とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

3

最終更新:

ryuichi

- view
だれでも歓迎! 編集
★★★★★★★★★★★★
「ぬぅ……あれは」
「知っているのか半蔵!」
大通りで繰り広げられる戦闘。
当然のように道行く人々はギャラリーと化し、距離をおいてゲコ太と一方通行に視線を集中させている。
そんなギャラリーの中の男二人組が何やら叫んでいる。
「あぁ、あれは木原神拳……一方通行の育ての親である木原数多、通称木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!が使用した秘拳だ。一方通行の反射が通常は自動でベクトルを逆向きにしていることを逆手に取り、放った拳を寸止めの要領で反射の直前に引き戻すことで『遠ざかる拳』を内側に反射させる攻撃……ッ。原理は簡単だが、光すら反射する一方通行の能力を逆手に取るってお前最早人間じゃねぇだろ、というぶっちゃけありえなーい神の如き技だ!」
「そんな技を使いこなすとは、あのカエル……何者なんだ……ッ!?」

★★★★★★★★★★★★
「ッハ……下らねェ小細工仕掛けやがって。いいぜェ。そっちがその気なら、こっちも手加減なしだァ!」
叫び地を蹴る一方通行はベクトルを操作し、その身を弾丸の速度で飛ばす。
だが、
「何ッ!?」
ゲコ太は上半身を反らしただけで一方通行を避け、更にその腹に膝を撃ち込む。
「ぐはァッ……!?」
当然のように寸止めされたそれは一方通行自身の能力を借りてその身体を上空に舞い上がらせた。
「……ッハ、ハン!今のもハンデだ。こ、今度こそ容赦しね………」
吹き飛ばされた状態で平静を装って言う一方通行は、そこで眼下にゲコ太の姿が無いことに気付いた。
「どこいきやがっ……!」

果たしてゲコ太はいた。

一方通行の目の前に。

通りに建つ建物の壁面に次々に足をかけ、吹き飛んだ一方通行の高さまで一気に駆け上がったのだ。
「何モンなンだ……テメェは…………」
「……………通りすがりの、ゲコ太の着ぐるみだ。別に覚える必要はない」
言葉と共にゲコ太の寸止め頭突きが炸裂し、一方通行は地面に叩きつけられた。

★★★★★★★★★★★★

ドォン

という大きな音と共に、一方通行は地面に突っ込んだ。
コンクリートの道路に大穴が空いたが、それは直撃の直前に一方通行が衝突の衝撃を打ち消すためにベクトルを操作したためであり、一方通行自身へのダメージは無い。
だがゲコ太の技によって受けたダメージだけでも十分に重いため、一方通行はなかなか立ち上がることが出来ない。
その内にゲコ太は地面に華麗に着地し、初春を抱え直すと走り去ってしまった。

「風紀委員なのに、あんなカエルに負けるなんて……」
「何か能力者みたいだったけれど、大した能力じゃなかったみたいね……」
「なーんだ。風紀委員のお兄ちゃん、弱っちいなぁ」
街中での乱闘に足を止めて傍観していたギャラリー達は、口々にそんなことを言いながら歩みを再開した。
後に残るのは地面に横たわる一方通行とその側に立つ打ち止め。
「く……ッそ。あのカエル野郎ォ……ぶッ殺す……絶対ェぶッ殺す…」
一方通行は額に青筋を立て、ゲコ太の消えた方を睨む。
「おい、大丈夫か?一方通行」
ようやく一方通行の許にたどり着いた黄泉川が声をかける。
「お前でも止められないとは、これは応援がいるじゃん。傷はいいか?酷いなら病院に……」
「必要ねェ」
「じゃん?」
「応援も手当ても必要ねェ……」
一方通行はゆっくりと立ち上がる。
「いいかァ?あのクソガエルを倒すのはこの俺だ。それを邪魔するッてンなら応援の警備員だろうが蹴散らす。ゲコ太は……俺がヤる」
一方通行はそう言うとふらふらとした足取りでゲコ太を追いかけていった。
「お、おい……一方通行?」
黄泉川は様子のおかしな一方通行に声をかけるが、返事はない。
「どうしたんじゃん?あいつ……」
「ずばり」
と、人差し指を立てて打ち止めが言う。
「プライドの問題だねってミサカはミサカはかっこよく指摘してみたり」
「……よくわからんが、放ってはおけないじゃん!早く追いかけて……」
黄泉川は再び走り出そうとしたが
「黄泉川先生ー」
と、その背中に声がかかった。



