とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 8-442

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匿名ユーザー

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「どう、して……」
ショチトルがほぼ反射的に『自殺術式』を解除すると、カランカラン、と軽い音を立てて鉄パイプが佐天の手から離れてコンクリートに転がった。
その軌跡を辿って赤黒い何かが地面に掠れた直線を描き出す。
それは――赤黒い何かは、佐天の側頭部から溢れ出て止まることはない。
「くそっ!」
ショチトルはマクアフティルをかなぐり捨てると、足をもつれさせながら佐天のもとへ駆け寄った。
「目を覚ませ!くそ!この、大馬鹿野郎が……」
床に膝をつき佐天の身体を揺するが、反応はない。
目を閉じてぐったりとしたまま全く動かない。

全く、動かない。

――どうして。
ショチトルの思考が混乱する。

どうして自分を攻撃しようとしたのか。
彼女は暗部組織の人間に捕まっていたのではなかったのか。
だというのに、なぜまるで暗部組織の人間を庇うような真似をするのか。
わからない。
何も、わからない。
ただ一つだけ確かなことは、

「私、が……」
彼女を、佐天涙子を傷つけたのは自分自身。
守ろうとして、
守るどころか私は彼女を殺――

「落ち着いてくださいっ!」
「!?」
後方から鋭い声が飛んできた。
振り返ると、先程まで戦っていたワンピースの少女――絹旗がこちらへ駆けてくる。
『自殺術式』を解いたおかげで右手の自由も戻っているらしく、既にコンテナはそこらに捨て置かれている。
「どいてくださいっ」
構えることすら忘れ、呆然としているショチトルを横へどかすと、絹旗は佐天のそばに座り込んで少女の脈拍を確かめ始める。
「きちんと息はしてます!超早く病院に連れて行けば大丈夫です!」
「お、おいっ」
「何ですか?」
絹旗はこちらの言葉に振り返りもせずに応えると、立ち上がり自分のワンピーススカートの裾に手をかけた。
力を入れるような動作をすると、ビリリ、とスカートの裾がいとも簡単に破ける。
そして絹旗はリンゴの皮むきのようにスカートの裾を一巻き分破り取った。
「お前は、一体……」
「あなたが佐天さんに駆け寄ったのを見て確信しました。多分、私はあなたと超同じ目的でここにいます。……私は、佐天さんを暗部組織から逃れさせるためにここまで避難させてきました」
「! そんな……」
「お互い変な風に超勘違いしてしまっていたようですね」
絹旗は破り取った布の両端を掴んで左右に引っ張る。
女子の腕力とは思えない程の剛力をかけられ、布は着古した洋服のようにどんどん伸びていく。
「それじゃあ、私はこいつを……無用な戦いに巻き込んで……」
「後悔している暇があったら手伝ってください。佐天さんを助けるために」
ピシャリと言い放ちながら、絹旗はショチトルに伸びきった布切れを差し出した。
モコモコとした素材であったためか、元々は絹旗のウエストほどの長さしかなかったそれは、包帯半巻き分くらいの長さにまでなっていた。
「包帯くらい超巻けますよね?これで佐天さんの頭を巻いてあげてください」
「……あ、あぁ。分かった」
テキパキと動く絹旗を前に多少落ち着きを取り戻したのか、ショチトルは布切れを受け取ると佐天の頭を床から浮かせて、丁寧に巻いていく。

冷静に観察すると、確かに佐天には息があった。
便宜上『自殺術式』などと呼んでいるが、その実態は『原典』の自己防衛機能に頼ったカウンターでしかない。
相手の武器によって相手を攻撃するということは、つまり相手の武器に自身を殺傷するだけの力がなければ『自殺』は成立しないということだ。
引き金さえ引けば高い殺傷能力を持つ銃弾を吐き出す銃なら兎も角、佐天の所持していたのはただの鉄パイプである。
それを女子の力で思い切りに振って自分の頭を殴ったとしても、即死とはいかないだろう。

