とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 8-305

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集



禁書目録。エイワス、上条と一方通行の力の及ばぬ強者達が示した最大のヒント。ここまでの
パズルのピースの欠片だけでは人名なのか、書物の集積かもわからぬ得体の知れない言葉だった。
しかし、その詳細を今一番心底から望んでいた。何しろ打ち止めの命脈に直接関与する大きな意味を持つ。
それを知っている人物が目の前にいる。あまりの衝撃に目眩が思わず走った。都合の良さに腹を抱えたい。
「学園都市に属す人間では、一部の例外を除けば意味不明としか形容出来ないだろうな。
 だが『こちら側』では現在、最も着目されている存在でもある。……だからこそ手を付け難くもあるが」
「待て。オマエが言ってる禁書目録ってのはコイツと関連性はあンのか?」
と、懐から拳銃を除けて一枚の拉げた紙を引っ張りだす。それに書かれた文字列を読み取らせた。

Index-Librorum-Prohibitorum°

上条が一方通行に残した、禁書目録の意を含む単語の羅列。
これが繋がるのなら目指す道の一つが浮き彫りになる。それに対してオッレルスは賛意を感じたようだ。
「ああ。それこそが鍵だ。これは禁書目録の個人名とも言い換えられるがな。よく手に入れたな」
「個人名?超能力名じゃねェのか?」
事の拍子に乗って馬鹿げた解釈を吐いてしまったが、先刻学園都市とは関係無いと断言されたばかりだ。
それを知っていたエイワスとは何だったのか。第一上条がこんな情報を見聞きしていたのもおかしい。
科学には幾千もの知識の引出しを構えている一方通行だが、
オッレルスの言う『こちら側』への理解は素人同然だった。

だが、遂に禁忌の扉をノックしてしまった。
そして知る。掌握の手から溢れ出かねない、かつて所属していた世界を外藩へと退かせる智識を。

切れ筋の跡が辛うじて見受けられるオッレルスの唇から発せられる『こちら側』の世界の概要。
それは一方通行が心得る既知の常識とは、あまりにも懸け離れた物だった。


天地が反転したのか、と忌まわしい錯覚が一方通行の全身を張り巡る。理屈はわかる。道理は通ってる。
むしろこの説明によって埋没する疑問の方が圧倒的に多い。
打ち止めを侵したウィルスの名称『ANGEL』、海原に感じた重圧、
垣根帝督の最後の呟き、エイワスの現出、
偶然回収した羊皮紙、襲撃者達の氷撃を『反射』した時に生じた七色の光。
あの黒い翼が発現した原因。
科学の枠、いや学園都市がひた隠しにした未知の現象全てに納得がいく。
「は、はは」
笑いが止まらない。白く、白皙し、白禍した一方通行は、自らを白痴と罵った。
学園都市最強の超能力者の頂点に君臨する彼は、天上から見下ろせば無知無学な赤子同然だったのだ。
気付くチャンスなら今日に至るまであった筈なのに。
例えば土御門や海原が稀に自分の能力や認識を語る時にも魔術、の一言が混じっていた。
彼らは俺を裏で笑っていたのか?闇を喰らい闇に生きるとほざいても真の闇を知らない愚か者だと。
『グループ』に在籍していたあの時期に問いつめれば、彼らも禁書目録について話しただろうか。
禁書目録。求めて探して掴み取った情報はとても簡素な物だった。
10万3000冊の魔導書、『原典』の知識を一字一句正確に記憶する少女。
インデックスと自称し、白い修道服(『歩く教会』と言うらしい)を纏うシスターだという。
(インデックス……?聞き覚えがあンのは記憶違いか?)
衝撃を無理矢理押し込めて、大雑把な追想を行うと答えは自ずと出た。

