とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 8-948

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匿名ユーザー

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「綾狩が、学園都市に住んでたってのか……?」

「だから、そう言ってるだろカミやん。大体そいつの『能力』が“俺と同じ能力”ってのがおかしいと思わなかったのか?」
上条が眉をひそめる。そんな上条を見た土御門は呆れたように息を吐いて、さらに言葉を続ける。
「……俺と同じ『力』、つまり『肉体再生』を発現させるという行為はつまり『必ずしも俺と同じ教育を途中までは受けている』ことになるんだよ」
「は……?」
「まだ、分からないのか? ……まぁ、カミやんは『原石』もまともに知らなかった奴だからな」

学園都市では小学校までは皆同じ『教育』を受けて、その人はどのような能力を持ってるだとか、どんな才能があるかなどは大抵解ってしまう。
そのため学園都市では“同じ『教育』を受けたのに違う能力が発現した”なんてのは割と当たり前な話である。
そして、もし仮に『外』での生活で『学園都市の小学校までの教育と同じ効力』の暮らしをしていた場合、それは『力』の発現を促すものであり、
その人物は『原石』の種となるのだが、(実際、これが原因で能力の発現した『原石』は何十といるため、稀ではあるが有り得ない話ではない)『原石』の
“発育”は通常ここまでである。
学園都市で『力』が発現した場合、そこに教師達は『この子には発火能力の才能がある。だから、発火能力を伸ばすのに適した授業を受けさせよう』と思う
のが当然であり、その『専門的な授業』のおかげで弱い『力』も段々と強力で安定した『力』になっていくのだが、

『原石』にはそのような『専門的な授業』を受ける事が出来ない。

もしも、『外』で“発火能力の種”が生まれても、それを安定して伸ばすための『教育』を受ける事が出来ないため、
『原石』には解析不能な不安定な能力が多い。(超能力者《レベル5》の第七位が代表的な例としてよく挙げられる)


発火能力をもっと安定した発火能力に、空間移動の移動範囲をもっともっと延ばす……これらの『その能力に合った的確な教育』は
『外』で生活していては到底再現できるものではない。正確な薬品の分量、計算されつくしたカリキュラム等、これらの『授業』が
自然や一般生活で完璧に再現されるというのは、天文学的確立でも表せる数値ではないのだ。

「要するにだ カミやん。そこの『原石を名乗る少女』には『原石』としての“不完全さ”が決定的に足りていない。
その時点でその女は『原石』とは言えないんだよ」




綾狩はなにも答えない。答えようとしない。口が縫い付けられてしまったように、言葉を発する気配が無い。
ただ、俯いて石像のように動かない。

「綾狩、本当なのか…?」
少女は何も喋らない。

「あぁ、あとついでに言っとくが、そいつの真名は『綾狩優李』では無い。その名は偽物だ」
またも上条の動きが止まる。短時間に収拾する情報が多すぎて、若干混乱気味の上条に土御門はさらに情報を付け加えた。

「そいつの本当の名は、『綾神 妙李』。綾狩優李という名はそいつが“学園都市から抜け出したあとに自らの素性を隠すために
創った名前”だ。まあ、元の名を参考にしているあたりは、確定しやすくて良い名だとは思うけどな」


……学園都市から抜け出した?

「案の定、混乱しているな上条当麻。“学園都市から抜け出した”というのは、そのままの意味だ。そいつは二年前の二月二十二日
に奇策を仕掛けて学園都市から脱走した。なにせ、貴重な『肉体再生』の高位能力者だ。学園都市も総出で探し回ったが発見できず
三ヶ月後に捜索は打ち切り。それを合図に『綾神妙李』という存在は“無かった事”にされた。当時は学園都市の第四位が突然姿を
見せなくなったとかで大騒ぎだったらしいが、上層部の連中は『綾神妙李は実験中に不慮の事故で亡くなった』とか大ボラ吹いて、
その内世間でも忘れ去られていったが……まさか、イギリスなんかに潜伏してるとは、『上の方々』も吃驚仰天だろうな」

言っている意味が解らない。本名が違う? 学園都市第四位? 奇策を仕掛けて脱走?

