とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 8-629

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匿名ユーザー

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1

「で?実際どのように戦えって言いやがるつもりですか、上条当麻」
うっさいな、と返しそうになったが、そこはこらえる上条。というか、ここでそう返せる立場ではない。
「えーと、俺たちは…」
上条は、土御門に言われた『やるべきこと』を思い出し、
「…まぁ、相手をぶっ倒せば良いだけだ」
「単刀直入すぎます」
正確に伝えたはずなのだが、ルチアに即答された。
「いや、本当は『敵勢力を引き寄せる』…みたいなのもあるんだが、なんかそれは勝手に俺の右手がやってくれるらしくて」
だから俺らは闘うだけでいい、と続けようとした上条の耳に、
「ええっ!?ってことは、なんかお強い方たちがいっぱい集まってきちゃうんですかぁ!!?」
甲高い、且つ心底驚いた、というアンジェレネの叫びが響いた。
「…いや、そりゃ驚くのは分かるけどさ…見えてはいないけど、一応敵、いるんだぜ?」
わぁぁ、どうしましょうどうしましょう、と一人騒ぐアンジェレネをなだめるように…というか、注意するように上条は言った。
「…だが、確かにこいつの言うとおりだ。なぜかは知らないが超電磁砲(レールガン)もいない今、複数の超能力者(レベル5)を相手するのは難しいと思うが」
そうだよねー、超能力者(レベル5)そんなに相手…って、超能力者(レベル5)?
と、上条はそこまで考え、

「…んにゃろぉーっ!!絶対能力者(レベル6)相手のことしか言ってねぇじゃねぇぇかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

アンジェレネさえも『それは無いだろ』な表情を浮かべるほどの叫び声をあげた。






そんなコメディのような時間を送っている上条たちだが、実際には臨戦態勢(を取らなければならないはず)である。
唐突に始まった、反乱因子との戦い。いや、昨日の方が唐突だったが、今回は『殺る気』があるらしいのでこっちを扱ったほうが正しいだろう。
相手勢力は、超能力者(レベル5)と絶対能力者(レベル6)のみ。しかも、多数…とまでもいかないまでも、計8人くらいはいるらしい、との事。
そんな化け物を相手にしなければならない上条たち―――――――
なのだが。
「それはまずいですね。よし、上条当麻。アンタを生贄に捧げます」
「意味分かんないわけでもないが、とりあえず意味分んねぇから!!いきなりなんだよ生贄って!?」
「それは当然超能力者(レベル5)とか絶対能力者(レベル6)とかいう方々へのですよ」
「当然っていうな当然って!そして俺は断じて生贄なんぞになるつもりはないッ!!」
「じゃあ、か弱い女性たちが生贄になれと?上条さんはそう言うんですね??」
「ぐっ…あ、いや、ほらお前ら以外にも優秀な超能力者(レベル5)さんがいるじゃないか!!」
「ただの超能力者(レベル5)ごときが、絶対能力者(レベル6)への生贄になるとでも?」
「わけわかんねぇ。じゃぁなおさら無能力者(レベル0)の俺が相応しいわけないだろ」
『アンタのどこが無能力者(レベル0)だッ!!?』
…などなど、かなりコメディな展開に陥っている。あまり関わらないだろうと考えられた超能力者(レベル5)も、その気満々である。





「…あいつラ、こんなノにやられた、っテいうのカァ?」
そんな馬鹿どもを、冷静かつ冷ややかに見つめる、一つの視線。
「…わざわざ超能力者(レベル5)なんてノが出てくる幕ジャないだロォ」
「なめてかからないほうが身のためだと思われます、聴覚潜り(ノイズキラー)。せめて無駄なことはしないように」
「精神操作(メンタルコントロール)さんの言うとおりですわね。あなたは少々おふざけが過ぎましてよ?」
「あんた…視覚潰し(ライトメーター)も、妙にお嬢様ぶってないでさっさと殺しちまえよ」
「はん。まるデ、お前ハさっさトぶち殺せる、みたいニ言うジャないカァ、触覚壊し(センサーブレイク)」
「…それ以上の討論はやめなさい。やめないものは、強制的に脳に介入しますよ」
彼らの中でのリーダー的存在である精神操作(メンタルコントロール)が一声入れ、彼ら超能力者(レベル5)は黙った。
「私たちの目的は、ただ敵の抹殺のみ。主な戦闘方法は、各自の能力、およびそのほかの者の能力を使用した上での発弾。出来るだけスマートにいきますよ」
…チッ、面白くねぇナ、という声が超能力者(レベル5)たちの間で交わされた、最後の会話だった。
これからの会話は、情報交換、及び応援要請などだ。こんな気楽な会話ではない。
「では、ただいまより各グループへの襲撃を開始します。
グループAは聴覚潜り(ノイズキラー)、グループBは視覚潰し(ライトメーター)、グループCは触覚壊し(センサーブレイク)、そしてグループDは精神操作(メンタルコントロール)が勤めます。異存は?」
精神操作(メンタルコントロール)の声以外に、交わされる言葉はない。
「では、各自各々行動を開始してください。健闘を祈ります」
その言葉を皮切りに、
強力な力を持った能力者たちが、殺人を目的に動き出した。

