学園都市内にあるとあるファミリーレストランにて。
テレスティーナ=木原=ライフラインは、MAR――先進状況救助隊の仕事が押してしまったために遅くなった昼食にありつこうとしていた。
目の前には先程注文したハンバーグステーキ。
テレスティーナはナイフとフォークを構えると、早速ハンバーグステーキを切り崩そうとし――
テレスティーナ=木原=ライフラインは、MAR――先進状況救助隊の仕事が押してしまったために遅くなった昼食にありつこうとしていた。
目の前には先程注文したハンバーグステーキ。
テレスティーナはナイフとフォークを構えると、早速ハンバーグステーキを切り崩そうとし――
「…………テレス、お前ガキみてぇなもん喰うんだな」
呆れ顔で自分の横に立つ木原数多の存在に気づき、見事なまでに固まった。
垣根帝督。
そんな駄洒落にもなっていないおかしな名前を与えた『他人』。
垣根の両親に対する認識はその程度だった。
――置き去り。
学園都市ではさして珍しくもないそんな事情で、垣根もまたこの場所にいる。
しかし、彼は1人でこの地に残された訳ではなかった。
「……ヒメ」
第七学区にあるとある中学校。
その校門から出てきた少女を見つけ、垣根は呟いた。
垣根姫垣。
回文にもなっていない、やはりおかしな名前を付けられた――垣根帝督の、実の妹である。
垣根と同じ質のよい栗色の頭髪は、女の子らしく背中に届くほどの長さ。
背丈は中学一年生と言うには少しばかり低く、裾を詰めていない制服のスカートは、少女の膝までをすっかり隠してしまっている。
顔は兄に劣らず整っていて、今はそこに快活な笑顔を浮かばせている。
垣根はそんな彼女を認めると、もたれていたバイク(先程バンを追いかけていたものだが、全体に施していた『未元物質』のコーティングを解いたため、今は元の黒紫色を取り戻している)から背を離して姫垣に近づこうとし――そしてそのまま元の位置に戻った。
それは、姫垣が数人の女友達と一緒だったためである。
どうやらその友達と、しゃべり合いながら帰路に着こうとしているところのようだ。
(…………ま、迎えに来るって言った訳じゃねーし。丁度時間が空いたから寄ってみただけだしよ)
心の中で呟きながら、垣根は姫垣に背を向けてバイクに乗り込む。
と、
「てーとにぃ!」
垣根を変わった呼び方で呼ぶ少女の声。
垣根のことをこんな呼び方をするのは、この世界におそらく一人しかいない。
垣根は母親に点数の悪いテストを見られた小学生のような、居心地の悪そうな表情をして後ろを振り返る。
「てーとにぃっ!」
もう一度叫びながら突撃し、垣根の腹にすぽんと収まったのは、垣根姫垣である。
そんな駄洒落にもなっていないおかしな名前を与えた『他人』。
垣根の両親に対する認識はその程度だった。
――置き去り。
学園都市ではさして珍しくもないそんな事情で、垣根もまたこの場所にいる。
しかし、彼は1人でこの地に残された訳ではなかった。
「……ヒメ」
第七学区にあるとある中学校。
その校門から出てきた少女を見つけ、垣根は呟いた。
垣根姫垣。
回文にもなっていない、やはりおかしな名前を付けられた――垣根帝督の、実の妹である。
垣根と同じ質のよい栗色の頭髪は、女の子らしく背中に届くほどの長さ。
背丈は中学一年生と言うには少しばかり低く、裾を詰めていない制服のスカートは、少女の膝までをすっかり隠してしまっている。
顔は兄に劣らず整っていて、今はそこに快活な笑顔を浮かばせている。
垣根はそんな彼女を認めると、もたれていたバイク(先程バンを追いかけていたものだが、全体に施していた『未元物質』のコーティングを解いたため、今は元の黒紫色を取り戻している)から背を離して姫垣に近づこうとし――そしてそのまま元の位置に戻った。
それは、姫垣が数人の女友達と一緒だったためである。
どうやらその友達と、しゃべり合いながら帰路に着こうとしているところのようだ。
(…………ま、迎えに来るって言った訳じゃねーし。丁度時間が空いたから寄ってみただけだしよ)
心の中で呟きながら、垣根は姫垣に背を向けてバイクに乗り込む。
と、
「てーとにぃ!」
垣根を変わった呼び方で呼ぶ少女の声。
垣根のことをこんな呼び方をするのは、この世界におそらく一人しかいない。
垣根は母親に点数の悪いテストを見られた小学生のような、居心地の悪そうな表情をして後ろを振り返る。
「てーとにぃっ!」
もう一度叫びながら突撃し、垣根の腹にすぽんと収まったのは、垣根姫垣である。
「……何の用?」
「べっつにぃ」
「ぶっ殺してやろうか? あ?」
目の前の席に(勝手に)座った木原数多に、テレスティーナは物凄い勢いで突っかかる。
「あー、『久しく合ってない女が変にキレーな服着ていて、しかしファミレスでハンバーグステーキ』というあまりのアンバランスっぷりに突っ込みをせざるにはいられなくなってよぉ」
「何? 悪い?」
「んなこと言ってねぇだろ。あ、コーヒー」
「かしこまりました」
ウェイトレスに片手を上げて注文するどこでも白衣のイカレた知り合いに、テレスティーナは溜め息混じりに話しかける。