★★★★★★★★★★★★

「これでいいのか?」
ステイルは再び付け髭を取りつけた顔を佐天に見せる。
「お、おっけー」
顔の半分を覆い隠す付け髭は、成る程素顔を隠し人相を分からなくしてしまう。
だがそこまで取り乱す程おかしな顔だろうかと思いつつ、ステイルは考えを巡らせる。
今のところこれと言って打つ手はない。
もう一度でもゲコ太と接触出来たなら、何とかならないこともないのだが、その一度の接触すら絶望的だ。
チョコレートで糖分を補給してもこの程度まで、か。
もっともニコチンを摂取していたとしても、それより先に思考が行くとは思えないが。
と、その時
「おーい、インデックスさーん、土御門ー」
ある意味で今のこの状況を作った原因である人物が通りかかった。
「あ?ステイルじゃねえか、何やってんだよこん…………お、おいどうした?」
肩を怒らせて件の人物、土御門舞夏を引き連れた上条当麻に詰め寄るステイル。
「上条当麻、よくも彼女から目を離してくれたな。そのせいで僕が一体どれだけの苦労をしたか………まあいい。インデックスを探しているようだが、彼女なら大通りのケーキ屋にいる神裂に預けてある。さっさと行きたまえ。ただ……出来ればもう少しの間彼女をその場に引き止めておいてくれると、僕としては大変都合が良いのだけれど」
「いや、実はなステイル。残念ながらケーキ屋にインデックスは……」
当麻が言いかけた時、

ドォン

と大通りの方から大きな音が聞こえた。
「……何だ?」
いぶかしげに音のした方を見る一同の視界に入ったのは、
「! 見つけたぞ!」
初春を抱え、こちらに向かって走ってくるゲコ太の姿だった。

「プローチを返してもらうぞ!カエルの着ぐるみ!」
ステイルはそう叫ぶと、他の3人を置いてゲコ太の方へ真正面から突撃していく。
「な!?おいステイル!?くそ、訳がわかんねぇぞ!舞夏ちゃん……と、アンタ。なんか知らんがヤバそうだ、そこら辺に隠れててくれ!」
そして上条当麻も、舞夏と佐天に短く指示を出すとステイルの後を追いかけていった。

★★★★★★★★★★★★
ステイルが走りながら懐からカードを取り出すと、それは瞬時に燃え上がった。
「パイロキネシス……!?」
ゲコ太に抱えられた体勢の初春の言葉通りに、瞬間のトリックは魔術か科学かを判別させない程のもの。
これならば、当麻はともかく佐天や初春に魔術師とバレることはないだろう。
「その少女を放せ!さもなくば……」
よっぽど付け髭を取ってやろうかと思うほどのフガフガと篭もった声で叫び、火気を強めるステイル。
対してゲコ太も
「何なんだ、次から次へと……」
と無表情な着ぐるみの奥からくぐもった低音を響かせる。
姿も声もあてにはならない。
互いに未知の存在である相手に対して両者は極限の集中と警戒を持って対峙する。

無論、端から見るとその光景はサンタとカエルが戦おうという、余りにシュールなものであったが。

両者の距離はぐんぐんと縮まっていく。
だが
「悪いが出来ない相談だっ!」
ゲコ太はどうやら戦闘を避け、初春を放さずそのまま突っ切ることを選択したようだ。
「警告はしたぞ!」
ステイルは腕を振って炎を絶妙に操る。
渦を巻いた炎は初春に当たらないようにゲコ太を襲った。
しかし、ゲコ太は対一方通行戦でも見せた身軽さで炎の渦をすり抜ける。
その間にスピードは全く緩まず、また初春の身に火の粉の一粉すら浴びさせない。
「何て動きだ……本当に人間か!?」
ゲコ太は程なくステイルの目前にまで迫ってきた。
「くっ……」
近接戦闘は不利だ。
距離を稼ごうと後退しつつ、新たなカードを取り出すステイルだったが、
「がッ…!」
それ以上の速度を持ったゲコ太の緑色の右拳が、ステイルの腹にストレートを決める。
ゲコ太はそのままステイルを捨て置いてその横を突き抜けようとする。
(このままでは逃げられる……!)
その時、
背中から地面へ倒れ行くステイルと入れ替わるようにして、

