とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 8-413

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匿名ユーザー

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「!?」
ローマ市内に乾いた破裂音が数回鳴り響いた。
アニェーゼは父の向かった方へ振り返る。
音源の公衆トイレの周りは「なんだ?」「発砲音?」「爆竹でも使ったか?」などと
ローマ市民の疑問文でざわつき始める。
と、それから五秒ほど経ってトイレの中から男と見える姿が飛び出してきた。
アニェーゼは自分の父親が出てきたと思い安堵したが、
「….?」
その男は父親では無かった。父より少し歳をとった中年の痩せた男性で、

その体には無数の返り血の痕が残っている。

背筋が震える。猛烈に嫌な予感がする。
顔を確認するまでもなく、男は猛スピードで町の中を走り抜け見えなくなった。
父が入ってからトイレには誰も入ってはいない。
あの男は父の前にトイレを使用した男だろう。
いや、そもそも、

この男は本当に用を足すために中に入ったのだろうか?

考えたくなかった疑問文に支配され、アニェーゼは父の入った建物に走り出す。
トイレのドアを大きく開けて中の様子を確認する。
ここが男子トイレという事は今のアニェーゼには関係ない。

そして、トイレの中はアニェーゼの予想通りの風景が広がっていた。



まず目に入ったのは頭と胸に風穴を開けられた父の姿。
そして、本来白いはずのトイレの壁紙が半分以上アカ色に染められていたこと。
一緒に中を覗いたローマ市民たちからの悲鳴が後ろに聞こえる。
慌てて救急車を呼ぶ人もいれば、異変に気づかずに素通りする人もいた。
急いで父の元に駆け寄る。壁に背中を預けるように倒れているアニェーゼの父はどう見たって生きてなどいなかった。
いくら肩を揺すっても答える気配がない。
(なんで……?)
背中からは早くもサイレン音が小さく聞こえてきた。
父の口からはまだ血が流れ出ている。だが、それはアニェーゼが父親を揺すった際に
口に溜まった血が流れでただけであり、
脳に何発もの弾丸を受けた父が生きている理由は無い。
(パパ……なん…で…?)
答えが返ってこない質問が頭に浮かぶ。
声に出そうとしても口が動かない。
思考を巡らそうとしてもすぐにリセットされる。
明らかに目の前の人間は死んでいる。分かっているのに受け止められない。
そして、見かねた野次馬の一人がアニェーゼを殺人現場から引き離す。
警察が見たら怒鳴られそうな行動だがほかの野次馬たちもそれを止めようとはしない。
少なくともこの場所にアニェーゼを置いておくのが一番『駄目な事』だと誰もが理解していたからだ。
アニェーゼは抵抗しようとしない。いや、正確に言うとできない。
全身の力が完全に抜けて、自分で立つ事も難しい。
サイレン音がすぐ後ろに聞こえ、警察と思える数人の男達が怒号を上げながら現場に踏み込んでいくのが見える。
アニェーゼはそれを観ながら放心状態で理解した。
(……あぁ、……)
アニェーゼの目にはすでにまともな光はない。

(また、一人になっちまうんですか……)
視界のすべてが漆黒に染まっていく。

アニェーゼの意識が途絶えた。



アニェーゼが目を覚ましたのは企業にあるようなデスクとコンピュータに囲まれたソファの上だった。
(……ここは…?)
周りを見渡す。規則正しく並ぶ机と交通安全を進めるポスターがあちこちに貼ってある所を見ると
恐らく警察所の交通課か何かだろう。だが、人の居る気配は無い。
(なにが……あったんでしたっけ……)
その瞬間に思い出したのはトイレの壁に寄りかかる父の死体と鮮明なサイレン音。
そして、内臓がもげるかと思うほどの壮絶な吐き気が襲ってきた。
アニェーゼは辛うじてそれを抑え、(それだけの精神力を持つ小学生も珍しいが)人を捜すために
オフィスから出ようとすると、
「ああ、起きたかい。現場でいきなり気絶するもんだから心配したよ」
突然の声に驚き、首を横に振る。
そこには初老の男性が座っていた。
使い古したスーツの上からボタンの無いブレザーを羽織り、コーヒー片手にこちらに話し掛けてきていた。
オールバックの髪はポマードで艶々している。
(『現場で、』……、ってことは、『あの時』に来た刑事の一人ですか)
以外に頭の回転が速かったことに自分で驚きながら、刑事と思われる人物に質問してみる。

「私の父はどうなりました?」



いきなり核心を突く質問をした。
近所に住むの人間からは、ずいぶん「ませた」少女だと言われ、アニェーゼ自身も自覚してはいたが、開口一番でこんな言葉がでるなんて、と頭の中で皮肉をついた。
すさまじく単刀直入な少女に刑事は目を丸くしたが、やがて質問に答えた。

「死んだよ。頭と胸を撃たれて即死だった」
なんのオブラートにも包まずに事実のみを伝えたのは、現実に怯えず目を向ける少女への彼なりの配慮だったのだろう。
そして、アニェーゼも、
「ああ、やっぱりですか」
平淡な声で何からも目を逸らさずに正直な言葉を口にした。
刑事はこの言葉にかなり驚いたようで口を開けてぽかんとしていた。
「……小さな子供の『親だけ』が殺されるのは沢山見てきたが、君みたいに冷静にしている子は初めてみたよ。野暮なこと聞くが、悲しくないのかい?」
アニェーゼは横目で窓をみて、目を細くて解答する。
「……悲しくはありません。寂しいですね」
これまたロボットのような平淡な台詞だった。
なぜ悲しくないのかは分からない。別に父のことは好きだったし、いなくなって欲しいなんて考えたことも無かった。
「悲」の感情が一周回って機能しなくなったのだろうか。まだ思考があまり回らないアニェーゼには分からなかった。
それでも、分かったことはあった。
(また、一人になっちまったんですね、私は)

久しぶりに絶望という感情を実感した。



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