2

うぜェ、と単刀直入に一方通行(アクセラレータ)は感じた。
まず、ウザい要因その①。
長谷田鏡子とかいう超能力者(レベル5)がうるさい。
ウザい要因その②。
(順番がおかしい気はするが、)そもそもこんな戦いをしなければならないこと。
そして一番でかいウザい要因その③。
なンで俺が上条の後ろでコソコソやってなくちゃならねェ?
…結局、土御門に言いくるめられたものの、不満が残っている一方通行(アクセラレータ)だった。
「ってか、そんなどうだっていいこと考えてんじゃないわよ。さっさと作戦なり何なりを教えてくれないかしら?」
鏡子が、一方通行(アクセラレータ)を睨みながら言ってきた。おそらく心理掌握(メンタルアウト)を使って一方通行(アクセラレータ)の思考を読み取りでもしたのだろう。
「…調子ン乗ってンじゃねェぞ三下ァ。AIM経由でテメェの脳細胞でも破壊されてェのかァ?」
「はん。いきがるのもいい加減にしなさいよね。あんたは今電極のスイッチを入れていない。この状態で私が『電極を入れる』という思考をさせなければ、そのまんまアンタを殺すことだってできるのよ?お分かりかしら、『旧』学園都市最強さん♪」
…馬鹿が、と一方通行(アクセラレータ)は吐き捨てて鏡子との会話を打ち切った。


その程度で一方通行(アクセラレータ)がどうこうなるはずがない。
確かに、鏡子の言うとおり能力を使用することはできなくなってしまうだろう。
しかし、
一方通行(アクセラレータ)には、能力以外の『異能の力(チカラ)』がある。
あの、黒い噴射の翼。
ある程度操作にも慣れてきたので、もしかしたら意図的な発生も促せるかもしれない。
まぁ、面倒だから説明なんてしないのが一方通行(アクセラレータ)だが。
「…って、勝手に二人で話し込んでるようですが…えと、鏡子さんの言うとおりですよ?できればお早めに話してもらいたいんですが…『私たち(魔術サイド側)』としても」
と、そこで五和が一方通行(アクセラレータ)に話しかけてきた。
これ以上引きずると更にウザいことになりそうだし、話さない理由もとくにはない。
「…俺たち、Bグループは、上条たちのところに集まってきた馬鹿どもを殺せばいィらしい。もちろン、自分の敵は自分で殺る必要はある」
「殺る、ねぇ…」
五和たちと話していた…牛深とかいう男が、いやそうに言った。
「仕方ないですよ、結局、やることは科学側だろうが魔術側だろうが同じなんですから」
同じく、五和たちと話していた少年…香焼が言った。
「何なら、さっさとグループAのところに行ってサクっと殺しちゃいましょ?」
鏡子が、あっさりとかなり危ない発言をする。
…?と疑問に思う一方通行(アクセラレータ)。
彼女が、あの作戦会議…のような事を行った部屋に入ってきたときの上条に対する態度から見れば、こんなあっさりとした返答(…もちろん、一方通行(アクセラレータ)にとっての)はない、と一方通行(アクセラレータ)は思っていたのだが。
「?ああ、あれね。あんなの演技に決まってるじゃない。何で私が出会ったばっかの男を好きになんなくちゃいけないのよ」
「ああ?ンじゃ、何なンだよ、その演技っての目的はァ?」
さらに疑問を感じ、口に出す一方通行(アクセラレータ)。
「あの学園都市最強を打ち破った奴には興味がわかないはずないでしょう?まぁ、あくまで『能力者』としての興味であって、『男性』としての興味は微塵もわかなかったけどね」
なんであんなのに『あいつ』は惚れたんだろう…?と首を傾げる鏡子。
と、そこで、
鏡子は、後ろから強大な殺気を感じた。
(!?反乱因子…ッ!?)
能力をフル稼働させる準備に移ろうとする鏡子は、同時に敵を確認するために後ろを振り返った。
そして、鏡子の目に映った殺気の主とは、


「…………………………」
ひどく怨念じみた目でこちらを見つめてくる五和だった。
「…は?」
思わず間抜けな声を上げてしまう鏡子。
よく聞けば、五和は何か言葉を発していた。
(…上条さんはあんなのじゃない上条さんはあんなのじゃないそんなことを言うというならば女教皇(プリエステス)のお力を借りてでもあなたのことを打ちのめしますがかまいませんか)
というか、なんか殺人予告でもしているようだった。




(…ふふ、青春してますわねえ)
そんな光景を、子供が無邪気に遊ぶ風景でも見つめるように、視覚潰し(ライトメーター)は見ていた。
(ですけど…あの方たちにとって、青春は、命よりも大切なんでしょうか?)
そんなことを思いながら、視覚潰し(ライトメーター)は、いかにもお嬢様らしく広がったスカートから、その姿には似合わない拳銃を取り出し、
次の瞬間、
パァァン!
と、誰がどう聞いても、何が起こったかが分かる、乾いた音が響いた。

