とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 8-62

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匿名ユーザー

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★★★★★★★★★★★★

クリスマス。

12月25日。

学園都市、柵川中学校寮の一室。
初春の暮らすその部屋に佐天涙子と初春飾利はいた。
何をするでもなく、敢えて言うなら何もしないをしながら。

「初春ぅ~」
佐天が炬燵(と言ってもちゃぶ台の下に断熱素材の毛布を敷いただけのものだ。それでも学園都市製だけあって中々快適なのだが)の反対側に座る初春に向かって、ほっぺたをちゃぶ台にくっつけ、そのヒンヤリとした感触と毛布のぬくぬくとのギャップを楽しみながら気だるげに声をかけた。
「何ですか?佐天さん」
対して初春はちゃぶ台の上に置かれた篭から蜜柑をひとつ取り、東京っ子らしく筋を一本一本丁寧に剥きながら答える。
「今日は初春何か予定あるぅ?」
答えに特に期待していない、退屈紛れの質問だ。
それに対して初春は少し顎に人差し指を当てて考えた後に
「夜に彼氏とデートがありますね」
とだけ言うと再び筋剥き作業に戻る。
「そっかぁ。そうだよねぇ。クリスマスと言ったらデートだよねぇ」
「はい」
「…………………」
「…………………」
「…………えぇっ!?」
佐天は、がばちょ、と毛布から身を起こすとちゃぶ台の上にのそのそと上がり、初春の顔に自分の顔を近づけて問う。
「デート!?え、デート!?というか彼氏?彼氏って、え?いつのまに?初春!?」
対して初春は冷静に告げる。
「先月からお付き合いを始めました。とても優しい良い方ですよ。そういう訳で今日は夕飯は外で食べてくるので私の分は要りません」
「ふ、ふーん。あは、あはは。何だ、そうだったんだ。いやぁ全然気づかなかったや。そうだよね。か、彼氏がいたらそりゃクリスマスは彼氏と過ごすよね。うん。そうだね。はは、中々やりおるな初春は。きっちり青春してるじゃん。今度紹介してよ」
軽口を叩きつつ、しかし佐天の視線は下がっていき、ちゃぶ台と顔を合わせた。
綺麗に磨かれたその表面は、眉をハの字にして空笑いする佐天の顔を映していた。


「ふふっ」
「……?」
笑い声に視線を上げると、そこには今度は反対に自分の顔を覗き込んでいる初春の顔があった。
「嘘ですよ佐天さん」
「…………へ?」
「大体四六時中一緒にいるのに、私に彼氏がいたとしたら佐天さんが気付かないわけないじゃないですか」
「あぅ……えっと」
「佐天さん、私が佐天さんから離れてっちゃうと思って寂しくなりました?ヤキモチ妬きました?」
初春の表情はすっかりイタズラっ子のそれになっていた。
「えぅ………う、初春のいじわるぅ」
目尻に少し涙を浮かべて佐天が言う。
「あぁもう佐天さんは可愛いですねぇ」
初春は、ばふん、とちゃぶ台の下に敷かれた毛布を引きずり出すと、それで自分と佐天とを一緒に簀巻きにした。
「私が佐天さんを放って誰かのトコに行く訳無いじゃないですか」
「ばかぁ。う、初春のばかぁ」
一緒にロールされたまま、二人はゴロゴロと転がり、
「ひゃっ」
「にゃっ」
ちゃぶ台の上から落ちた。
二人は互いに顔を見合わせ、にへらり、と笑い合う。
「特に予定なんて無いですよ。クリスマスケーキでも買いに行きますか?今日は25日ですし、気の早い店ならもうクリスマスケーキのセールをしているかも知れませんよ?」
「行くぅ。初春とケーキ買いに行くぅ」
「あ、でも……」
「なに?」
「――もう少しだけ、こうしていましょうか」
「………ん」



「初春ぅ」
「何ですか?」
「ぬくぬくだねぇ」
「はい、ぬくぬくですね」


★★★★★★★★★★★★
12月25日。
イルミネーションに彩られた学園都市の大通り。
全国的にクリスマスであるその日、ステイル・マグヌスはそのど真ん中にいた。
ただしその格好はいつもの暑苦しい神父服ではない。

