6.5
「またまた暴動検挙の勅令ですか。こうも件数が多いと、超ダルいですね」
「そう、文句も、言っていられない。被害を、被るのは、罪も無い学生達が、主なのだから」
「……わかってますよ。全くスキルアウト共に加え、一部の事業部まで反乱意思を掲げてくるとは、
この絹旗ちゃんにも超予測出来ませんでしたし」
「またまた暴動検挙の勅令ですか。こうも件数が多いと、超ダルいですね」
「そう、文句も、言っていられない。被害を、被るのは、罪も無い学生達が、主なのだから」
「……わかってますよ。全くスキルアウト共に加え、一部の事業部まで反乱意思を掲げてくるとは、
この絹旗ちゃんにも超予測出来ませんでしたし」
時は二一時。学園都市にも霞がかった暗夜が漂い始め、万が一の爆撃に備えて学生達は自身の家屋に
閉じこもっている。基本、下校定時を過ぎればバス等の交通機関も停止し、外出している人間の数は限られ
るが、戦争勃発後は街を放浪する、訳の分からない集団が胸を張って行進するのが多くなった。
戦争を止めさせる、と掲げる大義名分は褒められる大した物だが、その活動は決して善的行為ではない。
学園都市を脱出し、戦力を自ら削いだと発表する事でロシアの提示した条件を呑むのだ、と科学サイドの
敗北を推進しようと呼びかけているのだ。
これは学園都市に所属している社団の一部が、ロシアとの強力なパイプ、即ち政治的権力の維持を支援す
るための種金――または一部の化学実験に必要な資金のやり取り……―――様は利権を守りたいために
ロシアの支援を受けていた社団が始めたもの。
ロシアに降伏すれば、学園都市が誇る最先端の科学力が世間にも公表されてしまうだろう。
ならば、その情報を自ら公開して、世界全てを学園都市と同じ立場に伸し上げて、平等な世界平和を
目指そうと語る、ボケた輩がそれに加わり、『反乱分子』と伸し上がったのだ。
この集団が結構厄介で、日が出ている内には講習会を頻繁に開き、甘ったるい演説で同士を着々と増やし
月が出ている時には、学園都市を徘徊して、『外』の選挙活動のような呼びかけを繰り返しているのだ。
問題なのは、その『呼びかけ』が少々暴力的で、いきなり学生の家に押し入り、退路を断ってから享受を
図って強引に加入するように働いてくるのだ。無論、断った常識的な学生は排除される。つまりは、死だ。
それはもはや無視出来ない、学園都市の第三勢力たる敵だ。こうした内部からの浸食を押さえつけなけれ
ば、ロシアに敗北する一因にも成りかねない。
閉じこもっている。基本、下校定時を過ぎればバス等の交通機関も停止し、外出している人間の数は限られ
るが、戦争勃発後は街を放浪する、訳の分からない集団が胸を張って行進するのが多くなった。
戦争を止めさせる、と掲げる大義名分は褒められる大した物だが、その活動は決して善的行為ではない。
学園都市を脱出し、戦力を自ら削いだと発表する事でロシアの提示した条件を呑むのだ、と科学サイドの
敗北を推進しようと呼びかけているのだ。
これは学園都市に所属している社団の一部が、ロシアとの強力なパイプ、即ち政治的権力の維持を支援す
るための種金――または一部の化学実験に必要な資金のやり取り……―――様は利権を守りたいために
ロシアの支援を受けていた社団が始めたもの。
ロシアに降伏すれば、学園都市が誇る最先端の科学力が世間にも公表されてしまうだろう。
ならば、その情報を自ら公開して、世界全てを学園都市と同じ立場に伸し上げて、平等な世界平和を
目指そうと語る、ボケた輩がそれに加わり、『反乱分子』と伸し上がったのだ。