だが、ショチトルが布切れを巻く間にも佐天の頭から流れる血は止まることはなく、布切れはすぐに赤黒く染まっていく。
即死ではないとしても、怪我の程度が酷いのは瞭然。
包帯を巻いたから安心、などといく訳がない。
故に、
「こ、こんな程度の処置では……」
助からない、という言葉は飲み込んで問いかけたショチトルに、
「大丈夫です。私が応援を呼んで、超迅速に車を回してもらいますから」
絹旗は携帯を取り出しながら素早く告げた。


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声音では冷静にそう言った絹旗だったが、携帯を持つ彼女の手は小刻みに震えていた。
(佐天さんっ……)
結局、取り返しがつかないくらいにまで巻き込んでしまった。
最早自分の正体を明かす明かさないの話ではなくなった。
兎に角佐天涙子という少女の命を守らなければ。
(落ち着け、大丈夫)
先程ショチトルに告げた言葉を心の中で繰り返す。
それは決して根拠のある言葉ではなく、言ってしまえばただの願望――幻想でしかなかった。

ここは『道』から発展して出来た『街』。
娯楽施設が大半で、病院はない。
しかし隣街の病院まで、車で飛ばせば10分程度なので、特に問題はない。

――巫山戯るな。大ありだ。

現在近くにすぐに乗れるような車など放置されていない。
そしてショチトルには助けを呼ぶと言ったが、今の絹旗にアテなどない。
一番に思いつくのは隣街から救急車を寄越してもらうことだが、それでは単純計算で病院に着くまで20分以上かかる。
いや、それ以前に学園都市の『表』の機関に関わる訳にはいかない。
頼めば佐天の治療はしてくれるだろう。
しかし彼女が怪我をしたそばに絹旗最愛という『暗部の人間』がいたことが上層部に知られれば、都合の悪い勘ぐり方をされて佐天に迷惑がかかるのは必至だろう。
ならば次に思いつくのは『アイテム』やその下部組織か。
彼女たちならまだこの『街』の中に留まっているだろうし、車も直ぐに用意できる。
だが、それも土台無理な話だ。
そもそも絹旗は彼女たちから佐天を逃れさせるためにここまで来たのだから。
それではまるっきり本末転倒である。

――超どうすればいいんですか。

携帯を握り締め、アドレス帳を高速で捲りながら歯噛みする絹旗。

――どうすれば、いいんですか!

これは報いか。
抗わなかった自分が、今更流れに逆らおうとしたからか。

――誰か、誰か……!

果たして、絹旗はその名を見つけた。

先程、酷く傷つけてしまった。
自分勝手な幻想を押し付けて、自分勝手に失望して、突き放してしまった。
それでも、今この状況を救える立場にいるのは『彼』しかいない。

暗部組織とは関係なくこの『街』の中にいて、車を用意できるかもしれないただ一人の絹旗の知人。

「浜面っ…………」

絹旗は震える指で通話ボタンを押した。


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「浜面っ!」
3コールで出た浜面が何か言葉を発するより先に、絹旗は叫ぶ。
「まだショッピングモールにいますよね!?超今すぐショッピングモールの駐車場から車をくすねて、『街』の外れにある廃棄施設まで超特急で来てください!」
ともすれば滅茶苦茶に喚き出してしまいそうな心を自制して、伝えるべき情報だけを言葉に変換していく。
「補償はこちらで受け持ちます!出来れば後部座席に人が寝かせられるようなワゴン車を!GPS情報は今からメールで送りますから!」
一方的に用件を告げると、案の定暗い声音の言葉が電話口に響いた。
『……んだよ。来なくていいって言っといて、今更仕事しろってのかよ』
「い、いえ……そうではなくて」
状況を説明しようとする絹旗に、浜面が声をかぶせる。
『人が寝かせられるようなワゴン車?始末した死体でも乗せるってのか?』
「っ……」
その言葉は、浜面の側からしたらただの当てつけだったのだろう。
能力がないことを詰られ、中途半端と蔑まれ。
ならば仕返しに皮肉の一つでも返したくなるのは当然だろう。
だが、絹旗にとってその言葉は。

