行動がひどく理不尽だとしか思えなかった。
いや、白井だからこそ。
同じ風紀委員(ジャッジメント)で、一緒に仕事をしている白井が。
尊敬している親友が、自分のそんな考えを否定することが、とても理不尽に思えた。
「な、にを……」
目尻に、涙を溜めながら、
「何を…………するんですかッ!!」
「そんなことをして、お姉様が喜ぶと思ってますの?」
溢れ出しそうな涙をこらえながら、
「知りませんよ!!そんな細かいことを気にしていたら、救えるものも救えません!!」
「まったく細かくなんてありませんの」
何かを言おうとする初春を白井がガバリと抱きしめた。
初春の頭を持って、胸に押しあてる。今だ発展途中の胸のためか押しあてられた頭が軽く痛かった。
久しぶりに感じる人の温かさと、突然の意味がわからない白井の行動に初春は混乱する。
「何を………するんですか…、」
先ほどと同じ言葉なのに、その質問の意味は大きく違っていた。
そのことを白井は察しながら、初春の頭を撫でてやる。
「初春、あなた一つだけ忘れていることがありますわよ」
女の命である髪はボサボサで、心なしか震えているような初春を腕の中で感じ、白井は幼稚園の先生のような口調で言う。
「あなたの『親友』であるお姉様が心配なのはわたくしだって同じです。いえ、あなたより心配していると言っても過言ではありませんわ」
白井の腕の中で抵抗せず、静かに話を聞く初春に優しく、言い聞かせるように語りかけた。


「でも、あなただってわたくしの『親友』なのでしてよ」


だから、あなたが倒れてもいいなんて言わないで、と。白井は言葉にそんな祈りを込めた。
「ううっ……うっ…」
初春の肩がビクリと揺れたと思うと、嗚咽を漏らしながら白井の胸へと顔を押しつけた。
ジワリと彼女の制服が涙で濡れるが、気にしない。
ギュっと抱きしめてくる初春の腕が妙に心地良かった。
「初春、あなたに聞きたいことがありますの」
嗚咽を止めずに、何も言わない初春の動きをYESと受け取り、白井はもう一度初春の頭を撫でてやった。
「あなた、さっきお姉様を『助ける』とか、『死んだら』とか、言ってましたわね。いったい二日前に何を知りましたの?」
「ううっ…………うっうっ…………夢を……、夢を見たんです」
と、初春が嗚咽を漏らしながらもはっきりとした発音で、
「うっ…ぐすっ……御坂さんが……死んじゃって……皆が、皆……泣いてて………だから、私……」
怖かった、とまでは言葉が続かなかった。
当然だろう。いくら風紀委員(ジャッジメント)と言っても、所詮はただの中学生。
まだ完全に心が成熟していない少女には、本人が行方不明になっている中でのそれ(夢)は耐えきれなかったのだろう。
だからこそ、初春はそんなことにならないようにこの二日間、身体を酷使してまで頑張ったのだ。
「大丈夫。そんなことには絶対になりませんわ。私を、お姉様を信じてあなたは一度休みなさい」
耳元でささやくように、白井は初春にそう言った。





