とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 8-599

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匿名ユーザー

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戦火が容赦なく世界の全土を覆う。ロシアからの宣戦布告を真正面から承った学園都市は科学の粋を
極めた兵器、戦略、民兵を駆使し、圧倒的な人的力量差を埋め尽くた結果、対等、
いやどう贔屓目に見たとしても明らかに学園都市はロシアの戦力を確実に抉り、戦況を当然のように
有利に持ち込んでいく。無理もなかった。ロシア側は右方のフィアンマという男に煽動されるが故に
自分達を騙し騙し戦っている。逆に学園都市には自陣の防衛という大義名分が存在する。
技術の差では無く精神的な力量の壁が二つの陣営に影響を与え、暴動、制裁、死闘が円満していく。
科学サイドの勝利。その結末が近い未来として訪れるであろう。それほどまでに大差が連綿としていた。

だが、そのような大局的結果とは裏腹に、学園都市に勝る軍もあった。
ノリリスクと呼ばれる、シベリア高原北西部に存在する鉱山地帯。
この周辺ではニッケル、胴、コバルトといった重工業に欠かせない金属資源が採掘されている。
当然、この地から供給されるそれらは戦争においても重要な兵器の材料となる。
ここを学園都市に奪われれば、新規の兵器の製造に歯止めが掛かり、不利な位置に居るロシアには
痛手となる。そのためにもここの拠点にはロシア軍の中でも選りすぐりの人員が配属されている。
学園都市も襲撃の一手に全力を注ぐが、ロシア側も馬鹿では無い。既に学園都市が誇る、
時速七〇〇〇キロオーバーの輸送機かつ戦闘機であるHsB-02への対策も不完全ながら用意されていた。


超音速爆撃機による物資供給は確かにロシアにとっては脅威だ。しかし、その物資は降ろさなければ
『物資』として働かない。つまり、大量の重火器、食料、軍兵を戦場に堂々と音速で運び込んでも
敵拠点に到着した際にはパラシュートで降下する必要がある。
これが学園都市の穴だった。この物資降下を妨害する、または横取りすればロシア側も
必要な武具等に困る事が無くなる。むしろ学園都市側の最新型兵器を奪取出来ればこちらでもそれを
製造出来る余地がある。そのため物資降下時を狙った奇襲に全力を費やせば勝機が見えてくるのだ。

ノリリスクでもその作戦は有効に働き、屈強な男達がまた徒党となって輸送機の訪れを待つ。
タイムテーブルも事前に確認し、軍用時計で照らし合わせた後にロシアの強兵達が遭遇ポイントまで
移動した。一人、また一人と軍用車を降りてポイントまで接近する。
それに加え今は夜。超音速機も敵を味方と誤認して物資の補給を間違えるのにも期待出来る。
五十人程の大群が声を潜め、供給機の到来を心待ちにしていると、それは来た。
男達の口が歓喜で歪む。物資を受け取る一軍を狩る時間がやってきた。この戦法を続ければ勝てる。
早くも勝利の余韻を感じた彼らは輸送機の着地地点を確実に見定め、手元の殺人兵器に発破をかける。



だが、もう、ここで、彼らは間違っていた。
まず、降りて来たのはたった一つの飛来物。明らかに食料や弾丸が詰まった箱などではない。
また、それの落下速度は物資降下のそれを凌駕する。まるで隕石が天から落下してきたかのようだった。
そして、雪積もる大地にヒビを入れる程の衝撃が喚起されたにも拘らず『それ』は優雅さを秘めている。
ロシア兵達にも異変を感づくチャンスがあった。もっと考えを厳しく持てば生還する事も出来た。
そう、学園都市の超音速機HsB-02が輸送してくるのは物資や人員だけでは無い。決して無い。
ごく稀に、少なくとも後五回はその『別の物』を投下する機会があった。
『それ』には影があった。超音速機からのライトで頭部、胴体、脚部が正確に大地に投影される。
だが、一部は抜け落ちている。右腕はかろうじてあった。左腕はどうかとロシア兵達が見定めるとーー