『始末した死体でも乗せるってのか?』

自分のせいで傷つけてしまった佐天涙子という一人の少女が――助けが間に合わずに衰弱し、死にゆくというビジョンを生み出すのに充分なものだった。

「うっ……」
自制していた筈の心が大きく揺らぐ。
――泣いたら駄目だ、と思った。
散々浜面を貶したくせに、いざ自分に不都合が起こったら泣き落としで言うことをきかせるような真似は――そんな卑怯なことはしたくなかった。

さっきのことを誠心誠意謝って。
許してもらって、その後で改めて『お願い』する。
そうしなければ――泣き落としで言うことをきかせて浜面を『利用』するのではなく、一人の友人である浜面仕上と対等な場所に立って『お願い』をしなければ――佐天涙子という少女との友情が、嘘になってしまうと思ったのだ。

けれど、

「はま……づらっ……」
コンクリートの床を、水滴が叩いた。
「助けて…ひっ、ください……」
涙が溢れ出す。
「佐天さんが……うっ、私の…友達、なのにっ………私、の……せい、っで……」
言葉が零れ落ちる。
「し、死んじゃうかも……しれなくて……でもっ、私、何も出来なくて……」
謝ろうと思ったのに、対等でありたかったのに。
涙に押し出されるように、助けを請う言葉は止まらない。
なぜなら、絹旗は。
絹旗最愛は。

『アイテム』だとか、
『強能力者』だとか、
『窒素装甲』だとか、

そんな『下らない何か』であるより先に、

「たすけて、はまづら……」


――1人の『か弱い女の子』なのだから。




『――分かった。すぐ行く』
簡潔な返事が、電話の向こうから聞こえてきた。
「え……?」
『絶対助けるから。助けに行くから。だから、もう泣くな。あと、嫌味言って悪かった』
続けざまにそれだけ言うと、通話が切られた。
数秒ほど放心した後、我に返った絹旗は慌ててGPS情報を浜面に送るため携帯を操作する。
情報を入力し、メールを浜面に送信する。
『送信完了しました』というメッセージの表示されているディスプレイを見ながら、絹旗は思った。

――あれは、本当に浜面だったのか。

『――分かった。すぐ行く』
そう言った浜面の声音には、初めのいじけた暗い様子は微塵も感じられなかった。
それどころか、
『全て俺に任せろ』とでも言うかのようなしっかりと落ち着いた声音は、


まるでヒーローのようですらあった。


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「ほら、拭け」
「あ……ありがと、ございます…」
ショチトルは余った布切れを黒曜石のナイフでハンカチ程度の大きさに切ると、ボロボロと泣いている絹旗に寄越した。
「全く……人には落ち着けと言っておいて自分は突然泣き出すとはな。まぁ、そのおかげでかえって落ち着いてしまったがな」
「超すいません……」
ちーん、と鼻を噛みながら応える絹旗。
「とりあえず血は止まったようだ。無論予断を許す状況ではないがな。車は手配できたのか?」
「は、はい。超直ぐに来ると思います」
「だったらこいつを車に上げるために担架でも作っておくか」
「あっ、でしたら上に佐天さんを寝かせておいた超適当なベッドが残ってる筈ですから。それを使いましょう」
「分かった、……あー、自己紹介は必要か?いや、お互いそんな立場にはいないか」
「いえ……絹旗。絹旗最愛です。佐天さんの知り合いというのなら、暗部も何も超関係ないですよ」
「そうか、私は……」
ふと、『今の名前』を告げようとしたショチトルだったが、
「……ショチトル。そう呼んでくれ」
「おや、日本の方ではないのですか?それとも超偽名ですか?」
「いや、本名だ。日本人でもない。……そこは深く突っ込まないでくれるとありがたいな」
「はぁ、それにしては超日本語上手ですね」
「……そういうお前は日本人のくせに下手くそだな。『超』というのは度を超えて特異なものにつける接頭語だろう。そんなにホイホイと使うものじゃない。お前の方こそ偽名なんじゃないか?」
「な、失礼な!人のキャラクターに超ケチつけないでください!」
「……まさか作って」
「た、担架持ってきますので佐天さんのこと超見ててください!」
「……………」
半眼で呆れるショチトルの視線を背中に浴びながら、絹旗は階上に上がっていった。