ハンバーガーを食い漁り、恩返しを勘違いし、
『一字一句正確に』バッテリーの正式名称を復唱したあの修道女か。

嘲笑した反動だろうか、今度は愉快な苦笑が芽生えて、あんな近くに鍵があった情実が馬鹿らしくなった。
だったら、そいつの頭根っこを引っ張ってでも打ち止めの治療法を教示してもらおうかと
思った境に、今度は世界情勢の現状にまで話が進んだ。どうやらそう簡単に聞き出せる状況でないらしい。
「今、禁書目録は自己制御を奪われ、イギリスの聖ジョージ大聖堂に隔離されているとの事だ。
 呪縛を解くには彼女の意識を操作する遠隔制御霊装を破壊するしかない」
「つまりはその霊装とやらを保有してやがる外道を微塵に料理しちまえばいいワケか」
「だが、その外道もそれ相応の実力者だ。現時点でそいつを打破しようと動く一派も尽力しているが、
 どうも成功にまでは至らないようだ。右方のフィアンマ、今は名前だけ知っていればいいだろう」


なるほどね、と頭のメモに書き殴っておく。面倒な道程が待ち構えているのには腹が立つが、
一方通行の気はむしろ晴れていた。目的が一筋に限られて、気分が高揚してくる。
「まァ、ヤル事山積みだっつーのもこの世の尋常なンだろォな。そいつが『原典』とかいう
 雑誌の立ち読みにどんな魅力を感じてンのにもカスっぱちな興味があるが、戦争引き起こす代償とは
 釣り合わねェ。ガキ救ったら世界も平和になりましたとか爆笑モンだな」
久々に冗談を走らせる余裕が出来た。それでも本筋は変わらない。

打ち止めのいる光の世界、それを乱す奴なら率先して潰してやる。

あのシスターも、そこにいるべき人に決まってる。
だったら両方に救済の手を差し伸べるのが一方通行の生き様だ。
「そのフィアンマっておめでた野郎のいる場所を探すのがまず第一歩か」
「そうだな。だがもう夜も遅い。明日まで待てるか?」
短時間で済むと番外個体に嘘をついたが、確かに太陽が頭を何時出してもおかしくない時間になっていた。
仕方ない、か。とドアを抜けて廊下まで歩き番外個体の様子を確認したら、
壁に凭れながら寝ていた。緊張感の無い奴だと思いつつも、自室に戻るオッレルスを見届けながら
毛布を掛けてやった。
「……風邪でも引いたら即置き去りにすンぞ」
と苦言を洩らしても、本当は連れて行くつもりでいた。息が浅い。まだ睡眠に入ったばっかりだ。
自分なりに話を聴いて、役に立ちたかったのかもしれない。少しこいつへの抵抗感が払拭された気がした。
一方通行自身もベッドに横たわる打ち止めを視界に入れつつ、徐々に微睡む眠気に従っていった。


