とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 9-11

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匿名ユーザー

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九月十七日。その十二時を回った頃……

「……『一日百回噛むだけで、当社独自の特殊な成分により体全体が活性化する新感覚ガム』、か。本当の効果あるのかしら……?」
晴天の第七学区内。その歩道にて、吹寄制理は道端で配られていた奇々怪々な広告チラシを目にしながら歩を進めていた。

大覇星祭まであと二日と迫り、いい加減人手も足りなくなってきたので、吹寄の通う学校は、吹寄制理及び覇星祭実行委員自らが準備作業に必要な物を買出しに出なければ間に合わないような状況に陥っている。そのため力仕事は完全に男共に任せて、買出しや細かい作業を女の子がヤリマショウという事になったのだ。
吹寄の手からは、ガムテープや水分補給用の清涼飲料などの購入し終えた物品の入った布袋がぶら下がっているが、もう片方の手にある紙切れ(チラシ)のせいで学校に戻るのは遠くなると予想できる。

「……!!? 一箱(五個入り)四二〇円……、安い。このガムは『買い』に決定。でも、このチラシには問い合わせの電話番号書いてないのよね……」
当初の目的を忘れて、体が活性化するガムをどうやって手に入れるかで脳内葛藤する覇星祭実行委員。そのせいで学校とは反対方向に進んでいる事に気づいていない。

「検索すれば出てくるかしら? でも、TV通販じゃ無いし……」
悩み悩んでまだ結論が出ない吹寄の視界に、ふと知ってる顔が映った気がした。
(ん?)
あの中肉中背で、黒くてウニみたいなツンツン頭の少年は確か、
「……上条当麻?」
「ん……って、吹寄!!?」
吹寄の目に入った物は、クラスが一緒のツンツン少年と、それに寄り添う純白シスターの姿だった。

「……貴様、何してるの?」
吹寄の声は地響きのような重低音で、その目は完全に悪党を見る目だった。
「え、いやあの……」
「貴様は確か、「今日は大事は用事がある」とか言って大覇星祭準備をすっぽかしたはず。……まさか大事な用事っていうのは、そこのちっこい修道女と一日過ごすための口実でした、とか言わないわよね?」

何も言えず黙り込む上条。吹寄はとりあえず一発、鉄拳を叩き込む。かなり上手く入ったようで、上条はポップコーンのように弾け飛んで、三mほど浮遊したのち落下した。
吹寄は衝撃で指一本動かさない上条を無視して、その横に居た修道女に話掛ける。

「……で、あなたは何故こんな旗男と一緒に居るわけ?」
そう言われた素直な純白シスターは、その質問に正直に答えた。
「なんでって、わたしがとうまと一緒に住んでるからなんだよ」
一緒に住んでる? 何を言っているか解らない吹寄は思わず目を丸くする。
「……上条当麻の親戚とか?」
「ううん。赤の他人とは言えないけど、血の繋がりは無いかも」
ニコニコ笑顔のシスターさんの言葉を聞いた吹寄は、すぐさま倒れていた上条の頭を蹴り飛ばし、強制起床させてから少年の耳元で囁いた。

「(……ロリコン旗男)」
「なっ!? 違う!! これには訳が、訳が有るんだ!!」
「何をどうしたらこんな中学生ぐらいの銀髪碧眼外国人修道女と同居するようなイベントが発生するのか、詳しく聞かせてほしい者だけど。ちなみに誘拐は犯罪だと言っておく」

実際、どうやって知り合ったのか身に覚えの無い上条は再び黙り込む。その結果、本日二回目の正義(?)の鉄拳を喰らい、焼き栗のように弾け飛んで先程と同じ状態で地面に平伏せた。

「裏切り者には罰を。古来から伝わる伝統的な処罰法よ」
「俺が何を裏切ったと……、」
「学校に居るみんなが汗水垂らして覇星祭の準備をしているというのに、貴様だけが年下の女の子に現を抜かしている時点で、十分裏切り者。そこを認めないのなら、もう二,三発殴り飛ばすけれど」
言ってる間にいつの間にか立ち上がって、あちこち痛そうにしている頑丈少年上条当麻。やはり殴られる方が打たれ強いと殴る方も遠慮無く思いっきりイケるので、上条当麻を殴る者は決して容赦をしない。少なくとも吹寄は容赦して上条を殴る者は見たことが無い。