上条は、“綾狩”改め“綾神”を見る。その肩は微妙に震えている気がした。

土御門は喋ることをやめない。
「学園都市の誇る超能力者《レベル5》の『元』第四位にして、『超絶再生』の異名を持つ“綾神妙李”
……さて、今、俺が言った中に何か間違いがあれば言ってくださってかまいませんよ、『ホラ吹き原石』さん?」



『超絶再生』の二つ名を持った少女の日常は、好きな事、嫌いな事の裂け目が大きすぎる毎日だった。
昼間は友人と何気ない世間話や年相応の恋愛話をして、一緒に笑い、一緒に泣いた。綾神にとっては
どうしようもなく楽しくて大切な時間だった。

だが、夕方を過ぎれば楽しい学園都市も地獄に変わる。

毎日、毎日、実験と言って、腕を切り裂き、足を引きちぎり、刃物で全身をメッタ刺にされたこともある。

そして、その虐殺とも取れる全ての実験で、綾神は生き残った。

そのたびに実験に参加した狂芯者どもは感嘆の声を上げ、綾神の『能力』を褒め称える。
奥底から吹き上がる怒りは、誰に向けていいのか解らず、『ただ再生するだけ』の彼女には刃向かう力も無い。
逃げ出そうとすれば“死なないから”という理由で容赦なく銃弾を打ち込まれ、薄暗い実験部屋に運ばれた。

どうあがいても『死ねない』彼女は、諦めかけていた。
この世に存在する全てを。



それでも生きようと思ったのは、学園都市第一位の少年と出合ったからである。

相変わらず『実験と称して』、綾神はデータを取るために、学園都市の第一位と地下の薄暗い実験施設で
戦闘をさせられた。絶対能力者《レベル6》になるための『実験』を前に、繊細な情報が必要らしい。

結果はもちろん圧倒的な敗北。そして、その傷の再生。
実験の担当者達は、予想通りの結末に満足気だったが、当の第一位は不満気な顔で次の実験に備えて
休憩していた。
綾神は思い切って少年に話掛ける。「どうしてそんなに機嫌が悪いの?」と。

第一位の返答は、質問だった。
「……じゃァ、なンでてめェはそンな涼しいツラ出来ンだよ」
予想外の質問に綾神は戸惑ったが、やがてこう返した。
「……わたしは、慣れてるからね。傷付けられるの」
少年は顔を逸らして、
「俺も傷つけるのは慣れてるけどな。……お前とやッてもつまらねェ」

「戦うって、楽しいの?」

「相手が“生きてれば”な。てめェみたいな死人顔を痛めつけても、殺した気がしねェ。
第一、死なねェしな」
「……生きている人となら、戦うのは、楽しいの?」
「……あァ。相手を殺すのは、一番愉快で一番ダリィし大ッ嫌ェだ」
その言葉が本当という保障は無い。現にこの少年は一万人もの少女を嬉々として虐殺した少年だ。
この時はまだ『絶対能力進化《レベル6シフト》』自体は始まっていないが、その直前の少年の
心境など殺人欲に満たされているとしか考えられない。

そう、“普通の人間なら”そう考えるはずだ。

綾神は同じ超能力者《レベル5》として、今周りにいる学者や実験担当者よりも少年に近い『心』を
持っていたし、それを周りの誰よりも理解できた。
この少年は、人を傷つけることに慣れている。
否、どうあがいても傷つけてしまう。


(……だから、絶対能力者なんて、馬鹿げた物を目指すんだね)
「あァ?」

「……なんでもない。もうすぐ君の次の実験、始まるよ。行った方が良いんじゃない?」
少年はそれを聞くと何も言わずに立ち上がり、綾神に背を向け、施設の奥深くへと消えていく。


傷つけられるために存在する少女と、
傷つけるために存在する少年。

人に傷つけられる痛みと、人を傷つける痛み。
外面(体)か、内面(心)か、どちらかの話。
それぞれ痛みの種類は違っても、結局、深さは同じなのだ。


(それでも、彼は死にたいなんて、絶対言わないんだろうな)
彼女は、少年と自分との根本的な『強さ』の違いに、素直に驚いていた。

今まで彼女は、自分は世界で一番不幸な人間だと、勝手に決め付けていたが、違った。
“傷つけることでしか存在理由を見出せない”ような少年と、自分。
結局、同じ。
同じなのに、自分は死にたくて、彼は生きようとしている。

(……わたし、馬鹿みたいだ)

彼女は、また夜が来れば地獄の中に放りこまれる。
それでも、彼女は生きようと思った。


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