とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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匿名ユーザー

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日も沈みかけた夕暮れ時に一台の車が道路を走っていた。
その車の中では、運転をしている当麻が助手席に座るカエル顔の医者に話しかけた。
「すいません、休暇中に…」
「別に構わないよ…一人で寂しく飲んでいるより楽しいからね」
カエル顔の医者は、どこか嬉しそうな顔をして答えた。その顔を見て安心した当麻はルームミラー越しに、
後ろの席に座る白い髪の男を見ながら
「一方通行も悪かったな、面倒なことを頼んで」
「…別に…金はちゃんと貰ったからな…それに浜面のやつには打ち止めが世話になったしな…」
一方通行は、今科学者として働いている。だが、それは表向きである学園都市最高の頭脳を持つ彼にとって一流大学に入ることも
博士となることも簡単なことであり、今では自分の研究所も持っている。といってもそこで働くのは一方通行と芳川しかいない
それでも、かつて様々な研究機関に身を置いていた彼は、働かなくても十分贅沢をすることはできる。
しかし、彼は今も裏で働いている、学園都市の技術を必要とする打ち止めの為にも、そしていろいろと助けてくれた友の為に
「別に無理して裏で働くこともないだろ?もう少し科学者らしくしたらラストオーダーとの時間も増やせんのに」
「…別に今のままで十分だ…一日一回は会えるし、あいつに危険も及ばないしな」
いつものように怒っても笑ってもいない表情で答える一方通行にカエル顔の医者は、笑いながら語りかけた。
「君は本当に丸くなったね…」
「…………………」
いつもならここで不機嫌そうな顔をするのだろうが、先ほどと変わらない表情でいるところを見ると、
どうやら本当に丸くなったらしい。
しばらく車を進めているとカエル顔の医者が窓の外に広がる夕暮れに染まる街を見ながら
「昔は気付かなかったけど…この街は…こんなに綺麗だったね」
「えぇ…この街に人生を狂わせられた人もいるけど…この街自体は、俺結構好きですよ」
「そうかい……まぁでも…君に一方通行、御坂君に浜面君…あの頃の学園都市を知る者はずいぶんと少なくなった」
指を折りながら数えるカエル顔の医者はしんみりと語りだした。
「十年経ちましたからね…無理もないですよ」
「君や一方通行には、ちょくちょく会ってるし、浜面君にはこれから会うけど…御坂君には、ずいぶん会ってないね…
君と御坂君は仲が良かったけど、彼女は今何をしてるんだい?」
「御坂ですか…懐かしいですね、あいつの高校の卒業式の時に会ったきり会ってませんね」

5年前…御坂の高校の卒業式の日


「よっ!御坂」
「あっ!あんた!なんで!?」
「いや…別に……卒業おめでとう」
「あっありがとう………きっ聞いたわよ、あんた医者になったんだって?すごいじゃない」
「いやっ…まだまだ師匠ほどじゃねーさ」
「そっそれで!?なんのよう!?」
「いや、卒業祝いと挨拶に…」
「挨拶?」
「あぁ…俺、イギリスに行くことになってな」
「えっ!?」
「だからお前に挨拶を…な」
「そっそうなんだ…」
「………なぁ御坂…お前も来るか?」
「えっ!なっ!?なっ!?何言ってんのよ!?どうして私が!?…」
「ははっ…だろうな…言ってみただけだ……じゃあな、元気でやれよ」
「あっ!……待っ………………」

「風の噂では親父さんの影響で世界を飛び回って人助けしてるみたいですけど…ほんとよくやりますよ」
(*1)
二人とも呆れながら心の声を合わせた。
「こう何年も会ってないと、たまには会いたいもんですね…」
「そのセリフを直接彼女に言ってあげれば喜ぶと思うよ」
カエル顔の医者がどこか呆れたように言ったが、当麻には何故か分からなかった、
そんな当麻にさらに呆れながらカエル顔の医者はは語りだす。
「僕にとってこの10年は、あっという間さ…今となっては伝説とまで言われてる君と一方通行との決闘も
僕にとっては、昨日のことのようさ」
「ははっ、そんなこともありましたねぇ…」
「俺は勝った思い出がねェけどな」
今はこうして二人とも笑って話しているが、昔二人が本当に2回ほど殺しあったことを知っている者達からすれば、
信じられない状況だろうが、その二人は、今まるで昔からの友達のように普通に喋っていた。
「そういやァ…また侵入した奴がいたみたいだぞォ…」
「あぁ…俺にようがあったみたいだ…」
「またか…魔術師か?」
「あぁ…適当に相手して、丁重に御帰りいただいた」
「どこのものなんだい?ロシアかい?それともアジアの方かい?」
「いいや…ローマだ」
当麻は特に慌てる様子もなく、運転を続けながら答えた。
「ローマだァ?」
「どういうことだい?ローマ教皇はもう君のことは諦めたんじゃないのかい?」
「もうあの人は引退して別の人になったんですよ…で、そいつがまた威厳っつーもんがなくて他の奴らを抑えられないんですよ」
「じゃあ、また昔の生活に逆戻りかい?」
「…苦労すんな…」
「もう慣れたよ」
若干あきらめ気味の当麻は、遠い目をして答えた。