「まぁ確かに久しぶりではあるわね。お互い木原幻生の下から離れて独自に研究し始めてからは、まともに会う機会なんてなかったもの」
「木原幻生、か。ったく、独自の研究なんぞと言ったところで、やってることは木原幻生が――あのクソジジイが飽きて放り捨てた数々の絶対能力進化計画の研究の引き継ぎでしかねぇじゃねぇか。テメェは能力体結晶を――」
「あなたは一方通行を、ね」
ハンバーグステーキをナイフで切り分けながら、テレスティーナが数多の言葉を引き継ぐ。
「しっかし、八ッ、自分が実験体になった研究を続けるたぁ、結構なマゾだな」
「あァァァ!?」
数多の言葉にテレスティーナは表情を大きく歪めると、右手に持っていたナイフを素早く振り上げ――テーブルの上に置かれている数多の右手に躊躇無く振り下ろした。
「ウッセェなァ。私は那由他と違ってMじゃねぇんだよ。研究はあのクソジジイに一泡吹かせてやるためだ」
「……んだよ、ちょっとからかっただけだろうが。ガキだなテレス」
言いながら数多は、『右手に握っているテレスティーナが振り下ろしたナイフ』をテレスティーナに差し出す。
一瞬の間にテーブルから引いた右手を、即座に逆方向に運動させ、振り下ろされてくるナイフの柄を掴んでもぎ取ったのだ。
「チッ……いいよなテメェは。そういう便利な後遺症が残ってよ。同じクソジジイに弄られたのでも、私は毎食薬飲まねぇと頭痛で死にそうになるっつーデメリットしかねぇのによォ」
ナイフを取り返しながららテレスティーナが言う。
「便利でもねぇよ。こんなもの手品ぐらいにしか使えねぇだろ。ま、一方通行殴るのには使えるかもしれねぇが」
「はぁ……それで、上手く行ってるの? 一方通行の研究は」
落ち着きを取り戻したのか、口調を普段のそれに戻して問うテレスティーナ。
「いや。つーかもうやってねぇ」
「え……?」
「盗られたんだよ、統括理事会に。何か知らんが、『樹形図の設計者』が一方通行を絶対能力者に進化させるプランを弾き出したらしくてよ。天井とかいうヒョロイ野郎に研究資料ごと一方通行をかっさらわれた」
「『樹形図の設計者』がねぇ。本当に成功するのかしら」
「個人的にゃハズレだと思うがな。長くあいつを見てきたが、あれはもうこれ以上進化しねぇ。伸び代がねぇんだよ。能力として完結し過ぎている。科学的見地からじゃ、あれに進化の兆しは殆ど無い。ま、統括理事会長も何考えてんのかわかんねぇ変な野郎だったし、別の目的があんのかもしれねぇな」
「統括理事会長って……あなた一体どんな仕事してるの?」
「ん?あぁ、一方通行の研究引き渡しの交換条件なのか、上からお達しが来てよ。今は『猟犬部隊』っつー会長直々の秘密警察みたいなとこのヘッドみたいなもん」
「……多分だけど、そういうのあまり開けっぴろげに言わない方がいいと思うわよ?」
「あっそ。で、お前は進んでんのか? 能力体結晶」
「残念ながら。副業だったMARの仕事の方が忙しくなってきて、気づいたら隊長よ。おかしいでしょう。幻生が暴走能力の法則解析用誘爆実験に使ったRFOの子供達の所在が分かれば、或いはもう少し何とかなるかもしれなんだけど。幻生は居所を知ってるのかしら。……でもしばらく前から幻生とは連絡取れないのよね。半年くらい前に那由他を押し付けられて、文句言おうとしたら不通。あなた、幻生が今どこにいるか知ってる?」
テレスティーナが何気なく聞くと、数多は、なんだテレスお前知らないのか、と前置きしてからさも当然とばかりにこう言った。
「木原幻生はしばらく前から行方不明中だ」
「べっつにぃ」
「ぶっ殺してやろうか? あ?」
目の前の席に(勝手に)座った木原数多に、テレスティーナは物凄い勢いで突っかかる。
「あー、『久しく合ってない女が変にキレーな服着ていて、しかしファミレスでハンバーグステーキ』というあまりのアンバランスっぷりに突っ込みをせざるにはいられなくなってよぉ」
「何? 悪い?」
「んなこと言ってねぇだろ。あ、コーヒー」
「かしこまりました」
ウェイトレスに片手を上げて注文するどこでも白衣のイカレた知り合いに、テレスティーナは溜め息混じりに話しかける。
「まぁ確かに久しぶりではあるわね。お互い木原幻生の下から離れて独自に研究し始めてからは、まともに会う機会なんてなかったもの」
「木原幻生、か。ったく、独自の研究なんぞと言ったところで、やってることは木原幻生が――あのクソジジイが飽きて放り捨てた数々の絶対能力進化計画の研究の引き継ぎでしかねぇじゃねぇか。テメェは能力体結晶を――」
「あなたは一方通行を、ね」
ハンバーグステーキをナイフで切り分けながら、テレスティーナが数多の言葉を引き継ぐ。
「しっかし、八ッ、自分が実験体になった研究を続けるたぁ、結構なマゾだな」
「あァァァ!?」
数多の言葉にテレスティーナは表情を大きく歪めると、右手に持っていたナイフを素早く振り上げ――テーブルの上に置かれている数多の右手に躊躇無く振り下ろした。
「ウッセェなァ。私は那由他と違ってMじゃねぇんだよ。研究はあのクソジジイに一泡吹かせてやるためだ」
「……んだよ、ちょっとからかっただけだろうが。ガキだなテレス」
言いながら数多は、『右手に握っているテレスティーナが振り下ろしたナイフ』をテレスティーナに差し出す。
一瞬の間にテーブルから引いた右手を、即座に逆方向に運動させ、振り下ろされてくるナイフの柄を掴んでもぎ取ったのだ。
「チッ……いいよなテメェは。そういう便利な後遺症が残ってよ。同じクソジジイに弄られたのでも、私は毎食薬飲まねぇと頭痛で死にそうになるっつーデメリットしかねぇのによォ」
ナイフを取り返しながららテレスティーナが言う。
「便利でもねぇよ。こんなもの手品ぐらいにしか使えねぇだろ。ま、一方通行殴るのには使えるかもしれねぇが」
「はぁ……それで、上手く行ってるの? 一方通行の研究は」
落ち着きを取り戻したのか、口調を普段のそれに戻して問うテレスティーナ。
「いや。つーかもうやってねぇ」
「え……?」
「盗られたんだよ、統括理事会に。何か知らんが、『樹形図の設計者』が一方通行を絶対能力者に進化させるプランを弾き出したらしくてよ。天井とかいうヒョロイ野郎に研究資料ごと一方通行をかっさらわれた」
「『樹形図の設計者』がねぇ。本当に成功するのかしら」
「個人的にゃハズレだと思うがな。長くあいつを見てきたが、あれはもうこれ以上進化しねぇ。伸び代がねぇんだよ。能力として完結し過ぎている。科学的見地からじゃ、あれに進化の兆しは殆ど無い。ま、統括理事会長も何考えてんのかわかんねぇ変な野郎だったし、別の目的があんのかもしれねぇな」
「統括理事会長って……あなた一体どんな仕事してるの?」
「ん?あぁ、一方通行の研究引き渡しの交換条件なのか、上からお達しが来てよ。今は『猟犬部隊』っつー会長直々の秘密警察みたいなとこのヘッドみたいなもん」
「……多分だけど、そういうのあまり開けっぴろげに言わない方がいいと思うわよ?」
「あっそ。で、お前は進んでんのか? 能力体結晶」
「残念ながら。副業だったMARの仕事の方が忙しくなってきて、気づいたら隊長よ。おかしいでしょう。幻生が暴走能力の法則解析用誘爆実験に使ったRFOの子供達の所在が分かれば、或いはもう少し何とかなるかもしれなんだけど。幻生は居所を知ってるのかしら。……でもしばらく前から幻生とは連絡取れないのよね。半年くらい前に那由他を押し付けられて、文句言おうとしたら不通。あなた、幻生が今どこにいるか知ってる?」
テレスティーナが何気なく聞くと、数多は、なんだテレスお前知らないのか、と前置きしてからさも当然とばかりにこう言った。
「木原幻生はしばらく前から行方不明中だ」
「……お前、いいのかよ」
「何が?」
「だってよ……」
垣根は姫垣と共に校門から出てきた少女達を見る。
彼女達は姫垣に一時手を振った後、一緒にどこかへ歩いていく。
「約束とか、してたんじゃないのか?」
そうでなくとも、一緒に帰るつもりではあっただろうに。
「うん、でもいいの」
姫垣はやはり快活な――いや、むしろ先程友達に見せていたのよりも一層嬉しそうな笑みを浮かべて垣根に言う。
「学校はもうすぐ夏休みになるから、みんなとも一杯遊べるもん。でも、てーとにぃは夏休みもお仕事とか実験とか沢山あるんでしょ? だったら」
「……いや、まぁそうだけどよ。でもお前がどっか行きたいとか言うなら、ちゃんと予定空けるよ。実験は難しいかも知れないけど、仕事は絶対入れない」
だからいつでも言ってくれ、という意味を込めて垣根は言ったのだが、
「うん、わかった」
姫垣はそう言って笑うだけ。
きっと妹は夏休みに入ろうと垣根に我が儘を言うようなことはないのだろう。
そう思い少し寂しく感じながらも、ならば折角の今の好機は逃すまいと思い直す。
「乗れよ。好きなところ連れてってやるから」
そう言ってバイクを示し、垣根が笑いかけると
「うん、ありがとう。てーとにぃ」
姫垣もまた笑顔で頷いた。
「何が?」
「だってよ……」
垣根は姫垣と共に校門から出てきた少女達を見る。
彼女達は姫垣に一時手を振った後、一緒にどこかへ歩いていく。
「約束とか、してたんじゃないのか?」
そうでなくとも、一緒に帰るつもりではあっただろうに。
「うん、でもいいの」
姫垣はやはり快活な――いや、むしろ先程友達に見せていたのよりも一層嬉しそうな笑みを浮かべて垣根に言う。
「学校はもうすぐ夏休みになるから、みんなとも一杯遊べるもん。でも、てーとにぃは夏休みもお仕事とか実験とか沢山あるんでしょ? だったら」
「……いや、まぁそうだけどよ。でもお前がどっか行きたいとか言うなら、ちゃんと予定空けるよ。実験は難しいかも知れないけど、仕事は絶対入れない」
だからいつでも言ってくれ、という意味を込めて垣根は言ったのだが、
「うん、わかった」
姫垣はそう言って笑うだけ。
きっと妹は夏休みに入ろうと垣根に我が儘を言うようなことはないのだろう。
そう思い少し寂しく感じながらも、ならば折角の今の好機は逃すまいと思い直す。
「乗れよ。好きなところ連れてってやるから」
そう言ってバイクを示し、垣根が笑いかけると
「うん、ありがとう。てーとにぃ」
姫垣もまた笑顔で頷いた。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか。それではどうぞごゆっくり」
数多の白衣に一切突っ込まないプロなウェイトレスがコーヒーを置いていった後、テレスティーナは口を開く。
「行方不明って、どういうことだ? あのクソジジイ、くたばったのか?」
動揺のためか、再び地の口調が出てしまっている。
「いや、生きてるぞ。つーかこの前会ったし」
「…………あぁ?ンだ数多ァ。テメェ私をおちょくってんのか?」
ガンをつけてくるテレスティーナに、
「あー、だからよ」
数多はテーブルに置いてある塩胡椒をコーヒーに振ってから言う。
「お前も知ってるだろ。クソジジイは確かに研究者としちゃ優秀だが、癖が有りすぎる。テメェや、そしてオレ以上に。それこそAIM拡散力場制御実験の時がそうだ。クソジジイはあの実験を統括理事会の命令とは別に自分の目的である暴走能力の法則解析用誘爆実験――つまりは絶対能力進化計画のために利用していた」
「……だから?」
「そういう勝手なところを色んな方面から目ェつけられて、身を隠すしかなくなったらしい。ま、匿ってるのも利用されてた統括理事会だっていうからおかしな話だがよ、そんだけクソジジイのブレインが統括理事会にとって重要ってことなんだろうな。今は統括理事会の管理している施設で、統括理事会の監視の下研究してるらしい。『博士』って呼ばれてた気取った研究者がいただろ。あいつがリーダーの『メンバー』っつー理事長直属の組織に見張られてるんだと。……全部、『猟犬部隊』任された時に、クソジジイに会って教えられたんだがな」
「……何というか、結構聞いちゃいけないことばかり聞いてしまった気がするわ」
機密情報を次々に話す数多に呆れ、元の調子に戻って呟くテレスティーナ。
「そうか? ま、確かに他言無用だけどよ」
「はぁ、そう。じゃあこの際だからいっそ幻生の連絡先も教えてくれない? RFOの子供たちの居場所とか聞き出したいから」
「おぉ」
「軽いのね」
テレスティーナは切り分けたハンバーグステーキを一切れ咀嚼してから、何の気なしに聞いた。
「……そういえば、さっき幻生が研究してるって言ってたけど――木原幻生は、今度は一体何の研究をしてるのよ」
数多の白衣に一切突っ込まないプロなウェイトレスがコーヒーを置いていった後、テレスティーナは口を開く。
「行方不明って、どういうことだ? あのクソジジイ、くたばったのか?」
動揺のためか、再び地の口調が出てしまっている。
「いや、生きてるぞ。つーかこの前会ったし」
「…………あぁ?ンだ数多ァ。テメェ私をおちょくってんのか?」
ガンをつけてくるテレスティーナに、
「あー、だからよ」
数多はテーブルに置いてある塩胡椒をコーヒーに振ってから言う。
「お前も知ってるだろ。クソジジイは確かに研究者としちゃ優秀だが、癖が有りすぎる。テメェや、そしてオレ以上に。それこそAIM拡散力場制御実験の時がそうだ。クソジジイはあの実験を統括理事会の命令とは別に自分の目的である暴走能力の法則解析用誘爆実験――つまりは絶対能力進化計画のために利用していた」
「……だから?」
「そういう勝手なところを色んな方面から目ェつけられて、身を隠すしかなくなったらしい。ま、匿ってるのも利用されてた統括理事会だっていうからおかしな話だがよ、そんだけクソジジイのブレインが統括理事会にとって重要ってことなんだろうな。今は統括理事会の管理している施設で、統括理事会の監視の下研究してるらしい。『博士』って呼ばれてた気取った研究者がいただろ。あいつがリーダーの『メンバー』っつー理事長直属の組織に見張られてるんだと。……全部、『猟犬部隊』任された時に、クソジジイに会って教えられたんだがな」
「……何というか、結構聞いちゃいけないことばかり聞いてしまった気がするわ」
機密情報を次々に話す数多に呆れ、元の調子に戻って呟くテレスティーナ。
「そうか? ま、確かに他言無用だけどよ」
「はぁ、そう。じゃあこの際だからいっそ幻生の連絡先も教えてくれない? RFOの子供たちの居場所とか聞き出したいから」
「おぉ」
「軽いのね」
テレスティーナは切り分けたハンバーグステーキを一切れ咀嚼してから、何の気なしに聞いた。
「……そういえば、さっき幻生が研究してるって言ってたけど――木原幻生は、今度は一体何の研究をしてるのよ」
「きゃっ!」
姫垣を後ろに乗せ、第七学区をバイクで走行していると、突然周囲に雷音が鳴り響いた。
しがみついてくる姫垣を意識し、路肩にバイクを寄せる垣根。
「雷かな?」
「そんな天気には見えねーけど……」
空を見上げ、姫垣に答える垣根。
と、
「待ちなさいよー!」
常盤台中学の制服を着た女子中学生が、道路の向こうを身体から雷を放ちながら走っていた。
進行方向には必死の形相で逃げるツンツン頭の高校生の姿がある。
「あれだな。電撃使いの能力者なんだろ」
妹にはそう言いつつ、
(『超電磁砲』じゃねーか。真っ昼間っから何やってんだ?)
資料でそれが学園都市第三位の超電磁砲だと知っている垣根は、心中で呆れた感想を抱く。
「電撃使いかー。すごいなー」
姫垣は大人気なく電撃を撒き散らす中学生に羨望の眼差しを向けている。
それを見て、つい口をついてこんな言葉が出てしまった。
「……やっぱり、超能力欲しいか?」
垣根姫垣には他の学生と違う点が一つある。
それは、姫垣が無能力者であること。
更に詳しく言うならば、垣根姫垣は学園都市という場所で学生として生活していながら、能力開発を一切行っていないこと、である。
姫垣を後ろに乗せ、第七学区をバイクで走行していると、突然周囲に雷音が鳴り響いた。
しがみついてくる姫垣を意識し、路肩にバイクを寄せる垣根。
「雷かな?」
「そんな天気には見えねーけど……」
空を見上げ、姫垣に答える垣根。
と、
「待ちなさいよー!」
常盤台中学の制服を着た女子中学生が、道路の向こうを身体から雷を放ちながら走っていた。
進行方向には必死の形相で逃げるツンツン頭の高校生の姿がある。
「あれだな。電撃使いの能力者なんだろ」
妹にはそう言いつつ、
(『超電磁砲』じゃねーか。真っ昼間っから何やってんだ?)
資料でそれが学園都市第三位の超電磁砲だと知っている垣根は、心中で呆れた感想を抱く。
「電撃使いかー。すごいなー」
姫垣は大人気なく電撃を撒き散らす中学生に羨望の眼差しを向けている。
それを見て、つい口をついてこんな言葉が出てしまった。
「……やっぱり、超能力欲しいか?」
垣根姫垣には他の学生と違う点が一つある。
それは、姫垣が無能力者であること。
更に詳しく言うならば、垣根姫垣は学園都市という場所で学生として生活していながら、能力開発を一切行っていないこと、である。
垣根姫垣が産まれた瞬間、或いは垣根姫垣を母親から『紹介』された瞬間。
垣根帝督は理解した。
垣根帝督は理解した。
自分は妹ために生き、妹のために死ぬ。
他の何を犠牲にしたとしても。
それこそが、垣根帝督の存在理由なのだと。
他の何を犠牲にしたとしても。
それこそが、垣根帝督の存在理由なのだと。
その意識は、例え垣根の両親が普段から口喧嘩の絶えないような間柄で無かったとしても、垣根の中に生まれていたことだろう。
親が姫垣を殴らなければ姫垣を苛める同級生から、同級生が姫垣を苛めなければ近所の家の番犬からだって、垣根は姫垣のことを守っただろう。
しかし実際、両親からの妹への暴力はその身を持って防いだものの、子育てを巡って垣根と姫垣を学園都市に置き去りにしたことには抗えなかった。
垣根は何も分からぬままに脳を弄られ、薬を投与され、能力開発を受けさせられた。
そして、
親が姫垣を殴らなければ姫垣を苛める同級生から、同級生が姫垣を苛めなければ近所の家の番犬からだって、垣根は姫垣のことを守っただろう。
しかし実際、両親からの妹への暴力はその身を持って防いだものの、子育てを巡って垣根と姫垣を学園都市に置き去りにしたことには抗えなかった。
垣根は何も分からぬままに脳を弄られ、薬を投与され、能力開発を受けさせられた。
そして、
「素晴らしい。君の能力は非常に希少なものだ。是非研究させてくれないか?」
――垣根帝督は『未元物質』の二つ名を得た。
――垣根帝督は『未元物質』の二つ名を得た。
結果として、このことは好都合だった。
置き去りである二人には本来施設に入るしか道はなかったが、沢山の企業や研究者が『未元物質』研究の交換条件として生活保護などを申し出てきたのだ。
垣根はそういった連中の保護を受けつつ、実験の報酬やバイトで金を稼ぎ、姫垣を普通の学校に通わせた。
妹に普通の生活を、というのが当時の思いだったが、置き去りが非人道的な研究に利用されることがあると知った今では、なおのこと良かったと思っている。
『未元物質』は様々な研究者に魅力的らしく、研究実験によって能力のレベルを上げるとともに、垣根は研究所を転々としていったが、そのいずれでも垣根はほとんどの時間を研究協力とバイトとに費やしてきた。
ひとえに姫垣に不自由ない生活をさせるため、である。
今の『未元物質』研究者は色々なところに顔が利くらしく、非合法だったり危険だったりするが割のよい仕事を紹介してくれる。
今日の仕事もその一つである。
しかしそれでも、姫垣を高校、大学に進学させられるだけの金は貯まっていない。
そもそもいつまでも研究者の保護を受けている訳にもいかない。
垣根に研究価値なしと見なされれば、二人は即座に住居をも失うことになる。
ならば学費以前に、自分達だけで生きていけるだけの生活費だって必要になるだろう。
故に垣根はどんな悪条件の実験にも身を投じ、非合法なバイトをもこなしてきた。
しかし、垣根はどの研究者に身体を弄らせる時でも、ある一つの条件だけは譲らなかった。
置き去りである二人には本来施設に入るしか道はなかったが、沢山の企業や研究者が『未元物質』研究の交換条件として生活保護などを申し出てきたのだ。
垣根はそういった連中の保護を受けつつ、実験の報酬やバイトで金を稼ぎ、姫垣を普通の学校に通わせた。
妹に普通の生活を、というのが当時の思いだったが、置き去りが非人道的な研究に利用されることがあると知った今では、なおのこと良かったと思っている。
『未元物質』は様々な研究者に魅力的らしく、研究実験によって能力のレベルを上げるとともに、垣根は研究所を転々としていったが、そのいずれでも垣根はほとんどの時間を研究協力とバイトとに費やしてきた。
ひとえに姫垣に不自由ない生活をさせるため、である。
今の『未元物質』研究者は色々なところに顔が利くらしく、非合法だったり危険だったりするが割のよい仕事を紹介してくれる。
今日の仕事もその一つである。
しかしそれでも、姫垣を高校、大学に進学させられるだけの金は貯まっていない。
そもそもいつまでも研究者の保護を受けている訳にもいかない。
垣根に研究価値なしと見なされれば、二人は即座に住居をも失うことになる。
ならば学費以前に、自分達だけで生きていけるだけの生活費だって必要になるだろう。
故に垣根はどんな悪条件の実験にも身を投じ、非合法なバイトをもこなしてきた。
しかし、垣根はどの研究者に身体を弄らせる時でも、ある一つの条件だけは譲らなかった。
垣根姫垣に一切の能力開発を行わないこと、である。
垣根の唯一守るべきもの。
たった一人の妹。
その身体を、脳を、人間を実験動物のようにしか考えていない研究者達に触れさせることなど言語道断だ。
無能力者と判定されればまだ良いが、もし自分のように希少な能力が発現しようものなら、妹が科学の発展のためなどという下らない理由で研究者達に蹂躙されるのは目に見えている。
だから垣根は研究所を移る時はいつでも、まず最初にこの条件を提示していた。
下手なことをして貴重な実験動物を失いたくはないと思っているのだろう、現在までこの条件は守られており、垣根姫垣は今も昔も無能力者のままである。
そのことには姫垣も納得してくれているようだが、それでもこうして他の能力者に憧れのような視線を向けるのを見ると、問わずにはいられなくなるのだ。
超能力が欲しいのか、と。
自分は間違っていたのではないか、と――
たった一人の妹。
その身体を、脳を、人間を実験動物のようにしか考えていない研究者達に触れさせることなど言語道断だ。
無能力者と判定されればまだ良いが、もし自分のように希少な能力が発現しようものなら、妹が科学の発展のためなどという下らない理由で研究者達に蹂躙されるのは目に見えている。
だから垣根は研究所を移る時はいつでも、まず最初にこの条件を提示していた。
下手なことをして貴重な実験動物を失いたくはないと思っているのだろう、現在までこの条件は守られており、垣根姫垣は今も昔も無能力者のままである。
そのことには姫垣も納得してくれているようだが、それでもこうして他の能力者に憧れのような視線を向けるのを見ると、問わずにはいられなくなるのだ。
超能力が欲しいのか、と。
自分は間違っていたのではないか、と――
「ううん」
垣根の問いに、姫垣は首を振って答える。
「いいよ。能力なんか無くったって、てーとにぃがいてくれればそれでいい」
バイクの後ろから、垣根を見上げるようにして姫垣は笑顔で言う。
「てーとにぃは、ヒメのこと守ってくれてるんだもん。そのために一杯頑張ってくれてるんだもん。それだけで充分だよ」
「……別に、そんなことはねーよ」
「そんなことあるよ。だから、ヒメも……」
何かしてあげたい、その言葉を遮って、バイクのエンジンに足を掛けながら言う。
「必要ねーよ」
慌てて自分にしがみつく妹の腕の力を感じながら、垣根はバイクを発進させる。
「俺だって充分だ。お前がいてくれれば、それで充分なんだよ」
エンジン音の中で呟いた言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか、姫垣は答えを返すことはなかった。
――ただ、少しだけ腹部に回された腕の力が強くなったように感じた。
垣根の問いに、姫垣は首を振って答える。
「いいよ。能力なんか無くったって、てーとにぃがいてくれればそれでいい」
バイクの後ろから、垣根を見上げるようにして姫垣は笑顔で言う。
「てーとにぃは、ヒメのこと守ってくれてるんだもん。そのために一杯頑張ってくれてるんだもん。それだけで充分だよ」
「……別に、そんなことはねーよ」
「そんなことあるよ。だから、ヒメも……」
何かしてあげたい、その言葉を遮って、バイクのエンジンに足を掛けながら言う。
「必要ねーよ」
慌てて自分にしがみつく妹の腕の力を感じながら、垣根はバイクを発進させる。
「俺だって充分だ。お前がいてくれれば、それで充分なんだよ」
エンジン音の中で呟いた言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか、姫垣は答えを返すことはなかった。
――ただ、少しだけ腹部に回された腕の力が強くなったように感じた。
「変わらねぇよ」
テレスティーナの問いに、数多がコーヒー(塩胡椒入り)を飲みながら答える。
「ずっと変わらねぇさ。――絶対能力進化計画。ジジイの頭ン中にはそれしかねぇ。一方通行にしろ、能力体結晶にしろ、根っこの所は同じだ。聞いたぶんには、一年くらい前から一方通行とは別の能力者を研究中らしい」
「別の能力者?」
「あぁ、なんつったっけな。一方通行と同じくらいフザケた能力のよぉ……」
テレスティーナの問いに、数多がコーヒー(塩胡椒入り)を飲みながら答える。
「ずっと変わらねぇさ。――絶対能力進化計画。ジジイの頭ン中にはそれしかねぇ。一方通行にしろ、能力体結晶にしろ、根っこの所は同じだ。聞いたぶんには、一年くらい前から一方通行とは別の能力者を研究中らしい」
「別の能力者?」
「あぁ、なんつったっけな。一方通行と同じくらいフザケた能力のよぉ……」
「……っと、悪い。電話だ」
垣根はバイクの後ろに座る姫垣に断ってスピードを緩めようとする。
「え? 何て言ったの?」
「電話! かかってきたから! 一旦停まる!」
吹き付ける風で聞こえなかったらしい姫垣にもう一度叫んでから、垣根はバイクを再び路肩に停めた。
「すごいね。にぃの声も聞こえないくらいの風なのに、電話鳴ってるってわかったんだ」
「ん、あぁ。バイブだ、バイブ」
言いながら、垣根はジーンズのポケットから金色の携帯を取り出す。
実際には垣根の携帯はバイブ機能はオフになっていた。
かと言って強風の中で着信音を聞き取れていた訳でもない。
垣根が電話が鳴っていることを気づいたのは、常に周囲に展開している極小の『未元物質』の粒子のおかげである。
空気中を漂っているこの粒子に何かしらの衝撃が加わると垣根自身にその衝撃の種類や大きさなどが大雑把に伝わるようになっているのだ。
これによって死角からの攻撃にも対応出来る他、今のように通常五感では感知できない音を拾ったりも出来る。
とは言えアバウトな能力の使い方なので音を音として認識出来るわけではなく、『未元物質』の振動のパターンが携帯電話の着信音のそれと同じっぽい、と知覚できるだけである。
故に例えば聴覚では捉えられない音声に対して使用しても正確な発音を得られる訳ではなく、盗聴器のようには使えない。
精度を上げ、音を解析する数式を組み上げれば脳内でその音を再生出来るかもしれないが、そこまでの手間をかける必要性は感じられず、試したことはなかった。
――とまれ、電話である。
垣根は携帯を開きディスプレイに示された名前を見――少し表情を曇らせた。
そこに記された名前は、現在垣根の『未元物質』を研究している研究者。
十中八九、実験に関する電話だろう。
「……バイト?」
垣根の表情を覗き見て、姫垣が問うて来る。
「いや……」
「じゃあ、その……」
実験、と言うのを躊躇ったのか、語尾をすぼめる姫垣。
上目遣いに垣根を見上げるその表情には、心配の二文字が見て取れる。
垣根はそんな姫垣の頭にポン、と空いている左手を置いて言う。
「心配すんなよ、別に今すぐって訳でもねーだろ。もしそうでも、色々言って夜からとかにしてもらうからさ」
無論、姫垣が心配しているのは予定が潰されることではなく、垣根の身体のことだろう。
そのことに嬉しさと切なさとを同時に抱きながら、垣根は左手を姫垣の頭に乗せたまま、右手で携帯の通話ボタンを押した。
垣根はバイクの後ろに座る姫垣に断ってスピードを緩めようとする。
「え? 何て言ったの?」
「電話! かかってきたから! 一旦停まる!」
吹き付ける風で聞こえなかったらしい姫垣にもう一度叫んでから、垣根はバイクを再び路肩に停めた。
「すごいね。にぃの声も聞こえないくらいの風なのに、電話鳴ってるってわかったんだ」
「ん、あぁ。バイブだ、バイブ」
言いながら、垣根はジーンズのポケットから金色の携帯を取り出す。
実際には垣根の携帯はバイブ機能はオフになっていた。
かと言って強風の中で着信音を聞き取れていた訳でもない。
垣根が電話が鳴っていることを気づいたのは、常に周囲に展開している極小の『未元物質』の粒子のおかげである。
空気中を漂っているこの粒子に何かしらの衝撃が加わると垣根自身にその衝撃の種類や大きさなどが大雑把に伝わるようになっているのだ。
これによって死角からの攻撃にも対応出来る他、今のように通常五感では感知できない音を拾ったりも出来る。
とは言えアバウトな能力の使い方なので音を音として認識出来るわけではなく、『未元物質』の振動のパターンが携帯電話の着信音のそれと同じっぽい、と知覚できるだけである。
故に例えば聴覚では捉えられない音声に対して使用しても正確な発音を得られる訳ではなく、盗聴器のようには使えない。
精度を上げ、音を解析する数式を組み上げれば脳内でその音を再生出来るかもしれないが、そこまでの手間をかける必要性は感じられず、試したことはなかった。
――とまれ、電話である。
垣根は携帯を開きディスプレイに示された名前を見――少し表情を曇らせた。
そこに記された名前は、現在垣根の『未元物質』を研究している研究者。
十中八九、実験に関する電話だろう。
「……バイト?」
垣根の表情を覗き見て、姫垣が問うて来る。
「いや……」
「じゃあ、その……」
実験、と言うのを躊躇ったのか、語尾をすぼめる姫垣。
上目遣いに垣根を見上げるその表情には、心配の二文字が見て取れる。
垣根はそんな姫垣の頭にポン、と空いている左手を置いて言う。
「心配すんなよ、別に今すぐって訳でもねーだろ。もしそうでも、色々言って夜からとかにしてもらうからさ」
無論、姫垣が心配しているのは予定が潰されることではなく、垣根の身体のことだろう。
そのことに嬉しさと切なさとを同時に抱きながら、垣根は左手を姫垣の頭に乗せたまま、右手で携帯の通話ボタンを押した。
「確か『未元物質』っつー学園都市第二位の超能力者の……」
「はい、もしもし。どうも、お世話になってます――幻生さん」
「名前は――垣根帝督、だったか」
「……垣根帝督、学園都市第二位ねぇ。何たってクソジジイは学園都市第一位の一方通行を捨てた後に二位を研究してるのよ」
食事を終えたテレスティーナは、同じくコーヒーを一気飲みした数多に問う。
「そりゃあれだ。序列の上下なんざ研究にゃ関係ねぇんだろうよ。確かに現時点での応用性やなんたらは一方通行のが上だが……さっきも言ったろ、一方通行にはもう伸び代がない。それこそ別の次元の理論でも持ってこない限りは、あの能力がこれ以上発展するってのは有り得ねぇんだよ。対して垣根にはそいつが有り余ってる。何しろ出来ることは『未元物質』を作り出すことだけ。それ自体はこの世界の物理法則を無視したトンデモ物質らしいが、ぶっちゃけこの世界に対しては何の影響力も持っていない。そこら辺は一方通行と正反対だな。あれはこの世界のあらゆる物事に影響を与えるが、自分では何も生み出さないからな。とまれ、だから『未元物質』は研究次第によっちゃ、例えばこの世界の物質を変質させられるようになったり、或いはそれ以上の何かしらの能力を得られる可能性があるってことだ」
数多は詰まらなそうに答えると、飲み終えたコーヒーカップをテーブルに置く。
「……ふぅん、成る程ね」
「ま、クソジジイが一年研究してもいまだに革新的な進展は無いらしいからな。もうそろそろクソジジイも飽きて放り投げるんじゃねえかって気はするが」
言いながら、数多はナプキンを一枚抜くと、そこにペンで何やら走り書きを始める。
数字の羅列――おそらくは木原幻生の現在の連絡先なのだろう。
書き終えると、数多はナプキンの上に丁度コーヒー代分の硬貨を置いて立ち上がる。
「じゃあな」
現れた時と同様に、突然に白衣を翻し去ろうとする数多。
「ええ……あ、ちょっと待って」
その背中を、テレスティーナは呼び止める。
「あ? まだ聞きてぇことが……って、なんだそりゃ」
振り返った数多は、テレスティーナが手に持っているものを見て、頓狂な声を上げる。
「ふふ、ちょっとした占いみたいなものよ」
言いながら、テレスティーナは手に持ったそれ――マーブルチョコレートの入った筒状の容器を振る。
「あなたが言った色と同じ色のチョコレートが出てくればラッキーなことがあるかもしれない、ってね」
柔和な笑みを浮かべ、テレスティーナは優しく告げる。
「さぁ、何色?」
食事を終えたテレスティーナは、同じくコーヒーを一気飲みした数多に問う。
「そりゃあれだ。序列の上下なんざ研究にゃ関係ねぇんだろうよ。確かに現時点での応用性やなんたらは一方通行のが上だが……さっきも言ったろ、一方通行にはもう伸び代がない。それこそ別の次元の理論でも持ってこない限りは、あの能力がこれ以上発展するってのは有り得ねぇんだよ。対して垣根にはそいつが有り余ってる。何しろ出来ることは『未元物質』を作り出すことだけ。それ自体はこの世界の物理法則を無視したトンデモ物質らしいが、ぶっちゃけこの世界に対しては何の影響力も持っていない。そこら辺は一方通行と正反対だな。あれはこの世界のあらゆる物事に影響を与えるが、自分では何も生み出さないからな。とまれ、だから『未元物質』は研究次第によっちゃ、例えばこの世界の物質を変質させられるようになったり、或いはそれ以上の何かしらの能力を得られる可能性があるってことだ」
数多は詰まらなそうに答えると、飲み終えたコーヒーカップをテーブルに置く。
「……ふぅん、成る程ね」
「ま、クソジジイが一年研究してもいまだに革新的な進展は無いらしいからな。もうそろそろクソジジイも飽きて放り投げるんじゃねえかって気はするが」
言いながら、数多はナプキンを一枚抜くと、そこにペンで何やら走り書きを始める。
数字の羅列――おそらくは木原幻生の現在の連絡先なのだろう。
書き終えると、数多はナプキンの上に丁度コーヒー代分の硬貨を置いて立ち上がる。
「じゃあな」
現れた時と同様に、突然に白衣を翻し去ろうとする数多。
「ええ……あ、ちょっと待って」
その背中を、テレスティーナは呼び止める。
「あ? まだ聞きてぇことが……って、なんだそりゃ」
振り返った数多は、テレスティーナが手に持っているものを見て、頓狂な声を上げる。
「ふふ、ちょっとした占いみたいなものよ」
言いながら、テレスティーナは手に持ったそれ――マーブルチョコレートの入った筒状の容器を振る。
「あなたが言った色と同じ色のチョコレートが出てくればラッキーなことがあるかもしれない、ってね」
柔和な笑みを浮かべ、テレスティーナは優しく告げる。
「さぁ、何色?」
「…………………………………………黒」
「死ね、クソ数多」
「死ね、クソ数多」
垣根帝督の十番勝負
第一戦 『めいでぃあファーストれっすん』
対戦結果――圧勝
次戦
対戦相手――『アウレオルス=ダミー』