「…ッ」
だとしたら、絶対に助けなければならない。そう上条は思う。
でも、このタイミングでそんな出来事が起きてもらえば、本当に複雑な話になる。
上条だけが美琴のほうへいっても良いだろうが、そうはいかないだろう。野次馬がくっついてくるはずだ。
そうなってくると、話が大きくなって、反乱因子に対抗することもままならなくなる。
「…どうする」
思わずつぶやいてしまう上条。いや、つぶやかなければ頭が整理できなかったため、か。
「?何が??」
インデックスがそう聞いてくる。彼女は美琴のことを心配していないのだろうか?
「あの短髪なら、とうまほどじゃないだろうけど、ある程度のことなら乗り切れるんじゃないかな」
とうまほどじゃないだろうけど、のところが妙にとげとげしいインデックスの言葉に、思わず上条は顔をそらす。
だが、そんな安いリアクションが出来るほど、インデックスの言葉である程度そう思うことが出来た。
しかし、だからといって放っておくわけにもいかない。
「でも、流石に見付からないままじゃまずいだろ。俺が探しに――――って、あれ?」
インデックスに、俺が探しに行く、というつもりだった上条の目の端が、何かを捉えた。
いや、何者かの動きを捉えた。
それは、
「チッ!あいつ、勝手に行きやがったか!!」
黒子が空間移動(テレポート)した様子だった。
黒子がこう動くことくらい予想できた。だから上条は、黒子に聞こえない程度に声を潜めていたつもりだったのだが…聞こえていたらしい。
周りを見ると、突然空間移動(テレポート)した黒子の行動に、場にいるほとんどの人間が首を傾げていた。
まずい、と上条は思う。
このままじゃ話が大きくなりそうだった。いつ起こるかわからない対反乱因子戦の前に、こんなことを起こす訳にもいかない。だが、だからといって上条の頭が天才的になるわけでもない。
単純に言って、打開策が見付からなかった。
「えーと…白井、だっけか?今空間移動(テレポート)したやつ」
葛城が、とうとう話を切り出した。
「確かそんな名前だったわね」
「どうしたんだ、あいつ?」
鏡子が応え、軍覇がさらに問いを投げかける。
「あ、ああ…あいつならトイレとか言ってたぞ?」
とっさに、適当に思いついたことを口走る上条。
だが、それがすぐに失言だと思い知らされた。
「はぁ?何でそんなことを言わなくちゃならないんですか?しかも異性に」
「そうだね。こんな脳みそもあるのか分からない人間にそんなことを伝えるような女には見えなかったけど」
アニェーゼとステイルに突っかかれた。
えーと…と、ステイルに言わせればあるかも分からない脳を必死で動かす上条。
しかし、やはり打開策も見付からない。
クソッ、どうすればいい。そもそも美琴はなん
だとしたら、絶対に助けなければならない。そう上条は思う。
でも、このタイミングでそんな出来事が起きてもらえば、本当に複雑な話になる。
上条だけが美琴のほうへいっても良いだろうが、そうはいかないだろう。野次馬がくっついてくるはずだ。
そうなってくると、話が大きくなって、反乱因子に対抗することもままならなくなる。
「…どうする」
思わずつぶやいてしまう上条。いや、つぶやかなければ頭が整理できなかったため、か。
「?何が??」
インデックスがそう聞いてくる。彼女は美琴のことを心配していないのだろうか?