この集団が結構厄介で、日が出ている内には講習会を頻繁に開き、甘ったるい演説で同士を着々と増やし
月が出ている時には、学園都市を徘徊して、『外』の選挙活動のような呼びかけを繰り返しているのだ。
問題なのは、その『呼びかけ』が少々暴力的で、いきなり学生の家に押し入り、退路を断ってから享受を
図って強引に加入するように働いてくるのだ。無論、断った常識的な学生は排除される。つまりは、死だ。
それはもはや無視出来ない、学園都市の第三勢力たる敵だ。こうした内部からの浸食を押さえつけなけれ
ば、ロシアに敗北する一因にも成りかねない。
よって、それらを叩き潰すために結成された新チームが、今暗躍しているわけだ。
息を潜めたまま地下鉄の改札に繋がる階段に隠れている二人。
その隣の道路を進む反乱分子の一団。
「そろそろ来ますね。超準備は整ってますか、手塩恵未さん」
「とうに、完璧だ。奴らの迎撃に加え、身柄を、拘束するツールも、活躍するのを、待っている。
何も問題無い。絹旗最愛」
「あのドレス女は他のポジションで待機してますが、私達もあっちを超助けに行く必要もありそうですね」
「全く、大能力者は、どうして、こうも過信に陥る輩が、多いのか」
「要は自制の問題ですよ。私なんかじゃ自分の限界ぐらい超把握してますしね」
「それで、すむ、ならいいけど、ね」
「……来ました」
ジャキン!と、手元の銃器を戦闘区域で解放できるよう、手塩が構える。
一方、絹旗の手にあるのは双眼鏡のみ。双眼鏡には遠くを見るだけでなく、
わざとレンズの光を反射させて、自身の位置を誤認させる事が出来る。
そのため、絹旗は火薬を一切使わず、敵側に襲撃のサインを出す。
月明かりが欠けた。その始点に目線を奪われる反乱分子達。彼らが戦闘配置に移行しようとした途端、
息を潜めたまま地下鉄の改札に繋がる階段に隠れている二人。
その隣の道路を進む反乱分子の一団。
「そろそろ来ますね。超準備は整ってますか、手塩恵未さん」
「とうに、完璧だ。奴らの迎撃に加え、身柄を、拘束するツールも、活躍するのを、待っている。
何も問題無い。絹旗最愛」
「あのドレス女は他のポジションで待機してますが、私達もあっちを超助けに行く必要もありそうですね」
「全く、大能力者は、どうして、こうも過信に陥る輩が、多いのか」
「要は自制の問題ですよ。私なんかじゃ自分の限界ぐらい超把握してますしね」
「それで、すむ、ならいいけど、ね」
「……来ました」
ジャキン!と、手元の銃器を戦闘区域で解放できるよう、手塩が構える。
一方、絹旗の手にあるのは双眼鏡のみ。双眼鏡には遠くを見るだけでなく、
わざとレンズの光を反射させて、自身の位置を誤認させる事が出来る。
そのため、絹旗は火薬を一切使わず、敵側に襲撃のサインを出す。
月明かりが欠けた。その始点に目線を奪われる反乱分子達。彼らが戦闘配置に移行しようとした途端、
道路が真っ二つに裂け、その亀裂から電車の車体そのものが飛び出して来た。
恐るべき速度で反乱分子達に叩き付けられる車体。
轟!! と破片が飛び散り、多大な衝撃波が周囲に向かって平等に拡散する。
突然の奇襲に対応しきれない分はこれで無力化させる。
「むふふ。さすがに大能力者が直々に来るとは超予測出来てなかったようですね」
亀裂からひょっこり顔を出す絹旗。幼く、短めの茶髪を持つ少女が、死地を平然と眺める。
自身の位置を知らせてから、一気に地下を彫り上げて、線路に降り、機体を放り投げたのだ。
「く、くそっ!」
まだまだ残兵が反撃しようと、銃器や能力の標準が一斉に絹旗に向けられる。
しかし、自ら視線を制限させてしまった彼らは、一つのミスを犯した。
