第二章[奔走する主人公と暗躍する主人公 Hero_And_Hero]
<7:35 AM>
世界最大の聖堂である、聖ピエトロ大聖堂。
バチカンに存在するローマ正教の総本山であるその場に明かりはなく、ステンドグラスから射し込む朝日だけが辺りを見渡す材料となっている。
その場はいつも静かであるのと打って変って、荒々しい雰囲気が漂っていた。
「バカな!!ミーナ=シンクジェリと、クエイリス=アーフェルンクスが……『神の右席』の候補者であるあの二人が学園都市に行ったと言うのか!?」
重々しい声を出すのは、腰が曲がっている一人の老人。二〇億の教徒の上に立つ、ローマ教皇。
彼はそんな連絡をしてきた一人の男を睨みながら、少しずつ語尾を荒げていく。
「何を考えているのだあの二人は!!失敗したヴェントに変わろうとでも思っているのか!?」
「ヴェントに変わろうとなど、考えるだけ無駄である。いくら候補者とは言え、候補者は候補者。『前方』『後方』『左方』『右方』の四つの内どれかが欠席になった時の言わば代替機
のようなものが、いくら戦果を挙げようともそう簡単に入れ替われる『神の右席』ではないと、私は記憶していたが?」
押すように話すローマ教皇とは裏腹に、連絡をした男、後方のアックアは飄々と言葉を返す。
「だいたい、あの二人はそのような肩書きに興味はなかったはずである。戦果をあげたからでなく、ただ多くの人を救い、ただ大きな力を持っているからという理由で『神の右席の候補
者』などという疑問に残るようなものを設立して近くに置いたのは貴方であったであろう?」
「だからこそだ!!」
苛立ちに居ても立ってもいられないローマ教皇がカツコツ、と聖堂に荒々しい足音が響かせる。
聖ピエトロ大聖堂の中の柱の前に立つアックアはローマ教皇の視線を真正面から受けながら、やれやれといった風に小さくため息をついた。
「あの二人はローマ正教徒となってから、多くの人間に主の教えを広げ、救ってきた。そのような人間が、上に立つべき人間なのだ!それが単独で暴走したとあっては……若さでは済ま
されんぞ!!」
「……、」
(ローマ正教徒、か……いったいあの二人をローマ正教徒と呼んでもいいものか…)
目の前で盛大な愚痴を漏らすローマ教皇を見ながら、アックアはそんなことを考えた。
思えば、あの二人は自分達でローマ正教徒と言ってはいたが、本質的なところではなにか違ったように見える。
例えば、体裁。
彼らは自分達がいかなる立場にあろうとも、誰とでも平等であろうとした。
十字教の教えを考えると特に間違っているようには思わないだろう。隣人を愛せ、と信徒を見守る父は確かにそう言った。
しかし、それは主の前での話である。
主の敵となるものは人間ではない、という考えがある。
信じる者は救われる。それはすなわち、信じない者は救われないということを表す。
主の存在を認めてもなお、敵となるのならそれは神を信じていないこと。
『神は絶対』を掲げる十字教の教えに背くのは、すなわち人間ではないということだ。
バチカンに存在するローマ正教の総本山であるその場に明かりはなく、ステンドグラスから射し込む朝日だけが辺りを見渡す材料となっている。
その場はいつも静かであるのと打って変って、荒々しい雰囲気が漂っていた。
「バカな!!ミーナ=シンクジェリと、クエイリス=アーフェルンクスが……『神の右席』の候補者であるあの二人が学園都市に行ったと言うのか!?」
重々しい声を出すのは、腰が曲がっている一人の老人。二〇億の教徒の上に立つ、ローマ教皇。
彼はそんな連絡をしてきた一人の男を睨みながら、少しずつ語尾を荒げていく。
「何を考えているのだあの二人は!!失敗したヴェントに変わろうとでも思っているのか!?」
「ヴェントに変わろうとなど、考えるだけ無駄である。いくら候補者とは言え、候補者は候補者。『前方』『後方』『左方』『右方』の四つの内どれかが欠席になった時の言わば代替機
のようなものが、いくら戦果を挙げようともそう簡単に入れ替われる『神の右席』ではないと、私は記憶していたが?」
押すように話すローマ教皇とは裏腹に、連絡をした男、後方のアックアは飄々と言葉を返す。
「だいたい、あの二人はそのような肩書きに興味はなかったはずである。戦果をあげたからでなく、ただ多くの人を救い、ただ大きな力を持っているからという理由で『神の右席の候補