「あの短髪なら、とうまほどじゃないだろうけど、ある程度のことなら乗り切れるんじゃないかな」
とうまほどじゃないだろうけど、のところが妙にとげとげしいインデックスの言葉に、思わず上条は顔をそらす。
だが、そんな安いリアクションが出来るほど、インデックスの言葉である程度そう思うことが出来た。
しかし、だからといって放っておくわけにもいかない。
「でも、流石に見付からないままじゃまずいだろ。俺が探しに――――って、あれ?」
インデックスに、俺が探しに行く、というつもりだった上条の目の端が、何かを捉えた。
いや、何者かの動きを捉えた。
それは、
「チッ!あいつ、勝手に行きやがったか!!」
黒子が空間移動(テレポート)した様子だった。
黒子がこう動くことくらい予想できた。だから上条は、黒子に聞こえない程度に声を潜めていたつもりだったのだが…聞こえていたらしい。
周りを見ると、突然空間移動(テレポート)した黒子の行動に、場にいるほとんどの人間が首を傾げていた。
まずい、と上条は思う。
このままじゃ話が大きくなりそうだった。いつ起こるかわからない対反乱因子戦の前に、こんなことを起こす訳にもいかない。だが、だからといって上条の頭が天才的になるわけでもない。
単純に言って、打開策が見付からなかった。
「えーと…白井、だっけか?今空間移動(テレポート)したやつ」
葛城が、とうとう話を切り出した。
「確かそんな名前だったわね」
「どうしたんだ、あいつ?」
鏡子が応え、軍覇がさらに問いを投げかける。
「あ、ああ…あいつならトイレとか言ってたぞ?」
とっさに、適当に思いついたことを口走る上条。
だが、それがすぐに失言だと思い知らされた。
「はぁ?何でそんなことを言わなくちゃならないんですか?しかも異性に」
「そうだね。こんな脳みそもあるのか分からない人間にそんなことを伝えるような女には見えなかったけど」
アニェーゼとステイルに突っかかれた。
えーと…と、ステイルに言わせればあるかも分からない脳を必死で動かす上条。
しかし、やはり打開策も見付からない。
クソッ、どうすればいい。そもそも美琴はなん
「お姉さま(オリジナル)なら、先ほど見かけましたが、とミサカは平坦に言います」
へ?と間抜けな声を出して声のほうに視線を合わせてみると、
10人程度の妹達(シスターズ)を従えた、御坂妹がいた。…いや、御坂妹なのかは分からないのだが、雰囲気的にそうだと上条は判断した。
「あー、やっときたー。しすたーずさん」
インデックスが、妹達(シスターズ)を見回していった。言葉からしてやはり何か勘違いしているように思わなくもない。
「?えっと…」
上条はインデックスの言葉に違和感を覚えて、それを質問しようとしたが、言葉に出来ない。
「ああ、えっとね。私がこの子達にさっきのことを話したんだけど、やっぱり質問攻めにされて、一回戻ろうとした時に『お姉さま(オリジナル)は?』って聞かれて、それで短髪のことを教えてあげたら『じゃあ探そう』ってことになったらしくて。でも、見付からなかったからここに来たんだと思うよ」
なんか勝手に説明してくれるインデックス。だが、上条はそのインデックスの説明に慌てた。
今のインデックスの発言で、完璧に美琴のことがバレたはずだ。上条はそう思った。
10人程度の妹達(シスターズ)を従えた、御坂妹がいた。…いや、御坂妹なのかは分からないのだが、雰囲気的にそうだと上条は判断した。
「あー、やっときたー。しすたーずさん」
インデックスが、妹達(シスターズ)を見回していった。言葉からしてやはり何か勘違いしているように思わなくもない。
「?えっと…」
上条はインデックスの言葉に違和感を覚えて、それを質問しようとしたが、言葉に出来ない。
「ああ、えっとね。私がこの子達にさっきのことを話したんだけど、やっぱり質問攻めにされて、一回戻ろうとした時に『お姉さま(オリジナル)は?』って聞かれて、それで短髪のことを教えてあげたら『じゃあ探そう』ってことになったらしくて。でも、見付からなかったからここに来たんだと思うよ」
なんか勝手に説明してくれるインデックス。だが、上条はそのインデックスの説明に慌てた。
今のインデックスの発言で、完璧に美琴のことがバレたはずだ。上条はそう思った。
上条は、恐る恐る周りを見渡す。
その上条の目に映ったのは、
不思議そうな顔をしたみんなと、
その上条の目に映ったのは、
不思議そうな顔をしたみんなと、
同じく不思議そうな顔をしている美琴だった。
「…は?」
美琴は、今の今までいなかったはずだ。それがいきなりこの場に出現するなんて――――
――――ありえる。
先ほど、黒子が美琴を探しに言った。それで黒子が美琴のことを空間移動(テレポート)させた、と考えればつじつまは合う。
合うのだが、何か釈然としない。
美琴のことを空間移動(テレポート)させたなら、自分のことも空間移動(テレポート)させるはずだ。
しかし、この場に黒子はいない。
…おかしい。
直感的に上条は思った。
しかし、上条はそれを顔には表さずに、美琴のほうに近づく。
「あ、いたのかよ美琴。インデックスと一緒にいなかったからさぁ」
「何よ、そのいちゃ悪い、みたいな言い方」
少し不機嫌そうに上条の言葉に答える美琴。
それに上条はなぜか一安心し、思わず美琴の肩に手を置いた。