3

まったく…と、神裂火織はため息をついた。
(先ほど構成員には話をしましたが…それでも、『反乱因子の戦力の分析、それに見合ったグループの配置、他のグループへの助太刀、反乱因子の打倒』…なんて長ったらしくて馬鹿なほど難しい任務なんかを遂行できるのでしょうか?やはり、あそこは土御門のことを殴ってでも引き受けないべきでしたか…)
やはり、と表現されてるあたりが怖い。どうやら土御門は、たまたまあの時死ななかったらしい、聖人の魔の手によって。
「まぁ、そんなに気負わずに。大丈夫ですよ」
と、そんな神裂の様子を見てか、エツァリ――――いや、なぜかみんなが海原と呼んでるから海原でいいか――――が話しかけてきた。
「…大丈夫ですよ。少なくとも、あなたたちのことは守れますから」
天草式メンバーに聞こえると、少々厄介なことになりそうだったので、神裂は少し控えめにいった。
そうですか、とにっこり笑って海原は引いた。
たいていこういうパターンは、神裂の魅力に惹かれた馬鹿な男がとる行動なのだが…彼の場合は、まったくなる厚意だろう。
土御門の話によると、彼は違う女性が気になっている…というか、ぶっちゃけ好きらしい。いや、ぶっちゃけなくてもなのだが。
と、そこで、天草式のメンバーの一人…野母崎が話しかけてきた。
「…それで、女教皇(プリエステス)。自分たちの相手…れべる5とかれべる6とかって、どんな人間なんですか?」
ほかの天草式のメンバーも、みな同様に頷いていている。
…実を言うと、神裂も頷きたい一派だった。
だからといって、素直に頷けるはずもない。あくまで神裂はリーダーなのだから。
…え、と、…と、神裂が返答に困っていると、
「まぁ、私たちの中で言えば…教皇クラスの力を持った人たちですよ」
海原が助け舟を出してくれた。
「…へぇ。教皇クラス、ですか…あまり相手にしたくはないですねぇw」
「でも、女教皇(プリエステス)がいるから、大丈夫でしょ」
天草式、初老の諫早と、数少ない女性の対馬がそういった。
…そんなものですか?と神裂は首を傾げるが、海原は特に気にも留めてないようなので、神裂も無理に納得した。
まぁ、といっても、
(…別に、無理に緊張させる必要もないですしね。場を和ませて、リラックスさせて敵に臨めればいいんじゃないでしょうか?チームワークもあがりますし)
完璧に嘘っぱちなのだが。
しかし、確かに海原の言うことにも一理ある…ような気がしないでもない。
実際のところ、超能力者(レベル5)は聖人かそれよりも上、絶対能力者(レベル6)は…もしかしたら各最高権威者――――イギリス凄教で言えばローラ=スチュアート――――並の力を持っているかもしれない。少なくとも、神の右席程度の力は所持していることだろう。






(…妙にいい雰囲気だが…こいつら、本当に戦う気はあるのか?)
いや、無くても殺すものは殺すけどな…と、触覚壊し(センサーブレイク)は考える。
(まず一番厄介そうなのは、馬鹿でかい日本刀をぶら下げてやがる巨乳女だな…次はヘラヘラ笑ってる男か?)
そう考えながらも、触覚壊し(センサーブレイク)はベルトに挿しておいた拳銃を取り出す。
そして、ゆっくりとその銃口を神裂火織へと狙いを定め―――――

4

さて…、と土御門元春は考える。
グループについてのいろいろは、もうメンバーに語った。そして、やはりというか、あっさりというか…とりあえず、引き受けてくれたので、そちらは問題ない。
問題は、インデックスたちだった。
(こういう敵の動きを予測していなかった…俺のミスだな)
そう思い、チッ、と舌打ちする。しかし、反省ばかりしているわけにもいかない。
迅速に、かつ安全にインデックスたちを、あの建物に送り届けなければならない。
と、そこまで考えて、
自分のメンバーの中に、逸材がいるのを忘れていたことに気づいた。
その『逸材』に、土御門は話しかける。
「悪い結漂、こいつらを空間移動(テレポート)させてくれないか?」
結漂淡希は、興味無さそうに土御門の言葉を無視した。それに苦笑する。そうなるのは見えていた。
結漂淡希。
大能力者(レベル4)の空間移動者(テレポーター)。その能力名は『座標移動(ムーブポイント)』。彼女の座標移動(ムーブポイント)の場合、空間移動(テレポート)させるものを触れていなくとも、座標を指定すれば空間移動(テレポート)させることが可能なのだ。まぁ、今は普通の空間移動者(テレポーター)でも問題ないのだが。
そして、土御門元春、一方通行(アクセラレータ)、海原光貴が所属する、学園都市の暗部組織、『グループ』に彼女も所属している一員である。
さらに彼女は、『窓もないビル』の『案内人』を勤めているのだが、それらは別の話。
今は、彼女をどうやって説得させるか、だ。
「一応聞いておくが…なぜ拒む」
「こいつらがどうなろうが、私には関係ない」
どうせそんな答えだろうと思った、と土御門はまた苦笑する。行動パターンがわかりやすい人間なのだ。
しかし、やはりそういう理由ならば、協力を仰ぐのは簡単だ。
「5万」
「座標をさっさと言いなさい」
…話はまとまったようだった。