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spark_signal_

学園都市のネットワークの深部に潜っていた初春はやがて、学園都市の情報漏洩を阻止することを目的として結成されたその組織に辿り着いた。
「これは……何というか、学園都市というのは結構ダメダメなんじゃないでしょうか」
思わずそう呟いてしまったのは、『block』のみならず『spark signal』までが裏でこそこそと何かを企んでいることが分かったからだ。
どうやら『spark signal』は学園都市中に秘密裏に張り巡らされているという、特殊なネットワークのことを嗅ぎ回っているらしい。
そのネットワークは完全に他から独立しており、また不用意に情報を取りだそうとすると内容が変質してしまうという、非常に機密性に優れたもののようだ。
そして『spark signal』は、そのネットワークから『内容を変質させないための正しい情報の摘出方法』を独自に研究、解明してしまっていた。
随分とご苦労なことだが、そうまでして情報を得ようとしているのは学園都市の敵対勢力ではなく身内、それも情報漏洩を阻止する側の組織である。
学園都市はこの事態に気づいていないのだろうか、と半ば呆れ、半ば心配になるが、学園都市の深部まで不法侵入している初春にとやかく言えたことではない。

それよりも、である。
学園都市中に張り巡らされたネットワーク。
恐らくは監視カメラの延長にあるものなのだろう。
その情報が得られれば、現在の絹旗最愛や佐天涙子の動向も分かるに違いない。

「……………」
初春飾利はディスプレイを睨む。

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ディスプレイに表示されたその文字列は、初春に問いかけていた。
『ここからが本当の闇だ。お前に足を踏み入れる勇気はあるのか?』と。

「――望むところです」
不敵に笑いながら呟くと、初春はエンターキーを叩いた。


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通話を切ってから3分半。
浜面が運転する一台の黒いワゴン車が廃棄施設に乗り込んできた。
「来たぞ!何をすればいい!」
ドリフトを決め、ワゴン車を横向きに停車させると、その運転席側の扉を勢いよく開いた浜面が絹旗に呼びかける。
「グッジョブです浜面!後部座席を!」
絹旗は既に応急処置を終え、簡素な担架の上に寝かせていた佐天をショチトルと協力して持ち上げる。
「おう!」
浜面は阿吽の呼吸でワゴン車の後ろの扉を開き、後部座席を倒してスペースを作る。
そこに佐天の身体を担架ごと丁寧に横たえると、絹旗は助手席に回り込む。
それを見越して助手席側の扉を開けた浜面だったが、
「は!?」
浜面の目の前に予想外の光景が飛び込んできた。
それは、
「え!?おま、ちょ!それ、パンツ!絹旗パンツがパンツでパンツしててパンツなんだけどお前どうしたパンツ!?」
パンツ丸出し状態の絹旗最愛の姿だった。