者』などという疑問に残るようなものを設立して近くに置いたのは貴方であったであろう?」
「だからこそだ!!」
苛立ちに居ても立ってもいられないローマ教皇がカツコツ、と聖堂に荒々しい足音が響かせる。
聖ピエトロ大聖堂の中の柱の前に立つアックアはローマ教皇の視線を真正面から受けながら、やれやれといった風に小さくため息をついた。
「あの二人はローマ正教徒となってから、多くの人間に主の教えを広げ、救ってきた。そのような人間が、上に立つべき人間なのだ!それが単独で暴走したとあっては……若さでは済ま
されんぞ!!」
「……、」
(ローマ正教徒、か……いったいあの二人をローマ正教徒と呼んでもいいものか…)
目の前で盛大な愚痴を漏らすローマ教皇を見ながら、アックアはそんなことを考えた。
思えば、あの二人は自分達でローマ正教徒と言ってはいたが、本質的なところではなにか違ったように見える。
例えば、体裁。
彼らは自分達がいかなる立場にあろうとも、誰とでも平等であろうとした。
十字教の教えを考えると特に間違っているようには思わないだろう。隣人を愛せ、と信徒を見守る父は確かにそう言った。
しかし、それは主の前での話である。
主の敵となるものは人間ではない、という考えがある。
信じる者は救われる。それはすなわち、信じない者は救われないということを表す。
主の存在を認めてもなお、敵となるのならそれは神を信じていないこと。
『神は絶対』を掲げる十字教の教えに背くのは、すなわち人間ではないということだ。
あるいは、主を知らぬものには教えを説く、という考え。
主を知らないのは罪だが、主を知ればこの者は救われるとし、多くの人を救うためそれを広める。
しかし、彼らはそれらをまったくしなかった。
主を信じようが、信じまいが対等に、平等にあろうとした。
例えば、術式。
偶像崇拝を基本とする術式だというのは普通なのだが、あの二人はその偶像崇拝を複数織り交ぜることで独自の術式を研究していた。
一つ一つは小さな効果。それをいくつも、いくつも織り交ぜ特殊な術式を構築する。
そのような術式は禁書目録にも載っていないだろう、と自慢げに話す二人の顔をいまだにアックアは覚えていた。
(まあ、考えてみると私も人のことは言えないのである)
自分が心の底からのローマ正教徒でないことなどとっくの昔に自覚している。
「アックア……やつらが何を考えているのか、面倒を見ていたお前にはわかるのか?」
返答のない問いに疲れたのか、ローマ教皇はアックアに質問を投げかけた。
その問いにアックアは平坦に返す。
「わからない。それに面倒を見たと言っても、見ていたのは五年も前の話である。そんな昔から学園都市を攻撃することなどを計画していたとは考えにくい………ん?そう言えば」
と、そこまで言ってアックアは何かに気づいたように後ろに手を回した。
腰の辺りをガサゴソと漁り、一つの丸められた羊皮紙を取りだす。
「なんだそれは?」
「やつらの研究室を覗いてみたところ、こんなものを発見した」
アックアはローマ教皇の方に歩み寄りながら、羊皮紙を広げる。
「いくつもの魔術的トラップを仕掛けて守ってあったからな……それなりに重要なものなのであろう」
差し出された羊皮紙は、そのトラップによるものか、元々こうなっていたのか分からないが、一部が焼けていて読むことが出来なくなっていた。
それを受け取り、一枚目に目を通した瞬間にローマ教皇は目を見開く。
「………本当に、やつらは学園都市で何をするつもりなのだ」
二枚目に目を通し、ローマ教皇は誰に言うわけでもなく、一人でそう言った。
「『パンドラ術式』など……自らがローマ正教徒だということをわかっているのか…」
ほう、とアックアが声を挙げる。
それに続けて、彼は口を開いた。
「羊皮紙を見る限り、それに使われているのは『神の子』の偶像崇拝のみ。特にローマ正教徒の術式として間違ってはいないであろう?」
「問題は内容ではない、その表題だ。自ら誤解を招くような行動で身を滅ぼすことは歴史的に見て多くあるのだから」
三枚目まで目を通したところで、彼は顔を上げた。
扉の前で待機する秘書を呼び寄せ、羊皮紙を渡し、術式の解析を命じる。