5.5
今買ってるコーヒーに飽きた。最後の一滴が舌に潤いと苦さを与えた際にそう確信した。
ソファーに横たわっていた一方通行は今飲んでいた飲料の空き缶をゴミ箱に投げ捨て、
床に倒してあった現代的なデザインの杖を地面と垂直に立てて直立し、玄関へと向かった。
刺激的な匂いが鼻に付く。寂れていた筈のキッチンは今や選抜きされた食材と
使い込んだ調理具が並んでいる。それらを手に取り料理を進める茶色の毛髪の女性を横目に見つつ
外へ出た。近所のコンビ二に新商品のコーヒーが入荷した筈だ。
「堅苦しくてタマンねェな」
ジジ臭い文句を呟きつつ杖をついて前進する。晴天で日光が眩しい。紫外線を反射しようが目に焼き付く。
しばらく歩くと横道から誰かが飛び出してきた。無意味と知りつつも条件反射で電極のスイッチを入れる。
右手で触れられた彼は『反射』が適用しているにも拘らず、比重に耐えられずに横倒しになった。
杖がガシャンと鉄骨が落下したような不快音を放ちつつ地面に転がった。
接触した男がそれを拾い上げ、テカってしょうがない笑顔を浮かべつつ一方通行に手渡す。
「いやー義兄さん、マジですいません。この『御坂』当麻と不幸を共有しちゃうのも嫌ですかねぇ?」
ツンツン頭の男は学園都市最強の怪物だった彼に軽口を叩く。ハァ?と一方通行は口が開いてしまう。
「オマエを義弟と認めた覚えが無い」
「あっー!この人、未だにツンツン態度が途切れてない!俺そんなに嫌われてるの!?」
能力使用モードを解除しながら再びコンビ二を目指す。関わったら負けだ。
「いや、でも口を訊いてくれるだけ有難いかなーとも思うワケですよ。最初は顔合わせたら
 ちゃぶ台やら電灯をぶん投げられちゃって、もうこの人俺との姻戚関係を人生の汚点と考えてるんじゃ
 ないかと思う度に涙が滝の如く噴出して……って無視ですか!?耳ほじってるし!」
足が自然と早くなる。時間の無駄は所詮損だ。男はそれからも「これはもうDVの域だよ……」とか
「家内に相談しようかな……」などと呟いている。絡んでほしくて仕方ないようだ。
心底怒りを込めて真正面に立って怒鳴った。
「あのなァ!何度も繰り返すが、俺と同居してンのはあくまで妹達であって、オマエの家庭とは
 何の接点もねェンだよォ!俺はオマエの義兄じゃねェ!親戚面してンじゃねェぞコラ!」
が、御坂当麻は真っ向から向かい合って、
「そんなに恥ずかしい事じゃないって俺も何度も言ってるじゃないか!妹達も美琴の『妹』に
 かわりないだろ!?だったら家族だと誇って当たり前だ!血?体裁?まだそんなの気にしてるのか!?」
言い合うとすぐこれだ。こっちが口火を切っても、必ずペースを奪われる。
「そりゃ過去にも色々あったさ!でも大切なのは俺達が勝ち取った『今』だろ!手を取り合って
 助け合わなきゃ、また昔みたいな争いになっちゃうだろ!?第一、いがみ合ってるのは俺と
 義兄さんだけじゃないか!」
「だからその義兄さんってのをやめろっつってンだよォ!」
あっという間にヒートアップする二人。その内に民衆が集まってきてザワザワとひしめき合う。
それに一足先に気付いた一方通行は嫌々矛を鞘に戻し、周りを睨んで人を払った。
今度こそコーヒーを買いに行こう。とまた歩行を始めると、



「第一位~!お財布忘れてるよ~!」
「またあの人と言い争ってるし!いい加減、過去は水に流して欲しいってミサカはミサカは御坂家の
 安穏をもう一度祈ってみたり!」

声域が全く同一かつ、一方通行の『嫁と娘』が夏に見合った服装を靡かせながら坂道を駆けて来る。
顎が外れそうになるのを空いた左手で押さえつつ、ハァ、と重い、重ーい溜息を深く吐いた。
その様子を確認した当麻が二人の助力を期待しつつ、状況の一変を狙う。
「あ、義兄さんお金持ってないんですね?だったら俺がタダで貸しますよ!
 財布持ってきてくれた二人には悪いけど、ここは義兄弟の親睦を深めるという大義名分に乗っ取ってど」
「なにそれ!気の使い方にも善悪があるって力説してたのあなたじゃん!ってミサカはミサカは
 言動の整合性にツッコミを入れてみたり!」
「うむ、でもミサカはあなたの作戦は意外と的確だと言わざるを得ない。
 金の切れ目が縁の切れ目なら、金の繋がりは縁の安寧だとも言えるよね!」
「……オマエらそこまでして俺を懐柔させたいワケか?逆に癇癪玉が破裂しそォだぞ……?」
正直さを追求して、ついうっかり文句を滑らせたら、かえって三人の説得がエスカレートした。
「また怒って破壊活動か!?俺にあたるのは良いけど周辺への被害、いや、自分の保守のために
 ミサカ達の思いをこれ以上無下にしようっていうなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す」
「この人は悪くないし、あなたを一番心配しているのはこの人なんだよって客観性を捨てて
 涙を浮かべてみたり……ってミサカはミサカは本気で悲しみを背負ってみる」
「第一位は素直になってほしいな。ミサカは知ってるよ?この人が仕事でヘマした時も
 第一位がフォローに回って、謝りの電話を代わりに深夜にかけ続けたのを。
 本当は家族として認めてるんだよね?」
あのな、と本心を述べようとさすがに思い、ただ俺は義兄さんと呼ばれるのに羞恥心を感じているだけで
普通に一方通行と言い換えて欲しいだけなんだ、といったニュアンスを伝えようとしたら、
「……ほぉおー。どうやらまたこの二人にお灸を据える必要があるようねぇ……?」
『御坂』当麻、打ち止め、番外個体の背後から、重圧を超越した色濃い気配が二つ飛来してきた。
三人の動きがビクゥ!と石像の如く静止する。そしてすぐグダダダダと鐘の様に小刻みに振動していった。
「これ以上おいたが過ぎるようなら、即刻断罪を執行しますとミサカは最後の警告を腹黒く押し通ります」
一方通行だけがその鬼気迫る激情を直視した。あいつの恐妻とその姉妹が
正に世界の終焉を開闢させる瞬間を。歯が小刻みにガタガタ鳴る。
『反射』を展開しても耐えられるかどうかわからない攻撃を察知して、
一方通行はただただ汗と血の匂いに怯えるが故、底知れぬ恐怖に震える指先をスイッチに持って行った。