上条当麻が飛び出してきた。

「詳しいことは分かんねぇが、あの女の子がカエルに捕まってるってこと位なら分かる。手ぇ貸すぜ。誰かを助けるためなら、いくらでもな」
「上条、当麻……」
振り上げられる当麻の右手――幻想殺し。
ゲコ太の超人的な動きが如何なる力によるものであっても、それが異能の力である限り上条当麻の前では破られるべき幻想でしかない。
「何が目的かは知らねぇ。もしかしたらそれは、お前にとって何より優先しなきゃならねぇことなのかもしれねぇ」
ゲコ太はステイルを殴りつけた体勢のまま。
ステイルの陰から突如現れた当麻に反応することが出来ない。
「だがそれでも、そいつがどんなに大事なことでも――誰かを身勝手に巻き込んでいい理由にはならねぇ。そんなことも分からねぇってんなら、まずはアンタのそのフザケた幻想をブチ殺す!!」
当麻の拳が、ゲコ太の胸を撃つ!




「…………」
「………………あれ?」
異能の力が破られた時に鳴る例の音が鳴らない。
そして女でも容赦なくぶっ飛ばす当麻の拳にゲコ太は吹き飛ばない。
当麻の拳は、布越しでも分かるゲコ太の鍛え上げられた胸筋によって阻まれている。
それはつまり――
「えーと……ぶっちゃけ異能の力とかじゃなくて、普通にめっちゃ身体鍛えてるだけ……?」
当麻の問いにゲコ太は無言のままコクリと頷くと、

ガゴォン

と当麻の顎を撃ち抜いた。
「うぎゃあっッ!?」
彼方へ飛ばされていく当麻に、ステイルは
(あの男、ノーマル相手だと僕よりよっぽど弱いんじゃないのか?)
と思ったが、自分も一撃で倒された手前それは胸の内に留めておくことにした。
ゲコ太は戦闘不能になった二人をそのままに路地を駆ける。
だがその先には
「初春っ!」
一人立ちはだかる佐天の姿があった。
「何をしている佐天涙子!ソレは君のかなう相手じゃないぞ!」
倒れた体勢のままステイルが声を荒げるが、佐天は取り合わない。
「初春を、返してっ!」
――足は震え、声は裏返っている。
それでも佐天は、二人の男を一撃で沈めた怪物に挑む。
大切な親友を守るために。
その姿を認めたゲコ太は、しかし走る速度を緩めないまま拳を振り上げ、佐天を殴りつけようとする。
「ひゃッ……?」
思わず頭を抱えた佐天だったが、衝撃は来ずただ前髪を風が撫でただけ。
ゲコ太はその拳を寸止めしたのだ。
「え……?」
脇を抜けていくゲコ太を目で追う佐天。
当然その顔は見えないのだが、どうしてかこの人は悪い人ではないのかも知れない、という思いを抱いた。
「佐天さんっ!」
と、ゲコ太に抱えられた初春が声を上げた。
そうだ――ゲコ太の正体がどうあれ、初春は返してもらわなければ困る。
だが、
「ごめんなさい佐天さん!私、もう少しこの方と一緒にいます!」
初春はそんなことを言って右手を上げた。
その中にはステイルが落とした小箱が握られている。
「これを、返してあげて下さい!」
「わっ!」
投擲された小箱を、佐天は両手でキャッチする。
「初春っ!?」
「私は大丈夫ですから!」
空になった手を振りながらそう言って、初春はゲコ太に連れられ路地の向こうに消えてしまった。