「ただいま~っと…」
個室サロンの部屋を開けた当麻は、少しふざけ気味言った。
「おかえり~ってみさかはみさかは癒しの笑顔で迎えてみる!」
初めに当麻達を出迎えたのは打ち止めであった。当麻達が奥の広いリビングに行くとそこには、子供と遊ぶ滝壺と絹旗
そして、おそらくコンビニで買ったであろうお菓子をテーブルに少し置いて雑談する浜面や吹寄達の姿があった。
「なんだよ…適当にルームサービス使ってくれりゃいいのに」
当麻はあまりに寂しい食事を見て思わず言ってしまった。
「ほら!言った通りぜよ」
「いや~勝手に使ったら悪いかな~思うて」
「とりあえず貴様が来るまで待とうと決めたのだ」
「別に気にしなくていいのによ…」
みんなの優しさに感動しつつ、当麻はテーブルの上にある薄いカタログを指さし
「そん中から適当に選んでくれ…金は俺が払うよ」
「うひょ~太っ腹ぜよ~!」
「ゴチになりま~す!!」
土御門と青髪はゴチになる気満々だが、少し離れたところで姫神が申し訳なさそうに
「本当にいいの?」
「んっ?あぁ気にしなくていいよ」
「そう…上条君その人達は?」
姫神は、当麻の後ろにいるカエル顔の老人と白い髪の男を見て尋ねた。
「あぁ!白髪の方は一方通行…友達だ」
「…どうも」
一方通行は驚くことに友達と言う言葉否定しなかったうえ、挨拶までしてきた。
「おかえり~ってみさかはみさかは抱きつきながら定番の挨拶をしてみたり!」
「…あぁ」
適当に返した一方通行は打ち止めに連れてかれ、そのまま大きなソファーに座った。
「でっこっちは、俺の師匠…てか、お前らは会ったことあるだろ?」
「えっ!?……あっもしかして大覇星祭のときの?」
姫神がハッと気付くと
「お久しぶり…元気そうだね…そちらのお嬢さんも」
カエル顔の医者は吹寄の方に顔を向けてニコっと笑った
「あぁ!あの時は…どうもお世話になりました」
「いやいや、あれが僕の仕事だからね」
「まさか…あなたが上条の師匠だったとは…」
吹寄も姫神も驚いていたが、そんな二人を見て当麻が
「ほらっ!積もる話は後で…とりあえず、なんか頼もうぜ…って、ん?」
当麻が話していると携帯のバイブ音が鳴った。
「わりっ!ちょっと外す…なんか適当に頼んどいてくれ」
そう言うと、当麻は携帯を持って広いベランダへと足を運んだ。