トリガーが引かれる前に、一人の戦闘員が、反乱分子の生き残りを狩っていく。
「派手な陽動程、便利な隠れ蓑は、無いな」
死角から放たれる銃撃、そして要所要所で混ぜられる正確な体術。これらが効率良く運営される事で、
数を削るのは安易と成り下がった。
恐るべき速度で反乱分子達に叩き付けられる車体。
轟!! と破片が飛び散り、多大な衝撃波が周囲に向かって平等に拡散する。
突然の奇襲に対応しきれない分はこれで無力化させる。
「むふふ。さすがに大能力者が直々に来るとは超予測出来てなかったようですね」
亀裂からひょっこり顔を出す絹旗。幼く、短めの茶髪を持つ少女が、死地を平然と眺める。
自身の位置を知らせてから、一気に地下を彫り上げて、線路に降り、機体を放り投げたのだ。
「く、くそっ!」
まだまだ残兵が反撃しようと、銃器や能力の標準が一斉に絹旗に向けられる。
しかし、自ら視線を制限させてしまった彼らは、一つのミスを犯した。
トリガーが引かれる前に、一人の戦闘員が、反乱分子の生き残りを狩っていく。
「派手な陽動程、便利な隠れ蓑は、無いな」
死角から放たれる銃撃、そして要所要所で混ぜられる正確な体術。これらが効率良く運営される事で、
数を削るのは安易と成り下がった。
―――二人の連携により、たちまち一団は捕縛された。消費時間はたったの十分。
手錠よりも物騒な金網で下手人達を縛り上げる。ついでに単純な仕様の小型AIMジャマーを幾つか設置し、
能力者の反撃を予め切っておいてから、一息入れる二人だった。
「今日の窒素ちゃんは何だか超不機嫌な気がします」
絹旗の能力『窒素装甲』は大気中の窒素を操り、掌に莫大な馬力を宿らせ、あるいは全身に窒素を纏う
事で防壁を作り出す事が出来る。奇襲時の怪力もこの能力あってこその物だ。そのため、絹旗は空気中の
窒素に何らかのイメージを抱く事がある。素直に命令を聞く場合と、演算を一段階複雑にしないと窒素が
掌握から逃れてしまう場合があるのだ。そのイメージを、絹旗は『機嫌』で表現した。
「何か、問題でも、あるのか」
新チームの一員である手塩が返答する。彼女は超能力を秘めていないので、その感覚に実感が
湧きにくい。その代わりに女性とは思えない程の撓る筋力と、警備員の捕縛術を応用した危険極まりない
体術を使っている。能力に頼りっぱなしの人間にも、重火器を振るう人間にも有効だ。
絹旗が目蓋をパチパチと何度か瞬きしながら、手塩の疑問を解く。
「いえ、戦闘には支障無いんですが、こういう感触を得る度に超嫌な出来事が起きるんですよ。
それが超トラウマなんですが」
空気の流れが乱れる感じ。これを二度三度と察するのを繰り返すごとに、絹旗は漠然と
わかってしまったのだ。冷風が自分の五感と空間の境界線をはっきりと浮き彫りにする度に、絹旗の
日常が狂ってしまうのを。
例えば、第二位の超能力者である垣根帝督に敗北する直前にもこれが起きた。
例を挙げれば、浜面が暗殺部隊に追跡されるのを知った際にもこの現象が発生してしまった。
手錠よりも物騒な金網で下手人達を縛り上げる。ついでに単純な仕様の小型AIMジャマーを幾つか設置し、
能力者の反撃を予め切っておいてから、一息入れる二人だった。
「今日の窒素ちゃんは何だか超不機嫌な気がします」
絹旗の能力『窒素装甲』は大気中の窒素を操り、掌に莫大な馬力を宿らせ、あるいは全身に窒素を纏う
事で防壁を作り出す事が出来る。奇襲時の怪力もこの能力あってこその物だ。そのため、絹旗は空気中の
窒素に何らかのイメージを抱く事がある。素直に命令を聞く場合と、演算を一段階複雑にしないと窒素が