美琴は、今の今までいなかったはずだ。それがいきなりこの場に出現するなんて――――
――――ありえる。
先ほど、黒子が美琴を探しに言った。それで黒子が美琴のことを空間移動(テレポート)させた、と考えればつじつまは合う。
合うのだが、何か釈然としない。
美琴のことを空間移動(テレポート)させたなら、自分のことも空間移動(テレポート)させるはずだ。
しかし、この場に黒子はいない。
…おかしい。
直感的に上条は思った。
しかし、上条はそれを顔には表さずに、美琴のほうに近づく。
「あ、いたのかよ美琴。インデックスと一緒にいなかったからさぁ」
「何よ、そのいちゃ悪い、みたいな言い方」
少し不機嫌そうに上条の言葉に答える美琴。
それに上条はなぜか一安心し、思わず美琴の肩に手を置いた。
幻想殺し(イマジンブレイカー)が宿る、右手を。
次の瞬間。
バギン、と音を立てて、
バギン、と音を立てて、
美琴の身体が散った。
「!?」
上条は思わず身構える。もちろん、ほかの連中も異変に気づいて身構えていた。
美琴の身体が、上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)に反応し、そして消えた。
つまり、それは美琴の身体が異能の力によって作り出されていたことを示す。
しかし、そんな悪趣味なことをやるようなやつは、見方にはいない。
見方には。
上条は思わず身構える。もちろん、ほかの連中も異変に気づいて身構えていた。
美琴の身体が、上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)に反応し、そして消えた。
つまり、それは美琴の身体が異能の力によって作り出されていたことを示す。
しかし、そんな悪趣味なことをやるようなやつは、見方にはいない。
見方には。
敵がどうなのかは、上条には分からない。
「各グループごとに分かれろ!リーダーを中心に、場所を変えるぞッ!!」
土御門が叫んだ。こういうときの対応の早さには、流石に驚かされる。
しかし、驚いている暇もない。
かなりテキパキとした動きで、ほかの連中が散り散りになり始めた。
「リーダーは俺の話をほかの構成員に聞かせろ!妹達(シスターズ)とインデックス、滝壺と浜面は俺のところに来い!!」
更に指示を飛ばす土御門。
と、そんな土御門を見ていた上条の下に、いつの間にか軍覇とアニェーゼたちが集っていた。
「で、どうするんですか?」
アニェーゼが聞いてくる。ほかのメンバーもそう思っているだろう。
「とりあえず臨戦態勢はとったほうが良いだろう」
えーと…と口ごもっていた上条の代わりに、軍覇が言った。
「グループAはこの通路の右、Bは左、Cは前へ、俺たちは後ろに移動する!計画通りやれよッ!!」
もう移動を始めながらも、最後の指示を伝えた土御門たちは完璧に移動し始める。その彼の言葉に、デモンストレーションが入っていそうな気がしないでもない。
「…とりあえず、動くぞ」
まずい、と思いながらも、上条は土御門の指示通りにグループを動かす。
美琴がいないこのグループA、言っちゃ悪いがかなり戦力は低い状態だ。ここを叩かれればたまったもんじゃない。
応援を要請したいところだったのだが、他のグループも動き始めたのを見て、上条は走り出した。そのあとに、アニェーゼたちもついてくる。
不思議と、攻撃は来なかった。それが何らかの意味を持っているかのように。
一分後には、ほんのさっきまでにぎわっていた講堂には、誰も残っていなかった。
土御門が叫んだ。こういうときの対応の早さには、流石に驚かされる。
しかし、驚いている暇もない。
かなりテキパキとした動きで、ほかの連中が散り散りになり始めた。
「リーダーは俺の話をほかの構成員に聞かせろ!妹達(シスターズ)とインデックス、滝壺と浜面は俺のところに来い!!」
更に指示を飛ばす土御門。
と、そんな土御門を見ていた上条の下に、いつの間にか軍覇とアニェーゼたちが集っていた。
「で、どうするんですか?」
アニェーゼが聞いてくる。ほかのメンバーもそう思っているだろう。
「とりあえず臨戦態勢はとったほうが良いだろう」
えーと…と口ごもっていた上条の代わりに、軍覇が言った。
「グループAはこの通路の右、Bは左、Cは前へ、俺たちは後ろに移動する!計画通りやれよッ!!」
もう移動を始めながらも、最後の指示を伝えた土御門たちは完璧に移動し始める。その彼の言葉に、デモンストレーションが入っていそうな気がしないでもない。
「…とりあえず、動くぞ」
まずい、と思いながらも、上条は土御門の指示通りにグループを動かす。
美琴がいないこのグループA、言っちゃ悪いがかなり戦力は低い状態だ。ここを叩かれればたまったもんじゃない。
応援を要請したいところだったのだが、他のグループも動き始めたのを見て、上条は走り出した。そのあとに、アニェーゼたちもついてくる。
不思議と、攻撃は来なかった。それが何らかの意味を持っているかのように。
一分後には、ほんのさっきまでにぎわっていた講堂には、誰も残っていなかった。
それは、唐突に戦闘が始まってしまっていたことを示していた。
気がつけば、美琴はふらふらとどこかを歩いていた。
…?と、辺りを見回すが、見覚えはない。後ろを振り返っても同じだった。
(…意識が、無くなっている…?)