さて、ここまで誰も突っ込む者がいなかったので描写はしなかったのだが――紳士・浜面がこの緊迫した場面であるにも関わらず空気を読まずにそのことに突っ込んでしまったので、やむを得ず解説することにしよう。
先程絹旗は自分のワンピーススカートの裾の部分を切り取って佐天の頭に巻く包帯を即席でこしらえた。
ワンピースの裾――そう、あの極悪に短いワンピースの裾である。
当然ながらワンピースは切り取られた分だけ短くなる訳で。
そして絹旗のワンピーススカートにとっては例え一巻き分切り取られただけであっても致命的な訳で。
まぁ、つまり絹旗最愛のワンピーススカートは、そのスカートとしての役目の一切を放棄していたのである。
しかも切り取られたのが一巻き分であったことが災いして、絹旗のワンピースの裾は丁度その真っ白なショーツの上あたり――それでいてお臍まではさらけ出さないという絶妙な位置まで後退していた。
故に絹旗のお臍の下にはショーツとワンピースの裾との境界によって、さながら旧時代のスクール水着に見られるような素敵ラインが作り出されている。
しかし、そう見えるからと言って絹旗の下半身を締め付けている小さな布地は決して水着などではなく、紛うことなき下着なのである。
それは水着とは違い衆目の下に晒されることの許されない神聖な衣類であり、その一方で上半身は普段目にする通りのワンピース(とはもう言えまい、セーターと言っても遜色ないだろう)のままであるというコントラストは、『上下共に下着姿』という半裸状態よりも尚一層の破壊力を持っていた。

最早それはエロではない。
完全にエロを超越している。
超エロ、である。

「……は・ま・づ・ら」
さて。
そんな超エロフィーバー状態の絹旗最愛の姿を視界に収めた浜面は、まぁ当然のことながら生命の危機に瀕していた。
額に分かりやすく怒りマークを浮かべ、先程ショチトルと戦った時とは比べ物にならない程大きなコンテナを右手一本で持ち上げている絹旗によって。
「ちょ!いや、不可抗力だろコレは!」
「そんなことは超関係ありません!見たという事実が問題なんです!過失致死も裁かれるんです!」
「つーか裾切らずにワンピースの腕の部分とか破りゃよかっただろがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「そんなんじゃ長さが超足りなかったんです!裾のモコモコしてるとこが超必要だったんですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ぎゃあぎゃあと言い合う絹旗と浜面。
「おい、お前ら……」
それを見かねたショチトルが止めに入ろうとしたその時。

ドォン!という轟音が響いた。

「何の――!?」
音だ、とショチトルが疑問を音声に変換するより先に、二度目の轟音と共に答えが『襲いかかってきた』。
絹旗達のいる、一階部分にコの字型の吹き抜けを持つ建物。
その『コ』の縦棒に当たる面を、外側から光線のようなものがぶち抜いたのだ。
それは絹旗達の頭の上を通り過ぎただけで、彼女達に直接的な被害は無かったが、しかし状況がマズい方向に動いていることを悟るには充分なものだった。

敵襲。

それ以外にはありえまい。


だが――甘かった。
敵襲という認識だけでは、明らかに甘かった。
「そん、な……」
呆然と呟く絹旗。

壊された壁面。
そこから臨む風景の中に、つまりは壁の向こう側に、絹旗は人影を認めた。
恐らくはその人物が今の光線のようなものを放ったのだろう。
そしてその前に聞こえた轟音は十数棟並ぶ同様の建物のどれかに攻撃した音。
その人物は居並ぶ十数棟の建物にランダムに光線を撃ち放っているのだ。
絹旗達がどの建物に潜んでいるのか分からないから――という理由からだろうが、だったら最初から反対側に回り込めばいい話だ。
要するに、波状攻撃を仕掛けて絹旗達をあぶり出そうという魂胆なのだろう。
巫山戯ているのだ、その人物は。

――巫山戯るな。

何故、とは思わない。
『アイテム』に処分された『スクール』の狙撃手の報復。
筋なら通っている。
理解はできる。
だが、
どうして今。
よりにもよって今なのか。
(麦野のヤツ!超余計なことしてくれましたね!あなたが狙撃手を殺したせいで、あなたの目論見通りアレが出てきちゃったじゃないですか!おかげでこっちは超大迷惑ですよ!!!)
心中で毒づく絹旗の見つめる先に――

学生服に似た服を身につけ、
ズボンのポケットに両手を突っ込んで。

学園都市に七人しかいないレベル5、
その第2位に位置する男、

『未元物質』――垣根帝督が立っていた。



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