掌握から逃れてしまう場合があるのだ。そのイメージを、絹旗は『機嫌』で表現した。
「何か、問題でも、あるのか」
新チームの一員である手塩が返答する。彼女は超能力を秘めていないので、その感覚に実感が
湧きにくい。その代わりに女性とは思えない程の撓る筋力と、警備員の捕縛術を応用した危険極まりない
体術を使っている。能力に頼りっぱなしの人間にも、重火器を振るう人間にも有効だ。
絹旗が目蓋をパチパチと何度か瞬きしながら、手塩の疑問を解く。
「いえ、戦闘には支障無いんですが、こういう感触を得る度に超嫌な出来事が起きるんですよ。
それが超トラウマなんですが」
空気の流れが乱れる感じ。これを二度三度と察するのを繰り返すごとに、絹旗は漠然と
わかってしまったのだ。冷風が自分の五感と空間の境界線をはっきりと浮き彫りにする度に、絹旗の
日常が狂ってしまうのを。
例えば、第二位の超能力者である垣根帝督に敗北する直前にもこれが起きた。
例を挙げれば、浜面が暗殺部隊に追跡されるのを知った際にもこの現象が発生してしまった。
(…………浜面、滝壺さん)
夜空を照らす朧月に視線を向けつつ、絹旗は一人の男とかつての仲間に想いを馳せた。
この空の下で、あの二人は無事に生存しているだろうか。情報規制のせいで、学園都市の内部には
彼らの状況に関わる話は一切届かなくなった。
何故か、胸が張り裂けそうになる。その衝動を抑えるために絹旗は薄い胸に手を当てる。
鼓動の乱れを正常に戻すには努力が必要だった。何とか平常状態に帰還しようとする絹旗を、手塩が
怪訝な目で眺める。
「どうやら、意中の男を、憶っているようだな」
「は、はぁ!? そんなワケありませんよ。超ありえません! これっぽちもあんな粗暴な奴の事なんか
超心配してませんよ!!」
「いや、私も昔は、よくそんな目を、していたのだよ。大体は、好いた異性の人間との思い出に、
浸ると、女性は、そうなるものだ」
経験則から、手塩は幼い絹旗の胸中を丸裸にしてしまった。ドンピシャリで本音を言い当てられてしまっ
た少女は、折角元に戻した心臓の高ぶりと再び闘う事になってしまった。
もう黙ったままでは何ともならなかったので、絹旗は口を沢山動かして精神を安定させる事にした。
「と、とにかく! 捉えた反逆者共は指定のポイントまで超誘導します。
さっさと学園都市も条例に、反逆罪を裁ける項を超加えるべきですね」
突然の変貌に少々面食らった手塩も、仕事の顔に戻る。
「その後、別行動のあの女と、合流するのだな。コイツ等の、後の処遇は、上層部に委ねよう」
と、自慢の怪力で捕獲した反逆者達を丸ごと引っ張る二人。最初はその場から離れないように踏ん張って
いたが、予想以上の負荷を掛けられたために、そのまま反逆者達は徐々に従順になりそのまま誘導される。
夜空を照らす朧月に視線を向けつつ、絹旗は一人の男とかつての仲間に想いを馳せた。
この空の下で、あの二人は無事に生存しているだろうか。情報規制のせいで、学園都市の内部には
彼らの状況に関わる話は一切届かなくなった。
何故か、胸が張り裂けそうになる。その衝動を抑えるために絹旗は薄い胸に手を当てる。
鼓動の乱れを正常に戻すには努力が必要だった。何とか平常状態に帰還しようとする絹旗を、手塩が
怪訝な目で眺める。
「どうやら、意中の男を、憶っているようだな」
「は、はぁ!? そんなワケありませんよ。超ありえません! これっぽちもあんな粗暴な奴の事なんか
超心配してませんよ!!」
「いや、私も昔は、よくそんな目を、していたのだよ。大体は、好いた異性の人間との思い出に、
浸ると、女性は、そうなるものだ」
経験則から、手塩は幼い絹旗の胸中を丸裸にしてしまった。ドンピシャリで本音を言い当てられてしまっ
た少女は、折角元に戻した心臓の高ぶりと再び闘う事になってしまった。
もう黙ったままでは何ともならなかったので、絹旗は口を沢山動かして精神を安定させる事にした。
「と、とにかく! 捉えた反逆者共は指定のポイントまで超誘導します。
さっさと学園都市も条例に、反逆罪を裁ける項を超加えるべきですね」
突然の変貌に少々面食らった手塩も、仕事の顔に戻る。
「その後、別行動のあの女と、合流するのだな。コイツ等の、後の処遇は、上層部に委ねよう」
と、自慢の怪力で捕獲した反逆者達を丸ごと引っ張る二人。最初はその場から離れないように踏ん張って
いたが、予想以上の負荷を掛けられたために、そのまま反逆者達は徐々に従順になりそのまま誘導される。
ポイントに到着し、下部組織の者達が運転する大型トラックに捕まえた人間達を放り込んでから、
二人は漸く仕事から解き放たれる。
しかし、まだ案件が終わったワケではない。『外』での戦争が続行される限りこの手の輩達は減らない。
また、明日も同様の仕事が待っているだろう。溜息まじりに絹旗は自分の多忙ぶりにうんざりする。
「一段落ついたら、新作映画のチェックに入ろうかとも思ってましたが、そんな暇はもう超作れないかも
しれませんね。あのドレス女は散々休暇を超取ってる癖に」
「まあ、仕事と、割り切るしかないな。確かに、休養を取りがちなあの女と、情報管理しか仕事が
割り当てられない、馬場が羨ましく見えるがな」
「あの人、よく戦線復帰出来ましたよね。超不思議です。私達が地下シェルターに助けに行って
顔を合わせた時には超疲弊してたんですが」
「だが、君の顔を見た瞬間、『こ、これは新たな恋の予感……!』とか、ほざいてた覚えが、ある」
「…………超冗談キツいですよねー。新しい生き甲斐を再発見したなら、喜ばしい事ですが」
「成る程、先程の思い人は、あいつだったって、オチか」
「いやいやいや、私のタイプはもっと荒々しく、元気で超ヘタレな男なんですよコレが」
と、多少気が抜け、安堵感からか、二人は自然と打ち解けていた。
暗部の仕事仲間に友情を感じる危険性を知っている二人でも、この関係に好意を抱いていた。
『外』の惨状を考えると、不謹慎だが、この日常が続けば、また浜面や滝壺との交流の機会が必ず
持てると、絹旗は自身の未来に希望があるのを信じていた。
二人は漸く仕事から解き放たれる。
しかし、まだ案件が終わったワケではない。『外』での戦争が続行される限りこの手の輩達は減らない。
また、明日も同様の仕事が待っているだろう。溜息まじりに絹旗は自分の多忙ぶりにうんざりする。
「一段落ついたら、新作映画のチェックに入ろうかとも思ってましたが、そんな暇はもう超作れないかも
しれませんね。あのドレス女は散々休暇を超取ってる癖に」
「まあ、仕事と、割り切るしかないな。確かに、休養を取りがちなあの女と、情報管理しか仕事が
割り当てられない、馬場が羨ましく見えるがな」
「あの人、よく戦線復帰出来ましたよね。超不思議です。私達が地下シェルターに助けに行って
顔を合わせた時には超疲弊してたんですが」
「だが、君の顔を見た瞬間、『こ、これは新たな恋の予感……!』とか、ほざいてた覚えが、ある」
「…………超冗談キツいですよねー。新しい生き甲斐を再発見したなら、喜ばしい事ですが」
「成る程、先程の思い人は、あいつだったって、オチか」
「いやいやいや、私のタイプはもっと荒々しく、元気で超ヘタレな男なんですよコレが」
と、多少気が抜け、安堵感からか、二人は自然と打ち解けていた。
暗部の仕事仲間に友情を感じる危険性を知っている二人でも、この関係に好意を抱いていた。
『外』の惨状を考えると、不謹慎だが、この日常が続けば、また浜面や滝壺との交流の機会が必ず
持てると、絹旗は自身の未来に希望があるのを信じていた。
だが、そんな日常は、ほんの少しの悪意と策謀で、いとも簡単に崩れるモノだ。
次の瞬間、手塩は、絹旗の喉先に、固く握りしめた拳を叩き付けた。
「……ッ!?」
『窒素装甲』の自動発生のおかげで、事なきを得たが、間違って防御し損ねていたら、確実に体の自由を
奪われていただろう。あまりにも高速で正確に人の急所に放たれた一撃は、独特の重みが篭められていた。
「……ッ!?」
『窒素装甲』の自動発生のおかげで、事なきを得たが、間違って防御し損ねていたら、確実に体の自由を
奪われていただろう。あまりにも高速で正確に人の急所に放たれた一撃は、独特の重みが篭められていた。
まるで、世界で一番『憎い』人間に対して狙う様な一撃だ。
その証拠に、手塩の顔は、憎悪と脳乱が入り交じった感情が貼付けられていた。
その証拠に、手塩の顔は、憎悪と脳乱が入り交じった感情が貼付けられていた。
「…………なるほど。やはりそういうことですか。超悪辣ですね」
ゴッ、と更に重い右ストレートを振るう。だが、今度は手塩の攻撃ではない。
絹旗が手塩の土手っ腹に窒素を纏った拳を捻り込めた。静かにその場に倒れる手塩。
内臓は一切傷つけていない。自分を殴殺しようとした者に対しては、あまりにも優しい反撃だった。
絹旗は安否を確認してから、直ぐさま体ごと振り返る。眉間には特別に野太い血管が寄せられていた。
ゴッ、と更に重い右ストレートを振るう。だが、今度は手塩の攻撃ではない。
絹旗が手塩の土手っ腹に窒素を纏った拳を捻り込めた。静かにその場に倒れる手塩。
内臓は一切傷つけていない。自分を殴殺しようとした者に対しては、あまりにも優しい反撃だった。
絹旗は安否を確認してから、直ぐさま体ごと振り返る。眉間には特別に野太い血管が寄せられていた。
「あら、友達ごっこはもうおしまい?あなた達は結構そういうの、好きじゃなかった?」
暗い路地裏から、折れそうな細い脚を忍ばせて歩いてくる女に絹旗は注意を惜しまない。
高価で、きらびやかな豪華さを秘めたドレスで繊細な体を包む少女が、物騒な武器を引きづりながら
現れた。武器は自動擲弾発射器。三〇発まで弾を装填出来る金属型ドラムマガジンが装着されているのにも
拘らず、実際に装填されているのは一発のみ。軽量さを重視したのか、それとも、
「私を狙うとは、学園都市も超堕ちたものですね。暗部の者を消すリスクはかなりキツい筈ですが。
何が目的なのか、超はっきり吐いてもらいましょうか」
一撃で絹旗を沈められる一手を隠し持っているのか。
ドレスの少女は、口元の笑みを絶やさぬまま、少し頭を傾け、空いた左手を唇に当てる。
同性から見れば、向っ腹が立つ仕草だ。こちらの怒りを可能な限り誘いたいのか。
「うーん。私自身はあなたに手を出したくないの。本当よ。でも、統括理事会から直接のオーダーが
回って来たから、どうしても断れなくて。ギャラに目が眩んだのも事実だけど」
「統括理事会から直接……? 待って下さい。私の様な超弱小な大能力者を始末するような依頼が
そんな所から下りる筈はありません。そこまでの危険性が私なんかにあると超思ってるんですか?」
確かに絹旗は強大な大能力者だ。しかし、学園都市のトップに準する彼らが絹旗程度を狙うとは
とても考えられない。不自然だ。
だが、ドレスの少女が嘘を付いているとは限らない。
もっと異質な思惑があると考えれば別に不思議ではない。
そう、自分、絹旗最愛という個人が標的とは明言していない。
つまりは、この事実から導かれる単純な答えとは、
暗い路地裏から、折れそうな細い脚を忍ばせて歩いてくる女に絹旗は注意を惜しまない。
高価で、きらびやかな豪華さを秘めたドレスで繊細な体を包む少女が、物騒な武器を引きづりながら
現れた。武器は自動擲弾発射器。三〇発まで弾を装填出来る金属型ドラムマガジンが装着されているのにも
拘らず、実際に装填されているのは一発のみ。軽量さを重視したのか、それとも、
「私を狙うとは、学園都市も超堕ちたものですね。暗部の者を消すリスクはかなりキツい筈ですが。
何が目的なのか、超はっきり吐いてもらいましょうか」
一撃で絹旗を沈められる一手を隠し持っているのか。
ドレスの少女は、口元の笑みを絶やさぬまま、少し頭を傾け、空いた左手を唇に当てる。
同性から見れば、向っ腹が立つ仕草だ。こちらの怒りを可能な限り誘いたいのか。
「うーん。私自身はあなたに手を出したくないの。本当よ。でも、統括理事会から直接のオーダーが
回って来たから、どうしても断れなくて。ギャラに目が眩んだのも事実だけど」
「統括理事会から直接……? 待って下さい。私の様な超弱小な大能力者を始末するような依頼が
そんな所から下りる筈はありません。そこまでの危険性が私なんかにあると超思ってるんですか?」
確かに絹旗は強大な大能力者だ。しかし、学園都市のトップに準する彼らが絹旗程度を狙うとは
とても考えられない。不自然だ。
だが、ドレスの少女が嘘を付いているとは限らない。
もっと異質な思惑があると考えれば別に不思議ではない。
そう、自分、絹旗最愛という個人が標的とは明言していない。
つまりは、この事実から導かれる単純な答えとは、
「まさか……私の身柄を押さえて、浜面、学園都市最大のイレギュラーたる者の動きに超制限をかけると、
そう言いたいんですか」
そう言いたいんですか」
絹旗自体には価値が無い。だが、人質としてはもってこいの立場にある。
学園都市から逃れた浜面仕上。彼の動向を縛り付けるための『交渉材料』として、絹旗をターゲットに
選んだと取れば、全ての事情に納得がいく。その絹旗の直感にドレスの少女が賞賛を送った。
学園都市から逃れた浜面仕上。彼の動向を縛り付けるための『交渉材料』として、絹旗をターゲットに
選んだと取れば、全ての事情に納得がいく。その絹旗の直感にドレスの少女が賞賛を送った。
「あら、説明が省けちゃった。大体合ってるわよ。じゃあ、素直に投降してくれない?
そうすれば、最良の待遇が受けられるわよ。それでも、私なんかじゃ耐えられない様なヒドい扱いに
されるでしょうけどね。どうかしら?」
「残念ながら」
絹旗の手元に空からの祝福が集中する。莫大な力を携えた少女に迷いは無い。
「超、願い下げ、です!!」
低姿勢を取ったまま、一気にドレスの少女の懐に滑り込む。この程度の距離では、今の絹旗の動きは
この少女では捉えられない。完全に意識外から撃ち込まれる拳が、少女と少女の間を走る。
そうすれば、最良の待遇が受けられるわよ。それでも、私なんかじゃ耐えられない様なヒドい扱いに
されるでしょうけどね。どうかしら?」
「残念ながら」
絹旗の手元に空からの祝福が集中する。莫大な力を携えた少女に迷いは無い。
「超、願い下げ、です!!」
低姿勢を取ったまま、一気にドレスの少女の懐に滑り込む。この程度の距離では、今の絹旗の動きは
この少女では捉えられない。完全に意識外から撃ち込まれる拳が、少女と少女の間を走る。
だが、届かなかった。
絹旗の、重金属すら砕く程の強靭な鉄槌は、ドレスの少女の目前で停止した。
幾ら力んでも、絹旗の体は一歩も進まなかった。全身の関節に脳神経を隔てて、
どれだけ殺せと命令しても稼働しなかった。全ては無駄だった。
『心理定規』。
人の心の距離を自在に設定出来る精神撹乱能力。
絹旗に、目の前にいる、憎い憎い少女を大切な人だと誤認させるだけの能力。
思わず、絹旗の頬から、汗が零れ落ちる。
殴れない。
何があっても、学園都市にある暗部の闇を心底知っている絹旗にも、手放せない感情があったからだ。
あの二人に、自身の牙を向ける事を、良しとはしなかった。
闇の世界にいるくせに、仲間の幸福だけを求めていたあの二人だけには、拳を振るえなかった。
偽りの感情なのに。実際に目前でニヤニヤ笑っている奴は、浜面でも、滝壺でもないのに。
「……やっぱり甘いのね。前々から思ってたけど」
ドレスの少女が、手元のオートマチックグレネードランチャーの銃口を、無防備な少女に押し付ける。
絹旗の、重金属すら砕く程の強靭な鉄槌は、ドレスの少女の目前で停止した。
幾ら力んでも、絹旗の体は一歩も進まなかった。全身の関節に脳神経を隔てて、
どれだけ殺せと命令しても稼働しなかった。全ては無駄だった。
『心理定規』。
人の心の距離を自在に設定出来る精神撹乱能力。
絹旗に、目の前にいる、憎い憎い少女を大切な人だと誤認させるだけの能力。
思わず、絹旗の頬から、汗が零れ落ちる。
殴れない。
何があっても、学園都市にある暗部の闇を心底知っている絹旗にも、手放せない感情があったからだ。
あの二人に、自身の牙を向ける事を、良しとはしなかった。
闇の世界にいるくせに、仲間の幸福だけを求めていたあの二人だけには、拳を振るえなかった。
偽りの感情なのに。実際に目前でニヤニヤ笑っている奴は、浜面でも、滝壺でもないのに。
「……やっぱり甘いのね。前々から思ってたけど」
ドレスの少女が、手元のオートマチックグレネードランチャーの銃口を、無防備な少女に押し付ける。
「暗部にいるには、優しすぎるのよ。あなたは」
人体を粉微塵に吹き飛ばす砲弾が、ガス圧で押し出す様な軽快な破裂音を響かせ、打ち抜かれる。
窒素で全身を覆おうが、気を失わせるぐらいなら簡単な程の威力が、絹旗に直撃する。
頭を鐘木で撞かれたような衝撃が駆け抜ける中、絹旗の意識は黒く染まっていく。
(浜面……滝壺さん……私なんかは超どうでもいいんです)
両目から削がれる薄暗い朧月を見届けながら、絹旗の小さな体が天頂に飛ばされる。
(あなた達に見殺しにされるなら、超納得しますから)
割れた額から湧き出た、生彩な真っ赤な水が紺碧の空に混ざっていく。
(だから、超逃げて下さい。遠くに。ずっと遠くに…………二人で)
ただ、自分の無力さを噛み締め、本当に大切な二人の仲間を思いながら、絹旗は、闇に溶けた。
窒素で全身を覆おうが、気を失わせるぐらいなら簡単な程の威力が、絹旗に直撃する。
頭を鐘木で撞かれたような衝撃が駆け抜ける中、絹旗の意識は黒く染まっていく。
(浜面……滝壺さん……私なんかは超どうでもいいんです)
両目から削がれる薄暗い朧月を見届けながら、絹旗の小さな体が天頂に飛ばされる。
(あなた達に見殺しにされるなら、超納得しますから)
割れた額から湧き出た、生彩な真っ赤な水が紺碧の空に混ざっていく。
(だから、超逃げて下さい。遠くに。ずっと遠くに…………二人で)
ただ、自分の無力さを噛み締め、本当に大切な二人の仲間を思いながら、絹旗は、闇に溶けた。