記憶をたどろうとするが、一番新しい記憶は、不安に駆られて走り出したときだった。
そして、その場所とここでは、あまりにも景色が違いすぎていた。
周りは、埋め尽くさんばかりにあふれる…
「え…?」
と、一瞬美琴は自分の目を疑う。
自分の目をこすってみる。また目を開く。
しかし、飛び込んできた景色はまったく変わっていなかった。
「…ッ!!??」
美琴の目が映し出した『ソレ』。
…?と、辺りを見回すが、見覚えはない。後ろを振り返っても同じだった。
(…意識が、無くなっている…?)
記憶をたどろうとするが、一番新しい記憶は、不安に駆られて走り出したときだった。
そして、その場所とここでは、あまりにも景色が違いすぎていた。
周りは、埋め尽くさんばかりにあふれる…
「え…?」
と、一瞬美琴は自分の目を疑う。
自分の目をこすってみる。また目を開く。
しかし、飛び込んできた景色はまったく変わっていなかった。
「…ッ!!??」
美琴の目が映し出した『ソレ』。
大量の、
死体だった。
死体だった。
「…ぐぅ…ぇ…」
その全てが、無残に殺されている。頭の中をぶちまけていたり、胸の辺りが内側から裂けていたり、下半身がブツ切れになり、ソレが顔に乗っかっていたり…
全てが、尋常ではない死に方をしていた。美琴はソレを見て、口元を押さえる。
以前、一方通行(アクセラレータ)の実験を見たときがあった。
それを見て、美琴は頭のネジが全部吹っ飛んだ。そして、無謀にも一方通行(アクセラレータ)に勝負を仕掛けた。
その時は、『怒りの対象』がいたから、まだ頭のネジが吹っ飛ぶだけで済んだ。
しかし、今は。
今、この大量殺人劇を生み出した人物には、心当たりがない。
一気に頭まで上ってきた、美琴にもよく分からない『感情』をぶつけていい相手が、分からない。
よって、その『感情』は、美琴のうちに留めることしか出来ない。
しかも、今の今まで意識を失っていた…らしいのだ。意識を取り戻したときに見た一番最初の景色が、これ。
言ってみれば、授業中に居眠りをして、次に起きたときにはクラスにいた自分以外の存在が、全て惨殺死体になっていたようなものだ。
そのときにこみ上げてくる『感情』を制御できるほど、美琴の人間性は完成していない。
もはや、喉元までこみ上げてくる…それさえも意識が向かないほど、美琴の自我は崩壊していた。
突然すぎる。
その全てが、無残に殺されている。頭の中をぶちまけていたり、胸の辺りが内側から裂けていたり、下半身がブツ切れになり、ソレが顔に乗っかっていたり…
全てが、尋常ではない死に方をしていた。美琴はソレを見て、口元を押さえる。
以前、一方通行(アクセラレータ)の実験を見たときがあった。
それを見て、美琴は頭のネジが全部吹っ飛んだ。そして、無謀にも一方通行(アクセラレータ)に勝負を仕掛けた。
その時は、『怒りの対象』がいたから、まだ頭のネジが吹っ飛ぶだけで済んだ。
しかし、今は。
今、この大量殺人劇を生み出した人物には、心当たりがない。
一気に頭まで上ってきた、美琴にもよく分からない『感情』をぶつけていい相手が、分からない。
よって、その『感情』は、美琴のうちに留めることしか出来ない。
しかも、今の今まで意識を失っていた…らしいのだ。意識を取り戻したときに見た一番最初の景色が、これ。
言ってみれば、授業中に居眠りをして、次に起きたときにはクラスにいた自分以外の存在が、全て惨殺死体になっていたようなものだ。
そのときにこみ上げてくる『感情』を制御できるほど、美琴の人間性は完成していない。
もはや、喉元までこみ上げてくる…それさえも意識が向かないほど、美琴の自我は崩壊していた。
突然すぎる。
妹達(シスターズ)の時だって、そうだ。
あまりにも突然にその正体を明かされ、頭の対処が追いつかなかった。どうすれば良いのか分からなかった。
しかも、それからある程度時間が経ち、美琴にとって『平和』といえる生活が続いたあと、これだ。
この死体たちに見覚えがあるわけではない。というか、あっても…この状態では、誰が誰だかわからない。
しかし、なぜか美琴の内に『感情』がわきあがってきた。
理由なんて分からない。だが、こみ上げてきてしまったものは、もう戻らない。
