とある河川敷にて、美琴は雨宮と対峙している。
学園都市の第3位であるレベル5である『電撃使い』と、レベル4の『風力使い』。
同じ土俵でないので一概に比較はできないものの、単純な破壊力ならば美琴のそれの方が圧倒的に上である。
「アンタ、佐天さんと何してたの?」
「……あの、御坂さん?」
只ならぬ美琴の雰囲気に、おそるおそる佐天が声をかける。
佐天さんは、ちょっと静かにしてて」
「えっ…………」
美琴は自分の後ろにいる佐天の顔を見ず、真っ直ぐに雨宮を睨んでいる。
睨まれた雨宮は薄く笑っているように見えた。
「答えなさい」
「君がどういう答えを望んでるのかは分からないけど……いかがわしい事はしてないよ?」
「ふざけんなぁっ!!」
口元だけ緩めて笑う雨宮に、美琴はもう一度電撃を飛ばす。
「いやいやぁ、ふざけてはないんだけどね」
雨宮はもう一度風を起こし、電撃を逸らす。
「俺が『幻想御手』の犯人だって疑ってるみたいだけど……証拠はあるのかい?」
「証拠はないわ。けど、疑える余地はあるわよね」
美琴は雨宮の動きの全てを捕らえるかのように、精神を研ぎ澄ませている。
「………で、話を聞かせろ、と?」
「そういうことよ。さっき自分で言ってたでしょ。『俺の責任かもしれない』って」
全部吐いてもらうわ、と美琴は軽く挙げた右手に電撃を溜めながら言い放つ。
さもなくば射つ、という牽制の様だ。
「言ったよ、確かに言ったさ。でも、俺の問題で君に答える事じゃない。俺は犯人じゃない、とだけ言っておくよ」
「……………まるで真相を知ってるような言い方ね?」
美琴はハッタリは見逃さないとでも言うように、鼻で笑う。
「どうだろうね」
「……それを言えって言ってんのが分かんないのかしら?」
苛立つ声を抑えきれず、バリバリと帯電していた電撃が辺りに散る。
「だから『俺の問題だ』って言ってるんだけど」
参ったな、と雨宮は頭を掻く。どう扱えば良いのか迷っている様な表情をしている。
ふぅ、と一息をつき、牽制がてら、雨宮は少しだけ殺気を込めた目で睨み返す。、
「なんでも首突っ込んでくんじゃねぇよ」
「っ!!や、やっと真剣になった?」
突然放たれたプレッシャーに押されつつも、美琴は雨宮を皮肉る。
「世の中には知らなくてもいい事はあるんだけどな」
「アンタ、教える気がないってんなら……」
美琴は手で佐天を制し、下がらせる。
「無理矢理にでも吐かせてやる」
美琴が地面を蹴った。
学園都市の第3位であるレベル5である『電撃使い』と、レベル4の『風力使い』。
同じ土俵でないので一概に比較はできないものの、単純な破壊力ならば美琴のそれの方が圧倒的に上である。
「アンタ、佐天さんと何してたの?」
「……あの、御坂さん?」
只ならぬ美琴の雰囲気に、おそるおそる佐天が声をかける。
佐天さんは、ちょっと静かにしてて」
「えっ…………」
美琴は自分の後ろにいる佐天の顔を見ず、真っ直ぐに雨宮を睨んでいる。
睨まれた雨宮は薄く笑っているように見えた。
「答えなさい」
「君がどういう答えを望んでるのかは分からないけど……いかがわしい事はしてないよ?」
「ふざけんなぁっ!!」
口元だけ緩めて笑う雨宮に、美琴はもう一度電撃を飛ばす。
「いやいやぁ、ふざけてはないんだけどね」
雨宮はもう一度風を起こし、電撃を逸らす。
「俺が『幻想御手』の犯人だって疑ってるみたいだけど……証拠はあるのかい?」
「証拠はないわ。けど、疑える余地はあるわよね」
美琴は雨宮の動きの全てを捕らえるかのように、精神を研ぎ澄ませている。
「………で、話を聞かせろ、と?」
「そういうことよ。さっき自分で言ってたでしょ。『俺の責任かもしれない』って」
全部吐いてもらうわ、と美琴は軽く挙げた右手に電撃を溜めながら言い放つ。
さもなくば射つ、という牽制の様だ。
「言ったよ、確かに言ったさ。でも、俺の問題で君に答える事じゃない。俺は犯人じゃない、とだけ言っておくよ」
「……………まるで真相を知ってるような言い方ね?」
美琴はハッタリは見逃さないとでも言うように、鼻で笑う。
「どうだろうね」
「……それを言えって言ってんのが分かんないのかしら?」
苛立つ声を抑えきれず、バリバリと帯電していた電撃が辺りに散る。
「だから『俺の問題だ』って言ってるんだけど」
参ったな、と雨宮は頭を掻く。どう扱えば良いのか迷っている様な表情をしている。
ふぅ、と一息をつき、牽制がてら、雨宮は少しだけ殺気を込めた目で睨み返す。、
「なんでも首突っ込んでくんじゃねぇよ」
「っ!!や、やっと真剣になった?」
突然放たれたプレッシャーに押されつつも、美琴は雨宮を皮肉る。
「世の中には知らなくてもいい事はあるんだけどな」
「アンタ、教える気がないってんなら……」
美琴は手で佐天を制し、下がらせる。
「無理矢理にでも吐かせてやる」
美琴が地面を蹴った。
美琴はおもいきり踏み込み、雨宮に向かって駆ける。
「まぁずは、こいつでも喰らえっ!」
美琴は右手を地面に向けると、黒い砂鉄剣を生み出す。
「でえぇぇぇぇぇええええっ!」
そのまま雨宮の懐に飛び込み切りかかる。
「くっ!?」
雨宮はバックステップで後ろに飛び、自らの起こした突風に乗って距離を取る。
「まだまだぁぁっ!こんな使い方もあんのよぉっ!」
美琴は雨宮との距離を確認し、砂鉄剣を伸ばす。
鞭のような形状になったそれは、蛇のように『風力使い』の元へと進む。
「うわぁっ!?」
雨宮は地面を転がり、ギリギリの所で砂鉄剣をかわす。
当たらなかった砂鉄剣の切っ先が地面に突き刺さる。
「あぶねぇモン使うね。人間相手だよ?」
「腕一本飛んだくらいなら治せる医者もいるわ。死なない程度にはしてあげる」
美琴は砂鉄剣を縮め、元の長さに戻す。地面には砂鉄剣によって抉られた溝が口を広げている。
「腕一本ねぇ……」
雨宮は苦笑いしながらあんぐりと口を開けた溝を見る。
「喰らったら消し飛ぶんじゃねぇの?」
「それもアンタの行い次第よっ!」
美琴は再び雨宮の元まで走って切りつける。雨宮の着地の瞬間を狙った攻撃は回避できるものではなかった。
「うおぉぉぉぉおぉっ!!」
雨宮は右手の掌を砂鉄剣の持ち手近くに叩きつける。
ゴォッ!!と旋風が起こり、砂鉄剣が爆散した。
「なっ!?」
美琴は手元に残った砂鉄を見る。『幻想殺し』での消去ではなく、力づくで粉砕された事に驚愕する。
「まだ、やる?」
雨宮は美琴の後ろ、2mの位置に立っていた。
(いつの、間に?)
動揺していたとはいえ、さっきまで目の前にいた相手だ。それが今は自分の後ろにいる。
「なんのトリックを使ったの?」
「トリックもなにも、自分の能力だけしか使ってないけどなぁ」
(馬鹿に、してるってぇのっ)
美琴は下唇を噛む。全力には程遠い力しか出していないとは言え、まだ一撃も入れれていない。
「私にもプライドってものがあるのよ……」
美琴はポケットに手を入れ、小さく呟く。
「アンタが私を馬鹿にするってんなら」
ポケットからゲーセンのコインを取り出し、雨宮に振り向く。
「こっちも本気でやってやるわよ!」
右手の中指で弾かれたコインがオレンジ色の火に変わった。
「まぁずは、こいつでも喰らえっ!」
美琴は右手を地面に向けると、黒い砂鉄剣を生み出す。
「でえぇぇぇぇぇええええっ!」
そのまま雨宮の懐に飛び込み切りかかる。
「くっ!?」
雨宮はバックステップで後ろに飛び、自らの起こした突風に乗って距離を取る。
「まだまだぁぁっ!こんな使い方もあんのよぉっ!」
美琴は雨宮との距離を確認し、砂鉄剣を伸ばす。
鞭のような形状になったそれは、蛇のように『風力使い』の元へと進む。
「うわぁっ!?」
雨宮は地面を転がり、ギリギリの所で砂鉄剣をかわす。
当たらなかった砂鉄剣の切っ先が地面に突き刺さる。
「あぶねぇモン使うね。人間相手だよ?」
「腕一本飛んだくらいなら治せる医者もいるわ。死なない程度にはしてあげる」
美琴は砂鉄剣を縮め、元の長さに戻す。地面には砂鉄剣によって抉られた溝が口を広げている。
「腕一本ねぇ……」
雨宮は苦笑いしながらあんぐりと口を開けた溝を見る。
「喰らったら消し飛ぶんじゃねぇの?」
「それもアンタの行い次第よっ!」
美琴は再び雨宮の元まで走って切りつける。雨宮の着地の瞬間を狙った攻撃は回避できるものではなかった。
「うおぉぉぉぉおぉっ!!」
雨宮は右手の掌を砂鉄剣の持ち手近くに叩きつける。
ゴォッ!!と旋風が起こり、砂鉄剣が爆散した。
「なっ!?」
美琴は手元に残った砂鉄を見る。『幻想殺し』での消去ではなく、力づくで粉砕された事に驚愕する。
「まだ、やる?」
雨宮は美琴の後ろ、2mの位置に立っていた。
(いつの、間に?)
動揺していたとはいえ、さっきまで目の前にいた相手だ。それが今は自分の後ろにいる。
「なんのトリックを使ったの?」
「トリックもなにも、自分の能力だけしか使ってないけどなぁ」
(馬鹿に、してるってぇのっ)
美琴は下唇を噛む。全力には程遠い力しか出していないとは言え、まだ一撃も入れれていない。
「私にもプライドってものがあるのよ……」
美琴はポケットに手を入れ、小さく呟く。
「アンタが私を馬鹿にするってんなら」
ポケットからゲーセンのコインを取り出し、雨宮に振り向く。
「こっちも本気でやってやるわよ!」
右手の中指で弾かれたコインがオレンジ色の火に変わった。
『超電磁砲』
美琴の二つ名にもなっているその技は凶悪とも言える破壊力を誇る。
音速の3倍で繰り出されるそれは、地面に爪痕を残して消え去った。
焦げた地面から少し離れた位置に、雨宮は転がっていた。
仰向けに大の字になっており、肩で息をしている。
「当てるつもりだったんだけど?」
美琴はつまらなさそうにそういうと、もう一枚コインを取り出し、手で弄ぶ。
「間一髪、だったよ」
雨宮は仰向けのまま溜息をついた。
美琴の手から『超電磁砲』が放たれるより一歩早く、雨宮の身体はその射線軸から飛び出していた。
ただの勘でしかない行動が、たまたま成功したに過ぎない。
次を放たれれば、ましてや連射されれば、雨宮に美琴の攻撃を受ける術はない。
超電磁砲の弾丸と化したコインは、砂鉄剣のように爆散させるほどのんびりはしてくれない。
「もう一発、射たなきゃ分かんないかしら?」
「何発射たれても俺は喋んないよ」
雨宮はその場に立ちあがり、美琴の手元を見る。
避けれないとは分かっているが、ハナから諦めるのはちょっと惜しい。
美琴の指からコインが離れ、オレンジの閃光が雨宮に向けて飛ぶ。
美琴と雨宮とのちょうど中間あたりで、不意にコインが止まった。
ギギィィィイィンッ!!という何かに遮られたような音がし、超電磁砲が消え去った。
「んなっ!?」
「な、なんなのよ!?」
2人が驚く。美琴が止めたわけでも、雨宮が防いだわけでもない。
「この勝負、俺が預かるにゃー」
河川敷にそった道の上に、土御門元春が立っていた。
「土御門か………」
雨宮はふぅと息を吐き、その場にへたりこんだ。
「アンタは………」
(アイツの病室にいた……)
ついさっき上条の病室にいたクラスメイトと思しき人間。魔術とか良く分からない事を言っていた人間だった。
「えっと、なんつーかな。風紀委員の俺がこの場を納める。とりあえず、そこの中学生2人は帰るんだぜい」
土御門は腕章を見せる。少しボロボロの腕章であったが、風紀委員のそれだった。
「で、でもっ」
「うるせぇよ」
食い下がる美琴を土御門は睨みつける。普段のお茶らけた顔ではない、殺気さえ混ざっていそうな顔だった。
「帰れ。分かったな?」
「…………」
「み、御坂さん、今日は、帰りましょう?」
下唇を噛んで土御門を睨む美琴の腕を掴み、佐天は彼女を引きずるように帰路に就いた。
土御門はその背中が見えなくなるまでじっとその方向を見ていた。
美琴の二つ名にもなっているその技は凶悪とも言える破壊力を誇る。
音速の3倍で繰り出されるそれは、地面に爪痕を残して消え去った。
焦げた地面から少し離れた位置に、雨宮は転がっていた。
仰向けに大の字になっており、肩で息をしている。
「当てるつもりだったんだけど?」
美琴はつまらなさそうにそういうと、もう一枚コインを取り出し、手で弄ぶ。
「間一髪、だったよ」
雨宮は仰向けのまま溜息をついた。
美琴の手から『超電磁砲』が放たれるより一歩早く、雨宮の身体はその射線軸から飛び出していた。
ただの勘でしかない行動が、たまたま成功したに過ぎない。
次を放たれれば、ましてや連射されれば、雨宮に美琴の攻撃を受ける術はない。
超電磁砲の弾丸と化したコインは、砂鉄剣のように爆散させるほどのんびりはしてくれない。
「もう一発、射たなきゃ分かんないかしら?」
「何発射たれても俺は喋んないよ」
雨宮はその場に立ちあがり、美琴の手元を見る。
避けれないとは分かっているが、ハナから諦めるのはちょっと惜しい。
美琴の指からコインが離れ、オレンジの閃光が雨宮に向けて飛ぶ。
美琴と雨宮とのちょうど中間あたりで、不意にコインが止まった。
ギギィィィイィンッ!!という何かに遮られたような音がし、超電磁砲が消え去った。
「んなっ!?」
「な、なんなのよ!?」
2人が驚く。美琴が止めたわけでも、雨宮が防いだわけでもない。
「この勝負、俺が預かるにゃー」
河川敷にそった道の上に、土御門元春が立っていた。
「土御門か………」
雨宮はふぅと息を吐き、その場にへたりこんだ。
「アンタは………」
(アイツの病室にいた……)
ついさっき上条の病室にいたクラスメイトと思しき人間。魔術とか良く分からない事を言っていた人間だった。
「えっと、なんつーかな。風紀委員の俺がこの場を納める。とりあえず、そこの中学生2人は帰るんだぜい」
土御門は腕章を見せる。少しボロボロの腕章であったが、風紀委員のそれだった。
「で、でもっ」
「うるせぇよ」
食い下がる美琴を土御門は睨みつける。普段のお茶らけた顔ではない、殺気さえ混ざっていそうな顔だった。
「帰れ。分かったな?」
「…………」
「み、御坂さん、今日は、帰りましょう?」
下唇を噛んで土御門を睨む美琴の腕を掴み、佐天は彼女を引きずるように帰路に就いた。
土御門はその背中が見えなくなるまでじっとその方向を見ていた。
「やぁ、助かったよ」
雨宮は土御門の背中に語りかけた。
「別に、助けた覚えはない」
「そうかい。で、いつのまに風紀委員に?」
雨宮は腰を上げると、ぐしゃぐしゃになった折り紙をを拾い上げる。
「これは借りもんだ。一方通行と第二位がやりあった現場近くで拾ったもんだ」
「おいおい。それはマズくねぇか?」
土御門は腕章を外し、ポケットにしまう。
「そんな世間話をしに来たわけじゃないくらい、もう分かってるだろう、雨宮?」
土御門はゆっくりと語り始める。その口からは血が流れていた。
「そうだな……俺が、魔術師だってコトかな?」
雨宮はカラカラと笑う。悪戯がばれた子供の様な顔だった。
「所属や流派……学園都市に来た目的。聞きたい事は山のようにある……っぐはぁ」
土御門がゴホゴホと咳き込む度に、その口から血が飛んだ。
「とりあえず、回復、しておこうか」
雨宮はポケットからカードを取り出し、土御門の腹部に投げつけた。
白いカードは傷跡に張り付くと、その表面に文字の様なものを浮かびあがらせ、消え去った。
「ルーンか……回復にも使えるんだな」
「俺が作った文字だけどね」
土御門は塞がった傷口をつつく。どうやら完治したようだ。
「で、いつ気付いたの?」
雨宮は土御門の目を見て尋ねる。互いに腹の内を探り合っている様な眼で睨みあう。
「確信したのはついさっきだな。超電磁砲との戦闘を見てて、所々に魔術の匂いを感じた」
「なるほど」
「それに………お前、禁書目録の事をインデックスと呼んだな?アレはお前に名乗ってはいないはずだ」
「ふぅん。聞いてたんだ?近くに居たようには感じなかったけどな」
雨宮は試すような目で土御門を見る。
「『必要悪の教会』からの情報だ。アレが誰とどこで話しているかくらいは把握してる」
「ふぅん。盗聴とは…良い趣味とは言えないな」
雨宮はやれやれと肩をすくめてみせるが、土御門は油断なく身構えている。
「俺は君と争うつもりはないんだけど………」
「目的を聞かせてもらおうか」
土御門はポケットから赤い折り鶴を取り出す。いつでも、やれるぞ、という意思を示すかのように。
「……面倒だな」
「なんだと?」
「俺に聞くよりもアイツに聞いた方がいいんじゃないか?」
雨宮は第7学区にあるとあるビルを指差す。『窓のないビル』と言われる、正体不明の建造物。
「あの中で浮いてる胡散臭いのに聞いてくれ。知り合いだろう?」
「っ!?……………アレイスターと、何を企んでいる?」
「さぁ?俺は『自由』求めただけだ」
ゴウッ!!という音と共に突風が吹き荒れる。
砂嵐となり土御門の視界を覆った風が止んだとき、河川敷に人影はなかった。
雨宮は土御門の背中に語りかけた。
「別に、助けた覚えはない」
「そうかい。で、いつのまに風紀委員に?」
雨宮は腰を上げると、ぐしゃぐしゃになった折り紙をを拾い上げる。
「これは借りもんだ。一方通行と第二位がやりあった現場近くで拾ったもんだ」
「おいおい。それはマズくねぇか?」
土御門は腕章を外し、ポケットにしまう。
「そんな世間話をしに来たわけじゃないくらい、もう分かってるだろう、雨宮?」
土御門はゆっくりと語り始める。その口からは血が流れていた。
「そうだな……俺が、魔術師だってコトかな?」
雨宮はカラカラと笑う。悪戯がばれた子供の様な顔だった。
「所属や流派……学園都市に来た目的。聞きたい事は山のようにある……っぐはぁ」
土御門がゴホゴホと咳き込む度に、その口から血が飛んだ。
「とりあえず、回復、しておこうか」
雨宮はポケットからカードを取り出し、土御門の腹部に投げつけた。
白いカードは傷跡に張り付くと、その表面に文字の様なものを浮かびあがらせ、消え去った。
「ルーンか……回復にも使えるんだな」
「俺が作った文字だけどね」
土御門は塞がった傷口をつつく。どうやら完治したようだ。
「で、いつ気付いたの?」
雨宮は土御門の目を見て尋ねる。互いに腹の内を探り合っている様な眼で睨みあう。
「確信したのはついさっきだな。超電磁砲との戦闘を見てて、所々に魔術の匂いを感じた」
「なるほど」
「それに………お前、禁書目録の事をインデックスと呼んだな?アレはお前に名乗ってはいないはずだ」
「ふぅん。聞いてたんだ?近くに居たようには感じなかったけどな」
雨宮は試すような目で土御門を見る。
「『必要悪の教会』からの情報だ。アレが誰とどこで話しているかくらいは把握してる」
「ふぅん。盗聴とは…良い趣味とは言えないな」
雨宮はやれやれと肩をすくめてみせるが、土御門は油断なく身構えている。
「俺は君と争うつもりはないんだけど………」
「目的を聞かせてもらおうか」
土御門はポケットから赤い折り鶴を取り出す。いつでも、やれるぞ、という意思を示すかのように。
「……面倒だな」
「なんだと?」
「俺に聞くよりもアイツに聞いた方がいいんじゃないか?」
雨宮は第7学区にあるとあるビルを指差す。『窓のないビル』と言われる、正体不明の建造物。
「あの中で浮いてる胡散臭いのに聞いてくれ。知り合いだろう?」
「っ!?……………アレイスターと、何を企んでいる?」
「さぁ?俺は『自由』求めただけだ」
ゴウッ!!という音と共に突風が吹き荒れる。
砂嵐となり土御門の視界を覆った風が止んだとき、河川敷に人影はなかった。
「み、御坂さん……?」
「…………」
河川敷からの帰り道、重苦しい空気を破るかのように、佐天が口を開く。
美琴からの返答はなく、その顔は普段見る彼女のそれとは違っていた。
(なんか……御坂さんが……怖い)
爆発寸前のダイナマイトの様な、危機感を募らせた顔だった。
佐天はどうしていいかも分からず、あたふたとすることしか出来ない。
「ねぇ、佐天さん?」
「えっ、は、はい!?」
美琴は表情を崩さずに佐天を見る。その目から逃げるように、佐天は目線を彷徨わせた。
「佐天さん?」
「あ、すいません。なんていうか、御坂さんが……怖くて……」
佐天は美琴から目線を逸らせたまま、
「へ?」
「いや、そんな怖い顔した御坂さん、初めて見ました」
佐天は恐る恐るではあるが、本音を口にした。
「……な、なんか、ごめん」
「いえいえ、良いんです。状況は理解しきれてませんけど……御坂さんは、私のために、怒ってくれたんですよね」
「まぁ…………そう、ね」
美琴は歯切れ悪そうに顔を背けた。確かに佐天の為ではあるかもしれない。
「だけど、私はそんなに綺麗な人間じゃないわ。もっと他にやり方があったかもしれないもの」
「そう、ですね………何が起こってるのか、何でこんな事になってるのか」
佐天は寂しそうに目を伏せる。先程の戦いを見て思い知った。
(今の私じゃ、やっぱり力になれない)
少しだけ使えるようになった小さな能力じゃ、話にもならない。
佐天は己の非力さを恨み、不条理な世の中を恨む。
「あの人が………犯人なんですか?」
「わからないけど……」
美琴は沈みかけた夕日を見る。それはいつもと変わらずに街をオレンジ色に染めていた。
(私は、否定して欲しかったのかもしれない)
何も変わらない学園都市の町並みの中に紛れた闇は、まだ尾を出しそうにない。
「…………」
河川敷からの帰り道、重苦しい空気を破るかのように、佐天が口を開く。
美琴からの返答はなく、その顔は普段見る彼女のそれとは違っていた。
(なんか……御坂さんが……怖い)
爆発寸前のダイナマイトの様な、危機感を募らせた顔だった。
佐天はどうしていいかも分からず、あたふたとすることしか出来ない。
「ねぇ、佐天さん?」
「えっ、は、はい!?」
美琴は表情を崩さずに佐天を見る。その目から逃げるように、佐天は目線を彷徨わせた。
「佐天さん?」
「あ、すいません。なんていうか、御坂さんが……怖くて……」
佐天は美琴から目線を逸らせたまま、
「へ?」
「いや、そんな怖い顔した御坂さん、初めて見ました」
佐天は恐る恐るではあるが、本音を口にした。
「……な、なんか、ごめん」
「いえいえ、良いんです。状況は理解しきれてませんけど……御坂さんは、私のために、怒ってくれたんですよね」
「まぁ…………そう、ね」
美琴は歯切れ悪そうに顔を背けた。確かに佐天の為ではあるかもしれない。
「だけど、私はそんなに綺麗な人間じゃないわ。もっと他にやり方があったかもしれないもの」
「そう、ですね………何が起こってるのか、何でこんな事になってるのか」
佐天は寂しそうに目を伏せる。先程の戦いを見て思い知った。
(今の私じゃ、やっぱり力になれない)
少しだけ使えるようになった小さな能力じゃ、話にもならない。
佐天は己の非力さを恨み、不条理な世の中を恨む。
「あの人が………犯人なんですか?」
「わからないけど……」
美琴は沈みかけた夕日を見る。それはいつもと変わらずに街をオレンジ色に染めていた。
(私は、否定して欲しかったのかもしれない)
何も変わらない学園都市の町並みの中に紛れた闇は、まだ尾を出しそうにない。
木で作られた古ぼけた机の上にある携帯が鳴動する。
その部屋の主たる男は面倒そうに溜息をついた。
『あぁ、出てくれないかと思いましたよ』
「なにか、用であるか?」
『久しぶりだというのに、冷たいですねぇ』
電話の声は批難するどころか楽しげだった。
「『神の右席』相手に気易く電話してくるのはお前くらいであろう。用があるなら手短にしてくれ」
『それは失礼。学園都市で集めた情報を流そうと思っていただけなのですが』
もっとも、地図くらいしか手に入りませんでしたけどね、と笑う。
「ふん。そんなものが無くとも問題はないのだがな」
『まぁ、そう言わずに。「後方のアックア」ともあろうものが迷子になるわけにはいかないでしょう?』
電話の声はそう言うと可笑しそうに笑った。
「私の目的は観光などではない」
『えぇ、分かってますよ。ワタシだってそこまで馬鹿じゃないのです』
とりあえず、データ送りますよ。電話の向こうからそう聞こえたと同時に、机の上にあった羊皮紙の上をインクが走る。
そこに現れたのは送られて来た学園都市の地図や能力者のデータだった。
「超能力者のデータまで寄越してくるとはな」
『必要、ありませんでしたか?』
アックアは羊皮紙に現れたレベル5のデータを見る。
「私の標的は上条当麻のみだ。敵とはいえど、それ以外に不要に手を出すつもりはないのである」
『さすがは騎士殿は違いますねぇ』
「私は騎士ではない。ただの傭兵崩れだ」
アックアは吐き捨てるように言って通信を切ると、手に取った羊皮紙の束を机に投げた。
バサバサと羊皮紙が散り、そのうちの1枚が床に舞い落ちる。
「上条当麻、か……………」
床に落ちた資料にはアックアの『標的』である上条のデータが示されている。
『無能力者』としての上条当麻のデータには、たいした情報は書かれていない。
一方通行を打ち破った事は勿論、『幻想殺し』についてすら触れられてはいない。
「刻限は明日。どういう解答を示すか、上条当麻」
アックアは仄暗い部屋を後にした。
その部屋の主たる男は面倒そうに溜息をついた。
『あぁ、出てくれないかと思いましたよ』
「なにか、用であるか?」
『久しぶりだというのに、冷たいですねぇ』
電話の声は批難するどころか楽しげだった。
「『神の右席』相手に気易く電話してくるのはお前くらいであろう。用があるなら手短にしてくれ」
『それは失礼。学園都市で集めた情報を流そうと思っていただけなのですが』
もっとも、地図くらいしか手に入りませんでしたけどね、と笑う。
「ふん。そんなものが無くとも問題はないのだがな」
『まぁ、そう言わずに。「後方のアックア」ともあろうものが迷子になるわけにはいかないでしょう?』
電話の声はそう言うと可笑しそうに笑った。
「私の目的は観光などではない」
『えぇ、分かってますよ。ワタシだってそこまで馬鹿じゃないのです』
とりあえず、データ送りますよ。電話の向こうからそう聞こえたと同時に、机の上にあった羊皮紙の上をインクが走る。
そこに現れたのは送られて来た学園都市の地図や能力者のデータだった。
「超能力者のデータまで寄越してくるとはな」
『必要、ありませんでしたか?』
アックアは羊皮紙に現れたレベル5のデータを見る。
「私の標的は上条当麻のみだ。敵とはいえど、それ以外に不要に手を出すつもりはないのである」
『さすがは騎士殿は違いますねぇ』
「私は騎士ではない。ただの傭兵崩れだ」
アックアは吐き捨てるように言って通信を切ると、手に取った羊皮紙の束を机に投げた。
バサバサと羊皮紙が散り、そのうちの1枚が床に舞い落ちる。
「上条当麻、か……………」
床に落ちた資料にはアックアの『標的』である上条のデータが示されている。
『無能力者』としての上条当麻のデータには、たいした情報は書かれていない。
一方通行を打ち破った事は勿論、『幻想殺し』についてすら触れられてはいない。
「刻限は明日。どういう解答を示すか、上条当麻」
アックアは仄暗い部屋を後にした。
「どういうことだ、アレイスターッ!」
コードだらけの部屋の中で、土御門が叫ぶ。言葉としての答えは返ってこない。
部屋の中心では、アレイスターと呼ばれた人間が逆さに浮かんでいた。
男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見えるその人間は不敵な笑みを浮かべて土御門を見ていた。
「どういうことだとは、どういうことだね?」
「とぼけるな。なぜ学園都市の中に魔術師が暮らしている?」
土御門は右手で巨大ビーカーの強化ガラスを殴る。当然のようにびくともしない。
「魔術師である君にそれを言われるとはな」
「話を逸らすな。ただでさえ『後方のアックア』からの宣戦布告を受けている非常事態なんだぞ」
土御門はポケットから写真を取り出す。左手に掲げられているそれは雨宮のものだった。
「そっちの方か。それなら問題はない。既に解決済みの事項だ」
「説明しろ。アイツはどこの所属だ?なにが目的で学園都市内に居る?」
土御門はキッとアレイスターを睨みつける。
「ふむ。彼はローマ正教の人間だった」
「だった、だと?」
「元・ローマ正教徒というべきだったか。まぁ、後は君らで情報を集めるといい」
アレイスターは相変わらず薄く微笑んだまま答えた。
まるで他人事のように、興味なさそうな顔でアレイスターは浮かんでいた。
「まさか、何者かも調べずに入れたのか?」
「問題はない。どう転んでも私のプランに悪影響は出ないようにできている」
アレイスターは小さな文字が羅列されたスクリーンを見た。踊るように文字が流れて行く。
「君たち『必要悪の教会』にかかれば情報を得るくらいわけないだろう?ローマ正教徒をロンドン塔に幽閉しているのではなかったか?」
「………こっちの情報はしっかり掴んでるか」
土御門は舌打ちをする。ちょうど同じ時間にロンドン塔ではローマ正教の尋問が行われている。
「まぁいい。アイツを入れた目的はなんだ?」
「魔術師との戦いのときに超能力者を動かすのは色々と不便だ。となれば流浪の魔術師1人を飼うのも面白いと思わないか?」
アレイスターはニヤリと口元を歪めた。
「魔術サイドが黙ってるとでも思っているのか?」
「問題ない。現にあれはローマ正教から追われている身だが、あれ本人は『自由』を求めていてね」
「学園都市内に留まればある程度の自由は許される、ってことか?」
土御門は下唇を噛む。目の前の人間はいったい何を企んでいて、何を望んでいるのだろうか。
「その代わりに学園都市に侵攻する魔術師の相手をしてもらうことになっている」
「あれが、雨宮が裏切る可能性だってあるだろう?」
土御門はアレイスターを睨んだ。逆さに浮かんでいるそれは余裕の笑みを絶やさない。
「そのときは、また考えればいい」
「『書庫』にある奴の経歴は全部偽りだってことだな?」
「魔術師だと公言するわけにもいくまい?」
男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える人間はどこまでも楽しそうだった。
コードだらけの部屋の中で、土御門が叫ぶ。言葉としての答えは返ってこない。
部屋の中心では、アレイスターと呼ばれた人間が逆さに浮かんでいた。
男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見えるその人間は不敵な笑みを浮かべて土御門を見ていた。
「どういうことだとは、どういうことだね?」
「とぼけるな。なぜ学園都市の中に魔術師が暮らしている?」
土御門は右手で巨大ビーカーの強化ガラスを殴る。当然のようにびくともしない。
「魔術師である君にそれを言われるとはな」
「話を逸らすな。ただでさえ『後方のアックア』からの宣戦布告を受けている非常事態なんだぞ」
土御門はポケットから写真を取り出す。左手に掲げられているそれは雨宮のものだった。
「そっちの方か。それなら問題はない。既に解決済みの事項だ」
「説明しろ。アイツはどこの所属だ?なにが目的で学園都市内に居る?」
土御門はキッとアレイスターを睨みつける。
「ふむ。彼はローマ正教の人間だった」
「だった、だと?」
「元・ローマ正教徒というべきだったか。まぁ、後は君らで情報を集めるといい」
アレイスターは相変わらず薄く微笑んだまま答えた。
まるで他人事のように、興味なさそうな顔でアレイスターは浮かんでいた。
「まさか、何者かも調べずに入れたのか?」
「問題はない。どう転んでも私のプランに悪影響は出ないようにできている」
アレイスターは小さな文字が羅列されたスクリーンを見た。踊るように文字が流れて行く。
「君たち『必要悪の教会』にかかれば情報を得るくらいわけないだろう?ローマ正教徒をロンドン塔に幽閉しているのではなかったか?」
「………こっちの情報はしっかり掴んでるか」
土御門は舌打ちをする。ちょうど同じ時間にロンドン塔ではローマ正教の尋問が行われている。
「まぁいい。アイツを入れた目的はなんだ?」
「魔術師との戦いのときに超能力者を動かすのは色々と不便だ。となれば流浪の魔術師1人を飼うのも面白いと思わないか?」
アレイスターはニヤリと口元を歪めた。
「魔術サイドが黙ってるとでも思っているのか?」
「問題ない。現にあれはローマ正教から追われている身だが、あれ本人は『自由』を求めていてね」
「学園都市内に留まればある程度の自由は許される、ってことか?」
土御門は下唇を噛む。目の前の人間はいったい何を企んでいて、何を望んでいるのだろうか。
「その代わりに学園都市に侵攻する魔術師の相手をしてもらうことになっている」
「あれが、雨宮が裏切る可能性だってあるだろう?」
土御門はアレイスターを睨んだ。逆さに浮かんでいるそれは余裕の笑みを絶やさない。
「そのときは、また考えればいい」
「『書庫』にある奴の経歴は全部偽りだってことだな?」
「魔術師だと公言するわけにもいくまい?」
男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える人間はどこまでも楽しそうだった。
翌日。
『神の右席』である『後方のアックア』による上条当麻襲撃事件が発生する。
一般公開されることなく、極秘裏に処理された戦闘をじっと監視している者が1名。
パウラ=オルディーニ。
ローマ正教徒であり、情報を収集し、『後方のアックア』に流した張本人。
その目的は、アックアによる『上条当麻征伐』の援護……ではない。
学園都市に侵入し、超能力者のデータを収集し、『幻想御手』の残留データを解析した、『魔術御手』の犯人。
「ふふふふふ。全てはワタシの計画通りに。あとはあの厄介な東洋の聖人のデータを集めるのみ」
楽しげに笑う黒いコートの影は聖人同士のぶつかり合いを見ていた。
この戦闘の果てに、敵となりうる聖人の神裂が死んでくれれば好都合。もし上手く行かなくてもデータを回収できれば勝機はある。
「ここは素直に我らが『神の右席』を応援しますよ」
ニヤリと口元を歪めるパウラの目的は、アックアの勝利ではない。
勿論、アックアが勝ち、任務を完璧に遂行しきるに越したことはないが、パウラにとってはどちらでもいいことだ。
もし天草式が勝利を収めたとしても、それを利用すればいいだけである。
彼女が昔より請け負ってきたの仕事は1つ。『裏切り者の抹殺』。
そして今回のターゲットは、学園都市に逃げ込んだ『雨宮照』。
「この御時勢に、よくもぬけぬけと。よりによって学園都市に逃げ込むとはいい度胸ですよ」
パウラはイヤホンの様な小さな霊装を耳にあてる。何かを受信して音が鳴る。
「ふふん、なかなかいい感じじゃないですか。『魔術御手』は思いの外、上手くいっているようですね」
再びニヤリと口元を歪める。
「こう物事が上手く行くと少々、心配ではあるんですがね……」
パウラは楽しくて仕方がないといった表情で、その場に立った。
「まさか、こんな少数勢力にこんな術式があるとは………」
黒コートのポケットから取り出したパンパイプを吹くとその場から姿を消した。
「『聖人崩し』………面白いものを見れましたね」
その場に残された声は、本当に楽しそうだった。
『神の右席』である『後方のアックア』による上条当麻襲撃事件が発生する。
一般公開されることなく、極秘裏に処理された戦闘をじっと監視している者が1名。
パウラ=オルディーニ。
ローマ正教徒であり、情報を収集し、『後方のアックア』に流した張本人。
その目的は、アックアによる『上条当麻征伐』の援護……ではない。
学園都市に侵入し、超能力者のデータを収集し、『幻想御手』の残留データを解析した、『魔術御手』の犯人。
「ふふふふふ。全てはワタシの計画通りに。あとはあの厄介な東洋の聖人のデータを集めるのみ」
楽しげに笑う黒いコートの影は聖人同士のぶつかり合いを見ていた。
この戦闘の果てに、敵となりうる聖人の神裂が死んでくれれば好都合。もし上手く行かなくてもデータを回収できれば勝機はある。
「ここは素直に我らが『神の右席』を応援しますよ」
ニヤリと口元を歪めるパウラの目的は、アックアの勝利ではない。
勿論、アックアが勝ち、任務を完璧に遂行しきるに越したことはないが、パウラにとってはどちらでもいいことだ。
もし天草式が勝利を収めたとしても、それを利用すればいいだけである。
彼女が昔より請け負ってきたの仕事は1つ。『裏切り者の抹殺』。
そして今回のターゲットは、学園都市に逃げ込んだ『雨宮照』。
「この御時勢に、よくもぬけぬけと。よりによって学園都市に逃げ込むとはいい度胸ですよ」
パウラはイヤホンの様な小さな霊装を耳にあてる。何かを受信して音が鳴る。
「ふふん、なかなかいい感じじゃないですか。『魔術御手』は思いの外、上手くいっているようですね」
再びニヤリと口元を歪める。
「こう物事が上手く行くと少々、心配ではあるんですがね……」
パウラは楽しくて仕方がないといった表情で、その場に立った。
「まさか、こんな少数勢力にこんな術式があるとは………」
黒コートのポケットから取り出したパンパイプを吹くとその場から姿を消した。
「『聖人崩し』………面白いものを見れましたね」
その場に残された声は、本当に楽しそうだった。