★★★★★★★★★★★★
「いてて……」
当麻は撃ち抜かれた顎をさすりながら起き上がった。
「おー、生きていたかー」
と、どこからか舞夏の声が聞こえてきた。
「あぁ、何とかな。って、どこにいるんだ?舞夏ちゃん?」
周囲を見回した当麻は
「ここ、ここ」
と、通りの隅にある水色の巨大バケツから、蓋を頭に載せたままひょっこりと顔を出した舞夏を見つけた。
「……えっと、何してんすか舞夏さん」
「なにー、隠れろと言ったのはそっちだろー」
「いや、確かに言ったけど……そのチョイスは……」
兎にも角にも舞夏が無事であったことを確認すると、当麻はステイルに問う。
「何だったんだ?今のは」
「こっちが聞きたいくらいだよ」
腹を押さえて立ち上がりながらステイルが答える。
「目的はわからないが、あのカエルにあそこの少女の友人が連れ去られた。ついでに……まぁ、僕の持ち物も持ってかれてね。一緒に追っているんだよ」
「あの、それだったら」
後ろから佐天が会話に割り込んできた。
その手にはブローチの入った小箱が握られている。
「さっき、初春が……」
「おぉ、おぉ、おぉ!ありがとう!よし、これでようやくインデックスに渡せる!」
珍しく気色ばんだ声を上げて、ステイルは佐天の手を握った。
「わ、わわ………っ」
突然の行動に顔を赤らめる佐天。
ステイルはそんな佐天に気づかず年相応の無邪気さで手をブンブンと振り回す。
その会話を聞き、当麻が口を開く。
「ん、あぁそうだ。インデックスなんだがな、どっか行っちまったんだよ」
受け取ったブローチを今度こそしっかりとしまい、ステイルは得意気に当麻に言い返す。
「知っている。彼女なら神裂に保護してもらっているよ」
「いや、だからさ。その神裂のとこからどっか行ったんだと」
「は……………?な、なななな、何だと………!」
ステイルの顔がまたも驚愕に歪んだ。


★★★★★★★★★★★★

その後、彼らは再びステイル佐天組と当麻舞夏組に分かれて捜索を再開した。
お互い人探しには違いない。
手分けした方が効率的なのは確かだ。
「インデックスのことは任せる。僕らはカエルの方を追う」
「? アテでもあるのか?」
「勿論。僕はどこかの無能力者のようにただ倒されただけじゃない。ちゃんとネタを仕込んでおいたのさ」


「あの………ありがとう」
「何がだい?」
当麻達と別れたステイルが早速『捜索』の準備に取りかかっていると、佐天が声をかけてきた。
「だって、贈り物は返ってきたんだから、ステイルくんにゲコ太を追う理由はもうないのに……」
「あぁ……まぁそれは確かにそうだけど、乗りかかった船という言葉もあるだろう。それにブローチを取り返してくれたのは君達だ。だったら、君の友人を救出に協力するのは当然だろう。………何よりあのカエル、何か引っ掛かる感じがするんだよ」
言いながら取り出したのはいつも使っているルーンのカード。
ステイルはそれをまるで折り紙の様に折っていく。
「……何やってるの?」
「あぁ」
魔術のことは話せない。
ステイルは適当に濁そうと出鱈目を口にする。
「僕の能力でね。追尾能力というか……さっきの接触でカエルに発信器みたいなものを仕掛けておいたんだよ。これは、まぁ願掛けみたいなものさ。成功率が上がるんだよ」
実際は先ほどゲコ太と対峙した時、ゲコ太の背中にルーンのカードを一枚張り付けておいたのだ。
自分と、張り付けたカードとを繋いでいる魔術的なパスを伝ってゲコ太を追う――土御門の使った、呪物からその持ち主の居場所を逆探知する『理派四陣』を自分なりにアレンジした術式だ。
陰陽道は専門ではないし実戦で使うのは初めてだが、何度か行ったテストでは成功している。
特に問題はないだろう。

言い訳も即興のものだったが、特におかしな部分はなかったな、ステイルは思っていたのだが
「いや、それ嘘っしょ」
「な、何故バレたっ!」
一発で見抜かれた。
「だって、能力は一人にひとつで例外は無いって授業で習ったし。さっきのパイロキネシスを一つ目って考えたら、他に能力があるのはおかしいじゃん」
「そ、そうなのか!?」
「それに……なんかさっきの炎も超能力って感じじゃなかったし。何だろう、上手く言えないんだけど……」
魔法みたいな、という言葉は飲み込んだ佐天だったが
「……………いや………それは、だな………」
それでもステイルは本日何度目か知れない脂汗をかいていた。

★★★★★★★★★★★★
ステイル・マグヌスは窮地にいた。
まさか自分が魔術師であることを一般人に見破られる時が来るとは思わなかった。
いや、正確にはまだ魔術師だと見抜かれた訳ではない、科学ではない何かだとバレてしまっただけだ。
ならば、科学でも魔術でもない何かとして誤魔化してしまおう。
だが、何があるだろうか。
自分の思い付く限りにあり、かつこの少女の知識の範囲にある幻想とは――