そして、その『感情』を制御できるはずもない。
「…ぎ…ぁ…ぉ…」
口から、意味もない言葉が漏れる。
身体中から、力という力が抜けるのが分かる。しかし、決して美琴は倒れない。
不思議だった。
まるで、今の『御坂美琴』が倒れても、他の『自分』が存在するんだから問題ない、とでも言うような感覚。
そんな感覚があった。
(・・・な、に・・・これ・・・)
必死に考えられたのは、たったそれだけの疑問。
そして、
あまりにも突然にその正体を明かされ、頭の対処が追いつかなかった。どうすれば良いのか分からなかった。
しかも、それからある程度時間が経ち、美琴にとって『平和』といえる生活が続いたあと、これだ。
この死体たちに見覚えがあるわけではない。というか、あっても…この状態では、誰が誰だかわからない。
しかし、なぜか美琴の内に『感情』がわきあがってきた。
理由なんて分からない。だが、こみ上げてきてしまったものは、もう戻らない。
そして、その『感情』を制御できるはずもない。
「…ぎ…ぁ…ぉ…」
口から、意味もない言葉が漏れる。
身体中から、力という力が抜けるのが分かる。しかし、決して美琴は倒れない。
不思議だった。
まるで、今の『御坂美琴』が倒れても、他の『自分』が存在するんだから問題ない、とでも言うような感覚。
そんな感覚があった。
(・・・な、に・・・これ・・・)
必死に考えられたのは、たったそれだけの疑問。
そして、
「…何って、そりゃぁ『アンタ』よ。超電磁砲(レールガン)さん♪」
ビクン!と、美琴の身体が震えた。
また、この『声』を聞いた。さっき聞いたときも震えた気がするが、そんなことはどうでもいい。
そして、唐突に思う。本当にどうでもいいことのはずなのに、こんなときにそんなことを思う。
(…コイツ…は、こ…の、惨状…見ても、大丈…夫、なの)
「なぁ~にが『惨状』よ。こんな甘っちょろいモンで、『私たち』がどうこうなるはずないじゃない」
今度は、痙攣さえしなかった。
認めてしまったからだ。
さっきの思考。それから分かる。
(…私は…わ、たし…以外の、『自分』の…存在を)
「そのとおり。認めたのよ、遅かったけどね…でも、『ただの人間』にしちゃ、合格ラインじゃない?」
…ふ、と、なぜか美琴の顔に笑顔が見えた。一瞬のことだが。
(…わ、たし…は)
いなくなるのかな、と、そんなことを考えてしまった。
まだやりたい事だって残ってるのに。まぁ、そんなのは当たり前だが。
気づいてみれば、あの『惨劇』のことは頭からなくなっていた。誰かと会話することが、こんなにも精神の助けになるかと思
また、この『声』を聞いた。さっき聞いたときも震えた気がするが、そんなことはどうでもいい。
そして、唐突に思う。本当にどうでもいいことのはずなのに、こんなときにそんなことを思う。
(…コイツ…は、こ…の、惨状…見ても、大丈…夫、なの)
「なぁ~にが『惨状』よ。こんな甘っちょろいモンで、『私たち』がどうこうなるはずないじゃない」
今度は、痙攣さえしなかった。
認めてしまったからだ。
さっきの思考。それから分かる。
(…私は…わ、たし…以外の、『自分』の…存在を)
「そのとおり。認めたのよ、遅かったけどね…でも、『ただの人間』にしちゃ、合格ラインじゃない?」
…ふ、と、なぜか美琴の顔に笑顔が見えた。一瞬のことだが。
(…わ、たし…は)
いなくなるのかな、と、そんなことを考えてしまった。
まだやりたい事だって残ってるのに。まぁ、そんなのは当たり前だが。
気づいてみれば、あの『惨劇』のことは頭からなくなっていた。誰かと会話することが、こんなにも精神の助けになるかと思
「…あら。意外に、もういなくなっちゃった?」
――――――――
「…返答なし、か。本当にいなくなっちゃったぽいわね~」
――――――――――――
「じゃ、私―――『現実殺し(リアルブレイカー)』が、御坂美琴の身体をのっとっても良い訳ね、『超電磁砲(レールガン)』さん」
――――――――――――――――
「…やっぱり、ただの人間どまりか。結局『私たち』が動かなくちゃいけないのよねぇ」
――――――――――――――――――――