横一線に光が走った。雪を切り、大気を両断し、存在する量子を押退けて、
戦火が迸る。
その攻撃の前兆すら捉えられない未熟な男達は黒ずんだ炭になる。
襲撃だと把握した熟練の戦士達は後退していた。焼き払われた仲間に助けの手をかける余裕は無かった。
「あれは何だ!?」
「よせ!手を出すなッ!!」
一人が不安と好奇心に駆られ、『それ』に発砲してみる。
最近実用化されたAK-200型短機関銃だ。装填された六〇発の弾丸を全て標的に撃ち込む。
ダダダダダッ!!とキーボードをタンピングする音を一段低くしたような銃撃音がなる。
人肉を弾き飛ばし、生半可な鉄製防具なら余裕で食い破れる威力を秘めた銃弾が山のように着弾する。
だが、カカカカッ!と軽い火花が飛ぶだけで、『それ』は怯みもしなかった。
まるで、SFに出てくるようなバリアでも張ったかにも思える。
「何で、何で効かないんだ!こっちは完璧に武装してるのに素手で受けき」
ヒュン、と風を切った音が鳴る直前、発砲した兵の首が飛んだ。
天高く血のリングを描きつつ回るその人の首は現代的な芸術的オブジェに見える。
主人の脳が削ぎ落とされた胴体が地に着くのを見届けた残兵達は『それ』の異常さに漸く気付き、
「ぜ、全軍撤退だぁあああああ!!!」


一人が手榴弾を投げ捨て、煙幕を張る。『それ』に追尾されずに逃げ切れるように。
男達は走る。先程まであった勝機など思い出すのにも無理があった。
一分、それだけの時間を費やして、ロシア兵達は移動用に使っていた軍用車に辿り着き、乗り込めた。
(こ、これで大丈夫だ。ヤツの戦力は未知だが時速二〇〇キロで振り切れば…………!)
凍えるような寒さの中、運転席に収まった男は汗をかいていた。これは焦りからくる汗だ。
そう思っていた。

「おコンバンワー♪」

その汗は、恐怖からくる物だった。
「……え…………」
正常な判断力を失った運転者がその不自然なコトバがする方向を反射的に目で追ってしまう。
「馬鹿野郎!さっさと出せ!下手すればこのまま全滅するぞ!!」
そのせいで発車に遅れが生じ、ケージの中にいる仲間から罵声が轟く。
だが、もう何も耳に入らない。
軽く開いたサイドドアの隙間に在ったのは、
整っている顔。茶色の長い髪。不自然にまで白い肌。甘い感触がするであろうピンクの唇。
それらの調和を乱す、悪鬼のような残酷で歓楽的で刺々しい破顔の笑顔。
そして顔の右側を真っ二つに埋め尽くす鋭い傷跡。
その中心には腐った精肉のケロイドで覆われた発光体があり、そこから鈍い輝きが発せられていた。

「お客さまだよ?」

強引にドアの開閉部分に頭部を食い込ませた『それ』は、
禍々しい狂気をただ、シンプルに、与えて、
怯え、恐れ、泣き叫ぶ、カワイイカワイイ子羊ちゃんを、

「オオカミさんでーすよぉ☆」

不気味な光を宿した左手のアームでその頭を『掴む』。鉄をも溶解させる高温のアームで。その結果、
「ぎゃ、ぎゃぁああぁぁあぁあああああああああああああ!!!!!」
素敵に運転者の顔表面が焼き爛れ、肉がこんがりとした風味の匂いと蒸発した血液の鉄臭さが
軍用車に充満していく。

「か弱い子豚さぁん?出てこないのぉ?だったらそんな藁葺き、吹き飛ばしちゃうよぉーん?」

『それ』の放つ無造作な光の束が爆発的に展開され、軍用車ごと乗組員を焼却処分する。
抵抗する間は、圧倒的な力で蔑ろにされ、ただただ屈服と苦痛に満ちた絶叫が続く。
真っ黒。ただの炭素の塊と化したゴミらを踏みつぶして、『それ』は呟く。
恋人の耳元に囁くように。唯一の幸福を噛み締めるかのように。

「どぉーこにいるのかなぁ…………は、ま、づ、らぁー?」

麦野沈利。学園都市第四位の超能力者『原子崩し』は、問題無くロシアに到着した。



日本海を抜け、オホーツク海を迂回して飛ぶ超音速機があった。
学園都市は建前上は日本一帯をロシアからの中距離弾道ミサイルから守り通す義務を負っている。
そのためのHsB-02だが、件の一機は当たり前の様に巡回ルートから外れていた。
ユーラシア大陸の拠点に物資を送る機体にしてもその航空ルートは絶対におかしい。
だが、学園都市側はそれを百も承知で黙認していた。理由は一つ。

幻想殺しの監視。必要な場合には個体を回収しアレイスターの絶対的管理下に置くという任務のためだ。
そのために幻想殺しの弱点である『多人数』と『無効化出来ない重火器』を輸送させて、
上条当麻を無力化するために、警備員とは違う学園都市の暗部に所属する実行部隊が控えていた。

「あ~あ。音速越えの戦闘機も直に乗ると不便ねー」
とされていても、実際に操縦席の背面で指揮を取っているのは、この場では不相応な少女。
学園都市第三位の超能力者『超電磁砲』たる、御坂美琴本人だった。
艦長席に深く座り、足を組み、腕を広げて伸びをする。
「まったく、真っ直ぐ向かえば三十六分であのバカの目的地に先回り出来るのに、
 戦闘空域はなるべく避けないといけないなんて慎重にも程があるわよ」

そう、御坂美琴がこの超音速機を『お借り』した理由はただ一つ。
あのツンツン頭の少年を助けに行くためだった。
ロシアと学園都市の正面衝突。
その裏で蠢く人々の中に上条が紛れているのを知った美琴は、居ても立ってもいられなくなり、
ロシア、正確にはあの少年が現在目的地として定めたノヴァヤゼムリャへと辿り着く道を選んだ。
もう、あの少年に傷ついてもらいたくない。何かを失ってまで戦ってほしくない。
この戰いで、今度こそ上条が大切な物を取り戻せなくなるような予感があった。
彼が嘗て持っていた筈の、記憶。それ以上に大事な物を。
それだけは嫌だ。自分が彼に会う事に意味があるかはわからない。
むしろ、上条なら美琴が戦地の中心に参戦するなどと聞いたら絶対に反対するだろう。
美琴を巻き込みたくない。きっと、必死に、優しくそう言ってくれるはずだ。
それでも、美琴は力に成りたい。
上条の負担や苦悩がもし加速していく一方ならば、それを和らげてあげたい。


だから、この選択に後悔は無かった。
(……もう、これ以上アンタ一人で背負い込む必要は無いのよ。
 …………頼ってよ。もう、私を、『守りたい人』の枠に留めるのは、やめて)
そう願った時には、いつも重傷のまま戦場に飛び込んでいった彼の顔が浮かぶ。
自分がどれだけ地獄に堕ちても、大切な人を守り抜くために、その人に安堵を齎す笑顔。
優しくて、思い出すだけで心が体に保温を乱すよう信号を出してくる。
胸に手を当て、加速する鼓動に身を委ねたくなる。でも、今は、まだその時じゃない。
頬に朱が入った美琴はすぐに頭を切り替え、席から立ち、配線機のケーブルと自分の携帯を
繋いで、特殊な波長で連絡を取る。その相手は、
『また、お姉様によるあの人の目的地の再確認ですか、とミサカはお姉様の強迫観念に呆れます』
御坂妹。妹達の中の一人、ミサカ一〇〇三二号だった。

いくら超能力者第三位の美琴であっても、テレビの端に一瞬映っただけの上条の現存位置を
正確には把握しきれない。この超音速爆撃機を襲撃する直前に不正に入手した
上条討伐計画のレポートを読了しても、『上条が今どこにいるか』といった至極具体的な
情報は得られなかった。そのため、全世界に撒かれた妹達の情報網を頼ったのだ。
リアルタイムであらゆる噂、情勢を手に取り続けられる彼女達の助力が無ければ、
上条の目的地すら耳に入れることも不可能だっただろう。
「ええ、ってかまだ一回しか聞いてないハズだけど?本当にノヴァヤゼムリャで合ってるのよね」
『はい。最近ミサカネットワークに新規者が現れ、その二〇〇〇二号の掴んだ情報、
 また最終信号の二〇〇〇一号も同種の情報ソースを持っています、とミサカは説明します。
 不透明ですが、ロシア在中のミサカ達も断片的にこの情報を肯定する噂を耳にした、
 とミサカは補足します』
妹達の新規者とは誰かが非常に気になるが、問題があれば他の妹達が反応すると思われるから
危険な存在ではない。と美琴は素早く考える。
「やっぱりそこか。ありがと。ああ、後アイツになんか伝えたい事とかある?会えれば言えるし」
『…………無事に帰って来て下さい。その後は一発ぶん殴らせていただきますと伝えて下さい、
 とミサカはあの人の安否に一抹の不安を感じます』
「……同感。じゃ、言っとくね」
と、美琴は通話を切り、航空経路の微調整を指示しようとしたその時、



ドォォオン!!と、地盤を揺るがす程の衝撃が超音速機に大打撃を与えた。
慣性の法則が狂い、乗組員がベルトを付けているのにも拘らず席から転がり落ちる。
だが美琴は一歩も崩れる事無く仁王立ちのまま振動に耐え切る。
(……もうバレたか)
こうなるであろう、と美琴は事前に察知していた。学園都市も上条討伐船が超電磁砲に簒奪された事情に
ようやく気付き、そのまま航空機ごと陸に叩き付けて始末するつもりなのだろう。
現在地はプトラン高原上空。後十分ほどでノヴァヤゼムリャに着くはずだったが、
「クソッ!推進エンジンを二基やられた!不時着しようにも学園都市側は確実に撃墜する気だぞ!」
電撃で黙らせたパイロットが叫ぶ。やれやれ、と美琴は歩み寄り、
「アンタ達は投降しなさい。私が死んだ事にすれば、向こうも責任を追及してこないでしょ」
は……?と乗組員達が邪推する。超能力者を殺したなんて報告をすれば、間違い無く首を切られると
決まってるのに、何を言ってるのか、と疑問視するが、
「あー……言い方が悪かったわね。要は私がこの機体から降りれば問題無しって事よ。
 ハッチだけ開けといて」
「ば、馬鹿言うな。今の高度は五〇〇〇〇フィートだぞ!パラシュート程度じゃ
 落下速度を相殺出来るわけがない!本当に死ぬ気か!」
何で脅迫した人間を弁護するのか美琴には意味不明だったが、
「ま、確かにこのまま降りれば死ぬけど、それでいいのよ。
 どうやら仕事はちゃんとうまく遂行出来たようね。褒めてあげる」
と、下船ハッチに美琴はいそいそと走って行ってしまった。
残された乗組員達はもうどうしようもないと思いつつ、攻撃側に投降シグナルを出す。
ついでにハッチも繰るようにしたが、超電磁砲が何を狙っているかは不明のままだった。

美琴は跳ね上げ式扉に腰掛け、開閉するのを待った。確かにこのまま外に落下すれば
空気抵抗、衝撃波諸々の影響で粉微塵になるだろう。
「アイツに会うまでは、死ねないのよ。この私は」
ガコン!!とハッチが抉じ開けられ、凄まじいエネルギーが籠った風が美琴に叩き付けられる。
しかし、笑顔のまま、彼女は超音速機から飛び降りた。
その瞬間、空気中からありったけの砂鉄を能力で集結させ、美琴の全身を包み込ませた。
鉄のカプセルのような殻で覆われた美琴はその形状を保ったまま投下していった。
摩擦熱を外側に放出するよう調節し、雲を抜きさって、安定航路まで落下した後、
バッ!と砂鉄の包みを開け放つ。
まるで、翼を広げた渡り鳥の様に砂鉄を展開し、風を捉え、美琴はハングライダーの要領で飛んで行く。

「『超電磁砲』にかかれば、こんなもんよ」

推進する燃料も機構も持ち合わせていないが、しばらくは距離を稼げるだろう。
ロシア特有の冷風が何故か心地良い。

御坂美琴。学園都市第三位の超能力者『超電磁砲』は、問題無くロシアの上空を駆けて行く。


2.5
プライベーティアの攻撃ヘリによる襲撃を撃退した後、浜面と滝壺はディグルヴ達がいた集落から
旅立っていた。怪我人の配送や滝壺への出来る限りの処置、といったやるべき義務を果たし果たされた
事で下地は既に整ってしまっていた。あそこに留まるといった選択肢もあるにはあったし、魅力的で
甘えてしまいたかったが、それでは滝壺を救う手段にまでは行き着けない。
やはり、『体晶』によって汚染される滝壺の体を治すには学園都市の技術が必須。
そして、その技術を借りるには何らかの交渉材料が必要だ。
それを求め、浜面は再び車を出した。戦乱の中心たるノヴァヤゼムリャに向かうため。

珍しく雨が降りしきる中、ひたすら車を走らせる。ディグルヴから拝借してもらった一台だった。
彼や他の人々からの好意から貰った恩賞には、他にもある程度の食料や金銭、また幾らかの銃器も
含まれている。これらを無駄には出来なかった。
助手席で静かに眠りにつく滝壺を横目で見たり見なかったりしながら浜面は考える。
(とにかく、やれる事を確実にやっていくしかないんだ。ノヴァヤゼムリャに行って何が得られるかは
 わからない。もしかしたらもっと危険な目に遭うかもしれねぇ。でも、滝壺のためになるなら、
 どんな戦場にでも殴り掛かってやる)
そうして、ひたすらアクセルを踏む。その前進が滝壺を失うという恐怖を削ぐ道に繋がる事を信じて。

「うむ、覚悟を決めた高邁な男の顔である。
 やはりこの後方のアックアの目に料簡違いは無かったであるな」
「…………あ、ああ」
そう、戦場に向かっているのは浜面と滝壺の二人、だけではなかった。
後方のアックア。
浜面達の生死の行き先を決定する要諦の時に颯爽と現れた男。
攻撃ヘリを得体の知れない大剣と水を操る様な能力で叩き落とした怪物。

その男が、浜面が操縦する車と並走していた。
自身の足だけで。しかも全長三・五メートルもの大剣を背負ったまま、でだ。
ターン、ターン、と地面を軽快に蹴りつつ、大幅に立ち跳びながら進んでいる。


どうやら雨を弾いて走っているようだ。水の流れに干渉して濡れないように
能力を行使しているのかもしれない。だが、そんな未知のチカラよりも、目で捉えられない程の
高速で両足を作動させている事実の方が、浜面にハッキリとした恐怖を与えていた。
(この人、一体何なんだよ……凄く強いし、尊敬するけどさ、幾ら何でも絶対おかしいだろ。
 超人とかそういうレベルを超えてるんじゃないか?)
「? どうかしたであるか」
「い、いやっ!何でも無いですはい!!順調結構健康ですッ!!」
とにかくこの現実を受け入れる心の準備を慌てて完了させた浜面は、おかしな挙動を押さえつけて
アックアに目的地の確認を行った。
「そ、それで、ノヴァヤゼムリャとかいう孤島にこの戦争の『カギ』になる重要な品があるんだよな?」
アックアが、うむ、と答える。
「その通りである。この戦争の首謀者、右方のフィアンマは『プロジェクト=ベツヘルム』に必要な
 技術や儀式を例の基地で既に遂行させ、本格的な天使降臨をその地で行うようなのである。
 そこにはあらゆる人員、武力、思惑が複雑に絡み合い、確実に戦況を揺るがす大業が起こるであろう。
 学園都市も一枚噛んでくるのは明白である。ならば行く他あるまい」
よくわからない単語が多々飛び出すが、
浜面にもその孤島で戦況を覆すような大事が発生することだけは理解出来た。
「じゃあ、その争乱の中で学園都市が一番欲する物を俺達が頂けばいいってワケだな」
「確かにそうである。そして学園都市の最大の目標物は既に判明している。
 これを掠めとれば貴様の目的も果たされるというわけであるな」
最大の目的の物。それとは何だろうか。浜面にもわからないが、アックアの見解に従ってみると、

答えは、シンプルかつ、
「右方のフィアンマの身柄。これを学園都市に差し出す立会人となれば、問題あるまい」
手に入れるのが、この世界で最も難儀な物だった。

「え、つまり、そのフィアンマっていう、世界を牛耳ってるヤツを俺が倒すって事?」
「倒すとまでは要求しないのである。だが奴を屈服させる一端には参加しなければならないであろうな。
 奴はこのアックアをも凌ぐ武力を持つが、やるしかあるまい」
どうやら、事態は浜面の甘い考えを遥かに凌駕する状態まで達してしまったようだ。
右方のフィアンマを倒す一因になる。そんな力量が自分にあるのだろうか。浜面は一考する。
「……無理かも」
「泣き言を吐く段階はもうとっくに過ぎてしまったのである。……確かに今の貴様では
 これから起こる闘いで生き残るのも難しいかも知れぬ。そこで一つ提案がある」
提案とは何だろうか。と浜面は期待と予感に身を構えていると、アックアが車を止めるように指示した。
車から降りて、雨を拭いつつ、アックアに真意を尋ねる。
「この剣を貴様に貸そう」
ゴン!と大地にヒビを入れるような轟音を響かせつつ、アックアが大剣を地に突き刺した。
「……これを、俺に?」
「そうだ。このアスカロンは魔術的要素をあまり内包しておらん。
 よって魔術を扱う能力を持ち合わせておらずとも手懐ける余地が貴様にもある。
 これを従えれば、必ず貴様の力となり逆境を退ける切り札にもなろう」
浜面が喉を鳴らす。この大剣、これほどまでの巨大さからすれば重量もそれ相応にあるはずだ。
振るどころか、持ち上げることすら、浜面の筋力では不可能だろう。
だが、浜面は辟易しなかった。剣の前に律して立ち、アスカロンの取っ手を力強く握りしめる。
(……滝壺一人を守れるだけの力が欲しい。それ以上は何も求めねえ。
 力に成るなら何でも利用してやる。例え数百キロあるかもしれない大剣でも、俺は)

恐れない。
地に伏すアスカロン。全長五〇フィートの悪竜を斬り殺す事すら可能な剣。
その剣は浜面を認めるのか。
滝壺の命に全てを懸ける覚悟を決めた浜面は、一人の少女のためならヒーローになれる少年は、
奇跡に頼らず、ただ自分の力を信じて、新たな力に手を掛けた。


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