「佐天涙子。君に言わなければならないことがある。君の察した通り、僕は超能力者ではない」
「じゃあ、一体……」

ステイルは告げた。
その幻想の名を。
「僕はサンタクロースだったんだ」


★★★★★★★★★★★★

「何とか逃げ切ったか……。いや、そもそもあいつらに追われる筋合いなんてないんだが」
ゲコ太は細い路地に入りこむと、抱えていた初春を降ろした。
「あぁクソ、熱が籠って暑い……冬だってのに」
「あの、思ったんですけど」
初春が人差し指を立てて冷静に指摘する。
「顔を隠したいだけでしたら、そんな動きにくそうな着ぐるみを着なくても、ヘルメット被ったりお面つけたりすればいいんじゃないですか?」
「……あぁ。俺もそう思った。こいつを着た後だったがな」
「今からでも遅くないんじゃないですか?ここなら人の目もありませんし」
「いや、だから…………………………脱げないんだ、これ」
「へ?」
「ジッパー上げる時変な風に力入れたみたいでな……」
ゲコ太が後ろを向くと、確かに金具が布に食い込んだ上に歪んでしまっているのが見えた。
「借り物だし……というか無断で拝借したものだから、出来るだけ壊したくないというか。着ぐるみって高いらしいし。ぶっちゃけ物凄く動きにくい。一方通行の時かなり無茶したしな。暑い上に身体中痛い……」
「あー………」
初春は思った。
自分はもしかしたら結構なお間抜けさんについてきてしまったのかもしれない、と。


★★★★★★★★★★★★

「サンタクロース……」
呆然としている佐天に、ステイルは自分の失言に気づき訂正しようとする。
「いや、なんてウソ。冗談冗談。ホントは……えーと…………」
「…そっか」
「は?」
思わず聞き返すステイル。
「サンタクロース…………うん、そうだよね。クリスマスだもん。サンタクロースだっているよね」
「いや……えっと…」
「違うの?」
「いや、違わない」
「うん、だったら不思議なコトが出来ても納得。あ、ゴメンね、準備途中で止めちゃって。早く初春を取り返そう」
「あ………あぁ」
釈然としない思いを抱きながらも、ステイルは折り紙のようにして紙飛行機型に折ったカードを囲うように、四方にカードを並べていく。


その様子を見ながら、佐天は思う。
あぁ、この人はきっと違う世界の人なんだ、と。
サンタクロースというのが苦し紛れの嘘だということくらいは分かる。
それでも佐天はステイルの正体を追及しない。
きっとそれは自分みたいな一般人が知ってはいけないこと。
自分が知ってしまったら、きっとステイルに迷惑がかかること。
(そして、もしかしたら私にも――)
ステイルは、佐天のことまで考えた上で誤魔化そうとしたのだろう。
ただの中学生である佐天涙子という存在を、もしかしたら平和から遠く、悲劇の隣にあるのかもしれない――そんなステイル・マグヌスの住まう世界から遠ざけるために。
(優しいなぁ…)
嘘を吐かれたのに、悪い気はしなかった。
むしろ、必死で取り繕うステイルを可愛いとさえ思った。
(変なの……年上で、背も高くて、煙草だって吸って、こんなに大人っぽいのに………)
ふと、一心に準備を行っているステイルのポケットの中にある小箱を思う。
(あぁ、そうか。この人があの小さな箱のために、それを渡したい人のためにこんなにも一生懸命だから……)

誰かを思うということは、
とても素敵で、
愛しいことだ。

彼の思いは、
きっとすごく純粋で、
だけどそれは少し不器用で。

力みすぎて、
空回りしてしまって、
――それでも誰かを思い続けている。

出会って幾らもしていないけれど、どうしてか佐天にはステイルの思いが分かる気がした。
それはやはり、自分にも大切な人がいるから、だろうか。
「プレゼント、早く渡せるといいね」
我慢できずに、作業中のステイルに声をかけてしまった。
「あぁ。君の大切な友人も、早く助けなければな」
背を向けたままのステイルの返事に、
「うんっ」
佐天ははにかみながら頷いた。