「…仕方ない。それじゃ、やらせてもらうわよ」
―――――――――――――――――――――――――
――――――――
「…返答なし、か。本当にいなくなっちゃったぽいわね~」
――――――――――――
「じゃ、私―――『現実殺し(リアルブレイカー)』が、御坂美琴の身体をのっとっても良い訳ね、『超電磁砲(レールガン)』さん」
――――――――――――――――
「…やっぱり、ただの人間どまりか。結局『私たち』が動かなくちゃいけないのよねぇ」
――――――――――――――――――――
「…仕方ない。それじゃ、やらせてもらうわよ」
―――――――――――――――――――――――――
「ふう」
突然、美琴の身体が動いた。身体の調子を確かめるように、準備体操のようなものを行っている。が、どこかぎこちない。
まるで、初めて準備体操をする幼稚園児のような。
「…そりゃ、肉体になんて縛られてるんだから窮屈なのは分かってはいたけど…」
身体を動かし続けながら、美琴は歩き出した。
「…これはないんじゃないかしら」
平然と、死体を踏みつけながら。
「こんな身体で――――――」
と、死体を踏みつけながら歩くその足を止め、空を見上げる。
突然、美琴の身体が動いた。身体の調子を確かめるように、準備体操のようなものを行っている。が、どこかぎこちない。
まるで、初めて準備体操をする幼稚園児のような。
「…そりゃ、肉体になんて縛られてるんだから窮屈なのは分かってはいたけど…」
身体を動かし続けながら、美琴は歩き出した。
「…これはないんじゃないかしら」
平然と、死体を踏みつけながら。
「こんな身体で――――――」
と、死体を踏みつけながら歩くその足を止め、空を見上げる。
「――――アレイスター=クロウリーと、エイワスに…勝てるのかしら」
まぁ、どうせ味方はもっといるとは思うけどね、とつぶやいて、もう一度その足は動き出した。
まぁ、どうせ味方はもっといるとは思うけどね、とつぶやいて、もう一度その足は動き出した。
死体を、惨殺死体を、
今でも吐き出し続けている、謎の建物に向かって。
今でも吐き出し続けている、謎の建物に向かって。
「…とうとう、自我の崩壊が訪れたか」
学園都市統括理事長―――――アレイスター=クロウリーが呟く。
『ふむ。意外にあっけなかったものだったな』
そのアレイスターの脳に、やはり直接響いてくるような声。
コードネーム、『ドラゴン』、エイワスの声だった。
「そうか?年端の行かない少女にしては立派だったと思うぞ。私は絶対能力進化(レベル6シフト)の時に、もう自我を崩壊させるものだと思っていたが」
『何を馬鹿な。あの時はまだ『私への対抗』もついていなかっただろうに』
アレイスターの言葉に、エイワスが不機嫌そうに言った。
「…ドラゴンの、封印…か」
そんなものが、ちゃちな人間ごときに宿るのか?
そうアレイスターは思うのだが、時として人間は考えられないほどの力を出す場合がある。
だが、
『どう考えても、『人間』を捨てたほうが簡単だろう、と?』
「ああ。実際そのとおりだ」
エイワスが、アレイスターの言葉を先読みした。
「実際問題、『人間を捨てた』私以上に、『人間、又は人間だった』者が力をつけた例は存在しない」
『本当にそうなのか?』
アレイスターの言葉を否定するエイワス。
「…ならば貴様は、誰かいるというのか、私以上の力をつけた『人間』が」
アレイスターはそう問う。
しかし、エイワスの口――――声から聞かされる言葉は、目に見えていた。
学園都市統括理事長―――――アレイスター=クロウリーが呟く。
『ふむ。意外にあっけなかったものだったな』
そのアレイスターの脳に、やはり直接響いてくるような声。
コードネーム、『ドラゴン』、エイワスの声だった。
「そうか?年端の行かない少女にしては立派だったと思うぞ。私は絶対能力進化(レベル6シフト)の時に、もう自我を崩壊させるものだと思っていたが」
『何を馬鹿な。あの時はまだ『私への対抗』もついていなかっただろうに』
アレイスターの言葉に、エイワスが不機嫌そうに言った。
「…ドラゴンの、封印…か」
そんなものが、ちゃちな人間ごときに宿るのか?
そうアレイスターは思うのだが、時として人間は考えられないほどの力を出す場合がある。
だが、
『どう考えても、『人間』を捨てたほうが簡単だろう、と?』
「ああ。実際そのとおりだ」
エイワスが、アレイスターの言葉を先読みした。
「実際問題、『人間を捨てた』私以上に、『人間、又は人間だった』者が力をつけた例は存在しない」
『本当にそうなのか?』
アレイスターの言葉を否定するエイワス。
「…ならば貴様は、誰かいるというのか、私以上の力をつけた『人間』が」
アレイスターはそう問う。
しかし、エイワスの口――――声から聞かされる言葉は、目に見えていた。
『上条当麻』
たった、たったそれだけの言葉。
ただの人間として生まれてきたはずの存在を表す言葉。
それが、この会話に出てくるのはとてつもなく奇妙なことだろう。
何せ、『人間ではない』二つの存在の会話なのだ。
さらに、その二つの存在は、世界の約60%を握っている。
そして、その二つの存在がその気になれば、世界のほとんどを手中に収めることが可能だろう。
…あくまで、『ほとんど』なのだが。
「貴様には、『アレ』が…『人間』に見える、そう言うのか?」
『見えない。だが、確かにアレは人間『だった』』
「…私には、『神によって生み出された存在』にしか見えていなかったのだがな、最初から」
『…それこそ、貴様は上条当麻という存在をはじめから掌握してた、とでも言うつもりか?』
続いていた会話が、エイワスの言葉により途切れる。
上条当麻という存在。
神浄の討魔という存在。
その存在を、初めから掌握する…
そんなこと、『人間だった』彼に出来るはずがない。
できるのは、
「…お前くらいだろう」
ただの人間として生まれてきたはずの存在を表す言葉。
それが、この会話に出てくるのはとてつもなく奇妙なことだろう。
何せ、『人間ではない』二つの存在の会話なのだ。
さらに、その二つの存在は、世界の約60%を握っている。
そして、その二つの存在がその気になれば、世界のほとんどを手中に収めることが可能だろう。
…あくまで、『ほとんど』なのだが。
「貴様には、『アレ』が…『人間』に見える、そう言うのか?」
『見えない。だが、確かにアレは人間『だった』』
「…私には、『神によって生み出された存在』にしか見えていなかったのだがな、最初から」
『…それこそ、貴様は上条当麻という存在をはじめから掌握してた、とでも言うつもりか?』
続いていた会話が、エイワスの言葉により途切れる。
上条当麻という存在。
神浄の討魔という存在。
その存在を、初めから掌握する…
そんなこと、『人間だった』彼に出来るはずがない。
できるのは、
「…お前くらいだろう」
『私とて、初めから神浄の討魔の存在は掌握しきれていなかった。その必要がなかったからな。だが、上条当麻は違う。初めからするべきことが分かっていてそれをしないほど、私は無能じゃない』
「…何が『無能ではない』だ。お前以上に有能な存在がいるのか」
『…『人間』…ではないのか』
ポツリと呟かれたその言葉に、アレイスターは思わず顔をしかめた。
「…とりあえず、だ」
この話題をしていても、ただ疲れるだけだ。それは前々から分かっている。
「今は、御坂美琴のほうが優先順位は高いだろう?」
『そのようだな』
エイワスも、この話題に疲れていたらしい。素直に応える。
「今、彼女の身体を構成しているのは、現実殺し(リアルブレイカー)と竜王封じ(ドラゴンセプト)のみ…そう考えるのが妥当だろう」
『超電磁砲(レールガン)は消滅した、と?』
「…」
また、エイワスの言葉で少々の間が空く。
『本当にそうなのか?』
「…分からない」
ついに、ドラゴンの問いに、アレイスターはそう応えてしまう。
『私の予想だと、超電磁砲(レールガン)は竜王封じ(ドラゴンセプト)と混濁するぞ』
「それは貴様の問題だろう」
『つまり、同時にお前の問題でもあるな』
何回会話が途切れれば気が済むのだろう、とアレイスターは思う。
「…御坂美琴…いや、現実殺し(リアルブレイカー)が向かったのは、垣根聖督の本拠地だな」
『本拠地も何も、そこにしか居場所はないらしいが?』
アレイスターはエイワスの言葉を無視して続ける。
「今の聖督に…いや、ほとんどの人間に現実殺し(リアルブレイカー)を阻止する力はないと思うが」
『あってもらっても困る。そして、なかったところで問題ではない。超電磁砲(レールガン)と竜王封じ(ドラゴンセプト)が勝手に暴走を止めてくれるだろう。止めなければ自分たちの存在が危ういのだからな』
そうだろう、とアレイスターも思う。超電磁砲(レールガン)がまだ存在している、というところは信じ難いが。
「…だが、それならばなおさら問題だろう。超電磁砲(レールガン)が主導権を握れば、狂乱能力(バーサークスキル)は酷過ぎるぞ?」
『それも問題ないだろう。超電磁砲(レールガン)が現実殺し(リアルブレイカー)が現れた後に主導権を取り返せば、現実殺し(リアルブレイカー)の力を操れるはずだ』