広いベランダに出た当麻は携帯に出た。
「もしもし?」
『こんばんわ、かな?上条君』
電話からは老人の声が聞こえた。
「あぁ…どうもお久しぶりです…ローマ教皇」
『要件は分かると思うが…』
「えぇ来ましたよ、3人ほど」
『その者たちは?』
「御帰りいただきました…」
『そうか…申しわけない』
「あなたのせいではないですよ…まぁでも、もっとマシな奴を教皇にして欲しかったですよ」
『彼は彼でよくやっているんだが…』
「俺も嫌われたもんですね」
『…私としても、あまり君にローマ正教徒を会わせたくないのだがね…また君に取られてしまう』
「別に俺は取っちゃいませんよ…俺は好き勝手にさせているだけです」
『それが一番厄介なんだが…………探し物は?』
「いえ…見つかりませんでした」
電話越しのローマ教皇は分からないだろうが、この時の当麻はどこか悲しそうな顔をしていた。
『そうか…これからどうするんだい?』
「……もう少し世界を見て回るつもりです」
『そうかい…もしもローマ正教に入る気があったら言ってくれ、私が手を打とう』
「折角ですけど、お断りします」
『やはりな…残念だ』
「まぁでも近いうちにそっちに行くつもりなので…その時は一杯付き合ってくださいよ」
『悪いが…酒は』
「もう教皇じゃないですから…別にいいじゃないですか?」
『いいや…腐っても私はローマ教皇だった男だ』
「そうですか…じゃあヴェントやつと飲みますよ」
『………………………』
なにやら妙な沈黙が続いた。
「なんですか?」
『いや…あんなやつと酒を飲みたがる者なんて、おそらく世界中を探しても君だけだろう』
「はははっ確かに、でも一緒に飲んで騒げるやつは、ローマじゃあいつくらいでしょう?」
『君はいい!だがヴェントのやつが騒ぎだしたら…』
「俺がいるでしょう?」
『君も酔っぱっらてたら止める者がいなくなるだろう!?もし二人一緒に暴れたら国一つ滅ぼしかねん!』
「大げさですよ~」
『やれやれ………もし来たのなら連絡をしなさい、酒はだめだが、お茶なら付き合おう』
「………じゃあ可愛いウェイトレスがいる所で」
『フッ、分かった探しておこう…では』
「えぇまた、そのうち…」

当麻が電話をしているころ中では、
「じゃあ俺が適当に選んどくぞ~」
カタログを持った浜面は慣れた手つきで電話をしていると
「にゃー!酒はどこぜよ!?」
「あぁ…キッチンにあると思うぞ」
電話をする手を止めた浜面が答えるとビュンッ!目にも止まらぬ速さで土御門はキッチンへ向かった。
「みさかもお酒飲みた~い!!ってみさかはみさかはおねだりしてみたり!!」
「てめェは未成年だろうがァ」
「ぶ~ケチ~!ってみさかはみさかはぐうたれてみる!」
「こらこら未成年の飲酒は体に毒なんですよ~」
打ち止めと一方通行の話を聞いていた小萌は先生らしくしたのだが
「あなたに言われても説得力無いんだけど…ってみさかはみさかはすごく的確なことを言ってみたり」
逆効果であった、が周りを和ませることには成功した。
「いや~こうしてみんなで飲むのは楽しいね…」
「病院の同僚と一緒に飲んだりはしないんですか?」
笑顔で語るカエル顔の医者に吹寄は尋ねた。
「僕はもうあの病院では働いてないんだよ」
「そうなんですか?」
「にゃー!コップがないぜよ!!」
キッチンの方から土御門が両手に酒瓶を持って叫んできた。
「棚に置いてあんだろォ?」
一方通行が面倒くさそうに答えたが、
「どこぜよ~?」
「…チッ」
コップを見つけられない土御門に舌打ちをしつつ、一方通行はキッチンの方へと向かった。
一方通行が行ったのを確認した吹寄は、隣の小萌先生に、
「先生、気になってたんだけど…一方通行って、あの?」
「そうですよ、学園都市第一位のアクセラレータちゃんですっ!」
「へぇー、あれが…なぜそんな有名人が上条と?」
「彼もまた上条君の患者なんだよ」
答えた子萌先生ではなく、カエル顔の医者だった。
「彼も?」
「あぁ…彼は昔ある事件で脳に深い傷を負ってねぇ…ある処置のおかげで私生活には問題なかったが、能力はまともに使えなくなってね、
その時担当したのは僕だったけど…僕ではどうしようもなかった」
そん場に居た吹寄や姫神、青髪は、ただ黙って昔のことを悲しそうに語るカエル顔の医者の話を聞いていた。
「彼が傷を負ってから数年たった、ある日そこの先生が上条君に脳科学を教えてほしいと言われてね…彼とはもともと面識もあったし、
僕はOKしたんだ…上条君は本当に熱心に脳科学について学んだんだ…ほんの一年ほどで脳科学だけなら医大卒業程度までの知識は身に着けていた
そして、一通り脳科学を学んだ彼に私は医学を教えたんだ…」
「…なぜあいつは脳科学を?」
「……さぁね…だけど…『助けたい人がいる』っと言っていたな…だからある程度脳科学を学んだら医学も学ぶつもりだったらしい」
「助けたい人って…一方通行のことですか?」
「さぁね…まぁ、何にせよ彼が助けたんだけどね」

「彼が僕のもとに来てから3年ほどたった…彼は医学を学ぶ傍ら『脳組織の再生』の研究に取り組んでいてね…
かなり難しいものだったけど…彼は成功したんだよ」
そこまで話すと小萌先生がソファーに立って騒ぎ始めた。
「上条ちゃんはホントにすごいんですよ~!学会でも注目されたすごい発見だったんですっ!!……でも」
子萌先生はそこまで言うと急におとなしくなってしまった。
「何かあったんですか?」
「上条ちゃんは…」
「彼はその研究成果を学会で発表しなかったんだよ…」
静かになった小萌先生のかわりにカエル顔の医者が説明した。
「…え?どうしてですか!?すごい発見だったんじゃ!?」
「あぁ学会で発表すれば…もしかしたら教授になれたかも知れない…」
「ならっ!?」
「彼は研究データをすべて僕に渡してね…自分の替わりに発表してくれと言って彼はイギリスに行ってしまった」
「…どうしてあいつは?」
「さぁね…イギリスに行く頃には彼はもう立派な医者だったし、僕は特別止めなかった」
吹寄が釈然としないと顔をしたが、そこに小萌先生が寂そうに付け加えた。
「私も一回上条ちゃんを問い詰めたことがあるんです…でも結局、理由を話してくれませんでした」
「なにを考えているんだか…あいつは」
「まぁ、彼は教授なんてものに興味がない子だったからね…それにその発見で得た利益…まぁお金とかはちゃんと受け取ってくれたから、
もし、それもいらないなんて言われたら、さすがに困っただろうね…」
吹寄はただただ呆れ果てていた。昔から当麻に向上心というものがないとは思っていたが、それが今でも続いているのか思うと
もはや呆れるしかない。
「彼がイギリスに行って1,2年ほどたってから、彼女の…あぁ滝壺君がここに戻ってくるのに上条君も付き添いで来てね
そこで久しぶりに会ったぐらいだね…いろいろ聞いたよ…国境なき医師団に入ったこともそこで聞いた
心配する気持ちもあったが、なにより彼が立派になって帰ってくるのが嬉しくてね……まぁ元気そうでよかったよ」
カエル顔の医者は、まるで親が子を心配するような顔で淡々と語った。

5年前、御坂の高校の卒業式が行われる少し前
当麻の研究室にて

「荷物は…こんなもんか…」
「上条ちゃん!!」
「んっ?あぁ先生!ご無沙汰してます」
「ご無沙汰してます、じゃないです~!!一体何を考えているんですか!?」
「あぁちょっとイギリスに用が」
「そっちじゃないです!!研究のことです!!」
「あぁ…別にいいじゃないですか」
「良くないです!!あれを発表すれば上条ちゃんの学園都市での地位は確実なものになっていたはずなのにっ!!」
「そんな怒んなくても…」
「ウゥゥゥゥゥッ」
「いやっ!泣かないでくださいよ!」
「ウゥゥッ、上条ちゃんは大バカ者です~折角学園都市のみんなが上条ちゃんを認めてくれるチャンスだったのに…」
「…別に俺は地位が欲しかった訳じゃないですし…でも無駄じゃないですよ、ちゃんと研究分の給料は貰いますから」
「グスッ、上条ちゃんはお金が欲しかったんですか?」
「……いいえ…もっと別のものが欲しかったんですけど…」
「別のもの?」
「もしかしたら、この研究で手に入るかと思ったんですけど…ダメでした」
「………これからどうするんですか?」
「とりあえずイギリスに…会いたい人がいるんです」
「会いたい人?シスターちゃんですか?」
「えぇ…ちょっと確かめたいことがあって」
「上条ちゃんもやっと誰かと結ばれる気になったんですかっ!?」
「……………期待を裏切って悪いですけど、ただ研究に付き合ってもらうだけです」


「にゃー!!みんなで飲むぜよ!!」
酒とコップを持った土御門が上機嫌にやってきた。
「ほらほら~どんどんいくぜよ!!」
土御門は適当にコップを配ると、テーブルの上に酒を並べていった。
「焼酎、日本酒、ウイスキー、ブランデー、ワイン、ウォッカ…うっひょ~たまらんぜよ!!」
当麻の趣味かどうかは分からないが酒は様々な種類があった。
「うお~カミやんのやつ!すごいやん!!」
「上条君ってお酒好きなんだ…」
「あぁ彼は結構いける口だよ」
みな、それぞれが飲みたいものをコップに注いでいき飲み始めると、
「おっ!やってるな~」
ベランダから電話を終えた当麻が部屋の中に入ってきた。
「俺も何か飲むか…」
当麻は適当に近くの酒瓶をとって、近くにあったコップに注いで飲み始めた。
「にゃー、どんどん飲むぜよ!」
「いや~姫やん!ここは人目につかないから酔って脱いじゃったりしてもええで~!」
「黙れ青髪!!」
吹寄による本日3度目の顔面パンチ
「上条君…このままじゃ私脱いじゃうかも」
「いや姫神!なんのカミングアウト!?」
「みなさんお酒はほどほどにですよ~」
「滝壺君は飲んじゃだめだよ…医者として見逃せないからね…」
「残念…」
「お腹の子に悪いからダメだぞ…」
「まぁまぁ滝壺さん…産んだ後に超飲み明かしましょう」
「ほら!もう始まっちゃてるよってみさかはみさかは急かしてみる!」
「めんどくせェなァ」
それぞれの楽しみ方でそれぞれの夜を迎える。

時計の針が深夜をさす頃には、皆疲れて寝静まっていた。
吹寄や姫神や打ち止め、小萌先生はソファーで酔い潰れて寝ているが、土御門や青髪や浜面は布団も敷かずにそのまま床で寝てしまっていた。
カエル顔の医者は、皆が寝静まる前に帰ってしまった。もちろん、酔っているのでタクシーを使ってである。
唯一ベットが置いてある部屋は、妊婦の滝壺と子供のとうま、それに滝壺について行った絹旗が使っていた。
ベットは大きく、大人がかるく4人は寝られそうなスペースがあり、滝壺と絹旗は真ん中に当麻を寝かせて川の字で寝ていた。
と言っても滝壺と絹旗はまだ起きていた、滝壺は横に寝るとうま胸のあたりをポンッポンッとゆっくり叩きながら眠りを促していた。
その横で絹旗は、滝壺のお母さんらしい行動をただ横になって見ていた。
「もう滝壺さんは超立派なお母さんですね」
「そうかな…」
「そうですよ…それにもうすぐ二人目も生まれるなんて」
「うん…暗部に居た頃なら…想像もできなかったかも…私がお母さんになるなんて」
「私もですよ…しかも、相手はあの浜面なんて」
絹旗は妙な笑みを浮かべながら、滝壺を見つめてきた。そこで滝壺はとうまの上に置いている手を動かすのをやめて、今度は絹旗の方を見た。
「きぬはたも結婚したらいい」
「超遠慮させてもらいます」
「どうして?」
「別に超したくはないし…する相手も超いません」
「…暗部を止めたら、きっと見つかるよ」
「そんな超簡単に暗部は止められませんよ…」
そう言うと絹旗は横向きから仰向けへと変わって、天井を見詰め始めた。
「かみじょうに頼べば、止めさせてくれるかも」
「上条当麻ですか…」
「うん…なんとかしてくれると思うよ…私もはまづらもいっぱい助けられたから…」
「仮に止めたとしても…それからどうすれば…」
「一緒にイギリスに行こうよ…向こうのかみじょうの友達がいろいろ親切にしてくれるよ」
「どんだけの人脈があるんですか?…彼は……てゆーか、上条当麻の方だったら超理解できますが…よりによってどうして浜面なんです?」
「理由を聞かれても…正直なんて答えていいか分からないけど…でも…はまづらは私を必要としてくれたから…
暗部しか居場所のない私に生きる場所をくれたから」
ゆっくりと喋っていた滝壺だったが、その表情はとても穏やかで何一つ嘘は言っていないと絹旗は感じられた。
「は~でもやっぱり結婚は超遠慮させて貰います…それに子供なんてできたら、さらに超大変になります」
「うん…そうだね、やっぱり大変だよ子育ては…でも、かみじょうの友達がいっぱい手伝ってくれたよ…天草式とかシスターさんとか」
「超意味が分からない人脈ですね……でも子供とか旦那なんていても、なんか超鬱陶しそうです……でも」
「でも?」
「どうしてでしょうね…滝壺さん達を見ているとなんだか…超悪くないかもって思えます。」

みんなが寝ている中、当麻は一人で広いベランダに座って月を見ながら酒を飲んでいた。すると後ろから、
「一人で飲んでて…寂しくねェのか?」
一方通行がとぼとぼと歩いてきた。
「おっ…まだ起きてたのか」
「まァな」
「別に…ただこうして酒を飲む機会があんまないからな…」
「そうか」
「…いろんな国を回ったが…やっぱり日本で見る月が一番綺麗だ」
月を見上げながら、当麻はコップに注いだ酒を一口飲むと振りかえり一方通行に酒瓶を見せながら
「飲むか?」
「……あぁ」
一方通行は当麻の隣に座って持っていたコップを出した、初めから持っていたとこを見るとどうやら最初から飲む気だったらしい
当麻は一方通行の持ってきたコップに酒を注ぐと自分のものにも注ぎ始めた。一方通行は注がれた酒を鼻元へ近づけて匂いを嗅いだ。
「外の酒だなァ…あんまり上物じゃねェだろォ」
「世界中の酒を飲んだが…肌に合った水から作る酒が一番だ…俺の故郷の酒だ…飲んでくれ」
一方通行はグビグビと酒を飲んでいった。
「あぁ…悪くねェ」
「そうか」
続けて当麻も酒を飲み、二人はしばらく無言だったがコップを空にした当麻が酒を注ぎながら語りだした。
「不思議なもんでな…記憶なんてないはずなのに、これを飲むと懐かしい感じがする」
「……中東の方に行っていたそォだが…目当てのもンは見つかったのか?…」
「いいや…これと言って、記憶を取り戻すのに役に立ちそうな魔術はなかった」
「……そうか」
「今度はアフリカの方に行ってみるつもりだ…あそこはインデックスも知らない魔術の知識が広がっている国があるらしいからな」
「あのあたりは、まだ紛争が絶えない国ばかりだろォ…また国境なき医師団として行くのか?」
「あぁ…その方がもっともらしいだろ」
当麻は確かに国境なき医師団として働いているが、本当の目的は紛争地域で苦しむ人を助けるだけが目的ではない
本当の目的は、様々な国を回って未だに知られていない魔術知識を集めて、記憶を取り戻すのに役立つものを探す
それが本当の目的である。しかし、第3次世界大戦もしくは、それよりも前から上条当麻という人物の名前は知られていた。
学園都市では、知ろうとしても上層部の者しか知ることのできない貴重な能力を持つ者として、
世界では、魔術大国ローマの野望を何度も阻止した者として、
その上、彼を慕い彼の役に立ちたいと思う者も今では数えられないほどいる。そらに、そのほとんどが曲者揃いときている。
今では上条当麻という人物は一国が恐れるほどの人物へとなってしまったのだ。
そんな人物が自分の国に入ろうとするなんて国のお偉いさんが許すはずもない、そのため当麻は国境なき医師団として働く傍ら
様々な魔術の知識を集めていく、それが当麻が今送っている日常であった。
「上の奴らは困惑してんぞ…急にお前が帰ってきてな…しかも昔、学園都市が躍起になって殺そうとした男付きで」
「あいつらはまだ諦めてないのか?」
「さァな…だが見張りはついてたな…」
「やれやれ…別に何もしなねぇっつーのに」
「向こうも隙あらばって来てんだろォよ」
そこまで言うと一方通行はコップの酒を飲みほした。当麻は一方通行のコップに酒を注ぎながら
「なぁ…結標の奴とはまだ付き合いがあるのか?」
「あぁっ?結標?…この前仕事で一緒になったけどなァ……それがなんだ?」
「じゃあこの街にいるんだな…ちょっと…頼みたい事が」

当麻達がいる個室サロンを一キロほど離れたビルの屋上から見つめる、黒服を着た一つの集団があった。
「で…どうする?」
「言われた以上…やるしか…」
「最初に言っておくが俺はやだぞ」
集団から離れた所にいる男が言った
「そんなこと言って~どうすんですか先輩?」
個室サロンの様子を双眼鏡で見る小柄な若い男が言った。
「うるせぇよ…そもそも上条当麻だけでも厄介なのに…一方通行に『グループ』の土御門、おまけに元『アイテム』の絹旗まで…
命がいくつあってもたりねぇよ!」
「たしかに…」
「上も面倒なこと言ってくれますよね~」
「だけど…命令された以上…」
「そもそも何なんだよ「浜面仕上を抹殺せよ…もしも上条当麻が邪魔するようなら同じ処置を取ること」って…もう邪魔してくること前提じゃねぇか」
「は~報酬がいいから思わずうけてしまったが」
「まぁやってみましょうよ…どうやら酒飲んでるみたいだし…今ならいけるんじゃないんですか?」
彼らが迷っていると、屋上の入口から声がした。
「何をしてるんだ…お前らは」
「あっ!杉谷先輩!!」
「どうも…お久しぶりです」
「挨拶はいい…何をしている」
「いや~先輩が厄介な仕事を~」
「俺の所為か?」
彼らの任務の説明を一通り聞いた杉谷は
「悪いことは言わん…すぐに中止しろ」
「いや…しかし…」
「お前らは上条当麻の恐ろしさを分かっていない…」
「いやっそりゃあ強いことぐらい百も承知ですよ!」
「違うお前らは上条当麻を根本的に誤解している」
杉谷は腕を組み呆れた様子で語りだした。

「あいつの恐ろしさ…それは確かに力もあるだろうが、本当に恐ろしいのは…人を引き付ける力だ」
彼ら正直なんだそれはっと思った。確かに上条当麻が世界各国に様々なパイプを築いているのは知っているが、それが何なのか分からなかった
「昔あった事件を教えてやろう…今から4,5年前に上条当麻はロシアを訪れようとしていた、理由は国境なき医師団としての仕事だったが
ロシア側は上条当麻がロシアの有能な人材を引き抜きに来たと考えた…まぁもともと第三次世界大戦では上条当麻の所為で
ロシアは敗戦国となってしまった様なものだからな…奴らも相当恨んでいたであろう…
そしてロシア側は上条当麻にロシア内での医師としての働きに感謝を述べたいと言い、上条当麻との会談を望んだ…そして上条当麻はそれを承諾した…
仲間の中には止める者もいたらしい、ロシアがどれだけ上条当麻を恨んでいたか知っていたからな、だが上条当麻はそれを無視し会談に行った
そして案の定…ロシア側は一切の交渉もせず上条当麻を撃ち殺そうとした」
そこまで聞いて彼らがザワッとした
「そっ!そんなことが!?」
「でっ!?上条当麻は?」
「彼の人脈が幸いした…ロシアに居た特殊部隊…確か『殲滅白書』と言われている部隊だ、彼らが重傷を負った上条当麻を助け出し、
上条当麻は一命を取り留めた」
「どうして、その『殲滅白書』が?」
「よく分からんが第三次世界大戦時に『殲滅白書』の誰かが世話になったらしい…まぁとにかく、上条当麻は一命を取り留めた
そして…その噂を聞いた上条当麻の仲間達がロシアの国境近くに集まり、今にも戦いが起こりそうな一触即発の事態へとなった」
「そんな事件、俺達は…」
「知らされていないだろう…学園都市の上層部でしか知られていないことだからな、
そして、その戦いを原因となったのも、終わらせたのも上条当麻だった…奴は今にも戦いが起こりそうな雰囲気の中、
傷も癒えていない状態で戦場に表れて、その戦いを止めた…」
黒服の集団はいつの間にか杉谷の話を真剣に聞いていた。すると集団から離れた屋上の端から
「説明御苦労さま…杉谷」
突然女の声がした。黒服の集団は反射的に銃を向けた。
「結標…なぜお前が…」
「結標!?土御門、一方通行と同じグループの…」
「これっ!」
結標は手に持っていた袋を近くにいた男に投げ渡した。男はその中身を見て呟いた。
「これは…ピザ?」
「上条当麻からよ…」
「何!?」
届主の名前を聞いて驚いていると、双眼鏡を持っていた男が
「先輩…なんか上条当麻のやつこっちに向かって手振ってんすけど」
「何だと…」
杉谷は男が持っていた双眼鏡を奪って覗いてみると、確かに当麻が酒を飲みながらこちらに向かって手を振っていた。
「伝言よ…こんな夜遅くまで御苦労さまですって」
「…すべてお見通しって訳か」
「じゃあ私行くわよ…ちゃんとバイト代くれたからやってやっただけなんだから…」
振りむき帰ろうとする結標に杉谷は声をかけた。
「…一つ頼みが…上条当麻に………「かたじけない」と」
「いやよ…」
そう言うと結標はシュンッと一瞬で消えてしまった。


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