インデックスには、あっちについてからの行動は話してある。完全記憶能力を所持している彼女から、他の者にも今回の動きを話してもらえば、ほぼ問題ない。
…はずだったのだが、白井黒子が見つからない。どうやらまだ御坂美琴のことを探しているらしい。
あいつのことだ、美琴が見つかるまでそのほかのことなんて目にも入らないだろう…土御門はそう結論付ける。そして、それは限りなく正解に近いだろう。
「…白井の役は、こいつには不適応だしな…」
結漂のほうは特に見ずに言ったのだが、結漂は土御門のことを思いっきり睨んでいた。
結漂は、過去のトラウマにより、自分の体を移動させることだけは得意としない。できないわけではないが、発動までの時間と発動後のリスクがでかすぎる。よって、何度も空間移動(テレポート)しなければならない白井の役は結漂にはできない。
「…ま、それだったら…俺がムチャクチャがんばるしかないっか」
彼にしては珍しく、他力本願ではなく自分の力で物事を解決しよう、としているようである。
「それじゃ、結漂。頼む」
何も言わず、目を閉じる結漂。
一応インデックスたちには説明した。そして、魔術サイドのインデックス以外は理解しているのだが…インデックスは信用していない。まあ、彼女の抱える物が物だから仕方ないといえるが。
「…まぁ、とりあえずだインデックス。無事に向こうについたら、他の奴らにも説明してくれ」
インデックスは頷かなかったが、おそらく大丈夫だろう。
そして、結漂が座標移動(ムーブポイント)の力を使い、彼女たちを空間移動(テレポート)させた。




「…あの女の能力は空間移動(テレポート)…座標移動(ムーブポイント)、ですか」
厄介ですね、と精神操作(メンタルコントロール)は呟いた。
さっきから一言も発していない男…葛城妖夜の能力は、肉体変化(メタモルフォーゼ)だと分かっている。
後は、妙な服を着ているくせにあまり印象に残らない、クワガタのような髪をした男と…リーダーのようなチャラけたグラサンの男の能力が分かれば、かなりこちらに有利に進められるのだが…相手も馬鹿ではないだろう。そこまで待ってくれるとも思えない。
…すばやく、かつ確実に…と、口ずさみ、彼女はズボンのポケットから拳銃を取り出す。やはり、他の超能力者(レベル5)が取り出したものと同様のタイプだ。
(超能力者(レベル5)が一番厄介ですか…いや、座標移動(ムーブポイント)もなかなかに…)
一発目の対象を悩んでいた精神操作(メンタルコントロール)だが、そこで銃身を、
土御門に向けた。
(能力不明、さらにリーダー的存在、そしてそれに見合う行動力はある…まずは、戦術的に『柱』から壊していきますか)
そして、

5

やはり同じく、視覚潜り(ノイズキラー)も、ほかの反乱因子の超能力者(レベル5)同様、ためらうことなく銃を取り出し、その銃口に上条に向け、
一瞬もためらわず、発砲した。
もちろん、それだけで上条の生命維持能力は格段に下がるはずだった。少なくとも、ほうっておけば死ぬ程度には。
そう、
下がる『はず』だった。

ガギィィン!!
と、甲高い音が鳴る。

「ア?」
と、視覚潜り(ノイズキラー)が、上条を凝視する。人間の柔らかい肉に鉛弾が当たって、あんな音を出すはずがない。
何か起こった。
視覚潜り(ノイズキラー)を含む反乱因子たちには、上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)の話を聞いている。よって、これハ彼ノ右手ガ起こした結果でハない…そう、視覚潜り(ノイズキラー)は考える。
まさか、防弾チョッキのグレードアップしたモンのような服でも着てるのか、とでも思ったが、
上条のほうも、原因不明の音に戸惑っている様子だった。
「…んだぁ、こりゃあ」
とりあえず、もう2,3発打ち込んでみるカ…そう結論づけた視覚潜り(ノイズキラー)は、そのまま立て続けに発砲した。
しかし、やはり甲高い音が鳴り響くだけで、上条には傷一つ付かない。
そして、こちらもやはりというべきか…上条も戸惑っている。ほかのメンバーもみな一様に戸惑っている…
…のだが。
一人、いかつい男だけが、違う『戸惑い方』を見せていた。
キョロキョロと辺りを見回して、上条たちを守るかのように、一歩前に出る。
(…アイツ、超能力者(レベル5)だったっけカア…?)
彼――――削板軍覇――――を睨みつけながら、視覚潜り(ノイズキラー)はそう思い出した。




「…なんですか、この音…?」
アンジェレネが、少し不安そうにルチアの修道服の袖をつかみながら、上目遣いで上条に尋ねてきた。
もちろん…と言ってしまえば頼りないのだが…実際のところ、上条にも事態は理解できていなかった。
なので、なんかさっきから挙動不審な動きをしている軍覇に聞いてみることにした。
「…えと、削板軍覇…ああ、なんかだめだ仰々しい…ってことで軍覇。お前、この事態が理解できているのか?」
一応上条は高校一年生、軍覇は高校三年生なのだが…やはり肉体変化(メタモルフォーゼ)の葛城同様、彼にとってそんなものはちっぽけなことにしか思っていないだろう。特に突っかかることなく上条の問いに答えた。
「半分半分だな」
そっけない答え。もちろん、それを聞いて終わり、なんてことにはできない。
「じゃぁ、その分かってる『半分』を教えてくんねぇか?」
「もとよりそのつもりだ」
警戒を解かずに、軍覇が言った。そのとき、また甲高い音が響くが、もはや誰も気に留めていなかった。


「まず、俺が布いていた『防御』についてだが」
やはり辺りを見回しながら言う軍覇。
「俺の能力を知ってるか?」
それは、おそらく肯定の言葉を予想して言った言葉だろう。
しかし、上条はあっさりとこう言った。
「さあ?俺、半分寝てたし」
「…」
いや、別に上条は寝てもいなかったのだが…おそらく、『必要のない記憶』として、上条が強制的に眠らされたときに処理されてしまったのだろう。
くっ…、と軍覇は言いながら、自身の能力の説明を始めた。
「…俺の能力名は念動砲弾(アタッククラッシュ)といってな…念動力(テレキネシス)系の能力だ。まぁ、念動砲弾(アタッククラッシュ)はちょっと違ってな…念動力(テレキネシス)の力で、自分の前にあえて不安定な念動の壁を作り出し、それに衝撃を加え、壁を意図的に破壊。その破壊の衝撃で相手を攻撃する…らしいのだが、詳しいことは分からん」
?と上条は首をひねる。上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)でもないのに、『詳しくは分からない』能力なんてあるのだろうか?
まぁ、なんだか聞くだけ無粋っぽかったので追求はしなかった。軍覇は続ける。
「だが、念動力(テレキネシス)の力で壁を作り出せるのは事実だ。そして、『あえて』不安定な壁を作り出せるならば、『普通に』強固な壁を作ることも可能なんだよ。俺は、その『壁』で、グループを囲んでいただけだ。攻撃されないようにな」
「…あっさり言ってるけど…実際できるのか?走りながら移動してた俺たちを囲む、なんて」
「できるさ。その『動き』にあわせて、壁も移動させればいいだけの話だ」
…やはりこのお方も超能力者(レベル5)なんですね、と上条は無理矢理に納得した。
対し、魔術サイド勢…アニェーゼたちは、元から話を聞いていなかった。理解できると思ってもいなかったのだろう…賢明な判断、とでも言うべきか?
「…で、今はその『壁』が攻撃を受けたのだが」
「…あ、そういうことなんだ」
そこまで説明されて、やっと上条は自体が理解できた。こんな調子で、彼はリーダーをまっとうできるのだろうか…
「…じゃあさ、そこから逆探みたいに、相手が攻撃してきたところを特定できないのか?」
「できる。だから今それをやっている最中だ」
「あ、悪ぃ。邪魔してたか?」
上条は謝罪の意思を表明したが、軍覇は、やはり特に気にしていなかったようだ。その言葉を無視し、逆探知のようなことに没頭している…ように見える。
と、そこにアニェーゼが首を突っ込んできた。
「…話のほとんどは理解できませんでしたが…ようは、馬鹿野郎どもが襲ってきやがった、ってことでいいんですか?」
「ん?ああ、まぁ…多分そうだろうな」
「…そうだとしたら、なぜあなたはそんなに無防備なんですか」
ルチアが、冷ややかな視線を投げかけてきながら言った。
「…言われてみれば、そうだな」
「その台詞そのものが緊張していないことを表しているぞ」
と、突然軍覇も混じってきた。逆探のようなものは終わったらしい。
結果を聞こうと上条が口を開く前に、軍覇に先に言われた。
「それで、逆探の結果なんだが…分からなかった。俺の能力不足だ、すまない」
いやいや、お前のおかげでなんか俺ら無事なんだからさ、と上条は頭を下げる軍覇に対し、慌てて手を振る。
(ってか…こいつのほうがリーダー適任じゃね?)
そんなことを思ってしまう上条だったが、今更どうにかなる問題でもなさそうだったので口には出さなかった。



「そおいうことカよ」
視覚潜り(ノイズキラー)は、そう呟く。上条たちの会話を聞いていたのだ。
「っしかしまぁ、随分ト無防備ナもんダ。狙われてるっテ感覚、ねえのカ?」
もはや使い物にならなくなった拳銃を、横合いへと投げ捨てる。
金属と土が擦れ合う音がした。
しかし、上条たちは、そちらのほうを見向きもしない。
まぁ、当たり前だろう。そうでなければ、彼の能力が不発していることを表すことになる。
(銃声ニ気づかなかっタ時点デ、もう術中なのハ分かっていたガ…やはり、視覚潜り(ノイズキラー)ハ有効カ)
一人そう考える視覚潜り(ノイズキラー)。
そして、上条たちの下へと歩み寄る。
そして、それにさえも上条たちは気づかない。

もはや、両者の間隔は10メートルもない、というのに。

(精神操作(メンタルコントロール)、視覚潰し(ライトメーター)、触覚壊し(センサーブレイク)モちゃんト機能しテいるカ…そうデなけれバ困るけどヨ)
そう思い、…そろそろ面倒ニなっテきタシ、殺すカ…そう考える。
もともと、彼の能力のほうが、銃より高性能なのだ。銃を使ったのは、あくまで能力を『隠し玉』にしておくためだけだ。そして、今がその『隠し玉』を使わなければいけない時、というだけの話だ。
「まずハあの超能力者(レベル5)ヲ殺る…」
能力使用のため、声を出す。
そして、大きく息を吸い、

「よおバカ野郎、死ねヨ」

そう、誰にも聞こえない程度の声量で言った。
そして、次の瞬間、




ドッッッッッザッァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!
轟音が、すべての者の耳を穿つ。
上条は、反射的に両耳を潰さんばかりの勢いで、手で耳を塞ぐ。
おそらく、軍覇が壁を張ってくれていなければ、最初の一瞬だけで上条たちの鼓膜はズタズタになっていたことだろう。何せ、耳を塞いだ今でも大量の轟音が流れ込んできている。もはや『音』だけのせいで、上条は脳が潰れるか、と思った。
どうにかして状況を把握しようと、無理矢理首を動かして回りを確認する上条。
そして、ほかの面々も必死に耳を押さえていることがわかり、とりあえずほっとする。気絶したりはしていないようだ。
そして、今度は前を向く。
音の元凶を確認するために。
だんだん音が小さくなってきた。
上条は緊張を緩めながら、前を向き、
思わず、自分の目を疑った。
(…な…なんで、あいつが…?ま、まさかこのタイミングで――――ッ!?)
音はほとんど止んだ。
上条たちは耳を塞いでいた手を放し、現状を理解しようと上条の視線を追う。
すると、軍覇は不思議そうに首をひねり、
アニェーゼたちは、
「――――ンなッ…」
といったのみで、あとはカチコチに固まってしまった。
やはり彼女たちも、『彼』を知っているのだろう。『彼』は魔術世界では、インデックスほどではないが有名人らしいのだ。
上条は、その有名人の名を口にする。
驚きと、恐怖と、戸惑い…全てを含めて。

「…なんで、お前がここにいるんだ…?
後方のアックア…ッ!!?」




「んだぁっ!!?」
聴覚潜り(ノイズキラー)が、突然の事態に叫ぶ。当然ながらその声は誰にも届かない。自分でそう調整しているから、なのだが。
自分の能力を使用して相手を内側から殺そうとした次の瞬間、何かよく分からない音が思いっきり轟いて、彼の声は上条たちにはほとんど聞き取れなくなってしまった。あくまで「ほとんど」であり、まったく届いていないこともないのだが、そんな状態で彼らを殺すことなど出来るはずはない。せいぜい少し気分を悪くさせる程度だ。
彼は自分の声に脳を汚染されないように、耳に小細工をしているためその大音響の影響はほとんどない。
よって、彼はすぐに振り返り、

「・・・・・・・・・」
絶句してしまった。
彼の目に映ったのは、一人の男。
おそらく30代そこらの、異様にがっしりした男。その服はなぜか青色のような長袖のTシャツ。いや、別にそれが不思議なわけではない。不思議なのは、それを見るとなぜかゴルフウェアを連想してしまう点だ。髪の色は茶で、白人。
その男からは、異様なほどに『何か』を周囲に放っていた。
それだけ見れば、ほとんどの人間は立ちすくみ、その場を動けなくなってしまうことだろう。
しかし、聴覚潜り(ノイズキラー)は違った。
それは別に、聴覚潜り(ノイズキラー)が肝っ玉だ、というわけではない。
聴覚潜り(ノイズキラー)の目に映った、男以外の存在。
それは、
まるで絵本に出てくるお姫様を現実世界に無理矢理引っ張ってきました、と言っているような女性だった。
その女性からは、少ししっかりとした芯を感じるが、しかしだからといってこんな物騒な男に抱きかかえられている道理はどこにも存在しない。
そして、なぜかその女性のほうは、顔を赤らめてはいるがどこか嬉しそうであり、男性のほうは苦いものでも呑んだような顔をしていた。
まあ、簡単に言えば、
(・・・なんなんダヨ、あいつラ・・・)
俺(超能力者)ガ言ウのもなんだガ、どこヲどう見タっテ普通じゃネエ…そう聴覚潜り(ノイズキラー)は思う。
「…とりあえず、殺すカ…?」
思わず語尾が疑問形になってしまう聴覚潜り(ノイズキラー)。果たしテこいつラガなんなのカハまったくもっテ理解できテいなイガ、殺スニ越しタことハないだろう…なんて物騒な考えを展開していた。
そして、
「…今度こそ死んデもらうゾぉ…っテことデ死ネ」
半分投げやりに、聴覚潜り(ノイズキラー)は言った。
普通なら、その言葉を聞いただけで、その者は身体の生命機能を停止するはずなのだが…
しかし、男はおろか、女さえも微動だにしない。
(…ああくそうぜエ!!!銃ノ弾残しテおいタ方ガよかっタカヨぉっ!!!!)
今更ながらそんなことを後悔する聴覚潜り(ノイズキラー)。しかし、悔やんでいても相手は死んでくれない。
「…ああくそ意味わかんねエ。意味わかんねエガとりあえず殺ス。手間かけさせやがんじゃネエゾ」
とりあえずそういって、聴覚潜り(ノイズキラー)は本気を出すことをよく分からないが天に誓った。




「…やはりそう言うと思ったが…実際聞いてみると違うものであるな」
後方のアックア――――ウィリアム=オルウェルは疲れたようにそう呟いた。
「ま、まぁ…元気そうで何よりじゃないですか」
英国第三王女――――人徳のヴィリアンが、少し苦笑いしながらアックアに言った。
「しかし、緊急で王室派の第三王女ともあろうあなたを学園都市などに連れさせてこさせるとは何事かと思いましたが、特に切羽詰ったような雰囲気は感じられませんね」
「私は感じたくもありませんが、それよりもアックア、なんですかその他人行儀な口調は?あなたは…プロポーズした相手にそんなた――――――」
「いきなりそのことを持ち出さないでくださいッ!!アレは決して私の意志ではなく騎士団長(ナイトリーダー)が私への嫌がらせとして―――――ッ」
アックあはそのまま言葉を続けようとしたのだが、腕の中にすっぽり納まっているヴィリアンの悲しそうな顔を見ると、つい言葉を続けられなくなってしまった。
そして、なんか妙に良い沈黙に包まれていく二人―――――


――――――という展開に、思わず上条は怒鳴り声を上げて走り出していた。
「何やってんだアックアァっ!?テメェどう考えたって超硬派の無愛想野郎じゃねぇかそれがなんだよプロポーズってしかも人伝とか意味わかんねぇしんでもってその相手が一国のお姫様ってなんなんだよお前何やっちゃってくれちゃってんだよおいふざけんな無視してなんか良い雰囲気保とうとしてんじゃねぇッ!!!???」
…上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)も、愛する二人の幻想は壊せないらしい…
そして、何故彼が関わると、こんなドシリアスな事件もコメディ風になってしまうのだろうか…
と、アックアたちに向けて全力疾走する上条の行く手を、
突然、炎が遮った。
上条は一瞬それに驚き、そしてすぐさま右手を炎の中に突っ込んだ。意外に炎は手近にあったりする。
すると、その炎は、火の消火音とはかけ離れた音をたてて鎮火…というよりは、消滅した。
その光景を見て、上条は立ち止まる。
そして、
「…一体何なんですかもうステイルぅッ!!!」
叫んだ。
「おや、今の僕は蜃気楼を使って姿を隠してるんだけどね、どうやって見破った?」
心底驚いたような声を上げるステイル。
それに上条は、
「見破るも何も俺に問答無用で炎をたたきつける馬鹿なんて一人しか存在しないんだよこの広い世界でなッ!」
またもや叫ぶ。
「…ふむ、それも一理ある、の、か…?」
ステイルがそんなことを言いながら、本人曰くの蜃気楼を解く。すると、驚いたことにアックアの前方に立っていた。いや、別に驚くようなことでもないとは思うのだが。
「…」
ああヤだなこんなやつらに近づいて事情とか聞きたくねぇな聞いたら絶対後戻りできねぇよなだけどほかのメンバーはこいつらと面識ないし事情聞かなかったら聞かなかったで俺たちがやばくなりそうだしぐぁぁぁぁぁぁぁまずもって何で俺はこんなやつらと出会っちまったんだっていうとはいお決まりの不幸だからってかッ!!!
…などというやたらに長くてやたらにマイナス思考な考えを5秒くらいで展開した上条は、結局、ステイルたちに事情を聞くことにした。もちろんのことだが本意ではない。
…という事になったのだが、
「…何を考えているんだ君は。今はあくまでも戦闘中だろう?そんなときに仲良く話し合いか。いくら戦闘の素人だからといって、これはまずいってことくらいわからないのかな上条当麻」
「…忘れてた」
超問題発言を勃発し、すぐさま喧嘩スタイルに移行する上条。
「…緊張感うんぬんの話ではないな…」
「…まぁ、それも彼らしいというかなんというか…詳しくは知りませんけど」
さすがにいちゃいちゃモードは解体し、ある程度戦闘態勢に入りながらいうアックアとヴィリアン。
…と、そこで、
「…上条、とか言ったな…あいつらはなんだ、知り合いなのか?」
いつの間にか上条の後ろまで歩み寄ってきていた軍覇が、上条にそう問いかける。
「知り合いっちゃぁ知り合いだなぁ…知り合いたくて知り合ったわけじゃないけど」
うふふふふ上条さんの不幸はこんなとこで収まりはしないんですけどねうふふふふ、と危険な笑いを漏らしながら虚ろな目をし始める上条に対し、軍覇は気配りもなくこう言った。
「何者だ?」
「少しは心配してくれよ。突っ込んでくれよ…ッつっても無駄だろうなぁ…はいはい…で、あいつらは…簡単に言うと、『魔術師』」
「…アニェーゼとかいうちびっ子と同じなのか…?こんな物騒な男が」
後ろで控えているアニェーゼをチラ見しながら、理解できない、という顔で尋ねる軍覇。
「まぁ、同じなのは同じだけど…俺ら能力者みたいに、力の強弱はあるぞ?」
…そうか、とまったく理解していなさそうな表情で言う軍覇。
「…まぁ、あれだ、一応見方だし、無意味に強いからあんまり気負うなよ」
軍覇に向かってそういう上条だが、確実に俺のほうが気負ってるよなぁ…と考える上条だった。


そんな中、
(…ああ、だめダ。こいつラハただ殺スだけジャア足りネエ。身体ノ内側から内臓ぶちまけテそれヲ身体中ニ巻きつけテかラ脳ヲ内側から破裂させテやらなくちゃあ収まんネエ)
一方通行(アクセラレータ)も驚きの黒すぎる思考を展開する聴覚潜り(ノイズキラー)。
そして、それを実際に実行するための手はずを整えようと―――――
瞬間、

「させると思うか」

どこからともなく取り出した巨大な棍棒(メイス)を、アックアは軽々と振り上げ、それを振り下ろした。

聴覚潜り(ノイズキラー)へと。

「アァッ!!??」
驚き、とっさに横に飛び退る聴覚潜り(ノイズキラー)。
そして、またもや轟音が聴覚潜り(ノイズキラー)を除く全員に襲い掛かった。
聴覚潜り(ノイズキラー)は、音による障害こそないものの、棍棒(メイス)が破壊したアスファルトによってダメージが与えられた。
「あおヵっ…!!?」
口から鮮血が飛び散る。
「…はずした、か?」
アックアは冷静にそう言い、棍棒(メイス)を肩に担ぐ。
そして、轟音が収まったことにより束縛から逃れた上条の猛攻を喰らう。
「何が、はずした、だぁっ!!?なんだよ、いきなり地面に攻撃とか頭狂ってんのかお前!説明を求む!!」
そう上条は一気に言い放つが、対しアックアは、
「そういうわけにもいかんな。敵がいる中だ、迂闊に言葉に出来るか。魔術を行使できるものには事情を説明中だが」
そして、またもやアックアは棍棒(メイス)を構える。
さらにあろうことか、ステイルまでもが魔術を使用しかけている。おそらく事情を聞いた上での対処なのだろう。
「あーもう、意味わかんね…え?」
頭を掻き毟って脳を落ち着かせようとした上条だが、あるものが目に映った。

紅い、血。
(…誰の、だ…これ)
そういう冷静な思考が出来るのは、そういう状況に何度も陥ったことがある上条だからだろう。
とりあえず、これが誰のか、ということを考える。
周りには、負傷した者はいない。少なくとも血を出している者は見当たらない。
ならば、

これは、敵の者か。
思わず身構えた上条に、ステイルが叫んだ。
「馬鹿が!後ろだ、上条当麻ッ!!」
はぁ?と上条が後ろを振り返ると、誰も見当たらない。
が、上条は、本能的に身の危険を感じ、頭を手で庇う。
そして、
ゴガッ!と、
上条の腕に、何か重い鈍器のようなものが、かなりの勢いで叩きつけられた。
「…ぅぁ…ッ!?」
思わず身を引く上条。腕からは出血はないが、おそらく骨にヒビは入っていることだろう。
しかし、それは不幸中の幸いか、左腕だった。
上条の切り札、幻想殺し(イマジンブレイカー)が宿る右腕は、ほとんど支障は無い。
「…いってえな…っつってる場合でもないかッ!!」
上条は、狙いを定めて右拳を放つ。
その右手には、ちゃんと何かがあたった感覚は来なかったが、かすった程度の感覚はあった。
しかし、その程度で十分だ。
その拳に少しでも触れれば、すべての異能の力は消え去るのだから。


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