★★★★★★★★★★★★
クリスマスの大通り。
店頭販売をしているケーキ屋の前に、二人の男が立っていた。

「………行くのか、半蔵」
神妙に半蔵に語りかけるのは浜面仕上。
「あぁ、男には行かなければならない時というものがあるんだ」
対して半蔵も戦場に赴くかのような覚悟の篭もった声で答える。
「そうか……ならば俺は止めない」
浜面に見送られ、半蔵は行く。
その手に1000円札を三枚――現在の全財産にして年を越すための生活費――を握りしめ、彼のエンジェルのもとへ。
「よ、黄泉川サンッ!俺に………俺に愛のショートケーキを一つ!」
「あー、私今手一杯だから。月詠先生、お願いするじゃん」
「はいはいショートケーキですね。3000円丁度頂きますです」
月詠小萌によって、半蔵の手から3000円がひったくられ、代わりに箱入りショートケーキがポンと置かれた。
「………………」
立ち尽くす半蔵。
その肩に、浜面がそっと手を置いた。
半蔵はゆっくりと後ろを振り返り、つー、と静かに涙を流しながら言う。
「なぁ、浜面……」
「なんだ?半蔵」
「金貸してく」
「断る」
「……お金を貸し」
「断る」
「………か」
「断る」
「…………………」


心も財布も虚しい二人を置いて、クリスマスの夜は更けていく。


「……てか何で私はケーキの売り子なんてやってるじゃん?」
「インデックスちゃんを探しに神裂ちゃんがどこかに行ってしまって、手が足りなくなっていたところに都合良く通りかかってしまったからじゃん?ですよ~」

★★★★★★★★★★★★

「そういえば、お強いんですね?」
「あ?」
突然の初春の問いに、ゲコ太は疑問符を返した。
「いえ、だって先程の風紀委員の方、それにパイロキネシストの方……どちらも相当の使い手のようでしたけど、それを何の能力も使わずにあんなに圧倒できるなんて……あ、もしかして何か能力を使っていたんですか?」
「いや、能力は使ってない。というか、使えないに等しい」
「じゃあ、もしかして……」
驚く初春にゲコ太は告げる。
「あぁ、俺はレベル0だ」
「それは…………凄いですね」
「そうか?」
「そうですよ。だって、私なんて、レベル1ですけど、やっぱり大した能力なんかじゃないですし、体力だって全然なくて………はは」
空笑いをしながらの初春の言葉を、
「…………そんなことは、ないと思うぞ」
「え?」
ゲコ太はしっかりと否定する。
「そりゃああんたに戦闘力とかを期待すんのは間違ってるだろうが、それでも俺はあんたは強いと思うぞ。俺なんかよりよっぽどな」
「どうして、ですか?」
「本当の強さってのは、腕力や超能力なんかじゃない……ここにあるもん、だろ」
ゲコ太は緑色の右手で着ぐるみの胸を叩く。
「俺はあいつを助けたくて動いてるだけだ。だがあんたは違う。あんたは自分に何の関係もない事件に、しかも拉致まがいのことをされた相手に、協力してくれた。他人の為になにかをしてやれる……そういう優しくて強い心の持ち主はそうそういない」
「そう……でしょうか?でも、人助け位なら風紀委員の方達は皆……」
「だが命まで投げ出そうとは思わないだろ。俺はあいつのためなら命だって惜しくはないが、それ以外の奴のために命を張ろうとは思えない。初めて会った他人のために命を張れるなんて――あの馬鹿くらいだと思ってたんだがな。全く……『学園都市第二位(スペアプラン)』に向かって舌を出して馬鹿にした奴を、俺はあんた以外に知らないぞ」
「え――?」
初春が問い返そうとした時、

ドガンッ

と行き止まりになっている後方のコンクリート壁が爆発した。
「見つけたぜェ……ゲコ太くゥゥゥゥン!!!」
瓦礫の奥から現れたのはマジギレモードの一方通行。
その周りには能力によるものか、色々な物が飛び交い、まるで一方通行を中心とした竜巻のようになっている。
「くそッ……さっきから何なんだよお前はッ」
竜巻が邪魔で一方通行に直接触れるのは難しい。
これでは木原神拳改めゲコ太神拳も効かないだろう。
そう判断すると、ゲコ太は初春を抱えて一目散に逃げ出した。

★★★★★★★★★★★★

「見つけたぞ!」
ステイルの言葉と同時に、紙飛行機がふわりと浮かんで、4枚のカードで仕切られた場の中の一点を差した。
「どうするの?」
佐天の問いに、
「真っ正面から行く気はないさ。しっかりと準備をして、こっちのフィールドに引き摺りこむ」
幾枚ものカードをその手に広げながら、ステイルは不敵に答えた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー