♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀
隣街にある病院の入り口に、警備員の車両6台とワゴン車一台が次々と停車していく。
何事かと病院から出てきた事務員や看護士に、長髪の女性警備員が事情を説明する。
そしてその間に眼鏡をかけた警備員とワゴン車の運転手の少年がワゴン車の後部座席の扉を開き、中から少女を載せた粗末な担架を担ぎ上げる。
そこでようやく事情を理解したらしい病院関係者達が、病院の白い担架を手に駆け寄ってくる。
隣街にある病院の入り口に、警備員の車両6台とワゴン車一台が次々と停車していく。
何事かと病院から出てきた事務員や看護士に、長髪の女性警備員が事情を説明する。
そしてその間に眼鏡をかけた警備員とワゴン車の運転手の少年がワゴン車の後部座席の扉を開き、中から少女を載せた粗末な担架を担ぎ上げる。
そこでようやく事情を理解したらしい病院関係者達が、病院の白い担架を手に駆け寄ってくる。
「あー、そういうことか」
その様子を、病院の側からは死角になっている隣のビルの屋上から眺めていた垣根帝督は、ふとそんな言葉を零す。
「ってことはあの怪我人は九割九分白だな。俺はとんだ勘違い野郎だったってことか」
学園都市第二位の頭脳は、目の前で展開されている光景だけで事態の殆どを理解した。
そして、この件が垣根にとってメリットにもデメリットでもないとわかった以上、もうこの場に留まり続ける意味はない。
垣根は、長髪の女性警備員に何やら追い回されているワゴン車の運転手を見ながら、『未元物質』の翼を展開する。
「今回は俺の完敗だ。いいぜ、そういうことにしといてやる。だが――」
垣根は翼をはためかせ、宙に身を躍らせながら誰にともなく小さく呟いた。
「小賢しい真似してくれやがったどっかの誰かさんよぉ。もしも見つけ出した時には――腕の一本くらいは覚悟しておけよ?」
その様子を、病院の側からは死角になっている隣のビルの屋上から眺めていた垣根帝督は、ふとそんな言葉を零す。
「ってことはあの怪我人は九割九分白だな。俺はとんだ勘違い野郎だったってことか」
学園都市第二位の頭脳は、目の前で展開されている光景だけで事態の殆どを理解した。
そして、この件が垣根にとってメリットにもデメリットでもないとわかった以上、もうこの場に留まり続ける意味はない。
垣根は、長髪の女性警備員に何やら追い回されているワゴン車の運転手を見ながら、『未元物質』の翼を展開する。
「今回は俺の完敗だ。いいぜ、そういうことにしといてやる。だが――」
垣根は翼をはためかせ、宙に身を躍らせながら誰にともなく小さく呟いた。
「小賢しい真似してくれやがったどっかの誰かさんよぉ。もしも見つけ出した時には――腕の一本くらいは覚悟しておけよ?」
♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀
「何とか、なったみたいですね……」
ディスプレイに表示された情報を読み取って、初春飾利は安堵の溜め息をついた。
「しかし、垣根帝督さんですか……」
『underline』の情報を元に、書庫から引っ張ってきた垣根帝督という男の顔写真付きプロフィールを眺める。
「見た目は爽やか好青年なのに、物凄い危険人物なんですね。街中で良い人っぽい感じで声をかけられても、絶対に言うこと聞いちゃいけませんよ、私」
自戒し、隣街の病院へ行こうと学園都市の深部から引き上げようとした時。
「……何でしょう?これ」
自動で走らせていた――『spark signal』が開発したものを勝手に拝借して使用していた――『underline』解析用プログラムが、新たな情報をディスプレイに映し出そうとしていた。
「何とか、なったみたいですね……」
ディスプレイに表示された情報を読み取って、初春飾利は安堵の溜め息をついた。
「しかし、垣根帝督さんですか……」
『underline』の情報を元に、書庫から引っ張ってきた垣根帝督という男の顔写真付きプロフィールを眺める。
「見た目は爽やか好青年なのに、物凄い危険人物なんですね。街中で良い人っぽい感じで声をかけられても、絶対に言うこと聞いちゃいけませんよ、私」
自戒し、隣街の病院へ行こうと学園都市の深部から引き上げようとした時。
「……何でしょう?これ」
自動で走らせていた――『spark signal』が開発したものを勝手に拝借して使用していた――『underline』解析用プログラムが、新たな情報をディスプレイに映し出そうとしていた。
d_
それは『underline』の最深部に存在する情報らしく、他の情報と異なり少しずつ少しずつ解析されていく。
dr_
初春は何の気なしにそれを眺め――
dra_
「ッ…………と!こんなことしている場合じゃありませんでした!早く佐天さんの無事を確かめないと!」
――分からない。
何だか分からないが、とてつもない悪寒が唐突に全身を駆け巡った。
『underline』に進入した時でさえ感じなかった強烈な悪寒。
或いは、これ以上は何があっても踏み込んではならないという危機感。
初春は即座に解析途中のプログラムを放っておいたまま『spark signal』、および『block』のコンピュータとの接続を切った。
(な、何だったんでしょか……あれは)
額に浮かぶ嫌な汗を手の甲で拭う。
(……いえ、考えるのは止しましょう。それより佐天さんの安否です)
心の中で呟きながら、初春は入念な『掃除』と『カムフラージュ』を行うと、パソコンの電源を落としてネカフェを後にした。
――分からない。
何だか分からないが、とてつもない悪寒が唐突に全身を駆け巡った。
『underline』に進入した時でさえ感じなかった強烈な悪寒。
或いは、これ以上は何があっても踏み込んではならないという危機感。
初春は即座に解析途中のプログラムを放っておいたまま『spark signal』、および『block』のコンピュータとの接続を切った。
(な、何だったんでしょか……あれは)
額に浮かぶ嫌な汗を手の甲で拭う。
(……いえ、考えるのは止しましょう。それより佐天さんの安否です)
心の中で呟きながら、初春は入念な『掃除』と『カムフラージュ』を行うと、パソコンの電源を落としてネカフェを後にした。
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「っと……」
「どうもっ、です」
ショチトルの手を借りて、絹旗は瓦礫の山から抜け出した。
「しかし、これでも傷一つないとはな」
「まぁ、そういう能力なので。たださっきやりすぎちゃったせいで超しばらく動けそうにない上に、能力が不安定だったせいで服まで守れず、瓦礫に引っ掛けたりして超ボロボロですが」
その言葉通り、絹旗の衣服はパンツが見えていることなど些細な問題であると言えるほどあちこちが破け、最早服の体裁を保っていなかった。
「それで、さっきのメールは信頼出来るのか?」
「どうなんでしょうか?浜面にも同じメールを送っているみたいですけど……」
と、その時絹旗の携帯にメールが着信する。
送り主は件の浜面仕上だ。
「……開けるぞ?」
「ええ、どうぞ」
絹旗の携帯を持ったままだったショチトルが、持ち主の絹旗に断ってからメールを開く。
「……どうやら、本当だったみたいだな」
言いながら、ショチトルが絹旗にメール画面を見せる。
そこには浜面達が警備員の護衛をうけて無事に病院にたどり着いた旨が記してあり、写真が一枚添付されていた。
随分ピントがズレたその写真の画面一杯には、髪の長い警備員の制服を着た女性が写っている。
カメラに向かって突進しようとしているその構図から見るに、おそらく撮影者である浜面を捕まえようとしているのだろう。
警備員の尋問から逃げながら撮られた写真、ということだ。
そして、写真の隅っこには――数名の大人たちによって例の簡素な手作り担架から病院の白い担架に移されている途中の佐天涙子の姿があった。
「良かった……」
携帯を受け取りながら、思わずそう零す絹旗。
「メールを見るに、浜面も上手く逃げられたみたいですね。ワゴン車は警備員が引き取って元の持ち主に返してくれるでしょうし、取り敢えず浜面にここまで超迎えに来させましょうか」
まだ満足に歩けそうもありませんし、と言いながら、絹旗は不器用に携帯を打鍵する。
「……私たちの勝ち、か。どこの誰かは知らんが、随分と気のきいたことをする」
警備員を派遣した人物のことを言っているのだろう、ショチトルが呟く。
「そうですね、超感謝です。直接会って頭を超下げたいくらいですが……どこの誰か、というのは探すだけ野暮ってことなんでしょうね」
「折角私たちという『暗部』が直接同行せずにあいつを病院に届けられた訳だから、見舞いに行ってわざわざ関連性を疑われるようなこともしたくないしな。つまり、もう私たちが協力してなすべきことは何もない」
「おや、すると協力関係は破綻ですか?」
軽い調子で聞く絹旗。
「当然だ。あいつのこと以外で、お前と協力する理由はない。なんなら、今からさっきの続きをやったっていいんだぞ?」
挑戦的に返すショチトルに、ようやく上半身を起こした絹旗が、
「超勘弁してください。ま、全快だったら今度は私が超勝ちますが」
やはり軽口を言う。
「言ってろ。ふん、次に戦場で会ったら容赦はしないからな」
言い、その場を立ち去ろうとするショチトルだったが、
「……まぁ、出来れば戦場では会わないようにしたいものだな」
小さく呟き、その声を聞き取った絹旗が微かに微笑み、ありがとうございました、と口にする。
ショチトルは絹旗の言葉を背に受け、もう一度、ふん、と鼻を鳴らし――
「っと……」
「どうもっ、です」
ショチトルの手を借りて、絹旗は瓦礫の山から抜け出した。
「しかし、これでも傷一つないとはな」
「まぁ、そういう能力なので。たださっきやりすぎちゃったせいで超しばらく動けそうにない上に、能力が不安定だったせいで服まで守れず、瓦礫に引っ掛けたりして超ボロボロですが」
その言葉通り、絹旗の衣服はパンツが見えていることなど些細な問題であると言えるほどあちこちが破け、最早服の体裁を保っていなかった。
「それで、さっきのメールは信頼出来るのか?」
「どうなんでしょうか?浜面にも同じメールを送っているみたいですけど……」
と、その時絹旗の携帯にメールが着信する。
送り主は件の浜面仕上だ。
「……開けるぞ?」
「ええ、どうぞ」
絹旗の携帯を持ったままだったショチトルが、持ち主の絹旗に断ってからメールを開く。
「……どうやら、本当だったみたいだな」
言いながら、ショチトルが絹旗にメール画面を見せる。
そこには浜面達が警備員の護衛をうけて無事に病院にたどり着いた旨が記してあり、写真が一枚添付されていた。
随分ピントがズレたその写真の画面一杯には、髪の長い警備員の制服を着た女性が写っている。
カメラに向かって突進しようとしているその構図から見るに、おそらく撮影者である浜面を捕まえようとしているのだろう。
警備員の尋問から逃げながら撮られた写真、ということだ。
そして、写真の隅っこには――数名の大人たちによって例の簡素な手作り担架から病院の白い担架に移されている途中の佐天涙子の姿があった。
「良かった……」
携帯を受け取りながら、思わずそう零す絹旗。
「メールを見るに、浜面も上手く逃げられたみたいですね。ワゴン車は警備員が引き取って元の持ち主に返してくれるでしょうし、取り敢えず浜面にここまで超迎えに来させましょうか」
まだ満足に歩けそうもありませんし、と言いながら、絹旗は不器用に携帯を打鍵する。
「……私たちの勝ち、か。どこの誰かは知らんが、随分と気のきいたことをする」
警備員を派遣した人物のことを言っているのだろう、ショチトルが呟く。
「そうですね、超感謝です。直接会って頭を超下げたいくらいですが……どこの誰か、というのは探すだけ野暮ってことなんでしょうね」
「折角私たちという『暗部』が直接同行せずにあいつを病院に届けられた訳だから、見舞いに行ってわざわざ関連性を疑われるようなこともしたくないしな。つまり、もう私たちが協力してなすべきことは何もない」
「おや、すると協力関係は破綻ですか?」
軽い調子で聞く絹旗。
「当然だ。あいつのこと以外で、お前と協力する理由はない。なんなら、今からさっきの続きをやったっていいんだぞ?」
挑戦的に返すショチトルに、ようやく上半身を起こした絹旗が、
「超勘弁してください。ま、全快だったら今度は私が超勝ちますが」
やはり軽口を言う。
「言ってろ。ふん、次に戦場で会ったら容赦はしないからな」
言い、その場を立ち去ろうとするショチトルだったが、
「……まぁ、出来れば戦場では会わないようにしたいものだな」
小さく呟き、その声を聞き取った絹旗が微かに微笑み、ありがとうございました、と口にする。
ショチトルは絹旗の言葉を背に受け、もう一度、ふん、と鼻を鳴らし――
「あ、そうでした。一つ頼まれてくれませんかね」
カッコイイ感じの別れのシュチュを絹旗の呑気な声でぶち壊しにされた。
カッコイイ感じの別れのシュチュを絹旗の呑気な声でぶち壊しにされた。
「いや、お前な……この状況で頼みごとだと?」
「ほらほら、私今超服ボロボロじゃないですか。こんなんじゃとてもじゃないですが通りを歩けません。なので、すぐそこのショッピングモールで服を一式買ってきて欲しいんですよ」
「しかもただのパシリじゃないか!!」
「いやいやお金は払いますんで。出来れば浜面が来るまでにお願いしますよ。はい超ダッシュ」
「舐めるなっ!……………………………………いや、やっぱりいいぞ」
突然前言を撤回するショチトル。
「というか、わざわざ買わなくてもいい。私は『立場上』、いざという時のために最低限の荷物は持ち歩いているんだ。ここに来る際、さっきまでいたビルに隠して置いてきたが、その中に替えの服がある」
「本当ですか?しかしそれではいつ返せるか……」
「いや、返さなくていい。勘違いして襲ってしまった詫びだと思って受け取ってくれ」
「……そうですか、それではありがたくいただきます」
「あぁ、じゃあ……ふ、くく……取ってくるからな」
「え、ちょっと何ですかその妙に黒い笑顔は!ちょ!ショチトルさん!?」
絹旗の呼びかけに応えず、時折笑っているように肩を揺らしながら、ショチトルはその場を後にした。
「ほらほら、私今超服ボロボロじゃないですか。こんなんじゃとてもじゃないですが通りを歩けません。なので、すぐそこのショッピングモールで服を一式買ってきて欲しいんですよ」
「しかもただのパシリじゃないか!!」
「いやいやお金は払いますんで。出来れば浜面が来るまでにお願いしますよ。はい超ダッシュ」
「舐めるなっ!……………………………………いや、やっぱりいいぞ」
突然前言を撤回するショチトル。
「というか、わざわざ買わなくてもいい。私は『立場上』、いざという時のために最低限の荷物は持ち歩いているんだ。ここに来る際、さっきまでいたビルに隠して置いてきたが、その中に替えの服がある」
「本当ですか?しかしそれではいつ返せるか……」
「いや、返さなくていい。勘違いして襲ってしまった詫びだと思って受け取ってくれ」
「……そうですか、それではありがたくいただきます」
「あぁ、じゃあ……ふ、くく……取ってくるからな」
「え、ちょっと何ですかその妙に黒い笑顔は!ちょ!ショチトルさん!?」
絹旗の呼びかけに応えず、時折笑っているように肩を揺らしながら、ショチトルはその場を後にした。
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「ほら、持ってきてやったぞ」
「あ、どうもありがとうございます」
ショチトルが布製の袋に詰めてきた服一式を受け取った絹旗。
「では着替えるので」
「あぁ。く、くくっ」
「何ですか?何を超笑ってるんです?」
「いや、なんでもない」
笑いを押し殺そうとしているショチトルを不気味そうに眺める絹旗は、瓦礫が壁のように積み重なって仕切りになっている所へ行くと、布袋の口を開けて、その中をごそごそと漁る。
そして、
「ほら、持ってきてやったぞ」
「あ、どうもありがとうございます」
ショチトルが布製の袋に詰めてきた服一式を受け取った絹旗。
「では着替えるので」
「あぁ。く、くくっ」
「何ですか?何を超笑ってるんです?」
「いや、なんでもない」
笑いを押し殺そうとしているショチトルを不気味そうに眺める絹旗は、瓦礫が壁のように積み重なって仕切りになっている所へ行くと、布袋の口を開けて、その中をごそごそと漁る。
そして、
「終わったか?」
ショチトルは笑いを噛み殺しながら瓦礫の向こう側に声を掛ける。
「……ん、で……」
ボソリ、と声が瓦礫の向こうから聞こえてきた。
「どうした?出てこないならこっちから行くぞ?」
ショチトルが返事も聞かずに瓦礫の向こうへ回った瞬間。
「超なんッッッッですかコレはァァああああああああああああああああああ!?」
ガシッ!と伸びてきた二本の腕に胸倉を掴まれたショチトルの目の前には仁王立ち状態の絹旗が。
その格好を見て、ショチトルは我慢できなくなり大笑いする。
「くっ、はははっ!本当に着たのか。そのアホ水着を……」
「自分で持ってきておいて超何言ってるんですか!何なんですか!これは!ていうか水着って服って言っていいんですか!?そもそも持ち歩くべき必要最低限のものじゃないですよね!?」
そう叫ぶ絹旗が着ているのは、俗に言うビキニの水着だ。
ただし細い紐全体に、数珠のように色とりどりのビーズが留められていて、ビキニの布地もギラッギラのラメ仕様。
胸を覆うカップ部分は布ではなく、赤青黄色のビーズを繋げた紐のような物が、渦巻きのように際どい部分だけを隠している感じなのだ。
まぁ、要するに学芸都市にてショチトルが佐天をパシらせた際に佐天が買ってきた、例のジュエリービキニである。
「しっかしまぁ……くく、私の時よりヒドいな」
笑いながら感想を漏らすショチトル。
その言葉通り、現在の絹旗の状況は超ギリギリである。
何しろ84、58、81というベストプロポーションを持っているショチトルに合わせたサイズの水着なのだ。
胸が足りないのは当たり前。
ショチトルが着た時には下乳がフルオープンだったのに対して、絹旗の場合は逆に上乳がノーガードで、小さな二つの突起物が辛うじて水着がずれ落ちるのを防いでいると言っても過言ではない状況だ。
更にヒップも全くショチトルには勝てていないようで、ショーツの方も、多少キツく締めているようだがそれでも右斜めに大きくズレており、肌と水着とのなす直線が股関節のギリギリ上を走っている。
なんかもう、どう考えても着替えない方がマシだったってくらいの超エロ度である。
「じゃ、それはお前にやるから」
「超いらないですから!普通の服買ってきて下さいよ!」
「まぁ、出来れば戦場では会わないようにしたいものだな……」
「いやそういうのいいですから服を!服を買ってきて下さい!」
「それじゃあな」
「いやいや何無視してんですか聞いて下さいつーか聞けやァァァァァあああああ!!」
ショチトルは笑いを噛み殺しながら瓦礫の向こう側に声を掛ける。
「……ん、で……」
ボソリ、と声が瓦礫の向こうから聞こえてきた。
「どうした?出てこないならこっちから行くぞ?」
ショチトルが返事も聞かずに瓦礫の向こうへ回った瞬間。
「超なんッッッッですかコレはァァああああああああああああああああああ!?」
ガシッ!と伸びてきた二本の腕に胸倉を掴まれたショチトルの目の前には仁王立ち状態の絹旗が。
その格好を見て、ショチトルは我慢できなくなり大笑いする。
「くっ、はははっ!本当に着たのか。そのアホ水着を……」
「自分で持ってきておいて超何言ってるんですか!何なんですか!これは!ていうか水着って服って言っていいんですか!?そもそも持ち歩くべき必要最低限のものじゃないですよね!?」
そう叫ぶ絹旗が着ているのは、俗に言うビキニの水着だ。
ただし細い紐全体に、数珠のように色とりどりのビーズが留められていて、ビキニの布地もギラッギラのラメ仕様。
胸を覆うカップ部分は布ではなく、赤青黄色のビーズを繋げた紐のような物が、渦巻きのように際どい部分だけを隠している感じなのだ。
まぁ、要するに学芸都市にてショチトルが佐天をパシらせた際に佐天が買ってきた、例のジュエリービキニである。
「しっかしまぁ……くく、私の時よりヒドいな」
笑いながら感想を漏らすショチトル。
その言葉通り、現在の絹旗の状況は超ギリギリである。
何しろ84、58、81というベストプロポーションを持っているショチトルに合わせたサイズの水着なのだ。
胸が足りないのは当たり前。
ショチトルが着た時には下乳がフルオープンだったのに対して、絹旗の場合は逆に上乳がノーガードで、小さな二つの突起物が辛うじて水着がずれ落ちるのを防いでいると言っても過言ではない状況だ。
更にヒップも全くショチトルには勝てていないようで、ショーツの方も、多少キツく締めているようだがそれでも右斜めに大きくズレており、肌と水着とのなす直線が股関節のギリギリ上を走っている。
なんかもう、どう考えても着替えない方がマシだったってくらいの超エロ度である。
「じゃ、それはお前にやるから」
「超いらないですから!普通の服買ってきて下さいよ!」
「まぁ、出来れば戦場では会わないようにしたいものだな……」
「いやそういうのいいですから服を!服を買ってきて下さい!」
「それじゃあな」
「いやいや何無視してんですか聞いて下さいつーか聞けやァァァァァあああああ!!」
「………………………………………………………………………絹旗?」
「――――へ?」
突然後方から呼びかけられた。
その声から一体誰かは見当が付く。
だがだからこそ認めたくなくて、絹旗はゆっくりと後ろを振り返る。
「それは、一体どういう趣味なんだ?」
そこには若干……いや、超引いた顔をして絹旗の水着姿を見つめている浜面仕上の姿があった。
「はっ!いや違うんです超違うんですよこれは!騙されたんです!そこにいるショチトルって女が……」
「誰のことだ?ここには俺とお前しかいないが……」
「そんなバカな……うわ、マジでいませんっ!この一瞬の間に逃げられたっ!?」
「いや、まぁ……俺はお前が街外れで半裸どころの騒ぎじゃない水着姿を晒していようと許容してやれるくらいの度量はあるぞ?」
「フォローされてしまいましたっ!浜面にフォローされてしまいましたァァァァ!」
「取り敢えず記念に一枚……」
「そしてそこ!どさくさ紛れに記録に残そうと――」
しないでください、と携帯を取り出した浜面の方へ一歩を踏み出そうとした絹旗だったが、
(あれ……?)
足が思うように上がらない。
階段を上ろうとして上の段に躓いてしまうように、地面に散らばる瓦礫に足を取られて体勢がふらつく。
(あ、そういえば歩けないくらい超疲労してたから浜面を呼んだんでした。水着のことが余りに衝撃的すぎてつい忘れて……)
思う内に地面に近づいていく視界が、
「おい!絹旗っ!?」
唐突に止まった。
どうやら駆け寄ってきた浜面が絹旗を支えてくれているようだが――
突然後方から呼びかけられた。
その声から一体誰かは見当が付く。
だがだからこそ認めたくなくて、絹旗はゆっくりと後ろを振り返る。
「それは、一体どういう趣味なんだ?」
そこには若干……いや、超引いた顔をして絹旗の水着姿を見つめている浜面仕上の姿があった。
「はっ!いや違うんです超違うんですよこれは!騙されたんです!そこにいるショチトルって女が……」
「誰のことだ?ここには俺とお前しかいないが……」
「そんなバカな……うわ、マジでいませんっ!この一瞬の間に逃げられたっ!?」
「いや、まぁ……俺はお前が街外れで半裸どころの騒ぎじゃない水着姿を晒していようと許容してやれるくらいの度量はあるぞ?」
「フォローされてしまいましたっ!浜面にフォローされてしまいましたァァァァ!」
「取り敢えず記念に一枚……」
「そしてそこ!どさくさ紛れに記録に残そうと――」
しないでください、と携帯を取り出した浜面の方へ一歩を踏み出そうとした絹旗だったが、
(あれ……?)
足が思うように上がらない。
階段を上ろうとして上の段に躓いてしまうように、地面に散らばる瓦礫に足を取られて体勢がふらつく。
(あ、そういえば歩けないくらい超疲労してたから浜面を呼んだんでした。水着のことが余りに衝撃的すぎてつい忘れて……)
思う内に地面に近づいていく視界が、
「おい!絹旗っ!?」
唐突に止まった。
どうやら駆け寄ってきた浜面が絹旗を支えてくれているようだが――
「あ……………………………………………………」
という、うわーやっちまった的な浜面のアホ声を聞くと同時に、絹旗は向こうの地面に絹旗が着けているはずのジュエリービキニのブラ部分がポトリ、と落ちるのを認めた。
おそらくはこういうことだろう。
慌てて支えようとした浜面の指が誤ってブラと身体の間に挿入されてしまい、サイズが合っていないためにユルユルになっていたホックがその拍子に外れ、ブラが飛んでいってしまった、と。
そしてブラが彼方にあるということは当然現在絹旗の胸部を保護するものは何もない訳で…………
「っ………!!」
絹旗はとっさに浜面にぎゅっ、と抱きついた。
「は!?」
突然のことに対応しきれなかった浜面が後ろに倒れる。
ちょうど絹旗に押し倒されるようなかたちで。
「え?いや逆じゃね!普通離れないそこ!?」
「いや離れたら見えるじゃないですか超変態浜面!」
「んなこと言ったってこんな密着したら胸が当たって……ん?でもそんなに……」
「それ以上言ったら超殴りますよ浜面」
取り敢えず一発浜面の顔面を殴ってから告げる絹旗。
「いってぇ……つーかお前どうする気だよこの状況。ずっとくっついてるつもりか?」
「いえ、すぐそこに水着は落ちてるんですから、這っていって取って下さい」
「このままの状態でか?」
「このままの状態でです」
「……俺目瞑ってるから自分で」
「超信用なりません」
「なんだよそれ…………痛い痛い!鯖折りかけんなしかも能力使ってるだろおい!はいはい分かりました!やります!やりますから鯖折りストップ!」
絹旗に骨を軋まされ、渋々動き出す浜面。
瓦礫だらけの地面を絹旗を抱きつかせたまま仰向け状態で芋虫のように這う。
そのお腹の上で、絹旗は。
(うわぁぁ!私一体超何やってるんですか!浜面近い!顔近いィィィ!と、というか何で私さっきからこんな心臓バクバク言ってるんですか!?いやだって浜面ですよ有り得ませんって!単に疲労が変な所に行ってるだけです!そうです超そうに決まってます!!……でも、浜面の身体、大きくて温かい……ってだから私はァァァァああああ!!!!)
火照った顔を浜面の胸に埋めて隠し、一層近くなる浜面との距離に更に心臓をバクバクさせるという悪循環を起こしていると、
「ほれ、取ったぞ」
水着に到達した浜面が身を起こしてそれを絹旗に差し出す。
だが、
「ちょっと急に……」
浜面にキツくしがみついていた絹旗は、浜面が起きあがったことでコロリと反対側へ転げてしまう。
その手はしかし浜面の服をしっかりと握っていて――
即座に浜面と絹旗の位置が入れ替わる。
浜面が、絹旗の頭の両側の地面に両の腕をついて、逃げ場を無くすように絹旗の上に覆い被さる。
という、うわーやっちまった的な浜面のアホ声を聞くと同時に、絹旗は向こうの地面に絹旗が着けているはずのジュエリービキニのブラ部分がポトリ、と落ちるのを認めた。
おそらくはこういうことだろう。
慌てて支えようとした浜面の指が誤ってブラと身体の間に挿入されてしまい、サイズが合っていないためにユルユルになっていたホックがその拍子に外れ、ブラが飛んでいってしまった、と。
そしてブラが彼方にあるということは当然現在絹旗の胸部を保護するものは何もない訳で…………
「っ………!!」
絹旗はとっさに浜面にぎゅっ、と抱きついた。
「は!?」
突然のことに対応しきれなかった浜面が後ろに倒れる。
ちょうど絹旗に押し倒されるようなかたちで。
「え?いや逆じゃね!普通離れないそこ!?」
「いや離れたら見えるじゃないですか超変態浜面!」
「んなこと言ったってこんな密着したら胸が当たって……ん?でもそんなに……」
「それ以上言ったら超殴りますよ浜面」
取り敢えず一発浜面の顔面を殴ってから告げる絹旗。
「いってぇ……つーかお前どうする気だよこの状況。ずっとくっついてるつもりか?」
「いえ、すぐそこに水着は落ちてるんですから、這っていって取って下さい」
「このままの状態でか?」
「このままの状態でです」
「……俺目瞑ってるから自分で」
「超信用なりません」
「なんだよそれ…………痛い痛い!鯖折りかけんなしかも能力使ってるだろおい!はいはい分かりました!やります!やりますから鯖折りストップ!」
絹旗に骨を軋まされ、渋々動き出す浜面。
瓦礫だらけの地面を絹旗を抱きつかせたまま仰向け状態で芋虫のように這う。
そのお腹の上で、絹旗は。
(うわぁぁ!私一体超何やってるんですか!浜面近い!顔近いィィィ!と、というか何で私さっきからこんな心臓バクバク言ってるんですか!?いやだって浜面ですよ有り得ませんって!単に疲労が変な所に行ってるだけです!そうです超そうに決まってます!!……でも、浜面の身体、大きくて温かい……ってだから私はァァァァああああ!!!!)
火照った顔を浜面の胸に埋めて隠し、一層近くなる浜面との距離に更に心臓をバクバクさせるという悪循環を起こしていると、
「ほれ、取ったぞ」
水着に到達した浜面が身を起こしてそれを絹旗に差し出す。
だが、
「ちょっと急に……」
浜面にキツくしがみついていた絹旗は、浜面が起きあがったことでコロリと反対側へ転げてしまう。
その手はしかし浜面の服をしっかりと握っていて――
即座に浜面と絹旗の位置が入れ替わる。
浜面が、絹旗の頭の両側の地面に両の腕をついて、逃げ場を無くすように絹旗の上に覆い被さる。
「ぁ……………………」
「ゃ……………………」
「ゃ……………………」
時が、止まった。
お互いの顔を超至近距離で見つめ合う二人。
相手の吐く熱い息が顔にかかる。
しかし、不快ではない。
浜面の顔から目線を逸らし、少しモジモジと動く絹旗。
「ん……………………」
やがて、絹旗は再び浜面の顔を正面から見据えると、ゆっくりと首を伸ばした。
二人の顔は更に近づいていく。
お互いの顔を超至近距離で見つめ合う二人。
相手の吐く熱い息が顔にかかる。
しかし、不快ではない。
浜面の顔から目線を逸らし、少しモジモジと動く絹旗。
「ん……………………」
やがて、絹旗は再び浜面の顔を正面から見据えると、ゆっくりと首を伸ばした。
二人の顔は更に近づいていく。
そして――
「………………………………………………………………………」
その様子を、滝壺理后は無言のまま眺めていた。
「っていつからいたんですかァァァァああああ!!!!」
叫びと共に絹旗の右ストレートが炸裂し、
「ぐおっふぁぁぁあああ!!」
浜面が瓦礫の向こう側に錐揉み回転しながら飛んでいった。
「さっき。この辺りで倒壊事故があったって聞いたから、もしかしてって思って。もうすぐ人が来るから離れた方がいい」
「うわぁマジですか!まぁ……一般人に見つかるのに比べたらまだマシだった気もしますが」
殴り飛ばされた際に浜面が取り落としたブラを装着しながら言う絹旗。
滝壺は、その浜面が飛んでいった瓦礫の向こうを見つめながら言う。
「私、あんな浜面を応援できるかどうか不安になってきた……」
「ネ、ネガティヴ!!あ、いえでもあれは……」
「? はまづらがきぬはたに際どいコスプレをさせた上で更にその衣装を剥ぎ取り自らの変態性欲をみたそうとしていたんじゃないの?」
「なんか饒舌になったぁぁ!?」
「それともまさかきぬはたが自らの意志でその際どいコスプレを着てはまづらを誘惑し、自分から抱きついてあまつさえキスまでしようと」
「前者です!間違いなく前者ですから!本当に浜面の変態ぶりはどうしようもないですねはははははっ!」
絹旗最愛はその後、滝壺に服一式を買ってきて貰い、滝壺の肩を借りて駅まで行き、二人でリニモに乗り込み街を去った。
浜面仕上はその後、現場を訪れた警備員に気絶しているところを発見され、黄泉川愛穂に説明を求めて追い回され、なんとか『アイテム』の隠れ家まで逃れたところで、滝壺に『絹旗が浜面に襲われていた』という情報を吹き込まれていた『アイテム』一同によってボコボコにされて再び満身創痍になったという。
「っていつからいたんですかァァァァああああ!!!!」
叫びと共に絹旗の右ストレートが炸裂し、
「ぐおっふぁぁぁあああ!!」
浜面が瓦礫の向こう側に錐揉み回転しながら飛んでいった。
「さっき。この辺りで倒壊事故があったって聞いたから、もしかしてって思って。もうすぐ人が来るから離れた方がいい」
「うわぁマジですか!まぁ……一般人に見つかるのに比べたらまだマシだった気もしますが」
殴り飛ばされた際に浜面が取り落としたブラを装着しながら言う絹旗。
滝壺は、その浜面が飛んでいった瓦礫の向こうを見つめながら言う。
「私、あんな浜面を応援できるかどうか不安になってきた……」
「ネ、ネガティヴ!!あ、いえでもあれは……」
「? はまづらがきぬはたに際どいコスプレをさせた上で更にその衣装を剥ぎ取り自らの変態性欲をみたそうとしていたんじゃないの?」
「なんか饒舌になったぁぁ!?」
「それともまさかきぬはたが自らの意志でその際どいコスプレを着てはまづらを誘惑し、自分から抱きついてあまつさえキスまでしようと」
「前者です!間違いなく前者ですから!本当に浜面の変態ぶりはどうしようもないですねはははははっ!」
絹旗最愛はその後、滝壺に服一式を買ってきて貰い、滝壺の肩を借りて駅まで行き、二人でリニモに乗り込み街を去った。
浜面仕上はその後、現場を訪れた警備員に気絶しているところを発見され、黄泉川愛穂に説明を求めて追い回され、なんとか『アイテム』の隠れ家まで逃れたところで、滝壺に『絹旗が浜面に襲われていた』という情報を吹き込まれていた『アイテム』一同によってボコボコにされて再び満身創痍になったという。
♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀
10月17日。
「浜面と滝壺さんが乗ってるのはあれでしょうかねー……って、そんな訳ないですか。無事に逃げられていたらいいんですけど」
どこかの飛行機が飛ぶ空を見上げながら、絹旗最愛は呟いた。
あれから、絹旗の働きかけで浜面と滝壺は仲良くなっていった。
死体の処理を任された浜面のところへ滝壺を行かせたり、他にもそれとなく体晶のことを気づかせようとしたりしたのだが、あの鈍感はまるで気づきはしなかったようだ。
(ま、その点は垣根帝督に感謝ですかね。彼が体晶の危険性をぶっちゃけてくれたおかげで、浜面も超覚悟が決まったようですし)
彼らにはこれからも苦難が待ち受けているだろうが、あの二人ならばきっと大丈夫だろう。
ふと、さっきまで通話していた携帯電話に視線を落とす。
(佐天さん……)
結局、あれから佐天涙子とは会っていない。
番号やアドレスも一方的に変えて、何も告げずに別れてしまった。
(やっぱり怒ってますかね……)
それとも、こんな後ろ暗いところのある人間と別れられて安堵しているか。
「ははっ……」
ふと、空笑いが零れる。
佐天涙子とは縁を切り、『アイテム』は崩壊し、浜面仕上と滝壺理后は行ってしまった。
「なんだか私、超ぼっちですね。どうしましょうか、これから」
「追いかけたら?」
ふと、声がかかった。
絹旗がそちらを見やると、そこにはドレスを着た少女が立っている。
「あの子達のこと、追いかけたらいいじゃない」
「……六枚羽を破壊し、学園都市の抹殺リストに載った浜面にアドバイスを送った超反逆者の私をどうしてあなたが匿ってくれているのかは分かりませんが、私はもう充分世話を焼いてあげたつもりですよ。あとは浜面と滝壺さんの問題です」
「いやだって、あなたあの男の子のこと好きでしょう?」
ドレスの女は、世間話の延長のように何の気なしに絹旗の心を暴露した。
「ぶはァァ!!??な、何を突然根拠のないことを!?」
「根拠も何も、心の距離を測るのが私の能力だし」
「何ですかそれ!チートじゃないですか!人の心勝手に暴かないで下さいよ!」
「ていうかちゃっかり認めちゃってるわよ?」
「うっ!いえ、これはそのっ……」
「いいじゃない、あの子達がピンチの時に颯爽と登場して助けに入れば、好感度あがるかもしれないわよ?」
「…………いえ、いいんですよ」
どうせ行き先も分かりませんし、と小さく付け加える絹旗。
「それに、もし万が一、億が一にも、私が浜面を……そ、その………きだとしても……」
「え?何?聞こえない」
「す……すき、だと…」
「声が小さくて……」
「私が浜面を超好きだとしてもですね!!」
顔を真っ赤にしながら叫ぶ絹旗。
結構ウブなのねぇ、と面白がるドレスの女に、絹旗は続ける。
「例えそうだとしても、私は滝壺さんから浜面をとったり出来ませんよ」
『アイテム』で沢山の人を殺し、友達だった佐天涙子まで傷つけた。
「こんな私に、滝壺さんから浜面を奪ってまで幸せになる権利は超ありません」
「好きなのに?」
「好きだから、です」
だから、滝壺にも、浜面にも幸せになって欲しい、と笑う絹旗。
「…………健気ねぇ」
分からないでもないけれど、と付け足してから、ドレスの女は言う。
「でも、あの子達が無事に帰ってきて、その時あなたが表を歩けるくらいのマトモな人間になっていれば……それなら、あなたも真っ正面から向き合えるんじゃない?」
「……そう、でしょうかね」
――その時は、あの少女とも再び向き合えるだろうか。
「ま、それにはあの子達の無事が第一条件だけど……」
「大丈夫ですよ。きっとどんな苦難だって乗り越えていきます。だって――私が惚れた相手ですから」
「――そうね」
絹旗とドレスの女は、互いに顔を見合わせると、クスリ、と笑い合った。
10月17日。
「浜面と滝壺さんが乗ってるのはあれでしょうかねー……って、そんな訳ないですか。無事に逃げられていたらいいんですけど」
どこかの飛行機が飛ぶ空を見上げながら、絹旗最愛は呟いた。
あれから、絹旗の働きかけで浜面と滝壺は仲良くなっていった。
死体の処理を任された浜面のところへ滝壺を行かせたり、他にもそれとなく体晶のことを気づかせようとしたりしたのだが、あの鈍感はまるで気づきはしなかったようだ。
(ま、その点は垣根帝督に感謝ですかね。彼が体晶の危険性をぶっちゃけてくれたおかげで、浜面も超覚悟が決まったようですし)
彼らにはこれからも苦難が待ち受けているだろうが、あの二人ならばきっと大丈夫だろう。
ふと、さっきまで通話していた携帯電話に視線を落とす。
(佐天さん……)
結局、あれから佐天涙子とは会っていない。
番号やアドレスも一方的に変えて、何も告げずに別れてしまった。
(やっぱり怒ってますかね……)
それとも、こんな後ろ暗いところのある人間と別れられて安堵しているか。
「ははっ……」
ふと、空笑いが零れる。
佐天涙子とは縁を切り、『アイテム』は崩壊し、浜面仕上と滝壺理后は行ってしまった。
「なんだか私、超ぼっちですね。どうしましょうか、これから」
「追いかけたら?」
ふと、声がかかった。
絹旗がそちらを見やると、そこにはドレスを着た少女が立っている。
「あの子達のこと、追いかけたらいいじゃない」
「……六枚羽を破壊し、学園都市の抹殺リストに載った浜面にアドバイスを送った超反逆者の私をどうしてあなたが匿ってくれているのかは分かりませんが、私はもう充分世話を焼いてあげたつもりですよ。あとは浜面と滝壺さんの問題です」
「いやだって、あなたあの男の子のこと好きでしょう?」
ドレスの女は、世間話の延長のように何の気なしに絹旗の心を暴露した。
「ぶはァァ!!??な、何を突然根拠のないことを!?」
「根拠も何も、心の距離を測るのが私の能力だし」
「何ですかそれ!チートじゃないですか!人の心勝手に暴かないで下さいよ!」
「ていうかちゃっかり認めちゃってるわよ?」
「うっ!いえ、これはそのっ……」
「いいじゃない、あの子達がピンチの時に颯爽と登場して助けに入れば、好感度あがるかもしれないわよ?」
「…………いえ、いいんですよ」
どうせ行き先も分かりませんし、と小さく付け加える絹旗。
「それに、もし万が一、億が一にも、私が浜面を……そ、その………きだとしても……」
「え?何?聞こえない」
「す……すき、だと…」
「声が小さくて……」
「私が浜面を超好きだとしてもですね!!」
顔を真っ赤にしながら叫ぶ絹旗。
結構ウブなのねぇ、と面白がるドレスの女に、絹旗は続ける。
「例えそうだとしても、私は滝壺さんから浜面をとったり出来ませんよ」
『アイテム』で沢山の人を殺し、友達だった佐天涙子まで傷つけた。
「こんな私に、滝壺さんから浜面を奪ってまで幸せになる権利は超ありません」
「好きなのに?」
「好きだから、です」
だから、滝壺にも、浜面にも幸せになって欲しい、と笑う絹旗。
「…………健気ねぇ」
分からないでもないけれど、と付け足してから、ドレスの女は言う。
「でも、あの子達が無事に帰ってきて、その時あなたが表を歩けるくらいのマトモな人間になっていれば……それなら、あなたも真っ正面から向き合えるんじゃない?」
「……そう、でしょうかね」
――その時は、あの少女とも再び向き合えるだろうか。
「ま、それにはあの子達の無事が第一条件だけど……」
「大丈夫ですよ。きっとどんな苦難だって乗り越えていきます。だって――私が惚れた相手ですから」
「――そうね」
絹旗とドレスの女は、互いに顔を見合わせると、クスリ、と笑い合った。
「ま、でも逃避行中に先を越されちゃうかもしれないけどね」
「え?先って!?」
「ていうか今狭い航空機の中に二人きりなのよね。こりゃもうキスぐらいしちゃってるんじゃない?」
「いやいや!浜面にそんな度胸ありませんよ!」
「どうかしらね、むしろ私は女の子の方から積極的に行きそうな感じがするんだけど」
「そ、そんな!ああでも滝壺さんなら有り得なくない気も!?」
「でも着陸まで結構あるわよね、当然。キスで終わるかしらねぇ」
「え、ちょ、それって……」
「ちゃんとゴム付けてるかしら?」
「ストーップ!!超ストーップ!!!!お願いですから!それ以上はもう!」
「え?先って!?」
「ていうか今狭い航空機の中に二人きりなのよね。こりゃもうキスぐらいしちゃってるんじゃない?」
「いやいや!浜面にそんな度胸ありませんよ!」
「どうかしらね、むしろ私は女の子の方から積極的に行きそうな感じがするんだけど」
「そ、そんな!ああでも滝壺さんなら有り得なくない気も!?」
「でも着陸まで結構あるわよね、当然。キスで終わるかしらねぇ」
「え、ちょ、それって……」
「ちゃんとゴム付けてるかしら?」
「ストーップ!!超ストーップ!!!!お願いですから!それ以上はもう!」
♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀
某月某日。
某月某日。
「んで、そのオブジェクトっつうのを主人公二人が生身で倒して回る映画ってことなのか?」
「そうです!いやぁホントに超ド迫力バトルですから!C級と侮っていたら痛い目を見ますよ!?」
「きぬはた、楽しそう」
絹旗最愛、浜面仕上、滝壺理后の三人が、学園都市内にある小劇場の、他に誰もいない座席に座って大声で雑談している。
「そうです!いやぁホントに超ド迫力バトルですから!C級と侮っていたら痛い目を見ますよ!?」
「きぬはた、楽しそう」
絹旗最愛、浜面仕上、滝壺理后の三人が、学園都市内にある小劇場の、他に誰もいない座席に座って大声で雑談している。
「私は恋愛映画とかの方が……」
「あら、お姉さまったら。恋愛映画なんて見た日にゃ、1日中泣きっぱなしで手をつけられなくなりますわよ」
「ちょ、何言ってんのよ黒子!」
「いいじゃないですかオブジェクト!ビバリーさんのお勧めだって言いますし!ですよね佐天さん!」
「うんうん。何しろ今回の三作目は『ヒロインにライバル登場か!?』みたいな展開らしいからね!期待大だよっ」
佐天涙子、初春飾利、白井黒子、御坂美琴の4人が、学園都市内にある小劇場の窓口で鑑賞券を購入している。
「あら、お姉さまったら。恋愛映画なんて見た日にゃ、1日中泣きっぱなしで手をつけられなくなりますわよ」
「ちょ、何言ってんのよ黒子!」
「いいじゃないですかオブジェクト!ビバリーさんのお勧めだって言いますし!ですよね佐天さん!」
「うんうん。何しろ今回の三作目は『ヒロインにライバル登場か!?』みたいな展開らしいからね!期待大だよっ」
佐天涙子、初春飾利、白井黒子、御坂美琴の4人が、学園都市内にある小劇場の窓口で鑑賞券を購入している。
「ほう、科学嫌いのあなたが映画……それもサイエンスフィクションとは、意外です。ショチトル」
「別にいいだろうエツァリ。前に聞きかじって、少し興味が湧いただけだ」
「その結果ハマってしまった、と。お前は時々突拍子もないことをするよな。あのド派手な水着にも驚かされたが」
「トチトリ、水着とは一体……」
「な!バカ、トチトリ!何でもない!何でもないからなエツァリ!」
「ショチトルが以前ドエロ水着を着て本拠地に帰ってきたことがあってな……その時の写真がここに」
「幾らで?」
「一枚1000円でどうだ?」
「5枚貰いましょう」
「お・ま・え・ら……」
ショチトルトチトリ、、エツァリの三人が、ギャーギャーと喚き合いながら学園都市内にある小劇場を目指す。
「別にいいだろうエツァリ。前に聞きかじって、少し興味が湧いただけだ」
「その結果ハマってしまった、と。お前は時々突拍子もないことをするよな。あのド派手な水着にも驚かされたが」
「トチトリ、水着とは一体……」
「な!バカ、トチトリ!何でもない!何でもないからなエツァリ!」
「ショチトルが以前ドエロ水着を着て本拠地に帰ってきたことがあってな……その時の写真がここに」
「幾らで?」
「一枚1000円でどうだ?」
「5枚貰いましょう」
「お・ま・え・ら……」
ショチトルトチトリ、、エツァリの三人が、ギャーギャーと喚き合いながら学園都市内にある小劇場を目指す。
そして――――
「「「あ……………」」」
互いの姿を認め、絹旗、佐天、ショチトルは声を揃えた。
「おぉこれはこれは御坂さん。いやぁ奇遇ですねこんなところで…………って痛い!トチトリ!?何で私の脇腹に黒曜石のナイフを刺してるんですか!?あぁ!!捻らないで!そろそろ洒落になりませんって!!」
「いや、流石に空気を読めと」
「いや、流石に空気を読めと」
「「「あはっ……」」」
三人は互いに顔を見合わせると笑い合い、劇場の真ん中の席に並んで座る。
――間もなく上演ブザーが鳴り、映画が始まった。