上から下まで真っ赤っ赤。
ついでに頭に赤い三角帽。
おまけに顔には白い付け髭。

それはクリスマスの主役、サンタクロースの格好だった。
ステイルはその格好で大通りの一角に立ち、顔に爽やかな笑みを浮かべて、

「いらっしゃいませ~。クリスマスケーキはいかがですか?」

と声を張り上げていた。



――話は1日前に遡る。

★★★★★★★★★★★★

「お金を貸しては頂けませんか?」
ステイルに向かってそう言ったのは、凡そそんな卑しい言葉の似合いそうにない人間。
世界に十数人しかいない聖人にして天草式十字凄教の女皇にしてネセサリウスの同胞。
神裂火織だった。

訳を聞いてみると
「インデックスにクリスマスプレゼントを贈りたいのですが、恥ずかしながら手持ちが足りないのです」
とのことだ。

科学対魔術の戦争は先日の××××により一応の解決を見た。
まさか上条当麻の右手の本当の力が××××を×××に×××××××××することだとは驚きだった。
その上一方通行の××とインデックスの××が×××××で×××だとは予想もしなかった。
だがそのお陰でステイルと神裂の、インデックス及び上条当麻の監視という長期任務は終了した。
だが続いて与えられた任務は科学と魔術とのパイプ役として学園都市で様々な短期任務を繰り返すこと。
つまりはそのまま学園都市に残れという指令だ。
最大教皇の温情か気紛れか、かくしてステイルと神裂は未だに学園都市に残っている。
違うことは、監視の任から解かれたために前よりも自由に動けるようになったことだろうか。

しかし、まだインデックスに自分達の存在は知らせてはいない。
忘れられてしまっていると分かっているだけに、どうしても一歩が踏み出せないのだ。
それでも、今まで心ばかりの品を送ったり彼女に気づかれないような親切を行ってきた。
今回のプレゼントというのもも、その延長なのだろう。
「何を買うつもりなんだい?」
「彼女に特製のブローチをと思って、イギリスの職人に頼んだのです。品物はもう届いているのですが、やはり手持ちが………それで支払いを明後日まで伸ばしてもらっているのです」
そう言って神裂は綺麗に包装された箱の中から十字架の形をした銀製のブローチを取り出した。
「………成る程。そういうことなら、貸すも何も、足りない分は僕が出そう」
「本当ですか!」
「僕と君の、二人からの贈り物ということにしてくれるならね」
「勿論です。助かりましたステイル」
「言うなよ。それで、何百円足りないんだい?」
「…………………え?」
ステイルが取り出した財布には、諭吉さんが一人もいなかった。
因みに足りない金額は、神裂が出せる8万5千を全額10万から引いた1万5千。
「あの、えっと……ステイル?あなた、一体何にそんなにお金を……」
そこで神裂はステイルが口にくわえて暢気に吹かしている煙草に気づき、問うのを止めた。
(ど、どうしましょうか……)
と、そこへアパートの扉を開けて小さな少女の外見をした何かが飛び込んできた。
「ステイルちゃん。お願いがあるんです。実は明日、バイトを紹介した子達が急に行けなくなってしまって。そのことをお店の方に伝えたら、明日はクリスマスで忙しいから代わりが二人は欲しいと言われてしまって………お給料は出ますから、どうか明日1日バイトを頼まれてくれませんか?」

それはまさに渡りに舟だった。


★★★★★★★★★★★★

しかし――
(こんな辱しめを受けるようなバイトだとは聞いていないぞ…!)
店にたどり着いた二人はあれよあれよとサンタクロースのコスを着せられて店頭に立たされ、クリスマスケーキの販売員をやらされていた。
不慣れな接客業に内心では戸惑いつつも、ステイルは笑顔を浮かべて声を張り上げる。
これでもまだましな方だ。
何しろ自分の隣には自分以上の辱しめを受けている人間がいるのだから。
「いら……しゃい、ませ」
たどたどしく言葉を紡ぐのはステイルと同じくサンタコスを身に纏った神裂火織。
だが神裂のそれはステイルのそれとはまるで違う。
まず何より、布面積が極端に少なかった。
女性用のサンタコスということで、ズボンがスカートに変わっていることには頷けよう。
だがそれが異様に短い。
おそらくはもともとミニスカートだったそれを、ステイルと並んでも劣らない程長身の神裂が着ているせいだろう。
それは上着にも言える。
神裂の巨大なバストのせいで布地が引っ張られ、お臍が少し覗いているのだ。
そんな罰ゲームみたいな格好をして人の行き交う大通りで売り子という状況に、神裂の顔は真っ赤を通り越して青ざめていた。
「神裂、大丈夫か……」
「大丈夫ではありません……ですが、我慢もしましょう。言い出しっぺは私なんですから」
しかし彼女達の売り子ぶりは好評だった。
犯罪的な衣装を纏った神裂の方には男達が群がり、そしてステイルの方には