冷たい風が肌を刺激させ、朝の到来を一方通行に教えつけた。夢を見たのは久しぶりだ。
イチイチ内容まで覚えていないが、不快にも拘らずどこか安らぎを感じる夢想だった気がする。
最近は些細な物音にも反応して覚醒する気質に加え、緊張感の連続で眠る頻度も大分減った。
それが翻ったという事はやはり事態の進展に実感が湧いた、からだろうか。
目を開き、朝の兆候を発し続ける方向を見ると、昨夜は重いカーテンに遮られた窓が全開になっていた。
冷風はそこから入ってきたらしい。このクソ寒いロシアで換気を行うのは常識外れだろと感想を抱き、
打ち止めの体が冷えてしまうなと心配してベッドに視点を切り替えると、

空っぽのベッドがあった。打ち止めの姿が消えていた。

一瞬で眠気が吹き飛び、最悪の事態の到来に頭を働かせる。
(遂に第二派が来やがったのか!?何で気付かなかった!オッレルスは何してたンだ!?)
とにかく彼女を探すしかない。ベッドに手を当て温もりを確かめるが、気温の低下の影響で
打ち止めが連れ去られてから間が空いたかどうかが予測出来ない。手がかりは、無い。
焦りが足の震えを誘発させる。打ち止めを平癒させる手段を掴んだ直後にこれだ。
絶対に彼女を奪還し、そのホシは確実に鏖殺する。そう目当てをつけ電極を能力使用モードに切り替え、
開いた窓に手をかけ、自己移動のベクトルを操作し砲弾の如く外へ飛び出すと、

その顔にドゥバッ!とスナック菓子の袋を勢いよくブチ開けた様な破裂音と共に
雪玉が叩き付けられた。

『反射』は正常に発動したので、雪玉はそのまま投手に向かって正確に飛躍する。
射手は子供だった。古着屋のセールで並んでそうな痛んだ感じの冬服を着用していた。
雪玉が顔に返されてくしゃくしゃになっている。だが楽しそうにはしゃいでいる。
「…………」
一方通行はこの事態に急速には対応不可だったが、遠目で全景を眺めれば
取り越し苦労だったのかと安心した。