さてもう一回いくか、と吹寄が右手を構えたその時、今まで話にあまり入って来なくて、多少居辛そうにしていた純白シスターが不思議そうに言葉を放った。
「ねえ、あなたが誰なのかは知らないけど、今日とうまはわたしと遊びに行く約束があったんだよ。学校のみんなに迷惑かけたなら、それはわたしのせいかも。だからもう、とうまは学校に戻っていいよ。私が迷惑かけちゃ悪いし」

その文章を聞いた吹寄は凍りつく。上条当麻はこんなにも責任感が強くて利口な女の子を振り回して無理やり一緒に住まわしている(監禁疑い)というのかそれは酷くないか?上条当麻この野郎と、吹寄の脳内で上条を激しく批難する声が上がり、とりあえず殴っとけというダークサイド吹寄の考えも表に出始めた時、

「俺が悪かった!! だから何か手伝わせてくれないか?」
「は?」
「いや、だから、さぼったのは悪かったって。そのお詫びとしちゃ難だが、俺に何か手伝える事ってないかな?」
「え、ああ、だったら買出しの手伝いを……」
「よし、任しとけ!! なるべく安い物を、が上条さんのモットーなり!!」
予想外の対応にドギマギする吹寄。そういえばコイツ(上条)は基本お人好しという事を忘れていた。
そして、そのせいでいつも不幸な目に遭う事も。


吹寄は、買出しに出かけようとする上条を笑顔で見送るシスターを横目で見る。
この娘も上条当麻のお人好しにより、今ここに居るのだろう。
彼に頼んでも無いのに心配されて、人の話も聞かないで立ち向かって、最終的に救われた。
同じクラスメイトとして、いつも上条を見ていた吹寄は、恐らくそんな人間は吹寄の知るより沢山居るのだろうと考えた。

(無能力者(レベル0)でも雑踏に溶け込めるのは、そういう理由があったからなのかしらね……)

学校ではデルタフォースとか呼ばれる集団に入り込み、友達と馬鹿やってる問題児。
だが、それでも上条はクラスに無くてならない存在として皆との日々を過ごしている。
幸も不幸も、人に受け入れられる事には干渉できない。その証拠にこの世で一番不幸だとか自分で言ってる少年の周りには、いつも、どんな時でも沢山の人間が居て、少年はその全ての人を受け入れて、全ての人から受け入れられていた。


(なにが『不幸』よ。貴様が一番『幸福』じゃないの)

吹寄は改めて、上条を羨ましく思う。
少なくとも、そこらの高位能力者よりは。

かなり張り切って買出しに行こうとした上条の足は、何故か進む前に止まった。
「あ、吹寄。そういや俺、金持って無いんだけど」
「ん? ああ、それならクラスで出し合った資金があるわ。三千円くらい」
「ああ、さんきゅ……っと、うわっ!!!」
吹寄から資金を受け取ろうとした上条は、何も無い所で唐突にすっ転び、そのまま吹寄制理の大きな胸に思いっきりダイブした。
「……!!!!?」
「あ、っと!? ふ、ふふふ吹寄、わわ悪い!!」
慌てて体勢を立て直す上条だが、吹寄の眼は狩りを始める前のような凶悪な目にシフトチェンジしていて、手遅れな事がよく分かった。
「……上条当麻。貴様、昼間の歩道で堂々と強制猥褻とは良い度胸じゃないの」
「……とーまが、いつものとおりなんだよ……」
「ちょ、まて!! 悪かったって、悪かったから鉄拳制裁だけはマジで勘弁してくれっていうか、なんでインデックスまで入ってるんだ!!!? 二対一なんて卑怯だとは思いませんか!!?」
銀髪シスターは犬歯を剥き出しにして、大覇星祭実行委員は右手に力を込める。
上条はあわあわと口を小刻みに動かし続ける。だが、もう遅い。

「貴様と分かりあえる日は本っ当に来ないと思うわ」

何かを殴る音と、何かに噛み付く音と、誰かの悲鳴が、第七学区に鳴り響く。


大覇星祭まで、あと二日。

そんなある日の風景。


『祭りの前のとある風景』―――――終

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