「まったく、苦労をかける相棒ですこと」
どうにか初春をソファーの上に寝かし、布団をかけてやって白井は小さな微笑を浮かべながらそう呟いた。
一度、頭を撫でて腰を上げる。
「この制服……クリーニングに出しませんと」
スースーという寝息に混じって、白井の足音が支部内に響く。
濡れたブレザーをハンカチで適当に拭き、これシミになったりしませんわよね、と一人呟いた。
なんとなく不安になりながらも、白井は自分の机へと戻る。
「あ、そういえば」
と、白井は何を思い出したのか初春の机へと足の向きを変えた。
初春の椅子に座り、キーボードを叩く。
「さっき初春を寝かしつけている時に、何かメールが来ていたのを忘れていましたわ」
マウスを適当に動かしパソコンの画面にメールフォルダを開く。
来ていたのは、一通のメール。
それは警備員(アンチスキル)からの暗号メールだった。
(……来たッ!)
白井は思わず声に出しそうになった。
今日この日に暗号ということはそれは”秘密裏に”進める『御坂美琴捜索』の情報に違いないからだ。
この五日間ずっと待っていたものがやっと届いた喜びに思わず、笑みがこぼれる。
そんな喜びを噛みしめながら、白井は暗号の解読プログラムを起動した。
パソコンの画面に『少しお待ちください』とテロップが表示されるのを確認して白井は背もたれに身体を傾ける。
「……、」
完全解読までの時間、白井は隣で寝息を立てながら寝ている初春の方へと目を向けた。
先ほどの初春の言葉を思い出し、白井は喜びとは違う苦味を噛みしめた。
……不安なのは自分も同じだったから。
美琴が自分に何も言わずに行方不明だなんてただ事ではないのだ。
この一週間、何度心が折れそうになったかなんてわからない。
携帯にメールや着信があればすぐさま手に取るし、寮や支部のドアが開けばすぐさまそちらを見る。
二四時間という一日の時間の全てで御坂美琴を探していた。
「……、」
初春の机の上に置いてある一口も飲まれていないコーヒーを手に取り、口に含む。
「………まずい」
コーヒーは冷たくも温かくもなく半端な温度で、非常に後味の悪いものだった。
紙コップを机の隅に置き、白井はパソコンの画面を見る。
いまだに『少しお待ちください』のテロップが消えない画面の端には一つの映像が映し出されていた。
おそらく、初春が調べていた場所の監視カメラの映像を消し忘れていたのだろう。
暇つぶしにでも、とその映像を興味半分で拡大して、白井は目を見開いた。
その映像の題名が『第一〇学区 通行路監視カメラ』となっているのを確認して、白井はもう一度映像を見る。


ツンツン頭の少年が必死の表情でそこを走っていた。


―――――『そう約束だ。御坂美琴と彼女の周りを守るってな。名前も知らない、キザでいじけ虫な野郎との約束なんだよ』
なぜだか、そんな言葉が白井の頭に響いた。
あの少年は美琴が行方不明なことなど、知らないはずだ。
学園都市が隠す事実をただの高校生であるあの少年が知っているなんて、あるはずがない。
風紀委員(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)の一部しか知らないような事実を、あの少年が知っているなんて、あるはずがない。
だというのに。
それが当たり前のはずなのに。
そんな”細かいこと”を踏まえてもなお、白井はあの少年が美琴を助けるために動いているような気がした。
人込みを避けながら彼は必死に前へと進んでいく。
何かを必死に求めるようなそんな表情。
「第一〇学区……」
そう呟いて、白井は椅子から立ち上がった。
シワが出来たスカートを伸ばし、んーと背伸びしてから顔を洗う。
手元に必要なものを持ち、制服のリボンを正してから軽く風紀委員(ジャッジメント)の腕章に触れて、それを外した。
これから彼女は外に出る。
風紀委員(ジャッジメント)としてではなく、ただ一人の女の子として。
どこに行くかなど、悩む必要はない。
最後に外に出る前にパソコンの電源を落とそうと初春の机へと戻ると、パソコンの画面には『解読が完了しました』、とテロップが表示されていた。
パソコンの光と共に、薄い笑みを顔に浮かばせながら、マウスをいじり、未開封のメール一件を開いた。
そのメールの内容を見て、白井は笑みを深くする。
初春に書置きをし、白井は空間移動(テレポート)で外へと出た。
目指す場所は一つ。
憎たらしいツンツン頭の少年と愛おしい少女の二人がいるであろう場所へと。



思わず電源を落とし忘れたパソコンは淡い光を放ちながら部屋を薄く照らしていた。
そこに表示されているのはいくつかのウィンドウ。
時計や株、天気予報などのウィンドウを覆い隠し、画面の大半を取るのは二つの映像である。
ただの街並みを映す第一〇学区の監視カメラの映像に、先ほど解読が終了した警備員(アンチスキル)からの暗号メールだ。
監視カメラには必死に走る少年の姿も、辛そうに歩く少女の姿も映っていない、普通の映像。
そして、それの一部分を覆い隠して、己の存在を訴える解読された暗号メール。
解読されたメールにはこう記してあった。
『第一〇学区ノ路地裏デ≪御坂美琴≫ノ目撃証言アリ』

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