秘書が短く返事を返し、部屋を立ち去ったところでアックアが口を開いた。
「調べなくてもわかる。あれは『大規模破壊術式』である」
「わかっている。それでも念には念をだ。ただの『大規模破壊術式』にしては『パンドラ術式』という名前は妙に感じる」
「パンドーラーへの神々からの贈り物、『パンドラの箱(パンドラピュクシス)』であるか……絶対に開くなと言われたパンドーラーが好奇心に負け、開くと絶望と名のつく様々な災い
が飛び出し、最後に残ったものは……」
慎重に思い出すようなアックアの言葉に、ローマ教皇が続ける。
「『希望』……か…、」
主を知らないのは罪だが、主を知ればこの者は救われるとし、多くの人を救うためそれを広める。
しかし、彼らはそれらをまったくしなかった。
主を信じようが、信じまいが対等に、平等にあろうとした。
例えば、術式。
偶像崇拝を基本とする術式だというのは普通なのだが、あの二人はその偶像崇拝を複数織り交ぜることで独自の術式を研究していた。
一つ一つは小さな効果。それをいくつも、いくつも織り交ぜ特殊な術式を構築する。
そのような術式は禁書目録にも載っていないだろう、と自慢げに話す二人の顔をいまだにアックアは覚えていた。
(まあ、考えてみると私も人のことは言えないのである)
自分が心の底からのローマ正教徒でないことなどとっくの昔に自覚している。
「アックア……やつらが何を考えているのか、面倒を見ていたお前にはわかるのか?」
返答のない問いに疲れたのか、ローマ教皇はアックアに質問を投げかけた。
その問いにアックアは平坦に返す。
「わからない。それに面倒を見たと言っても、見ていたのは五年も前の話である。そんな昔から学園都市を攻撃することなどを計画していたとは考えにくい………ん?そう言えば」
と、そこまで言ってアックアは何かに気づいたように後ろに手を回した。
腰の辺りをガサゴソと漁り、一つの丸められた羊皮紙を取りだす。
「なんだそれは?」
「やつらの研究室を覗いてみたところ、こんなものを発見した」
アックアはローマ教皇の方に歩み寄りながら、羊皮紙を広げる。
「いくつもの魔術的トラップを仕掛けて守ってあったからな……それなりに重要なものなのであろう」
差し出された羊皮紙は、そのトラップによるものか、元々こうなっていたのか分からないが、一部が焼けていて読むことが出来なくなっていた。
それを受け取り、一枚目に目を通した瞬間にローマ教皇は目を見開く。
「………本当に、やつらは学園都市で何をするつもりなのだ」
二枚目に目を通し、ローマ教皇は誰に言うわけでもなく、一人でそう言った。
「『パンドラ術式』など……自らがローマ正教徒だということをわかっているのか…」
ほう、とアックアが声を挙げる。
それに続けて、彼は口を開いた。
「羊皮紙を見る限り、それに使われているのは『神の子』の偶像崇拝のみ。特にローマ正教徒の術式として間違ってはいないであろう?」
「問題は内容ではない、その表題だ。自ら誤解を招くような行動で身を滅ぼすことは歴史的に見て多くあるのだから」
三枚目まで目を通したところで、彼は顔を上げた。
扉の前で待機する秘書を呼び寄せ、羊皮紙を渡し、術式の解析を命じる。
秘書が短く返事を返し、部屋を立ち去ったところでアックアが口を開いた。
「調べなくてもわかる。あれは『大規模破壊術式』である」
「わかっている。それでも念には念をだ。ただの『大規模破壊術式』にしては『パンドラ術式』という名前は妙に感じる」
「パンドーラーへの神々からの贈り物、『パンドラの箱(パンドラピュクシス)』であるか……絶対に開くなと言われたパンドーラーが好奇心に負け、開くと絶望と名のつく様々な災い
が飛び出し、最後に残ったものは……」
慎重に思い出すようなアックアの言葉に、ローマ教皇が続ける。
「『希望』……か…、」
「『希望』、と言ってもロクなものではない。『偽りの希望説』などがいい例である」
「そう、か……」
険しい表情をするローマ教皇を見て、アックアは薄く笑った。
「すまないが、少しばかり休養をいただきたい」
「休養……?術式に何か不具合でも?」
「少し、外に出る。二日程度で戻るのである」
そう言って、彼はローマ教皇に背を向ける。
大きな背中を見ながら、ローマ教皇は彼の言葉の意味を理解した。
「どうするつもりだ?」
「なに、少し前まで面倒を見てきたやつが気になってな。様子を見てくるである」
「……………すまない」
「ローマ正教徒の上に立つ貴方が、そう簡単に人に謝るものではない」
そう言って、アックアは部屋から姿を消した。
何かの術式を使ったのか、ただ見えない速度で外に出たかはわからないが、ローマ教皇には消えたように見えた。
まだ、聞きたいことがあったのだが…、とローマ教皇は思わず呟きながら、自分の執務室へと足を向ける。
まだ、やることが残っている。
それらを片づけてから、改めてこの問題を考えるとしよう。
「少ないながらも、『右方』、そして『後方』の資質をもつあの二人はこれからのローマ正教に必要な存在だ。頼むぞ…」
今は、自分にできることなど何一つないのだから。
今は、あの聖人を信じることしかできないのだから。
そうして、ローマ教皇は執務室に向かって、一歩を踏み出した。
「そう、か……」
険しい表情をするローマ教皇を見て、アックアは薄く笑った。
「すまないが、少しばかり休養をいただきたい」
「休養……?術式に何か不具合でも?」
「少し、外に出る。二日程度で戻るのである」
そう言って、彼はローマ教皇に背を向ける。
大きな背中を見ながら、ローマ教皇は彼の言葉の意味を理解した。
「どうするつもりだ?」
「なに、少し前まで面倒を見てきたやつが気になってな。様子を見てくるである」
「……………すまない」
「ローマ正教徒の上に立つ貴方が、そう簡単に人に謝るものではない」
そう言って、アックアは部屋から姿を消した。
何かの術式を使ったのか、ただ見えない速度で外に出たかはわからないが、ローマ教皇には消えたように見えた。
まだ、聞きたいことがあったのだが…、とローマ教皇は思わず呟きながら、自分の執務室へと足を向ける。
まだ、やることが残っている。
それらを片づけてから、改めてこの問題を考えるとしよう。
「少ないながらも、『右方』、そして『後方』の資質をもつあの二人はこれからのローマ正教に必要な存在だ。頼むぞ…」
今は、自分にできることなど何一つないのだから。
今は、あの聖人を信じることしかできないのだから。
そうして、ローマ教皇は執務室に向かって、一歩を踏み出した。
<12:00 PM>現在
『希望ト絶望ノ箱(オホペレーション パンドラ)』本格起動まで、残り三時間
本作戦において、必要な事項
『希望ト絶望ノ箱(オホペレーション パンドラ)』本格起動まで、残り三時間
本作戦において、必要な事項
- 『パンドラ術式』の生贄のために、約十人の人間の血を必要とする
この案件においては学園都市の人間を使うわけにいかないため、人間ではない体細胞クローンを使うことが理想
検証の結果、体細胞クローンでも充分一人の人間の分を補う事ができるとわかった
このクローンを採集途中に学園都市の第一位、一方通行(アクセラレータ)が邪魔に入った場合は即時に撤退すること
検証の結果、体細胞クローンでも充分一人の人間の分を補う事ができるとわかった
このクローンを採集途中に学園都市の第一位、一方通行(アクセラレータ)が邪魔に入った場合は即時に撤退すること
- 『パンドラ術式』の完成のため、禁書目録(インデックス)と呼ばれる魔導書図書館を回収、拘束する
詳しい事情については魔術側の秘匿ということでわからない
学園都市の暗部組織〔パンドラ〕では『禁書目録(インデックス)』がどのようなものかは知らされてはいない
学園都市の暗部組織〔パンドラ〕では『禁書目録(インデックス)』がどのようなものかは知らされてはいない
- 作戦において一番の邪魔とされる、上条当麻の殺害
『パンドラ術式』をも破壊する『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』を持つ少年は極めて邪魔だと判断した
殺害方法は、後述記載
殺害方法は、後述記載
- 『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴の捕獲、利用
作戦において、ゴミ掃除をやっていただくこととなった『御坂美琴』が『逃亡』
速やかに確保し、利用する
『御坂美琴』の利用法は、後述記載
速やかに確保し、利用する
『御坂美琴』の利用法は、後述記載