「取り返すことが出来たら、の話だろう?」
『彼女たちの目的…感情は、利害を一致させている。もともと人間ではない『現実殺し(リアルブレイカー)』に人間の『御坂美琴』を操らせるより、人間の存在である『超電磁砲(レールガン)』が御坂美琴として動いた方が効率はいいだろう。それくらい現実殺し(リアルブレイカー)が気づかないはずもない』
…と、また沈黙の時間が流れる。
「…上条当麻たちの方は」
『心配せずとも、勝手にやってくれるだろう。意外に高い能力を持ち合わせているしな。それに、まだイギリス清教の介入が薄い。まだ隠し玉があると考えたほうが妥当だ』
そこまで言うと、エイワスは一度言葉を切ってこう言った。
『これで一段落ついたと思うか?』
「…ああ。とりあえず、反乱因子の件についてのは、な」
『では、私は私のほうに移らせてもらうぞ』
そう言うと、エイワスの言葉は聞こえなくなった。
「…まったく」
わからなすぎるな、と、アレイスターは言った。
世界の半分以上は自分たちが握っているはずなのに。
その気になれば、そのほとんどをこの手のひらに収めることも可能なはずなのに。
それでも収まりきらなかった『可能性』が、予想できない。何もかも。
「…考えても仕方がないか」
この頃の学園都市統括理事長には、考えるべきことが多すぎるらしい。
一度、それら全てを手放す必要もあるか、と、学園都市統括理事長――――アレイスター=クロウリーは考えた。
「…何が『無能ではない』だ。お前以上に有能な存在がいるのか」
『…『人間』…ではないのか』
ポツリと呟かれたその言葉に、アレイスターは思わず顔をしかめた。
「…とりあえず、だ」
この話題をしていても、ただ疲れるだけだ。それは前々から分かっている。
「今は、御坂美琴のほうが優先順位は高いだろう?」
『そのようだな』
エイワスも、この話題に疲れていたらしい。素直に応える。
「今、彼女の身体を構成しているのは、現実殺し(リアルブレイカー)と竜王封じ(ドラゴンセプト)のみ…そう考えるのが妥当だろう」
『超電磁砲(レールガン)は消滅した、と?』
「…」
また、エイワスの言葉で少々の間が空く。
『本当にそうなのか?』
「…分からない」
ついに、ドラゴンの問いに、アレイスターはそう応えてしまう。
『私の予想だと、超電磁砲(レールガン)は竜王封じ(ドラゴンセプト)と混濁するぞ』
「それは貴様の問題だろう」
『つまり、同時にお前の問題でもあるな』
何回会話が途切れれば気が済むのだろう、とアレイスターは思う。
「…御坂美琴…いや、現実殺し(リアルブレイカー)が向かったのは、垣根聖督の本拠地だな」
『本拠地も何も、そこにしか居場所はないらしいが?』
アレイスターはエイワスの言葉を無視して続ける。
「今の聖督に…いや、ほとんどの人間に現実殺し(リアルブレイカー)を阻止する力はないと思うが」
『あってもらっても困る。そして、なかったところで問題ではない。超電磁砲(レールガン)と竜王封じ(ドラゴンセプト)が勝手に暴走を止めてくれるだろう。止めなければ自分たちの存在が危ういのだからな』
そうだろう、とアレイスターも思う。超電磁砲(レールガン)がまだ存在している、というところは信じ難いが。
「…だが、それならばなおさら問題だろう。超電磁砲(レールガン)が主導権を握れば、狂乱能力(バーサークスキル)は酷過ぎるぞ?」
『それも問題ないだろう。超電磁砲(レールガン)が現実殺し(リアルブレイカー)が現れた後に主導権を取り返せば、現実殺し(リアルブレイカー)の力を操れるはずだ』
「取り返すことが出来たら、の話だろう?」
『彼女たちの目的…感情は、利害を一致させている。もともと人間ではない『現実殺し(リアルブレイカー)』に人間の『御坂美琴』を操らせるより、人間の存在である『超電磁砲(レールガン)』が御坂美琴として動いた方が効率はいいだろう。それくらい現実殺し(リアルブレイカー)が気づかないはずもない』
…と、また沈黙の時間が流れる。
「…上条当麻たちの方は」
『心配せずとも、勝手にやってくれるだろう。意外に高い能力を持ち合わせているしな。それに、まだイギリス清教の介入が薄い。まだ隠し玉があると考えたほうが妥当だ』
そこまで言うと、エイワスは一度言葉を切ってこう言った。
『これで一段落ついたと思うか?』
「…ああ。とりあえず、反乱因子の件についてのは、な」
『では、私は私のほうに移らせてもらうぞ』
そう言うと、エイワスの言葉は聞こえなくなった。
「…まったく」
わからなすぎるな、と、アレイスターは言った。
世界の半分以上は自分たちが握っているはずなのに。
その気になれば、そのほとんどをこの手のひらに収めることも可能なはずなのに。
それでも収まりきらなかった『可能性』が、予想できない。何もかも。
「…考えても仕方がないか」
この頃の学園都市統括理事長には、考えるべきことが多すぎるらしい。
一度、それら全てを手放す必要もあるか、と、学園都市統括理事長――――アレイスター=クロウリーは考えた。