そこでは打ち止めが厚着で子供達と雪合戦を堪能していたからだ。

「よーし!今度こそ本気を出して、敵陣営に大雪玉を叩きつけてやるってミサカはミサカは
 物騒な宣戦布告をしてみたり!」
そうやって自分の頭部に匹敵する大玉を隠し球とばかりに投げ飛ばすが、力不足かすぐ近くに落下した。
周りの子はその光景を見て大笑いする。打ち止めは悔しそうに顔を雪に埋めていた。
一方通行は腰が砕け、その場にずるずると座り込んだ。
(人に心配かけさせといて、それかよ。クソガキが)
制御スイッチを操作しながら、呆れつつも、満足そうな笑顔を浮かべている自分が何だか滑稽だった。
その流れで頭上を見上げたら、建物の屋根にオッレルスが上って修理をしているのを発見した。
それに気付いた相手が声を張り上げてくる。
「起きたのかい?朝食なら食堂に一応あるぞ。安物のシチーと黒パンだがな!」
作業を終えたのか、するすると立て掛けた梯子をスムーズに降りてくる。あまりに慣れた動きだ。
気が抜けたからか、取りあえず目に入ったこの建物についての話題を振った。
「現代になってまで木造建築とか古風すぎンだろ。釘が使われてねェから事からすると
 15世紀以降にブッ建てられたもンを再利用してンのかァ?」
この建物は丸太を主に使って作られたとわかる。苔や粘土がその間を埋めるように塗り付けられている。
伝統的なヴェネッツ方式だ。冬の寒さを軽減する為に居間もコンパクトに作られているのだろう。
「エリザリーナ独立国同盟が出来てから旧舎は大概打ち壊されて新築される傾向にあったが、
 こんな地方だとその作業が手付かずになって放置されてるモノもあるわけだ。
 その分土地も安いし、意外と頑丈だ。といっても、ガタがきてる部分もあるがな」
手ぬぐいで汗を拭いつつ、オッレルスが説明した。一方通行は話半分でそれを聞いていた。
「あのガキが自由に出歩いてンが、平気なのか?」
打ち止めの病状が一時的に直ったとしても、あそこまで放っておくのは危険じゃないかと勘ぐるが、
「本人は大丈夫と豪語してたし、俺の診断からすればまだ余裕はあると思う。
 それに外で他の子と遊ぶのが子供に一番良く効く薬さ。打ち止め自身も喜んでるしな」
……適当だ。そんな甘い考えを持つ奴だったのか?オッレルスの人格がよくわからない。そんな彼は、
どこからかクワスの瓶を取り出し飲んでいる。一方通行も勧められるが断った。
厳密にはアルコールではないが一応は酒だ。それにやっぱり飲むならコーヒーに限る。
そうしてその場に座り込んだオッレルスはふと呟いた。


「あの子達は戦争孤児だよ」
一方通行はギョッとした。戦争、戦争と小耳に何度に挟むよりも現実を濃厚に押し付けられたからだ。
「学園都市は基地陣営の拡大に力を注ぎ、人的被害はなるべく出さない作戦方式を取ってるが
 ロシア側はその迎撃に追いやられ、通常の戦闘よりも多量の人員が必要になった。
 そうすると、連邦軍の軍員だけでは賄いきれない。しかも徴兵制度はこんな田舎の貧窮している
 家庭から働き手である父親達を中心に徴収されるわけだ。そうすると残された母親は仕事を求めて
 家を出なくてはならない。だから子供達が残される」
ぐいっと瓶を上げて一気に飲み干し、オッレルスは話を続けた。
「さらにはここらの国の境界線近くの人々はロシアに付くか、独立国に付くかを迫られる場合が多い。
 すると、大国をつい選んでしまう者が過半数だ。それがこの結果さ。親達が戻れない可能性だって
 あるだろう?だからこんな即席の孤児院が必要になってくる。だが国側はそこまで手が回らない。
 そうだから俺の様な浮浪者がやるしかないんだ」
一方通行はあまりに過酷な状況に瞬き一つ動かせなかった。同時にオッレルスの懐の大きさに舌を巻いた。
「といってもここはまだ幸運な方だよ。実はこの建物は俺が来るだいぶ前から孤児院として
 使われていたんだ。そのおかげでベッドも毛布も部屋もさらには家畜まで揃ってる。
 食料も少し力任せに『取引』すれば手に入れるのは難しくない。
 噂じゃ、不死の化物がこういった施設を幾つも整備しながら旅をしていたとか。そいつに敬意を表して
 ここを選んだんだ。あの子達も親を待つのにも飽きて、ああやって遊ぶぐらいの余裕も出来てきた」
そうしてオッレルスは熱い眼差しで雪合戦に励む孤児達を一望した。一方通行もそれにつられたが、
彼とは全く別の物を見ていた。打ち止めの遊ぶ姿だ。
打ち止めは本来あそこにいなければならない存在だ。同世代のガキ共と交流して、闇とは繋がらず
光の元にずっといればいい。光は暖かい。一方通行がいる冷酷な闇とは正反対だ。
それが今、部分的に叶っている。打ち止めは自分にも笑顔を振りまいてくれるが、
あの笑顔はまたそれとは違う。いい加減で、気まぐれで、気負いが無い。純粋無垢な結晶の様だ。
黄色い声が打ち止めの名を呼ぶ。打ち止めもそれを返す。それだけだ。
それだけでいい。自分では手放すことしか出来なかった、甘美な世界にあり続ければいい。
そう感慨に耽ってたら、背後からこっそり接近して来る気配をまた察知した。
ちょっかいを出される前に振り返る。やっぱり番外個体だった。寒そうに毛布に包まったままだ。
「……うー。また打ち止めばっか見てる。ミサカはこのクソ寒い家屋をあなたと食べ物求めて
 一人寂しく放浪してたのに。やっぱり第一位はこの大きいミサカよりも小さいミサカの方が
 好みなの?スモールな輩にしか反応しない不感症なの?だったらあなたは真性の変態じゃ」
「……それ以上続けンのか?ならその体に教えてやろォか」
と言って蓑虫みたいな番外個体から毛布を奪い去ると、何故か赤面して涙ぐむ。
「ど、どうしてそんな冷たいの!?って、てか内面以上に外界が寒い!!ミサカは戦闘とかでは
 我慢するけど、こんなケースでは寒冷には勝てないの!!だから返して返してー!!」