「サンタのおじさん、ケーキください」
「はいはい、まいど~」

その長身と仮装からなるサンタを体現したかのような外見に惹かれて小さな子供達が寄ってきていた。
(全く………こんな所を土御門のヤツに見られたら何を言われることやら……)

心の中だけで溜め息を吐いたステイルはふと、ずっと露店のカウンターに並んだあるケーキを眺め続けている中学生位の少女の存在に気付いた。
ステイルは営業スマイルを顔には張りつけて少女に話しかける。
「こちらのゲコ太ケーキ、今ならセールで500円引きで大変お得となっていますが」
「へっ?あ、えと……すいません、見てただけです!」
少女はそれだけ言うと足早に通りを掛けていった。
しかしどこに行くでもなく、近くのクリスマスツリー風に装飾された街路樹の下で立ち止まり、木に背中を預けて時計を気にし始めた。
(待ち合わせ、か……)
ステイルはそう解釈すると、ケーキ売りのバイトに戻った。


★★★★★★★★★★★★
「しまった、ゲコ太ケーキなんて書いてあるもんだからついつい引き寄せられてしまった……よく考えたらホールケーキなんて一人で食べられないし。それに……ア、アイツと食べるのに、あんな子供っぽいのじゃ馬鹿にされるかもしれないし」
御坂美琴は一人ごとを呟きながら街路樹に背を預けた。
「少し、早かったかな……」
携帯メールで打ち合わせた上条当麻との約束の時間まではあと十分程あった。
(お、落ち着け……私)
まさか二つ返事でオーケーしてくれるとは思わなかったが、これはチャンスだ。
クリスマスの夜に二人……これ程絶好のシチュエーションもない。
美琴は髪や服の乱れを確認する。
この日のために昨日は美容院で細かい注文をつけながら髪を切ってもらい、店で3時間悩んで買ったおニューの服を揃えたのだ。
(だ、大丈夫大丈夫。デートっていうか、ただ街を二人で歩くだけだって。それがたまたまクリスマスだったってだけよ)
心の中で言い訳していると、

「よう、御坂」

上条当麻が現れた。

「べ、別に今来たところだからぁ!」
聞かれてもいないのに言いながら振り返り、

「あ、短髪」
「………………」

御坂美琴は固まった。
上条当麻が特に着飾るでもなく近くのコンビニに行くみたいな適当な格好をしていて――そしてその傍らに小さなシスターを引き連れていたからだ。
「………アンタ、どういうつもりよ」
ドスをきかせて美琴が問うと、
「あ?用があるって言ってきたのはそっちの方だろ?」
と能天気な答えが返ってきた。
どうやらこの男は本気でたまたまクリスマスに呼びつけられただけだと思っているらしい。
「ふ………」
「ふ?」
「ふざけんなゴルァァァァァァァァァァ!!!」
「ぐはぁっ!?」
美琴は渾身のタックルを当麻に浴びせると、踵を返して走り去ってしまった。


★★★★★★★★★★★★

(やれやれ、何をやっているんだあの男は……)
ステイルは売り子をしながら、先程の少女のところに上条当麻が現れ、そして頭突きを食らって腹を押さえてうずくまるまでの一部始終を見ていた。
(ナンパ、ではないだろうな。大方無用な世話を焼いて怒らせたか、デリカシーのないことをして怒らせたか……)
当麻はダメージが引いたのか少しすると立ち上がり、
「悪いインデックス。ちょっとここで待っててくれ」
とインデックスに告げると、
「おい、待て御坂!」
少女の後を追っていった。
(な、何をしている上条当麻!彼女を一人置いていくなんて、どれ程危険なことか分かっていないのか!?)
とステイルが思っている内に、そこら辺から数人のチャラい学生がインデックスに群がってきた。
「………神裂」
「…分かりました。少しくらいなら一人でも大丈夫です。行ってあげてください」
「すまないね」
言い、ステイルがカウンターから出ようとしたところで
「ステイル、これを」
と神裂が例のブローチの入った小さな箱を差し出してきた。
「人づてに渡そうと思っていましたが、直接渡せるならその方がいい。丁度変装もしていることですし、これを逃すと今日中に渡すのは無理でしょうしね」
「あぁ、分かった」
ステイルは小さな箱を衣装のポケットに入れると、男達に裏路地へ誘導されていくインデックスの後を追った。


★★★★★★★★★★★★
「うぅ、寒いですねぇ」
「雪は降らないのかな?」
「いえ、今日は確か1日晴れだと天気予報で言ってましたよ」
「外れないかなぁ」
「ツリーダイアグラムに則った完全な天気予測ですからね。難しいと思いますよ」
「むぅ」
佐天涙子と初春飾利は学園都市の大通りに出ていた。
ケーキを買ったら部屋に戻ってお祝いする予定なので、二人とも適当に着込んでいるだけで特に着飾ってはいない。
財布だけ突っ込んできた感じだ。
「寒くても雪が降らないんじゃなぁ……あ、手袋あった」
佐天は上着のポケットから手袋を一組取り出す。
「あ、私も……あれ?」
自分の上着のポケットを探っていた初春が声を上げる。
「どったの?」
「手袋忘れてきちゃったみたいです」
「そっか、んじゃ……」
佐天は自分は左手だけ手袋をはめ、右手袋を初春に渡した。
「半分こ半分こ」
「でもこれじゃ佐天さん、片手だけ寒いですよ?」
「んー。じゃ、こうしよう」
佐天は裸の右手で初春の左手を握る。
全ての指を絡めた、所謂恋人繋ぎで。
「どう、あったかい?」
「んー、佐天さんの手も冷たいのでそんなにあったかくはありませんね」
「やっぱりそっか」
「でも……」
「でも?」
「何だかあったかい気がします」
「何だそりゃ」
「さぁ、何でしょうね」

二人は恋人繋ぎをした手を前後に振りながら歩を進める。

「あ、サンタクロース」
佐天が、ケーキ屋の店頭にサンタのコスプレをした二人組を見つけた。
「佐天さんは、いくつまでサンタを信じてました?」
初春が適当に話題を振る。
「んー、小学校の中学年くらいまでかなぁ」
「まぁ、大体その位ですよね」
続いて佐天が問い返す。
「んじゃ初春。トナカイはいつまで信じてた?」
「…………………………………………え?」
「いや、だからトナカイ。いくつの時までトナカイがいるって信じてた?」
「……………………………………………佐天さん、トナカイはいますよ」
「いやいや、何言ってんの初春。あんな空飛ぶ動物が実際にいる訳ないじゃん」
「いや、飛びませんけど、でもいるんですよ」
「ん?違うよ、飛んでるよ。トナカイは」
「そりゃソリを引いてるトナカイは飛んでますけど」
「じゃあ飛ぶんじゃん」
「あー、えっと……………佐天さん」
「にゃに?」
「今度一緒に動物園に行きましょう」
真面目顔で告げる初春。
「………デ、デートのお誘いをされてしまった」
「違います!これは佐天さんの今後の人生の為に必要なことなんです!」
「? 変なの。……………でもさ、初春」
佐天は歩を止めると、繋いだ手を持ち上げて空に差し出しながら言った。
「私、今はサンタクロースも少し信じてるかも」
「そんな!佐天さんが退化を!?」
「………ん、なんか違うな。サンタクロースとか魔法使いとか、そういう空想だとか非科学的だとか言われてることも、私たちが知らないだけで、もしかしたらホントはあんのかもしんないじゃん。――ただ目に見えないだけでさ」
「はぁ……私にはよくわかりません」
「うん、私も」
「何ですかそれは」
「さぁ。取りあえずはさっさとケーキ買ってお祝いしよう、てことじゃない?」
「ふふ、そうですね」


二人は再び歩き出し、

どんっ

と一歩もしない内に佐天は何かと衝突した。
堪らず尻餅をつく佐天。
「あぁ、すまない」
上から声が降ってきた。
見上げると大きな人影が手を差し出している。
全身真っ赤の衣装。
先程のサンタコスの男だ。
(うわ、大きい……髭で顔見えないけど、目の色とか…外人さん?)
などと思いながら佐天は男の手と繋いだままの初春の手とを頼りに立ち上がる。
「急いでいたものだから。怪我は…」
「あ、はい。大丈夫です」
「悪いね。それじゃ」
男はそれだけ言うと裏路地に消えていった。

「大丈夫ですか?佐天さん」
初春が声をかけてくる。
「うん、全然。ホントにどこも怪我してないし」
「そうですか、良かったです。……………あ、佐天さん。そこ、何か落ちてますけど……」
「へ?」
初春が指を差した先には、


綺麗に包装された小さな箱が落ちていた。


★★★★★★★★★★★★
「さっきの人が落としてったんでしょうか?」
初春が箱を広い上げて言う。
「多分そうだと思う。……ラッピングされてるし、クリスマスプレゼントじゃない?」
佐天が箱を眺めながら言葉を返す。
「……貰ったにしろ、贈るつもりにしろ、大切なものだよね」
「届けてあげた方がいいですよね」
「追いかけよう。まだそんな遠くまで行ってないと思うし」
「はい」
そうして二人はステイルの消えていった路地に入った。


★★★★★★★★★★★★

「もう!ホントに何なのよあいつは!」
御坂美琴は肩を怒らせながら路地を走っていた。
「私なんて眼中にないって訳!?私がバカみたいじゃない!こんなにめかし込んで……1人で期待して」
随分距離を空けてようやく美琴は立ち止まり、鞄から紙袋を取り出した。
クリスマスプレゼントとして当麻に渡すつもりだったものだ。
「あーぁ。何やってんだろ私」
と、
「いょーう姉ちゃん」
美琴に声をかけてくる存在があった。
数人の、ガラの悪そうな男達だ。
「何泣いてんだよ。なぁ、彼氏にでもフラれた?だったら今から俺達と遊ばねぇ?」
ニヤニヤ笑いを顔に張り付けていう男達。
(ウザい……何なのよこんな時に)
いつもなら電撃を浴びせて追い払うところだが、こうも気落ちしているとこいつらの為に演算能力を使うことさえも億劫に感じてしまう。
(それに――『こいつらが』ピンチになった時って、大概あいつが来る時だし)
そう思って美琴が何もしないでいると、男達はそれを了解と受け取ったらしく、美琴に手を伸ばそうとし――


ぶっ飛んだ。


「………は?」
美琴が呆けている間に1人、また1人と紙人形のように空を舞っていく不良達。
その乱舞が終わり、全ての不良達が地に倒れ伏した後にようやく美琴は彼らを葬った犯人を見た。

それは――

「ゲコ太…………?」

倒れる不良達の真ん中に1人(?)立っているのは全身緑色のカエルの着ぐるみ。
クリスマス仕様なのか、頭に小さな赤い帽子を被っている。
ゲコ太はずんずんと美琴のところまで来てその顔を確認すると、
「チッ」
と舌打ちしてからどこかへ消えた。
「な、な、何なのよ……」
訳の分からない状況にもそうだが、何より大好きなゲコ太の形をしたものに舌打ちされたのに腹が立つ。

と、
「御坂、お前またやったのかよ」
こちらの心中を全く知らない様子の能天気野郎、上条当麻がひょっこり顔を出した。
「ち、違うわよ!これはゲコ太が……」
「は?お前何言ってんの?」
「…………。何でもないわよ。で、アンタ一体何しに来たの」
ジト目で美琴が告げと
「あぁ、これ」
言って当麻はポケットから何かを取り出して美琴に差し出してきた。
「これって……」
「プレゼント。ほれ、今日ってちょうどクリスマスだろ。どうせ会うんならと思って買っといたのに、いきなり逃げるもんだから渡しそびれじゃねーか」
美琴はプレゼントを当麻の手から受け取り中を開ける。
可愛らしい花柄のヘアピンだ。
「わぁ…」
「お前結構こういう子供っぽいの好きだったろ?」
いつもならそんな当麻の言葉に電撃の一つでも浴びせるところだったが
「うん……ありがと」
不意打ちな当麻の行動につい頷いてしまう。
「?………んで、お前の用事って何なんだよ」
「へ?」
「お前が呼び出したから寒い中わざわざ外に出てきたんじゃねぇか」
「えっと、その………」
美琴は慌てて抱えていた当麻へのクリスマスプレゼントを渡す。
「これ、私からも。クリスマスプレゼント」
「あ?んなもんわざわざいーのに。……開けていいのか?」
顔を真っ赤にし、無言で、こくん、と首を縦に振る美琴。
当麻が袋を開けると、中から少し子供っぽい柄の男性用エプロンが出てきた。
「使えるもののがいいかなって思って……1人暮らしで料理とかするって言ってたし」
「ほぉー。柄はさすが御坂様センスってところだが……」
「な、何よ!」
「でも、ま。いいんじゃね。ありがとよ、使わせてもらうわ」


「………あ、あわ、わ、私も!」
美琴はあたふたと受け取ったヘアピンを開封し、それで前髪を止めた。
そして上目遣いで当麻の顔を伺いながら言う。
「……………どう?に、似合ってる?変じゃない?」
「おぉ」
「じゃあ、その…………………………………………………………可愛い?」
「…おい、どうした御坂さん?」
「こ、答えなさいよ!」
美琴は火が出そうな程に真っ赤っ赤の顔で叫ぶ。
「ん、まぁ……………………可愛い、んじゃねぇの?」
「………あ、ありがと」
当麻の言葉に、美琴は俯いて小さく呟く。
「んで、お前の用事って何なんだ?」
「そ、それは……」
(無理無理!こんなアガっててデートとか絶対無理!)
「その、プレゼントが、用事………」
「あ?そうだったのか。そんくらいわざわざ待ち合わせなんてしなくても……」
「いいじゃない別に!それにクリスマスプレゼントなんだからクリスマスに渡さないと!ほら!あの子待ってるんじゃないの?戻ってあげたら?」
「? お、おぅ。んじゃ、気をつけて帰れよ」
「うん……」
美琴は去って行く当麻の背中を赤い顔のまま見送る。
そして当麻の背中が見えなくなった頃、ヘアピンに触れ、
「ふふ」
と1人こそばゆそうに笑ってから、携帯を取り出して電話をかけた。
「あ、もしもし黒子?……うん。用事はもう終わったから。でさ、今からケーキ買って帰るから、一緒に食べない?」


★★★★★★★★★★★★

「なっ………」
ステイルがインデックスの消えていった路地に入ると、そこには先程インデックスをたぶらかした不良達が倒れていた。
そしてその中心には、白い修道服を着たインデックスと――

カエルの着ぐるみが立っていた。

「は?」
と、見ている内にカエルはインデックスに近づいていく。
「何をする気だ……!」
咄嗟に臨戦態勢に入ったステイルだったが、
「チッ」
カエルはインデックスの顔を見て舌打ちすると、路地の向こうに消えてしまった。
「……一体何なんだ?」
戸惑いつつもインデックスのもとへ急ぐステイル。

「あ、サンタクロースだ!」
ステイルに気付いたインデックスが声を上げる。
変装は見破られていないようだ。
「や、やぁ……」
何と答えればよいか分からずぎこちない返事を返す。
「こすぷれって言うんだよね。とうまが言ってた。こんびにの店員さん?」
「いや違うが……まぁ、似たようなものか」
「ふーん。ところで、私は何だか良く分からない状況に絶賛困惑中なんだけど、あなたはこの人たちの知り合いなのかな?突然皆倒れちゃったけど、するとおいしいものをご馳走してくれるという約束がピンチかも」
(そんな安い口上に乗ったのか……)
ステイルは心中で呆れながら、視線を泳がせどろもどろに言う。
「いや、知り合いではない。僕は、実は……その、ある人達に頼まれて、君にクリスマスプレゼントを届けに来たんだ」
「プレゼント?」
小首を傾げるインデックス。
その仕草に思わずドキリとするステイル・マグヌス14歳は、赤くなった顔を付け髭で隠しながら言葉を続ける。
「そ、そう。献身的な修道女である君に」
もともとクリスマスはドイツ清教の行事だが、細かいことは良しとしよう。
「君のことを、とても…………とても大切に思っている者達から」
ステイルは噛みしめるように言葉を吐き出す。

想いは届かないと知っている。
それでも僕は、君の側に居続けよう。
いつまでも、君の側に――

そしてステイルはポケットに手を入れ


「………………………………………………………………………………………」

「? どうしたの?」
いちいち可愛いらしい仕草をしながら問いかけるインデックスに、しかしステイルは言葉を返せない。
(ブローチが………ない)
身体中から脂汗を流して固まるステイル。
(落とした?いつ?まさか………少女とぶつかった時に?まずい、まずいぞ)
インデックスに渡せないこともまずいが、何よりそのことを神裂に伝えた時に自分の身がどうなっているかを想像して身震いする。

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