とあまりに可哀想だよ、とオッレルスが訴えるのであァそォかい、と毛布は返却してやった。
また包まる番外個体。初遭遇とのギャップに腹を抱えて笑った。
「ははは!オマエさァ、まるでボロ雑巾にしか見えねェぞ!これしきの冷度に辟易してるとよォ、
 本格的な真冬でのたれ死ンのがオチになンぞ?だから毛布は卒業しろよなァ」
「ま、また取らないでよ!あなたミサカに対してサドすぎる!」
取る、奪う、取り返すを連発してたら、打ち止めと子供達が戻ってくるのを見逃すところだった。
オッレルスが彼らを一回中に引き入れようと指笛で呼びかけているようだ。
それで打ち止めが漫才っぽい馬鹿騒ぎをしてる二人に混じった。
「雪合戦は楽しいね。何発も顔に雪玉食らっちゃったけど。うん?あなたは一体誰と何をしてるの?
 ミサカも面白そうだからこの人から毛布を取ってみるってミサカはミサカはおりゃーっと
 この毛布を投げ飛ばしてみたり!」
と、勢いよく毛布は哀れにも打ち止めによって積雪に叩き付けられ、番外個体はまた薄いウォースーツ
一枚にされた。だが、その関心はもう毛布から離れ、打ち止めとの対面に移った。
打ち止めが敵対心を露にするのでは、と一方通行は一瞬危ぶんだ。打ち止めは番外個体に殺されかけた
記憶しか無い。が、先に反応したのは番外個体だった。
「お、これは可愛いミサカがいる。娘にしちゃいたいな。って頬擦りしちゃうよ」
打ち止めの体をヒョイと持ち上げ慈しんでいる。オイオイと思う矢先に、
「え!?このミサカはどうしてこんなにミサカに友好的なの!?それにさっきまで運動して火照った
 体に冷えきった顔を押し付けるのはやめてほしいってミサカはミサカは全力で振り払ってみる!」
「だーめ、離しません。ってミサカは温かいこのミサカを湯たんぽ代わりにしちゃいます。
 ふふふ、どーだ参ったか。ミサカは見る見るうちにこのミサカを気に入っちゃうよ?」
「やーめーてー!あなたも見てないで助けてよー!ってミサカはミサカは救助を呼びかけてみるっ!!」
一方通行は、下手に介入するよりこの二人に任せた方が関係が良くなりそうだなと楽観的に
打ち止めと番外個体を見ていた。何故か、自然に笑いが込み上げてくる。あまりにも馬鹿らしい。

子供達を収容し終わり、そんな三人を遠くから眺めるオッレルス。
一方通行、打ち止め、番外個体。
本来なら繋がるはずの無かった特殊な彼らの様子を実見して、こんな感銘を受けていた。

まるで、本当の家族みたいじゃないか、と。




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー